俺たち少年強盗団 ドラマ

「刑法第四一条、十四歳に満たない者の行為は、罰しない」 夏。小学生による銀行強盗事件が発生した。小学校教師・大岐正人(33)と刑事・久里亮太(33)は、それぞれの立場でこの事件に関わっていく。果たして「刑法では裁かれない」少年強盗団の正体とは……?
マヤマ 山本 3 1 0 11/27
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第一稿

<登場人物>
大岐 正人(33)(10)小学校教師
久里 亮太(33)(10)刑事、大岐の小学生時代の同級生
木下 潤平(33)(10)タクシーの運転手、同
椎名(十和田) ...続きを読む
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<登場人物>
大岐 正人(33)(10)小学校教師
久里 亮太(33)(10)刑事、大岐の小学生時代の同級生
木下 潤平(33)(10)タクシーの運転手、同
椎名(十和田) 佳代(33)(10)銀行員、同

後藤 啓二(27)刑事、久里の部下
小坂部 喬子(38)同、久里の先輩
押川 絵理(25)小学校教師、大岐の後輩
久里 杏奈(34)久里の妻
校長(60)
女性行員
隣人
担任教師

師匠(10)大岐の受け持つ生徒
生徒A~D 同
生徒E~G 大岐の小学校時代の同級生
少年A~D

佳代の母 声のみ



<本編>
○桜田BNK臨海銀行・外観
   T「2019年 夏」

○同・中
   通常営業中の行内。
   そこに動物の覆面を被った少年三人組が入ってくる。全員、身長は一四〇センチ程でランドセルを背負っている。少年Aは入り口付近にとどまり、少年B、Cは奥へ。少年Aの元には警備員がやってくる。
警備「僕、(覆面を指して)ソレは外してくれるかな?」
   無言で少年B、Cを見ている少年A。
警備員「僕、聞いてる?」
少年A「……うっせぇな。動くな!」
   警備員、銀行員、客にそれぞれ拳銃を向ける少年A、B、C。
少年A&B&C「強盗だ。手を上げろ!」
   一瞬緊張が走るも失笑に変わる行内。
警備員「いい加減にしなさい。僕達、どこの小学校? イタズラにも程が……」
   窓に向けて発砲する少年A。拳銃が本物とわかり、悲鳴をあげる客達。
少年A「シャッターを下ろせ。これ以上、客を入れるな」
警備員「は、はい」
   窓口に立つ椎名佳代(33)に銃口を向ける少年B。
少年B「(三人分のランドセルを置き)コレに入るだけ金を詰めろ」
   黙ってうなずく佳代。
   客達に銃口を向ける少年C。
少年C「テメェらは全員奥に固まれ。好き勝手動くと、どうなるか知らねぇぞ?」
少年A「アンタ達を殺そうが何しようが、俺達は刑法じゃ裁けねぇ。何故なら……」
後藤の声「『何故なら、俺達は少年強盗団だからだ』」

○同・外
   複数の警察車両が停まっている。警察官や野次馬も多数。その中に居る久里亮太(33)と後藤啓二(27)。
後藤「犯人はそう言っていたそうです」
   車両に拳を叩きつける久里。
久里「ガキが、ナメやがって」

○メインタイトル『俺たち少年強盗団』

○宮川小学校・外観
   「宮川小学校」と書かれた看板。
   T「4か月後」
大岐の声「刑法、第四一条」

○同・四年一組・前
   「四年一組」「担任 大岐正人」と書かれた表札。
大岐の声「十四歳に満たない者の行為は、罰しない」

○同・同・中
   ホームルーム中。教壇に立つ大岐正人(33)。
大岐「つまり、みんなは何を盗もうが、何を壊そうが、誰を殺そうが、少なくとも刑法では裁かれません。もちろん、親御さんに責任は及ぶかもしれませんし、少年法もあります。けどみんな個人は、刑務所にも入りませんし、前科も付きません」
生徒A「先生。その話と『イジメは止めましょう』って話は、関係あるんですか?」
生徒B「そうそう。何か『イジメても警察に捕まらないよ』って言ってるみたい」
大岐「そう? 先生はむしろ逆だと思うけど」
生徒B「逆?」
大岐「イジメている相手が逆上して、ケガさせても、殺しても、やっぱり刑法では裁かれません。そう考えると、怖くない?」
   いじめられっ子と思しき生徒の後ろ姿。
大岐「だから、イジメは止めといた方がいいんじゃない? って話でした」
   チャイムが鳴る。
大岐「では、みんな良い冬休みを」
絵理の声「先生」

○同・職員室・前
   「職員室」と書かれた表札。
絵理「大岐先生」

○同・同・中
   隣同士の席に座る大岐と押川絵理(25)。
大岐「あぁ、押川先生。何か?」
絵理「『何か?』じゃないですよ。隣のクラスから聞こえましたよ? また『刑法が何ちゃら』って話、してましたよね?」
大岐「彼らには知る権利、学ぶ権利があり、僕らは教職という立場にある。何かおかしいですか?」
絵理「子供達にそんな話していいのか、って事ですよ。それで子供達が何か事件起こしたりしたら、責任取れるんですか?」
大岐「残念ながら、僕は責任ある立場ではないんでね。責任を取るとしたら、校長、教頭、教育委員長、あるいはその生徒の親御さんが……」
絵理「またそうやってはぐらかす。先生、お忘れですか? 夏休みに市内の銀行で、小学生らしき三人組の強盗が一億円を奪って逃げた、って事件」
大岐「もちろん、覚えてますよ」
絵理「ウチの生徒が、そういうのをマネたりしないように指導するのが、教職という立場にある私達の責任で……」
   笑い出す大岐。
絵理「何がおかしいんですか?」
大岐「いえ。若いっていいな、って思っただけですよ」
絵理「……バカにしてます?」
大岐「いやいや、本当に。生徒達や、押川先生みたいな若い人達には、僕みたいな大人にならないで欲しいなと思ってます」
絵理「はぁ」
大岐「……冬休み中に起きますかね?」
絵理「何が?」
大岐「銀行強盗」

○つくし銀行・外観

○同・中
   通常営業中の行内。
   そこに目出し帽を被った四人組の小学生が入ってくる。それぞれの手にはモデルガン。
少年D「強盗だ!」
   警備員や周囲の客等、手当り次第に拳銃を向ける少年達。
少年D「強盗だぞ、金を出せ!」

○警察署・外観

○同・会議室
   会議机を挟み向かい合って座る久里と少年Dら小学生四人。机の上に使用した目出し帽やモデルガンが置いてあり少年Dらは皆泣いている。
   そこに入ってくる後藤。
後藤「お待たせしました、久里亮太係長。生活安全課少年係、小坂部喬子巡査部長をお連れしました」
久里「長い。略せ」
   続いて入ってくる小坂部喬子(37)。
喬子「よっ、R」
久里「略しすぎだ」
喬子「階級が上になったからって偉そうに」
久里「実際、偉いんだよ。さっさとそのガキども連れてけ」
喬子「はいはい」
   少年D達の元に向かう喬子。
喬子の声「結局、イタズラだったね」

○同・刑事課(夜)
   隣同士の席に座る久里と後藤、その傍らに立つ喬子。他の二人に缶コーヒーを手渡す喬子。
喬子「はい、コレ。手柄いただいたお礼」
後藤「ありがとうございます」
久里「(缶コーヒーを受け取って)……」
喬子「何?」
久里「イタズラじゃなくて、模倣犯」
喬子「あいかわらず、少年事件に厳しいね。Rは」
久里「だから、略しすぎだ」
後藤「ところで、小坂部喬子巡査部長」
久里「だから、略せ」
後藤「やっぱり、今日の子供達は、少年強盗団とは別人だったんですか?」
喬子「うん。まぁ、人数も違うし、銃もオモチャだったし、そもそもヘタだったよね。っていうか、改めて少年強盗団の緻密さがわかった感じ。見てみる?」
    ×     ×     ×
   少年D達の犯行を映す防犯カメラの映像。全員が入口付近でモデルガンを突きつける等、無駄の多い動き。
喬子の声「今日の子達は、入って来るなりすぐに『強盗だ』って言ってたみたい」
後藤の声「それで、防犯ベルを鳴らされたんでしたよね?」
喬子の声「そう。一方、少年強盗団は……」
    ×     ×     ×
   少年A達の犯行を映す防犯カメラの映像。ふざけ合いながら行内の奥まで入って行く少年BとC。
喬子の声「まず、ふざけ合いながら二人が奥まで入って行く。ランドセルも背負ってるし、この時点では遊んでる子供、としか認識されない。そして」
   三人が拳銃を構えた所で一時停止。
喬子「奥まで入ってから、拳銃を構える。これじゃ、防犯ベルは鳴らせない」
    ×     ×     ×
   席に座る久里と後藤の席に座る喬子、その傍らに立つ後藤。二台のノートパソコンで二種類の映像を比較中。
喬子「その後の役割分担もスムーズだし、ランドセルは現金の持ち運びにも使ってる。合理的だよね」
後藤「でも、逃走にはタクシーを使ったんでしたよね? たまたま、迎車用に停まっていたタクシーを、拳銃で脅して」
喬子「たまたまかな? 逃走手段って一番大事なところだから……」
後藤「でも運転手の(メモを見て)木下さんは、前科もないですし、小学生との接点もないですからね」
喬子「あと共犯の可能性があるとしたら、タクシー会社に電話した人物。声から推定するに、成人男性」
後藤「その男性が電話口で名乗った名前が、クリさん……」
   久里に視線を送る喬子と後藤。
久里「なぁ、小坂部さんよ。この計画、何か聞き覚えないか?」
後藤「え、無視ですか?」
久里「……あ? タクシー呼んだのが俺だって言いたいのか?」
後藤「いえ、そういう訳では……」
喬子「聞き覚えなんてないけど? 何で?」
後藤「いや、俺の頭にはチラッとあんだよ」

○(回想)大岐家・正人の部屋
   断片的な映像。
   作戦を練る正人(10)、亮太(10)、木下潤平(10)。
久里の声「ガキどもが銀行強盗の話して、やれランドセルだ、やれタクシーだって話してた記憶がな」

○警察署・刑事課(夜)
   席に座る久里と後藤の席に座る喬子、その傍らに立つ後藤。
久里「てっきり、少年課時代の記憶かと思ったんだけどな……」
喬子「そういう事なら、一応過去の案件洗ってみるけど……Rがウチに居た頃、少年強盗団はもっと小さかった訳で……」
久里「わかってる。今はそんだけ手づまりだって事だ。(立ち上がり)帰るか」

○官舎・外観(夜)
久里の声「ただいま」
杏奈の声「おかえり」

○同・久里家・居間(夜)
   帰ってくる久里。キッチンに立つ久里杏奈(34)。
杏奈「ねぇ、今度の土曜日、ちゃんとお休み取れそうなの?」
久里「土曜?」
杏奈「亮仁の1/2成人式。前から言ってたでしょ?」
久里「あ~、それか。わかってるわかってる」

○官舎・外観(朝)
   フォーマルな服装で並んで歩く杏奈と久里。
杏奈「あ~、亮仁、ちゃんと出来るかな?」
久里「お前が緊張してどうすんだか」
   久里のスマホに着信。
久里「(電話に出て)はい、久里。……わかった。すぐ行く」
杏奈「え?」
久里「悪い。事件だ。あとは任せたぞ」
杏奈「ちょっと、息子の晴れ舞台より仕事?」
久里「犯罪者がうろついてる街に住まわすよりはマシだろ」
   走り去る久里。
杏奈「もう……」

○宮川小学校・外観

○同・四年一組・中
   1/2成人式が行われている。生徒が一人ひとり、前に出て発表しては拍手が起きる。教室の後方には杏奈ら保護者。教員席からその様子を見守る大岐。
   続いて前に出てきた師匠(10)。
師匠「……くだらねぇ」
   ざわつく教室内。
師匠「こんな、大人喜ばすだけの式、何の意味があんの? 俺らの人生、アンタらの自己満のためにあるんじゃねぇんだよ」
   持っていた手紙を床にたたきつけ、席に戻っていく師匠。
生徒C「いいぞ~、良く言った!」
生徒D「さすが師匠!」
   それを見ている大岐、笑いをかみ殺している。
絵理の声「何か、大岐先生のクラスは大変だったみたいですね?」

○同・職員室
   並んで席に座る大岐と絵理。
絵理「保護者の方からの非難、凄かったんじゃないですか?」
大岐「まぁ、全ては僕の指導の賜物……じゃなくて、不行き届きですからね。甘んじて受けますよ」
絵理「ちなみに、その子は何で『師匠』って呼ばれてるんですか?」
大岐「さぁ? 弟子でもいるんじゃないですかね?」

○田所信用金庫・外観
   防犯ベルの音。そして発砲音。
    ×     ×     ×
複数の警察車両が停まっており、後藤、喬子ら警察官の姿も多数。
喬子「撃たれた警備員の容態は?」
後藤「意識不明の重体だそうです」
喬子「とうとう人が撃たれたか……」
後藤「今までいろんな偽物が居ましたけど、今回は本物の少年強盗団なんですかね?」
喬子「本物の拳銃が小学生の間に流通してるなら、違う可能性もあるけどね」
後藤「そうですよね……」
喬子「でも、疑問に思う気持ちもわかる。同じ子達だとしたら、今回は杜撰すぎる」
後藤「そうなんですよ。そこが気になって」
喬子「……で、Rは?」

○桜田BNK臨海銀行・外観(夕)

○同・別室(夕)
   女性行員に聞き込みをする久里。
行員「そうですか。二件目が……」
久里「ところで、一件目の時、少年強盗団と直接やり取りしていた行員の方は?」
行員「椎名さんですか? あの事件の後、辞めてしまいました。やっぱり、ショックだったんじゃないでしょうか? あの時も相当おびえていた様子でしたし」
久里「と言いますと?」

○(回想)同・中
   事件当時。少年Bに銃を突き付けられ、金をランドセルに詰めている佳代。その机の下、少年達の死角になる位置にいる行員。防犯ベルに手を伸ばす。
行員の声「私、ちょうど彼らに見つからない位置にいたんです。なので、防犯ベルを鳴らそうとしたら……」
   札束を行員の方へ落とし、バラまいてしまう佳代。
少年B「(行員に気づき)お前、そこで何してるんだ?」
行員「ご、ごめんなさい……」
行員の声「アレは本当、怖かったですね」

○同・別室(夕)
   行員に聞き込みをする久里。
行員「今思うと、よく撃たれなかったな、って思いますよ」
久里「撃てなかった……?」
行員「え?」
久里「いや、何でも。無いと思いますが、もしまた強盗が襲ってきたら、無茶はしない事をお勧めしますよ」
行員「そうします」
久里「ところで、その椎名さんのお宅、わかりますか?」
行員「あ~。人事に聞けば、多分……」

○アパート・外観(朝)

○同・通路(朝)
   ドアの前に立つ久里と後藤。インターホンを鳴らすも誰も出てこない。
久里「(ドアをノックし)椎名さん?」
後藤「留守ですかね?」
   隣の部屋から出てくる隣人。
隣人「お隣さんなら、先月引っ越しましたよ」
後藤「……何か、こういうのを聞くと『刑事になったんだな』って実感しますね」
久里「ったく、刑事ドラマの見過ぎだ」
   久里のスマホに着信。
久里「勤務中に電話してくるな……亮仁が?」

○官舎・久里家・亮仁の部屋・前(朝)
   通話中の杏奈。以下、適宜カットバックで。
杏奈「そうなの。『今日は学校に行きたくない』って。部屋から出てこないの」
久里「この間の1/2成人式とやらで、何かあったのか?」
杏奈「いや、特には。『警察官にはなりたくない』って言ってたくらい」
久里「それは別に問題ない」
杏奈「ねぇ、どうしたらいい?」
久里「とりあえず、休みたいなら今日くらい休ませてもいいだろ。あとは明日次第だな。じゃあ。(電話を切り、後藤に)次、行くぞ」

○警察署・外観(夜)
喬子の声「一応、ウチの管轄の事件だからさ」

○同・刑事課(夜)
   各々の席に座る久里と後藤。その傍らに立つ喬子。
喬子「気持ちはわかるんだけど、手、引いてくれないかな?」
久里「そういう訳にはいかないな」
後藤「今日、最初の事件で少年強盗団を乗せたタクシーの運転手さんを訪ねまして」
喬子「確か……木下って人だったっけ?」
後藤「既に退職されてました」
久里「しかも、職場に『自宅の住所』として届けていた場所は……」

○(回想)レストラン・外
   店の前に立つ久里と後藤。
久里の声「レストランだった」

○同・刑事課(夜)
   各々の席に座る久里と後藤。その傍らに立つ喬子。
喬子「怪しいね」
久里「それだけじゃない。同じ事件で銀行の窓口に立っていた椎名佳代も退職、既に自宅はもぬけの殻だった」
後藤「もちろん、お二方とも勤務中に拳銃を突き付けられる、という恐怖体験をされています。退職されたとしてもおかしくはないかもしれません」
喬子「でも、二人ともとなると……」
久里「事件に関わっている可能性はある。だとすればこれは少年犯罪じゃない。ウチの管轄でもあるハズだ」
喬子「……今回の事件で使用された拳銃なんだけどね」
後藤「何かわかったんですか?」
喬子「二三年前に起きた、暴力団組員殺害事件で使われた拳銃と、線状痕が一致したんだと」
久里「二三年前? 俺が一〇歳の時か」
喬子「当時の捜査資料によると凶器となった拳銃の行方はつかめないままだったとか」
後藤「だとしても、今の子供達が手に入れられるようなものじゃなさそうですね」
久里「その辺も含めて、今後はウチと少年課との合同捜査、って事でいいんだな?」
喬子「いや、Rは手を引いて」
久里「略すな」
後藤「何でですか?」
喬子「……今回の事件。月曜日の昼間に起きてる。普通の小学校なら、授業中」
久里「つまり、その日学校を休んでいるガキが少年強盗団、って事だ」
後藤「近隣の小学校だけで、何人くらいいるんですかね?」
喬子「そこまでは数えてないけど、一つだけわかった事がある」
久里「何だ?」
喬子「その事件の二日前にあたる土曜日、とある小学校で1/2成人式っていうのがあったんだって」
久里「!?」
喬子「その代休として、その学校の四年生全員、午前中で授業を切り上げてた」
後藤「めちゃくちゃ怪しいじゃないですか。どこの学校ですか?」
久里「……宮川小学校か?」
後藤「え?」
喬子「Rの息子さんが関わってない、って確信が得られるまでは、手、引いて」
久里「……」
喬子「(後藤に)じゃあ、明日私と二人で宮川小に話聞きに行こう」
後藤「わかりました。小坂部喬子巡査部長」
久里「……」
後藤「刑事課強行犯係、後藤啓二巡査長がお供いたします(と言って久里を見る)」
久里「……」

○宮川小学校・外観

○同・校長室・前
   「校長室」と書かれた表札。
校長の声「ウチの生徒が、ですか?」

○同・校長室
   向かい合って座る喬子、後藤と絵理、校長(60)。
校長「そんなまさか……あり得ません」
喬子「もちろん、まだ可能性の話です。ただ、もし少年強盗団が『同じ学校の同じクラスの三人組』だとすると、コチラの学校の可能性が一番高くなる、という話で……」
後藤「何か、気になる生徒さんが居たりとか、しませんかね?」
絵理「あの……生徒じゃないんですけど、変な授業をしている先生がいて」
喬子「変な授業?」
絵理「一四歳未満の者は、刑法では罰せられない、みたいな」
   顔を見合わせる後藤と喬子。
後藤「(小声で)未公表の情報ですよね?」
   小さくうなずく喬子。
喬子「その先生というのは一体……?」
校長「四年一組を受け持っている大岐先生ですね。先ほど声はかけたので、もう間もなく来る頃だと思いますが……」
   ノックの音。
校長「噂をすれば、ですかね。どうぞ」
   ドアが開き、入ってくる久里。
久里「お邪魔しますよ」
喬子「R!?」
校長「どちら様ですか?」
後藤「刑事課強行犯係係長、久里亮太警部補です」
久里「略せ。それに、今日はそうじゃない。一保護者として、息子の担任教師に会いに来ただけだ」
   久里に続いて入ってくる大岐。
大岐「噂になっていた、大岐です」

○同・四年一組・前(夕)
大岐の声「どう? 懐かしい?」

○同・同・中(夕)
   教壇に立つ大岐と、適当な席に座る久里、後藤。
久里「そんな昔の事、覚えてない」
大岐「冷たいな、久里君」
後藤「久里『君』?」
大岐「僕と久里君は、小学校の同級生なんですよ。しかも、この学校の」
後藤「え!?」
久里「俺は小四の途中で転校したから、卒業はしてないけどな」
後藤「それなのに、よく覚えてましたね」
大岐「家庭訪問の時に、宮川小の卒業生とか、親子三代で警察官とか、そんな話が出て『もしかして』って」
久里「で、その話をさっき廊下でされた」
大岐「感動の再会だね」
久里「……そういえば、俺、お前の事なんて呼んでた? 『大岐』じゃないよな? 何かあだ名があったような……」
大岐「何だったっけね?」
久里「まぁ、いいや。大岐先生よ。そろそろ本題に入ろうか。お宅の生徒で、何か不審な行動を見せているヤツ、居るか? 暴力的なヤツとか、急に金回りが良くなったやつとか」
大岐「学校を休み始めた生徒とか?」
後藤「それ、凄く怪しくないですか?」
久里「……」
大岐「まあ、もし居たとしても、自分の生徒を売るような事は言わないよ」
久里「もし居たとしたら、お前が刑法の話をしたせいになるのかもな」
大岐「あれ? あの話を僕に最初に教えてくれたの、久里君だったんだけど?」
久里「え?」
後藤「そうなんですか?」
久里「覚えてないが、やってそうだな」
大岐「それに、ニュース番組でも犯罪の手口は紹介されるし、少年漫画でも殺人のトリックは学べる。その上で、犯罪に手を染めるかどうか、その一線を越えるかどうかは本人次第でしょ?」
久里「無責任な教師だな」
大岐「仕方ないでしょ? 担任教師なんて、責任とれるほど、偉くないんだから。本当に責任を取るのは校長か、本人の自己責任か、あるいは、親か」
久里「親……」
久里の声「亮仁!」

○官舎・外観(夜)
久里の声「亮仁、開けろ!」

○同・久里家・亮仁の部屋・前(夜)
   ドアを激しく叩く久里。
久里「亮仁! お前、月曜の午後何してた? 学校が早く終わって、どこで、誰と、何してた!? 答えろ!」
   久里を止める杏奈。
杏奈「あなた、止めて……」
久里「何で学校に行こうとしない? 何があった? 言ってみろ!」
杏奈「(涙ながらに)お願い、もう止めて!」
   動きを止め、肩で息をする久里。
杏奈「今日はもう遅いから、せめて、明日にして。お願いだから……」
   ドアの向こう側を凝視する久里。最後にもう一度、ドアを殴りつける。

○警察署・外観

○同・刑事課
   各々の席に座る久里と後藤。
後藤「この部屋、暖かくていいですね。僕の部屋、エアーコンディショナーのリモートコントローラーが壊れてしまって、今使えないんですよ」
久里「……」
   ため息をつく後藤。そこにやってくる喬子。
喬子「R。K。掴んだよ。少年強盗団のしっぽ」
久里「何!?」
喬子の声「非公式に採取した音声サンプルだったんだけど」

○同・取調室・裏
   マジックミラー越しに取調室を覗き見る久里、後藤、喬子。刑事達の姿で、被疑者の姿は見えない。
喬子「声紋鑑定で一致してね。任意で引っ張ったら、自白したらしい」
久里「……」
正人の声「どこから話したらいいですかね?」

○(回想)宮川小学校・外観
   二三年前、夏。
正人の声「宮川小学校、四年一組」

○(回想)同・四年一組・前
   「四年一組」と書かれた表札。担任名はよく見えない。
正人の声「そこには、イジメがありました」
   はやし立てる男子の声。

○(回想)同・同・中
   一人だけ長袖を着用する十和田佳代(10)。その周囲に複数の男子生徒。
生徒E「おいおい、十和田。お前、何で長袖なんだよ」
生徒F「暑くねぇの?」
佳代「……」
生徒E「何無視してんだよ」
生徒G「ひょっとして、貧乏なの? 半袖買えないの?」
   笑う男子生徒達。
   その様子を自分の席から見ている正人。立ち上がろうとするも、傍らにいる潤平に止められる。
生徒E「確かに、いつも同じ服だもんな」
生徒F「洗濯してないんじゃね?」
   と言いながら佳代の服を掴む生徒F。
佳代「(振りほどき)やめてよ」
生徒F「は? 何だよ? 言いたいことあんなら言ってみろよ」
佳代「……」
生徒E「十和田、お前調子こいてんじゃ……」
   チャイムの音。
   舌打ちし、席に戻っていく男子生徒達。
   その様子を見ている正人。
正人の声「潤平、何で止めるんだよ」

○(回想)通学路
   並んで歩く正人と潤平。
正人「このまま黙って見てんのかよ?」
潤平「落ち着けよ、デシ(正人のあだ名)。俺もデシも、ケンカ弱いんだから」
正人「わかってるよ。でも、せめて何かこう『俺達は味方だ』感を出せたらさ」
潤平「じゃあ、もうペアルックでもしたら?」
   立ち止まる正人。
正人「それだ!」
潤平「え?」

○(回想)宮川小学校・外観

○(回想)同・四年一組・中
   佳代の周囲に複数の男子生徒。
生徒E「十和田、今日も長袖かよ」
佳代「……」
生徒E「今日はお前のために、いいもん持ってきてやったんだよ。ほれ」
   手に持ったハサミを見せる生徒E。
佳代「!?」
生徒F「その服、半袖にしてやるよ」
生徒G「優しいな~、俺達」
生徒E「右から行く? 左から行く?」
佳代「ちょっと、止めて……」
   ドア開く音。教室内がざわつく。
生徒E「(異変に気付き)ん?」
振り返る生徒E、F、G。長袖姿で登校してくる正人と潤平。
正人「(周囲の生徒に)おはよう」
生徒E「おい、デシ。何のつもりだよ?」
正人「別に? な、潤平?」
   と言って笑う正人と潤平。
   その様子を見ていら立つ生徒E、F、Gと安堵する佳代。さらにその様子を離れた席から見ている亮太。

○(回想)通学路
   並んで歩く正人と潤平。
潤平「なぁ、デシ。これもう脱いでいい? 暑いんだけど」
正人「今脱いでどうすんだよ? 上半身裸で帰る訳にいかないだろ?」
佳代の声「あ、あの……」
   振り返る正人と潤平。そこにやってくる佳代。
佳代「あの……ありがとう」
正人「別に、俺らは、なぁ?」
潤平「うん。……あ、そうだ。もしアレだったら、お近づきの印に、俺達の秘密基地に来ない?」
正人「なっ、バカ……」
佳代「秘密基地? ……へぇ、面白そう」
潤平「よし、決まり。行こうぜ、デシ」
正人「おいおい、あんな状態見せられっかよ」
   複雑な表情の正人。

○(回想)林・外観
   大通り沿いの林。

○(回想)同・秘密基地
   放置された仮設テントのようなものがあり、段ボールが敷かれた床に散らばったエロ本を片付けている正人と潤平と、少し離れたところで待つ佳代。
佳代「ねぇ、まだ?」
正人「もう少し。よし、あとはそれ裏に」
潤平「オッケー」
   エロ本の束を抱えてテントの裏に姿を消す潤平。
正人「いいよ~」
   やってくる佳代。
佳代「へぇ、何か凄い。(テントを指し)こういうのも全部用意したの?」
正人「いや、コレは元からあったヤツで」
佳代「ふ~ん。で、どこに何を隠したの?」
正人「それは秘密で……」
潤平の声「ねぇ、デシ。何これ~?」
正人「あのバカ。(潤平に)知らないから早く戻って来い」
   小さくて汚れた布袋を持って戻ってくる潤平。
潤平「デシ~、コレ凄いよ。じゃん」
   布袋から拳銃を取り出す潤平。
佳代「え?」
正人「何それ?」
潤平「何か埋もれてた。凄くない? かっこよくない? 本物みたいじゃない?」
   と言って木に向けて拳銃を構える潤平。

○(回想)同・外観
   銃声。

○(回想)同・秘密基地
   驚く正人と佳代、拳銃を手に腰を抜かす潤平。
潤平「ほ、本物……?」
正人「だよな……」
   顔を見合わせる正人と潤平。
正人&潤平「すっげ~!」
佳代「え?」
潤平「ほらほら、正人も持ってみ?」
正人「(拳銃を受け取り)うわっ、重い。コレが本物か~」
佳代「ねぇ、こういうのって、警察に届け方がいいんじゃ……?」
正人「嫌だ」
佳代「え?」
正人「コレは俺達が手に入れた武器だ。コレさえあれば、俺達だって戦えるんだ」
佳代「戦うって、誰と?」
正人「……何かと」
佳代「何か?」
正人「とにかく、コレは俺達三人だけの秘密。いい?」
佳代「私も?」
潤平「当たり前だろ? コレで十和田も、俺達の仲間だ」
正人「いい……よな?」
佳代「……うん」
   手を重ね合わせる正人、潤平、佳代。

○(回想)宮川小学校・外観

○(回想)同・四年一組・中
   落書きされた自分の机を見る正人。
正人「やっぱり、こうなるよな……」
   周囲を見回す正人。同じように席に落書きされて落胆する潤平、申し訳なさそうに正人を見ている佳代、入り口付近でニヤニヤしながら正人達を見ている男子生徒達。
   そこに登校してくる久里。長袖姿。
正人「あっ……」
   男子生徒達の表情が変わる。
   互いに顔を見合わせて笑みを浮かべる正人、潤平、佳代。

○(回想)林・外観
正人の声「へぇ、久里君のお父さんって警察官なんだ」

○(回想)同・秘密基地
   並んで座る正人、亮太。
正人「じゃあ、久里君も将来は警察官?」
亮太「絶対嫌だ。ウチの親見たら思うよ? 警察官なんてなるもんじゃないって」
正人「そっか。……でさ、久里君も、十和田の事、好きなの?」
亮太「? 何で?」
正人「だって、(長袖を指し)ほら」
亮太「イジメてる連中ってのが、嫌いなだけ」
正人「そっか~、うん、そっかそっか」
亮太「デシは、十和田の事好きなんだ?」
正人「え、え、何で?」
亮太「さっき『久里君も』って」
正人「……久里君さ、多分警察官向いてると思うよ?」
   そこにお菓子をもってやってくる潤平と佳代。
佳代「お待たせ、持ってきたよ」
正人「(空気をごまかそうと)おう、食べようぜ食べようぜ」
   お菓子を広げ始める亮太と佳代。そんな中、潤平に手招きされる正人。
潤平「デシさ、久里君にしたの? あの拳銃の話」
正人「いや、内緒にしとこう。久里君の親、警察官みたいだから」

○(回想)宮川小学校・四年一組・中
   談笑する正人、亮太、潤平、佳代。

○(回想)林・秘密基地
   一緒に遊ぶ正人、亮太、潤平、佳代。

○(回想)同・前(夕)
   二手に別れる正人、佳代と亮太、潤平。
潤平「デシ、十和田、また明日な」
正人「おう」
   並んで歩く正人と佳代。
正人「もうこんな時間か。早く帰んないと怒られるな~」
   立ち止まる佳代。
正人「? 十和田、どうかした?」
   正人の服のすそを掴む佳代。
佳代「……帰りたくない」
正人「……え?」
佳代「……ごめん、嘘。何でもない。じゃあ、また明日ね」
正人「あ、うん……」
   佳代の背中を見送る正人。

○(回想)宮川小学校・外観

○(回想)同・四年一組・中
   休み時間で騒がしい教室内。空席となっている佳代の席を見つめる正人。

○(回想)十和田家・前
   二階建ての一軒家。
「十和田」と書かれた表札。
   インターホンの前に立つ正人。
佳代の母の声「(インターホンから)ごめんなさいね。佳代、今熱が凄くあって、安静にさせてるの」
正人「わかりました……」
   その場を立ち去ろうとする正人。その足元に紙飛行機が落ちてくる。見上げると、窓から姿を見せる眼帯姿の佳代。紙飛行機を広げる正人。そこには「秘密基地で待ってて」と書いてある。
正人の声「それ、どうしたの?」

○(回想)林・秘密基地
   眼帯姿の佳代を囲む正人、亮太、潤平。黙って服の袖をめくる佳代。そこにも無数のあざ。
潤平「うわ~、痛そう」
正人「一体、誰に?」
亮太「親にやられた、とか?」
   うなずく佳代。
正人「警察に言った方が……」
亮太「いや、こういうので警察は動かない。児童相談所じゃない?」
正人「何で警察は動かないんだよ? 暴力だろ? それとも何? 子供が親に暴力ふるっても警察は動かないの?」
亮太「少なくとも、刑法では裁かれない」
佳代「え?」
亮太「刑法では、一四歳未満の犯罪は罪に問わないんだよ。だから、動くは動くかもしれないけど、前科は付かない」
潤平「さすが、警察官の息子」
正人「じゃあ、俺が十和田の親を脅す。それで全部解決でしょ? 裁かれないんだし」
亮太「脅すって、どうやって?」
正人「武器ならある」
   テントの奥に行こうとする正人を止める潤平。
潤平「ちょっと、正人。まさか、アレ?」
正人「今こそ、使う時だろ?」
潤平「いや、その(小声で)久里君には内緒なんでしょ?」
正人「あ……だな」
潤平「それでいい、それでいい」
佳代「デシ君がそんな事する必要ないよ」
正人「でも……」
佳代「大丈夫だから。家も学校も辛いけど、今はここにこうして、逃げられる場所があるから。だから、大丈夫だから」
   笑顔を浮かべる佳代。

○(回想)同・前
   「建設予定地」と書かれた看板。次々と伐採されていく木々。
   その様子を見ている正人、潤平。乗り込もうとして潤平に止められる正人。
正人「離せよ。俺達の秘密基地が……」
潤平「デシ、落ち着けって」
正人「せめて、拳銃だけでも」
潤平「!?」
正人「アレがないと、大人と戦えないんだよ」
潤平「……なぁ、デシ。怒らないで聞いて欲しいんだけど」
正人「何だよ?」
   背負っていたリュックのファスナーを開ける潤平。中に拳銃。
正人「え、何で?」
潤平「ごめんごめん。カッコいいからさ、内緒で持って帰ってて。で、それバレたら怒られると思ったから、今日戻そうと思って持ってきて、それで……」
正人「ナイス、潤平!」
潤平「え? 本当?」
正人「コレさえあれば、まだ何とか出来るかもしんない。例えば……」
亮太の声「銀行強盗?」

○(回想)宮川小学校・四年一組・中
   黒板に書かれた「2学期に会いましょう」の文字。
   亮太の席に集まる正人と潤平。
正人「あの土地を買い戻す。その為には金が必要だろ?」
亮太「だからって……子供がおもちゃの拳銃持ってったって相手にされないよ」
正人「……例えばの話だけど、本物が一丁あったとしたら?」
亮太「まぁ、それなら他の拳銃がおもちゃでも本物だと信じさせられるかもね」
正人「じゃあ『仮に』でいい。『仮に』俺達が本物の拳銃を手に入れて銀行強盗をやるとしたら、どうしたらいい?」
亮太「よくわかんないけど……。父さんが言うには、まず銀行に防犯ベルを鳴らしてもらわないと話にならないんだ、って」
潤平「防犯ベル?」
亮太「だから、逆に言えば強盗側は防犯ベルを鳴らさせないようにする必要があって、いかにも『銀行強盗です』っていう格好はしない方がいいかな」
潤平「三角巾を口に巻くヤツとか?」
正人「服装は考えないとな。他は?」
亮太「う~ん。やっぱ逃走手段とか……」

○(回想)大岐家・外観
   一軒家。表札は映らない。

○(回想)同・正人の部屋
   銀行強盗計画を練る正人、亮太。潤平。電話帳でタクシー会社を調べる亮太。その脇でアニメキャラのお面にランドセル姿でモデルガンを構える正人。

○(回想)十和田家・前
   二階を見上げる正人。窓から顔を見せる佳代。手を上げ、挨拶する二人。

○(回想)大岐家・正人の部屋
   銀行強盗計画の台本を読む正人、潤平、佳代。
潤平「女子き勝手……」
正人「『好き勝手』」
潤平「好き勝手重力くと……」
正人「『動くと』」
潤平「好き勝手動くと、どうなるか矢口らないぞ?」
正人「『知らないぞ』。潤平、わざとだろ?」
   笑う佳代。
    ×     ×     ×
   並んで座る正人、潤平、佳代。
正人「じゃあ、決行は夏休み最後の日で」
潤平「いよいよなんだな」
佳代「ごめん。何か私のせいで……」
正人「十和田のせいじゃない。これは俺達の、大人達への逆襲なんだ」
潤平「でも、久里君は?」
正人「久里君は、親が警察官だからな。俺達と一緒にする訳にはいかないだろ? だから、この三人でやるんだ」
   手を重ねる正人、潤平、佳代。
正人「秘密基地、取り返すぞ」
潤平「おう!」
   意気込む二人の背中を見つめる佳代。
佳代「(小声で)ごめんね……」

○(回想)同・外観(夜)

○(回想)同・正人の部屋(夜)
   机に向かい、計画を確認する正人。
正人「(計画書を読みながら)ふざけ合いながら奥に入る。その後拳銃を出す。俺が本物を持って、二人はモデルガン……」
   パトカーのサイレンの音。
正人「!? 計画バレた? ……んな訳ないか。何かあったのかな?」

○(回想)十和田家・前
   規制線が張られ、警察関係者や野次馬などが多数。その中に居る潤平の元にやってくる正人。
潤平「あ、デシ」
正人「何があったんだ? 十和田は?」
亮太の声「十和田は警察だって」
   そこにやってくる亮太。
正人「久里君、どういう事?」
亮太「十和田が、父親殺したらしい」
正人「!?」

○(回想)宮川小学校・外観

○(回想)同・四年一組・中
   空席となった佳代の席を見ながら話す生徒達。
生徒E「十和田、親父殺したんだろ?」
生徒F「アイツ、ヤバそうだったもんな」
生徒G「うわ~、怖っ」
   正人の席に集まる正人と潤平。
潤平「計画どうすんの、もう二学期だよ?」
正人「三人いないと手が足りない」
潤平「じゃあ、久里君に頼む?」
正人「しか居ないよな。ただ、今はさすがに動けないだろ? もう少し待とう」
    ×     ×     ×
   担任教師と共に前に立つ亮太。
担任教師「久里君は、お父さんのお仕事の関係で転校することになりました」
   顔を見合わせる正人と潤平。
正人の声「結局、強盗計画は実行できないまま、十和田さんも転校して」

○(回想)桜田銀行・前
   建物を見上げる正人の後ろ姿。
正人の声「僕達はバラバラになって、そのまま学校も卒業してしまって」

○(回想)桜田BNK臨海銀行・前
   前述の銀行と同じ場所。
   建物を見上げる大岐の後ろ姿。この時点ではまだ顔はわからない。
正人の声「そして、二三年経ちました」

○(回想)同・中
   窓口に立つ佳代。胸のバッジには「椎名」の文字。
佳代「二三番の番号札をお持ちのお客様」
   佳代の前の席に着く大岐。書類を佳代に差し出す。
佳代「大岐正人、さん……。あの……もしかして、デシ君?」
大岐「え?」
佳代「私、十和田佳代」
大岐「(ここでようやく大岐の顔が映る)え、十和田……?」

○(回想)レストラン・外観(夜)
大岐の声「コッチ戻ってきてたんだな」

○(回想)同・中(夜)
   食事をする大岐と佳代。
大岐「旦那さんの仕事の都合とか?」
佳代「いやいや、独身だって」
大岐「え、でも……」
佳代「あ~、『椎名』は母方の苗字」
大岐「そういう事か」
佳代「そういうデシ君は……っていうか、そもそもデシ君は、何で『デシ』ってあだ名だったの?」
大岐「最初の自己紹介の時に『大岐正人です』って所を『でし』って噛んだから」
佳代「そうだったんだ。二三年越しの事実」
大岐「二三年か……この場所、覚えてる?」
佳代「もちろん」

○(回想)同・外(夜)
   わずかに残った林の名残。
佳代の声「秘密基地があった場所、だよね」
   出てくる大岐と佳代。駐車場にはタクシーが停まっている。
大岐「送ってくよ」
佳代「そんな、タクシーなんてもったいない」
大岐「いいから」

○(回想)走るタクシー(夜)

○(回想)タクシー内
   後部座席に並んで座る大岐と佳代。運転しているのは木下。
佳代「二三年前の事さ、ごめんね」
大岐「銀行強盗の話?」
佳代「え、いや……(運転手に聞こえていると思い焦る)」
大岐「大丈夫。この運転手には聞かれても問題ないから?」
   佳代の視線の先、タクシー運転者証に書かれた「木下潤平」の名。
佳代「……え、潤平君!?」
   バックミラー越しに笑顔を見せる木下。
大岐「一番のネックだった逃走手段は、潤平のタクシーで解決」
佳代「え?」
木下「昔と違って、今はドライブレコーダーもあるしな。無関係のタクシー使うのはハイリスクだろ?」
大岐「しかも銀行内には十和田……椎名佳代という協力者もいる」
佳代「まさか……」
大岐「まだ計画は死んでないよ」
佳代「いや、でも、そもそも私達、もう小学生じゃ……え、まさか……」
大岐「実行犯役には、僕の教え子を使う」
木下「ちょうど四年生だもんな」
大岐「もちろん、直接指示は出さない。計画書と、必要な道具を見つけさせて、その気にさせる」
佳代「自分の生徒にやらせるの……?」
大岐「……今僕が受け持っているクラスにもイジメはあってね」
佳代「え?」
大岐「でも今時は本当に陰湿で、証拠も出なくて。親御さんは『自分の子供がいじめっ子な訳がない』って頑なだし、校長も事なかれ主義で動かない」
木下「だから、そのいじめっ子達に強盗をやらせるんだと」
大岐「イジメの罪を問えないなら、別の罪を犯させる」
佳代「でも刑法じゃ裁かれないって……」
大岐「刑法では、ね。でも罪は問える。十和田だってそうだっただろ? 裁かれてないけど、転校はした」
佳代「……うん」
大岐「これでいじめっ子はクラスからいなくなる。それにその子の親や、取り合わなかった校長の責任も問える」
   路肩に停止するタクシー。
大岐「これは俺達の、大人達への逆襲なんだ」
木下「十和田はどうする? やる? やらない?」
佳代「……私があの銀行に勤めてる理由はね」
大岐「うん」
佳代「どっか、あの二三年前の後悔があったんだよね」
   三人が小学生時代の三人になる。
佳代「だから、やる」
潤平「決まりだな」
   手を重ねる正人、潤平、佳代。
正人「秘密基地、取り返すぞ」
三人「おう!」

○(回想)宮川小学校・外観

○(回想)同・空き教室
   計画書や覆面、ランドセル、拳銃等を見つける少年A、B、Cの後ろ姿。
   その様子を廊下側から確認する大岐。

○(回想)レストラン・前
   スマホで通話中の大岐。
大岐「タクシー一台お願いします。はい、久里と申します」

○(回想)桜田BNK臨海銀行・中
   強盗事件中の行内。ランドセルにお金を詰めている最中に、防犯ベルを押そうとしている行員を見つける佳代。その方向に札束を落とし、バラまく佳代。

○(回想)タクシー内
   後部座席に乗り、運転手の木下に拳銃を突き付ける少年強盗団。既に壊されているドライブレコーダー。

○(回想)宮川小学校・空き教室
   覆面、ランドセル等を元の場所に隠し、出ていく少年A、B、Cの後ろ姿。
   出ていくのを確認した後、札束の入ったランドセルを回収していく大岐。拳銃も探すが、見つからない。
大岐の声「でもアイツら、拳銃だけは持って行ったみたいで」

○警察署・取調室・中
   刑事の取り調べを受ける大岐。
大岐「第二の事件に関しては、彼らが勝手に起こした事で、僕達は一切関与していません」
   しばしの沈黙。
大岐「これ以上質問がないなら、僕からもいいですか? (マジックミラーに向かって)久里君、居るんでしょ?」
   入ってくる久里。
大岐「思い出した?」
久里「計画を立てたのは、俺か」
大岐「俺達、かな。まぁ、大部分は久里君だったと思うけど」
久里「つまり、俺たちが……」
大岐「少年強盗団だ」
                 (完)

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