大罪マンション 日常

一人暮らしを始める大学生、浅野勇気。 彼の家となる見晴らしのいいマンション。 不安と期待を胸に、自分の部屋に足を踏み入れる勇気…。 そこには、悪霊より性質の悪いものが住んでいた。
白石 謙悟 10 0 0 06/04
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第一稿

『大罪マンション』

登場人物

浅野 勇気(アサノ ユウキ)…主人公・大学生・男・605号室
円満 陽子(エンマ ヨウコ)…管理人・女
鈴木(スズキ)…本 ...続きを読む
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『大罪マンション』

登場人物

浅野 勇気(アサノ ユウキ)…主人公・大学生・男・605号室
円満 陽子(エンマ ヨウコ)…管理人・女
鈴木(スズキ)…本名 ルシファー・男・604号室
山田(ヤマダ)…本名 レヴィアタン・男・603号室
木下(キノシタ)…本名 サタン・男・601号室
中村(ナカムラ)…本名 ベルフェゴール・男・602号室
田中(タナカ)…本名 マモン・男・606号室
石川(イシカワ)…本名 ベルゼブブ・男・607号室
吉本(ヨシモト)…本名 アスモデウス・女・608号室

(1)

明転。照明薄暗く
舞台には顔を隠している7人の悪魔達

ルシファー「魔王様は仰った」
レヴィアタン「今の世は、人間によって支配されている」
サタン「何ひとつ特別な力を持たない彼らが」
ベルフェゴール「なぜ、地上で最も力を誇っている?」
マモン「彼らは我らより優れているのか?」
ベルゼブブ「太古より畏怖の象徴として扱われてきた我らよりも」
アスモデウス「世を治めるに相応しい存在なのか?」
ル「確かめる必要があるな…」
レ「うむ、その為に魔王様は我らを遣わされたのだ」
サ「私も気にはなっていたところだ」
ベルフェ「人間…か」
マ「ふん、取るに足らぬ存在だろう」
ベルゼ「だが、面白いじゃないか」
マ「何がだ?」
ベルゼ「その取るに足らぬ存在の人間が、いかにして今の繁栄を担ってきたのか」
ア「興味深いな」
レ「あの魔王様が気にかけておられるのだぞ」
マ「ふん…」
ベルフェ「報告に値するものであれば良いがな」
ル「話は終わりだ。そろそろ下界だぞ」
サ「懐かしいものだ。私はかれこれ数百年振りになる」
ル「しかと見極めてやろうではないか…。彼らの本質を。
  我ら…7人の悪魔がな」

暗転

(2)

明転
上手から勇気が登場

勇気「ふう、ここが今日から僕が住むマンションか」

中央付近まで移動する

勇「いやぁ、ここまでひどい道のりだった…二重の意味で。何でこんな無駄に
  高い所にあるんだよ、ここ。
  まぁ、いいや。どんな不幸も今の僕には効きはしない。
  何たって僕は…ついに大学生になったんだ!
  三浪の末、ついに入学することのできた夢の大学!
  二重の意味ってのはこういうことさ…。長いトンネルを抜け、僕はやっと自由だ。
  それに…この大学には憧れのあの人が…ふふふふふふ」

いつの間にか円満が登場。不審な目で勇気を見る

勇「ああ、でも…あの人、僕のこと覚えてくれてるかなぁ…。
  僕は今でも時々夢に出るくらい覚えてるけど…あっちはどうだかわからないしな…
  いやでも!」
円満「…えーっと、そろそろいいか?」
勇「う、うわ!びっくりした!!」
円「随分とでかい独り言だな。しかも妙に説明口調」
勇「す、すみません。よく言われます…。あなたは?」
円「私はここの管理人だよ。名前は円満陽子」
勇「えんま…さん」
円「金の単位の円に、満点の満で円満だ。おっかない方の字じゃないからな?」
勇「は、はぁ…」
円「で、君は?うちに何か用か?」
勇「あ、僕、今日からここに住まわせてもらうことになってる浅野勇気です」
円「ああ、君が。うん、連絡は受けてる」
勇「さっそくですけど、部屋の場所を教えてもらえますか?荷物を置きたいので」
円「もちろん。案内するよ」
勇「あ、すみません、お願いします」
円「こっちだ」

円満、勇気が下手にハケる
暗転

明転

円「ほら、ここが君の部屋だ」
勇「おお、最上階かぁ。いい景色ですね」
円「このマンション、眺めの良さには定評があるからな」
勇「そうなんですか」
円「んじゃ、私は大抵、一階の管理人室にいるから。わからないことがあったら
  聞いてくれ」
勇「はい、ありがとうございます」

円満がハケようとするが、途中で立ち止まる

円「おっと、忘れてた。はい、部屋の鍵だ。これが無いと入れないよな、はは」
勇「あ…ど、どうも」

円満が勇気に鍵を渡し、ハケようとするが途中で立ち止まる

円「あ、それともう一つ」
勇「今度は何ですか!?」
円「お隣さん達とは仲良くしろよ」
勇「お隣さん…ですか」
円「ああ。その…何だ。コミュニケーションは大切だからな」
勇「はあ…」
円「じゃ、そういうことで」

円満がハケる

勇「…何ていうか、サッパリした人だなぁ…。悪い人ではなさそうだけど」

勇気が鍵を使って扉を開け、部屋に入る
中には鈴木、山田、中村がくつろいでいる

勇「ふう、さて、どんな部屋かな…」

中の様子を見て固まる勇気

勇「………えーっと…」

気不味い沈黙

勇「すみません、部屋を間違えました」

そそくさと退場する勇気

勇「あ、あれ…おかしいな?僕の部屋じゃないのか、ここ…。
  何か既に3人くらいいたんだけど…。
  円満さん、部屋間違ったんじゃないか?」

どこからともなく円満が登場

円「呼んだか?」
勇「う、うわ!びっくりした!!」
円「ここが君の部屋で間違いないぞ。605号室。うん、間違いない」
勇「いやいや!中に人がいたんですよ!?っていうか聞いてたんですか!?」
円「違う、たまたま聞こえたんだ。…で、人がいたって?」
勇「はい!」
円「ここは君の部屋で、鍵は今開けた。中に誰もいるわけないだろう?
  君がここを開けるまで、ずっと閉め切っていたんだし」
勇「でも、確かにいたんですよ!」
円「…とまぁ、こんな風に」
勇「は?」
円「不思議なことが平気で起きることにも定評があるんだ、このマンション。
  面白いだろう?」
勇「え…えぇ!?」
円「この程度でいちいち驚いてちゃあ、ここには住めないぞ、浅野君」
勇「き、聞いてないですよ…」
円「言ってないからな。ほら、開けるぞ」
勇「あ、ちょっと…!」

円満が扉を開ける
部屋には誰もいない

勇「あれ……!?」
円「ふむ、誰もいないぞ」
勇「どうして…!?さっきまで確かに誰かいたんですよ!」
円「不思議なことが起こると言っても、大体オチはこんなもんさ」

部屋を見渡し、納得いかない表情の勇気

円「そういえば君、大学生になったばっかりなんだろ?受験勉強で疲れて
  幻覚でも見たんじゃないのか?」
勇「さすがにそこまで疲れてないですよ!…多分」
円「冗談だ。じゃ、私は失礼するよ。また何かあったら呼んでくれ」

円満がハケる
不安そうに部屋を見ながら座る勇気

勇「本当に大丈夫か、このマンション…。ほとんどあり得ない安さの家賃に惹かれて
  選んじゃったけど…失敗だったかな。
  いや、待てよ…。大体そういうのって何かしら曰く付きの部屋だったりするのが
  お決まりのパターンだよな!?霊が住んでるとか、呪われてるとか…!
  やばい…軽率だった。すごい軽率だった!くそ、世の中そんなに甘くないよなぁ。
  で、でも、考え過ぎってのもあり得る。とりあえず、ここは落ち着いて…。
  そうだ!楽しいこと考えて気を紛らわそう!そう…僕は念願の大学生になったんだ。
  カレッジ・ステューデントなんだ!
  先輩、元気かなぁ…。ふふ、あぁ、何かニヤニヤしてきた」

立ち上がる勇気

勇「『お久しぶりです、先輩。あ、はい…浅野勇気です。覚えていてくれたんですか。
  とても嬉しいです。先輩の方こそ、相変わらずお美しい…。
  地上に舞い降りた天使。いや、美の女神…』」

恥ずかしそうにもがく

勇「あり得ない!何、どんなシチュエーションだっつーの!?
  そして僕は何キャラだよ!?わ、我ながら気持ち悪い……。
  あ〜…日々の妄想にも磨きがかかってきてるのがわかる。
  こういうのって夢見る乙女がやってこそ絵になるんじゃないだろうか…。
  はぁ、どうでもいいか」

床に寝転がる勇気

勇「さっきのことは忘れるか…。円満さんの言うとおり、疲れてただけかもしれない   し。
  確かに、死ぬ気で勉強したからなぁ。ん〜…少し寝ようかな……。
  後でお隣さんに挨拶しに行くか……」

しばらくの沈黙
その後、鈴木、山田、中村が勢いよく登場

勇「うわあああああ!?」
鈴木「やぁ、君か。新入りってのは」
勇「ちょ、ちょっと!何なんですか、あなたたちは!?」
鈴「まぁまぁ、細かいことは気にするなよ。座ったらどう?」
勇「いや、ここ僕の部屋なんですけど…」
鈴「おーい、山田。そんな隅っこにいないでこっちに来いよ」
山田「いえ、私はここが落ち着くので…」
勇「あ、あの…」
中村「なぁ、ル…じゃなかった、鈴木。今日はもう何もないんだっけ?」
鈴「ああ、今日はもうフリーだ。と言っても、勝手な真似は慎めよ?」
中「心配ないよ。俺は後寝てるから」
勇「あのー…すみません」
鈴「寝過ぎは体に良くないぞ?あ、そうだ。今度皆でボーリング行こうよ」
山「何ですか…ボーリングって」
鈴「こう…これくらいの鉄球を転がしてさぁ、棒をひたすら倒す遊びだってさ。
  よく知らないけど」
山「へぇ…過激ですね…」
鈴「だろう?んじゃさ、皆が帰ってきたら早速…」
勇「あのーーー!!!」

鈴木・山田、勇気の方を見る

鈴「…はい?」
勇「…はい?じゃないですよ!!えーと、その…とりあえず、何なの、あんたたち!?」
鈴「ああ、失礼。僕としたことが自己紹介が遅れたよ…。お隣の鈴木です。よろしく」
勇「え…。お、お隣さん?」
鈴「うん、604号室。で、あそこで体操座りしてる彼は山田君。603号室」
山「よろしくお願いします…」
勇「は、はあ…」
鈴「そんで、この寝てるのが602号室の中村」
中「…………」
勇「ものすごい勢いで寝てますね…初対面の人の家で」
鈴「まぁ、とりあえずはこんなところかな?」
勇「はぁ…丁寧にどうも…。じゃなくて!!何で僕の部屋に皆さん集まってるんですか!?」
鈴「え?それはー…何ていうか、ねぇ?」
勇「はぐらかさないでくださいよ!それに、さっき僕がここに入ってくる前から、皆さん
  いませんでしたか…?」
鈴「そ、それは気のせいだろう!そんなの、僕たちがここから消えて、外からまた
  入ってきたことになるじゃないか!そんなこと、さすがに無理だよ、はは〜…」
勇「それもそうですよね…」
鈴「うんうん、細かいことは気にするなよ、浅野勇気君」
勇「この状況は些細なことでは済まされませんけどね…って、あれ?」
鈴「ん?」
勇「僕、自己紹介しましたっけ?」
鈴「あ…」
勇「何で知ってるんですか、僕の名前!」
鈴「いや、これはその…」
勇「やっぱり怪しいぞ、あんたら!いや、名前知ってたとか言う以前に、
  根本的に怪しい!!」
鈴「参ったねぇ…。山田、どうしよう?」
山「…もう本当のことを話した方がいいのでは…」
鈴「でもなぁ…それは不味いよ」
勇「と、とにかく!お隣さんだか知らないけど、勝手に人の部屋に入るなんて不法侵入  だ!
  やっていいことと悪いことがありますよ!」
鈴「まぁまぁ、今日越してきたばかりなんだし、別にやましい物なんてないだろ?
  そんなに怒るなよ〜」
山「…鈴木さん、多分そういう問題じゃないと思います」
勇「さぁ、早く出て行ってください!管理人さん呼びますよ!」

入口まで移動する勇気
途端に扉が開き、勇気にヒット

勇「うぐは!?」

木下が登場
うずくまる勇気

木下「おい、ルシファー!どういうこった、今日ここに人間が越してくるそうじゃねぇか!」
鈴「あっ…しー!木下!」

「静かに」のポーズをとる鈴木

木「あ?何だってんだよ?」
鈴「まったく、君ってやつは……ん(勇気を指し)」
勇「い、今……ルシファーって…あなたたち…本当に何者なんですか…?」
木「げぇぇぇっ!こいつはぁぁぁ!!」
鈴「ちゃんと呼び名で呼ばないから…仕方ないなぁ、もう」
山「…隠し通すのは無理みたいですね」
中「…ったく、うるせぇなぁ。眠れねぇよ」
勇「な…何なんだ、あんたたちはーーーーっ!?」

暗転

(3)

勇「考えてみれば、最初からおかしいと思ったんだ。馬鹿みたいに家賃も安いし、
  ここを紹介してくれた友達も、あからさまに『してやったり』みたいな
  顔してたし。あの時点でもう少し慎重になるべきだった。
  うん、友達は選ぶことにしよう。
  妙に怪しいそのマンションの僕の部屋には、悪霊より性質の悪いものが
  住み着いていた」

明転
舞台には勇気・鈴木・山田・中村・木下(中村は寝ている)

勇「も、もう一回説明してもらえますか」
鈴「だからぁ、実は僕たちは魔界から遣わされた悪魔で、魔王様の命令で、
  この地上と人間の視察に来たんだよ」
勇「………」
鈴「わかった?」
勇「…えっと、病院なら近くにいいところ知ってますけど…」
鈴「う〜ん、やっぱり信じられないか」
勇「当たり前でしょう…もっとましな嘘ついてくださいよ」
木「あぁ、もう面倒くせぇ!おい、ルシファー、何か力使って見せてやれよ。
  そしたらこのガキも嫌でも信じるだろ!?」
鈴「それは不味いって…。そもそも、僕たちの正体がばれた時点でも問題なんだから」
山「…彼、全然信じてませんけどね」
木「心配ねぇよ。どうせ魔王様も今は天使長との小競り合いでこっちのことなんて
  気にしてられないだろうよ。だから俺達を代わりに地上に遣わせたんだろ?」
勇「天使長……」
木「おいぃ!!てめぇも何この痛い人たち…と言わんばかりの目で見てんじゃねぇよ!?」
鈴「う〜〜ん…」
勇「あの…いい年なんですから、もうそういう遊びは自重しといた方が…」
木「遊びじゃねぇよ!!なぁ、いいのかよ、言われっぱなしだぜ!!
  悪魔の面目丸つぶれだよ!!」
鈴「声が大きいよ、木下」
勇「木下さん、ですか。浅野です、よろしく」
木「あ、これはご丁寧に…じゃねぇよ!!おい、ルシファー!」
鈴「わかった。このままじゃ埒があかないな」
勇「え…」
木「やっとやる気になったか!」
鈴「お望み通り、勇気君。僕たちが悪魔である証拠を見せようじゃないか」
勇「いや、望んでないんですけど……」
鈴「人間の前で魔力の使用は禁じられているんだけど、仕方ない」
勇「………」
鈴「そうだな、じゃあ軽い力から。君のその口を塞いであげよう」
勇「はあ?」
木「おう、いいな!これで減らず口も叩けなくなるぜ!」
勇「何で僕までこんな遊びに…」
木「ちくしょう、まだ言いやがる!ルシファー、さっさとやれ!」
鈴「わかってるよ…。覚悟はいいかい、勇気君。
  デビルパワー・オープン!えいさぁーーーっ!!」
勇「最後ださっ!!…って、うむむ!?」

口を押さえ、驚く勇気

勇「んんんーー!?」
鈴「どう、喋れないだろ?」
山「…面白い顔ですね」
木「はははははは!いい気味だな!」
勇「んんん、んんん、むんんーー!!」
鈴「うーん、何て言ってるか全然わからないな」
勇「ぐんんー!!」
鈴「もういいだろ。解いてあげるよ」

鈴木の指パッチンとともに勇気の口が開く

勇「ぶはぁぁ!!…はぁ、はぁ…」
鈴「気分はどうだい?」
勇「さ、最悪ですよ!」
鈴「そうかそうか。で、僕たちが悪魔ってことは信じてくれた?」
勇「い、今のは何だったんですか…?」
鈴「魔力を使って君の口を塞いだんだ。悪魔の魔力は特別性でね、応用が利くのさ」
山「…でも、人間の前で魔力を使用することは、悪魔法で禁じられています」
鈴「そう、僕たちの世界にも法律があってね。破っちゃうと使い魔に降格さ」
木「バレやしねぇよ。魔王様だって万能じゃねぇんだ」
鈴「だといいんだけどねぇ…。内心、僕さっきからビクビクしっぱなしさ」
山「…そうは見えませんけどね…」
勇「………」
鈴「どうしたの?さっきから黙り込んじゃって。あ、もしかしてまだ信じられない?
  じゃあ、次は…東京タワーでも消してみせようか」
勇「わああああ!!もういいです!信じます、はい!」
鈴「あはは、冗談だよ。東京タワーなんて消したらさすがにバレるって」
勇「ううう…何でこんなことになってるんだ…」
鈴「まぁ、安心してよ。別に君をどうこうしようってわけじゃないから」
木「ああ。魔力は使わねぇよ。腕力は使うがな」
勇「どっちにしろ嫌ですよ!」
鈴「暴力はいけないよ、木下」
木「ちっ…」
勇「あ、あの…」
鈴「何だい?」
勇「皆さんは…に、人間の視察…に来たんですよね?」
鈴「そうだよ」
勇「だ、だったらどうして、皆さん僕の部屋にたむろしてるんですか?
  ま、まさか…僕が視察の対象だったり!?」
鈴「シャーッ!!」
勇「うわあああ!!すみません!!」
鈴「はははは、反応が面白いな。そうビクビクするなよ」
勇「で、でも…あ、悪魔様、なんですよね…。悪魔って、イメージ湧きにくいけど…
  やっぱり、その、すごい力もお持ちになっているようだし…」
鈴「どうかなぁ」
勇「え?」
鈴「実際に人間はこの地上を支配してるわけだし、僕らにない十分な力を
  持ってるんじゃないかな?」
勇「そ、そうですか…?」
木「ふん、魔力も持たねぇ奴らが支配者とは、理解に苦しむぜ」
鈴「だから、その理由を確かめに来たんだろ、木下」
木「ふん…」
鈴「まぁ、少なくとも魔王様は人間に大変興味を持たれていらっしゃる。
  だから、僕たちをここへ遣わしたんだ」
勇「やっぱり、魔界…とかあるんですか?」
鈴「あるよ〜。こっちと比べたら娯楽もない、殺風景でつまんない所さ」
山「…私は、あっちの方が落ち着きます」
鈴「僕は断然こっちの方が楽しいな。あ〜あ、いっそのこと、人間に生まれたかった   よ」
勇「そんなものなんですか…」
鈴「うんうん。…おっと、話が逸れた。えっと、何で僕たちが君の部屋に集まってるの  か、だったよね」
勇「あ…は、はい」
鈴「ご存じの通り、僕たちは今、このマンションに住んでる」
勇「はい」
鈴「何て言うか、君の部屋は一番環境がいいんだよね」
勇「環境…?」
鈴「魔界と通信が取れやすいんだ。電波が通りやすいってやつ?」
勇「電波って…まさか電話で通信してるんですか!?」
鈴「ものの例えだよ!電話なわけないだろ…」
勇「そ、そうですよね…」

ケータイ電話を取り出す鈴木

鈴「これを使うのさ」
勇「電話じゃないですか!!」
鈴「チッチッチ。これは立派な魔界アイテムだよ。しかも最新機種」
勇「魔界の定義がよくわからなくなってきた…」
鈴「かっこいいだろ?せっかくだから魔王様と話してみる?
  一度、人間と話してみたいって言ってたし」
勇「魔王様って意外とフレンドリーなんですね…。え、遠慮しときます」
鈴「ん、そう?」
木「そういえば、ちゃんと報告はしてんだろうな?」
鈴「ああ…それがさぁ、なぜかここ数日は繋がらないんだよね」
木「おいおい、故障かよ?」
鈴「コール音は聞こえるんだけど、誰も出ないんだ。お出かけ中なのかな?」
木「…かもな。とにかく、一応報告はしとけよ」
鈴「わかってるよ」

ケータイをしまう鈴木

鈴「そんなわけだ!君には悪いけど、この部屋は僕たちの拠点にさせてもらうよ」
勇「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!別にここに居座る必要なんてないでしょう!?
  報告入れる時だけでいいじゃないですか!しかも何で全員…!?」
鈴「んも〜、カタイこと言うなよ。仲良くやろうぜ、兄弟」
勇「悪魔の兄弟はいませんよ!」
鈴「明日くらい、勇気君の歓迎パーティやろうぜ!」
勇「話を勝手に進めないでください!」
山「無駄ですよ…この人、こうなったら他人の話全然聞きませんから」
勇「え〜…」
木「てめぇもさっさと諦めてここを明け渡せ!さもなくば、腕力にものをいわせる」
鈴「そこは魔力にしときなよ、せめて悪魔っぽく」
勇「ぼ、暴力…いや、魔力反対!警察呼びますよ!」
木「…何だ、ケーサツって」
山「人間界の…治安を守る役職の呼称らしいですよ」
鈴「ほら、あれだよ。魔界でいうB・V・Dのことだ」
山「あー、なるほどな…。ちっ、やっぱこっちにもいるんだな、ああいうのが」
勇「何、B・V・Dって…」
鈴「ブラック・ヴァンダム・デビルズ」
勇「何か強そう!!」
鈴「ヴァンダムってのは、魔界の歴史で有名な悪魔でね。この人が過去に…」
勇「い、いえ、いくら僕が魔界のことを聞いても理解できないと思うので…」
鈴「そうかい?」
木「B・V・Dにはかなり世話になったな…」
鈴「木下は筋金入りのワルだったからねぇ」
木「うるせぇな、昔の話だ!大体ルシファー、てめぇもガキの頃は相当性質悪かったろ!」
鈴「何を馬鹿な…。このクールガイでシティボーイな僕が、どんな間違いを?」
木「こいつ、無かったことにしてやがる!!」
勇「あの〜…そういえば、木下さんや山田さんにもやっぱり本名があるんですか?」
木「あ!?」
勇「す、すみません!!」
鈴「そうおどすなよ、木下。本名ならもちろんあるさ」
山「もっとも…魔王様からいただいた名前、ですがね…」
勇「そ、そうなんですか…」
鈴「知りたい!?」
勇「いえ、別に…」
鈴「しょうがないなぁ、特別だよ!?」
勇「………」
山「…この人、こうなったら他人の話全然聞きませんから」
鈴「まず、この怒りんぼの木下君…本名はサタン!」
木「けっ!!」
鈴「そして、少し根暗な山田君!本名は…レヴィアタン」
山「どうも…」
勇「サタンに、レヴィアタン、ルシファー…どっかで聞いたことあるような…」
鈴「勇気君、君、『七つの大罪』って知ってる?」
勇「ああ、聞いたことあります。漫画からの知識ですけど」
鈴「人が罪を犯すに至る、七つの要因のことさ」
勇「罪…ですか」
鈴「ああ。木下、全部言える?」
木「馬鹿にしてんのか!悪魔検定4級の問題だぞ!」
勇「検定って…悪魔って資格みたいなもんなんですか…?」
山「私たちが答えられなかったら、話になりませんね」
鈴「だよねぇ。じゃ、言ってみて」
木「傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲だろ」
鈴「漢字で書ける?」
木「知らん!!」
勇「…で、それと何か関係があるんですか?」
鈴「僕たちは、それぞれのなかのひとつの大罪を司る悪魔なんだよ」
勇「え…?」
木「おい、わかってねぇぞ」
鈴「あ〜…だから要するに…僕はルシファー。傲慢を司る悪魔なのさ」
山「私はレヴィアタン…嫉妬の悪魔」
木「サタン。憤怒の悪魔だ!」
中「…あぁ〜…うっさいな、ホント…」

ダルそうに起き上がる中村

鈴「おっ、いいところで起きたね、中村!ほら、彼に自己紹介して」
中「(寝ぼけて)うえ?ん〜…ベルフェゴールっす…長いんでベルフェでいいよ…」
勇「ベ…ベルフェ?」
木「こいつ、完全に偽名使うの忘れてやがるな」
山「寝起き直後は頭働いてませんからね、彼は…」
中「…?え、ちょ、誰こいつ?」
鈴「この部屋の主であらせられる浅野勇気君だよ。ちなみに人間」
中「なるほど。よろしく……って、え?人間?」
鈴「うん」
勇「よ、よろしくお願いします…」
中「(気が付き)ちょっ!やべっ、間違った!!いや、俺、中村です。よろしく」
木「馬鹿だ、こいつ…」
鈴「いいよ、中村。彼にはもう正体を隠す必要はない」
中「え、そうなの?」
勇「まぁ、はい…かくかくしかじかで、もう皆さんの正体は知ってますから…」
中「なぁんだ、ビビった〜。んじゃ、寝ていい?」
勇「なぜ!?」
鈴「えっと、彼はベルフェゴール。怠惰の悪魔なんだ」

そそくさと寝始める中村

勇「怠惰…道理でこんな…」
木「ったく、こいつは1日の8割は寝てやがるからな」
勇「あの、起こさなくていいんですか?」
鈴「起してみる?命の保証はないよ」
勇「やめときます」
中「イチゴ大福ッ!!」

一同、驚き

勇「ななな、何ですか、今の!?」
鈴「寝言だろうね、多分…。あぁ、びっくりした」
木「ほ、ほっとけ!!いつものことだ!」
勇「心臓に悪い寝言ですね…」
鈴「まぁ、とにかく…他に質問はあるかい?」
勇「えっと…残りの3人は今どこに?」
鈴「ああ…田中と石川は晩御飯の調達に…っていうか遅!!いつまで買い出しに行ってん
  の、彼らは!?」
木「だから俺はあの二人に行かせんのやめろって言ったんだ!」
鈴「いや〜、田中が『都会のことなら俺に任せろ!』って自信満々だったから、
  つい…」
木「どこからくるんだ、その自信は!人間界初めてだろ、あいつ!!」
山「もうかれこれ5時間以上は経ちますね…」
勇「あの、道に迷ってるんじゃ…?」
鈴「うーむ、あり得る。田中は暇さえあれば寄り道するし、石川は食べ物のことしか
  考えてないし」
勇「絶対人選ミスでしょ!?」
鈴「仕方ない、ちょっと迎えに行ってこよう。木下、腹減ったからって
  暴れたりするなよ?」
木「しねぇよ!!」
鈴「じゃ、ちょっと行ってきます!」

鈴木、ハケ

勇「あ、あの!…あ〜…」

気不味い空気が流れる

勇「…お、お茶でも飲みます?」
木「いらん」
勇「そうですか…。あ、うち何もないんだった…」
木「…俺は」
勇「?」
木「認めねぇからな」
勇「あの…何を、ですか?」
木「人間ごときが、俺達よりも優れてるなんて、俺は認めねぇ」
勇「え…」
木「繁栄を担ってきた?より便利な文化を築いた?
  その為に犠牲になったもののことを考えたことがあるのか?」
勇「そ、それは…」
木「フン、話にならねぇ」
山「…木下、その辺にしておきましょう」
木「何だよ山田、かばうのか?」
山「いいえ、そのつもりは毛頭ありませんよ。…ただ、あまり余計なことは喋らない方が
  良いと思いましてね」
木「余計だと?俺は…」
山「任務の妨げになります。これ以上は。必要以上に人間の事情には
  干渉しないようにというのが魔王様のお達しです。お忘れですか?」
木「…ちっ」
山「人間の生活や娯楽に自然に触れるのは結構ですが、そういった類の問題に私たちが
  首を突っ込む必要はありません。私たちはありのままを知ればいいのですから…」
勇「…?」

そっぽを向いてふれくされる木下

山「すみませんね、浅野君。気になさらないでください」
勇「は、はい…」
山「人間が個性溢れるように、悪魔にも色々あるのです」
勇「え、どういうことですか?」
山「…人間はいいですね。好きに生きることができる。
  羨ましいです。そして、少し妬ましい。」
勇「…山田さんも、人間に生まれたかったんですか?」
山「さぁ、どうでしょうね。確かに話を聞く限りでは人間の生き方も悪くありません。
  ですが、私にとっては…光が強すぎる分、影も限りなく大きいといった印象です」
勇「す、すみません…よく意味が…」
山「何でもありません。忘れてください」

しばらくの沈黙
その後、田中と石川が勢いよく登場

田中「たっっっだいまーーー!!!待たせたな、野郎ども!!」
勇「!?」
田「ん?誰だ、お前は!?何者だ!?であえであえ!曲者じゃあッ!!」
勇「さ、先に何者かを問われた…。まぁ、もう今更だけど…」
田「な・に・も・の・だッ!?」
山「彼はこの部屋の主ですよ。人間の浅野勇気君」
田「人間んん!?おい、いいのかよ、ここに置いといて!」
山「そう言われましても…ここは彼の部屋ですし、良いのでは?」
田「ほう、なるほど。俺は、えーと、田中だ。よろしくな!」
勇「はあ…よろしくお願いします…(諦めたように)」
石川「どうでもいいけど、早く飯にしようよ。早急に餓死しそう」
田「お前、それもはや決め台詞みたいになってるよな。いつも言ってるし。
  常に生命の危機か!」
石「そう言っても過言ではないかも」
勇「……あの」
田「こいつさぁ、ずっと腹減ったから早く帰ろうって言ってやがんの。せっかくの機会
  なんだから、もっと遊…色々と人間社会を見て回らないと!そうだろ?」
山「それは良い心がけですね。…下心丸見えですが」
勇「えーと……あのー…」
田「あれ、そういえば鈴木はいないのか?」
木「あの野郎ならてめぇらが遅いんで探しに行ったんだよ!」
田「おっかしいなぁ、会わなかったぞ?なぁ、石川」
石「早くご飯食べようよぉ」
田「かぁぁ!さすが暴食!頭の中は食うことオンリーか!!
  まぁ、いいか。飯買ってきたから皆で食おうぜ!」
石「ウオオオオオ!!!」
木「うるせぇな!何だよ、その無駄な雄たけびは!?」
中「(起き上がり)おぉ、飯だー。いただきまぁす」
田「ちょ、フライングすんなよ、中村!」
石「(中村の手をはたき)エイシャオラ!!」
中「痛い!?え、何で叩かれたの、俺?」
石「(ドスの利いた声で)それは私のだ……」
中「怖ぇ!!」

一同、ガヤガヤ
その中棒立ちの勇気

勇「……あのーーーー!!」

静かになり、勇気へ視線が集中する

勇(たじろぎ)…ゴホン。とりあえず、皆さん。ここ、一応集合住宅なんで…
 (大きく息を吸い込み)…静かにしてくださーーーい!!!」
田・石・中「いただきまぁす!!」

暗転

(4)

明転
勇気が寝ている
しばらくして、眠そうな様子で起き上がる

勇「ふああ…。あれ、いつ寝たんだっけ…
  (考え込み)…何か重大なことを忘れてるような気がするぞ…。
  待て待て、順に思い出してみよう…。
  確か、昨日…このマンションに引っ越してきたんだよな」

部屋の中を歩き回る

勇「それから、部屋に案内してもらって…寝たのか?
  いや、肝心なところが抜けてるような…う〜ん…。お、思い出せない…」

ドアのノックされる音

勇「あ、はーい」

円満が登場

勇「円満さん、おはようございます」
円「おいおい、もうお昼だよ。寝過ぎは体に良くないぞ」
勇「え、昼…?そんなに寝てたんだ、僕…」
円「ま、それはそうと…。今日は君に注意したいことがあって来た」
勇「え?な、何でしょうか?」
円「君なぁ、ちょっと騒ぎ過ぎだよ。昨晩、苦情が来たんだ」
勇「苦情…?」
円「そう。上の階がすごいうるさくて敵わないって。調べてみたら、
  君の部屋じゃないか。
  何、入居早々パーティでもやってたのか?
  まぁ、それは構わないんだけど、節度ってもんをわきまえてだな…」
勇「ほ、本当ですか、それ…?おかしいな…昨日の記憶がはっきりしない…」
円「やれやれ、飲み過ぎじゃないか?若いってのはいいねぇ(苦笑して)」
勇「違いますよ!僕はまだ未成年です!」
円「とにかくだ。ここは集合住宅なんだから、他人様に迷惑をかけるのは関心しないな」
勇「(納得いかない様子で)はぁ…すみませんでした」
円「うん、気をつけてくれよ。それにしても、下の人、『まるで悪魔の叫び声みたいだ  った』
  とか何とか言ってたけど、この調子じゃ余程エキサイトしてたみたいだな」
勇「あく…ま…?」
円「どうかしたのか?」
勇「…あああ!!」
円「?」
勇「お…思い出した!全部!!」

勇気、円満の肩をガッと掴み

勇「悪魔ですよ、悪魔!!円満さん、この部屋、悪魔がいるんです!!」
円「……はあ?」
勇「昨日…あの後、大変だったんです!僕の部屋に変な人達がやって来て…。
  とにかく大変だったんです!!」
円「落ち着け。何だ、悪魔って…。お隣さんが挨拶に来たんじゃないのか?」
勇「僕も最初はそう思いました…。でも、明らかにおかしいんです、言動が…。
  お、おかしな魔法も使われました!こう、口が塞がって、喋れなくなって…!
  絶対に普通じゃなかったですよ!
  それで、その人達言ってました!自分たちは魔界からやって来た悪魔だって!!」
円「ううむ…勇気君、本当に飲み過ぎだぞ。ウコンの力買ってこようか?」
勇「本当なんです!お酒なんて一杯も飲んでません!ってか、今更ウコン飲んでも
  遅いでしょ!?」
円「適切なツッコみだな。頭は働いてるらしい」
勇「ば、馬鹿にしてるんですか…(落胆)」
円「いや、してないよ。あまりにも突拍子のない話だったからな。君の頭がおかしく
  なったんじゃないかと心配したんだ」
勇「ひ、酷い物言いですね…」
円「で、何だったかな。悪魔…だっけ?」
勇「…いえ、もういいです。信じてもらえそうもないですし…」
円「昨日も言ったが」
勇「?」
円「このマンションは何かと不思議なことが起きる。
  悪魔がいようが魔王様がいようが、おかしくはないさ。
勇「そんな無茶苦茶な…」
円「もっと柔軟でタフな精神を持つことだ。…でないと、飲まれてしまうぞ?」
勇「え…?」
円「話がかなり脱線してしまったが…今後は夜中に騒音厳禁だからな。
  君の友達にもそう言っておいてくれ」
勇「…はい」
円「(勇気の顔色をうかがい)…ま、若気の至りってのも悪くない、けどな」
勇「…」
微笑した後、円満がハケる

勇「駄目だ…。あの調子じゃ、全然信じてくれてないぞ…。まぁ、当たり前か…。
  (考え込み)とにかく、ここは冷静になって…。っていうか、全部夢だったってこ  とにするのも悪くないかな、ははは…」

再び部屋に戻る勇気
そこには鈴木の姿がある

勇「(がっくりしながら)夢じゃなかったぁーーー……」
鈴「やぁ、おはよう!よく眠れた?」
勇「ええ、おかげさまで…。でも、いつ寝たのか全く覚えてないんですよ」
鈴「ふっふっふ…よく効いてたみたいだねぇ」
勇「?」
鈴「いや…ちょちょいと、デビルパワーをね」
勇「道理で…」
鈴「悪かったね。僕が帰って来た頃にはぐっすり眠ってたから…。
  誰がかけたんだろうなぁ。バレちゃ不味いって言ってるのに(楽しそうに)」
勇「全然、不安に思ってませんよね」
鈴「あはは、わかる?」
勇「楽天的ですねぇ、鈴木さんは(苦笑しながら座り)」
鈴「そう?これが僕のスタンスだからね。…にしても、随分と慣れたもんだね?」
勇「何がですか?」
鈴「いや、今日はやけにリラックスしてるな、と思って」
勇「そうですかね…。多分、色々なことが起き過ぎて、
  頭がついていってないんですよ」
鈴「なるほど」
勇「それに…」
鈴「ん?」
勇「鈴木さんは…何て言うか、妙に人間っぽい感じがして。何となくですけど」
鈴「…ふぅん。まぁ、よく馴染めてるみたいで結構かな」
勇「他の皆さんはどうしたんですか?」
鈴「ああ、皆でかけてるよ。一応、任務はこなしてるんだ」
勇「任務って言うと…具体的に何をしてるんですか?」
鈴「え?う〜ん、そうだな…。一定の人間をひたすら観察したり、人間の文化に触れて
  みたり…あぁ、吉本なんか、自分から働いてるよ。唯一の稼ぎ口だ」
勇「悪魔が普通に働く時代か…。すごいですね、その吉本さんって人は」
鈴「うん、彼女は色々とすごいよ」
勇「女性の方ですか」
鈴「そうだよ。色欲の悪魔アスモデウス。夜のお店で働いてるんだって」
勇「よ、夜のお店っていうと…」
鈴「イザカヤっていうんだっけ?」
勇「………」
鈴「どうかした?」
勇「い、いえ、別に…」

扉が開き、田中が中村と石川を引きずって登場

田「だぁーーーーーーーっ!!」
鈴「お、田中か。お早いお帰りじゃないか」
田「鈴木!こいつらあり得ねぇよ!!」
鈴「え?」
田「徒歩10分でイン・ザ・ドリーム!石川は空腹で生命の危機!!
  私は自宅へ帰ることを余儀なくされました!」
鈴「それは大変だったねぇ」
田「うわぁ〜他人事。世知辛いねぇ、世の中!ってか、何で俺がこいつらと組まなきゃ
  いけないの!?」
鈴「仕方ないだろ。その子達のお守はローテーションって決まりなんだから」
田「でも、ダブルって酷いと思わない?」
鈴「思わないね」
田「うわぁ〜他人事。血も涙もない悪魔のような悪魔だな!!」
石「(ドスの利いた声で)腹が減った」
田「黙ってろ!(石川の頭をどつく)
石「死ぬ」
田「死ね!!」
中「………雪見大福ッ!!(寝言)」
田「うわっ!うるさいな、こいつ!?寝言!?」
勇「え〜っと…こ、こんにちは」
田「お!?誰だ、お前は!」
勇「え、昨日お会いしてますよね?」
鈴「浅野勇気君だよ、人間の」
田「ゆうき…?ああ、思い出した!何か居たな、うん」
鈴「彼は田中。強欲の悪魔アモンだ。で、そこで放心状態なのが石川。暴食の悪魔
  ベルゼブブ」
勇「はぁ…」
田「そういうことだ、よろしくな!」
勇「よ、よろしくお願いします」
田「まぁ、強欲なんて言われてるけどな、俺は別にそこまで欲ボケしてないぜ?
  (中村と石川を指さし)こいつらみたいに見たまんまじゃん!って思われるのは
  心外だからな」
鈴「変なプライド持ってるよね、田中は」
田「ふん!そういうお前だって、普段から内の傲慢さを隠してるんじゃねーの?」
鈴「いやいや、僕はありのままだよ。隠してなんかいないさ」
田「ふ〜ん…。(勇気の荷物を見て)お、これお前の?」
勇「はい、そうですけど…」
田「持ち物チェーック!!」
勇「あああ!ちょっと!!」
田「こ…これはッ!」

鞄の中からPSPが出てくる

田「ピ…PSPだぁぁぁぁっ!!」
勇「そうですけど…どうかしたんですか?」
田「くれ!!!」
勇「だ、駄目ですよ!高かったんですから!」
田「そこを何とか!これ超欲しかったの!店で見かけてから!!」
勇「嫌です!返してください!(取り返そうとして)」
田「むうっ!かくなる上はデビルパワーで…!」
鈴「こら(田中をどつき)」
田「痛い!何すんだよ、鈴木!」
鈴「こんなことで魔力を使おうとするんじゃないの。っていうか、君も限りなく
  見たまんまの悪魔じゃないか…」
田「はっ!!(PSPを離し)…こ、これはあれだ。条件反射なんだ。
  抗えない宿命なんだ」
鈴「随分と安い宿命だね」
田「うるさいっ!」
勇「あ〜〜…びっくりした…(PSPを鞄にしまい)…あ…」
 
一枚の写真を取り出す勇気

勇「はは…いつ入れたんだろ、これ…」
田「ん〜…?何だそりゃ?」
勇「えっ!?あ、いや!な、何でもないです!!(慌てて写真を隠す)」
田「今、何か隠したよな?あからさまに」
勇「ほ、本当に何でもないですから…(後ずさり)」
田「おりゃぁぁぁぁ!!」
勇「あっ!!」

田中、隙を見て勇気から写真を奪い取る

勇「か、返してくださいよ!」
田「いいじゃねぇか、減るもんじゃないし…どれどれ?(写真を覗きこみ)」
勇「ああ〜〜〜……(恥ずかしそうにうずくまり)」
田「おほっ!これは…ふ〜ん…なるほど…おい、鈴木!見てみろよ」
鈴「どうしたの?」
田「見ろよ、この写真!すげぇ美人と…この一緒に写ってるのって…」
鈴「ん〜…勇気君…だよね?これは」
勇「わあああ!!もういいでしょう!!(写真を取り返し)」

田中と鈴木、ニヤニヤしながら勇気を見る

勇「…今日はいい天気だなぁ…」
鈴「隅に置けないねぇ、勇気君も」
田「で、このお嬢さんとはどういう関係なんだ?ん?」
勇「もおおお!!忘れてくださいいい!!」
鈴「デビルパワーで彼の記憶を探ってみようか?」
田「おっ、いいなそれ!」
勇「ちょ、ちょっと!?軽々しく使っちゃいけないんでしょ、それ!?」
鈴「あはは、冗談だよ。本当に君はからかい甲斐があるな」
田「で?で?誰なんだよ、この人は?お前とはどういう関係なんだってばよ!?
  あれか、イケナイ関係か!?」
鈴「えらくつっかかるねぇ」
田「こいつの弱みを握れるチャンスだろ!これでPSPは我が物に!!」
鈴「そういうことは堂々と言うなよ…」
勇「ああもう!別にこれといった関係じゃないですよ!ここに越してくる前に
  親しかった…近所のお姉さんです」
田「なるほど…そのお姉さんのことが忘れられず、
  追うようにして越してきたってワケか」
勇「な、何でそのことを!?」
田「あれ…適当に言ったら当たった…」
勇「い、いや…忘れられないといっても、別に好きだとかそういうわけじゃ…!!」
鈴「テンパってるねぇ」
田「何、テンパってる…って?」
鈴「こういう状態のことを指す言葉らしいよ。詳しくは僕も知らないけどね」
田「ふーん…」
勇「小さい頃はよくお世話になりました…。とてもしっかりした人で、僕が困ってる時
  にはいつも助けてくれて…。今考えると情けない話です。
  おまけに正義感も強くて、
  クラスではかなり人気者だったらしいです。
  高嶺の花ってやつですよ。
  僕は幸せでした…。こんなちっぽけな僕が、
  そんな素晴らしい人を知り合えたばかり
  か、近所に…あんな近くに一緒にいることができたなんて…」
田「あれ…話が進んでる…」
勇「ずっとこの日常が続けばいいって思ってました!でも、現実は甘くない…。
  高校を卒業した後、先輩は県外の有名大学へ…離れ離れです。
  家を越す前に、一緒に記念写真を撮ろうって。…それがこの写真です。
  それから数年…僕は先輩を忘れることができませんでした。
  そして…死ぬ気で勉強して…先輩を追うように同じ大学に…。
  この気持ちは何なんでしょうか…。自分でもよくわからないんです」
田「…なぁ、こいつって…天然?」
鈴「純情…くらい言っとこうよ、そこは」
勇「はあ…先輩…」
鈴「でも…これが愛ってやつかな?興味深いな…」
田「そうかぁ?すげぇどうでもいいんだけど」
鈴「僕たち、悪魔には無縁の感情だよ。人間を知る上では重要なことじゃない?」
田「無縁ねぇ…。でも、吉本あたりは詳しそうじゃねぇか?その辺は」
鈴「彼女は…歪んだ知識だからねぇ」
田「まぁ、あいつに聞く気も起きないけどな!」

隙を見て、うちひしがれている勇気の様子をうかがいつつPSPを奪おうとする田中
その時に、吉本が登場

吉本「ただいま、愚民ども!」
田「げぇっ、吉本!?うわさをすればってやつか…」
鈴「やぁ、お帰り。今日は早いんだね」
吉「ええ、早番だったからね。…あら、その子は?」
鈴「ああ、彼はこの部屋の主だよ。ちなみに人間ね」
吉「ここって私たちの貸し切りじゃなかったのね。いいの?人間なんか入れちゃって」
鈴「かくかくしかじかで…彼はもう、僕たちの正体を知ってるんだ。
  だから隠す必要もないし、別にいいかなって」
吉「ふーん…どれどれ、いい男?いい男?」
田「おい、待て吉本!その前にお小遣いくれよ!」
吉「うるさいわねぇ、何でそんなに無駄に偉そうなのよ!?
  あんた、お小遣いねだれる立場じゃないって自覚してる!?」
田「知らん!PSP欲しい!」
吉「ここまでくると清々しいわね…。わかったわよ。ほら、手出しな!」
田「うっす!(嬉しそうに手を差し出し)」
吉「ほら!(千円札を渡し)」
田「…駄目だぁぁ!!これっぽっちじゃ買えねぇよ!!」

嘆く田中を無視し、勇気の近くまで移動する吉本

吉「はぁい、どうしたの、うずくまっちゃって」
勇「うぅ…先輩…。…え、どちらさまですか…?」
吉「あら、ちょっとカワイイじゃない!?あたしは吉本、よろしくね、坊や」
勇「吉本さん…っていうと…?(鈴木の方を見ながら)」
鈴「うん、さっき話した例の稼ぎ口だよ」
吉「そうそう、要するにだらしないこいつらを養ってやってるわけ」
勇「初めまして…。浅野勇気です。よろしく…」
吉「勇ちゃんね!困ったことがあったら、何でもお姉さんに相談しなさい!」
勇「じゃあ、さっそくですけどいいですか…」
吉「早いわね!まぁ、見たところ落ち込んでるみたいだし、何かあった?」
勇「僕…小さい頃から忘れられない女性がいて…。でも、自分がどうしたいのか、
  どうしたらいいのか、よくわからないんです…。
  この気持ちは一体何なんでしょうか?」
吉「なるほど…いわゆる、青春ってやつね」
田「何だよ、セーシュンって?」
吉「お子様は黙ってなさい!」
勇「あ…すみません。初対面の人にいきなりこんなこと…。僕、今ちょっと
  情緒不安定みたいで…」
吉「気にしないで。お姉さんに任せなさい!いい、坊や?それはね…恋よ!」
勇「ここ、恋!?」
吉「ええ、間違いないわ。私はね、ここに来てから人間の様々な感情を見てきたわ。
  人間の感情って、豊かで複雑で…見てて飽きないのよね。
  その中で、あたしが一番惹かれた感情…それが恋よ!」
鈴「愛に恋…か。うん、それで?」
吉「とても興味深い感情よ。愛する力は鉄より硬い…。何人たりとも止めることの
  敵わない、不屈の想い!あなた、輝いてるわよ!」
勇「はぁ…どうも。そ、そんな大層なものなんですかね?」
吉「当たり前じゃない!お姉さんの言うことに間違いはないわ!」
鈴「やけに詳しいね。どこで習ったんだい、そんなこと」
吉「あんた達と違って、あたしはちゃんと人間のことを学習してんのよ」
田「遊んでるわけじゃないんだなー。さすが吉本、すげー(棒読み)」
勇「愛…。やっぱり、僕は先輩のことを…?」
吉「ああ、素敵ね。人間同士の恋!成熟しないものと知りながらも
  恋い焦がれるその姿!
  その儚さにこそ、真の人間の本領が発揮されるってものよ!」
勇「…え?」
田「な、何つったよ、今?」
吉「決して叶わないと知った時のあの表情と心情!考えただけでゾクゾクするわぁ…」
田「あ、悪魔だ、この女…!」
鈴「君も悪魔だからね、一応」
勇「あの…僕は応援されてるんですか?楽しまれてるだけですか?」
鈴「おそらく後者だ。今更だけど気をつけて。彼女、ちょっとサディストの
  気があるから」
田「いやぁ、その、何だ。頑張れ?(勇気の肩を叩き)」
勇「何をどう頑張ればいいんですか…?」
吉「で、勇ちゃん。その子にいつ告白するわけ?」
勇「うえ!?こここ、告白なんて…む、無理ですよ!!
  大体、あれからまだ先輩と話してないし、ちゃんと段階を踏んで、
  完璧に作戦を立ててから…!
  ってオイ!告白するのかよ!僕!(自分にツッコミを入れながら)」
鈴「動揺してるねぇ」
吉「あーもう、回りくどいわね。好きなんでしょ!?だったら素直にその想いをぶつけて
  きなさいよ!そして思いっきり砕けてきなさい!」
田「最後の一言いらねぇよなぁ…」
吉「それとも何!?あなたアレ!?今流行りの草食系男子ってやつ!?
  あーヤダヤダ、積極性のない男ってモテないわよぉ!断言してあげる!」
田「おい、鈴木…。今時の人間の野郎共は草食って生きてんのか?」
鈴「ちょっと黙ってようか」
勇「ち、違います!僕は計算タイプなだけで…積極性がないわけではありません!」
吉「要するに勇気が足りないんでしょ。名前負けしてるわね」
勇「ぐっ…」
吉「はぁ…仕方ない。お姉さんが一肌脱いであげる」
勇「え?」
吉「あなたの告白の練習をしてあげるって言ってんのよ!私をその憧れの子と思って
  告白してみなさい!」
勇「そ、そんな無茶な!?」
吉「いいから、ほら!いつでもかかってらっしゃい!」
鈴「あ〜…完全にスイッチ入っちゃってるな。勇気君、従っておいた方がいいよ。
  後が怖いから」

田中、無言で頷きまくる

勇「ほぼ強制的じゃないですか…」
吉「ほらぁ!早くしないと憧れの先輩が帰っちゃうわよ!
  女の子ってきまぐれなんだから!」
田「女の子って歳かよ…(ぼそりと)」
吉「あぁ!?」
田「!!(全力で視線を逸らし)」
勇「くそっ、もうヤケだ!行きますよ!…(大きく深呼吸)
  …お久しぶりです、先輩」
吉「(乙女っぽい口調と仕草で)あら…あなたは…もしかして…?」
勇「はい…浅野です。浅野勇気です!やっと会えた…」
吉「勇ちゃん…。あなた、どうしてここに?」
勇「せ、先輩のことがどうしても忘れられなくて…ここまで来ました。
  先輩、伝えたいことがあるんです」
吉「…何?」
勇「僕は…先輩のことが…す…す…す…」
吉「………」
勇「す…素敵な人だと思っています!!」
吉「ふざけんなぁぁぁぁぁ!!!(勇気を殴り)」
勇「あいたぁぁ!!」
吉「あり得ないでしょ!?この流れで何でその台詞!?
  あんたの思考回路はどうなっとんじゃああ!!」
勇「だ、だって…いきなり好きっていうのは…。いや、この後もちゃんと続きが
  あるんですよ」
吉「知らんわ!っていうか、持っていきかたもテンプレ通りで非常に気に入らないわ!
  何かムズムズするし!!20点ってところね!」
勇「どうしろっていうんですか…」
吉「あんた男でしょ!男だったら一言でズバッと好きだって言いなさいよ!」
勇「む、無理です!恥ずかしいですよ!!」
吉「てめえええ!!純情気取ってんじゃねぇぞおおお!!!」

勇気に掴みかかり、チョークスリーパーをかける吉本

勇「ぐえええ!?ちょ、苦しいですってば!!」
鈴「あー、いや、仲良くなれたみたいで何よりだよ」
勇「の、のんきなこと言ってないで助けて!?」
田「ふっ…暴走モードの吉本に逆らうなんて、爪楊枝で像を倒そうとするような
  もんだぜ…」
勇「カッコつけることろじゃないですよね、そこ!?」
吉「…はぁ、まったく情けないわね」

吉本から解放される勇気

勇「がはあ!!」
鈴「大丈夫?」
吉「ふん、そんなヘタレの心配なんかすることないわよ!普通に悪魔と話せてるから
  ちょっとは骨がある奴かと思ったけど…拍子抜けだわ!あー、ヤダヤダ!」
勇「…………」

出て行こうとする吉本

鈴「どこへ行くんだい?」
吉「散歩!いい男でも探してくるわ」

吉本、ハケる

田「ったく、おっかねぇなぁ、あいつ!」
鈴「まぁ、あんまり気にするなよ、勇気君。言葉はキツいけど、彼女なりの優しさ
  なんだよ…多分」
勇「…いえ、吉本さんの言うとおりです」
鈴「え?」
勇「作戦だの、計画だの言うだけで…結局動こうとしない。
  失敗した時のことばかり考えて、逃げてばかりだ…」
鈴「………」
勇「臆病者だな…。臆病で、卑怯だ…はは」

少しの沈黙。どこか気まずそうな田中

鈴「…でも」
勇「…?」
鈴「でも立ちあがるんだろう?君たち人間はさ」
勇「え…?」
鈴「諦めが悪いんだろ?特に若い奴は」
田「おい、何の話だよ、鈴木?」
鈴「いや、ただの独り言だよ。聞き流してくれてもいい。
  …ただ、このまま終わっちゃうのは、少し面白くないって思ってね」

顔を上げ、怪訝な様子で鈴木を見る勇気

鈴「もっと足掻いてみなよ?力がないなら、せめて抗ってみな。
  何もしてないのに諦めて這いつくばるなんて、惨めだ」
勇「…」
鈴「絶望の中でも諦めない…。おかしいなぁ。
  僕の知ってる人間は、そんな感じなんだけど」
勇「………くっ!」

しばらくして立ちあがり、勇気が走ってハケる

田「…けなしてんのか、応援してんのかどっちだよ?」
鈴「はは、もちろん応援してるよ」
田「ふーん…。それにしても、随分とあいつに入れ込んでるじゃねぇか」
鈴「そう?見てて飽きないからね、彼は。それに…」
田「あ?」
鈴「興味があるのさ。抗うことさえ敵わない、本当の絶望を知ったとき、
  彼は一体どうするのか」
田「…まったく、お前もとことんおっかねぇよな」
鈴「諦めなくても…気持ちだけじゃどうにもならないこともあるのさ。
  想う力だけは一人前だよ、人間は。ま、どうでもいいけど…」
田「さっすが、傲慢のルシファー様!やっと本性見せたな!」
鈴「くだらないこと言ってる場合じゃないよ。
  皆が戻ったら、今後のことについて話しておきたいことがある」

暗転

(5)

明転。
マンションの廊下を走る勇気。
途中で向かいから歩いてきた円満とぶつかる

勇「うわっ!!」
円「痛っ!…ったく、どこを見て走って…ってあれ、勇気君じゃないか」
勇「す、すみません、円満さん!大丈夫ですか!?」
円「ああ、別に心配ない。で、どうしたんだ、そんなに急いで?」
勇「あ、その…」
円「まぁ、言いたくないのなら無理には聞かないよ。あと、廊下は走るなよ?
  今みたいにぶつかると危ないからな」
勇「………」
円「おい、どうした?そんなに黙りこくって。具合でも悪いのか?」
勇「…もう、逃げるのはやめようかと…思って」
円「逃げる?何の話だ?」
勇「さっき、お隣さんに教えられたんです。
  何もしないで這いつくばっているだけなんて惨めだって。
  諦めずに抗ってみろって」
円「お隣さんがそんなことを?」
勇「はい。本当にワケわかんなくって自分勝手な人達ですけど…
  言ってることは正しいです!確かに、僕は逃げてばかりでした。
  だけど、もう逃げません!自分の気持ちに素直になって…ぶつかってきます!」
円「へぇ…あいつらがねぇ…。くく…(嬉しそうに)」
勇「円満さん?」
円「ああ、悪い。いや、話が全然見えないが、頑張ってこい!
  とてもいい目だ。一皮むけたな、勇気君」
勇「はい!」
円「ふふ…やはりいいな…君たちは」
勇「え、何か言いましたか、円満さん?」
円「いやいや…何でもないよ」

そこへ吉本が登場

勇「あ、吉本さん」
吉「あ〜ら、ヘタレの勇ちゃん。おでかけ?」
勇「はい!ケリをつけに行ってきます!」
吉「はぁ?」
勇「吉本さん、さっきはどうもありがとう!じゃ、行ってきます!」

勇気、走ってハケる

吉「一体どうしたのよ、あいつ…?礼なんて言われる筋合いはないわよ」
円「ふふふ…何だかんだで君たちに感謝してるんだよ。
  君たちという刺激がなかったら、彼は変われなかったのかもしれないよ」
吉「感謝?意味わかんないわ…」
円「律儀なのさ、人間は。ああ、日本人は…かな」
吉「ふん。でもまぁ、ああいう吹っ切れた感じは嫌いじゃないけどね」

吉本、ハケる

円「さ〜て、どうなるものかね。楽しみだ」

暗転

(6)

明転。
勇気の部屋。中には鈴木・山田・木下・中村・田中・石川・吉本がいる。
何やら神妙な雰囲気

木「…おい、中村。起きろ!」

中村を叩き起こす木下

中「んあ…朝か?」
木「違う」
中「何だよ…。だったらもうちょっと…」
木「いいから起きろ!大事な話だ」
中「え〜…。何だってんだよ…」

渋々と起き上がる中村。全員の視線が鈴木へ集中する

鈴「さて、僕たちが人間界に来てもう随分経つね」
山「…そろそろ頃合いということですか」
鈴「その通り。任務は終了だ。皆、御苦労さま」
田「もうそんなに経ったっけ?何か物足りなかったな」
吉「そりゃあんたはずっと遊んでたもんねぇ」
田「なっ!これも調査の一環だっつうの!」
鈴「色んな娯楽があるからね、ここは」
木「ふん、まったく能天気な奴らだ」
石「…飯も美味いぞ」
田「てめぇは食い過ぎだ、石川!!」
中「なぁ、もう偽名使う必要ないだろ?任務終わったんだし」
鈴「それもそうだね…」
吉「で、早いとこ本題に入りなさいよ、ルシファー」
鈴「わかった。さて、これから僕たちは魔界に帰るわけだが…。
  それに際して、決めておかないといけないことがある」
吉「何よ?」
鈴「…今後の人間の処遇について」

扉から勢いよく勇気が入ってくる

勇「うおおおおおおお!!!」

やたらテンションが高く、そこかしこと動き回る

木「…ったく、間の悪い野郎だな!」
勇「やった!やりましたよ!!夢じゃないだろうな、これ!!」
鈴「やぁ、お帰り。勇気君」
勇「鈴木さん、吉本さん、ありがとうございます!あなた達のおかげです、ありがとう!」
吉「な、何のことよ?」
勇「僕…先輩と付き合うことになりました!!
  あの後、玉砕覚悟で告白しに行ったんです。
  そしたら…そしたら……ふっ、ふふふふふ……」
鈴「へぇ…頑張ったんだね」
勇「僕、鈴木さん達の後押しがなかったら、きっと行動できてなかったと思います。
  あのまま何もせずに…諦めてたと思う。だから、感謝してるんです」
吉「べ、別にあたしは…。ただ、あんたのなよっとした性格が嫌いだっただけよ!」
勇「はい…。これからは反省して、もっと男らしく生きようと思ってます!オス!!」
吉「単純な奴ねぇ…」
鈴「さて、話が逸れちゃったね。…どこまで話したんだっけか…」
山「人間の今後の処遇について」
鈴「ああ、そうだった。そう、僕たちはただ人間界へ遊びに来たわけじゃない。
  ちゃんとした任務があってここへ来た」

1人嬉しそうに騒いでいた勇気が静かになり、鈴木の方を見る

勇「あの…もしかして大切な会議とかですか?席外しましょうか、僕…」
鈴「いや、別にいてくれて構わないよ。君は特別だ。
  ここまで僕らと関わったのだから」
勇「は、はぁ…」
木「で、何だ?俺達の任務は人間の視察だろ?魔王様から仰せつかった任務だ」
鈴「その通り。だけど…実は、もうひとつある」
田「え、まだあったのかよ?俺は聞いてねーぞ?」
鈴「これは僕にしか聞かされてないことだからね」
木「もったいぶってねぇで、さっさと教えろ!」
鈴「…人間を、生かすか殺すかの選択」

一同、驚き。特に勇気

勇「じょ…冗談でしょ!?鈴木さん…な、何言ってるんですか…」
鈴「人間がこの地上を支配するのにふさわしい存在か。それを見極め、判断するのが
  僕たちの本当の使命さ」
山「つまり、私たちの判断しだいでは、人間を根絶やしにできるということですか?」
鈴「ああ、その通りだ」
吉「ふぅん、魔王様も随分私たちの判断を信頼してるものね」
勇「ま、待ってください!殺すって…人間全てを!?
  そんなことしたら、この世はどうなるんですか!!」
鈴「代わりに僕ら悪魔が統べることになる。それだけのことだよ」
勇「そんな…嘘だろ…」

うなだれる勇気。その後、鈴木にすがりつく

勇「こ…殺したりしませんよね!?人間界って面白いでしょ!?楽しいでしょ!?
  人間が滅んだら…それこそ終わりですよ!」
鈴「ふっ……はははははは!!」
勇「鈴木…さん?」
鈴「まったく、愚かだねぇ。その言い方だと、僕たち悪魔が統べる世の中が、
  人間が統べる世の中より劣っているように聞こえる」
勇「あ…」
鈴「やめだ、やめだ!こんな芝居を続けても、何の意味はない!
  僕はね、最初から君たちを生かすつもりはなかったよ」
勇「え…!?」
鈴「だって、結論は最初から出てるだろ?力のある悪魔が支配する方が、良い世の中に
  なるに決まってる」
木「同感だな。このままこいつらを生かしておいても、どうせまた過ちを
  繰り返すだけだ」
勇「な、何の話ですか…」
木「てめぇら人間は、絶えず争い、殺し、奪い、憎み合う!
  平気で木々を倒し、海を濁らす。空は汚れて、地は嘆きの声を上げている!」
勇「…?」
木「前にも言ったろ、繁栄の影で犠牲になったもののことを考えたことがあるのか?
  ってよ」
勇「犠牲に…なったもの…」
木「ふん、話にならねぇな。所詮、人間は自分のことしか考えてないってことだ!」
勇「そ、そんなことはありません!」
鈴「じゃあ聞くけど、今の世の中、本当に平和だって言えるかい?」
勇「それは…もちろん、平和…ですよ」
鈴「嘘だね」
勇「な、何で…そんなことがわかるんですか」
鈴「まぁ、能天気な君たちから言わせれば、よっぽど平和なんだろうけどさ…。
  汚れきってるよぉ?実際さぁ」
勇「だから、何でそんなことが…!」
鈴「それは僕たちが悪魔だから」
勇「え…?」
山「私たちは、それぞれに1つずつの罪を司っています。
  罪を司るということは、罪を支配するということ…」
木「そういうことさ。つまり、俺達は人間の犯した罪がわかる。例え隠していようともな」
田「まぁ、見えてようとあんまし気にしてなかったけどなぁ」
鈴「悪魔である故の性っていうか…。だからわかるんだよ、この世界の汚れが」
勇「それで…滅ぼすって言うんですか!?人間を!」
鈴「いやぁ…僕らから言わせてみれば、人間というか…君たちは死神だよ」
勇「死神…?」
鈴「だってそうだろ?この汚れた世界を作り、平気な顔して生きていられるんだ。
  悪魔もびっくり、大鎌持ちの死神さんだ。ははははは!!」
勇「鈴木さん!!やめてください!考え直してください!!」

鈴木に掴みかかる勇気。
しかし、木下が手を勇気にかざし、勇気が床に叩きつけられる

勇「うあっ!?」
木「そうやっておとなしくしてろ。てめぇ1人が騒いだところで何も変わりゃしねぇよ」
鈴「これはもう決定事項なんだ。そうだろ、皆?」
田「俺はどっちでもいいや。この世がどうなろうが興味ねぇし」
山「私も異議はありません」
中「んー…まぁ…いいんじゃない…?」
石「(ドスの利いた声で)腹が減った」
吉「…仕方ないわね」
鈴「ほら、ね。じゃあ、そういうことで」
勇「そんな…ふ、ふざけるな!!こんな…こんな簡単に世界を…滅ぼされてたまるか!!」
鈴「やれやれ、まだ何かあるのかい?」
勇「まだ、両親にも何も恩返ししてないし…せっかく先輩と付き合うことになったのに…
  やりたいこと、まだまだ沢山あるのに…こんなのって…」
鈴「ほら、やっぱり自分のことしか考えてない。つくづく救えないな、人間は」
木「滅びて当然なんだよ。ほら、ルシファー、さっさと行くぞ」
田「おい、ベルフェゴール!立て、行くぞっ!」
中「んー…眠い…」
鈴「じゃあ、またね勇気君。短い間だったけど、楽しかったよ…。
  もっとも、もう会うこともないだろうけどね」

鈴木達がハケようとする

勇「待てよ…」
鈴「ん?」
勇「ちょっと待てよ!!」
鈴「…何かな?」
勇「いい加減にしろよ…。あんた達悪魔が、どれだけ偉いっていうんだ…!
  悪魔の定義で、勝手に人間を評価するな!!」
鈴「………」
勇「そりゃあ…人間は愚かかもしれない。弱い生き物なのかもしれない…。
  あんた達みたいに特別な力も持ってない!でも…だからこそ、必死に生きてるんだ!
  それを…そんな勝手な理由で滅ぼす権利なんてないだろ!!」
木「てめぇ、自分がどんな状況かわかってんのか!?その口、塞いでやろうか!」
勇「自分がどんな状況かくらいわかってる!でも、このまま黙って死ぬくらいなら、
  抗ってやる!!」
鈴「抗う?僕たちに?」
勇「鈴木さん、あなた言いましたよね…!力がないのなら、せめて抗ってみろって…。
  何もしてないのに、諦めて這いつくばるのは惨めだって…。
  僕はあの言葉に救われたんです。今まで、あんな風にはっきりと言われたことが
  なかったから…。だから、絶対に諦めませんよ…」
鈴「どうすると言うんだい?」
勇「止めます、あなた達を。そんな勝手な理由で終わらせませんよ!」
木「減らず口を…。その様でどうやって止めるってんだ!それとも何だ、お前から
  手始めに始末してやろうか…!」
勇「う…うおおお!!」

床に張り付けられていた勇気がゆっくりと立ち上がる

木「な…」
勇「…へへ…俺、今…ゲームの主人公みたいだな…。世界のために悪魔と戦う…。
  すごい展開だ……」
木「くそっ!!」

木下が再び手をかざすと、勇気が倒れそうになるが、踏みとどまる

勇「…俺は勇者のポジションか…?悪魔から世界を守る……なんてな…」
木「何で…俺の力が、効いてないってのか!?」

木下が勇気に近づく。勇気が木下の胸倉を掴む

木「!!」
勇「人間……なめんなあああああ!!!」

勇気が木下を殴り飛ばす。疲労が激しい勇気

木「こ…こいつ…!!」
勇「…人間の…人間の汚いところばかり見ないでください。
  そりゃ、あなた達に比べたら、人間なんて小さいものだ…。
  でも、人間が弱いからこそ、皆で助け合って生きているんです。
  一生懸命生きてるんです!それは…美しいと、思いませんか」
木「………」
勇「僕は今、幸せです。だからこの日常を守るためなら…戦いますよ」
鈴「結果として死ぬことになっても?」
勇「…!」
鈴「これは人間同士の喧嘩じゃないってことはわかってるよね」
勇「…わかってます。でも、世界を…先輩を守れるんなら死んでも…死……」
鈴「?」
勇「(苦笑い)…死にたくないなぁ…やっぱり」

少しの間、沈黙

鈴「……ぷっ」
勇「…え?」
鈴「あはははははははは!!!」
勇「…?」
鈴「面白い!やっぱり最高だな、君は!あっはっはっはっは!!」
木「おい…ルシファー?」
鈴「いやぁ、実に楽しい見世物だった。必死だったねぇ、君」
勇「は?ちょっと…どういう…?」
鈴「負けたよ。悪魔を殴り飛ばす人間なんて、前代未聞だ。
  君の善戦を称え、人間は生かしておいてあげてもいいよ」
勇「生かすって…え?」
山「…良いのですか?そんな軽薄な判断で」
鈴「いいよ、別に。滅ぼすって言っても結構面倒だし…何より」
山「何より?」
鈴「こんな面白い人間を殺すのがもったいないってね!」
山「…はぁ、そうですか」
木「待てよ、ルシファー!!人間は滅ぼすって最初から決めてたんだろ!?
  そんな簡単に…!」
吉「はーいはいはい、負け犬はお黙りっ!」
木「な、何だとぉ!?」
吉「魔力まで使っておいて一発もらってるじゃない。しかも人間に。
  十分あんたの負けよ」
木「くっ…!」
吉「勇ちゃーん。あなた中々やるじゃない!ちょっと見直したわよ!
  人間にしとくにはもったいないわぁ、もう」
勇「はぁ…あ、ありがとうございます…」
田「お?終わった?終わった?」
吉「随分と大人しかったわね、あんた」
田「だってさぁ、俺ああいう辛気臭い空気マジ苦手なんだよ。
  あー、やっと終わったか!」
中「…寝ていい?終わったんなら」
田「おお!お前にしちゃよく頑張ったな。ははは!」
石「…腹減って死ぬ」
田「お前はもうちょっと頑張ろうな〜」
鈴「はっはっは、すっかりいつもの雰囲気だな」
勇「鈴木さん…」
鈴「どうしたの?もっと嬉しそうにしなよ。君は人類を救ったんだよ?悪魔の手からね」
勇「………」
鈴「おーい?」
勇「その…ありがとうございました」
鈴「全然お礼を言われる筋合いはないと思うけど」
勇「改めて言っておこうと思って…。例えあなたが悪魔で人間を滅ぼそうとしてた
  怖い人だろうと…僕が変われたのはあなたのおかげですから」
鈴「あんまり褒められてる気がしないなぁ。まぁ、いいけど」
田「おい、任務終わったんなら帰んのか?」
鈴「ああ、そうだ。魔王様に報告しなくちゃね。かろうじて、人間は生かす価値が
  ありますって」
木「ちっ…。おい、てめぇ!命拾いしたな!!」
田「うわぁ…。荒れてる荒れてる」
吉「あら、もう帰るの?残念ね、結構楽しかったのに」
山「私は…早く帰りたいですよ」
鈴「さて、僕たちはこれで魔界に帰るわけだけど…気をつけておくことだね、勇気君」
勇「な、何をですか?」
鈴「次に僕たちが来たときに、もっとこの世が下らないことになってたら、
  もう知らないよ?その時は例え君1人が抗っても無意味だ」
勇「………」
鈴「だから、君にできることはただひとつ」
勇「何ですか?」
鈴「今から抗うことさ。君はもう今までの君じゃないんだろ?
  だったら、この世を変えるくらいの存在になってよ。じゃなきゃ、面白くないし」
勇「無茶言わないでくださいよ…」
鈴「あれあれ、いいのかな〜。人類滅ぶよ?そんな悠長なこと言ってると。
  対策が打てるだけでもラッキーと思うことだね」
勇「…あぁ、もう!望むところですよ!!」
鈴「はっはっは、まぁ、せいぜい頑張って。じゃあ、最後に…」

頭上に手をかざす鈴木

勇「何をするんですか?」
鈴「デビルパワーで、僕たちに関わった全ての人間の記憶を消す」
勇「え…えええ!?記憶を消すって…どうなるんですか!?」
鈴「いやぁ、そのまんまさ。僕らに関してだけの記憶は綺麗さっぱり消え去る。
  特に君は関わり過ぎたからねぇ。本当はもっと穏便にいきたかったんだよ」
勇「穏便ってどこが…!?じゃなくて!ちょっと待ってくださいよ!
  記憶消されちゃったら対策も何も打てないじゃないですか!!」
鈴「ん?…あ、そうか。あはは、ドンマイ!」
勇「ドンマイって…。それに…せっかく感謝してるのに…。
  この気持ちもなくなるんですか」
鈴「ま、いいじゃん。記憶がなくなったからって、昔の君に戻るわけじゃない。
  もし、次に会うことがあったとしたらまた楽しませてくれよ?」
木「次は絶対に根絶やしにしてやるからな!覚悟しとけよ!!」
山「…お邪魔しました」
中「やべー眠い……寝る」
石「(ドスの利いた声で)我に…食料を…捧げよ……」
田「(中村と石川の相手をしながら)おい!?どうでもいいけどこいつら何とかしてくれ!」
吉「またねぇ、勇ちゃん。もし次に会った時はもっといい男になってなさいよ」
勇「待って!やっぱり…そんなのって!」
鈴「じゃあ、案外楽しかったよ。またね、勇気君」
勇「す…鈴木さんっ!!」

鈴木が指を鳴らす。暗転

(7)

明転。
マンションの廊下から、円満が空を見上げている

円「今日はいい天気だな。昨日の大雨が嘘みたいだ。
  う〜ん、絶景絶景。本当、眺めの良さだけはピカイチだな、ここは…。
  さて、と…」

円満が廊下に向き直すと、どこからか勇気の声が聞こえてくる

勇「(声のみ)うおおおおおおおおおっ!!!」

走って勇気が登場。円満とぶつかりそうになる。
勇気の手には袋が

勇「あっ、円満さん!こんにちは!」
円「うむ、こんにちは。爽やかな挨拶は大いに結構だがね、以前に廊下は走るなよって
  言わなかったっけ?勇気君」
勇「すみません!ちょっと…かなり急いでたもので…」
円「ちょっとかかなりかどっちだ。相変わらず忙しないな、君は。
  で、今日はどうしたんだ?」
勇「じ、実は今日…先輩が…うちに遊びに来るんです!!」
円「先輩っていうと、この間君が告白して付き合うことになったっていう?」
勇「そうなんですよ!だから、まずは部屋のにおいをどうにかしようと思って
  リセッシュ買って来たんです!!」
円「…その袋の中身全部?」
勇「はい!」
円「どれだけにおうんだ、君の部屋は」
勇「いや、やるなら徹底的にやろうと思って…」
円「まぁ、いい。とにかく、頑張れよ。別れ話にならないようにな」
勇「な、なりませんよ!」
円「心配いらないか。しかし、君も随分変わったな。表情が明るくなったというか、
  どこかたくましくなった」
勇「そうでしょうか?悩み過ぎるのも疲れるんで、前向きに行動してみることに
  したんです。そしたら、前より気持ちが楽になったんです」
円「そうか…。いい経験をしたようだな」
勇「はい!じゃあ、僕はこれで。失礼します、円満さん!」

勇気がハケる

円「内気な少年が前向きに大変身が。まさか、あいつらが人間を助ける
  形になるとはね…。
  何があるかわからないものだな。
  …さてと、これからどうするかな…。帰ったところで天使長がうるさいし、
  面倒だ。」

考え込む円満。少しして、何かを思いつく

円「…そうだっ!ここに残るいい名目を思いついた。
  あいつらだけじゃ心もとないしな。しっかり私が監視してないとな、うんうん」

ケータイを取り出す円満

円「ああ、もしもし、ルシファーか?私だ私。ちょっと伝えたいことがあってな…」

暗転

明転。部屋中にリセッシュをかけまくる勇気。
一段落し、休憩する

勇「こんなもんでいいかな?片付けもひととおり終わったし…後は先輩が来るのを
  待つだけだな…」

床に寝ころぶ勇気。ゴロゴロしながらニヤニヤ

勇「ふふふ…。それにしても、まさか先輩がうちに遊びに来てくれるなんて夢にも
  思わなかったな…。っていうか、夢じゃないだろうな、これ!?
  夢なら今のうちに覚めてくれ!(頬をつねり)
  …よっしゃあ!痛い!夢じゃない!!」

立ち上がり、独り芝居を始める

勇「いらっしゃい、先輩…。さぁ、どうぞこちらへ…。
  ゆっくりしていってくださいね。
  今日は僕と先輩のふたりきり…。僕が、忘れられない一日にして
  さしあげますよ…。
  …うおお!!気持ち悪!!だから何キャラだよ…。もっと普通にいこう、普通に。
  あ〜駄目だ。余計なこと考えると緊張してきた!
  ひと、ひと、ひと…飲み込んで…」

扉のチャイムが鳴る

勇「おぉぉっ!?は、早い…。いや、落ち着け。普段通りに……!!
  笑顔、笑顔…。はいはい、今開けます!」

扉を開ける勇気。それと同時に勢いよく鈴木が登場

鈴「はーーい、お邪魔します!」
勇「うわああ!?ちょ、ちょっと!?」
鈴「やぁ、しばらく。と言っても、覚えてないだろうけど」
勇「いや、ちょっと!人の部屋に勝手に…」
鈴「あぁ、もう…。説明が面倒くさいなぁ。え〜っと、僕は…」
勇「人の家に上がる時は一言断ってからにしてください!…鈴木さん」
鈴「………え?」
勇「(少し嬉しそうに)何か、忘れ物ですか?」
鈴「え……あれ?何で、僕のこと?」
勇「あの時も、こんな感じで突然でしたよね、あなたは」
鈴「…ふぅ、やれやれ。君、本当に人間?」
勇「れっきとした人間です!で、どうしたんですか?」
鈴「よし、単刀直入に言おう。しばらくここに住まわせてください(土下座)」
勇「……はぁ!?」
鈴「いや、それがさぁ…。なぜか魔王様に人間界での無断魔力使用がバレてて…。
  謹慎食らっちゃったんだよねぇ」
勇「謹慎?」
鈴「人間界での不定期期限謹慎。使い魔に降格されなかっただけでも
  幸運と思わないとね」
勇「事務的なんですね…悪魔の制度って」
鈴「で、他に行くあてもないからここに来たってわけ。ねぇ、頼むよ」
勇「この間まで人類を滅ぼそうとしてた人の言動とは思えない…」
鈴「そーんな過ぎたこと気にするなよ。あはは!」
勇「はぁ…わかりましたよ。でも、大人しくしてるって誓ってくださいね。
  絶対ですよ!」
鈴「ああ、魔王様に誓うよ」
勇「僕らの神様に誓ってください!」
鈴「わかったってば。細かいこと気にするなよ、兄弟!」
勇「だから、悪魔の兄弟はいませんって…。
  って、あぁ!!今から先輩が来るんだった!
  鈴木さん、すみませんけどすぐに出てください!今からお客が……」
鈴「(勇気の話を聞かずに)おーい、皆!オッケーだってさ!」
勇「は?み…皆…?」

木下、山田、田中、中村、石川、吉本が登場

田「ひゃっほう!邪魔するぜ!」
吉「あ、勇ちゃん元気!?またよろしくねぇ」
中「疲れた…。とりあえず、朝になったら起こして…お休み」
石「(ドスの利いた声で)オオ…腹減ったァァ……!!」
山「…やはり、法律は守って然り、ですね」
木「あぁ、うぜぇ!!何でバレてんだよ、ちくしょー!!」

一同ザワザワ

勇「おぉぉい!?全員来るなんて聞いてませんよ!?」
鈴「言ってないからねぇ。まぁ、1人も7人も変わらないって」
勇「大違いですよ!いや、今はそれどころじゃ…!あぁ、早くしないと先輩が…!」

扉のチャイムが鳴る

勇「(地に伏し)来た………」
鈴「おや、お客さん?出ようか」
勇「いや、いいですから!!もう、こうなったら何とか誤魔化すしか…」
田「さぁー、飯にするか!コンビニ弁当買って来てやったぜ、この俺様が!」
吉「あら、珍しく気が利くわね。どういう風の吹きまわしよ」
田「ふん、俺だってたまにはなぁ…」
石「(田中を吹き飛ばし)飯ィィィ!!!」
田「うぶほ!?石川、てめぇぇぇ!!」
中「…お、飯だ。やったー」
山「仕方ありませんね。現実を受け止めましょう」
木「くそっ!ほら、早く食うぞコラ!!」
鈴「美味しそうだねぇ。僕、何にしようかな」

一同ガヤガヤ。その中棒立ちの勇気

勇「…あのーーーーー!!!」

静かになり、勇気へ視線が集中する

勇「…ゴホン。皆さん、よく聞いてください。今から、大事なお客さんが来ます。
  っていうか、もう来てます。とりあえず、皆さんは僕に上手く
  話を合わせてください。
  皆さんはお隣さんで、僕の部屋に遊びに来てるって設定で。
  いいですか?決して余計なことは言わないでくださいよ?それで…」
鈴・石・田・中・木・吉「いただきまぁす!!」
勇「あぁぁぁもう!!出てけぇぇぇぇ!!!!」

暗転

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