#14 汚れた大地に接吻(くちづけ)を ミステリー

興信所に寄せられた3件の人探し依頼は、すべて同じヒモ男に関するものだった。 3人の女に愛され、忽然と姿を消したヒモ男を追うと
竹田行人 17 0 0 04/17
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第一稿

「汚れた大地に接吻(くちづけ)を」


登場人物
三島弓(27)調査員   
結城忍(23)弓の恋人
青田美紀(49)弓の上司
城崎優平(23)入院患者


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「汚れた大地に接吻(くちづけ)を」


登場人物
三島弓(27)調査員   
結城忍(23)弓の恋人
青田美紀(49)弓の上司
城崎優平(23)入院患者


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○カフェ「favorite clothes」・中
   第一の女、うつむいて座っている。
第一の女「お金はいいんです。ただ」
   第一の女、顔を上げる。
     ×  ×  ×
   第二の女、座っている。
第二の女「大丈夫なのかなって。心配で」
   第二の女、コーヒーを飲む。
     ×  ×  ×
   第三の女、座っている。
第三の女「結局。男と女なんですよね」
   第三の女、窓の外に目をやる。

○青田総合調査事務所・外観
   高架脇にある雑居ビル。
   3階の窓に「青田美紀総合調査事務所」の文字。
美紀の声「弓は? どう思うの?」
   窓の外を電車が通過する。

○同・中
   青田美紀(49)、窓際のデスクに座っている。
   三島弓(27)、青田の向かいに立ち、ボイスレコーダーを止める。
弓「まだ。なんとも」
美紀「だね。ま。依頼としては通常の人探し。1人探すだけで3人分の報酬なんだから。儲けさせてもらいましょ」
弓「所長。なかなかアクドイですね」
美紀「商売人って言ってくれる? まぁでも。個人的な興味もあるけどね。3人の女から愛されたヒモ男。城崎優平」
   弓、ボイスレコーダーを見つめる。

○ライフパーク国立・弓の部屋・中(夜)
   古―リングの8畳間。
   弓、食材の入ったエコバッグを手に入ってくる。
弓「ただいまぁ」
   結城忍(23)、部屋の奥でPCに向かっている。
   結城の右足には手術跡がある。
   PC脇に「市山リサイクル」のロゴが入った置時計。
結城「おかえり」
   弓、後ろから結城に抱きつく。
弓「どうですか結城先生。執筆の方は」
結城「まぁ。ぼちぼち?」
弓「つかれたぁ。シノブ。いやしてぇ」
   弓、結城の頬にキスをすると、結城の肩に顔を押し付ける。
結城「おつかれさま」
   結城、弓の頭を撫でる。
弓「もっと」
   結城、弓の頭を撫でる。
弓「もっと」
   結城、弓の頭を撫でる。
弓「もっと」
   結城、振り向いて弓にキスをする。
   弓、微笑む。
弓「充電完了。ごはん作るね」
結城「ありがと」
弓、結城の頬にキスをすると、エコバッグを手にキッチンへ向かう。
弓「あ。今度の仕事終わったら休み取れって言われててさ。旅行とか行かない?」
結城「旅行か。いいかも」
弓「京都とか。たしか忍の実家も京都だよね。一度ご挨拶しときたいっていうか」
   結城、手を止める。
結城「やめとこう。それは」
弓「え」
結城「家族とはいろいろあって」
弓「そ。か」
結城「ごめん」
弓「いや。いいけど」
   結城、立ち上がり、弓に歩み寄る。
結城「今日のごはんはなにかなー」
弓「ん? ボルシチ」
   弓と結城、微笑み合う。

○カフェ「favorite clothes」・中
   弓と美紀、パスタを食べている。
美紀「やっぱパスタはウニに限る」
弓「いやいや。ナポリタンでしょう」
美紀「城崎優平なんだけどさ」
弓「いきなり仕事モードですか」
美紀「写真が1枚も手に入らない」
弓「1枚も」
美紀「普通あるでしょ、付き合ってたら」
弓「確かに。まったくないって不自然ですね」
   弓、手を止める。
弓「あ。でも私も持ってないかも」
美紀「最初から消えるつもりだった」
弓「1枚もないかも」
美紀「弓」
弓「え。あ。はい。いえ」
美紀「そういや。弓んとこもヒモだよね」
弓「ヒモじゃありません。小説家です」
   弓、ナポリタンを頬張る。

○ライフパーク国立・弓の部屋・中(夜)
   結城、PCに向かっている。
   弓、結城の背中を見つめている。
   結城の右足には手術跡がある。
結城「あの。さ。見られてると書きづらいんだけど」
弓「え。あ。ごめん」
   弓、鞄から資料を取り出し、読む。
   キーボードを叩く音が響く。
   弓、結城の背中に目をやる。
   携帯電話の着信音。
弓「はい。三島です。あ。所長」
美紀の声「城崎優平。段々付き合う女の社会的地位が上がってんだよね」
弓「社会的地位」
美紀の声「そう。1人目は医療機器メーカーの営業。2人目は弁護士事務所のパラリーガル。3人目は大学教授」
弓「それはまぁ。ヒモですから」
美紀の声「地位やお金が目的だってんなら、3人ともまだ現役だよ。利用価値がある内に別れてるのはおかしいでしょ」
弓「あー。じゃあ。何か他に目的がある」
美紀の声「そう。ただのヒモじゃない。それで城崎優平が狙ってるのは、何かの情報なんじゃないかなって思って」
弓「情報。それが。彼にとっての利用価値」
美紀の声「そ。そしたら昼間の弓の話思い出してさ。弓も同じこと考えてるんじゃないかと思って。4人目の女は探偵」
   弓、結城の背中を見る。
美紀の声「弓。私、別で動くけど、彼に探り、入れられる?」
弓「あとで折り返します」
   弓、携帯電話を切る。
   キーボードを叩く音が響く。
弓「ねぇ忍。ちょっとこれ。見てみて」
   結城、振り返る。
   弓、スマートフォンで写真を撮る。
   弓と結城、目を見合わせる。
弓「忍の写真持ってないなーと思って」
   結城、弓に歩み寄ると、スマートフォンを取り上げ、操作し、弓に返す。
弓「城崎優平」
   弓と結城、目を見合わせる。
弓「城崎優平って人。忍は知ってる?」
結城「いや」
   弓と結城、目を見合わせる。
   PC脇に「市山リサイクル」のロゴが入った置時計。
   秒針の音。
   弓と結城、目を見合わせる。
弓「私。忍の欲しいものあげられるよ」
結城「ゆみ」
弓「今は持ってないかもしれないけど、頑張って手に入れる。所長も騙す。だから、何でも言って」
結城「弓。なんか勘違い」
   弓、結城に抱きつく。
弓「どこにも行かないで。お願い」
   弓、結城の背中に手を回す。
結城「オレは」
   携帯電話の着信音。

○府中総合病院・外観(夜)
   「府中総合病院」の看板。

○同・廊下(夜)
   弓と美紀、歩いている。
美紀「最初の女。医療機器メーカーの営業ってのに目付けて、出入りしてる病院当たってみたら。ビンゴ」
   美紀、一つの病室の前で立ち止まる。
   病室の名札に「城崎優平」の文字。

○同・病室・中(夜)
   城崎優平(23)、ベッドに起き上がっている。
   弓と美紀、ベッド脇に立っている。
城崎「僕はあなたたちの探している城崎優平ではありません。もう五年以上ここに入院してますから」
美紀「では。あなたの名前を騙る人物に心当たりはありませんか?」
城崎「いいえ。ああ。いや。そう言えば。一時期隣のベッドになった人に、いい名前だねって言われました」
美紀「その人の特徴は?」
城崎「特徴。ああ。靭帯の手術をしたって」
弓「じんたい。それは。右足の」
城崎「え。あー。ああ。はい。右足です」
   弓、駆け出す。

○ライフパーク国立・弓の部屋(夜)
   弓、立っている。
   誰もいない。
弓「あなたは。だれ」
   弓、その場に崩れ落ちる。

〈おわり〉

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