#35 いととりは8月の恋 恋愛

キャッチボールをするように、私たちはいととりをした。 恋を、語りながら
竹田行人 125 0 0 09/12
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第一稿

「いととりは8月の恋」


登場人物
山田美加(26)会社員   
前島妙子(73)自営業
吉田穹(7)小学生
浅木友哉(29)会社員


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「いととりは8月の恋」


登場人物
山田美加(26)会社員   
前島妙子(73)自営業
吉田穹(7)小学生
浅木友哉(29)会社員


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○カフェ「Sea La Canth」・店内
   通りに面したガラス張りのカフェ。
   山田美加(26)と浅木友哉(29)、店内の通りに面した席に座っている。
   美加と浅木の前には空になったグラス。
美加「トモヤ。今日はどうする?」
浅木「うーん。久しぶりにミカに会えたし。のんびり下北辺りぷらぷら」
   携帯電話のバイブ音。
浅木「ごめん。はい。浅木です。え? あー。はい。その」
   美加と浅木、目を見合わせる。
浅木「すぐ行きます」
   浅木、通話を終える。
浅木「ごめん美加。あのさ」
美加「行っちゃえバカ」
浅木「この埋め合わせは必ずする。絶対。絶対戻るから。今日晩メシ一緒に食べよ」
美加「はいはい」
浅木「ホントごめん」
   浅木、千円札2枚をテーブルに置き、出ていく。
   美加、浅木の背中を見送る。
美加「また来月かー」
   美加、音を立ててストローを啜る。

○道
   セミが鳴いている。
   美加、歩いている。
美加「あっつい。あ」
   公園の前にかき氷の屋台が出ている。
   美加、屋台に歩いていく。
   前島妙子(73)、別方向から来る。
   吉田穹(7)、さらに別方向から来る。
美加・妙子・穹「みぞれ1つ」
   美加と妙子と穹、目を見合わせる。

○ひだまりの丘公園・園内
   公園の一角には、蔦を這わせたひさしがあり、その下にベンチがある。
   美加と妙子、ベンチに並んで座ってみぞれを食べている。
   穹、隣のベンチに座ってみぞれを食べている。
穹「いっちばーん」
   穹、みぞれを食べ終える。
   妙子、自分のみぞれを穹に差し出す。
妙子「食べるかい?」
穹「いいの?」
妙子「ああ。もうたくさん食べたから」
穹「ありがと」
   穹、みぞれを受け取る。
美加「ソラちゃん。だっけ? みぞれなんて渋い趣味だね」
穹「パパがね。こないだのデートの時買ってくれたんだ」
美加「パパとデート? いいね」
穹「うん。パパとそらは一ヶ月に一回だけ会うの。そういうケーヤクなんだって」
美加「あー。そうなんだ」
妙子「離婚したんだね」
美加「妙子さん。言葉選んでください」
妙子「選んだって一緒だろ」
美加「そうですけど。言い方ってもんが」
穹「いいよ。別に。でもパパ。最近はケントのことばっかり聞くから、つまんない」
美加「ケントって?」
穹「そらのカレシ」
美加「かれし。なんだ」
穹「うん。ゾッコン」
妙子「早熟だねぇ」
   穹、手を止め、うつむく。
穹「でも。私たち。もうダメかも」
   美加と妙子、目を見合わせる。
穹「今日。賢斗とデートのはずだったのにキャンセルされちゃった」
   穹、ストローでかき氷をつつく。
穹「家族で寄生虫館行くんだって。賢斗は私より寄生虫館が大事なんだよ」
   美加、微笑む。
穹「この埋め合わせは必ずするから。って」
美加「へー」
妙子「ありがちなセリフだね」
美加「そーですねー」
   美加、かき氷をかき込む。
妙子「穹ちゃん。男ってのはね。パチンコ玉なんだよ」
穹「パチンコ玉?」
美加「妙子さん?」
妙子「あんたも。覚えときな。男はいったん飛び出したらチューリップまで一直線。周りが見えなくなっちまうんだよ」
穹「ふーん」
美加「そういうものかもしれませんね」
妙子「ホラ。賢斗くんにもパチンコ玉みたいのが2つぶら下がってるだろ?」
美加「妙子さん!」
妙子「なんだい? 生娘でもあるまいし」
美加「そういう問題じゃなくて。子どもに何言ってんですか」
穹「そら子どもじゃないもん!」
   美加と妙子、目を見合わせる。
妙子「あたしが悪かった。ちょっと黙る」
美加「そうしてください」
   妙子、赤と白の糸を結んだあやとり糸を取り出し、自分の手に掛ける
穹「おばさんは? 彼氏いないの?」
美加「おば。お姉さんにもね。いるよ」
穹「そーなんだー」
   妙子、あやとりで二段はしごを作る。
   穹、妙子の手元を見ている。
美加「今日も。さっきまでは一緒だった」
   妙子のあやとり、二段はしごから四段はしごになる。
   穹、妙子の手元を見ている。
美加「突然仕事の呼び出しくらって、途中で置いてかれちゃったけどね」
   妙子のあやとり、四段はしごから六段はしごになる。
   穹、妙子の手元を見ている。
美加「大人だし。わかってるけど。思っちゃうよね。どっちが大切なの? って」
   妙子のあやとり、六段はしごから東京タワーになる。
妙子「はい。東京タワー」
穹「わー! すごーい!」
美加「うん。聞いてない」
穹「ねぇねぇスカイツリーは?」
妙子「スカイツリーは。糸が足らないね」
穹「そっか。おっきいもんね。あ」
   穹、公園の入り口に目をやる。
穹「ココちゃんだ。私。行くね」
   穹、手を振りながら駆けていく。
   美加と妙子、穹を見送る。
妙子「あんた。いととりできるかい?」
美加「え? ああ。はい。よく祖母とやってましたから。大丈夫ですよ」
妙子「じゃあ。はい」
妙子、あやとりでつりばしを作る。
美加「私。割とやりますよ」
   美加、糸を取り、つりばしから田んぼになる。
妙子「あたしもね。今日はデートのはずだったんだよ」
美加「妙子さんもですか」
妙子「病院で知り合った茶呑み友だちでね。よく2人でいととりするんだよ」
   妙子、糸を取り、田んぼからダイヤになる。
妙子「お互い連れ合いに先立たれて寂しいもん同志。気が合うんだろうね」
美加「妙子さんは何に負けたんですか?」
   美加、糸を取り、ダイヤからつづみになる。
妙子「ずっとほったらかしだった息子夫婦が今日。孫連れて来るんだって。笑ってた」
美加「お孫さんですか」
   妙子、糸を取り、つづみから川になる。
妙子「その顔見たときに気付いたよ。あー。あたしはこの男に恋をしてるんだって」
美加「恋。ですか」
妙子「そう。ゾッコンだね」
   美加と妙子、微笑みあう。
妙子「生理のあがった女が勃起しなくなった男に恋をしてる。なんて。若い人たちには信じられないだろうけどね」
   美加と妙子、目を見合わせる。
妙子「ホラ。あんたの番だよ」
美加「え? あ。はい。えっと」
   美加、糸を取り、川から舟になる。
美加「どうするんですか? 妙子さんは」
妙子「うーん。悩ましい問題だね」
   妙子、糸を様々な方向から見る。
妙子「お? あれ? どれだっけかな?」
   美加、妙子を見て、微笑む。
美加「大人になっても。いくつになっても。迷ったり悩んだりするんですね」
妙子「それが楽しいんじゃないか」
美加「え」
妙子「それが楽しいんじゃないか」
   妙子、糸を様々な方向から見る。
妙子「あ。これか」
   妙子、糸を取り、舟から田んぼになる。
美加「そういうものですか」
妙子「ああ。そういうもんだね」
   美加と妙子、微笑み合う。
   携帯電話のバイブ音。

○二子玉川駅・西口改札・外(夕)
   多くの人が行き来している。
   美加、角の柱に寄りかかっている。
   浅木、美加に駆け寄る。
浅木「美加! ホントごめん!」
美加「友哉のおごりだからね」
浅木「へーへー。じゃ。行きますか。こっち」
   美加と浅木、歩き出す。
美加「予約してんの? 珍しい」
浅木「うん。今日は。大事な話あるから」
美加「ふーん。なんだろ? 楽しみ」
   美加と浅木、手を繋いで歩いて行く。

〈おわり〉

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