泥の味 ドラマ

片田舎に一人で住む頑固おやじの茂。茂はほぼ初対面の孫、湊音を3日間預かることに。茂は、妻、息子がいた、昔を思い出す。
松岡奈々 27 0 0 09/14
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第一稿

【人物】
岩宗 茂 (67)…農家
岩宗 湊音(7)…小学2年生
岩宗 慎二(42)…サラリーマン
岩宗 文江(写真のみ)…茂の妻

〇岩宗家・前
畑のトマトの葉から ...続きを読む
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【人物】
岩宗 茂 (67)…農家
岩宗 湊音(7)…小学2年生
岩宗 慎二(42)…サラリーマン
岩宗 文江(写真のみ)…茂の妻

〇岩宗家・前
畑のトマトの葉から雫が垂れる。

〇同・居間
文江の仏壇の前で手を合わせる岩宗茂(67)。
文江の写真の横に30年前の岩宗家の家族写真がある。

〇同・前
黒い外車が止まる。
×  ×  ×
車内。
運転席の岩宗慎二(42)がバックミラーを見る。
後部座席で外を眺める岩宗湊音(7)。
茂「着いたぞ」
×  ×  ×
家の前。
茂が家から出てくる。
慎二と湊音が車から降りる。
ぬかるんでいる泥に足を取られながら歩く慎二と湊音。
慎二「あぁ、もう、うっとうしいなあ」
茂は慎二と湊音を見る。
慎二「おぉ」
茂「あぁ」
湊音「こんにちは」
茂「こ、こんにちは」
慎二「電話で話した通り。迎えは日曜の昼には来るから」
湊音「よろしくお願いします」
茂「よろしく」
慎二はスーツに付いた泥を払う。
慎二「本当変わんねぇな、ここ。何にもない」
茂「……慎二。時間大丈夫なのか。早く行けよ」
慎二「はいはい。じゃあ、よろしく。湊音、塾のテスト勉強しとけよ」
頷く湊音。
慎二は車へと歩いていく。
慎二を見つめる湊音。
茂は家へと歩いていく。

〇同・居間(夜)
ご飯を食べる茂と湊音。
湊音は姿勢よく食べている。
茂は湊音を見る。
湊音はほうれん草を箸で掴み、口に運ぶのをためらっている。
茂「嫌いか?」
湊音は首を振り、ほうれん草を口に放り込む。
茂は笑う。
湊音は飲み込み、口の中を茂に見せる。
茂は笑う。

〇同・浴室(夜)
湊音が頭を洗っている。
ガラス戸に茂の影が映っている。
茂の声「お湯、大丈夫かー?」
湊音「うん」
茂の声「えぁ?」
湊音「大丈夫!」
茂の声「はいはい」
ガラス戸の影が消える。

〇同・居間(夜)
勉強している湊音。
押し入れから布団を下ろす茂。
茂「いててててて」
湊音は茂と反対側の布団を持つ。
茂「ありがとう」
×  ×  ×
湊音がシーツの端を持って、背伸びをすると、シーツが湊音の体に被さる。
湊音は顔を出し、
湊音「おじいちゃんはどこで寝るの?」
茂「ん? こん上だ」
湊音は文江の仏壇を見る。
茂は縁側の方を見て、
茂「あ、やっぱり、今日はこっちの方が涼しそうだな。俺もこっちで寝るかぁ」
湊音が微笑み、茂も微笑む。

〇同・居間(朝)
朝日が文江の仏壇を照らす。
押し入れを探っている茂。
茂「あった、あった」
箱をおろす茂。
湊音は咳込む。
茂「大丈夫か?」
頷く湊音。
茂が箱を開けると、昭和のおもちゃがたくさん出てくる。
湊音「これ全部パパの?」
茂「今見るとすごい量だな」
湊音は箱からけん玉を取り出す。
茂「お、けん玉出来るのか」
湊音はけん玉をする。
茂「上手、上手。慎二も。あ、パパも得意だったぞ」
湊音はいろんな技を披露する。
拍手する茂。
湊音「パパ、出来ないと思ってた」
茂は湊音を見つめる。
茂「パパはお前に勉強、勉強って言うのか?」
湊音は頷く。
茂「……ほら、コマもあるぞ」
湊音「え! どれどれ?」
茂がコマを回そうとすると、
湊音「なんか絵描いてる」
茂「これは、パパが落書きしたんだ」
湊音「パパが?! ワンちゃんの絵だ」
茂「ほら、ここも、見てみろ」
茂は柱に書かれた犬の絵を指す。
湊音「あ! おんなじ絵」
茂「昔飼ってた犬だ」
湊音「あれもパパが描いたの?」
茂「あぁ、そうだ。母さんにそれはもう、怒られてな」
湊音「おじいちゃん家、僕の知らないパパがいっぱい」
茂「そうだなぁ」
柱には慎二の身長と書かれ、いくつもの傷がついている。
茂は柱をさすり、部屋中を見渡す。

〇同・前
トマトにかぶりつく湊音。
湊が被る麦わら帽子にはマジックでシンジと書かれている。
湊音「うわあ」
茂「好きか? トマトは」
湊音は首を振り、
湊音「でも、おじいちゃんのは美味しい」
茂は笑う。

〇同・浴室(夜)
頭を洗う茂と湯船に浸かる湊音。
湊音「1、2、サンマの尻尾、ゴリラの息子」
茂「菜っ葉、葉っぱ、腐った豆腐は」
湊音&茂「食べられない! おまけのおまけの汽車ポッポー、ポーっと鳴ったら上がりましょ、ポッポー」
茂「明日、裏の山行くか?」
湊音「何があるの?」
茂「そう聞かれたらなぁ。なーんにもねぇ」
湊音「じゃあ、探しに行こう!」
茂「そうだな。何かあるかもしれねぇな」
笑う茂と湊音。

〇山道
草木が生い茂る。
茂は枝を鎌で切りながら歩く。
茂「やーっぱ、何にもないなぁ。虫は山ほどいるけどよ」
茂の後ろを付いていく湊音。
湊音「あ」
木に三本連なって生えているキノコ。
湊音「キノコ」
茂「キノコなんか、そこら中に生えてるぞ」
湊音「でもこれ、他のとは違うよ。キノコの家族だ」
茂「どれどれ」
湊音「これがママで、これがパパ。で、これが僕? んー、でも、なんか違うなあ」
茂「なんか違う?」
湊音「あ、分かった! おじいちゃんと、おばあちゃんと、パパだ」
茂「えぇ?」
湊音「ほら、お家にある写真とそっくり」
見つめ合う茂と湊音。
茂は湊音の被る麦わら帽子を叩く。
湊音「わあ、おじいちゃん、見えないよ」
鼻をすすり、歩き出す茂。

〇同・居間(夕)
縁側に座り、アイスを食べる茂と湊音。
茂「勉強はいいのか」
湊音「うん、たまには良い」
笑う茂。
空には厚い雲が浮かんでいる。
茂「雨だな」
湊音「ほんと? やったー」
茂「雨好きなのか?」
湊音「楽しいから」
茂「外で遊べねえだろ?」
湊音「こっそり、水たまりにジャンプするの」
茂「ふん。おじいちゃんも慎二と、よく泥遊びしたもんだ。母さんにバレない様に、汚れた服を二人で必死に洗濯してな」
湊音「ほんとの話?」
茂「もちろん。それがなんで、あぁなっちまったかな」
湊音はアイスを舌ですくう。
茂「いつからだろうなぁ。俺はこんな何もない田舎にいられねぇ。大嫌いだって。出て行って」
湊音はアイスの棒を舐めている。
茂「今度は何を言い出すかと思ったら、俺に東京へ来いって、近くにマンション借りてやるからだって」
湊音「おじいちゃん、東京来るの?」
湊音は茂を見つめる。
茂「……だめだ。やっぱりここを捨てるわけにはいかねぇ」
湊音「僕またここで遊びたい」
茂「大丈夫だ。ここはなくさねぇ」
文江の仏壇を見る茂。
雨が降り出す。
畑に水たまりができる。
茂「……湊音。おじいちゃん、思いついたぞ」
首をかしげる湊音。

〇同・前
畑の周りにはたくさんの水たまりが出来、カエルが鳴いている。
慎二がスーツ姿で車から降りてくる。
慎二「くっそ、もう、ほんとに」
慎二の革靴が泥で汚れる。
慎二が家の方へ歩く。
慎二「…え?」
慎二は立ち止まる。
茂と湊音は泥を投げ合っている。
湊音「わー。やめてよ、おじいちゃん」
茂「お前こそ」
慎二「何をしているんだ、湊音!」
慎二は茂と湊音に近づく。
湊音の表情が強張る。
慎二「服が汚れているじゃないか」
湊音「ごめんなさーー」
慎二の顔に泥が飛んでくる。
慎二「ふがぁ?!」
慎二は顔に付いた泥を落とす。
慎二「待ってくれ。まさか、親父か?」
茂は肩をすくめる。
湊音は小さく笑う。
慎二「笑うな、湊音。とうとう気が狂ったか」
茂は慎二に泥を投げる。
慎二「何考えてんだよ、親父! ぺっ」
噴き出して、笑う茂と湊音。
茂「(小声で)いけ」
茂は泥を投げる仕草を湊音にする。
湊音は首を振る。
茂「(小声で)いけ!」
慎二へ泥を投げる。
湊音「パパも遊んでよ!」
泥が当たる慎二。
慎二「いい加減にしろ」
湊音に近づく慎二。
目をきつく瞑る湊音。
慎二は湊音の前で立ち止まる。
湊音の被る麦わら帽子を見て、
慎二「……これ」
茂「慎二。あの時言えなかったけどよ。ここには何もないことねぇ。いろんなもんが、いっぱいあるんだよ」
×  ×  ×
慎二の身長と書かれ、いくつもの傷がついている柱。
×  ×  ×
岩宗家の浴室。
×  ×  ×
木に三本連なって生えているキノコ。
×  ×  ×
慎二は顔を拭きながら、ため息をつく。
湊音がゆっくりと目を開ける。
茂「ふんっ?!」
茂の顔に泥が付いている。
湊音「パパ……」
湊音は笑顔になる。
茂、慎二、湊音は泥だらけになりながら、泥を投げ続ける。

〇同・居間(夕)
物干しざおに茂、慎二、湊音の服が干されている。
軽装に着替えている慎二、茂、湊音は縁側に座り、アイスを食べている。
茂「母さん、怒ってるな」
慎二「うん」
湊音は茂と慎二を交互に見る。
慎二は寝転がり、背伸びをする。
慎二「……親父」
茂「なんだ」
慎二「やっぱり親父には泥が似合ってる」
茂「お前もな」
慎二「親父には、ここで死んでもらうよ」
茂「あぁ」
湊音「おじいちゃん死んじゃうの?」
茂「いーや。まだまだ死ねねぇな」
慎二「おじいちゃんは殺しても死なねぇぞ」
湊音「え?!」
茂「やめろよ、慎二」
笑う慎二と茂。
湊音の頭を撫でる茂。
茂「また来いよ」
茂、慎二、湊音の後ろ姿が夕日でオレンジ色に染まっている。

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