#10 カショウ青春白書 SF

ウト国の避暑地・カショウ。 世界を二分した戦争から十二年。敗戦したウト国は復興と成長の途上であった ウト国の王太子・サクは王代理で外遊に出るほどの精悍な青年へと成長し 勃興する諸外国を歴訪したサク王太子はかすかな焦りを胸に故郷へと戻った ウト国の繁栄をより強固にしたいという想いを持って…….
竹田行人 7 0 0 03/20
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第一稿

「カショウ青春白書」


登場人物
サク(23)王太子   
リョーヤ(22)家事手伝い
クウメイ(23)サクの友人


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「カショウ青春白書」


登場人物
サク(23)王太子   
リョーヤ(22)家事手伝い
クウメイ(23)サクの友人


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○カショウ山・遠景
   山の中腹を走る道。
   T「ウト国の避暑地 カショウ」
リョーヤの声「ねぇ。カン」
カンの声「はい。リョーヤお嬢様」
リョーヤの声「私ね。カショウに来るたびに思い出すの。あの目を」
   T「この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。」
   オボロ(馬車)、走っている。

○同・車内
   リョーヤ(22)と執事・カン、向かい合って座っている。
カン「目。でございますか?」
リョーヤ「そう。カショウで戦争が終わって、お父様にお会いできた。お父様私におっしゃった。また商売ができるぞって」
カン「戦中はご苦労も多ございましたから」
リョーヤ「その目を見て、私。少し恐くなってしまったの」
カン「恐い? 社長がでございますか?」
リョーヤ「ええ。あんなに恐ろしい戦争がやっと終わったのに、お父様はまた戦おうとしていらっしゃるから」
カン「社長はその戦いに勝ち続けていらっしゃいます」
リョーヤ「勝つことは幸せなのかしら?」
カン「負けるよりは、よいかと」
リョーヤ「でも、戦争には負けたけれど、私はお父様やお母様と一緒に暮らすことができて、今とても幸せよ」
カン「カンには難しいことはわかりません」
リョーヤ「少し休みます」
   リョーヤ、背もたれに背中を預ける。
カン「わかりませんが、カンはお嬢様のそういうところを、美しいと思います」
   カン、リョーヤを見やる。

○カショウテニスクラブ・外観
   「カショウテニスクラブ」の看板
クウメイの声「小便の時までそんな目するなよ」
   鳥の鳴き声。

○同・クラブハウス・男子トイレ・中
   サク(23)、小便器の前に立っている。
   クウメイ(23)、隣の小便器に立っている。
サク「次の試合で僕たちは敵同士だ」
クウメイ「なんだよサク。親友だろう?」
サク「だからこそだクウメイ。全力で戦う」
クウメイ「殺気立つなよ」
サク「前の外遊で思い知ったんだ、王室の重さを。僕は強くあらねばならない」
   蹄の音。
サク「あの音は」
   サクとクウメイ、窓に走り寄る。
サク「やっぱり」
クウメイ「新型のオボロだ」
   オボロ、停まっている。
   カン、後部座席のドアを開ける。
   リョーヤ、降りてくる。
   サク、リョーヤを見つめる。
クウメイ「美しい」
サク「ああ」
クウメイ「サク」
サク「ん」
クウメイ「次の試合で僕たちは敵同士だ」
サク「ええ!?」
   クウメイ、トイレを出ていく。

○同・同・談話室
   リョーヤ、テーブルについて紅茶を飲んでいる。
   少女・ナゴリ、リョーヤの周りを走り回っている。
リョーヤ「ナゴリさん危ないですわ。しっかり周りをご覧になって」
   サクとクウメイ、離れたテーブルでリョーヤを見つめている。
クウメイ「リョーヤ。22歳。父親はコウガ製粉の社長だ」
サク「へぇ」
   リョーヤとナゴリ、笑いあっている。
   サク、リョーヤを見ている。
   クウメイ、ひとつ息をつく。
クウメイ「王太子妃は旧王族か旧貴族の家柄から選ばれる。彼女は違う」
サク「わかっているさ。そんなこと」
   サク、リョーヤを見つめている。
クウメイ「強さを、はきちがえるなよ」
   クウメイ、席を立つ。

○同・テニスコート
   クレイコートである。
   ナゴリ、コートの隅に転がっているボールを集め、リョーヤに走り寄る。
   リョーヤ、ボールを受け取る。
リョーヤ「お手伝い偉いわね。ナゴリさん」
ナゴリ「もう大人の女性ですから。花嫁修業ですわ」
リョーヤ「まぁ。頼もしい」
ナゴリ「私。ウト国で一番きれいな花嫁になるの」
リョーヤ「なれそうね。ナゴリさんなら」
   リョーヤ、ナゴリに微笑みかける。
   サクとクウメイ、コートの中央でネット越しに握手。
クウメイ「勝った方が彼女に声をかける」
サク「ああ。異存ない」
主審の声「ラブオール」
   サクとクウメイ、各々のポジションに散る。
     ×  ×  ×
   サク、ボールを返す。
   ボールはラインぎりぎりでイン。
主審の声「フィフティーンラブ」
クウメイ「今日は攻めるな。サク」
   ナゴリ、ボールを拾っている。
     ×  ×  ×
   クウメイ、サーブする。
主審の声「デュース!」
     ×  ×  ×
   ボールはラインぎりぎりでアウト。
主審の声「アドバンテージ!」
   サクとクウメイ、肩で息をしている。
サク「次を入れたら僕の勝ちだ」
   サク、サーブする。
     ×  ×  ×
   リョーヤ、フェンスの外から試合を見ている。
   カン、リョーヤに歩み寄る。
カン「おお。奥のコートはサク親王様ですね」
リョーヤ「サク親王様。ああ。王太子殿下。だからお顔に見覚えが」
カン「精悍なお顔ですね」
リョーヤ「そうね。でもあの目。お父様に似ているようで、少し恐い」
カン「先ほどまでご一緒だったご令嬢は?」
リョーヤ「ああ。ナゴリさん。どこかしら」
   リョーヤ、周囲を見渡す。
     ×  ×  ×
   クウメイ、ボールを返す。
   サク、ボールを取りに走る。
リョーヤの声「危ない!」
   サク、止まる。
   コートを転がっていくボール。
   観客の悲鳴。
   ナゴリ、倒れている。
   リョーヤ、ナゴリに駆け寄る。
リョーヤ「ナゴリさん! ナゴリさん!」
   サク、ナゴリに駆け寄ると、抱きかかえる。
   ナゴリ、左目の上から血が出ている。
リョーヤ「ナゴリさん!」
   リョーヤ、ハンカチでナゴリの目を押さえる。
   ナゴリ、目を開ける。
   クウメイ、駆け寄ってくる。
サク「クウメイ! 救急車を!」
クウメイ「わかった」
   クウメイ、コートを出ていく。
   サク、指を二本見せる。
サク「これ。何本だい?」
ナゴリ「に」
サク「自分の名前。言えるかい?」
ナゴリ「ナゴリ」
サク「大丈夫ですよ」
リョーヤ「でもこんなところに傷が」
サク「しっかり見えているし、名前も言える。ちゃんと生きています」
   リョーヤ、サクを見つめる。
リョーヤ「生きている」
サク「ええ」
リョーヤ「顔に傷が残ったらどうなさるおつもりですか!?」
サク「それは。でも、命に別状は」
リョーヤ「生きているということの意味は、一つではありません!」
   サク、リョーヤを見つめる。
リョーヤ「カン! 車を! すぐに運びます」
カン「はい。リョーヤ様」
リョーヤ「失礼いたします。殿下」
   リョーヤ、ナゴリを抱えて出ていく。
   サク、リョーヤの背中を見送る。
   クウメイ、走り寄る。
クウメイ「あれ? あの子は?」
   サク、リョーヤの去った方を示す。
クウメイ「そうか」
サク「強さというのは、ただ勝つことだけではないのかもしれないな」
クウメイ「ん」
サク「僕はただ強く、人を想おうと思う」
   サク、リョーヤの去った方を見つめている。
サク「その為には、僕には彼女が必要だ」
   クウメイ、微笑む。
クウメイ「わかったよ。早く行け」
   サク、駆け出していく。

〈おわり〉

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