道程 日常

夜な夜な、隣人宅での晩酌トーク。子供が寝静まったからって、そんな話します?
マヤマ 山本 40 0 0 10/20
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第一稿

<登場人物>
真下 英雄(33)在宅ワークのSE
向井 小百合(40)真下の隣人、シングルマザー



<本編>
○アパート・外観(夜)
真下の声「人間って、生まれ ...続きを読む
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<登場人物>
真下 英雄(33)在宅ワークのSE
向井 小百合(40)真下の隣人、シングルマザー



<本編>
○アパート・外観(夜)
真下の声「人間って、生まれた時は誰も、全ての事において『未経験』という道をまっすぐ歩いているんですよ」

○同・二階通路(夜)
   201に「向井」、202に「真下」と書かれた表札。
真下の声「それが例えば『童貞』や『処女』という道だとしましょう。でも人によってはある日、分岐路が現れる。別の、『非童貞』『非処女』という道につながる、分岐点が」

○同・同・寝室(夜)
   並んで眠る小百合の娘二人。
真下の声「でも、道自体はまっすぐ続いているんです。特に理由がなければ、わざわざ別の道を選ぶ理由もないでしょう?」

○同・向井家・居間(夜)
   座卓を囲む真下英雄(33)と向井小百合(40)。両者の手には酒。
真下「だから俺は三三年、まっすぐ道を歩き続けた。そういう事です」
小百合「……えっと、申し訳ないです。何の話でしたっけ?」
真下「だから、向井さんが『彼女いるんですか?』と聞いてきて」
小百合「真下さんが『いた事ないです』とお答えになったので」
真下「『まさか、童貞ですか?』と聞いてきて」
小百合「『はい』と即答されて」
真下「『何でですか?』と聞かれ」
小百合「今のお話」
真下「釈然としませんか?」
小百合「何か、理由になっていないような」
真下「じゃあ、例えば向井さんは、サッカー経験ありますか? もちろん、体育以外で」
小百合「ありませんけど」
真下「何でですか?」
小百合「『何で?』と言われても……」
真下「答えに困ります?」
小百合「はい」
真下「そうなんですよ。『しない理由』を聞かれても、困るんです。だって、ないんですから。人間は『する理由』があって初めて、分岐点を曲がるんですよ」
小百合「そういう事ですか……。でも、真下さんはそれでいいんですか?」
真下「と言いますと?」
小百合「だって、童貞って……。あまり人に言いたくないものじゃないですか?」
真下「まぁ、積極的に言って回るつもりはないですけどね。ただ俺は全然、悩んだ事も、焦った事も、恥じた事もないので」
小百合「そうなんですか?」
真下「さっきの話ですが、向井さんは、サッカーの経験ない訳ですよね?」
小百合「はい」
真下「それでいいんですか? なでしこジャパンに入れませんよ?」
小百合「はい?」
真下「……って言われて、どう思いました?」
小百合「どうって……どうも思わなかったですけど」
真下「そういう事です」
小百合「どういう事ですか?」
真下「向井さんの人生にサッカーの経験が必要ないのと同じくらい、俺の人生にその経験が必要ないんですよ」
小百合「サッカーと一緒にしていい話なんですかね?」
真下「でも問われているのは、経験しているか否か、ですよね?」
小百合「まぁ、そうですけど」
真下「世の中、全てを経験するのは不可能じゃないですか。野球部員はサッカー部の経験がないし、浪人生には現役合格の経験がないし、兄弟が居る人は一人っ子の経験がないし」
小百合「それは、わかります」
真下「つまり、自分の人生に不必要な経験は排除していい。サッカーの経験が無いとJリーガーにはなれないけど、サッカーの経験が無くてもプロ野球選手にはなれる」
小百合「確かに」
真下「で、男女のそういう行為って、生物学的には遺伝子を残すための行為な訳じゃないですか」
小百合「まぁ、生物学的には」
真下「でも俺は、子供を作るつもりも、遺伝子を残すつもりもない。もちろん、結婚願望もない」
小百合「おっしゃってましたね」
真下「だから、その経験がない事で困る事はないし、恥じようもない。さっきの質問も、本気でなでしこジャパンに入りたいと思っている人なら、捉え方違ったと思いますよ?」
小百合「そういうものですかね?」
真下「少なくとも俺は、そういうもんだと思ってます。まぁ、人類という種の繁栄には逆行するので、積極的に支持されるとは思ってませんけどね」
小百合「じゃあ、死ぬまで経験できなくてもいい、って事ですか?」
真下「支障はないですよね」
小百合「一ミリも後悔はない?」
真下「一ミクロはあるかもしれませんが、一ミリはないでしょうね」
小百合「でも『この人いいな』みたいな女性に出会った事くらいは、ありますよね?」
真下「そりゃあ、もちろん。目の前にも一人」
小百合「からかってます?」
真下「気に障ったなら申し訳ない」
小百合「タイプの人とか、そういう話です」
真下「それが苦手なんですよね」
小百合「苦手? 何がですか?」
真下「いや『彼女いない』って話をすると、大体二言目には『紹介するよ』『どんな子がタイプ?』って聞かれるんですけど」
小百合「真下さん、理想高そうですね」
真下「いえ、全然。むしろ、無いです」
小百合「無い? 理想が、ですか?」
真下「逆に、理想とかタイプとかって何なんですかね?」
小百合「例えば『年上か年下か』とか『スレンダーかぽっちゃりか』とか」
真下「でも、年上には年上の魅力があって、年下には年下の魅力がある訳ですよ」
小百合「まぁ、そうですね」
真下「スレンダーにはスレンダーの、ぽっちゃりにはぽっちゃりの、メガネにはメガネの、裸眼には裸眼の、ロングヘアにはロングヘアの、ショートヘアにはショートヘアの……。なので、自分から『このタイプで』と指定する気はないですね」
小百合「やっぱり、真下さんはお優しいんですね」
真下「え?」
小百合「だってソレって、どんな人が来ても受け入れるよ、って事じゃないですか」
真下「そんな事ないですよ」
小百合「ないんですか?」
真下「さっきも言った通り、理想は高くないと思うんです。ただ、許容範囲は狭いのかな、と」
小百合「許容範囲?」
真下「変な例えですけど……『マリオカート』ってゲーム、ご存知ですか?」
小百合「あ、はい。前の主人が好きだったので、少しだけ」
真下「俺、『マリオカート』でマリオを使うタイプなんですよ」
小百合「?」
真下「YouTubeとかの実況動画なんか見てもらうとわかるんですけど、上手い人ほど、『マリオカート』でマリオは使わないんですよね」
小百合「主人公なのに、ですか?」
真下「あのゲームのマリオは、コレといったものがないんです。加速に優れている訳でもなく、最高速が速い訳でもなく、パワーがある訳でもハンドリングに優れている訳でもない」
小百合「でも真下さんは、マリオを使う?」
真下「そうですね。何故ならマリオは、悪い所がないんです。加速が悪い訳でもなく、最高速が遅い訳でもなく、パワーがない訳でもハンドリングが悪い訳でもない」
小百合「バランスがいい、って事ですか?」
真下「そうですね。例えば他の、加速に優れたキャラはパワーがないし、ハンドリングに優れたキャラは最高速が遅い」
小百合「……で、えっと、何の話でしたっけ?」
真下「俺は、理想は高くないんです。ある程度、標準的であれば、それでいい。ただし、悪い所が一つでもあると、許容できない」
小百合「どんなに加速が優れていても、パワーが無いキャラは使いたくない?」
真下「そうですね。最初の話に戻すなら、『嫌いになる理由』さえなければ、俺は『好きでいる』道をまっすぐ歩き続けられると思うんです」
小百合「……なんとなくですけど、真下さんがどういう方かわかった気がします」
真下「それは何より。ではそろそろ、お開きにしますか」
小百合「最後に一つ、真下さんが許容できない事って、一つ挙げるとしたら、何なんですか?」
真下「そうですね……一つか、迷うな~」
小百合「多いんですね」
真下「まぁ、一つ挙げるとしたら、『俺を一人にしてくれない人』ですかね?」
小百合「一人にしてくれない人?」
真下「俺、一人でいる時間が必要なんですよ。多分、他の人よりも長めに」
小百合「それを、パートナーに求める?」
真下「はい」
小百合「道のりは険しそうですね」
真下「まっすぐ歩く分には、楽ですけどね」
                  (完)

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