#6 世界の終わりとスペースォッチ 恋愛

彼女が死に、スペースウォッチは止まった。
竹田行人 13 0 0 11/10
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第一稿

「世界の終わりとスペースウォッチ」


登場人物
田村健一(28)時計職人
早川亮(28)酒屋店主
吉永優里(28)会社員


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「世界の終わりとスペースウォッチ」


登場人物
田村健一(28)時計職人
早川亮(28)酒屋店主
吉永優里(28)会社員


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○ 府中公園(夕)
   T「1989年」
   田村健一(6)と早川亮(6)、野球道具を手に、公園に入って来る。
健一「ん。なんだあれ」
   一角に子どもたちが集まっている。
亮「あ。優里」
   吉永優里(6)、健一と亮に手を振る。
優里「健一! 亮! こっちこっち!」
   亮、子どもたちを掻き分けて前に出る。
   行商、風呂敷の上にオモチャを並べて売っている。
亮「あ」
   行商、腕時計を手に取る。
   腕時計は文字盤や針に惑星や宇宙船がデザインされたもの。
行商「これはFBIが開発したスペースウォッチって代物だ。超合金製だから絶対に壊れねぇ、絶対に止まらねぇ」
亮「だっせ」
優里「キレー」
亮「え」
健一「それホントに止まらないの」
行商「ああ。万が一止まることがあるとしたら世紀末で世界が終わるときだな」
優里「なんだ。止まるんじゃん」
行商「でも世界が終わっちまったら、止まったかどうかわかんねぇよ。なんてったって誰も世界に残っちゃいねぇんだからよ」
   子どもたち、笑う。
優里「おっちゃん! いくら?」
行商「出血大サービス! 六百円!」
子ども「高けぇよ。買えねぇ」
   子どもたちいなくなり、亮と優里だけ残る。
健一の声「優里、三角ベースやろうぜ」
優里「あ、うん」
   優里、去る。
行商「シケたガキどもだな」
   亮、行商に歩み寄る。

○並木通り商店街・全景(夜)
   T「2011年」
   秒針の音。

○田村時計店・外(夜)
   秒針の音のみ。
   「田村時計店」の看板。

○ 都立府中総合病院・廊下(夜)
   秒針の音のみ。
   看護士がストレッチャーを押している。
   早川亮(28)、ストレッチャーに付き添っている。
   ストレッチャーに乗せられて運ばれている吉永優里(28)。

○ 田村時計店・作業場(夜)
   秒針の音のみ。
   田村健一(28)、拡大鏡を付けて歯車の錆を削っている。

○ 都立府中総合病院・処療室前(夜)
   秒針の音のみ。
   看護士、処療室にストレッチャーを運び入れる。
   早川、処療室に入ろうとする。
   看護士、早川を止める。
   ストレッチャーから優里の左腕が零れ落ちる。
   優里の左腕にはスペースウォッチ。
   早川、暴れている。
   処療室の扉、閉まる。

○ 田村時計店・作業場(夜)
   秒針の音のみ。
   田村、受話器を持った手を下ろす。

○ 都立府中総合病院・ロビー(夜)
   秒針の音のみ。
   公衆電話から電話をかけている早川。
   早川、受話器をフックに掛けようとするが、受話器は横に逸れ、そのまま崩れ落ちる。
   叫ぶ早川。

○ 吉永米穀店・外
   「吉永米穀店」の看板。
   忌中の張り紙はあるが、シャッターは半分ほど開いている。

○タイトル「世界の終わりとスペースウォッチ」

○ 同・仏間
   縁側に面した仏間。
   仏壇に優里の写真。
   早川、写真を眺めている。
   田村、縁側の廊下から入って来る。
田村「亮。他人様んチでなにやってんだよ」
   早川、写真を眺めている。
田村「そろそろ店開けろよ」
   田村、早川の隣に座る。
田村「いつまでも酒屋が閉まってっとこの辺のオヤジが健康になっちまうだろうが」
早川「終わったんだ」
田村「へ」
早川「世界が。終わったんだ」
田村「世界が終わった。亮。なに言って」
早川「スペースウォッチが。止まった」
   早川、ポケットからスペースウォッチを取り出す。
   田村、スペースウォッチを手に取る。
行商の声「超合金製だから絶対に壊れねぇ、絶対に止まらねぇ。止まるとしたら」
   スペースウォッチ、止まっている。
   田村、スペースウォッチを見つめる。
早川「スペースウォッチは止まった。世界は。終わったんだ」
   田村、スペースウォッチを握り締め、もう片方の手で早川の腕を掴む。
早川「なんだよ」
田村「いいから来い」
   田村、早川を連れ出す。

○ 田村時計店・居間(夜)
   早川、うずくまっている。

○ 同・作業場(夜)
   田村、作業台でスペースウォッチのカバーを外す。
田村「酷い錆び方だな」
   田村、スペースウォッチをライトにかざす。
田村「ふざけんなよじじぃ」
   田村、拡大鏡をかける。

○同・外(朝)
   空が白んでいる。

○同・居間(朝)
   早川、うずくまったまま寝ている。
   田村、早川にタオルケットをかける。
早川「ん」
田村「起こしたか。すまん」
早川「いや」
田村「ちょうどいい。ちょっと顔貸せ」
   田村、出ていく。
   早川、あとに続く。

○ 同・作業場(朝)
   田村と早川、入って来る。
   田村、作業台に乗せてあるスペースウォッチを手に取り、早川に差し出す。
   スペースウォッチ、動いている。
   早川、スペースウォッチを手に取る。
田村「機械だ。分解してさび落として、油さしてってやりゃ。また動く」
早川「健一」
田村「だからよ」
早川「違うんだよ」
田村「あん?」
早川「こういうことじゃねぇんだよ!」
   早川、スペースウォッチを地面に叩きつける。
早川「死んだんだよ。優里が。優里が。死んだんだよ。死んじまったんだ」
   早川、崩れ落ちる。
田村「超合金製で絶対に壊れねぇ。絶対に止まらねぇ」
   田村、スペースウォッチを拾う。
田村「ねぇよ。そんな時計。時計は止まるし。壊れる」
   田村と早川、目を見合わせる。
田村「だからオレたち職人がいるんだ」
   田村、奥の作業台に向かう。
田村「事故の日。優里が来た。自分の腕時計が止まって亮に借りにいったらこれしかねぇって。スペースウォッチ渡されたって」
早川「ああ。怒ってたな」
田村「別の貸すかって聞いたけど。いいって。スペースウォッチ付けてった」
   田村、作業台の上の別の腕時計を取る。
田村「そんとき預かった優里のだ。バンド男物にしてくれってオーダーも受けた」
早川「男物」
田村「いつまでもガキみたいな時計してんじゃねぇって言ってたぞ」
   早川、優里の腕時計を見つめる。

○ 並木通り商店街
   早川、自転車で酒を運んでいる。
   早川の左腕には優里の腕時計。

○ 田村時計店・売り場・外
   外に子どもたちが集まってショーウィンドウを覗き込んでいる。
   ショーウインドウにスペースウォッチ。
   スペースウォッチの前には『超合金製』の札が置かれている。

               〈おわり〉

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