クローバー・クラブ 学園

高校が嫌い。 勉強が嫌い。 部活が嫌い。 友情が嫌い。 恋愛が嫌い。 青春が嫌いだった・・・・・・ ・・・・・・でも、本当は好きになりたかった。
日疋 14 0 0 03/13
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第一稿

■登場人物
友利和生(16) あづみ高校の不良
輪島浩司(16) あづみ高校の不良
升田一(16)  あづみ高校の不良
佐野夕花(16) あづみ高校、男子バスケ部マネージャ ...続きを読む
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■登場人物
友利和生(16) あづみ高校の不良
輪島浩司(16) あづみ高校の不良
升田一(16)  あづみ高校の不良
佐野夕花(16) あづみ高校、男子バスケ部マネージャー
相楽祥吾(17) あづみ高校、男子バスケ部、部長



○あづみ高校(朝)
  文字通り空色の空には、雲一つない。
  校舎の一部は未だに木造である。
  HRのチャイムが、廊下に響き渡る。
  校門に『県立あづみ高等学校』の文字。
  学校の木々は、夏めき始めている。
 
○同・一年二組
  男性教諭、生徒の名前を読み上げる。
  呼ばれた生徒は「はい」と返事をする。
教諭「菊池、岡部、田中……友利」
  沈黙。
  教諭、顔を上げて見ると、席は空白。教諭「(あからさまな溜息)」

○同・校庭
  木の上で、友利和生(16)が学校の外を眺めている。手には一枚のコイン。
男の声「友利」
  友利、振り返って見る。

○同・一年二組
教諭「升田」
  教室には空席が三つ。
教諭「(小さく)またか、あのバカ」

○同・校庭
  升田一(16)、木の上の友利を見上げている。
  友利、升田を顧みて、
友利「なんだよ、升田」
  升田、煙草を口にくわえながら、
舛田「一勝負、どうよ」
  と、野球の球を見せつける。

○同・一年二組
教諭「輪島……も、いるわけないな」

○同・校庭
  木の下で輪島浩司(16)、本を読んでいる。
升田「俺の魔球を打てたら、アイスおごってやるよ」
輪島「安い魔球だな」
  輪島の足もとにグローブが飛んでくる。
升田「輪島はキャッチャーと審判よろしく」
  輪島、渋々グローブを拾い上げ、
輪島「モハメド・アリ曰く、他人が私になって欲しい者に、私はなる義務はない」
升田「なぁ、友利~やるか? それともするのか?」
  友利、手に持っていたコインでコイントスをする。友利、手の甲に載ったコインを眺め、
友利「表だ」
  と、木から飛び降りる。
升田「(笑い)プレイボール」
    ×   ×   ×
  校庭で野球をする。友利はバッター、輪島はキャッチャー、升田はピッチャーである。
  升田、振りかぶって投げた。友利は空振り。友利のバットが風を切って、ブンッと音を鳴らす。
輪島「ストライク」
升田「見たか、魔球ストレートフォーク!」
友利「もう夏だな……俺は」
  と、バットを振る。
  升田の球はバットに当たり、ファール。
升田「チッ」
友利「そろそろ」
  と、バットを振る―――カキン!
  友利が升田の球を打ったのだ。
友利「冷たいものが食べたいね」
  友利、升田、輪島、飛んでいく球を目で追う。追って、追って、バリン!
  窓ガラスの割れた音。
教諭の声「こらぁ! お前らぁ!」
友利・升田・輪島「……あ」

タイトル「クローバー・クラブ」

○あづみ高校・屋上
  友利、升田、輪島、並んで、手すりにもたれ掛っている。
  校門前で、女子バレー部員達が、次々とバスへ乗り込んでいくのが見える。
輪島「(本から顔を上げ)しばらくは、大会期間か」
升田「(煙草を吹かしながら)運動部がいねぇだけで、ずいぶん校舎が歩き易くなる」
友利「部活なんてやる奴は、他にやることがない連中だ」
升田「じゃあ、お前は何をするんだ、友利?」
友利「(考えた末)……昼寝」
   と、その場で横になる。
輪島「(本をまた読み始め)ヴォーヴナルグ曰く、怠惰は心の睡眠だ」

○大隅高校・体育館
  高校男子バスケの地区予選が行われている。『あづみ対鳥原 18対37』
  今、まさに試合が終わったのだ。両チームの男子達、面と向かって、
男子達「ありがとうございました!」
  あづみ高校のベンチで、スコアブックを書きつける女子、佐野夕花(16)。
   ×   ×   ×
  ベンチに戻って来て、片づけを始めるあづみ高校の男子達。
  夕花、水のボトルを差し出し、
夕花「……お疲れ様でした」
  相楽祥吾(17)、やってくる。
夕花「先輩、お疲れ様です」
相楽「夕花……悪かったな」
夕花「相手は去年のインターハイですから」
相楽「(自嘲するように笑い)ありがとう」
夕花「え?」
相楽「良い言い訳になったよ」
  と、去っていく。
  夕花、ふと隣のコートを見る。隣でも試合が行われている。『35対36』と僅差。必死に走る選手たち、飛び散る汗、飛び交う激しい応援の声。
  その様を、夕花はじっと見つめている。

○あづみ高校・体育館裏(夕)
  友利、升田、輪島、地面に寝転がる。
升田「ほんと暇だなぁ」
輪島「(本を読みながら)勉強でもしろよ」
升田「(煙草を吹かし)あぁ忙しい、忙しい」
友利「輪島は大学とか行くの?」
升田「そりゃ行くよ。こいつ無駄に頭良いし」
輪島「……お前らが行くなら、行くよ」
升田「なんだよ、そりゃ」
友利「じゃあ一生無理だな。升田は無駄に馬鹿だから」
升田「他人事みたいに言うなよ、友利」
  と、煙草の煙を吹きかける。
友利「(煙を払い)こんな所で吸うなよ」
輪島「とある偉人曰く、煙草の煙は常に煙草を吸わない人の方へ漂う」
  その時、いきなり体育館の扉が開く。
  友利達、見上げると、相楽が戸を開けたまま固まっている。
升田「なに見てんだよ?」
相楽「(顔を引き攣らせ)お前らこそ、何やってんだ。ここは学校だぞ」
  升田、起き上がり、
升田「だから?」

○同・体育館内
  男子バスケ部員たちは、遠征で持って行ったボール類を倉庫に閉まっている。
相楽の声「(響き渡る)いってぇ!」
  皆の視線が相楽に集中する。相楽が升田に殴り飛ばされたのだ。
  升田、友利、輪島、相楽を囲み、
升田「文句あんのかよ、センパイ」
  夕花、走って来て、相楽に駆け寄る。
夕花「大丈夫ですか、先輩?」
輪島「(バスケ部員達を見て)また、負けか」
升田「やっぱ、うちのバスケ部は雑魚だな!」
  夕花、升田を睨み上げ、
夕花「そんなことありません。バスケ部のみんなは毎日練習を頑張ってるんです。雨の日だって、台風だって、練習してるんです。必死なんです。だから、きっと、次は勝ちます。絶対に勝ちます!」
  夕花、相楽を見て、
夕花「ですよね、先輩?」
  相楽、俯いたまま黙っている。
夕花「……先輩」
  友利、面倒そうに頭を掻き、
友利「お前、何言ってんの? こいつらが、そんな真剣に練習するわけないだろ」
  相楽、ハッと友利を見上げる。
友利「こんな弱小校じゃ、試合の結果なんて初めから見えてる。バスケは好きなんだろうけど、汗水流して全国に行きたいほどじゃない。たま~に青春ドラマに影響されて、インターハイを夢見ることはあっても、翌日から猛練習するわけでもない。毎日、そこそこに楽しけりゃいい。だろ? そもそも本気でバスケがしたいなら、こんな高校には来ねぇって」
夕花「……嘘だよ。先輩、こんな連中、何も分かってないんですから。否定してやらないと駄目ですよ!」
  相楽、徐に立ち上がると、頭を下げ、
相楽「もう、帰ってくれ」
  升田と輪島、顔を見合わせ、去る。
  夕花、友利を睨みつける。
  友利、夕花の視線を無視して去る。
  頭を下げたままの相楽。目からぽろぽろと涙が落ちていく。

○同・自転車置き場
  友利、升田、輪島、歩いて来る。
升田「珍しいじゃん。友利がキレるなんて」
友利「別に」
輪島「あの部長がそんなに気に障ったか」
升田「もしかして、元バスケ部?」
友利「バレーだよ。それも中学な」
  と、校庭の方を見る。
升田「なんだ、違うじゃん」
  校庭にはサッカーボールがポツンと転がっている。

○同・体育館(夕)(別日)
  相楽、三年の先輩達を前にしている。
相楽「本当に俺でいいんですか? 次の部長」
先輩A「相楽以外に、適役はいねぇよ」
先輩B「お前らは俺らと違って真面目にやってんだから、きっと良いとこまで行けるよ」
先輩C「間違っても、俺達みたいな負け方はするなよ?」
相楽「俺達みたいって……」
先輩D「負けたって、涙も出ないような……負け方だよ」
  と、弱々しく笑って、先輩達は去る。
  相楽、先輩達の背中に、頭を下げる。

○同・一年二組(別日)
  授業中。教室の後ろでポーカーをする友利、升田、輪島。
輪島「スリーカード」
友利「(チッ)ワンペア」
升田「じゃーん、フルハウス」
  友利、カードを投げ捨て、だるそうに立ち上がる。
升田「俺、珈琲牛乳な」
輪島「缶コーヒー。ブラックで」
友利「優しい友達を持って、俺は幸せだよ」
  と、出て行く。
升田「(手を振り)いってら~」
輪島「升田、言い忘れてたが」
升田「ん?」
輪島「イカさまは犯罪だぞ?」
  升田、ニッと笑って自分の持ち札をずらす。実はカードが重ねてあった。

○同・自販機前
  友利、三人分の飲み物を買う。ふと横を見ると、そこには体育館。開いた扉から中のコートが見える。
  友利、コートを見つめ、コイントスをする。コインは表。

○同・体育館
  友利、バスケットボールを持ち出し、ドリブルしている。しかし、上手くできない。今度はバスケットボールでバレーを始める。ボールをトスで上げ、スパイク。今度は慣れた手つきだ。打ち上げたボールをレシーブで受け止め、キャッチ。そのままリングを見上げる。ゆっくりとボールを構え、シュート。しかし、ボールは勢いよくリングに当たり、跳ね返る。
夕花の声「カッコわる」
  友利、振り返ると、入り口で夕花が立って見ていた。
友利「うるせぇ……お前、授業はどうした?」
夕花「もう終わったよ。チャイム聞こえなかったの?」
  友利、夕花を無視し、シュート。だが、また失敗。
夕花「素人はもっと近くから打ちなよ」
友利「(イラッ)投げて入んなきゃ、無理やり押し入れるまでだ」
  と、ボールを持ったまま走り出し、飛び上がる。ジャンプはリングまで届いている。そのままボールをリングに叩きつける――――だが入れ損なって、ボールはリングにぶつかり跳ね返る。
  友利はジャンプの勢いで壁に激突。
夕花「(驚きを隠し)ダンクなんて、もっと無理だって。漫画の見過ぎじゃない?」
友利「少し黙ってろよ、バスケ部」
夕花「私の名前は夕花だよ」
友利「お前が名乗っても、俺は名乗らねぇからな。(頭を押さえ)いってぇ」
夕花「友利でしょ。有名だよ」
友利「それは嬉しいね」
夕花「不良のろくでなしで、有名」
友利「それは嬉しいね」
  と、またシュートしようとする。
  ゴールイン。友利、隣を見ると、相楽が立っていた。
  ゴールしたのは相楽のシュート。友利よりも遠くから投げたものだ。
相楽「シュートの仕方、教えてやろうか?」
友利「誰が教わるって?」
相楽「お前も入部しろよ、バスケ部。ソコソコに、楽しいぞ」
  友利、夕花にボールを投げて、去る。
  夕花、友利の背中を見つめて、
夕花「あのジャンプ……うちのバレー部より高いですよ」
相楽「あぁ。俺よりも身長は低いはずだけど」
  と、ゴールに向かい走り、飛び上がる。だが、手はネットをかすめただけで、リングには届かない。
相楽「……昼練、始めるぞ」

○あづみ高校
  校舎を囲む木からは蝉の音が響く。
升田の声「おせぇよ、友利」
友利の声「ほらよ、ご注文の品だ」
輪島の声「……ぬるい」

○十字路(夜)
  友利、升田、輪島、共に下校中だ。各々、手を挙げ、別れて帰る。

○アパート・階段(夜)
  友利、一段一段踏みしめるように上る。

○同・三〇一号室・前
  友利、扉に手を伸ばす。
  その刹那、中から皿の割れる音。
男の声「なにやってんだよ!」
女の声「うるさいな!」
  罵詈雑言の怒号が聞こえてくる。
  友利、コイントスをする。コインは裏。中には入らず、静かに引き返す。

○駅前・喫茶店(夜)
 輪島、本を読んでいる。ふと奥の席を見ると男子中学生の三人組。うち一人はずっとゲームをして、他の二人と離れた位置に座っている。
 輪島、その姿を見つめている。

○公園(夜)
  升田、煙草を吸っている。
升田「……暇だねぇ」
  そこに男性警官が通りかかる。
警官「おい、何やってるんだ?!」
  升田、煙草を投げ捨てる。
警官「お前、未成年だろ?!」
升田「こりゃ、大人になる練習だよ!」
  と、慌てて逃げる。

○佐野家・夕花の部屋(夜)
  夕花、パソコンを眺める。画面には『アマチュア・ストリートバスケ大会』       の文字。

○あづみ高校・校門前(深夜)
  友利、自転車に乗って来る。
  学校には誰もおらず、非常出口の緑色の明かりが見えるだけだ。

○同・体育館
  ドカン!という金属の鍵が壊れる音。
  友利、中に入って来る。
  もちろん、誰もいない。何の音もなく、静寂だけがある。
  友利、不意に立ち止まり、大きく息を吸って、
友利「あああぁぁ! いいいぃぃ! うううぅぅ! えええぇぇ! おおおぉぉ!」
  と、叫んで、満足げに微笑む。
   ×   ×   ×
  友利、ボールを出してきて、リングを見つめる。
友利「(呟き)カッコ悪い? ……うるせぇ」
  と、シュート。だが入らない。友利はシュートを繰り返す。何度も、何度も。

○同(朝)
  夕花、やって来て、扉に手をかける。
夕花「あれ?(鍵が開いてる)」
  と、中に入り、
夕花「先輩、今日は早いですね」
  と、床で眠っている友利を見つける。
夕花「(一瞬、驚く)と、友利?」
  辺りを見渡すと、体育館にはいくつものバスケットボールが散らばっている。
  友利もボールを抱えている。
  夕花、その姿を見て、呆れたように微笑む。
   ×   ×   ×
  友利、目覚める。
  いつの間にか隣には、缶コーヒーが置いてある。
  友利、眠気眼で缶コーヒーを手に取り、首をかしげる。

○同・男子バスケ部室(夕)
  相楽、練習が終わり、帰る準備をしている。
  ノックと共に夕花が入って来る。
夕花「失礼します。あの部長」
相楽「ん、どうした?」
夕花「これ、出てみませんか?」
  と、差し出したチラシ。そこには、『アマチュア・ストリートバスケ大会』の文字。
  相楽、チラシを受け取ろうとして、止めた。
相楽「夕花はよくやってくれてるよ。マネージャーなのに選手より頑張ってる」
夕花「……そんなことないですよ」
相楽「でもさ、アイツが言ったことは、たぶん正しいんだよ」
夕花「アイツって、友利?」
相楽「うん。俺は戦わなきゃ、初めから負けることもないって考える種類の人間なんだ」
  と、去っていく。
  夕花、思わず、チラシを丸めて、ゴミ箱に投げる。だが、思い直して、ゴミ箱に手を入れる。

○同・校舎前
  升田が友利を肩車している。
  友利は校舎の壁に、チョークでバスケのリングを描く。
  輪島、バスケの本を見ながら、
輪島「縦45、横59」
升田「どういう風が吹き回してんだ?」
友利「(描きながら)ただの暇つぶしだよ」
升田「だからって俺達まで」
友利「お前らだって、暇だろ? ……よし」
  ゴールの完成だ。
   ×   ×   ×
  夕花、やって来る。
  友利と升田、輪島がバスケをしている。升田、校舎の壁に描かれたゴールにシュート。だが失敗。
  輪島、本を見ながら、
輪島「シュートは直線より、山なりの方がいいらしい」
升田「なぁダンクはどうすんの? バスケと言ったらダンクっしょ」
   と、ドリブルをするが、上手くできず、自分の足にぶつけてしまう。
友利「素人が。ダンクなんて漫画の見過ぎだ」
  輪島、ページをめくり、
輪島「ダンクは……とりあえず、高く飛べ」
  夕花、友利達を見て呆れ笑い、
夕花「教えてあげようか?」
  友利達、振り返って夕花を見る。
輪島「誰が教わるって?」
夕花「私、これでもバスケ部だから。教えるのは上手いよ。そこそこ、ね」
升田「お前に教わるようなことはねぇよ」
夕花「そう。じゃあ私が見たかっこわる~いシュートは、タマタマだったのかな?」
升田「そ、そうだよ(と煙草をくわえる)」
友利「お前も、相当な暇人だな」
夕花「バスケ部員として、他人のカッコ悪いプレーは、放っておけないの」
  友利、ふっと笑って、
友利「じゃあ、教えられてやる」

○同(夕~夜)
  日が落ちていき、やがて夜。
  友利達、まだバスケをやっている。
  升田、先程とは違い、しっかりと連続でドリブルができている。
  輪島のシュートはリングに当たり、ギリギリで外れる。
夕花「輪島君、シュートは腕じゃなくて手首で打つんだよ! 升田君、ドリブルは前じゃなくて体の横!」
  その様子を校舎の影から、相楽が見ている。

○十字路(夜)
  歩いて来る友利、夕花、升田、輪島。
  別れる四人。
升田「とんだ鬼コーチだぜ」
夕花「(手を振り)また明日ね!」
輪島「……明日もあるのか」
  夕花と友利は一緒の道だ。
夕花「じゃあ行こっか」
友利「なぁ……少し寄り道しねぇか?」
夕花「どうしたの?」
友利「家にはまだ、帰りたくねぇんだ」

○河原(夜)
  友利と夕花、草むらに座る。
友利「中学の時はよくここら辺、走らされた」
夕花「また走る?」
  友利、ふと反対側の河原を走る、男子中学生を見る。ジャージ姿で一人だ。
友利「ずっと一緒に走ってると思ってたのに、ふと振り返ったら誰もいない。独りだった……なんて笑えるだろ?」
夕花「立ち止まってる人より、走ってる人の方がカッコイイよ」
友利「お前は、ほんとにうるせぇ奴だ」
  夕花、くしゃくしゃになったチラシを出し、
夕花「ねぇ……これ、出てみない?」
友利「なんだよ」
夕花「ストリートバスケの大会」
友利「バスケは5人でやるんだろ。俺らは」
夕花「これはスリーオンスリー。だから3人」
  友利、チラシを見つめたまま。
夕花「あの二人は友利がやるって言えば、一緒にやってくれるよ」
  友利、溜息をし、コインを取り出し、空に投げる。
夕花「ちょっと、なにそれ?!」
  友利、掴み損ね、コインは草むらに落ちる。
友利「あぁ、くっそ!」
  と、草の根を掻き分けて探す。
夕花「まったく、コイン任せ?」
友利「昔からの癖なんだよ」
夕花「何でもコインに任せて……自分じゃ何も決められないんでしょ?」
友利「お前には言われたくねぇな」
夕花「私? なにが?」
友利「バスケ部のマネージャーやったり、俺達に指導したり。そんなにバスケが好きなら自分でやれよ。外から頑張れって言うだけならなぁ、誰にだってできるんだよ」
  夕花、咄嗟に言い返そうと口を開けるが止める。それからゆっくりと、
夕花「うちの高校、女子バスケ部ね……今年廃部になったんだよ」
友利「(まだ探している)……」
夕花「必死に部員集めてみたけど、結局足りなかった」
友利「他にやり様はいくらだってあっただろ」
夕花「そうだね……だから、今度も、友利が正しかったよ」
  友利、ようやくコインを見つける。
友利「……表だ」
夕花「どっちでもいいよ」
  と、一人で帰ってしまう。
  友利、遣る瀬無く、コインを握る。

○道(夜)
  友利、のろのろと自転車を漕いで進む。
  すると、目の前の塾から、相楽が出てくる。
相楽「(友利を見つけ)……よう」
友利「(軽く会釈し)こんばんは」
   ×   ×   ×
  友利と相楽、並んで歩く。
相楽「お前と夕花、まるで恋人同士だよ」
友利「だから?」
相楽「……別に」
友利「おたくのマネージャーは相当なお節介だよ。おまけにクソ真面目だ」
相楽「褒めてくれて、ありがとう」
友利「アンタは出ないのか、ストリート何とかには?」
相楽「出たって、勝てないよ」
友利「立ち止まってる奴より、走ってる奴の方がカッコイイらしいぜ」
相楽「……なら、俺は歩くよ」

○T字路(夜)
  友利と相楽、やって来て、
相楽「俺はお前らに殴られたの、まだ許してない。でも、これでチャラにしてやる」
  と、突然、友利を殴り飛ばす。
友利「(起き上がり)っ、てめぇ!」
  相楽、友利の自転車に跨り、
相楽「これ、貰ってく」
友利「おい、ふざけんな!」
相楽「明日、学校で返してやるよ」
友利「そういう問題じゃねぇだろ! 俺の家はここから遠いんだぞ?」
相楽「なら、お前は走れよ」
  と、颯爽と自転車で去っていく。
友利「……どいつもこいつも、うるせぇよ」

○あづみ高校・一年三組(翌日)
  授業が終わり、皆帰っていく。
  夕花、荷物をまとめている。
  ボン、ボン。壁にボールが当たる音。
  夕花、窓から外を見ると、友利が一人、シュート練習をしている。
  夕花、小さく微笑み、急ぎ足で教室を出る。

○同・校舎前
  友利、ドリブルを練習している。
  升田、やって来て、
升田「お前がそんなに汗かいてるの、初めて見たよ」
友利「仕方ねぇだろ……夏なんだから」
升田「そうか~夏だもんな~だよな~」
  友利、升田を睨む。
  升田、ニヤニヤと微笑んでいる。
友利「なんだよ」
升田「いや……何でもねぇよ」
  と、一緒にシュートを打ち始める。

○同・職員室
  輪島と男性教諭、向かい合って座る。
教諭「お前は成績いいんだから、望めば何にだってなれるんだぞ?」
輪島「なりたいもん何か、ねぇよ」
教諭「……どうして(溜息)いつも変な連中とつるんで……立派なご両親が泣くぞ」
  輪島、急に男性教諭の椅子を蹴って、
輪島「親なんて関係ないだろ?」
教諭「輪島、落ち着け」
輪島「同じ血が流れてるってだけで、俺とは何の関係もないんだよ! 俺は俺で、アイツらはアイツらで、だから、だからさ……」
  と、窓の外を見る。外では友利と升田がバスケをしている。
輪島「……誰も、俺と同じ景色を見てない。……見えるわけがない」

○同・体育館
  男子バスケ部員達、練習を始めている。
相楽「夕花はどうした?」
男子A「今日は休みです。何でも父親の弟のおじいちゃんの孫の子供のお葬式とかで」
相楽「まったく……嘘が下手だな」

○同・校舎前
  輪島、やって来る。
  友利、チョークの粉を手に付け、ゴールに向かって走る。そのままジャンプし、ゴールにタッチ。
  友利の手形がゴールの中央にくっきりと付く。
友利「どうよ、俺のダンク?」
輪島「……それはノーカウントだよ」
升田「輪島、おせぇよ」
輪島「お前らが張り切り過ぎなんだよ」
升田「だって遅刻したら、うるさそうだろ。あの女」
夕花「10分前集合は部活の基本です」
  いつの間にか、升田の背後に夕花。
升田「うわっ、出やがった」
夕花「人を幽霊みたいに、言わないで下さい」
友利「お前、部活は?」
夕花「……休み」
友利「体育館からボールの音がするんだが」
夕花「(無視し)律儀に練習しに来たんだ?」
友利「不良ってのは、暇なんだよ」
夕花「……コインが表だったから?」
  友利、ボールを握ったまま、
友利「……アイスだ」
夕花「?」
友利「俺が試合で勝ったら、アイスおごれ。負けたら俺がおごってやる」
  と、シュート。
夕花「(笑い)私はハーゲンダッツでいいよ」
升田「おいおい、何の話だよ」
友利「……夏は暑いって話だよ」

○同・体育館・二階
  相楽、窓から夕花達を見下ろす。
  外では雨が降っている。
  夕花、土砂降りの雨の中、
夕花の声「友利! だから、ダンクは!」
  相楽、片づけをしている男子に、
相楽「おい! 後はいい」

○同・校舎前
  相楽、やってくる。
  友利達は、びしょ濡れだ。
夕花「ストリートは普通のバスケとは違うんだよ! 風もあれば雨もあるんだから!」
友利「雨だったら、中止だろうが!」
夕花「無駄口厳禁!」
相楽「(後ろからそっと呼ぶ)夕花」
  夕花、ようやく相楽に気づいて、
夕花「部長! すみません……今日は部活」
相楽「夕花……体育館の鍵、閉め忘れた」
夕花「え……え?」
相楽「代わりに閉めといてくれ」
  と、鍵を渡す。
夕花「は、はい。分かりました」
相楽「それからリングも戻してない。ボールも置きっぱなしだ」
夕花「(急に顔が明るくなり)はい! 部長、ありがとうございます!」
相楽「(苦笑い)俺も、嘘が下手だな」
  と、去っていく。
友利「サボりがばれたか?」
夕花「行くよ!」
輪島「行くって、どこに?」
夕花「ちゃんと、屋根のあるところ」

○同・体育館(夕)
  友利達は場所を移し、練習中。
  升田、ドリブルでゴールに走る。
夕花「ボールを掴んだら、二歩でジャンプ!」
  升田、ボールを掴み、二歩。跳ぶ。
夕花「ボールをゴールに置いて来るように!」
  升田、ボールをゴールに向けて掲げる。
  ボールはボードに当たり、ゆっくりとゴールイン。
升田「(ガッツポーズ)っしゃ!」
   ×   ×   ×
  輪島、ボールを持って立つ。
夕花「長いシュートは、腕だけじゃなくて、足のバネも使って、全身で投げる!」
  輪島、手でボールを軽く回し、膝を曲げ、立ち上がるように伸ばす。そしてジャンプと共にシュートを放つ。
  輪島のボールは弧を描き、ゴールに吸い込まれる。
  ボールはリングに触れることもなく、ネットをかすめ、垂直に入る。
輪島「ジェームズ・アレン曰く、今日という日は、この瞬間から創られる!」
   ×   ×   ×
  友利、ボールを指で回しながら、
友利「次は俺のダンクだな」
夕花「だ、か、ら! 何度言わせるの」
友利「いいじゃねぇか、人の勝手だろ」
  夕花と友利、言い合いを始める。
  その様子を壁にもたれながら、升田と輪島が見ている。
輪島「なぁ、升田……どうでもいい話をしていいか?」
升田「何だよ、改まって。いつものことだろ」
輪島「……俺は頭がいい」
升田「わざわざ教えてくれなくたって知ってるよ」
輪島「俺は大学に行ける。でもお前らは……たぶん無理だ」
升田「まぁ、俺らは馬鹿だしなぁ」
輪島「俺はいつも、お前らとは違う場所に立ってる気がする。どこでも、何をしてても、お前らとは一生、同じ景色を見れない気がするんだ」
  升田、一度驚くが、すぐに呆れ笑って、
升田「お前って時々、馬鹿だよな」
輪島「そうか?」
升田「あぁ、馬鹿だよ。うぬぼれんな」
  と、立ち上がる。
升田「これは俺の持論だけど、本を読むと馬鹿になる。他人の言葉ばっか知って、自分の言葉を忘れちまう。だから、やめろよ」
  と、煙草をくわえる。
輪島「お前こそ、やめろよ煙草。体に悪い」
  と、立ち上がる。
升田「馬鹿だなぁ。酒も煙草も、体に悪いからやるんだろ」
  友利と夕花の言い争いはまだ続く。
夕花「ダンクは危険なんだからね!」
友利「分かったよ、普通に打てばいいんだろ。普通に」
  と、ボールを構える。
夕花「分かればよろしい!」
友利「普通に打ちますよ……今は、な」
  と、シュート。
  友利が放ったボールが宙を舞う。

○同・校舎前(別日)
  宙を舞うボールを、輪島がキャッチ。そのまま友利にパス。
  2対1の練習をしている。
  次は、友利VS升田&輪島である。
友利「俺は誰にも止められねぇ」
升田「永遠の青信号なんて、ないんだぜ?」
  校舎の隅に、朝顔の芽が出ている。
輪島「そろそろ、赤になる時間だ」
友利「……俺は、信号なんて見ない」
  と、軽々としたドリブルで輪島と升田を抜いていく。そして、シュート。
  しかし、友利が放ったボールを、升田がジャンプしカット。升田は勢いよくボールを弾き飛ばす。
輪島「おい、ファールっぽいぞ?」
升田「審判がいなけりゃ、ファールなんてないんだよ!」
友利「くっそ! もう一回!」
  輪島、拾ったボールをパス。
  飛んでゆく、ボール。

○同・2階廊下~階段~3階廊下(別日)
  飛んできたボールを、友利がキャッチ。
  1階にいる、輪島からのパスだ。
  校舎の隅にあった朝顔は、雨水パイプを伝って、ツルを伸ばしている。
  友利、廊下をドリブルで進み始める。校内を歩く生徒達をかわしながらも、ドリブルが途切れることはない。
友利「よっ、よっ、よっ!」
  と、階段でもドリブル。一段一段を、器用に上って行く。
  友利、3階の廊下に出る。
  廊下の向こうには、升田。
升田「友利~パス」
友利「升田~落とすなよ!」
  と、升田にパス。
  廊下を真っ直ぐ飛んでいくボールは、危うく男性教諭に当たりかける。
友利「……あ」
男性教諭「(驚いて)お、お前ら! 校内で何やってる?!」
  と、升田に向かって走っていく。
輪島の声「升田! パス!」
  1階にいる輪島が手を挙げている。
升田「輪島~落とすぞ!」
  と、キャッチしたボールを、輪島に向かって投げる。
  ボールが弧を描き、飛んでゆく。

○同・体育館(夕)(別日)
  弧を描いたボールは、ボードに当たり、リングの周りを回って、結局入らずに落ちる。輪島の放ったボールだ。
輪島「(汗を拭い)……遠いんだよ」
  と、次のシュートを打ち始める。
  パイプに伸びた朝顔が、花を咲かせる。
  友利、升田、輪島、スリーポイントラインから次々とシュートを打つ。
  夕花、落ちたボールを即座に回収し、友利達に投げ返す。
升田「(汗を拭い)地球温暖化、反対」
  と、徐に煙草を取り出す。
夕花「ここ、禁煙!」
升田「ん~? 聞こえねぇなぁ!」
  と、言いつつ煙草をしまう。
輪島「やけに素直じゃないか?」
升田「ぜ~んぜん、聞こえねぇなぁ!」
  と、手で両耳を塞ぐ。
  夕花、友利にボールを投げ、
夕花「一本!」
  友利は二、三度ドリブルをつき、
友利「……言われなくても」
  と、深呼吸一つ、シュートを打つ。
  放たれたボールが、回転しながら、宙を舞ってゆく。

○市民体育館前・屋外コート(別日)
  宙を舞うボールは――――ゴールイン。
  友利、人差し指を空に掲げ、
友利「一本! 頂きました」
  試合当日である。
  『5対15』
  得点番が得点をめくり、『5対16』

○市民体育館前
  体育館前の駐車場にバスケットコートが三つ設置されている。そのコートで各々の試合が執り行われる。
  テントの下には、スコアとタイムが置かれている。
  観客はコートの外に設置された応援席から声援を送る。
  選手は高校生から社会人までの男性。
  選手たちの黒い影がアスファルトに伸びている。
  体育館の壁には、試合結果が示される。
  その中に『クローバー・クラブ』の名。

○同・応援席
  夕花、友利達の試合を応援している。
  友利、レシーブのようにボールを打ち上げる。
  ボールはボードに当たり、跳ね返る。
  それをキャッチする升田。ボールを相手選手の股の下を通して、輪島にパス。
夕花「友利! 升田! 輪島!」
  輪島のツーポイントシュートが決まり、歓声が上がる。
夕花「いいぞぉ! 輪島!」
  そこに相楽がやって来る。
相楽「俺達の応援より身が入ってる」
夕花「(突然で驚き)ぶ、部長?!」
相楽「な~んてな。冗談だよ」
  次は升田がレイアップを決める。
夕花「いいぞぉ! 升田!」
  相楽、夕花と並んで試合を見る。
相楽「目覚ましい進歩だ。きっとコーチがいいんだな」
夕花「元々の運動神経がいいんですよ」
相楽「ド素人が一か月足らずで、アマチュアと互角に戦える力を持った。コーチがいなきゃ無理な話だ」
  友利、ボールを体の周りで回し、相手を翻弄している。
相楽「でも、アイツらは何も知らない。確かに強くはなったが、バスケ選手としては、まだ赤子だ」
  友利、ボールを地面の上で滑らせるようにして、相手を抜き去る。
相楽「始めたばかりで、バスケのいい所しか知らない。まだ誰かに負けたことも、才能の有無で悩んだこともない。バスケはただのバスケ。だから……」
夕花「……でも、みんな凄く楽しそうです。学校じゃ絶対にあんな顔しません」
  コートを走る友利、升田、輪島は皆汗をかきながら、微笑んでいる。
相楽「まったく(苦笑い)ムカつく顔だよ」
  友利のシュートが決まった。
相楽「まったく、懐かしい顔だ」

○同・屋外コート
  『クローバー・クラブ対風林火山』のスコアは『18対11』
  ピイィー。試合終了のホイッスル。
  友利、升田、輪島、円になって互いの人差し指を天に掲げる。
友利・升田・輪島「おおおおぉぉぉぉぉ!」
  トーナメント表。クローバー・クラブは次の試合が準決勝である。

○同・ベンチ
  舛田、地面に寝転がり、
  舛田「また今日は一段と夏らしいな」
夕花「はい、お水」
  と、輪島と友利にも同様に手渡す。
輪島「野比のび太曰く、寒さは厚着すれば防げるが、夏は裸になっても暑い」
升田「それは、名言なのか……」
夕花「まさか次で準決勝なんてね」
友利「一番驚いてんのはこっちだよ」
輪島「ま、見たところアマチュアの参加が多いみたいだからな」
舛田「なら楽勝じゃん」
相楽「けど」
  いつの間にか、後ろには相楽がいる。
舛田「お前、いつから」
相楽「次のチームは予選で俺らの高校が負けたところだ」
友利「だから?」
相楽「……別に」
  友利、立ち上がって、
友利「じゃあ楽勝だな」
  と、コートに向かう。
  舛田、煙草をくわえ一服しようとするが、すぐに止めて、吐き出す。
  輪島も読みかけの本を閉じて、升田と共にコートへ向かう。

○同・屋外コート
  友利、升田、輪島が立つ。
  向かい合うのは男子三人。鴨志田(17)、鶴岡(17)、鷹野(17)。
  鴨志田、友利達の靴を見る。
  皆、普通のスニーカーだ。
  片や、鴨志田達はバスケットシューズ。
鴨志田「(小馬鹿にした笑い)フッ」
友利・升田・輪島「(睨みつけ)チッ!」
  男性審判、やって来て、
審判「準決勝、クローバー・クラブ対シーバード!」

○同・応援席
  相楽と夕花、並んで試合を見る。
相楽「クローバー・クラブって、意味が重複してないか?」
夕花「私が名付け親なんですけど」
相楽「大体、どんな部活だよ?」
夕花「穏やかに校庭で三つ葉を摘む部活」
相楽「アイツらには最も似合わない部活だ」
夕花「スリーオンスリーだから三つ葉」
相楽「……じゃ、ないだろ?」
夕花「……はい」
相楽「四葉のクローバーってのがあるもんな」
夕花「上手く四枚目の葉っぱになれればいいですけど」

○同・屋外コート
  ピイィーと開始を告げる、ホイッスル。
  タイマーがスタート。5分だ。
  先行はクローバー・クラブ。
  友利、すぐに舛田にパス。
  舛田、ドリブルで鶴岡を抜き去る。
  舛田のブロックに入る鷹野。
  舛田、ジャンプして空中で輪島にパス。
  輪島、ツーポイントラインからシュート。ボールはゴールに吸い込まれるように、イン!
   ×   ×   ×
夕花「やった!」
相楽「(小さくガッツポーズ)」
   ×   ×   ×
  鴨志田、友利と向き合い、
  鴨志田「お前ら、あづみ高の不良だろ?」
友利「知らねぇな、そんな高校は」
鴨志田「一つ言っとくぞ」
友利「(男子Aにボールを渡し)は?」
鴨志田「高校バスケをなめるな」
  と、そのままツーポイントラインからシュート。ゴールイン。
  客席から小さな歓声が飛ぶ。
舛田「ようやく、本物らしいバスケができる」
  両者のシュートがどんどん続く。
  舛田のレイアップ。
  鶴岡のジャンプシュート。
  友利のクラッチ。
  鷹野のフリースロー。
 『クローバー・クラブ対シーバード』の得点は『10対7』から、『15対13』になり、『17対19』に。
  汗だくになっている舛田や輪島。
友利「もう限界か?」
舛田「なめんな。これは、煙草の吸いすぎだ」
  残りタイムは75秒。
  鴨志田、軽やかに、見せつけるようにドリブルし、
鴨志田「このままパス回し続けても、勝てるんだけどな」
友利「馬鹿にしてんじゃねぇぞ」
鴨志田「暴言はファールだ」
友利「俺は体育館も、きちんとしたコートも持ってる、温室育ちとは違うんでね」
鴨志田「どうりで……プレーに無駄が多いと思った」
  と、ドリブルで友利を抜く。
友利「あぁ! くそったれぇ!」
  舛田、ブロックに入るが、鴨志田は素早く鶴岡へパス。
  鶴岡、そのままシュート、イン。
鶴岡「付け焼刃のバスケしやがって」
鷹野「お前らとは練習量が違うんだよ」
  スコアは『17対20』
  残り45秒。
  友利、ドリブルで進もうとするが鴨志田と鶴岡に阻まれる。
  舛田も鷹野に阻まれ進めない。
輪島「友利!」
  いつの間にか輪島が友利の背後に。
  友利、後ろ手に輪島へパス。
  鴨志田、輪島を止めに走るが、友利にブロックされる。
  輪島、ツーポイントラインの外からシュート。ボールは一度、ゴールに当たって跳ね、そして何とかゴールイン。
   ×   ×   ×
相楽「っしゃあ!」
  夕花、相楽を見る。
  相楽、気まずく、
相楽「……もう一本」
   ×   ×   ×
輪島「違うものを見てたんじゃない。あまりに自分が遠くを見ていただけだ!」
舛田「今度は誰の言葉だよ?」
輪島「これは……俺の言葉だ」
  『19対20』
鴨志田「でも、あと10秒じゃ」
  と、ドリブルした瞬間、舛田が走りこんでくる。
舛田「うおおおぉぉぉ!!」
  と、転がり込むように鴨志田のボールをカット。
鴨志田「くっそ! ファールだろ!」
  男性審判、首を横に振っている。
舛田「友利!」
  と、友利にパス。
友利「?!」
  友利、輪島を見るが鶴岡と鷹野にマークされている。
  友利、ゴールを見上げ、笑う。
  太陽が重なり、ゴールが見えない。
友利「ったく……これだから、夏は」
  と、シュート。
  ボールは弧を描き、ゴールへ。
  残り、3秒。
  皆の視線が宙を舞うボールに。
  残り2秒。
  ボールはゴールへ吸い込まれる。が、リングに当たって跳ね返る。
  相楽の顔に落胆の色。
夕花「……友利!」
  残り1秒。
  そこへ友利が勢いよく走り込んでくる。
  舛田も輪島も夕花も、唾をのむ。
  友利、ボール目がけてジャンプし、空中でボールを掴んだ。その瞬間―――ピイィ! ホイッスルが鳴る。
夕花「(肩を落とし、愕然)」
  タイムは0秒。
  だが、友利はボールを掴んだままだ。
  鷹野、友利を防ぎきれない。
  升田も輪島も、驚いて友利を見る。
  友利、ボールをゴールに叩きつける。
  ガッタッン!!
  ボールはネットをくぐり、ゴールイン。
  地面に落ちたボールがバウンドして、転がってゆく。
  観客席に広がる沈黙。
審判「ノーカン! ノーカン!」
  鴨志田、驚いていたが、すぐに自分達の勝利を知り、歓声を上げる。
  舛田、輪島、相楽、夕花、黙って友利を見つめる。
  友利、ダンクを決めたままリングにぶら下がり、そのまま降りようとしない。
  顔は影になって、見えない。
  地面ではボールが転がり続けている。

○同(夕)
  表彰台に上がった男性三人。みな二〇代後半の社会人チームだ。
  ボードに順位が出ている。
  クローバー・クラブは4位である。

○同・屋外コート
  試合も終わり、観客は皆帰った後だ。
  升田と輪島、コートの上に寝転がる。
升田「……いやぁ、結果はどうあれ。よくやったよ。俺達は」
輪島「あぁ」
升田「初めての試合にしちゃ、上出来だろ。元々は素人なんだし、あんだけ練習した……ってか、させられたんだ。負けたって、誰も文句は言わねぇよ。なぁ?」
輪島「やめろよ」
升田「は?」
輪島「これ以上、思ってもないこと言うのは」
  升田、輪島を見つめ、黙ってタオルを自分の顔にかける。
輪島「お前のそういう顔、初めて見た」
升田「……夏だから、な」
輪島「……意味分かんねぇよ」

○同・ベンチ
  友利、座って地面を見つめている。
  地面には死んだ蝉が一匹。
  後ろから夕花が歩み寄っている。
  その夕花を抜き去り、相楽が友利の隣に座る。
相楽「お前、バスケ部に入らないか?」
友利「同じようなこと、前に聞いたよ」
相楽「今回は本気で聞いてるんだが」
友利「部活の上下関係は嫌いなんだ。特に、部長ってやつがな」
相楽「そうか……お前となら、良いとこまで行けると思ったんだけど」
友利「俺は負けたんだぞ?」
相楽「だからだよ。負けた奴は、強くなる」
友利「なら、アンタも見込みがあるな。同じ負け組だ」
  相楽、笑い、立ち上がって、
相楽「夕花、来週の練習は7時からに変更だ。部員にもそう伝えてくれ」
夕花「は、はい!」
友利「独りで張り切るのは、止めとけよ」
相楽「仕方ないだろ。久しぶりに本気でバスケがしたくなったんだ……お前のせいだ」
  と、去っていく。
  友利、立ち上がって、
友利「夕花……そろそろ帰るか」

○河原(夕)
  友利、舛田、輪島、夕花、一緒に帰る。皆一様に黙ったままだ。
  友利、ふと立ち止まる。他の三人も一緒になって立ち止まる。
友利「……いい汗かいたよ」
升田「負けちまったけどな」
輪島「結果なんか関係ない……なんて言える奴は元々、本気じゃないんだ。たぶん」
夕花「まだ大会は他にもあるよ。今年の秋にも来年の春にも、また次の夏にも」
  友利、徐にコインを取り出す。
夕花「友利達がその気なら、またやらない? ……私はやりたい」
  友利、コイントスをして、コインを手の甲でとらえる。
升田「友利がやるなら俺も」
輪島「俺も……どうせ暇だ」
  夕花、升田、輪島、友利を見つめる。
  友利、そっと手を除けコインを見る。
  裏だ。
夕花「……友利」
  友利、升田を見て、輪島を見て、夕花を見る。
友利「……足りねぇ」
夕花「え?」
友利「汗が……かきたりねぇ」
  ニッと笑い、ゆっくりとコインを裏返す。
  コインは裏から、表へ変わる。
夕花「(笑い)今日のアイス、忘れないでね」
友利「ったく、せっかく忘れてたのに」
  と、コインを空に放り投げる。
  友利、夕花、升田、輪島、笑いながら、また一緒に歩き始める。
  反対側の河原を走っていく、ジャージ姿の男子中学生達。
  僅かに青みがかった夕日。
  友利の投げたコインが宙を舞い、小さな音を立てて、地面に落ちる。

                            (了)

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