登場人物
先輩(見た目35歳くらい) 札幌在住のバ
ンパイア
後輩(見た目25歳くらい) 東京在住のバ
ンパイア
ユリ(19) 喫茶店の店員
SE ガヤガヤと賑わう街の喧騒
先輩(MO) 「札幌に移住して20年。地
下街の開発により、太陽が苦手な俺たちバ
ンパイアにとって、札幌は住みよい街へと
発展を続けている。そんな北海道の魅力
を、東京に住む後輩へ伝える為、飛行機と
ホテルの手配までしてやって呼び寄せたの
だが……」
SE つま先をトントンと地面に叩く
先輩「(ため息)おっせえなぁ。マジでおせ
え……おっ」
SE 走り寄る音
後輩「せんぱーい! おはようございます」
先輩「おはようって何時だと思ってんだよ」
後輩「まだ午後の4時ですよ? (あくびし
て)だいぶ早起きしたんですからね」
先輩「お前な、いくらバンパイアだからって
生活リズムの乱しすぎはよくないぞ」
後輩「バンパイアとしては正しいリズムだと
思うんですけど」
先輩「もうちょっと人間社会に溶け込む努力
をだな……」
後輩「先輩が馴染みすぎなんです。くたびれ
たサラリーマンみたいな格好しちゃって、
恥ずかしいなぁ」
先輩「お前な! それ言うなら、お前の服装
の方が」
後輩「ていうか聞いてくださいよ。先輩が手
配してくれたホテルね、ちょっと訳ありっ
ぽいんですよ」
先輩「(動揺)へ、へぇー。ワケあり?」
後輩「棺桶がなかったもんでね。仕方ないか
らクローゼットの中で眠ったんですけど」
先輩「えぇ、クローゼットって……」
後輩「それが! 朝起きたら使ってないハズ
のベッドに謎のシミがブワーって広がって
て。うぅー、思い出して鳥肌立ってきた」
先輩「なんだお漏らしか。お前いくつだよ」
後輩「200歳にもなって漏らしませんよ!
怪奇現象です! か・い・き・げ・ん・し
ょ・う!」
先輩「怪物が怪奇現象とか言うな」
後輩「あ! 今の怪物差別ですよ!」
先輩「もうわかったわかった。別のホテル用
意してやるから」
後輩「なんかもうホテル泊まるの怖くって。
先輩の家、泊めてくれません?」
先輩「やだよ。クローゼットの中で眠る奴な
んて」
後輩「え! 先輩の家、棺桶ないんですか」
先輩「ねえよ! 背中痛くなっちゃうだろう
が!」
後輩「ちょっとバンパイアとしての誇り捨て
すぎじゃありませんかねぇ?」
先輩「(ため息)何度も言うけどなぁ、お前
を札幌に呼んだのは、もっと人間社会に溶
け込んで貰いたいからなんだよ」
後輩「それそれ。意味わかんないですよ。な
んで僕が人間なんかに合わせないといけな
いんですか」
先輩「お前はまだ若いから理解出来ないかも
しれないけど、バンパイアが人間に勝てる
時代はとっくに終わったんだよ」
後輩「ええ!? せっかく念願叶ってバンパ
イアになったのに、勝手に終わらせないで
ください!」
先輩「そもそもお前、なんでバンパイアにな
ったの?」
後輩「そりゃもちろん、不老不死に憧れてい
たからです」
先輩「バンパイアも死ぬぞ」
後輩「えっ!? そうなんですか!」
先輩「(自信満々に)社会的に、な」
後輩「くたばってください」
先輩「渾身のギャグなんだけど……。でも、
不老不死って、そんなにいいモンかねぇ」
後輩「最高じゃないですか。自分で言うのも
アレですけど、僕、見た目は悪くないでし
ょ? だから若いままの姿でいたかった
し、あとは、新しいゲームとか漫画とか
次々出るしで、もう時間が足りないくらい
ですよ」
先輩「でも日光に当たると火傷しちゃうぜ」
後輩「インドア派なんで」
先輩「じゃあ仲良くなった人間とか、大切な
ペットとか、先に死んじゃうんだぜ」
後輩「人間なんかと仲良くなりませんし、
僕が飼ってるペットは亀なんで問題ありま
せん」
先輩「亀は万年生きるってのは方便だけど」
後輩「ていうか先輩こそ、400年以上ずっ
と人間と戦ってきたのに、どうして今にな
って諦めるんですか」
先輩「戦って来たからこそ判るんだよ。 I
Tとか社会とか、なんかもう色々とすごい
スピードで環境が変わっていく。そんな人
間には勝てないよ」
後輩「そんな……」
先輩「(ため息)札幌は地下街が発達してる
からな。昼間でも日光に当たらずに生活で
きる。バンパイアが人間らしく住むにはも
ってこいの場所なんだ」
後輩「東京だって、夜に開いてる店がたくさ
んあるし、生活できますよ」
先輩「でも出歩くたびに職務質問されたり、
不良に絡まれたり、肌荒れしたり、嫌なこ
と多いだろ」
後輩「それくらい別に……」
先輩「コンビニも24時間営業じゃなくなる
らしいぞ」
後輩「えぇ、そうなんですか」
先輩「かといってネット通販ばっかだと、
『こいつずっと家にいるけどニートなんじ
ゃねえの』とか思われるんじゃないかって
悩んじゃったり」
後輩「バンパイアって心も読めるんですか」
先輩「お前がわかりやすいだけだ」
後輩「しょんなぁ」
先輩「とりあえず、飯食いにいくべ。腹減っ
たろ」
後輩「べって……」
先輩「あ、その前にマント脱げ。恥ずかしい
から」
後輩「高潔なマントですよ! 民族衣装です
よ!」
先輩「京都以外で着物着てたらジロジロ見ら
れるだろ。そういう国なんだよ」
後輩「ハァ。人間ってトコトンバカですね」
M
SE 喫茶店の扉をカランと開ける
ユリ「いらっしゃいませー」
先輩「二人です」
後輩「ウッ!」
先輩「え?」
後輩「いえ……なんでもないです」
ユリ「2名さまご案内いたしまーす」
SE 店内をパンプスでコツコツと歩
くユリ
ユリ「ご注文お決まりになりましたらお呼び
くださーい」
先輩「ドーモ。あ、禁煙席で問題ないよな」
後輩「はい。僕が吸うのは血液だけです」
先輩「へーへー」
後輩「それにしても、喫茶店なんて久しぶり
です」
先輩「夜だとファミレスか居酒屋ばっかりに
なるだろ」
後輩「まぁそうですね。厄介なのが、夜中の
3時とかに閉店になる店です」
先輩「あるねえ」
後輩「3時に店追い出されて、どうしろって
んでしょうね」
先輩「店側が閉店作業して、始発で帰るのに
ちょうどいいんじゃないか?」
後輩「ボクね、昔アメリカに居たんですけ
ど、深夜でも電車が動いてましたよ。日本
もそうすればいいのに」
先輩「それ、いいな」
後輩「深夜料金とかにしてもいいし。そうな
ったらお店もお客も時間気にせずに済みま
すよね。ウィンウィンじゃないですか」
先輩「そうなったら嬉しいけどね。まぁ実装
されてないって事は、コストとか保守点検
の作業とか、ホームレスとか、色々問題が
あるんだろうな」
後輩「先輩、都市開発の仕事してるんだし、
頑張ってくださいよ」
先輩「今は、地下街を北海道全土に開通する
ことが夢だからなぁ」
後輩「頑張ってくださいよ」
先輩「精進するよ。注文どうする」
後輩「えーっと……あ、コレいいな。太陽の
恵みたっぷりトマトスープリゾット」
先輩「まぁ……お前がそれでいいんなら」
SE 店員を卓上ベルで呼ぶ
SE ユリがパンプスで近づいてくる
ユリ「ご注文お伺いいたしまーす」
後輩「ウッ!」
先輩「トマトスープリゾットとペペロンチー
ノで」
ユリ「トマトリゾットとペペロンチーノです
ね」
先輩「あと食後にブレンドコーヒー2つ」
ユリ「はーい。ありがとうございまーす」
SE ユリがパンプスで去って行く
後輩「(呻き)うぅ……」
先輩「いやぁ、判るよ。ニンニクだろ? で
もな、食ってみると美味いもんだよ」
後輩「え……? ああ、そうですね」
先輩「しっかしお前も、わざわざトマトでバ
ンパイア感出さなくっても」
後輩「ああ、そうですね」
先輩「にしても、ここのウェイトレスの制
服、可愛いよな。ハイヒールってのがまた
なんとも」
後輩「ウップ!」
先輩「お前、さっきから口抑えてどうした?
気分悪いのか?」
後輩「牙がザワザワして口が痒くて」
先輩「虫歯?」
後輩「それに、なんだか胸の動悸もヒドイん
です」
先輩「夜更かしばっかしてるからだよ。水飲
んで落ち着け」
後輩「ハイ……」
SE 水をゴクゴクと飲む音
後輩「プハァ」
先輩「ゆっくり飲めよ……」
ユリ「水、お注ぎしますね」
後輩「ウッ!」
ユリ「え!?」
先輩「お願いします」
SE 水を注ぐ音
先輩「どうも」
SE ユリ、パンプスで去って行く
後輩「ハァ……ハァ……」
先輩「なるほどね」
後輩「何がですか……」
先輩「ところでお前、血吸ったことある?」
後輩「モチロン。何百人もの美女の血を吸っ
てますよ」
先輩「へぇー」
後輩「な、なんですか。ニヤニヤと」
先輩「いやぁ別に? お前、結構吸血してる
んだなーって思ってさ」
後輩「バンパイアたるもの、血を吸ってなん
ぼなところありますからね」
先輩「初めて吸血した時、どうだった?」
後輩「あんま記憶にないですね。こんなもん
かって感じだったんで」
先輩「吸った後はどうしてんの?」
後輩「気に入った子ならしばらく側に置いて
ますよ。ホラ、顔がいいもんで。向こうか
ら捨てないでって感じでくるんですよね」
先輩「はい、ビンゴ」
後輩「なんなんですか一体」
先輩「お前、血吸ったことないだろ」
後輩「な、何言ってんですか! ぼ、ぼぼ僕
が未経験なわけが!」
先輩「落ち着けって。日本で飼われてる犬の
99パーセントも童貞だぞ」
後輩「バンパイアと犬を一緒にしないでくだ
さい!」
先輩「歯が疼く理由はな。お前が吸血したく
なったからだよ」
後輩「吸血……いや、でも」
先輩「俺たちバンパイアが血を吸いたくなる
のは、恋に落ちた相手だけなのさ」
後輩「恋?……ボクが、恋」
先輩「あのウェイトレスの子が近づくと歯が
疼くんだろ。吸血衝動だな」
後輩「じゃ、じゃあ、仮にボクが吸血したく
なったとしましょう。夜道であの子に襲い
かかれば、ボクの動悸は治まるんですね」
先輩「お前、危ないやつだな。言っておくけ
ど、血を吸ったら彼女は死ぬぞ」
後輩「死ぬって……。ちょびっと吸うだけで
すよ。献血程度に」
先輩「吸血ってはコントロールできないんだ
よ。相手の事を想うあまりに、血液を一滴
残らず吸っちまうのさ」
後輩「それじゃ殺人事件じゃないですか」
先輩「そうだよ。好きだから殺しちまう悲し
い生き物なんだよ」
後輩「そんな……」
先輩「どうせ漫画か映画の影響で、誰彼構わ
ず襲うとでも思ってたんだろ」
後輩「むぅ……そういう先輩は血を吸った事
あるんですか?」
先輩「さぁな。忘れちまった」
後輩「すーぐ誤魔化すんだから」
先輩「ま、どうせ俺たちは不老不死なんだ。
長い人生だし恋してみるのもいいんじゃね
えの」
後輩「恋か……」
先輩「なんなら俺が二人の仲を取り持ってや
ろうか」
後輩「自分で出来ますよ!」
先輩「警察沙汰だけは勘弁しろよ」
SE 頰を叩き気合いを入れる
後輩「(気合い入れて)よしっ!」
SE 店員を卓上ベルで呼ぶ
先輩「童貞のくせに積極的だなぁ」
SE ユリがパンプスで歩いてくる
ユリ「お呼びでしょうか?」
後輩「あ、あのボク、昨日東京から来たんで
すけど、アレですね。北海道って結構近い
んですね。飛行機で2時間くらいで着いち
ゃいましたよアハハ」
ユリ「ハァ……」
後輩「ま、北海道くるのは7回目なんですけ
ど。今までは北斗星で1日がかりでしたか
らね」
ユリ「へー」
後輩「その前には、短い期間ですが住んでい
た事もありまして。ニシン漁なんかやった
りね。当時は米が育たなかったもんで」
先輩「なんの話してんだよ」
後輩「どうです? ニシン。釣ってみたくな
いですか?」
ユリ「なにそれ。意味わかんなくてちょーウ
けるんですけど」
後輩「じゃ、次の日曜日、どう?」
ユリ「まぁ、いいですよ」
SE 他の席の客が卓上ベルを鳴らす
ユリ「あ、じゃ日曜日に。私、ユリって言い
ます」
SE ユリがパンプスで去って行く。
後輩「ユリさん……」
先輩「嘘だろ」
後輩「どうです? さっそくデートの約束ま
でこぎつけちゃいましたよ」
先輩「最近の奴は何考えてるかさっぱりだ」
後輩「しっかしハイヒールの音ってのは良い
ですねぇ」
先輩「それはわかる」
M
先輩(MO)「その後、後輩の自慢話を延々
と聞かされながら、食事を終えると、後輩
はデートの準備だと言う事で浮き足立って
去って行った。お互いの都合が中々合わ
ず、後輩と次に顔をあわせる事になるの
は、六十年後。7回目の日本オリンピック
開催が決定した年だった」
SE 時計台の鐘が鳴る
後輩「せんぱーい。おはようございます」
先輩「おう、数十年年ぶり」
後輩「先輩に札幌呼び出されたのが、まるで
昨日のことのように思い出せますよ」
先輩「あの頃のお前、イタかったよなー」
後輩「若気の至りです! 僕だって成長しま
したよ。それより、北海道全土に渡る地下
街の開通、おめでとうございます」
先輩「おう、知ってたか」
後輩「ニュースくらい見てますって。それ
に、夢だって語ってたじゃないですか」
先輩「そうだったか。うん……ありがとう」
後輩「あっという間に、夢叶っちゃいました
ね」
先輩「そうだな。時間をかければ、叶わない
夢なんてないもんさ」
後輩「そうですよね。人間には時間が限られ
てるから、夢が夢なんですよね」
先輩「お前はここんとこ、どうだったよ?
念願の吸血はできたのか」
後輩「いやぁ、最初はね。適当に付き合った
らさっさと血を吸ってやろうと思ってたん
ですよ。喉はカラッカラだし、歯はむず痒
いしで」
先輩「そりゃ辛いな」
後輩「ユリちゃんも、すごい単純で隙だらけ
だし。いつでも襲えたんで。もっと熟すま
でじっくり待ってやろうと思ってて」
先輩「相変わらず危ないやつだなぁ」
後輩「でね、二人で魚釣りに行ったり、ボク
の知り合いだったクラーク博士が銅像にな
ってたんで見に行ったりしてたら、あっと
いう間に30年くらい経ってました」
先輩「30年か」
後輩「30年なんて、ボクらにとってはほん
の数日みたいなもんじゃないですか。でも
人間って、見る見る変わって行くんです
ね。顔見るたびに、ユリちゃんにシワがグ
ニグニ伸びて行くのが見えて、ボクが夜中
に目を醒ましたら、ユリちゃん、こっそり
白髪染め使ってたんです。ウケますよね」
先輩「ウケるな」
後輩「ボクもね、不審がられないように、カ
ラーワックスで白髪っぽくしてみせたり、
ペンで顔にシワ書いたりして、結構気遣っ
てやってたんですよ」
先輩「大変だな」
後輩「ほんと大変でしたよ。何度カミングア
ウトしようと迷ったことか。でも気味悪が
られても嫌だし、ご飯作ってくれなくなっ
ても面倒だったんで、結局黙ってました」
先輩「黙ってたんだな」
後輩「ま、それももう必要ないんですけど
ね。ユリちゃん、最近忘れっぽくて。なん
だっけ、ホラ、色々忘れちゃう病気。認知
症?ってやつらしいです。ボクの事も朧げ
で。かと思えばいきなり怒り出したり、勝
手に一人で家出て行ったり。いい迷惑です
よ、ホント」
先輩「ホントな」
後輩「交番で保護されてるのを迎えに行くよ
うになったんですけど、そこの交番に勤務
してる若い奴が、東京でボクにしょっちゅ
う職務質問してきた人の息子っぽくて。ど
んだけ時間進んでるんだよっていうね」
先輩「あっという間だな」
後輩「あっという間ですよ。なんかもう本当
に、いろいろあっという間すぎて、血を吸
うとか忘れちゃってました。もうね、今じ
ゃヨボヨボのカッピカピのババァですか
ら。血を吸う気も起きませんよ」
SE 気だるそうに階段を上る後輩
先輩「おい、そっちは外だぞ」
SE 後輩の後ろをついて行く先輩
後輩「あーあ! ユリちゃん死んだら新しい
女見つけないとな。いや、いっそもういい
かな。女の相手って結構めんどくさくない
ですか? 買い物長いし、無駄話ばっかだ
し、情緒不安定ですぐ拗ねるし。どの料理
にもニンニクとチーズたくさん入れるし、
朝起きた時なんて、くっさい口でキスして
くるんですよ。もう勘弁してほしいですよ
ね」
先輩「そりゃあ、楽しかったなぁ」
SE 足音が止まり
後輩「先輩……どうして人間ってすぐ死ぬん
ですか。どうしてボクらは生き続けるんで
すか。どうして生き物の時間の流れって違
うんですか。ボクは、彼女と同じ時間の中
で、一緒に過ごしていたい」
先輩「そうだなぁ……」
SE 再び階段を上る音
後輩「ボクね、気づいたんです。ユリちゃん
が死ぬ姿を見るの、耐えられないなって。
だったら、先に死んでしまえば、辛い思い
をせずに済むなって」
先輩「バンパイアのくせに人格障害かよ」
後輩「すみません先輩、ユリちゃんのこと、
お願いします」
SE 階段を上ると、外は強い雨
後輩「あ……」
先輩「雨、降ってるな……」
後輩「洗濯物、干しっぱなしだ」
先輩「雨で濡れたシミなら、もう一度洗えば
落ちるよ」
後輩「フッ、わかりますよ、それくらい」
先輩「さっきの答え。人間ってな、落ちない
シミなんだよ。ベッドのシーツにこぼした
コーヒーみたいに、あっという間にシミが
広がって、洗濯しても完璧には落ちない。
彼女と過ごした時間は、もうお前の心に染
み付いちまってるんだ」
後輩「コーヒーのシミか……」
先輩「そんなシミをずっと残し続けるために
バンパイアはいるんだ。家族が、友達が、
恋人が、同僚が、輝いてた。ちゃんと生き
てましたって事を残し続ける事が、俺たち
の生きる理由なんだ」
後輩「先輩だったんですね」
先輩「ん?」
後輩「ボクが札幌来た日に泊まったホテルの
事ですよ! 朝起きたらシーツに茶色のシ
ミがついてた!」
先輩「いや、それはお前を起こしに行ったら
コーヒーこぼしちゃって……それに俺、今
いい事言ってるからさ」
後輩「全然良い事言ってないし、あれからボ
ク、部屋の電気つけないと眠れないんです
よー!」
先輩「わー! 悪かったってー!」
後輩「……はぁ。帰りますね。もう一度洗濯
しないといけないし、それに、米、よくう
るかさなくちゃ。ユリちゃん、歯が弱いん
でね」
先輩「おう、戻ろうぜ。俺たちのバンパイア
帝国に」
後輩「フッ、なんですか、バンパイア帝国
て」
先輩「クックック。俺が本当に人間に負けた
と思ったか? 北海道は制覇した。次は東
京まで地下をつなげてやるのさ。やがて
は、全国まで伸ばして、地下にバンパイア
帝国を設立し、再び人間どもを支配して
やるのだ!」
後輩「ハハッ。まったくもう。本当にバンパ
イア想いの人だな。まぁボクもヒマなん
で、しばらくは付き合ってあげますよ」
SE 階段を降りて行く二人。
終わり
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