ポンコツ・ウエディング! コメディ

崖っぷちウエディングプランナーによる、ポンコツ度満点のジェットコースターコメディ!~披露宴会場から消えた、一億円のジュエリーを取り戻せ!~ ※ヤンシナ一次審査通過作品です。
クニマサアンナ(脚本家志望/日本脚本家連盟スクール在籍) 15 2 0 08/02
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

【登場人物表】

英 つむぎ(31)ポンコツウエディングプランナー
坂巻 修吾(25)つむぎの後輩
佐藤 智貴(21)泥棒
鴨志田 利也(21)泥棒
村山 喜美子(43 ...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

【登場人物表】

英 つむぎ(31)ポンコツウエディングプランナー
坂巻 修吾(25)つむぎの後輩
佐藤 智貴(21)泥棒
鴨志田 利也(21)泥棒
村山 喜美子(43)つむぎの上司
市川 留美(30)新婦
荻原 真輔(30)新郎
市川 忠男(90)留美の祖父
山田 フランソワーズ(♀)新婦犬
山田 アントワーヌ(♂)新郎犬
英 誠二(56)つむぎの父親
英 裕子(54)つむぎの母親
英 三郎(79)つむぎの祖父
その他

〇ホテル・外観(朝)

〇同・披露宴会場前の廊下~市川・荻原家披露宴会場(朝)
坂巻秀吾(25)、ショウケースに入ったプラチナジュエリ―を運んでいる。
と、山田家の新郎新婦、土佐犬のアントワーヌ(♂)とフランソワーズ(♀)がそのジュエリーに飛びかかって、
坂巻「おわっ!(と飛びのく)」
佐藤智貴(21)、素早く二匹のリードを引く。
佐藤「す、すみませんっ!」
坂巻「危ないだろっ! 大事なジュエリーだぞ!」
佐藤「失礼しました!……あ、坂巻さんですよね?」
坂巻「?」
佐藤「本日、他ホテルからヘルプで来た佐藤です! 宜しくお願いします!」
坂巻「新人か……気をつけろよ。このジュエリーでこの犬達が何匹買えると思ってんだ!」
佐藤「犬達って……一応この子達、本日の主役なんですけど……(と山田家の披露宴会場を見る)」
坂巻「あ?」
坂巻、佐藤につられて山田家の披露宴会場を見ると、入口にあるウエディングボードに『アントワーヌ&フランソワーズ』とあり、二匹の写真が沢山貼ってある。
坂巻「土佐犬のどこらへんがアントワーヌとフランソワーズなんだよ」
佐藤「ね? 今日が晴れ舞台なんです」
坂巻「……まあいい、ひとまず邪魔だからそこをどけ」
佐藤「だから主役だって……」
     ×  ×  ×
坂巻、会場前方に設置された台にプラチナジュエリーを置く。
   と、佐藤が来て、
佐藤「これ、めっちゃ高いやつですよね?」
坂巻「東京ドーム一杯に土佐犬が買えるくらいにな」
佐藤「えっと~……」
坂巻「一億円だよ」
佐藤「マジですか~! あれ、でもこれ、犬用のジュエリーとそっくりなんすよね~」
坂巻「犬用のジュエリー?」
佐藤「はい、新婦犬のフランソワーズがしてるネックレスです」
坂巻「まさか! 犬用のジュエリーとは天と地ほどに違うぞ」
佐藤「あはは、ですよね~……これ、贈答用ですか?」
坂巻「世界の大企業、市川グループ会長が孫娘へ送るプレゼントだ」
佐藤「へぇ~やっぱ金持ちのプレゼントはゼロの数が違いますね」
坂巻「まあ、これを準備すべきポンコツがまだ来てないんだが(と苛々する)」
佐藤「ポンコツ……?」

〇英家・外観(朝)

〇同・二階・つむぎの部屋(朝)
英つむぎ(31)、ベッドで爆睡している。
と、枕元にあるアラーム時計から演歌が流れてくる。
つむぎ「(目を覚まして)誰が演歌なんて歌って……(と時計を見る)うおおおおおっ!」
つむぎ、ベッドから飛び上がる。

〇同・一階(朝)
つむぎ、二階から駆け下りてくる。
つむぎ「じいちゃ~ん! アラームを演歌にするのやめてって何度も言ってんじゃ~ん!」
と、英誠二(56)と英裕子(54)がバタバタと荷造りをしている。
裕子「つむぎ、夜逃げするよ!」
つむぎ「は? いや、朝だし」
誠二「爺さんがまた女作って逃げたんだよっ!」
つむぎ「ええっ!?」
誠二「最近よくカルチャー教室に通うなとは思ってたんだが……」
裕子「また女の人と……」
誠二「まんまと騙されたな」
つむぎ「……まあ、じいちゃんの女癖は昔からじゃん、何で夜逃げって……」
裕子「通帳と印鑑を持って行ったの!」
つむぎ「え?」
誠二「金目のものも全部!」
つむぎ「うそっ!」
つむぎ、居間にある自分の鞄から財布を取り出し、中を見る。
つむぎ「現金とカードがないっ!」
裕子「冷蔵庫のへそくりも!」
つむぎ「仕事行けないじゃんっ!」
誠二「爺さんの居場所も不明だしな」
つむぎ「……一旦この状況を警察に相談して、お金借りよう!……ほら、お父さんだって仕事が……」
裕子「ないの!」
つむぎ「……はい?」
誠二「……お父さん、会社をクビになった」
つむぎ「えええっ!?」
裕子「もう、一家心中しかないじゃないの~っ!(と泣きだす)」
つむぎ「……!」

〇市民センター・外観(朝)

〇同・講義室(朝)
無料の講習会が開かれており、多くの人が参加している。
入口の張り紙には『誰でもできる! 簡単防犯対策!』とある。
英三郎(79)、舞台の上で婦警の手伝いをしている。
婦警「え~もし、不審者が襲いかかってきましたら……」
と、婦警、三郎に自分を襲うように手招きする。
三郎「え? あ~はいはい」
   と、三郎、婦警をハグする。
婦警「こんな優しく襲う不審者はいませんからね~」
   会場内、くすくすと笑う。
と、着席している一人の婦人が三郎に手を振り、微笑む。
   三郎、婦人にウインクする。
三郎「あ~良い匂い」

〇英家・外観(朝)

〇同・一階(朝)
   つむぎ、誠二、裕子がいる。
つむぎ「駅前の整骨院は?」
裕子「今日休み」
つむぎ「行きつけのカラオケ屋!」
誠二「呑み屋に変わってる」
つむぎ「囲碁仲間の寺内さん!」
裕子「知らないって」
つむぎ「敬老会の宮田さん!」
誠二「引っ越してる」
つむぎ「……と、仲良しの相原さん!」
裕子「昨日から入院してる」
つむぎ「……じゃあ、前回じいちゃんとかけ落ちしたミツさん!」
誠二「……先月亡くなってる」
つむぎ「も~う! じゃあ! じいちゃんはどこにいるわけ!」
裕子「分かんないから苦しいの!」
つむぎ「……」
誠二「金も全部持って行ったからな……今回は本気かもな」
裕子「お父さんもリストラで……もう、うちは終わりね」
つむぎ「……」
と、裕子、ガムテープを窓枠に貼り始める。
つむぎ「ちょ……お母さん、何やってんの?」
裕子「お父さん、確かキャンプ用の練炭が裏の倉庫に……」
つむぎ「お母さんって!」
と、つむぎ、裕子からガムテープを取り上げる。
裕子「一家心中だって言ったでしょ!」
つむぎ「まだ早いよ……もう一度じいちゃんの身辺を……(と何かを閃く)……お父さん!」
誠二「!」
つむぎ「じいちゃん、カルチャー教室に通ってたんだよね?」
誠二「え、あ……週の半分くらいは」
つむぎ「それ、どこでやってんの!」
誠二「え?」
つむぎ「どこ!」

〇市民センター・外観(朝)

〇同・講義室(朝)
   講習会が開かれている。
   婦警、三郎の後ろに回る。
婦警「不審者の後ろにいる場合、手をおさえても構いません(と三郎の手を握る)」
三郎「あ~また良い匂い」
婦警「または……」
と、婦警、ビニール袋を取り出して三郎の頭に被せる。
婦警「何かしらの袋があれば、こうやって不審者の視界を防ぐこともできます。そして……」
   と、そこへ、つむぎが入って来る。
つむぎ「じいちゃんっ!」
三郎「!」
   会場内、ざわざわとする。
婦警「えっと~講習会の参加者の方……」
と、つむぎ、ずかずかと舞台に上がって婦警を押しのけ、三郎の前に立つ。
つむぎ「じいちゃん! お金返して!」
三郎「え、いや、人違いじゃ……」
つむぎ「仕事に行きたいのっ!」
三郎「いや……」
と、つむぎ、三郎の頭からビニール袋を取って、
つむぎ「じいちゃんっ!」
三郎「……」

〇ホテル・市川・荻原家の披露宴会場~前の廊下
スタッフによって披露宴の準備が着々と進んでいる。
と、坂巻と佐藤が会場前の装飾をしている。
佐藤「(台の上に『クマレスラー』のぬいぐるみを置いて)俺、クマレスラー、ちょー好きなんすよね」
坂巻「クマがプロレスマスク被ってるだけだろ?」
佐藤「だけって……そこが最大のチャームポイントなんですよ! 今、めっちゃ流行ってて、新郎新婦もファンなんです」
坂巻「あんま見ないけどな」
佐藤「いやいや、ご当地クマレスラーっていうのもあって、俺、福岡出身なんすけど、福岡のクマレスラーは、明太子のマスクを被ってるんです」
坂巻「……悪趣味だな」
佐藤「しかも!……このマスク、取り外し可能なんです~(とクマレスラーのマスクを取り外す)」
坂巻「世間の流行はくだらんな」

〇市民センター・外観

〇同・講義室
講習会は終わっている。
婦人、三郎を罵倒している。
    婦警とつむぎ、婦人をなだめている。
婦人「何が独居老人よっ! 最低!」
三郎「家族はいるが、恋人はいないよ」
婦人「バカ!」
婦警「まぁ、落ち着いて……」
婦人「大金持ちだって言って……孫の財布からお金を盗んでるじゃない!」
三郎「それは、孫にお小遣いをあげすぎたから……」
つむぎ「じいちゃん! またそんな嘘……」
と、裕子からの着信でつむぎのスマホが鳴る。
つむぎ「(電話に出て)だから、さっきメールした通りだって」
裕子の声「家まで連れて帰って来て!」
つむぎ「だから、婦警さんに事情を説明したから、任せるの!」
裕子の声「女の人も一緒なんでしょ?」
つむぎ「そうだけど……でも、あと五秒でじいちゃんと破局する」
裕子の声「それに、その人ほんとに婦警? 実は、お爺ちゃんのぐるで……」
つむぎ「も~ごめんごめんごめん! 私、時間ないの!(と電話を切る)」
と、興奮した婦人が三郎に椅子を投げようとする。
つむぎ「あ、ちょっと!(と婦人を止める)……私、これから大事な式があるので、ここで失礼します!」
   つむぎ、走って出ていく。
   一同、呆然とする。

〇ホテル・外観

〇同・スタッフ事務所
つむぎ、胸に名札をつけ、耳にインカムをつけながら入って来る。
つむぎ「(バタバタと机に行って)あれ~? 式の進行表ってどこだっけ?」
と、つむぎ、隅の台所にお土産のお菓子があるのに気づく。
つむぎ「そういや、じいちゃんのことがあって朝ご飯食べてなかったし……(とお菓子をつまむ)うまっ! いけるな、これ(と次々につまむ)」
と、主任である上司、村山喜美子(43)が入って来て、
村山「英さん!」
つむぎ「(お菓子をくわえたまま振り返り)……ふへぇ?」
〇同・主任室
村山、机からペンと紙を取り出し、つむぎの前に差し出す。
村山「早く書いて」
つむぎ「……何をですか?」
村山「辞表です。早く書いて」
つむぎ「辞表っ!? な、何で書くんですか!?」
村山「それはこっちの台詞よ! 何回遅刻したら辞表を書くの!?」
つむぎ「……い、一万回ぐらい?」
村山「……もういい。辞表は書かなくていい、こっちからあなたをクビにする」
つむぎ「嘘です、嘘です! クビは勘弁してください!」
村山「はぁ!?……あなたが担当する式は、他のスタッフが代わりに準備してる」
つむぎ「ち、父もクビになって、私もクビになったら……」
村山「ま、そのお陰で準備にミスがなくて、スムーズでしょうね」
つむぎ「うちの家計が破綻します!」
村山「今日は二つも式があって、朝から大忙しよ」
つむぎ「もう二度と、遅刻はしませんからっ!」
村山「……」
つむぎ「(涙目で)宜しくお願いします!」
村山「……じゃあ、今日の式を何事もなく終わらせることができたら、クビをなしにしてやってもいいけど」
つむぎ「ほ、ほんとですか……?」
村山「二回も言わないわよ」
つむぎ「あ、ありがとうございます!……行ってきます!(と出ていく)」
村山「(ため息)……私もお人よしよね」

〇同・市川・荻原家披露宴会場前の廊下
坂巻、新婦・市川留美(30)と新郎・荻原真輔(30)に入場の段取りを伝えている。
坂巻「……では、スタッフの合図がありましたら、ここからご入場下さい」
新郎新婦「(緊張した面持ちで頷く)」

〇同・廊下
つむぎは走って、市川・荻原家披露宴会場前に着く。
と、装飾台にクマレスラーがあるのに気づき、
つむぎ「きゃ~可愛い!(とクマレスラーを手に取る)……あ、違う違う。早く会場内に……」
つむぎ、クマレスラーを台に戻そうとした時、廊下にある鏡に目が行く。
鏡には、寝癖がひどいつむぎの髪が映っている。
つむぎ「うわっ! 全然気づかなかった~!」
つむぎ、寝癖を直そうとするが直らない。
つむぎ「ど~しよ~! 髪を濡らす時間はないし~!(とクマレスラーを見て何かを閃く)……!」

〇同・市川・荻原家披露宴会場
大勢の招待客が歓談しており、賑やかな雰囲気である。
会場端には坂巻と佐藤がいる。
佐藤「英さん……でしたっけ? まだ来てないっすね」
坂巻「あいつはもう死んだと思え」
佐藤「……」
   と、会場内が暗くなり、
司会「皆様、大変お待たせ致しました……新郎新婦のご入場です!」
音楽が流れ出し、スポットライトが会場後方の扉に当たると、ゆっくりと扉が開く。
一同、開いた扉に注目していると、そこからクマレスラーのマスクを被ったつむぎが出てくる。
つむぎ「ま、前が見にくい……」
   一同、ぽかんとなる。
佐藤「ク、クマレスラー!?」
坂巻「……あのバカっ!(とつむぎのもとへ行く)」
司会「……え~新手の演出でしょうか?(と苦笑い)」

〇同・廊下
   坂巻、つむぎを連れて来て、
坂巻「何やってんだよ!」
つむぎ「寝癖が直らなくって」
坂巻「マスクもだけど! また遅刻だよ、遅刻!」
つむぎ「それは、じいちゃんがかけ落ちしちゃって……」
坂巻「前々回の遅刻の理由もお爺さんだろ! そんな何回もかけ落ちするわけない!」
つむぎ「するの!」
坂巻「しない!」
つむぎ「する!」
と、佐藤が、新婦の祖父のヘルパーに成りすました鴨志田利也(21)を連れて来て、
佐藤「坂巻さん! ヘルパーの斉藤さん、到着されましたけど……」
坂巻「あ、会長の……」
鴨志田「お世話になります」
佐藤「えっと~あ!(とつむぎに会釈して)ヘルプの佐藤です」
つむぎ「あ、英です……じゃあ、斉藤さんは私が会場に連れてくね」
と、つむぎが鴨志田を連れて行こうとすると、
鴨志田「あの、顔が……」
つむぎ「え?」
坂巻「マスクだよ、マスク!」
つむぎ「あ!(とマスクを外して)……ごめんなさいね~」
   つむぎと鴨志田、会場へと行く。
佐藤「先輩もあんな手のかかる後輩を持って大変っすね~」
坂巻「後輩じゃない、先輩だよ、先輩……今年で十年目の、ポンコツウエディングプランナーだよ」
佐藤「……え!」

〇同・市川・荻原家披露宴会場
新郎新婦が揃い、和やかな雰囲気である。
つむぎと鴨志田は市川忠男(90)のもとへ行き、
つむぎ「忠男さ~ん、斉藤さん来ましたよ~」
忠男「(耳が遠く)え~今日の、おやつはステーキ?」
つむぎ「……忠男さ~ん! あのね~!」
と、鴨志田が忠男の耳に補聴器をつけて、
鴨志田「いつもお世話になってるヘルパーの斉藤です」
忠男「ああ(と微笑む)」
   と、坂巻がやって来て、
坂巻「(つむぎの耳元で)そろそろプロフィール上映の準備をお願いします」
つむぎ「え!? もうそんな時間!?」
坂巻「あなたが大遅刻しましたからね」
つむぎ「……がってん承知の助!」
坂巻「古いんですよ」
   つむぎと坂巻、その場を離れる。
と、鴨志田が辺りを見回し、会場前方にあるジュエリ―を見つけると、胸ポケットにあるペン型インカムに口を近づける。
鴨志田「……物を発見」
男の声「(インカムから)了解……会長のじいさんにはバレてないか?」
鴨志田「年で、耳も目も悪いから大丈夫」
男の声「……OK。じきに会場内が暗くなる。新郎新婦が席を立ったらチャンスだ」
鴨志田「了解(と不敵に微笑む)」
     ×  ×  ×
   会場隅の作業スペース。
   つむぎがPCを操作している。
坂巻の声「(インカムから)準備ОK?」
つむぎ「ちょ、ちょっと待って!……ファイルがない!」
坂巻の声「あるよ!……もう、時間ないですよ」
つむぎ「え~!」
坂巻の声「昨日、念入りにチェックしてましたよね?」
つむぎ「え! してないよ~! チェック忘れてたもん!」
坂巻の声「何で忘れてんですか!……でも小一時間ぐらい、PC画面を食い入るように見てましたよね?」
つむぎ「それは……YouTubeで動物の可愛い動画を見てたから……」
坂巻の声「もう百回ぐらい言いましたけど、一度死んでください」
つむぎ「一度死んだら終わりだって~!」
   と、会場内が暗くなる。
坂巻、お色直しの為に席を立った新郎新婦を出口まで案内している。
鴨志田、忠男から離れてジュエリーの方へ向かう。
司会「では、皆様、会場後方にご注目ください! 新郎新婦のプロフィールを上映致します!」
一同、会場後方のスクリーンに注目する。
つむぎ「え! だからファイルが……(と何かのファイルをクリックする)……あっ!」
鴨志田、台の前に来て、ジュエリーを盗もうとする。
   と、会場後方から変な声が聞こえる。
鴨志田「……?(後ろを振り返る)」
スクリーンにオラウータンが映っており、鳴いている。
   会場内はぽかんとなる。
つむぎ「あ~!」
坂巻「……あのバカっ!(とつむぎのもとへ走る)」
鴨志田、坂巻が近づいてくるので忠男のもとへ戻る。
鴨志田「ちぇっ(と舌打ち)」
坂巻、つむぎに代わってスクリーンの映像を止める。
坂巻「(口パクで)バカやろうっ!」
つむぎ「(口パクで)ごめんなさい~!」
司会「え~可愛いオラウータンでしたね~(と苦笑い)」

〇同・山田家の結婚式会場
神父の前に、タキシードを着たアントワーヌと、ウエディングドレスを着たフランソワーズが向かい合ってお座りしている。
フランソワーズの首元には、きらりと光るネックレス。
神父「……では、誓いのキスを」
二匹、よだれを垂らしながらお互いの顔を舐め合う。
   飼い主達の拍手が沸きおこる。
   会場端には佐藤が控えている。
佐藤「汚ねぇな」
と、スタッフ出入り口から坂巻が顔を出し、
坂巻「(小声で)佐藤、佐藤!」
佐藤「……何すか?」
坂巻「ポンコツが使えないんだよ!……あいつと代わってくれ!」
佐藤「は?」

〇同・新婦控室前の廊下~女子トイレ
つむぎ、お色直しの新婦を控室に誘導している。
つむぎ「どうぞ~(と笑顔)」
そして、新婦が控室に入るとつむぎが廊下に一人残る。
つむぎ「ふ~(と一息)」
   つむぎ、女子トイレへ行く。
     ×  ×  ×
   女子トイレ。
   つむぎが鏡の前に立っている。
つむぎ「大丈夫、大丈夫!……まだそんなにやらかしてない!」
と、ポケットから披露宴の進行表を取り出す。
つむぎ「今お色直しだから……あともう少し!……このまま最後まで何とかやり過ごせば……クビはなしだ!」

〇同・廊下
坂巻が佐藤の腕を引っ張って歩いている。
佐藤「何で俺が英さんと会場を代わらないといけないんすか!」
坂巻「マスク被って入場してくるわ、オラウータン上映するわで……また何かやらかしそうなんだよ!」
佐藤「坂巻さんがいるじゃないすか!」
坂巻「窒息しそうなんだよ!……頼む、人命救助だと思って……」
佐藤「そんな事言われても……」
と、市川・荻原家披露宴会場から悲鳴が聞こえてくる。
坂巻・佐藤「!?」

〇同・女子トイレ前
つむぎ、市川・荻原家披露宴会場からの悲鳴を聞く。
つむぎ「!?」

〇同・市川・荻原家披露宴会場
ジュエリーが無くなっており、市川家の親族が騒いでいる。
   それに呼応するようにざわつく会場内。
司会「み、皆様落ち着いてくださいっ……!」
と、忠男の本物のヘルパー斉藤が司会の肩を掴み、
斉藤「た、助けてください……!」
司会「きゃあああっ!(と逃げる)」
   つむぎ、坂巻、佐藤が入って来る。
つむぎ「(市川家親族に)ど、どうしたんですかっ!?」
親族「ジュエリーが盗まれたんです!」
つむぎ・坂巻・佐藤「ええっ!?」
親族「でも、犯人が分からなくて」
つむぎ「そ、そんな……」
   と、斉藤がやって来て、
斉藤「成りすまし野郎です」
坂巻「?……あなたは?」
斉藤「僕が忠男さんの本物のヘルパーで、斉藤です」
一同「え!」
斉藤「僕に成りすました泥棒がジュエリーを盗んだんです!……僕は、物置にずっと監禁されてて……」
つむぎ「え、じゃあ、あのヘルパーは……(と忠男の方を見る)」
   忠男、寝ている。
   その隣に鴨志田はいない。
一同「いなくなってるっ!」

〇同・廊下
鴨志田、物陰に潜み、バッグの中のジュエリーを覗き見る。
鴨志田「(インカムで)作戦完了。今から出る」
男の声「(インカムより)……了解」
鴨志田が逃げようとした時、式が終わった山田家の一行とはち会う。
鴨志田「ううっ……」
男の声「……どうした?」
鴨志田「い、犬がいる……」
男の声「だから何だ?」
鴨志田「お、俺は犬が苦手なんだよ」
男の声「出口は一つじゃない、逃げれるところから逃げろ」
鴨志田がそっとその場を離れようとした時、何かに興奮したフランソワーズが鴨志田を追いかける。
飼い主「フランソワーズ!」
フランソワーズ「ワンワンっ!」
鴨志田「うわあっ!」

〇同・市川・荻原家披露宴会場
   依然としてざわついている。
つむぎ、坂巻、佐藤、落ち着きなく歩き回っている。
佐藤「や、やばいですよ、坂巻さん!」
坂巻「分かってるよ!……ひとまず警察に連絡か?……いや、まずは主任に報告……いや、会場内を……」
佐藤「坂巻さん!」
坂巻「……」
つむぎ「どうするどうするどうする……このままじゃ、披露宴が中止に……」
     ×  ×  ×
   回想フラッシュ。
村山「……じゃあ、今日の式を何事もなく終わらせることができたら、クビをなしにしてやってもいいけど」
つむぎ「あ、ありがとうございます!……行ってきます!(と出ていく)」
     ×  ×  ×
つむぎ「……ダメだ! 披露宴中止=クビだ!……それは、絶対ダメだ!」
   と、つむぎ、拳を固く握りしめ、
つむぎ「坂巻君! 佐藤君!」
坂巻・佐藤「!」
つむぎ「泥棒はまだホテル内にいるはず……手分けして探すよ!」
坂巻・佐藤「は、はい!」

〇同・物置
鴨志田がフランソワーズから身を隠している。
鴨志田「あの犬!……何で俺を追い回すんだよ!」
と、バッグの中のジュエリーを取り出して、
鴨志田「良かった……ジュエリーは無事だ」
鴨志田、ジュエリーから美味しそうな匂いがすることに気づく。
鴨志田「ん?……これはビーフジャーキー?」
確かめるようにジュエリーを嗅いでいると、ジュエリーの裏に『アントワーヌ&フランソワーズ』という文字と犬のロゴマークがあるのに気づく。
鴨志田「何だこれ?……まさか!」
鴨志田、スマホを取り出して一億円のジュエリーの画像を見る。
一億円のジュエリーには文字もロゴマークもない。
鴨志田「くそっ! 俺が盗んだのはぱちもんじゃねぇかっ!」
   と、扉がどんどんと叩かれる。
鴨志田「!」

〇同・物置前
   フランソワーズが足で扉を蹴っている。
フランソワーズ「ワンワンっ!」

〇同・物置
   鴨志田が身構えている。
鴨志田「俺が隠れてるのがバレてんのか?……やっぱ犬は鼻が利くな……ん? 鼻が利く?」
と、鴨志田、ジュエリーの匂いを嗅ぎ、フランソワーズと刻まれた名前を見る。
     ×  ×  ×
回想フラッシュ。
鴨志田がそっとその場を離れようとした時、何かに興奮したフランソワーズが鴨志田を追いかける。
飼い主「フランソワーズ!」
フランソワーズ「ワンワンっ!」
     ×  ×  ×
鴨志田「あの犬がフランソワーズ? じゃあ、このジュエリーは犬用のジュエリーで、本物は……」

〇同・物置前
   扉を足で蹴るフランソワーズ。
その首元には、きらりと光るネックレス。
フランソワーズ「ワンワンっ!」

〇同・廊下
つむぎ、鴨志田の行方を探し回っている。
   と、フランソワーズの飼い主と出会う。
飼い主「いなくなったんです!」
つむぎ「え?」
飼い主「フランソワーズが……急に興奮して、男の人を追いかけて……」
つむぎ「フランソワーズ……?」
飼い主「今日式をあげた、新婦犬です」
つむぎ「あ~あのワンちゃんか……えっと、男の人って……」
飼い主「分かりません! 何か制服を着た、若い男の人なんですけど……」
つむぎ「制服……(と何かに気づいて)あの、その人、どっちに行きました?」

〇同・物置
鴨志田、インカムの男と連絡を取っている。
鴨志田「俺が盗んだジュエリーはぱちもんだった」
男の声「は?」
鴨志田「俺が持ってるのは犬用のジュエリーで、本物はフランソワーズが持ってる」
男の声「……フランソワーズ?」
鴨志田「してやられたよ」
   と、鴨志田、ドアノブに手をかける。

〇同・廊下
   つむぎが走っている。
   と、前方から来た坂巻と出会う。
つむぎ「ど、泥棒見なかった!?」
坂巻「え!」
つむぎ「泥棒が、フランソワーズに追われてこっちに逃げたって!」
坂巻「え、いや、こっちには誰も……」
つむぎ「そんなはずない! だって……」
と、フランソワーズの鳴き声が聞こえる。
つむぎ・坂巻「!」
つむぎ「やっぱりこっちだ!」
   つむぎ、坂巻、走り出す。

〇同・物置~廊下
   鴨志田が勢いよく扉を開ける。
と、フランソワーズが鴨志田に飛びかかる。
鴨志田「うわああっ!(と逃げる)」
   フランソワーズ、鴨志田を追う。
フランソワーズ「ワン!」
と、鴨志田、廊下の隅にあった消火器を見つけて手に取ると、
フランソワーズめがけて振り下ろそうとする。
   と、つむぎが鴨志田にタックルする。
つむぎ「ストーーーップ!」
鴨志田「!」
   鴨志田、床に倒れる。
   坂巻、素早く鴨志田を取り押さえる。
つむぎ「ジュエリーを返せっ!」
鴨志田「痛ってぇな……俺は持ってねぇよ!(と落としたバッグを見る)」
つむぎ「嘘つけ!……あのバッグの中か!」
フランソワーズ、バッグに嚙みついて遊んでいる。
   つむぎ、バッグの中を見ようとする。
   と、佐藤がつむぎの手を靴で踏む。
つむぎ「痛っ!」
佐藤「ブッブ~! 正解は、こっちでした~(とフランソワーズの首元からジュエリーを取る)」
つむぎ「佐藤君!?」
坂巻「!」
佐藤「バカだな~二人とも……ポンコツ同士でお似合いなんじゃない?」
つむぎ・坂巻「……!」
   と、鴨志田が隙を見て坂巻を殴る。
坂巻「ぐふっ!(と倒れる)」
つむぎ「坂巻君!」
佐藤「あ~あ、痛そ~……お大事にね~」
鴨志田「(笑う)」
   佐藤、鴨志田、去っていく。
つむぎ、バッグの中から犬用のジュエリーを取り出す。
つむぎ「うそ……一億円のジュエリーとそっくり!」
と、フランソワーズがそのジュエリーに楽しそうに嚙みつく。
坂巻「英さん……前日準備で、一億円のジュエリーと犬用のジュエリーを取り違えてたんですね……」
つむぎ「あ~! また私が……」
坂巻「やっぱりポンコツだな……うっ!(と痛みに声が漏れる)」
つむぎ「坂巻君!……死んじゃう?」
坂巻「死にません」
つむぎ「どうしよう! 誰か呼んで……」
坂巻「大丈夫なんで、二人を追ってください」
つむぎ「でも、私のせいで……」
坂巻「遅刻の常習犯が、何を今さら反省してんですか!……ジュエリーを取り返して、ポンコツの汚名を返上してください」
つむぎ「……」
坂巻「披露宴、中止になってもいいんですか?」
つむぎ「披露宴が中止……」
村山の声「……今日の式を何事もなく終わらせることができたら、クビをなしにしてやってもいいけど」
つむぎ「……ダメだダメだ!……坂巻君、私行くね!」
   つむぎ、走り出す。
坂巻「……頑張れ、ポンコツ……」

〇同・中庭
   佐藤、鴨志田、走って来る。
佐藤「いや~楽勝、楽勝!」
鴨志田「ちょろいもんだよな、一億円って」
佐藤「犬にあげてたまるかっての!」
鴨志田「今日は一億円のシャンパンで乾杯だ~!」
佐藤「バカ! 一日で使い切るつもりかよ!」
鴨志田「別に、また盗めばいいじゃん……一億円くらい」
佐藤「それもそうだな(と笑う)」
鴨志田「(笑う)」
と、二人の前につむぎが立ち塞がる。
つむぎ「……随分盛り上がってるじゃない」
佐藤・坂巻「!」
つむぎ「ジュエリーを返せ!」
佐藤「英さん……いや、ポンコツが一人で何しに来たの?」
つむぎ「ポンコツじゃない! さっさとジュエリーを出せ!」
鴨志田「うるせぇな……邪魔なんだよ!」
   鴨志田、つむぎに近づいていく。
と、つむぎ、ポケットから犬用のジュエリーを出して鴨志田に投げつける。
鴨志田「!?」
つむぎ「フランソワーズ!」
すると、どこからかフランソワーズが駆けて来て、鴨志田に飛びかかる。
鴨志田「う、うわああっ!(と逃げる)」
佐藤「鴨志田!」
つむぎ「……さあ、ジュエリーを返して!」
佐藤「女一人で……男とタイマンはれると思ってんのか?」
   佐藤、じりじりとつむぎに近づく。
つむぎ「そ、それは……」
つむぎ、後ずさり、ポケットに手を入れるとクマレスラーのマスクがある。
つむぎ「マ、マスク……?」
     ×  ×  ×
   回想フラッシュ。
婦警「または……」
と、婦警、ビニール袋を取り出して三郎の頭に被せる。
婦警「何かしらの袋があれば、こうやって不審者の視界を防ぐこともできます。そして……」
     ×  ×  ×
つむぎ「……頭にマスク!」
佐藤「あ?」
   つむぎ、佐藤の後ろを指さして、
つむぎ「あ~! フランソワーズが戻って来る!」
佐藤「え!(と後ろを向く)」
つむぎ、その隙に佐藤に走り寄り、佐藤の頭にクマレスラーのマスクを被せる。
つむぎ「先手必勝っ!」
佐藤「な、何だ!?」
   つむぎ、必死に佐藤を取り押さえる。
佐藤「!」
つむぎ「ポンコツウエディングプランナーをなめんなよ!」

〇同・表
   パトカーが一台止まっている。
と、そのパトカーに手錠をかけられた佐藤と鴨志田が警察官と共に入っていく。
   その姿を見守るつむぎと坂巻。
坂巻「まさか、佐藤も泥棒だったなんて……」
つむぎ「私は最初から分かってたけどね」
坂巻「またまた……噓つきは泥棒の始まりですよ……パトカー乗ります?」
つむぎ「うるさいな!(と坂巻を小突く)」
坂巻「痛っ!……傷口が広がりますから」
つむぎ「あ、そうだった! ごめんごめん~(とまた小突く)」
坂巻「だから! 人の話聞いてます?」
つむぎ「(笑う)」
   と、二人の背後に村山が来て、
村山「ちょっとお二人さん!」
つむぎ・坂巻「は、はい!(と振り返る)」
村山「……式、まだ終わってないんだけど」
二人「……ですよね~」
村山「特に英さん!……あなた、今日の式が正念場でしょう!」
つむぎ「……はい!」

〇同・教会がある広場
教会の鐘が鳴って扉が開き、そこから仲良く腕を組んだ真輔と留美が出てくる。二人は親族や友人らで作られた花道を通る。
「おめでとう!」「お幸せに!」
   の声が重なる。
留美の首元には、きらりと光るジュエリー。
真輔・留美「ありがとう!」
つむぎと坂巻、少し離れたところで式を見守っている。
坂巻「一億円のジュエリー、新婦にお似合いすね」
つむぎ「犬用のジュエリーとは大違い」
坂巻「……まあ、それを間違えたポンコツもいますけどね」
つむぎ「……。まあ、ザ・ハッピーエンドってことで」
坂巻「式はそうですけど、あなたは違いますよ」
つむぎ「ワッツ?」
坂巻「下手な英語はやめてください……英さん、遅刻してますからね、遅刻!」
つむぎ「だから何よ?」
坂巻「遅刻したら、どんなに良い仕事をしても、全部なしですから~!」
つむぎ「……残念っ!」
坂巻「だから古いんですよ」
つむぎ「でもでも、披露宴の会場に犬用のジュエリーを置いたからこそ、一億円のジュエリーを守れたんでしょ!」
坂巻「自分のミスを肯定してます?」
つむぎ「だって、ほんとのことだし!」
坂巻「泥棒を捕まえたのは、フランソワーズですから」
つむぎ「私も一緒にいたし!」
坂巻「あなたはおまけです……ああもう、不毛な議論はこれにて」
   と、坂巻、去っていく。
つむぎ「え、ちょっと待ってよ~」
つむぎ、坂巻を追いかける。
と、式ではブーケトスが始まろうとしている。
留美が階段の上に上がり、階段下には独身の女性陣が今か今かとブーケを待ちわびている。
留美「行きま~す!(とブーケを投げる)」
つむぎ「ねぇ! 坂巻君って~!」
   と、つむぎが躓いて転ぶ。
つむぎ「痛~っ!」
ブーケ、思いのほか遠くに飛んで階段下の女性達を通り過ぎ、つむぎの膝元に落ちる。
つむぎ「え!(とブーケを手に取り)……やったあっ!」
   一同、ぽかんとつむぎを見る。
坂巻「……あのポンコツ!」
と、つむぎ、周りの冷めた視線に気づいて、
つむぎ「あ……またやっちゃった(と照れ笑い)」

(終わり)

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。