平成三億円事件 前編 歴史・時代

演劇部員の高校生が1968年にタイムスリップ 三億円事件の実行犯になっていく
竹田行人 8 0 0 09/02
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第一稿

「平成三億円事件 前編」(2005年)


登場人物
城崎優平(18)高校生
伊豆冴子(20)無職


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「平成三億円事件 前編」(2005年)


登場人物
城崎優平(18)高校生
伊豆冴子(20)無職


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○道(夕)
   雨が降っている。
   片側1車線。
   セダンが止まっている。
   白バイ、セダンの前に止まっている。

○同・車体の下
   雨が降っている。
   城崎優平(18)、警察官の制服を着て車体の下に潜り込むと、ポケットから発煙筒とマッチを取り出す。
   男4人の足が見える。
男1の声「どうですかー」
   城崎、マッチを擦るが、折れる。
男2の声「店長宅が爆破って、本当ですか」
   城崎、マッチを擦り、発煙筒の導火線に近付けるが、消える。
男3の声「こんな時にも出世かね」
男2の声「店長のお体を心配しただけです」
   城崎、マッチを擦り、発煙筒の導火線に近付けるが、火は付かない。
男3の声「この時間。店長は不在だろう」
男4の声「残念。イスは空きませんね」
男2の声「だれもそんなことは」
男4の声「来月。副頭取の娘さんと」
男2の声「どうしてそれを」
男1の声「あのー。どうですかー」
   城崎、マッチを擦り、発煙筒の下側に近付ける。
   発煙筒から煙があふれ出る。
城崎「冴子さん」
   城崎、微笑む。
城崎「爆発するぞ! 早く逃げろ!」
   男4人の足、離れていく。

○道(夕)
   雨が降っている。
   セダンの下から煙が出ている。
   城崎、車体の下から出てくると、セダンに乗り込み、発進させる。
   発煙筒と白バイが残る。

○同・車内(夕)
   雨が降っている。
   ワイパーが雨を散らす。
   城崎、ハンドルを握っている。
城崎の声「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった」
   T「平成三億円事件 前編」。
城崎の声「これは僕が長いトンネルを抜ける前の短い眩暈の物語」
演出の声「はい。止めよっか」
   ワイパー、雨を散らす。

○都立梅が丘高校・2年2組(夕)
   机とイスが一方に寄せられている。
   教壇の上にイスが置かれている。
   城崎、ホンを手にイスに座っている。
   演出、床に胡坐をかいている。
城崎「なんで止めるんだよ」
演出「下手だから」
城崎「は」
演出「ユウヘイ。芝居に渇望がない」
城崎「カツボウ? なんだよそれ」
演出「両親は医者。勉強も運動も人並み以上」
城崎「いやオレだって」
   城崎と演出、目を見合わせる。
城崎「ちょっと外の空気吸ってくるわ」
   城崎、出ていく。

○城崎家・ダイニング(夜)
   城崎の両親、食卓の一番離れた位置で食事をしている。
   城崎、二人の間で食事をしている。
城崎「文化祭。主役なんだけど観に」
城崎の父「無理だ」
城崎「え」
崎の父「その頃私たちは学会でドイツだ」
城崎の母「予定。家族会議で共有したでしょ」
城崎「うん。でも」
城崎の母「無理なものは無理」
城崎の父「芸術など。しょせん虚業だ」
   城崎、箸を置き、出ていく。

○同・縁側(夜)
   板張りの廊下。
   縁側の外には古井戸がある。
   城崎、縁側に座っている。
   古井戸の中が光る。
   城崎、古井戸に近寄り、覗き込む。
城崎「えええええええええええええええ!」
   城崎、井戸に落ちる。

○伊豆家・縁側(夜)
   板張りの廊下。
   縁側の外には井戸がある。
   縁側の中、居間にはちゃぶ台とカレンダーとブラウン管のテレビがある。
   野球中継の実況音声が聞こえる。
   伊豆冴子(20)、縁側に座って煙草を咥えながら、バイクに白いペンキを塗っている。
冴子「パリーグは今年も阪急。いや。南海か」
   井戸の中が光る。
   冴子、井戸に近寄る。
   井戸の中から冴子の腕を掴む城崎の手。
冴子「ひゃ!」
   冴子、手を振りほどいてしりもち。
   水音。
城崎の声「たーすけてー」
   冴子、井戸を覗き込む。
     ×  ×  ×
   城崎、浴衣姿で縁側に座っている。
   冴子、手ぬぐいを手に縁側に来て城崎に渡すと、少し離れて座る。
城崎「あ。ありがとうございます」
冴子「あんた。何者」
城崎「あ。すみません。僕。城崎優平です」
冴子「あたし。伊豆冴子。なんで井戸に」
城崎「さぁ。井戸に落ちたとこまでは覚えてるんですけど。繋がってるんですかね」
冴子「いや。あたし落ちたことないし」
城崎「あ。そうですよね」
   城崎、バイクに目をやる。
城崎「あ、これ」
冴子「え。あー。うん。かっこいいでしょ」
城崎「はい。手塗りの白バイなんて3億円強奪事件みたいですね」
   冴子と城崎目を見合わせる。
実況の声「阪急ブレーブス! 同点!」
城崎「阪急。ブレーブス」
   城崎、部屋の中を見回して、カレンダーに目を止める。
   カレンダーには「昭和43年」の文字。
   城崎と冴子、目を見合わせる。
   冴子、家の中に駆け込んでいく。
城崎「え。え。え」
   冴子、包丁を手に戻ってくると、城崎に向ける。
冴子「アンタ。何? なんで知ってんの?」
城崎「え。え。と」
冴子「何で知ってんの!?」
城崎「すみませんすみませんすみません。あの。でも。あの。僕の知ってる世界に。あの。阪急ブレーブスは。あの。ありません」
冴子「え。ないの」
城崎「はい」
冴子「南海ホークスは」
   城崎、首を横に振る。
冴子「巨人はどことペナント獲り合うの」
城崎「ら。楽天。とか」
冴子「どこそれー」
   冴子、包丁を持ったまま座り込む。

○伊豆家・居間(朝)
   城崎と冴子、ちゃぶ台で食事。
   しめじごはんにサバの煮つけ、ほうれんそうのおひたしに大根の味噌汁。
冴子「2005年」
城崎「はい」
冴子「37年後」
城崎「はい」
冴子「21世紀」
城崎「はい」
冴子「昭和何年」
城崎「いや。平成17年です」
冴子「ヘイセイ。よくまぁそんな大ぼら」
城崎「あ。やっぱり信じてない」
冴子「当然」
城崎「なんか。今日何月何日ですか」
冴子「9月。30日だけど」
城崎「9月30日。あ。今日。川端康成がノーベル文学賞獲りますよ」
冴子「川端康成。ああ。あのおじーちゃん」
城崎「失礼な。美しい日本の私ですよ」
   冴子、テレビをつける。
アナウンサーの声「闖入者の正体は今日から始まるワイドショーで司会を務める」
青島の声「青島だぁ!」
   城崎と冴子、目を見合わせる。
城崎「時間までは知りません」
アナウンサーの声「速報です。伊豆の踊り子などで知られる作家の川端康成さんにノーベル文学賞が贈られることが先ほど」
   冴子、テレビを消す。
   城崎、食べ続ける。
冴子「煮つけ。食べる?」
城崎「大丈夫です」
冴子「おひたし」
城崎「まだありますから」
   冴子、城崎と距離を詰める。
冴子「ねえねえユーヘイくーん」
城崎「嫌です。犯罪の片棒担ぐなんて」
冴子「勘がいいねぇ。ユーヘイくん」
城崎「僕は元の時代に」
冴子「やれ」
城崎「ええぇ」
冴子「まずは。運転だね」
   冴子、腕を組み、頷く。

〈後編につづく〉

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