怪人〜ハサミ売りの男〜 ドラマ

テキ屋を生業とする男は自らの哀しい生い立ちを話すことで客の同情を買いハサミを売っていた。しかし、集まった客は男の右手を見ると恐怖のあまり逃げ出してしまう。
大場香夜 17 1 0 09/08
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第一稿

客入れ音楽、陽気に。
音楽盛り上がり切ったらカットアウト。一瞬静まり返る中、ナレが聞こえる。

ナレ …誰が呼んだかカニレンジャー。…いつも何処かでカニレンジャー。

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客入れ音楽、陽気に。
音楽盛り上がり切ったらカットアウト。一瞬静まり返る中、ナレが聞こえる。

ナレ …誰が呼んだかカニレンジャー。…いつも何処かでカニレンジャー。

音楽と共に舞台上じんわりと灯りが入る。舞台中央に一人の男が立っている。

そこは、縁日の浅草は浅草寺。境内の端っこ。
右腕を骨折したみたいに包帯でぐるぐる巻きにしたテキ屋の兄ちゃんが通行人に声を掛けている。

♪チンドン屋さん/コロンビアスタジオ

テキヤ いやぁ、でも、暑いですねぇホントにもう。ほら、そこのお兄さんなんか汗がほら!もう隠しきれてないですもんね。でも大丈夫です。水も滴るいい男って言うでしょ。照れなくていいんですよ。いい男って僕のことね。ほら見て下さい。この額から滴り落ちる汗の滴。そこのお姉さん!いま汚いって思ったでしょ?汚いんですよ。これが。うんこと一緒。時間が経つと臭う臭う。もう僕のはね、芳しきかな男の香りってやつですよ。フェロモン撒き散らしてしょうがないんですよね、僕。このフェロモンがね、並の女に受けないわけですよ。だから僕、いい男なのに全然モテないわけ。ほとほと困っちゃってるんですよ。ねえ、お兄さん。僕たちもっと女にチヤホヤされていいハズですよね?嫌な顔すんなよ!!でもね、お兄さん。諦めちゃあいけませんよ。なんと今日はこのフェロモンでも何でも断ち切ってしまうハサミってのを持ってきたんですよ。ほらこれね。ちょ、お姉さん!私には関係無いじゃないんですよ。ほら、男性からしつこく言い寄られた経験ないですか?ない?!そりゃあね、これからですよ。大丈夫です。どんな顔面でも人生一回くらいモテ期ってやつはやってきますから。それでもモテなかったら僕に言って下さい。喜んで追っかけます。追っかけて追っかけて最後にはちゃんと寄り切りますから。ドーン!おめでとうございます!ね。まぁ、しつこい男には何言っても駄目なんですね。あいつら地獄の底まで追いかけてきますから。そんでもって自分だけはストーカーじゃねぇんだ。愛を貫き通してるだけなんだって訳の分からないこと言って。まったく迷惑な話ですよ。女にとっちゃ愛なんて半分くらいで丁度いいのにね。残りの半分で自分勝手に物思いにふけるのが好きなんだから。それをね。俺にはお前しかいないんだってね。気持ち悪いでしょ。女にしか頑張らない男なんてどうせお金もない仕事もないロクデナシばっかりなんですから。でも、このハサミを使えば、そんな悪縁なんかスッパリ。ほら、使いたくなってきたでしょ?ハサミってね、昔から災いを断ち切り幸運を切り開くって言われて贈り物にすると喜ばれるんですよ。えっ?このうるさい兄ちゃんとの縁をスッパリ断ち切りたいって?あっ。すみません申し遅れまして。私、ピーチクパーチク鶏のアキラって呼ばれてます。まぁまぁ、お母さん。ちょっと待って下さいよ。後生ですから。ね、馬鹿と鋏は使いようって言うでしょ。最後まで聞いてって下さいよ。飴ちゃんあげる。
僕ね、このハサミ見てると思い出すんですよ。僕のうち、今どき珍しく結構な貧乏だったんで、僕、幼稚園一年しか通ってないんですよ。いわゆる年長さんだけ通ってて。周りはみんな読み書き出来るの当たり前なのに、僕だけ鉛筆の握り方さえ分からなかったんですから。で、ある時ね、ハサミで折り紙切ってチューリップ作るって日があったんですね。僕、ハサミなんて握ったことないから使い方なんて分からないわけですよ。だから机の上に置いてあるハサミとにらめっこ。そしたら先生がね、早くチューリップ作りなさいって。仕方ないから見様見真似でハサミ持ってみたんだけど、上手くいかないわけ。挙句、両手で持ってみたりなんかして。みんなはもうチューリップなんかとっくに作り終わって綺麗な色の画用紙にペタペタ貼ってんのに。僕だけチョキチョキチョキチョキ。それ見て先生怒っちゃってさ。何でハサミ使えないの!って何度も何度も何度も何度も言ってくるわけ。いやいや、だってハサミなんて家には無かったんですよ。でもね、お袋には言えませんよ。悲しむの分かってるから。まだ五才児ですよ。僕。五才の子供がね、親に気遣って、みんな寝静まってから先生が貸してくれたハサミでね、チューリップ切ってましたよ。チョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキ。

♪「学校」幸せっていうのは…/冨田勲

もう何だかね。涙がポロポロポロポロ出てくんの。だってまだ五才児ですからね。夜が怖いんですよ。でもね、先生に怒られる方が怖いから。お袋が悲しむ方がもっと怖いから。だって、毎日おんなじ服着て、汚ねぇあっち行けって言われてたの。訳なんか分からないですよ。五才児ですから。でもね、ただただ力一杯殴ってやりたかったんです。でもね、力も無いし、喧嘩なんてしたことなかったから、でもね、そいつらだけは力任せに殴ってやりたかったの。家に帰ったらさ、お袋が笑っておかえりって言ってくれたの。なんかね、それが嬉しかったんです。お袋が笑っていてくれるから毎日安心して夜眠れてたんです。だからね、チョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキ。いつまでも慣れないハサミでチューリップ切ってましたよ。ってね。何の身にもならない話なんですけどね。そこの若いご婦人。お子さんはいらっしゃいますか?だったらどうぞひとつ持ってって下さい。いやぁもうね。お金なんかいいんです。このご時世にね、僕みたいな不幸な子供が一人でも減ると思えばね、腹切ったつもりでね。持ってけ泥棒ー!ですよ。どうぞどうぞ。あ。お母さんも手に取って見てって下さい。ほら。こうやってね。チョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキ。あっ!

お客さんがさ、俺のべしゃりで涙ながらに買ってくわけ。私もひとつ。こっちにもひとつってさ。俺たちテキヤ家業のフィナーレよ。そんな時にさ。あっ!出ちゃったんだよね。この右手がさ。熱くなってきて俺の右手もチョキチョキしてたわけ。せっかく集まったお客さん。蜘蛛の子散らすみたいにいなくなっちゃって。ね。この右手がさ。俺って奴は貧乏で虐められてたわけじゃないのよ。この右手がさ、ハサミだったから!人前でそんなもん見せるんじゃないよって包帯でぐるぐる巻きにされてさ。両手でだって持てなかったよ。ハサミ。怪人なんだってさ。俺。怪人ハサミ男。

暗転。

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