登場人物
立脇翔太(12)主人公・小学生
立脇智史(45) 翔太の父
立脇京子(38) 妻
深山過代(65) 霊媒師
町田香織(12) 小学生
飯山澄子(12) 小学生
友坂由美(38) 教師
生徒達
○道路・(夜)
道路脇に止められた黒塗りの霊柩車。
街路灯に照らされた霊柩車は、ハザードランプが点滅している。
霊柩車の運転席ドアの前に立つ運転手。
運転手は、黒いスーツに制帽、白い手袋で立っている。
ナレーション「このツアーは、真実を浮かび上がらせる闇夜の異次元世界へ案内する旅行社の企画。深夜午後11:00に四谷4丁目から出発する。今回の行き先は、夫婦からの要望で、先日亡くなった子供の死の真相を探る旅」
○道路・歩道(夜)
黒の喪服姿の立脇智史(45)京子(38)が霊柩車に向かって歩いている。
立脇と京子が運転手の前で立ち止まる。
運転手「立脇様ご夫妻でございますね。お待ち申し上げておりました。どうぞこちらへ」
運転手が後部ドアを開け、いざなう。
立脇「どうぞよろしくお願いいたします」
運転手に一礼し車に乗り込む2人。
運転手がドアを閉める。
○霊柩車・中(夜)
暗い車の助手席に座る深山過代(65)。
乗り込んでくる立脇夫妻を見ている。
後部座席裏には、子供用棺桶が積まれている。
棺桶を見て驚く2人。
立脇が席に就きながら、
立脇「あのー、この棺桶は、……」
深山「案じ召されるでない。その棺の中に骸は、おらぬ」
立脇「はあ、むくろ……」
深山「あの世の霊魂と現世を結ぶ結界の棺じゃ」
運転手がドアを開け中に入ってくる。
深山「我は、今宵、其方たちを霊界旅路にいざなう霊媒師、深山過代と申す」
立脇と京子が、軽く会釈する。
立脇「立脇と申します。今日は、宜しくお願いします」
深山「今宵は、満月じゃ。霊魂降臨に剴切な夜じゃ」
立脇「あのー、疑うようで申し訳ないのですが本当に子供の霊を呼び出せるのですか」
深山「我、疑うことなかれ。深い疑念は、その真贋を惑わせる。見える物も見えなくなるであろう」
立脇「はあ、……、失礼なことを言ってしまいました」
深山「では、亡くなった御子息の名と年齢を述べよ」
立脇「立脇翔太、12歳です。先日、学校の屋上から飛び降り自殺しました」
京子は、目頭を押さえ泣いている。
立脇「学校では、万引きの共犯を苦にして自殺したと言われているが、どうしても信じられない……」
立脇も目頭を押さえる。
運転手が腕時計を見る。
運転手「それでは、予定時刻になりました。立脇翔太の元に出発致します。シートベルトを、お締めください」
立脇夫妻を乗せた霊柩車は、ゆっくりと走り始めた。
深山は、両手を前に組み目を閉じ、
深山「摩訶般若波羅蜜多、摩訶般若波羅蜜多、神仏霊界君主に告げる。彷徨える立脇翔太霊魂、我に降臨させたまえ!」
深山は、大きく息を吸いゆっくりと息を吐く。
吐く息と共に体の力が抜けてぐったりとする。
辺りは、暗くなりライトの照らす道しか見えない。
霊柩車は、急な上り坂を登り始め、走行音は、無くなり静かに深い霧の中へ入っていく。
深い霧を車のライトが照らす。
ゆらゆらと深山の体が揺れ始める。
翔太の声「あー、お母さん、お父さん……ごめんね僕を許して……」
京子が驚き顔を上げる。
京子「貴方、翔太なの?」
驚いた顔の立脇。
立脇「翔太……」
京子「翔太! どうして死んじゃったの?」
翔太の声「……それは、絶対言えない……」
京子「翔太、ねえ翔太! お願いお母さんたち本当の事を知りたいのよ……」
涙する立脇と京子。
運転手「これから霊界に入ります。翔太君の真実が車のライトに照らされて見えてきます」
× × ×
ライトで照らされた霧の中に映画のスクリーンのように学校の教室風景が映りだす。
○6年3組・教室前通路
教室入口上に『6年3組』の室名札。
○教室・中(朝)
教室内は、生徒達が思い思いに雑談している。
教室後方に座る町田香織(12)が下を向いて泣いている。
教室後方の入口から入ってくる翔太が香織に近づき、
翔太「どうしたの? 香織ちゃん」
香織が顔を上げて翔太を見る。
香織「私の体操着がハサミで切られているの」
机の脇にある袋からズタズタに切られた体操着を出す。
翔太「(驚いた顔で)ひどい、誰がこんな事を……」
香織「……たぶん澄子ちゃん。最近上履きを捨てられたり、給食の中に虫を入れられていたり、そんな事ばかりなの」
翔太「先生には、言ったの?」
香織「言ったわ。でも、それから益々ひどくなったわ。澄子ちゃんが今度言ったら殺すって……」
香織の目から大粒の涙がこぼれる。
翔太「あいつ! 絶対許せない。僕が言ってあげる」
香織「だめよ。そんな事したら益々ひどくなる。だからやめて。お願い!」
翔太「でも、それじゃ……」
香織「いいの、もういいの。私が我慢すれば済む事だから」
翔太「僕は、いつでも君の見方だよ。何かあったら話して」
香織「ありがとう。翔太君」
香織の肩にそっと手を置く翔太。
涙を拭く香織、翔太を見つめる。
○道路(夕)
ランドセル姿の翔太と香織が並んで歩いている。
翔太「香織ちゃん。澄子に虐められてるってお母さんに相談したの?」
香織「うち、母子家庭でしょ。お母さんに心配かけたくないの」
翔太「そうか…… 僕で良ければいつでも相談にのるよ」
香織「ありがとう、翔太。翔太だけだわ。味方になってくれる人」
翔太「そうなの? 誰も味方いないの?」
香織「みんな澄子に目を付けられたくないから……」
翔太「そうか、それで一人ぼっちなんだね」
香織「うん(俯く)」
翔太「僕が、味方になってあげるよ」
香織、翔太を見て、
香織「ほんとう?」
翔太「ああ、ウソはつかないよ」
香織「ありがとう。翔太」
○6年・教室・中(朝)
教壇に立つ友坂由美(38)、生徒達が席に就いている。
由美「今日は、修学旅行のグループ別けをしたいと思います。仲の良い子どうしで5,6人でグループを作って移動してください」
ざわつく教室、思い思いに顔を見合わせている。
数人が席を立ちすぐにグループを作り始める。
翔太、5人の男子とグループを作る。
香織、下を向いて立ちすくむ。
翔太、香織を見る。
翔太「ねえ、僕たちのグループ入らない?」
香織、翔太を見て、
香織「良いの?」
翔太「ねえ、みんな。香織ちゃん仲間に入れてもいいよな」
グループの皆、顔を見合わせ頷く。
男子A「良いよ。香織ちゃん遠慮するなよ」
飯山澄子(12)がその光景を睨んで見ている。
澄子心の声「翔太のやつ。どうなるか思い知らせてやる」
○観光バス・中(夕)
道路を走る観光バス。
生徒達思い思いに雑談している。
バスガイド「間もなく到着します。お忘れ物の無いようにご確認ください」
× × ×
翔太と香織が並んで座ってる。
香織「今日は、とっても楽しかったわ。ありがとね翔太」
翔太「僕もだよ、いっぱい写真も撮ったし、良い思い出になるよ」
○バスターミナル(夕)
停車中の観光バスのドアから生徒達が降りている。
リュックを背負った翔太、続いて香織が降りてくる。
翔太「じゃあ、気を付けて帰ってね」
香織「ありがとね。じゃあ、また明日」
香織、手を振り歩き始める。
× × ×
歩道を歩いている香織の前に澄子と少女達5人がわき道から出てくる。
澄子達が道を塞ぐように立ち止まる。
驚いた顔で立ち止まる香織。
澄子「ずいぶん楽しそうだね香織。翔太と出来てんのかよ」
香織「翔太君は、ただの友達です」
澄子「友達? 嘘つくなよ。どうみてもラブラブじゃん」
香織「……何か用ですか?」
澄子「チョコレート食べたいんだよな」
香織「チョコレート? 持ってませんけど」
澄子「残念だな香織。お前そこのコンビニでチョコレート持って来い」
香織「えー、でも私、お金持ってないし」
澄子「買ってこいって言ってんじゃねーよ。持って来いって言ってんだよ」
香織「何? それって万引きしてこいって事?」
澄子「なんだよ、できないって言うのかよ!」
香織「出来ないわ……」
澄子「てめー、言う事が聞けないならこの場で前歯抜いてやる!」
ポケットからペンチを取り出す澄子。
香織、ペンチを見て驚く。
澄子「どっちが良いんだよ」
香織「……行きます」
澄子「じゃあ、早く行け! 逃げたら前歯ペンチで抜いてやる」
○コンビニ・中(夕)
数人の客が買い物をしている。
ドアが開いて香織が入ってくる。
店員「いらっしゃいませ」
香織の額は、汗で濡れている。
店員、眉を顰め香織を見ている。
お菓子棚の前で辺りを見回している香織。
香織、すばやくチョコレートを手に取りポケットに入れ急ぎ足で出口に向かう。
香織、出口前で、後ろから店員に肩を掴まれ、振り向く。
店員「あー、それ、ポケットの中。お会計、済んでないよね」
香織、泣きそうな顔で、
香織「ごめんなさい。お金、後で持ってきます。許して……」
○立脇家・翔太の部屋(夜)
翔太、机で勉強している。机の上にスマホが置かれている。
スマホ呼び出し音。
スマホを手に取り電話に出る。
香織の声「もしもし、翔太」
翔太「香織ちゃん。どうしたの」
香織の声「(泣き声で)澄子が……」
翔太「どうしたの、何かあったの?」
香織の声「澄子から万引きしろって言われて。掴まっちゃって」
翔太「(驚き)えー、捕まっちゃったの」
香織の声「ごめん、翔太…… 澄子から『翔太に命令された』って言えと脅されたの」
翔太「えー、俺のせいになってるの」
香織「ごめんなさい(泣く)」
翔太「そうか、澄子のやつ。許せないな」
香織「澄子に虐められている事、他の人には、言わないで。お願い」
翔太「わかってるよ。僕は、大丈夫だから心配しないで」
○小学校・屋上
澄子達5人のグループに香織が囲まれている。
屋上出入り口から翔太が出てくる。
澄子達が翔太を見る。
× × ×
澄子と翔太が合向かいに立つ。
澄子「おい、翔太。お前この事、誰にも言ってないだろうな」
翔太「言ってないよ」
澄子「お前、ずいぶん香織と仲が良いんだな」
翔太「澄子さ、ちょっとやりすぎじゃ無い。香織がかわいそうだよ。これ以上虐めると先生に言うよ」
澄子「何? お前本気で言ってんのかよ」
翔太「本気だよ」
澄子「ふーん、そうか。それじゃしょうがない、これに『お詫びに死にます』て書け」
澄子が紙と鉛筆を差し出す。
翔太「(驚き)何でそんな事を……」
澄子「お前が香織に万引きさせたんだろ。えー、おい!」
翔太「な、何を言ってるの、それは……」
澄子「お前だよ。お前がさせたんだよ。ここにいる皆が証人だよ。嫌だって言うなら香織を屋上から突き落とす」
翔太「落とすって、本気かよ!」
澄子「お前たち、香織を押さえつけろ」
澄子の仲間達が香織を柵に押さえつける。
香織「やめて(泣く)」
翔太「やめろ!」
澄子「どっちかが死ぬんだよ。香織を殺すのか? 良いのかそれでも。どうするんだよ翔太」
翔太、香織を見る。
香織、下を向いて泣いている。
翔太「わかったよ。俺がここから飛び降りる」
○霊柩車・中(深夜)
映し出された映像が消えライトに照らされた霧しか見えない。
運転手「これでイレブンナイトツアーは、終了致しました。まもなく現世に到着致します。少し揺れますのでご注意ください」
泣いている立脇夫妻。
ナレーション「闇の中に眠る真実の旅。このツアーで見た出来事は、決して他言してはならない」
〈了〉
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