カンペキなカンペ 恋愛

40歳にして初デートに挑む甲六(こうろく)。 デートを成功させる為、デート場所にカンペで良い指示を出してくれる人を配置することに。 上手くいくかに見えたデートだったが、だんだんと壊れ始めていく・・・。
鈴木俊哉 56 0 0 04/23
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第一稿

登場人物

富山甲六(とやまこうろく)(40)・・・会社員
井上由紀(いのうえゆき)(27)・・・デート相手
   
カンペ男(36)・・・甲六にカンペを出す
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登場人物

富山甲六(とやまこうろく)(40)・・・会社員
井上由紀(いのうえゆき)(27)・・・デート相手
   
カンペ男(36)・・・甲六にカンペを出す
       
若者A(20)・・・チンピラの集まり〝QUIET RIOT〟のメンバー
若者B(24)・・・同メンバー
若者C(26)・・・同メンバー

ウェイトレス(25)・・・喫茶店のウェイトレス

○住宅街(昼)
  富山甲六(40)が家々の外壁にチラシ
  を貼り付けていく。無数に貼ったそのチ
  ラシにはこう書かれている。

〝○月×日、人生初のデートに挑む孤独
  な者です。女性との会話が苦手な自分に
  、デート中アドバイスをして下さる方を
  募集します
 
  報酬アリ
 
  詳細は以下の電話番号まで↓
  090¦××צ×××

  富山甲六
 
  追伸、イメージキャラクターの龍です〟
  
  男らしい文字で書かれた文章と荒々しい
  龍。甲六、角を曲がって他のエリアに移
  る。
  貼られたチラシをじっと見つめる影。
  ビリッとチラシを剥がし、ポケットにね
  じ込む。

○住宅街・別のエリア
  そこでもチラシ貼りを行う甲六。
  プルル、と甲六のスマホが鳴る。
  見知らぬ番号、出てみる。
甲六「もしもし・・・」
  相手は無言。
  すると電話口からキュキュキュと異音が
  し、その後パラパラッと紙をめくった様
  な音がする。              
  怪訝な顔つきの甲六。音はまだ続く。
  甲六、しばし考えた後、
甲六「なるほど・・・!そうだ!デートの日
 に会話のアドバイスをカンペでやってもら
 う!そういう事ですね?!」        
  相手、電話を切る。           
  満足げな甲六。

○ ○月×日、デート当日(早朝)
  一軒の雰囲気のある喫茶店の前。
  甲六がダンディなハットとダブルスーツ
  に身を包み、立っている。        
  腕時計を見る。時刻は朝の四時半を指し
  ている。              
甲六「デート開始まで・・・、あと七時間」
 
×   ×   ×   ×   ×
 
 二時間経過とテロップ
  喫茶店の前でまだ佇む甲六。
  甲六は被っているハットの、かっこいい
  脱ぎ方・被り方を練習している。
 
×   ×   ×   ×   × 
 
  四時間経過とテロップ
  まだ佇んでいる甲六。少し疲労が見える  。                   
  開店前だと思っていた喫茶店の扉が開き
  、男が一人出てくる。甲六と向かい合う男。          
  男、手にしたカンペノートにマジックペ
  ンで何か書いている。          
  甲六に見せる男。          
カンペ『俺が今日のアンタの恋愛アドバイザーだ。よろしく』             
  と書いてある。             
  甲六、ほっとした表情を見せる。
甲六「本日は宜しくお願い致します!」
  カンペ男、カンペノートを一枚めくる。
カンペ『大分前から待っていたな』    
甲六「そうですね・・・。デートに遅れるわ
 けにはと思い、7時間前には待機してました」                 
カンペ『俺は24時間前だ』
甲六「24時間!?すごい・・・プロだ」
  カンペ男、チラと腕時計を見る。デート
  開始時間まで、まだまだ時間がある。
  素早くノートに文字をつづり、甲六に見
  せるカンペ男。           
カンペ『報酬についてなんだが』
甲六「もちろんお支払いします!ただ・・・
 上手くいったら、というのでは・・・?」
カンペ『構わない』  
  カンペ男は喫茶店内へ。甲六、一人で待つ。                      ×      ×     ×     ×       
  照りつける太陽。            
  甲六は路上でぶっ倒れている。熱中症だろう。                 
  そんな甲六の顔を、太陽光から遮るように
  何かが隔て、影ができる。女の手だ。             
女 「甲六さん・・・何してるんですか」   
  甲六、ハッキリとしない意識の中、女を
  見る。               
甲六「あ・・・井上由紀さん・・・」   
由紀「デート前にぶっ倒れるとは中々です」  
  喋りながら持っていたハンドバッグから
  水筒を取り出し、水で自分のハンカチを
  濡らす。                
  そのハンカチで甲六の顔を拭いてやり、
由紀「デートするんですか?倒れてるんですか?」                  
  甲六、意地で起き上がり、      
甲六「デートさせて下さい・・・!何時間でも!」   
  由紀、笑いながら、甲六と一緒に立ち上がる。                 
  甲六が先を歩き、喫茶店のドアを開けてやり、由紀を通す。         

○喫茶店内(十一時頃)
  入っていく二人。
  カウンターでスマホをいじっていたウェ
  イトレスが二人を見やる。      
ウェイトレス「いらっしゃいませ~。お席、
 ご自由にどうぞ」             
  席を決めかねる甲六。          
  ふと目に入ったスイカくらいあるコーヒ
  ーカップ。その席の近くにカンペ男が身
  を潜め、『そこの席』と指示を出してい
  る。その席へと向かう甲六。カンペ男は
  残ったスイカカップコーヒーを流し込む。
  席についた二人。メニューを見る。  
由紀「何、飲みましょうか」         
  甲六、チラッとカンペ男の方を見る。
カンペ『ブラックコーヒーで』        
  それを目にした甲六、       
甲六「決めました。店員さん・・・!」
  カウンターの方から返事が聞こえ、ウェ
  イトレスがやってくる。
ウェイトレス「何にしますか?」
甲六「ブラックコーヒーで」
  メニューを見、まだ迷ってる由紀。
由紀「よしっ、決めました。キャラメルラテアートで」
ウェイトレス「はい、ご用意します~」
  甲六、カンペ持ちを見る。
カンペ『甘いの、お好きなんですか?』
甲六「あの、甘いのお好きなんですか?」
由紀「はい。・・・太っちゃうんですけどね(笑)」
  甲六、カンペをサッと見る。
カンペ『全然痩せてるじゃないですか』
甲六「ぜんぜん・・・痩せてるじゃないですか」
由紀「またまた・・・。甲六さんはガッチリしてますね」
カンペ『毎日腕立て百回してます』
甲六「ま、毎日腕立て百回してます・・・」
由紀「すごい!・・・なんでですか?」
カンペ『愛する女性を守る為です』
甲六「あの・・・愛する女性を、守ろうかなと・・・」
由紀「・・・私を守れますか?」
甲六「えっ!?」
  カンペ男はカンペを書いてる途中で、ま
  だカンペは出ない。
由紀「あそこ(指差す)、喫煙所に柄の悪い
 のが三人いますよね?」
  喫煙所には確かに柄の悪い三人の若者が
  いる。
  タバコを吸いながら、ときおり甲六たち
  の方を見、クスクス笑っている。
由紀「彼らは私たちの事、笑ってます。どう思います?」
  おどおどする甲六。やっとカンペが出た
カンペ『手を出してきたら、排除します』
  ええ~、という表情の甲六。
甲六「手を出してきたら、やります・・・」
由紀「そうですね・・・手を出してきたら・・・」
  由紀、突然喫煙所の若者たちに対して中
  指を立てる。若者たちの顔が歪む。
甲六「ちょちょ、ちょっとちょっと!」
由紀「(笑って)お手並み拝見」
  喫煙所から若者が一人だけ出てきた。
  二人の所までツカツカと歩いてくる。
若者「おい、女。俺らをQUIET RIOTだと知って中指立てたのか」
  静かに怒っている若者。
  甲六は必死にカンペ男にアイコンタクト
  を送る。
由紀「知らないけど、いくらでも立ててあげる」
  また中指を立てる由紀。
由紀「QUIETなら静かにしてろ」
甲六「ままま、待って下さい!二人とも落ち着いて!」
若者「なんだお前は。情けないクソ野郎だな」
  テーブルに置いてあるフォークを素早く
  手にし、甲六のこめかみを突く若者。
甲六「痛っ!!」
  甲六のこめかみから血が滴る。
由紀、表情を変えずに、
由紀「手、出されましたよ」
  甲六、痛みに耐えながら怯えた顔をする。
  チラとカンペ男の方を見る。
カンペ『殺れ。俺が殺る』
  自分を指差すカンペ男。
甲六「・・・ここじゃ駄目だ。喫煙所に行きましょう」
  ニヤッと笑う若者。
若者「いいぜ」
  喫煙所へと向かう二人。
  歩く二人の間にスッとカンペ男が入り、
  由紀から身を隠すように歩んでいく。

○喫煙所
  若者が戸を開け喫煙所へと入っていく。
  続いてカンペ男、甲六。
  喫煙所にはQUIET RIOTの他の
  若者が二人(以下若者B、C)。
  喫煙所内は三人が吸っていたタバコの煙
  で濛々としてる。
  ほぼ視界はゼロに近い。
  ここでようやく先の若者(以下若者A)
  がカンペ男に気づく。 
若者A「犬が付いて来てんのかと思ったよ」
若者B「何なんだ、このローレル&ハーディ は」
  甲六はデカイがカンペ男は小さい。
若者A「ケンカだ」
若者C「どっちと?」
  カンペ男が動く。サッと文字を書き、カ
  ンペを見せる。
カンペ『10秒で十分だ』
  カンペを地面に落とし、スッと構えるカンペ男。
  若者三人もいつでも動けるよう身構える。

○喫茶店内、由紀たちの席
  由紀の席から喫煙所は見える。
  煙でほぼ分らぬが、只ならぬ雰囲気にな
  った事は分かる。
  甲六がカンペ男と同じ構えをとった。

○喫煙所
  一瞬だった。
  カンペ男が素早く若者たちにパンチやキ
  ックを見舞い、三人は倒れていく。
  カンペを地面から拾い、甲六と向かい合う。
  『10秒で十分だ』のカンペを見せる。
  甲六、唖然としてたが、頷き、先に喫煙
  所から出る。

○喫茶店内  
由紀「・・・大丈夫でしたか?」
  席に着く甲六。
  カンペをチラッと見、
甲六「あのくらい、大した事ないです」
由紀「私のせいで・・・(俯くが)本当に強いんですね」
  甲六、複雑な表情。
由紀「殴ってもいいですか?」
甲六「えっ?」
由紀「そんなに体が強いなら、私が殴っても大丈夫ですよね?」
  甲六、言葉に詰まる。カンペを見る。
カンペ『殴られろ』
甲六「女性のパンチくらい・・・大丈夫です。受け止めます」
由紀「じゃあ・・・」
  由紀、少し殴りやすい体勢を取り、左手
  で甲六の胸あたりを殴る。
  バシン、という良い音が鳴り、甲六は座
  席から吹っ飛んでいく。
  床でのびている甲六。
由紀「ちょ、ちょっとちょっと!」
  ハッと我に返る甲六。
  由紀が座席から、甲六が倒れている所ま
  で見に来る。
由紀「ご、ごめんなさい!」
  屈みこんで甲六の様子を見る由紀。
  甲六がふと見ると、由紀の後ろまでカン
  ペ男が来て、カンペを出している。
カンペ『だいじょうぶだぁ』
甲六「だいじょうぶだぁ」
由紀「何でしむけん!」
  笑っている由紀。
  由紀に助け起こされるようにして立ち上
  がる甲六。
  バレないよう、離れた所からその様子を
  見ているカンペ男。由紀が甲六助け起こ
  すのに、右手を使わない事に気づいた。
  物陰へスッと戻るカンペ男。
  二人、座席に戻る。
  即座にカンペが出る。
カンペ『女が右手を使ってない。何かある』
  確かに、デートの最初から由紀は右手を
  まるで隠すかのように、テーブル上に出
  さない。
甲六「あの・・・、何か、あったんですか・・・?」
由紀「へ?何か、って、何です?」
甲六「右手、ずっとテーブルに出してないです」
  由紀、右手というワードにハッとし、甲
  六の事を真っ直ぐに見つめる。
由紀「よく気づきましたね・・・。右手は・・・その・・・」
  甲六、カンペの方を見、確認し、
甲六「僕で良ければ聞きます」
由紀「(言い辛そうに)右手、事故にあって
 麻痺してるんです。ほとんど動きません」
甲六「事故ですか・・・。大変でしたね」
由紀「今でも、これからも大変です。・・・私、
 学生の頃から画家を目指してたんです。 勿
 論右手で描いて」
  由紀、持参してたやや大きめのバッグか
  ら、左手だけで何とかノートや画用紙を
  取り出し、テーブルに広げる。
  由紀が描いたであろう、風景画、人物画
  など、甲六の素人目でも上手いと分かる。
甲六「(ノートを捲り、絵を見ながら)すご
 い・・・!上手い!」
由紀「今じゃ描けませんけど・・・。夢が断
 たれました」
  カンペが出る。
カンペ『右手、見せてくれませんか?』
甲六「右手、・・・見せてくれませんか?」
由紀「見たところで、何も起きませんよ・・・」
  由紀、恥かしそうに隠していた右手をテー
  ブル上に出す。
  右手はがっちりと握り拳を作り、小刻み
  に震えている。
甲六「ああ・・・」
  どこか絶望したような甲六の呟き。
由紀「右手がダメで、左手ばっか使ってたか
 らさっき殴ったら吹っ飛んだんですよ」
  と、明るく話す由紀。
カンペ『僕が治します』
甲六「えっ!?」
由紀「えっ!?な、何です!?」
甲六「いえっ。何というか」
  由紀がコーヒーを飲んでる隙に、カンペ
  男に向かって首を横に振る甲六。
  カンペ男は意味ありげにコクリと頷き、
カンペ『奇跡ってのは、意外と起こりうるものだ』
  甲六、腹を括り、
甲六「右手、僕が治します・・・!」
  コーヒーを飲んでた由紀、動きが止まる。
由紀「そういう冗談はあまり好きではありません」
甲六「本当です!奇跡ってのは、意外と起こりうるものだ」
  由紀、半ば投げやりに、
由紀「じゃ、どうぞ」
  由紀の右手。甲六が緊張しながら両手を
  近づける。
  そして包む。大きな甲六の両手は、小さ
  な由紀の右手を楽々と包み込む。
由紀「(頬が紅潮し)こんな・・・こんなので・・・!」
甲六「いいから・・・」
  二人は言葉を交わさず、しばらくジッと
  していた。
  甲六は何か囁いている。恐らく、治れ、
  と願っているのだろう。
  その様子をカンペ男も、神聖なものでも
  見るかのように見守っている。
  その時、
由紀「あっ・・・!!!」
甲六「あっ・・・!!!」
  お互いほぼ同時に驚きの声を漏らす。
  甲六が両手を、由紀の右手から放す。
  由紀の右手は硬直がとれ、少しずつ少し
  ずつ、開いていく。
  完全に開ききる由紀の右手。僅かながら  指が動きもする。
甲六「やった・・・!凄い!凄いですよ!」
由紀「そんな・・・医者にも見放されてたのに・・・!」
  コロン、とテーブルに何かが転がる。
  由紀の右手がずっと握っていた、小さな鉛筆だ。
甲六「これは・・・?」
  由紀、少しぎこちないながらも鉛筆を右手で持ち、
由紀「ずっとこれで絵を描いてました。いつ
 でも持ってて・・・。トラックに轢かれた
 時もです・・・」
  甲六、目頭が熱くなる。
由紀「そうだ!これで甲六さんの似顔絵を描
 かせて下さい!リハビリです(笑)」
  甲六、その言葉を噛みしめて頷く。
  ノートに絵を描きだす由紀。
  甲六、カンペ男の方を見やる。
  カンペ男、やや得意げにさっきのカンペ、
  『奇跡ってのは、意外と起こりうるもの
  だ』のページを指でトントンと叩く。
  フッと笑う甲六。
  似顔絵を描く為、そんな甲六の顔も由紀
  は見ていた。
 
  ×       ×       ×      ×

由紀「できました!」
  鉛筆を置く由紀。
甲六「見せて下さい!」
  由紀、ノートを甲六の方に向ける。
  そこには見事なタッチで甲六の似顔絵が
  描かれている。
甲六「凄い・・・!とてもお上手です!」
  しかし甲六は一つ気になる点があった。
  似顔絵の甲六の目線が、左に向いている
  のだ。
  甲六にとって左を見る、というのはカン
  ペ男の方を見てる、という事だ。
甲六「あの・・・、僕はなぜ、左を見てるんですか・・・?」
  由紀、何も言わず甲六を見つめている。
  ノートを一枚めくる。
由紀「甲六さん、この人に見覚えはありませんか?」
  めくられたノートには、上下反転したカ
  ンペ男の顔が描かれている。
  愕然とする甲六。
由紀「私がコーヒーをスプーンでかき回した
 時に、スプーンに彼が映っていました」
  由紀、スプーンを手にし、背後、カンペ
  男がいる辺りを映す。
  そこには、事に気づきサッと身を物陰に
  隠すカンペ男が、上下反転して映っている。
由紀「さっきからずっと私の後ろにいるんで
 す・・・!何が目的か分らないけど・・・、
 何か知ってます?」
甲六「ぼ、僕は何も知らない・・・。という
 かそんな人居ませんよ」
由紀「そんな!絶対にいる!」
  由紀、勢いよく立ち上がり、カンペ男の
  方へと向かう。
  カンペ男、冷静に九字護身法(臨・兵・闘
  ・者・皆・陣・烈・在・前)を声には出さず唱え、印も結ぶ。
  ピタリと壁に身を寄せたカンペ男。忍ん
  でいる。
  その前まで来た由紀。しかしカンペ男の
  姿を認識できない。
由紀「いない・・・」
  辺りを隈なく探し始める由紀。
甲六「い、居ませんよ、そんな人は!」
  腑に落ちない表情で席へと戻ろうとする
  由紀。
  その時、カンペ男が身を潜めていた物陰
  に、折り畳まれた紙が落ちてる事に気づ
  く。
  カンペ男に焦りが見える。拾い上げ、中
  を見る由紀。席へと戻る。
甲六「居ないでしょう・・・?」
由紀「居ませんでした・・・」
  カンペ男が元の物陰に戻ったのが、甲六
  には見えた。すぐカンペを出す。
カンペ『一旦、落ち着きましょう』
甲六「まあ、一旦落ち着きましょうよ」
  由紀、ノートをめくり何か書き出す。
  甲六に見せる。そこにはこう書いてある。
  【私の質問に、声を出さずに答えてください】
甲六「なぜ・・・」
  唇の前に指を持っていき、シーっとする由紀。
  また何か書き、甲六に見せる。
  【あなたは何か隠している】
  甲六、困る。カンペ男もカンペを出して
  るからだ。
カンペ『俺の事バレてないよね?』
  甲六、悩んだ末、首を横に振る。
  渋い顔をする由紀。驚いてるカンペ男。
  【今までの、私への好意は本当ですか?】
カンペ『バレてるならやばい。応援を呼ばないと』
  甲六、パニくる。額から汗が・・・。
  汗を手で拭った後、甲六は首を縦に振る。
  【じゃあ私の絵を買って下さい】
  甲六、喫茶店の紙ナプキンに文字を書く。
  〝幾らですか〟
  【百五十万です】
カンペ『応援は五人くらいでどうだ!?』
  甲六、由紀の右手を見る。この手で描い
  たのだ。
  由紀がエウリアンである事を気にもせず
  微笑み、首を縦に振る。
  由紀、ほくそ笑むがどこか後ろめたい。
  カンペ男は物陰で、スマホで電話をかけ
  ている。繋がった。カンペに文字を書き、
  パラパラめくる音を送信する。

○喫煙所
  ようやく気絶から目覚めたQUIET RIOTの面々。
  若者Aがクラクラする頭で喫茶店内を見
  ると、まだ甲六たち三人の姿が確認できる。
若者A「あいつら、許さねえ・・・」
若者B「仲間を呼ぶか?」
若者A「ああ。大量にな」
  合図を出され、若者Cがスマホで電話を
  かける。

○路上
  スマホをポケットにしまう若者。背を向
  け歩き出す。周囲には三人、同じような
  若者がいる。闊歩していく。

○喫茶店内
  由紀がノートをテーブルに置く。
由紀「もう、喋っていいです。何もかも上手くいきました」
甲六「何もかも・・・?」
由紀「絵も上手く売れました。最初からそれが目的だったんです」
甲六「じゃあ、デートは・・・」
由紀「絵を売るための口実ですよ」
  甲六、傷つく。が、
甲六「でも、障害を乗り越えて描いた絵です。
 百五十万でも安いくらいだ」
  由紀、俯き表情が確認できなくなる。
甲六「そう、でしょう・・・?」
  由紀、俯いたままクスクス笑い出す。
  顔を上げた由紀、嘲笑しながら、右手の
  指を華麗に動かし始める。
由紀「あはははは。手の障害なんてぜんっぶ
 ウソですよ!この通りいつでも動かせたんだよ!」
甲六「そんなっ!なんでそんな事を!」
由紀「絵を売るためだ!食ってくためだ!生きてくためだ!そのために・・・」
  由紀、右手で喫茶店の奥の方を指差す。
  そこにはカンペを手にした女・カンペ女
  がおり、カンペには先ほどまでの由紀へ
  のアドバイスが書かれている。
由紀「あんな人間も雇ったんだよ。アンタだってそうだろ?」
  由紀、さっきカンペ男が落とした紙を、
  バンとテーブルに叩きつける。
  その紙は、甲六がデートアドバイザーを
  募集した、冒頭で出てきた例の紙だ。
由紀「見つけられなかったけど、アンタだっ
 て同じなんだ。汚い、嘘つきの人間なんだ・・・!」
  甲六は由紀からの叱責を黙って聞いていた。
  顔を上げ由紀を見つめる甲六。由紀もそうする。
  見つめ合う二人、
甲六「あなたは、一体何なんですか?」
由紀「あなたは、一体何なんですか?」
  その時、喫茶店内に人が入ってくる。
  大勢だ。
  カンペ用と思われるスケッチブックを手
  にした、カンペ仲間が五人。性別も年齢
  も様々な五人。
  QUIET RIOTのメンバーであろう、黒ずく
  めのファッションの若者が4人。
  喫煙所から若者A、B、Cも出てきて合流
  する。
  さほど広くない喫茶店内は、一気に混沌
  とした。
由紀「な、何・・・?」
甲六「大丈夫。僕が守ります」
由紀「それもっ!嘘でしょう!?」
  カンペ仲間五人は店内の各所に散らばり、
  カンペで甲六に次々とアドバイスを出し  てくる。
  QUIET RIOTの総勢7名は、カンペ男と甲
  六の二人を威圧する。口々に罵る。
若者A「さっきはよくもやってくれたな」
若者B「ブチのめしてやる」  
  何も知らないウェイトレスがやってくる。
ウェイトレス「えぇっと・・・、コーヒーの人?」
  全員が手を上げた。去っていくウェイトレス。
カンペは次から次へと新たな指示を出してくる。
  QUIET RIOTからも罵詈雑言が止まらない。
  必死に耐える甲六。わなわなと震えだす。
  テーブルを両手で力強く叩き、甲六は立
  ち上がる。
甲六「もうっ、やめてくれ!助言なんて要ら
 ないんだ!僕が不器用だって構わない!嘘
 つきだって構わない!だから僕をちゃんと見てくれ!」
  言い放つ。ざわつく面々。
由紀「散々、互いに嘘を言って、騙しあって、
 もうちゃんと見ることなんて・・・!」
甲六「いいんだ!嘘を言った、という真実を あなたは伝えてくれた。それだけで十分だ」
  店内、静まり返る。

○外、喫茶店前(夕方)
  甲六と由紀が立っている。夕陽に照らさ
  れている。
  由紀は罪の意識からか手が震えている。
  その右手を包み込むように、甲六が手を
  握る。
由紀「今度は、ちゃんとしたデートをしましょう・・・」
甲六「はい」
  二人、喫茶店前から歩き去っていく。
  その後ろ姿を見つめるカンペ男。
  甲六が振り返らずに、しかし確かにカン
  ペ男にサムズアップした。
  フッと笑うカンペ男。その側をカンペ仲
  間たちが通り過ぎ、去っていく。
  カンペ女が隣に立った。カンペを見せる。
  『まだ終わりじゃない』
  見ると、喫茶店からQUIET RIOTの七名が姿を現す。
  若者Aがポケットからバタフライナイフ
  を取り出し、華麗なアクションで刃を開く。
  それを二人に向ける。
  カンペ男、カンペ女に手の平を上にし、出す。
  その手をパシッと握るカンペ女。
  二人、戦闘の構えを取る。
  俺たちの戦いはこれからだ。

                          終わり

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