作品の価値 ドラマ

足を失い小説に生きる兄と、芥川賞を受賞した弟。才能と境遇の不公平に向き合い、創作と人生の意味を静かに深く描く兄弟の物語。
石原 大己 36 0 0 09/12
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第一稿

課題 宿命









     作品の価値







               石原 大己

石原たけし(38) 両足欠損の ...続きを読む
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課題 宿命









     作品の価値







               石原 大己

石原たけし(38) 両足欠損の男
石原みのる(34) たけしの弟
石原由紀子(70) たけしの母
〇たけしのアパート(夜)
   両足を欠損した石原たけし(38)がパ
ソコンに向かっている。
   パソコンに物語を打ち込んでいくたけ
し。
   たけし、振り返る。
   石原みのる(34)が座っている。
たけし「みのる。俺のことは心配するな」
みのる「うん。でも困ったことがあったら」
   たけし、パソコンを指さし、
たけし「俺にはこれがある」
みのる「うん」
たけし「というかこれしか無いからな」
みのる「うん」
たけし「俺が生きてられるのも小説があるから
だ。小説があって本当に良かった」
   みのる、気まずそうに頷く。

〇大型書店
   みのるがサイン会をしてる。
   芥川賞受賞の横断幕。
   多くの人がみのるの本を持ち、並んでい
る。
みのる、浮かない顔。
   みのる、本にサインを書いていく。

〇みのるの家(夜)
   みのるの妻と娘が食卓の準備をしてい
る。
   みのる、携帯の着信が鳴る。
   たけしという文字。
みのる「ちょっと電話」
   みのる、トイレに向かう。

〇同・トイレ(夜)
   便座に座るみのる。
   意を決して電話を取るみのる。
たけしの声「よう」
みのる「おにいちゃん」
たけしの声「元気にしてたか?」
みのる「うん」
たけしの声「なんで言ってくれなかったんだよ」
みのる「それが」
たけしの声「言いにくかったのか?」
みのる「……」
たけしの声「おめでとう」
みのる「ありがとう」
たけしの声「まさかお前が小説を書いてたとは。
知らなかった」
みのる「ごめん。言いにくくて」
たけしの声「水臭いこと言うなよ。兄弟じゃな
いか」
みのる「そうなんだけど」
たけしの声「お前の小説。読んでな」
みのる「ありがとう」
たけしの声「単刀直入に言う。素晴らしかった」
みのる「ありがとう。兄さん」
たけしの声「気を使ってくれたのか?なんで小
説書いてるって言わなかった?俺が可哀そ
うだからか?」
みのる「そんなことないよ」
たけしの声「小説は俺のものじゃないだろ?」
みのる「そうだね」
たけしの声「おめでとう。それが言いたかった」
みのる「ありがとう」
たけしの声「一つ聞いていいか?」
みのる「なに?」
たけしの声「何作目だ?」
みのる「ああ」
たけしの声「教えてくれよ。兄弟だろ?」
みのる「2作目だよ」
たけしの声「……」
みのる「兄さん」
たけしの声「ありがとう。元気でな」
   電話が一方的に切れる。
   みのる、茫然としている。
   みのる、便座によりかかる。

〇たけしの家(夜)
   パソコンには文字がびっしり並ぶ。
   たけし、携帯電話を静かに置く。
   たけし、自分の無い両足を見る。
   たけし、静かに泣く。
   たけし、涙が止まらない。
   たけし、車いすから転がるように、布団
にくるまる。

〇たけしの家(朝)
    インターホンのチャイムが鳴る。
    二回目。
    たけし、布団にくるまっている。
    チャイムが鳴りやむ。
    鍵穴が回る。
    石原由紀子(70)が入って来る。
由紀子「たけし!」
   たけし、起き上がる。
たけし「なんだい、母さん?」
   由紀子、たけしにゆっくり近づく。
   由紀子、たけしを抱きしめる。
たけし「母さん、どうしたんだい?」
由紀子「なんでもない」
たけし「なんでもないなら離れてよ」
   由紀子、たけしを強く抱きしめる。
   たけし、涙が溢れてくる。
   パソコンには文字がびっしり書かれて
いる。
由紀子「生きててくれて良かった」
   たけし、母を優しく引きはがす。
たけし「なにを大げさな」
由紀子「今回のことは」
たけし「何の話?」
由紀子「みのるのこと」
たけし「みのるの小説のことか?」
由紀子「うん」
たけし「まさかみのるが小説を書いてたなんて
な。びっくりしたよ。かあさん」
由紀子「私も知らなかった」
たけし「うん」
   由紀子、静かに泣きだす。
由紀子「ごめんね」
たけし「何を母さん。謝る必要なんてない」
由紀子「ごめんね」
たけし「お母さんが謝ると、俺が可哀そうにな
っちゃうじゃないか」
   たけし、笑う。
由紀子「ごめん」
   無理やり笑おうとする由紀子。
たけし「そういえばお母さん聞いた?」
由紀子「なにが?」
たけし「みのる、小説書いて2作目だってさ」
由紀子「そうなのかい?」
たけし「あいつ天才だよ」
由紀子「……」
たけし「俺、酔ってたのか?」
由紀子「え?」
たけし「自分の宿命に」
由紀子「どういうこと?」
たけし「自分の足がなくなってから、俺、小説
うまくいく気がしてたんだよ」
由紀子「……」
たけし「俺はこんなに不幸だから、良い小説が
書けるって」
由紀子「本当にそうかもしれないよ」
たけし「俺、何十作も書いたよ」
由紀子「頑張ったね」
たけし「そうじゃなくて」
由紀子「頑張ったよ」
たけし「俺の境遇なんて小説には関係なかった
んだね」
由紀子「そんなことない」
たけし「みのるの作品、素晴らしかった」
由紀子「私は読めなかった」
たけし「普通の中の絶望をしっかり書けてた」
   由紀子、たけしの下半身を見る。
   たけし、その視線に気づく。
たけし「お母さん、諦めないよ。人生に」
由紀子「でも」
たけし「お母さんが心配しなくても強く生きて
いくから」
由紀子「でも」
   由紀子、涙が溢れてくる。
たけし「お母さん、心配してくれてありがとう」
   由紀子、号泣する。
たけし「お母さんが泣けば泣くほどつらくなる。
 お願いだからやめて」
由紀子「分かってる。分かってるんだけど」
たけし「お母さん、俺働くよ」
由紀子「うん」
たけし「俺には才能が無い」
由紀子「そんなことない」
たけし「こんな体でも、働けるとこ探すから」
   由紀子、たけしの顔を見れない。
たけし「なんで来たんだよ。母さん」
由紀子「たけしが心配で」
たけし「俺は大丈夫だよ」
由紀子「そんな」
たけし「お母さん。人生は楽しむもんだ」
由紀子「そうだけど」
たけし「俺はみのるを祝いたい」
由紀子「そんな」
たけし「みのるを祝える人間ではありたい」
由紀子「うん」
たけし「お母さん、芥川賞だぜ。すげーな」
由紀子「うん」
たけし「みのるを祝ってやろうよ」
   たけし、情けない顔。
   由紀子、ぐちゃぐちゃの顔。
              おわり

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