僕がフィギュアスケートを続ける理由 舞台

 佐藤舞斗は、オリンピック2連覇、スーパースラムを達成したフィギュアスケート選手である。彼には、輝かしい経歴の裏に隠された過去があった。その悲しみを乗り換えた先にあるものとは?愛なのか?それとも絶望なのか?
むつ 13 0 0 09/16
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第一稿

〈1〉世界ジュニア選手権会場ステージ上には、多くの人々が行き交っている。そんな中、15歳の主人公佐藤舞斗は、母親を探しにやって来た。

佐藤舞斗(以下佐藤)「お母さん!お母さん ...続きを読む
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〈1〉世界ジュニア選手権会場ステージ上には、多くの人々が行き交っている。そんな中、15歳の主人公佐藤舞斗は、母親を探しにやって来た。

佐藤舞斗(以下佐藤)「お母さん!お母さん!お母さん!」

多くの人々にぶつかりながら、母親に似た人の肩を叩く。

佐藤「お母さん?」

女性は、驚いた様子で振り返る。

佐藤「す、すみません。」

そして人混みの中、再び探し続ける。そのまま佐藤は、はける。

そこに後藤記者と一ノ瀬リサがやってくる。彼らは、人混みの中、舞斗を探す。

後藤記者「舞斗!舞斗!どこだ?もう表彰式始まるぞ!」

一ノ瀬リサ「舞斗!舞斗!舞斗!」

後藤記者「舞斗、いないな。折角世界ジュニア選手権で優勝したっていうのに、どこ行ったんだよ。」

一ノ瀬リサ「(少し間を開けて)多分お母さんを探しに行ったんだと思う。」

後藤記者「お母さん?舞斗ってお母さんいたのか?」

一ノ瀬リサ「うん。7年ぶりに会えるのを楽しみにしてたの。」

後藤記者「そうなのか。もしかしたら会場の入り口にいるかもしれない。見に行こう。」

リサ「うん。」

2人は、上手にはける。そして次第に人々も少しずついなくなっていく。

下手から佐藤が走ってやってくる。そして中央付近で立ち止まる。

佐藤「お母さんのバーカ!バーカ!バーカ!(泣きながら)迎えに来るって言ったじゃん。嘘だったの?。いつになったら迎えに来てくれるんだよ。嘘つき野郎!」

佐藤は、泣きながら三角座りをして頭を三角座りした足の中にうずめる。

そこに後藤記者とリサがやって来る。

後藤記者「舞斗いた!舞斗!ここにいたのかよ。探したんだぞ。」

りさ「舞斗!表彰式始まっちゃうよ。早く行かないと。」

佐藤「嫌だ。行かない。」

後藤記者「何言ってるんだよ。お前がいないと表彰式成り立たないだろ。」

佐藤「1番獲ってもちっとも嬉しくないよ。なんのために優勝したのか分からない。」

沈黙が流れる。

リサ「お母さん、いなかったの?」

佐藤「(うなずく)」

後藤記者「お母さん、本当に今日会いに来るって言ってたのか?」

佐藤「今日とは、言ってなかったけど、世界大会で優勝した日に会いに行くって。その言葉を信じて7年も頑張ってきたんだ。(泣き出す。)」

リサ「(思いついたように)あ!もしかしたら、世界大会ってオリンピックだったんじゃない?」

後藤記者「…そうだそうだ。オリンピックで優勝したら、必ずお母さんも迎えに来てくれるよ。オリンピックなら全世界のテレビで放送もあるし、お母さん必ず見てくれてるはずだ。」

リサ「そうだよ。オリンピックで2連覇すれば歴史的快挙にもなる。だから頑張ろうよ。」

佐藤「そうかな?…よし!決めた!オリンピック2連覇する。そのために頑張る。」

後藤記者「よし!そのいきだ!」

プロローグ

音楽が流れ、開演アナウンスが流れる。15歳の佐藤は、一生懸命に踊っている。そして母の姿が見え、追いかける。だが母の姿が見えなくなってしまう。会長が佐藤の手を引っ張り、導かれるように鬼頭コーチの元へ行く。鬼頭コーチと共に踊る佐藤の元に一ノ瀬リサと青木もやって来て一緒に踊る。そしてその姿を写真を撮る後藤記者もいる。そして15歳の佐藤は、風の妖精たちによって囲まれ、23歳の佐藤が姿を表す。23歳の佐藤も母の姿を見つけ、追いかけるが、母の姿が見えなくなってしまう。そして23歳になった一ノ瀬リサが現れる。佐藤は、彼女の元へと走るが、彼女も同様に姿が見えなくなってしまう。

【歌】いつまでも追い求めている 君の姿あの日からずっと君は今どこで何をしているのか答えを追い求める 知りたくない 知りたい交差する僕の想いいつまでも側にいると信じたい 愛しい君去ってしまうのではないかと怯える僕だから告げずにいよう この想い愛している 愛していない素直じゃないこの想いいつか君に話したい この想い

暗転

第2場 記者会見場

多くの記者たちが記者会見場に集まっている。記者たちは、カメラやスマホマイクなどを持ちながら準備をしている。

【歌】夢にまでみたオリンピックカメラを抱え パソコンに入力マイクにボイスレコーダーを用意世界のどこまでも掛けるわ選手たちの思いを伝える国民に夢と希望を届けるため今日も走るわ どこまでも

そこにある記者が走ってやって来る。

記者A「おーい!フィギュアスケート男子シングルの優勝者が決まったぞ。」

記者B「誰に決まったの?」

記者A「佐藤舞斗選手。66年ぶりの2連覇達成だ。」

【歌】ついに来たんだ この時が66年ぶりの快挙未だ誰も成し遂げなかった連覇早く聞きたい その声を記者冥利につきる この瞬間

記者A「佐藤選手が到着されました。」

佐藤が到着すると、一斉に記者たちが佐藤に向けてカメラを向ける。会場には、カメラのシャッター音が鳴り響く。

記者A「佐藤選手!男子シングル優勝おめでとうございます。」

佐藤「ありがとうございます。」

如月記者「オリンピック2連覇は、66年ぶりの快挙です。また先月の四大陸選手権も制覇し、スーパーセラムも達成された今、佐藤選手の進退に注目が集まっています。」

佐藤「そうですね。今のところオリンピック後も選手を続けようと思います。まだまだ滑れる限り、皆さんの前で全力を尽くしたいと思います。」

如月記者「その言葉を全国民が待っていました。私もその言葉を聞けて嬉しいです。最後に佐藤選手の今後の目標についてお聞かせ願います。」

佐藤「目標ですか…(考え込む表情を浮かべる)」

如月記者「佐藤選手?どうかされましたか?」

佐藤「ああ。すみません。オリンピックが終わってすぐなので目標については、またこれから考えていきたいと思います。では、僕は、表彰式があるのでここで失礼します。」

如月「貴重なお話ありがとうございます。」

佐藤「ありがとうございます。」

佐藤は、インタビューを終え、その場を立ち去る。残された記者たちは、その場に留まる。

後藤記者「舞斗ももう立派な大人だなぁ。」

先輩記者「そうですね。もうオリンピック王者ですから。それも2連覇ですよ。」

後藤記者「昔からの夢を叶えたんだな。」

女性記者「幼い頃から取材をしてきた選手がオリンピック王者になるのは考え深いものがあるわ。」

先輩記者「そうですね。僕たちでもこんな気持ちになるのだから、8歳の頃から取材されている後藤さんは、より感じるものがありますね。」

後藤記者「そうだな。もう息子みたいなものだよ。この気持ちを早く如月にも分かってもらいたいものだよ。な?如月?って如月どうしたんだ?」

女性記者「硬まっているわね。」

先輩記者「どうした?初めてのインタビューに緊張したのか?」

如月記者「はい。憧れの佐藤選手が目の前にいましたから。」

後藤記者「お前そんなに舞斗のこと好きだったのか?」

如月記者「はい。今回ずっと佐藤選手を取材してみてトップで活躍し続ける選手の考え方であったり、行動力に感銘を受けました。僕も仕事をしていく上での参考にしたいなと。」

一同笑う。

如月記者「なんで笑うんですか?僕真剣に話してるんですけど。」

後藤記者「あんなに仕事に無気力なお前からそんな言葉が聞けるとは思わなかったよ。お前をオリンピックまで連れてきて良かったよ。な?」

女性記者「そうね。如月くんまで変えてしまうのね。佐藤選手は。」

如月記者「ちょっと馬鹿にしないでくださいよ。」

一同笑う。

如月記者「あの!僕気になったことがあるんですけど。」

後藤記者「おう。なんだ?」

如月記者「僕が最後にした質問あるじゃないですか?その質問の後、佐藤選手が考え込んでいたように見えたんです。」

女性記者「たしかにそれは私も気になったわ。今後の目標について考えているのかしら。」

先輩記者「やはりスーパーセラムを達成した今、目標を見失ってしまったのかもしれないな。」

女性記者「そうね。銀メダルを獲得したアメリカのマイケル選手も今回のオリンピックで引退するって言ってたわ。もしかしたら佐藤選手も引退する可能性もあるのかもね。」

先輩記者「そうだな。」

如月記者「あの!素朴な疑問なんですけど、レスリングだと吉田沙保里選手がオリンピック3連覇してるじゃないですか?なのに何故フィギュアスケートは、一度金メダルを獲得したら引退すると言われるんですか?」

佐藤記者「フィギュアスケートは、まず2大会連続で出場すること自体難しいんだ。ロシアの女子選手なんか10代で引退する選手もいるぐらい継続が難しい競技なんだ。」

女性記者「佐藤選手は、そんな競技でオリンピック2連覇を果たしたのよ。」

如月記者「そうなんですね。」

先輩記者「だから余計に疑問なんだよ。オリンピック2連覇を果たした今も現役を続けようと思えている原動力がどこにあるのか。」

女性記者「佐藤選手は、ファン想いだから現役にこだわってるんじゃない?」

先輩記者「でもそれだと、引退後にアイスショーを開催した方がより多くのファンの前で滑ることができるじゃないか。」

女性記者「たしかに。」

後藤記者「地上波で放送がある競技にこだわっているんだと思う。」

如月記者「地上波ですか?それは何故ですか?」

後藤記者「いや…まぁなんとなくだよ。」

女性記者の後輩が女性記者の元へとやって来る。

記者A「先輩!次のインタビュー始まります。」

女性記者「分かったわ。じゃあ、私たちは、もう行くわね。」

後藤「おう。」

女性記者と先輩記者は、この場を去る。

後藤記者「如月もやっとこの仕事に熱心になってきたんだな。」

如月「いや…そんなことないです。」

佐藤記者「素直じゃないなぁ。そんな勉強熱心なお前のために舞斗のこれまでの歴史を教えてあげよう。」

如月「本当ですか?」

後藤記者「おう。まずは、舞斗がフィギュアスケートを始めたきっかけだな。」

2人は、上手へと異動する。

第ニ場 アイスリンク

(回想シーン)

幼い頃の佐藤と母親がアイスリンクで練習している。その他にもアイスリンクには、様々な人々が行き交っている。上手付近では幼い頃の佐藤について後藤記者が如月記者に話している。

幼少期の佐藤「お母さん!僕こんなこともできるようになったよ。ほらジャンプ。1回転できた。わーいわーい。お母さん、すごいでしょ?」

佐藤の母「すごいわね。さすが私の自慢の息子だわ。」

後藤記者「彼は、幼い頃お母さんと一緒によくアイスリンクを訪れていたそうだ。そんな彼の姿を見た先生が話しかけてきたらしい。」

スケート教室の先生「あなた、今もしかしてシングルアクセルをしたの?お母さん、この子は何歳ですか?」

母「3歳です。そんなにすごいジャンプなんですか?」

後藤記者「通常、教室に習い始めて1ヶ月程度でスリージャンプといって半回転できるようになるのだが、舞斗は、3歳で1回転の中でも最も難易度が高いシングルアクセルを跳んでいたそうだ。」

如月記者「そうなんですね。やはり天才は、生まれた時から天才なんですね。」

佐藤記者「こうしてクラブに所属することになった彼は、先生の指導の元実力をつけて行った。だが、そんな日も長くは続かなかったんだ。」

如月記者「え?何があったんですか?」

後藤記者「彼が5歳の時、親が離婚したらしい。それに伴い、スケートを続けることが難しくなった。」

如月記者「そんな話始めて聞きました。やはり金銭的に難しくなったんですか?」

後藤記者「そうだな。フィギュアスケートは、1ヶ月に約13万円の出費がかかると言われている。片親では到底難しかったに違いない。」

如月記者「それでどうなったんですか?」

舞台中央では、先生と佐藤の母親が話している。

先生「舞斗くんは、今後必ずオリンピックに出場する選手となります。そのため選手コースに入会し、週に5回のレッスンへと切り替えたいと考えています。」

母「お気持ちはありがたいのですが、うちは母子家庭で経済的にこれ以上のお金をかけることは、難しいです。」

先生「そうですか。ですが、彼がオリンピックで金メダルを獲るには、今特訓することが最も大事だと思われます。」

後藤記者「舞斗の母親は、この提案にはじめは断ったそうだ。だが生徒を褒めないことで有名な先生がこれだけ言うのならば彼は、必ずスターになると信じた舞斗の母親は、パートを掛け持ちするようになったそうだ。」

如月記者「そうだったんですね。フィギュアスケートを続けられるようになったんですね。」

後藤記者「だが、そんな日々も長くは続かなかった。ある日舞斗の母親が突然仕事場で倒れたそうだ。」

舞台中央では、ベッドに横になっている母親。病室の端の方に謎の男性の姿がある。そして8歳の佐藤が病室に入ってくる。

佐藤選手「お母さん!お母さん!」

舞斗の母「舞斗、心配かけてごめんね。」

佐藤選手「お母さん、大丈夫なの?」

舞斗の母「大丈夫よ。少し疲れていただけみたい。」

佐藤選手「そうなんだ。良かった。無理しないでね。」

舞斗の母「ありがとう。舞斗。」

舞斗「僕お母さんが元気になるまでずっと側にいるからね。」

舞斗の母「舞斗。実はね、お母さんしばらく働けないかもしれないの。だから舞斗は、そこにいるおじさんと共に東京に行くことになったの。」

舞斗「え?嫌だ。僕、お母さんの側にずっといる。」

舞斗の母「ダメよ。今フィギュアスケートを辞めたら、絶対後悔するわよ。あなたは、将来必ず金メダルを獲る存在なんだから。おじさんと共に東京に行けば、今よりも良い環境でスケートができるわ。」

舞斗「嫌だ。僕スケートなんてどうでもいいよ。お母さんとずっと一緒にいたい。」

舞斗の母「大丈夫。舞斗が世界大会で優勝したら私の体調も良くなるはずよ。その時に必ず迎えに行くからね。それまでの辛抱よ。分かった?」

舞斗「うん。分かった。僕待ってるからね。お母さんのこと。お母さんが迎えに来るまで練習頑張るからね。」

後藤記者「彼の話によると、おじさんに連れられ、東京の強化クラブに所属することになったそうだ。」

後輩記者「そのおじさんって一体何者なんですか?」

後藤記者「スケート連盟の会長である長谷川隆弘さんだ。才能ある舞斗に早くから目をつけ、経済的にサポートすることになったそうだ。移籍したクラブには、寮もあり、衣食住のサポートも受けられた。そのおかげで舞斗は、今までスケートを続けてこられたんだよ。だが、それから舞斗は、一度も母親に会えていないそうだ。」

如月記者「もしかして佐藤選手の母親は、迎えに来なかったってことですか?」

後藤記者「ああ。彼の中でその傷は、まだ癒えていないんだ。だから彼に質問する時は、家族の質問は、絶対にしてはならない。これが業界内の暗黙のルールなんだ。お前も覚えとけよ。」

如月記者「はい。分かりました。」

後藤記者「今日は、随分と素直なんだな。」

如月記者「僕は、今回のオリンピックで佐藤選手のファンになったんです。なので佐藤選手には、幸せになってほしいです。だから佐藤選手がもう一度母親と再会することを願ってます。」

後藤記者「そうだな。僕も願っているんだ。」

如月記者「お母さんは、今どこで何をしているんでしょうか。僕取材もかねて調べてみたいと思います。」

後藤記者「そうだな。任せたよ。」

如月記者「はい。」

〈3〉控室

オリンピック男子シングルフリープログラム終了後の控室。コーチと抱き合い喜びを分かち合う選手や号泣して立ち上がれない選手など様々な選手がいる。青木選手や鬼塚コーチの姿もある。そこにインタビューを終えた佐藤もやって来る。

青木選手「舞斗!」

佐藤「青木!」

【歌】青木 君は俺のSuperstar長年の夢叶えた僕は君の背中追いかける諦めない 僕の夢

マイケル君は僕のsuperstar切磋琢磨したこの4年間一歩届かない 1位の座異なる道へと進む 僕の夢応援するよ 君の夢

鬼頭コーチ君は僕のsuperstar出会った頃何も言わない寡黙な君大きな心の壁 ぶち破るため努力した幼少期そんな君も もうworld starこれからも連れて行って まだ見ぬ世界へ

全員 君はSuper star 

佐藤「ハハハ。みんなありがとう」

青木「舞斗、おめでとうな。」

佐藤「何でお前が泣いてるんだよ。鬼頭コーチまで。」

鬼頭コーチ「みんな嬉しいのよ。舞斗が夢を叶えて。」

会長が誰かと電話しながら下手側から佐藤の元へと歩いている。

会長「もしもし。ああ。舞斗の母親の居場所は、くれぐれも知られないようにな。ああ。任せたよ。」

会長の姿に鬼塚コーチが気づく。

鬼頭コーチ「会長!」

会長「じゃあ、よろしく頼んだぞ。」

会長は、慌てて電話を切る。

鬼塚コーチ「すみません。お電話中でしたか?」

会長「いや、大したことではない。舞斗!オリンピック2連覇おめでとう。」

佐藤「会長!ありがとうございます。」

会長「僕は、本当に見る目があったってことだな。」

鬼頭コーチ「そうですよ。会長が舞斗のことを私のクラブに連れて来てくれたおかげです。舞斗がフィギュアスケートをしてない世界線を想像しただけでも恐ろしいぐらい。」

会長「そうだな。舞斗は、俺の期待を遥かに超えてくれた。僕に夢を見せてくれてありがとな。」

佐藤「いやそれはこちらのセリフです。」

スタッフ「皆さん!女子シングルの試合が始まります。準備の程よろしくお願いします。」

鬼頭コーチ「あら!大変だわ。女子の試合が残っていたことを忘れてたわ。早く行かないと。」

佐藤「コーチ、何してるんですか。僕のことはいいんで早く行ってください。」

鬼頭コーチ「そうね。またあとでね。」

青木「コーチ!急ぎましょう!」

青木と鬼頭コーチを筆頭に次々と皆がステージからはけていく。会長と2人になった佐藤。

会長「ハハハ。みんな愉快だなぁ。」

佐藤「そうですね。」

会長「舞斗もついにオリンピック2連覇か。考え深いものがあるよ。舞斗!…あの日のこと後悔はしていないか?」

佐藤「後悔ですか?」

会長「僕について来たことだよ。」

佐藤「会長について来なかったら今僕は、フィギュアスケートを続けることができていません。本当に感謝しています。」

会長「そうか。なら良かったよ。」

佐藤「でもたまに思うんです。あの時お母さんの元を離れなければ、ずっと側にいられたのかもしれないって。」

会長「舞斗…今でも母親を探しているのか?」

佐藤「そうなのかもしれません。」

会長「君は、これまで自分のためにフィギュアスケートをしたことがないだろ?母親が見つけてくれるかもしれないその想いだけでここまで来た。だがオリンピック2連覇を果たした今も彼女は現れなかった。それが答えなんだ。もう母親を探すのはやめにしなさい。」

佐藤「分かっています。僕ももう諦めなければならないと気づいています。」

会長「そうか。君が自分のためにスケートができることを期待しているよ。じゃあ僕は行くよ。」

会長は、上手側へと異動する。

佐藤「僕だけのためにか…」

下手側で佐藤が歌う。

【歌】佐藤諦めなければならない 過去への執着今まで考えもしなかった スケートを続ける意味どこかで人のためにしていたのかもしれない自分のためにできるだろうかその日を待ち望むこれから進む道 

上手側で会長が歌う。

会長どうか願う 君が諦めることをこれからは自分のために 歩んでほしい君のためだけの人生をそのためならばどんなことでもしよう君のためならば

会長、(佐藤)自分だけの人生を歩んでほしい(歩みたい)

2人は、舞台袖にはける。

暗転

〈4〉記者クラブ

如月記者「やはり会長は、佐藤選手にとってはかけがえのない存在なんですね。」

後藤記者「ああ。舞斗は、東京に来て寮に入ったって前話しただろ?その寮は、会長の家なんだ。その家で衣食住全ての世話を会長がしたそうだ。」

如月「そうなんですね。その寮には他の選手も入られてたんですか?」

後藤記者「いや。それが舞斗だけなんだよ。寮というよりは、会長が舞斗を家に住まわせてくれたみたいなものだよ。」

如月「やはり佐藤選手は、有望な選手だからですか?」

後藤記者「そうだな。会長は、昔から舞斗を特別扱いしてきたんだ。それを良く思わない関係者も多い。」

如月「そうなんですね。」

後藤記者「それに舞斗が母親に会えなかったのは、会長のせいでもあるんだ。」

如月「会長のせいですか?」

後藤記者「舞斗は、東京に来てからも何度も実家に帰ろうとしていた。母親と会うために。だがそれを会長は拒んだ。」

如月「なぜですか?」

後藤記者「いや分からない。それだけじゃない。舞斗が大人になり、一人で岡山の実家に帰った時、そこに母親は、住んでいなかったそうだ。会長が舞斗の母親を違う場所に引っ越させたんじゃないかって噂をする関係者もいたんだ。」

如月「なぜそこまでして会長は、佐藤選手と母親を会わせたくないんですか?」

後藤記者「詳しくは分からない。」

如月「そうなんですね。僕、会長も含めて調べてみます。」

後藤記者「おう。任せたよ。」

〈4〉スケートリンク場

佐藤が所属するクラブのスケートリンク場。女子選手たちが佐藤選手を待っている。女子選手たちは、お互いの肩を押し合う。

女子選手A「みんな!今日舞斗くんが練習に来るらしいわよ。」

女子選手B「本当なの?私が1番にサインもらうんだから。」

女子選手C「何言ってるのよ。私に決まってるじゃない。」

女子選手A「何言ってるのよ。私よ。」

【歌】ファーストガール ファーストガール私こそが彼のナンバーワンその座を手にするために今日も駆けるわあなたの手となり足となる私たち舞斗ガールズファーストガール ファーストガール彼の目に映るため 今日も掛けるわとにかく走る 彼の元へ私たち舞斗ガールズ

女子選手A「キャー!みんな!舞斗くんが来たわよ。」

女子選手たち「舞斗くん!優勝おめでとうございます!」

佐藤「おう。ありがとう。」

女子選手B「テレビで見てました。サインお願いします」

女子選手Bは、色紙を渡す。佐藤は、サインを書いて彼女に渡す。

女子選手A、C「私もお願いします。」

一同「お願いします。」

佐藤は、全員にサインを書いて渡す。渡された人は、礼を言う。

一同「ありがとうございます。」

女子選手C「舞斗くん!いつ帰ってきたんですか?」

佐藤「昨日だよ。」

女子選手A「もう練習されるんですね!すごい!」

佐藤「ああ。1か月後に世界選手権があるからね。」

女子選手A「世界選手権も応援しているので頑張ってください。」

女子選手たち「頑張ってください。」

佐藤「ありがとう。」

そんな彼を近くから見ているリサと青木。

青木「よ!リサ、何見てるんだよ?」

リサ「いや、何も見てないし。」

青木「そんなに気になる話しかければいいだろ?」

リサ「私練習しなきゃだし?」

青木「お前中学生かよ。」

リサ「うるさい。それにあんなに周りに女子がいたら話しかけたくても話せないでしょ。」

青木「嫉妬かよ。」

リサ「違うから。」

青木「分かったよ。俺は、話しかけてくるからな。」

リサ「いってらっしゃい。」

青木が佐藤に話しかける。

佐藤「青木!いたのかよ。いたなら話しかけろよ。」

青木「いやいや話しかけるにもこんなに周りに人がいたら話しかけれねーだろ。モテモテで羨ましいよ。」

佐藤「なんだよ。それ。」

青山「世界選手権に出るんだな。ってことは、現役続けるのか?」

佐藤「おう。そのつもりだったんだけど、俺の今後の目標ってなんだろうって思い始めてしまったんだ。」

青山「なんだよ、それ。やっぱりオリンピック2連覇という長年の夢を叶えたからか?」

佐藤「それもあるけど。」

青山「お母さんか?」

佐藤「そうだな。オリンピック2連覇を果たしたのに僕に会いに来てくれないってことはそういうことなのかなって。もう諦めようって。」

青木「諦めるってなんだよ。俺は、お前の諦めてる姿なんて見たくない。」

佐藤「青木?」

青木「お前はいつも俺よりも先を走ってた。俺が全日本ジュニアでやっと表彰台にのぼれた時、お前は世界の舞台で頂点に立った。いつもお前は俺よりも先を走ってきたんだ。そんなお前の諦めた姿は、見たくないんだよ。」

佐藤「俺だって諦めたくなかったよ。世界ジュニアで優勝した時も母は、迎えに来てくれなかった。でもオリンピックで優勝すれば、迎えに来てくれるはずと信じて4年間必死で練習したんだ。でも母は、現れなかった。それからまた4年間努力をして今回2連覇を果たした。それでも…これ以上期待するのも努力するのも嫌なんだよ。」

青木「舞斗…」

佐藤「じゃあ俺もう行くよ。」

佐藤は、走り去る。

青木「舞斗!待てよ!」

青木も追いかける。

〈5〉スケート場

後藤記者と如月記者は、歩きながら話している。

如月記者「では佐藤選手と青木選手は、8歳の頃から同じクラブに所属し、切磋琢磨されてきたということなんですね。」

後藤記者「そうだな。8歳で舞斗が移籍するまでは、青木がクラブのエース的存在だったんだ。正直舞斗が同じクラブになったことを良く思っていなかったと思う。だがいつしか青木は、世界の舞台で舞斗と一緒に表彰台に昇ることが夢になっていったんだ。」

如月選手「なんかドラマみたいな話ですね!その夢叶えてほしいです。」

後藤「そうだな。世界ジュニアの時も4位、オリンピックも4位だったから今回の世界選手権で一緒にのぼれたらいいんだがなぁ。」

如月記者「そうですね。」

後藤記者「よし着いたなぁ。俺は、今から舞斗の取材してくるから、青木は、一ノ瀬リサ選手の取材頼んだぞ。」

如月記者「え?僕、佐藤選手の担当じゃないんですか?佐藤選手の取材がしたかったです。」

後藤記者「新人なのに何言ってんだよ。それに一ノ瀬選手を取材すると、舞斗についても知れるかもしれないぞ。」

如月記者「え?本当ですか?」

後藤記者「分かったなら早く行け!」

如月記者「はい!」

如月記者が立ち去る。佐藤が歩いて来る。

後藤記者「舞斗!」

佐藤「あ!後藤さん。お久しぶりです。今日は、取材ですか?」

後藤記者「おう。世界選手権に向けて、舞斗の取材だよ。」

佐藤「そうだったんですね。なんでも答えるのでなんでも聞いてください。」

後藤記者「本当か?じゃあ、来シーズンも競技を続けるのか?」

佐藤「お!いきなり本題ですね。後藤さんらしいですね。」

後藤記者「すまない。気になることははじめに聞きたいタイプだからさ。」

佐藤「後藤さん…実は、世界選手権を最後に引退しようと思っています。」

後藤記者「え?急にどうしたんだよ。オリンピック2連覇したからか?それともお母さんに会えたのか?」

佐藤「いえ。もう母のことは、諦めようと思って。」

後藤記者「そうか…じゃあ最後の演技になるんだな。悔いが残らないようにな。」

佐藤「はい。ありがとうございます。」

後藤記者「せっかく最後なんだから、お母さんに向けた演技にしたらどうだ?」

佐藤「母に向けた演技…ですか?」

後藤記者「おう。もう地上波で舞斗の演技が流れることは、ないんだしさ。最後にお母さんに感謝を伝えるプログラムにするとか?それでお母さんが観てくれたら想いは、伝わるだろ?」

佐藤「いいですね!最後に想いを伝えてそれで駄目だったら本当に諦めます。」

後藤記者「そうだな。楽しみにしてる。」

佐藤「いつも本当にありがとうございます。僕の1番の味方でいてくれて。」

後藤記者「当たり前だろ。これからも1番のファンだ。」

佐藤と後藤記者のもとに如月記者が走ってやって来る。

如月記者「先輩先輩先輩!一ノ瀬選手と佐藤選手は、どんな関係なん…」

後藤記者が如月記者の口を押さえる。

後藤記者「お前、ちょっと黙ろうか…」

後藤記者は、如月記者の口元から手を離す。

如月記者「あ!すみません!佐藤選手!お疲れ様です。」

如月記者は、後藤記者の方を向いて両手を合わせて小声で謝る。そして後藤記者は、如月記者の頭を軽く叩く。

佐藤「ははは。僕とリサの関係ですか?」

後藤記者「舞斗、ごめんな。コイツ最近入った新人でさ。」

佐藤「そうなんですね。僕とリサは、8歳から同じクラブで練習するチームメイトであり幼馴染です。」

如月記者「あ!そうなんですね。だから一ノ瀬選手にとって佐藤選手は、かけがいのない存在なんですね。」

佐藤「かけがいのない存在?」

如月記者「一ノ瀬選手がそう言っていました。」

佐藤「リサがそんなことを。」

後藤記者「舞斗、嬉しそうだな。お前たちは、いつになったらくっつくんだ?」

佐藤「なんのことですか?」

後藤記者「とぼけるなよ。リサのこと好きなんだろ?」

如月記者「え?え?え?」

後藤記者「おい。黙れ。」

佐藤「好きですよ。」

如月記者「えーーーー!」

後藤記者「静かにしろよ。」

佐藤「でも愛しているからこそ怖いんです。リサも母のように僕の側を離れていってしまうんじゃないかって。」

後藤記者「分かるが、リサは、舞斗のそばを離れる子じゃない。彼女のことを信じてあげろよ。早くに捕まえておかないと、他の人のところに本当に離れて行ってしまうぞ。」

佐藤「そうですよね。」

如月記者「すみません。僕話に着いていけません。」

後藤「如月、ついてこれなくていいんだ。よし取材も終わったし、僕たちは、帰るよ。如月、帰るぞ。」

如月「え!先輩まってください。」

【歌】リサへの想い

〈6〉世界選手権

ステージ上手側にテーブルと椅子がある。そこに実況担当のアナウンサーと解説者が座っている。ステージ中央には、アイスリンクがある。選手たちが練習を行っている。

アナウンサー「今年も世界フィギュスケート選手権が開幕しました。男子は、オリンピックで銀メダルを獲得したアメリカのマイケル選手が引退を表明し、佐藤選手のライバル候補がどなたになるのかが注目ですね。」

実況「そうですね。オリンピックシーズンは、世界選手権を欠場する選手が多いため、新たな顔ぶれにも注目ですね。」

アナウンサー「そうですね。女子も怪我で惜しくもオリンピックを欠場した一ノ瀬選手が再びこのリンクに戻ってきてくれましたね。」

解説「そうですね。オリンピックに出場できなかった悔しさを晴らす演技を期待しています。」

選手たちは、練習を終え、リンクには、ステファンミュラー選手が残る。

アナウンサー「そうですね。では、はじめに登場したのは、スイスのステファンミュラー選手です。どんな演技を見せてくれるのかステファンミュラー選手でオペラ座の怪人です。」

音楽が流れ、その音楽に合わせて踊る。ステファンミュラー選手の演技が終わり、観客たちの大きな拍手の声が聞こえる。

アナウンサー「ステファンミュラー、見事な演技でした。ステップで観客を魅了しました。拍手が鳴り止みません。解説者の田中さん、ステファンミュラーのステップ素晴らしかったですね。」

解説者田中「そうですね。複雑なステップを踏みながら全体のスピードも落としていませんでした。そしてレベル4を獲得しています。完璧な演技だったと思います。」

アナウンサー「そうですね。得点が期待できますね。」

得点発表者「ステファンミュラー選手のショートプログラムの得点は、95.05点、現在の順位は1位です。」

アナウンサー「(被せるように)95点出ました。高得点で残りの2人にプレッシャーをかける形となりました。次は、中国の期待の新人ワンフェイロンが出てきました。人類未だ誰も成功していない5回転に挑戦します。果たして成功するでしょうか。ワンフェイロンでロミオとジュリエットです。」

ワンフェイロンは、ロミオとジュリエットに合わせて踊る。5回転も成功する。

アナウンサー「ワンフェイロン、5回転成功しました。人類初めての成功です。私たちはこの歴史的瞬間に居合わせています。」

解説者田中「こちらの5回転、軸もしっかりしていてしっかりと回り切っていますね。はじめての挑戦にも関わらず、完璧に近いですね。」

アナウンサー「本当に凄まじい戦いになってきました。彼は今後佐藤と戦っていく存在となり得るでしょう。得点はどれ程でるでしょうか。」

得点発表者「ワンフェイロンさんのショートプログラム得点は、115.02点、現在の順位は第1位です。」

アナウンサー「115点、出ました。佐藤選手が持っていた歴代最高得点を塗り替えました。佐藤選手は、この得点を超えることができるのでしょうか。続いて佐藤選手の登場です。佐藤選手は、ピアノ曲を選ばれることが多かったですが、今回は歌詞入りの歌謡曲に挑戦します。佐藤選手でMotherです。」

佐藤の母に向けた曲が流れ、佐藤選手が演技を行う。そして次第に歌詞なしの曲になり、佐藤選手の心の声が聞こえてくる。

佐藤選手の心の声「お母さん!あなたは、今どこで何をしているのでしょうか?あなたを待ち続けて15年という月日が経ちました。僕は、あの時あなたと約束した夢を叶えました。オリンピックで金メダルを獲るという夢です。夢を叶えた僕がまだ戦い続けているのは、いつかもう1度あなたと再開する日を夢見ているからです。お母さん、見ていますか?見ていると信じています。またいつか出会えるその日まで。」

佐藤選手は、ポーズを取りながら、その場で泣き崩れる。

アナウンサー「佐藤選手、すばらしい演技を披露しました。佐藤選手がその場で泣き崩れています。このように佐藤選手が感情的になっているところを今まで見たことがありません。」

田中解説者「そうですね。今まで技術力に定評のある選手でしたが、今回は、表現力の向上が非常に見られた演技だったと思います。」

アナウンサー「そうですよね。得点はどれ程でるでしょうか。」

得点発表者「佐藤舞斗選手のショートプログラムの得点112.03点、現在の順位は2位です。」

アナウンサー「まさかの届かない。佐藤選手2位となりました。」

佐藤の元にインタビューアナウンサーが駆け寄る。

インタビューアナウンサー「佐藤選手、お疲れ様です。非常に素晴らしい演技だった中でのショートプログラム2位という結果でした。今のお気持ちをお聞かせください。」

佐藤「はい。自分の中では納得のいく演技でした。ワンフェイロン選手の演技が私よりも難易度もそうですし、表現力も優れていたので今日の結果には納得しています。また今回の大会は、結果よりも自分が本当に伝えたいことを表現しようと思っていたのでそれに関しては達成することができたので自分を褒めてあげようと思います。」

記者「今回は佐藤選手にとっては珍しい曲調であるmotherという曲を選択されましたが、どうしてこの曲を選ばれたんですか?」

佐藤「今シーズンは、自分がフィギュアスケートを続ける理由について考えてみようと思って…。僕がフィギュアスケートを始めたきっかけを作ってくれた母に感謝の気持ちを込めた曲にしようと思っていました。僕がスケートリンクに通うようになったのは、母と一緒に観に行った映画の主人公がフィギュアスケートをしていたのがきっかけでした。そんなことも思い出しながら今日は表現しました。」

記者「そうだったんですね。貴重なお話ありがとうございます。明日のフリーも応援しています。」

佐藤「ありがとうございます。」

佐々木「舞斗!カッコいいぞ!」

佐藤「なんだよ!」

佐々木「あ!リサの演技始まるみたいだぞ!見に行こうぜ!」

舞台中央で一ノ瀬りさの演技がはじまる。多くの観客が座っている。下手側では、佐藤と佐々木がリサの演技を見守る。

アナウンサー「次は2年ぶりに帰ってきました。一ノ瀬りさ選手です。彼女はジュニア時代、全ての大会で金メダルを獲得し、10年前の世界ジュニアでも佐藤選手と共に金メダルを獲得しています。彼女はどんな演技を見せてくれるのでしょうか。一ノ瀬りさ選手でロミオとジュリエットです。どうぞ。」

一ノ瀬選手がロミオとジュリエットに合わせて踊り、ステップ、スピン全て成功したが、ジャンプにミスがでてしまう。

アナウンサー「一ノ瀬選手、素晴らしい演技を見せてくれましたが、ジャンプでミスが出てしまったようです。」

実況「そうですね。怪我から復帰してすぐということでルッツジャンプを跳ぶときに足が痛むのだと思います。一ノ瀬選手は、ルッツジャンプとフリップジャンプのエッジを正確に踏む選手なので以前のルッツジャンプをもう一度見てみたいですね。」

アナウンサー「そうですね。彼女の武器はなんといっても正確なジャンプです。正確なジャンプを飛べる選手というのは、ごく僅かですから、早く元の調子が戻ることを願いたいですね。」

実況「2年前まではジャンプが武器の選手だなと感じていたんですけれども、今回ジャンプが思うように行かない中、スピンやステップでレベル4を取っていますし、表現面などは、以前よりも増しているように感じました。」

アナウンサー「そうですね。」

得点発表者「一ノ瀬りさ選手の得点、50.03点、現在の順位は、4位です。」

アナウンサー「得点は、50.03点…やはりジャンプのミスが響き、現在4位となっています。」

一ノ瀬りさは、悲しみのあまり下を向きながら、会場を後にする。舞斗は、それを見て彼女を追いかける。

佐藤「りさ!」

りさ「舞斗…」

佐藤「競技に復帰したんだな。」

りさ「うん。復帰は、できたんだけど、思うようにジャンプが跳べなくなっちゃってさ。ほんとに情けないよね。」

佐藤「いやそんなことないよ。」

りさ「4年前からずっとオリンピックの為に練習頑張ってきたの。なのにこんな結果になるなんて。」 

佐藤「仕方ないだろ。もう一度頑張ればいいんだよ。」

りさ「もう一度って4年後はもう私は27歳。若い選手も台頭している。オリンピックを目指すなら今回がラストチャンスだったの。」

佐藤「オリンピックだけが全てじゃないよ。また来年の世界選手権の為に頑張ればいいんだよ。」

りさ「舞斗はいいじゃない!19歳でオリンピックで金メダル、23歳で2度目の金メダルを獲得した。私の気持ちなんて分からないわ。」

佐藤「それは分からないよ。でも8歳の頃からずっと一緒に頑張ってきただろ。お前のことは俺が1番分かってるつもりなんだ。」

りさ「舞斗は、ずっと側にいたってよく言うけど、私は、あなたのことずっと遠くに感じていたの。シニアに上がってからは、あなたがずっと先を走るようになった。そしてあなたは、人気者になってモテるようになった。私のことを1番理解してくれているのは、舞斗なのに、舞斗のことをよく知ってる人は、この世に多くいる。…ってごめん。こんな話をしようと思った訳じゃないの。忘れて。今の話。ごめん。舞斗。私今何を言われてもマイナスに捉えてしまうみたい。」

りさは、この場から立ち去る。

佐藤「おい!待てよ!リサ!」

リサ「お願いだから1人にして。」

リサは、走ってこの場を去る。

【歌】上手側にリサ。下手側に佐藤。それぞれの想いを歌う。

その様子をずっと見ていた如月記者が姿を現す。その如月記者を見かけた後藤記者が話しかける。

後藤記者「おい如月!リサにインタビューしてきたか?」

如月記者「いえ。インタビューしようと思ったのですが、とんでもない空気だったので話しかけることができませんでした。」

後藤記者「やっぱりリサ、落ち込んでたのか?」

如月記者「いや、それもあるんですけど。」

後藤記者「なんだよ。なにかあったのか?」

如月記者 

後藤「え?あの2人が。珍しいな。」

如月記者「一ノ瀬選手が佐藤選手は、1番近くにいるのにずっと遠いって。」

後藤記者「おう。リサも核心をついたな。それで最終どうなったんだ?」

如月記者「一ノ瀬選手が怒って逃げていきました。どこからどう見ても付き合ってるように見えるのに、一ノ瀬選手は、なぜそのように感じるんでしょうか?」

後藤記者「2人の話知りたい?」

如月記者「はい!知りたいです!」

〈6〉ジュニア時代

後藤記者「舞斗は、8歳で鬼塚コーチの元に移籍したって言ってただろ?リサも鬼塚コーチの元で3歳から練習していたんだ。だからあの2人が出会ったのは、8歳の時だった。」

鬼塚コーチ「今日からここで一緒に練習することになった佐藤舞斗くんです。みんな仲良くしてあげてね。」

少年「舞斗!よろしくな!わからないことがあったらなんでも言えよ。」

幼少期の佐藤「…」

少年B「お前なんで黙ってるんだよ。なんか言えよ。」

幼少期の佐藤「…」

後藤記者「この頃の舞斗は、母親と離された絶望感から誰とも話さないような子だったんだ。だけどクラブ内で1番の成績を取っていたから周りの仲間からの反感を買っていたんだ。」

幼少期のリサ「どうしたの?」

幼少期の舞斗「…」

幼少期のリサ「もしかして靴、隠されたの?」

幼少期の舞斗「(うなずく)」

幼少期のリサ「ほんとアイツら、そういうことするよね。気にしなくて大丈夫だからね。自分が大会で結果残せないからって舞斗くんに当たってるだけだからさ。私の靴貸してあげるよ。はい。」

舞斗「ありがとう。」

後藤記者「そのことがきっかけで2人は、仲良くなった。誰にも多くを語らなかった舞斗がリサにだけは、お母さんのことも含め、何でも話すようになったんだ。そして青木をはじめチームメイトとも馴染むようになったそうだ。だけど、それもジュニア時代までだったのかもしれない。」

如月記者「何があったんですか?」

後藤記者「1度目のオリンピックで金メダルを獲った後、舞斗は、女性からモテるようになったんだ。そして色んな女性と遊ぶようになっていったんだ。」

如月記者「え?何故ですか?2人が話している様子を見ると、佐藤選手は、一ノ瀬選手を愛しているように見えました。」

後藤記者「そうなんだが、舞斗は、愛する人が自分の側から離れていくことに人一倍怯えているんだ。だからリサに想いを伝えて、側にいられないぐらいなら一生幼馴染のままでいいと思っているんだ。」

如月記者「そうだったんですね。」

後藤記者「でもリサは、違う。リサは8歳の頃からずっと舞斗のことが好きだった。そして舞斗も自分のことを想ってくれていると信じていたんだ。だがオリンピック後に舞斗が1人の女性と付き合ったんだ。またこの女が厄介な女でなぁ。」

如月記者「大人気女優の桜ノ宮あずさですよね?」

後藤記者「そうだ!お前知ってるのか?」

如月記者「はい。4年前に熱愛報道が出ていたので知っています。」

後藤記者「そうか。それを知ったリサは、深く傷ついたそうだ。だがそれでも思わせぶりな態度を取って来る舞斗にリサは、心の底で彼のことを信じられなくなってしまったみたいだ。」

如月記者「意外にも佐藤選手は、プレイボーイなんですね。」

後藤記者「まぁ世間的にはそういうことになるな。」

如月記者「世間的には?」

後藤記者「まぁこの話をすると長くなるからまた今度な。それより舞斗の母親について何かわかったことは、あるか?」

如月記者「海外にいるとの噂が出ています。」

後藤記者「本当か?」

如月記者「はい。引き続き調べてみます。」

後藤記者「頼んだぞ。」

如月「はい。」

暗転

〈7〉会場

アナウンサー「はい。今日は、いよいよフリーです。ショートプログラム2位だった佐藤選手は果たして巻き返すことはできるのか。ショートプログラムいよいよ始まります。まずはショート4位に着けました日本の青山選手です。佐藤選手とは、練習拠点が同じで8歳の頃から切磋琢磨してきた仲だと言います。青山選手は、僕はずっと舞斗の背中を追ってきた、舞斗と一緒に表彰台に立つのが夢だと語っています。その夢が近くまで来ています。青山選手でMy friendです。」

青山がMyfriendの曲に合わせて演技をする。

アナウンサー「青山選手、圧巻の演技でした。ジャンプ全て揃えてきました。」

実況「そうですね。他の選手に比べて4回転など難易度の高いジャンプは、飛んでいなかったのですが、後半のトリプルアクセルだったり、ジャンプ1つ1つの質が高かったですね。GOE、出来栄え点の方でも加点されると思います。」

アナウンサー「青山選手の得点が楽しみです。暫定1位になるためには、160点が必要となってきます。果たして160を超えてくるでしょうか。」

得点発表者「青山選手の得点、161.08点、総合得点246.83点、現在の順位は1位です。」

青山選手はコーチと抱き合い、号泣する。

アナウンサー「青山選手、なんと161点超えてきました。暫定1位です。続いて登場するのは、ショート3位のステファンミュラー選手です。青山選手を超えるには、151.79という得点が必要です。超えることはできるでしょうか。ステファンミュラー選手で下剋上です。」

ステファンミュラー選手は、下剋上という曲に合わせて演技する。

アナウンサー「ステファンミュラー選手まさかの3つのジャンプで転倒しました。はじめの4回転ループやはり挑戦してきましたね。」

実況「そうですね。彼は、4回転アクセルとループ以外は試合でも跳んでいたのですが、ループは、今まで挑戦したことはなかったんですけど、今回挑戦してきました。はじめのジャンプを転倒したことにより、後半のジャンプにも影響したのではないかなと感じました。」

アナウンサー「そうですね。ショート3位ということで、飛ばずに確実に3位も狙うという選択もあったとは、思うのですが、彼は1位を目指してループに挑戦してきました。果たして、点数はどうなるのでしょうか。」

点数発表者「ステファンミュラー選手の得点、150.03点、総合得点245.08点、暫定2位です。」

ステファンミュラーは、下を向いて悔しがる。

アナウンサー「ステファンミュラー選手2位です。ここで青山選手の表彰台が確定しました。シニアに上がって初めて世界選手権でのメダル確定です。」

実況「佐藤選手とのW表彰台見てみたいですね。」

アナウンサー「そうですね。青山選手とW表彰台は実現するでしょうか。続いては、佐藤選手の演技です。フリーに選んだ曲は、側にいてくれる君へです。この曲は、幼馴染への恋心に気付いていない主人公がライバルの出現により彼女への想いに気付くまでの物語の曲です。どのように表現するでしょうか、佐藤選手の演技です。」

佐藤選手は、側にいてくれる君へに合わせて演技をする。

アナウンサー「佐藤選手、素晴らしい演技でした。ジャンプ、スピン、ステップ揃えました。」

実況「そうですね。コンビネーションを全て後半に持っていくなどかなり攻めた構成だったのですが、全て加点がつく素晴らしいジャンプでした。」

アナウンサー「佐藤選手の表現も素晴らしく、お客さんからの拍手が鳴り止みません。得点が楽しみです。」

得点発表者「佐藤選手の得点、220.03点、総合得点332.33点、暫定1位です。」

アナウンサー「佐藤選手暫定1位です。最後は、17歳の新星ワンフェイロン選手です。優勝するためには、217.31という得点が必要です。果たして超えることはできるでしょうか。ワンフェイロン選手で憧れの英雄です。」

ワンフェイロン選手は、憧れの英雄という曲に合わせて演技する。

アナウンサー「冒頭の5回転トーループで転倒、次の4回転アクセルが抜けて1回転となってしまいました。」

実況「そうですね。アクセルは、踏み切る前に力んでしまったように見えましたね。」

アナウンサー「得点はどうなったでしょうか。」

得点発表者「ワンフェイロン選手の得点、210.03点、総合得点325.05点、最終順位は2位です。」

アナウンサー「ワンフェイロン選手、2位です。佐藤選手、世界選手権でも優勝を果たしました。」

インタビュー記者「佐藤選手、オリンピックに続き、世界選手権でも優勝おめでとうございます。」

佐藤「ありがとうございます。」

インタビュー記者「今回のフリーの曲を側にいてくれる君にした理由をお聞かせください。」

佐藤「側にいてくれる君への映画を鬼塚コーチが観て、僕に合うと思うと勧めてくれたのでこの曲に決めました。」

インタビュー記者「そうだったんですね。最後に来シーズン以降の進退についてお聞かせください。」

佐藤「来シーズンについては少しゆっくり考えたいと思います。また決まり次第皆さんには伝えたいと思っています。」

下手付近では青山と鬼頭コーチが佐藤のインタビューを聞きながら見ている。

青山「先生、舞斗のフリーをあの曲にしたのってわざとですか?」

鬼塚コーチ「うん。わざと。」

青山「やっぱり。」

鬼塚コーチ「だってさ、舞斗、鈍感じゃん?絶対気付いてないと思って、この映画今の舞斗と同じ状況だからこの曲にしなって言ってやったの。」

青山「じゃあ、舞斗なんて言ってたの?」

鬼塚コーチ「この主人公僕と顔とか雰囲気に似てなくない?って言われたわ。」

青山「まぁアイツらしいわ。」

鬼塚コーチ「(少し間を開けて)それにあの子に真実の愛について考えて欲しいって思ったのよね。」

青山「真実の愛?」

鬼塚コーチ「あの子、幼い頃に母親と別れているでしょ。どこかでずっと孤独なのよ。だから側にいる人がずっと側にいてくれるはずがないって思い込んでる。」

2人の元にインタビューを終えた佐藤がやって来る。

佐藤「青木…」

青木「舞斗…」

2人に気まずい空気が流れる。そんな2人を見て、鬼頭コーチが話し始める。

鬼頭コーチ「じゃあ私は、行くわね。」

青木「先生…」

佐藤「青木。表彰台おめでとう。」

青木「おう。ありがとう。舞斗も優勝おめでとう。」

佐藤「ありがとう。」

2人に沈黙の時間が流れる。

青木「舞斗ごめん。この間は言いすぎた。」

佐藤「いや、俺も感情的になりすぎた。ごめん。お前に言われたから色々と考えた。このまま諦めるのが正解なのか、続けることが正しいのか。でもとにかくこの世界選手権まではやり遂げたいと思ったし、やり遂げるならお母さんに向けた演技をしたいって思ったんだ。」

青木「思いは、全部ぶつけれたか?」

佐藤「おう。届いたかは、分からないけど、思いは、ぶつけれたと思う。」

青木「なら良かったよ。思いは、伝えることに意味があるんだよ。」

佐藤「そうだな。青木は、夢を叶えたんだな。これからどうするんだ?」

青木「俺は、今期で引退しようと思ってる。」

佐藤「そうか。」

青木「なんでお前が泣くんだよ。」

佐藤「寂しくなるなぁと思って。」

青木「俺が辞めてもお前が辞めても俺らは、ずっとかけがえのない友だよ。」

【歌】青木 背中を追ってきた 手の届かない友   長い間戦い続けてきた同志   君は僕にとってかけがえのない友   すべての感情を共にした    いつでも君を応援しているよ   どこにいても

佐藤 君は僕のたった1人の友   僕の全てを知り尽くしている   君がいない試合など想像できない   でも僕は僕の道を探すよ   これまでありがとう   僕と闘ってくれてありがとう

青山「リサの演技始まるぞ。見にいこーぜ。」

佐藤「おう。」

アナウンサー「続いて一ノ瀬選手の登場です。ショートでは16位と出遅れてしまいましたが、フリーで巻き返しを狙いたいところですね。」

実況「そうですね。6分間練習の際に足元を気にしていましたので、怪我が完全に完治していないのかもしれませんね。」

アナウンサー「そうですね。一ノ瀬選手は、怪我でオリンピックを欠場しました。まだ完治はしていない状態なのかもしれません。彼女のフリーの曲は、どうしても叶えたい夢です。」

一ノ瀬選手は、どうしても叶えたい夢という曲で演技をする。

アナウンサー「一ノ瀬選手の演技でした。やはり怪我の影響かすべてのジャンプにミスがでてしまいました。」

得点発表者「一ノ瀬選手の得点、101.03点、総合得点151.06点です。暫定1位です。」

アナウンサー「暫定1位となりましたが、後15名残っているので表彰台は厳しいでしょう。一刻も早く怪我から復帰することを願いたいですね。」

一ノ瀬のコーチ「リサ、ジャンプを跳ぶことは、もう厳しいと思うわ。怪我ではなくて、体型変化によるものだと思う。」

リサ「嫌です。諦めるなんて。どうしてもオリンピックに出たいんです。今まで2回チャンスがあったけど、行くことが出来なかった。3年後のオリンピックに必ず行きたいんです。お願いします。」

一ノ瀬コーチ「リサ、アイスダンスに転向する気はない?アイスダンスならジャンプを飛ばなくていいし、あなたのステップや表現力を活かすことができるわ。」

リサ「今からはじめて代表に入ることってできるんですか?」

一ノ瀬のコーチ「あなたならできるはずよ。しかも今回の世界選手権で日本人のペアが3位以内に入ったの。そのおかげで来年の世界選手権の枠は3よ。このまま行くと、オリンピックも3枠取ることができると思う。日本は、アイスダンスペアが少ないから代表に入ることもできると思うわ。考えてみて。」

リサ「はい。」

〈8〉新聞社

編集長「佐藤選手、来シーズンは、出ないつもりなのかもな。」

如月記者「やはりそう思われます?」

編集長「今まで現役続行しますと言ってきた彼が初めて考えますと言ったのが気になったな。」

如月記者「僕も気になりました。もしかしたら引退も考えているのかもしれません。」

そこに週刊誌の渡辺記者がやって来る。

週刊誌記者「私は、それよりも佐藤選手が母親について話したことが驚きましたね。」

編集長「お!渡辺記者じゃないか!週刊誌の記者である君がなぜ新聞社にいるんだ?」

週刊誌記者「次に書く記事の調査に来たんですよ。」

編集長「そうか。仕事熱心だね、君も。」

週刊誌記者「ありがとうございます。」

如月記者「あの!佐藤選手は、あまりお母さんのことについて話さないって言うのは、本当ですか?」

先輩記者「そうだな。僕の記憶が正しければ、お母さんの話を聞いたのは、世界ジュニアが最後だった気がする。」

週刊誌記者「それからお母さんに会ったりしてるんですかね?」

フィギュアスケート記者「たしか世界ジュニア優勝後にお母さんに会うって言ってた気がするような…あんまり覚えてないや。ってなんでそんなこと気になってるんだ?」

週刊誌記者「実は、海外に在住しているという話を耳にしまして。」

編集長「それは本当か?」

週刊誌記者「はい。しかも医者と再婚し、セレブ生活を送っているとの噂です。」

編集長「それは、とくダネになりそうだな。どこで暮らしてるんだ?」

週刊誌記者「アメリカだそうです。」

編集長「今すぐ取材に行ってこい。」

週刊誌記者「はい。」

〈9〉トライアウト会場

アイスリンクには、アイスダンスのトライアウトに来ている選手が10名いる。

アイスダンス先生「はい。ではトライアウトはじめます。近くにいる人とペアを組んでください。先生が手を叩いたら、ペアをスイッチしてくださいね。分かりましたか?」

全員「はい!」

アイスダンス先生「でははじめ!」

生徒たちは、近くの人とペアを組む。音楽が流れ、その音楽に合わせて男女ペアは、手を繋ぎながら踊る。そして先生のスイッチの声がけと共にペアを入れ替えながら踊る。4組目までのペアでは手が離れたり、転んでしまったり上手くいかない。そしてリサは、5組目のペアで井上歩舞と組む。その瞬間曲が止まり、スポットライトが2人だけに当たる。そしてスムーズに踊ることができる。

アイスダンス講師「はい!じゃあ一旦休憩に入ります。」

一同「はい!」

井上「あの!一ノ瀬リサちゃんだよね?シングルの。」

リサ「そうです。アイスダンスに転向することになって。」

井上「そうなんだ。色々な子と組んだんだけど、リサちゃんと組んだ瞬間思ったんだ。僕たち相性良いと思うんだよね。」

リサ「それ私も思いました。他の人と組んだ時は、転んでしまったのに、あなたと組んだら力をかけなくても滑っていくような不思議な感覚でした。」

井上「本当?良かった。俺、井上歩夢よろしくね。僕、リサちゃんとペアを組みたいと思ってる。リサちゃんはどう思ってる?」

リサ「私も歩夢くんと組みたいと思います。」

井上「良かった!これからよろしくね。先生に伝えてくるね。」

リサ「ありがとう。」

リサのチームメイトであるめぐみが駆け寄る。

めぐみ「リサ!おめでとう!これでアイスダンサーの仲間入りだね。」

リサ「めぐみ、ありがとう。」

めぐみ「これで舞斗くんに一歩近づけるチャンスじゃん。」

リサ

めぐみ「そうだよ。あ!そういえば、舞斗くん今日テレビの取材入ってるらしいよ。しかも桜ノ宮あずさがインタビューするらしいわよ。」

リサ「桜ノ宮あずさ…めぐみ!それ本当?」

めぐみ「うん!ってリサどこ行くのよ?」

リサは、急いでその場を去る。

〈10〉スケートリンク

鬼塚スケートリンクでは、佐藤とチームメイトの田中が準備をしている。

田中「舞斗、今から練習?」

佐藤「そうだよ。田中も?」

田中「うん。」

佐藤「そういえば、最近リサ見ないよな。田中なんか知ってる?こないだ世界選手権の時怪我してたみたいだったし心配でさ。」

田中「あれ怪我じゃなくてさ、体型変化でジャンプ飛べなくなったらしい。」

佐藤「え、そうなの?競技どうすんの?」

田中「あれ、リサから聞いてない?リサ、アイスダンスに転向するんだよ。」

佐藤「え、聞いてないけど。」

田中「てっきり仲良いから知ってると思ってたわ。鬼塚コーチに勧められて、今日はトライアウト行ったんだ。良いパートナーが見つかるといいんだけどな。」

佐藤「そうだな…」

田中「じゃあ俺練習戻るわ。今日の取材頑張れよ。」

佐藤「おう。ありがとな。」

佐藤のこころの声「リサがアイスダンスに転向?なんでそんな大事なこと俺に言ってくれないんだよ。」

あずさがやってくる。

あずさ「舞斗、どうしたの?そんな俯いてさ。」

佐藤「あずさ…なんでお前がここにいるんだよ。」

あずさ「あら?聞いてない?今日のインタビュー、私がするのよ。」

佐藤「なんでわざわざお前がするんだよ。お前のせいで俺がどんな目にあったと思ってるんだよ。」

あずさ「あら、どんな目に合ったのかしら?そんなこと私は、どうでもいいわよ。私は、世間の話題になれば、なんでもいいのよ。それがあなたじゃなくてもね。」

佐藤「…」

テレビ局のスタッフたちがやって来る。それを見たあずさは、佐藤と腕を組む。

あずさ「舞斗!練習終わり、一緒にご飯食べに行こうね。家でもいいわよ。ね?」

佐藤「…」

プロデューサー「佐藤選手とあずさちゃんは、仲良いんだね。僕らお邪魔だったかな?」

あずさ「いえいえ。取材はじめましょう。」

プロデューサー「じゃあ今から準備始めるからしばらく待機お願いします。」

あずさ「はーい!」

あずさは、佐藤にひっついて離れない。それを見たスタッフたちが噂話をする。

AD「やはりあの2人が付き合って噂は、本当だったんだな。」

AD2「そうみたいですね。4年前に週刊誌で報道されてましたもんね。」

プロデューサー「噂の2人がテレビで共演…視聴率取れるのは目に見えてるな。」

AD「そうですね!」

あずさ「舞斗!昨日の夜寝るの遅かったから疲れてるんじゃないの?」

佐藤「なんで俺までこの小芝居に付き合わないといけねぇーんだよ。」

あずさ「うるさい。聞こえてしまうでしょ。黙って笑顔でいればいいのよ。」

そこにリサがやって来る。

佐藤「リサ…」

佐藤は、慌ててあずさの手を振り払う。リサは、2人の姿を見て走り出す。

佐藤「リサ待てよ。」

佐藤は、リサの姿を追いかける。

佐藤「リサ!待てってば。」

リサ「なんで追いかけてきたの?あずささんとはもう別れたんじゃなかったの?なんでまた一緒にいるの?」

佐藤「別れたというか元々付き合ってないんだよ。あと今日は、インタビューで来てただけだよ。」

リサ「でも腕組んでたじゃない。2人は、お似合いに見えた。どうせ嘘なんでしょ。別れたっていうのも。分かってるんだから。舞斗は、肝心なことを何も言ってくれないじゃない。」

佐藤「それはそっちの台詞だよ。アイスダンスはじめたことなんで言ってくれなかったんだよ。」

リサ「なんでそれ…」

佐藤「田中から聞いたんだ。俺はリサに全てのことを話してるし、俺の全てをリサは、知ってると思ってた。でもリサは、俺に何も言ってくれないだろ?」

リサ「言おうと思ったけど、舞斗忙しそうだったから言えなかったの。私ずっと不安だった。舞斗が他の女性と付き合うことを恐れてたの。私は出会ったその日から舞斗のことを好きだった。だからあなたに彼女がいると知った時、絶望感でいっぱいだったんだ。」

佐藤「だからそれは、誤解なんだよ。」

リサ「舞斗は、いつも私は特別だと言ってくれた。その言葉のせいで私はずっと舞斗を思い続けるしかなかった。でも舞斗は、肝心な言葉を言ってくれなかった。」

佐藤「それは…」

リサ「言ってくれない理由も分かってる。でも舞斗の周りを囲むのは、私よりも綺麗な女性ばかりでその人たちの方が私より遠いようで近いように思えるの。」

佐藤「そんな訳ないだろ。」

リサ「そんなことないでしょ?舞斗!待ってってば。なんでそんな怒ってるの?」

井上「リサちゃん、お待たせ。待った?…って舞斗くん?」

佐藤「おう。歩舞久しぶりだな。練習頑張れよ。俺行くわ。」

井上「もしかしてリサちゃん、有舞くんと付き合ってるの?」

リサ「え、なんで?付き合ってる訳ないじゃん。」

井上「あ、違うんだ。」

リサ「違うよ。ただの幼馴染だし。」

井上「ただの幼馴染なら怒りすぎでしょ。」

リサ「やっぱり怒ってたよね?なんで怒ってたんだろ?アイスダンス始めたって言わなかったことに怒ってるのかな?やっぱり」

井上「舞斗くんはリサちゃんのこと好きなんだね。」

リサ「え?そんな訳ないでしょ。あの人は、彼女がコロコロ変わるような遊び人なの。モテることにいいことにね。」

井上「そんなリサちゃんはどうなの?舞斗くんのこと好き?」

リサ「好きというか、15年間ずっと私の人生に存在し続けてるからさ。でもたまに思うんだ。彼の孤独を抱きしめてあげたいって。」

井上「そうか。リサちゃんは、舞斗くんを愛してるゆだね。」

リサ「そうなのかもね。私も早く彼と同じステージを見たいの。」

井上「そうだね。そのためにも練習頑張ろ。」

リサ「そうだね。」

〈11〉アメリカアメリカにある舞斗の母親の家。週刊誌の記者がインターフォンを鳴らす。すると、中から家政婦が出てきた。

家政婦「はい。どちら様でしょうか。」

週刊誌記者「佐藤舞斗選手のお母様のお宅で間違いないでしょうか?」

家政婦「はい。」

週刊誌記者「私週刊誌記者の渡辺と申します。お話伺ってもよろしいでしょうか?」

家政婦は、慌てて家の中へに舞斗の母親を呼びに行く。舞斗の母親を見つけた家政婦は、舞斗の母親の耳に向かって話す。その事実を知った母親は、誰かに電話をかける。

舞斗の母親「もしもし?あなた?今私の家に週刊誌記者の方が来たの。私がここに住んでいることが知られてしまったわ。」

上手側には、会長の姿。

会長「なんだと?それは本当なのか?」

舞斗の母親「はい。くれぐれも舞斗には知られないようにしなくては。知られても私に会いに来ないように説得してください。」

会長「分かっているよ。それが舞斗のためなんだからなぁ。」

舞斗の母親「はい。ありがとうございます。では。」

2人は、電話を切る。

〈12〉道路

テレビでは、佐藤選手の母親のニュースが流れている。また街では佐藤選手の母親に関する記事が載っている記事が配われている。

アナウンサーA「速報ニュースです。佐藤舞斗選手の母親がアメリカのがん治療の名医として知られるマイケル氏と再婚し、現在アメリカで暮らしていることが分かりました。」

新聞配る人「号外です。号外です。」

青木は新聞を受け取る。

青木「佐藤選手の母親はアメリカで暮らしていた…関係者が明かしたアメリカでのセレブ生活とは?…」

青木は、この記事を見て、すぐに走り出す。

アナウンサーB「

〈12〉アイスリンク

青木「舞斗!舞斗!この記事見たか?」

有舞「なんだよ。そんなに慌てて。…佐藤選手の母親はアメリカで暮らしていた…関係者が明かしたアメリカでのセレブ生活とは。」

青木「お母さん、アメリカに移住してたんだな。せっかく分かったんだから、会いに行けよ。」

舞斗は、記事を見ながら何も言わない。

青木「舞斗?どうしたんだよ!お母さんは、生きてたんだよ。会いに行けるんだよ。」

佐藤「ああ。いっそ亡くなっていた方がよかったかもしらない。」

青木「何言ってんだよ。お前ずっとお母さんのこと探してただろ?」

有舞「お母さんを探しながらもどこかでもしかしたらお母さんは、もうこの世にはいないのかもしれないと思っていた。いや、思いたかったんだ。そう思う方が楽だから。もし生きていたら会いにくるに違いない。だから死んだんだって思いたかったんだ。」

青木「舞斗…」

有舞「でも母さんは生きてた。なのに会いに来なかった。挙げ句の果てにアメリカで結婚もして僕と暮らしていた頃とは全く異なるセレブ生活を送っている。母さんは、僕のことなんて微塵も考えていなかったんだ。」

青木「有舞。」

有舞「練習に行ってくるよ。」

青木「舞斗!」

〈13〉新聞社

後藤記者「如月!」

如月記者「はい!」

後藤記者「お前、この記事どうゆうことだよ!お前にしか話していないことがここに書かれてある。お前、言ったよな?俺と2人で舞斗を助けるために調べようって。俺は、こんな記事にするために今まで調べてたんじゃないんだよ。」

如月記者「先輩、先輩、落ち着いてください。なんの話ですか?」

後藤記者が如月記者に記事を投げ渡す。

如月記者「佐藤舞斗選手の母がアメリカに…ってこれ僕たちがこないだ手に入れた情報じゃないですか?なんで漏れたんですか?」

後藤記者「え?お前じゃないのか。」

如月記者「先輩!僕じゃないに決まってるじゃないですか!」

後藤記者「お前じゃなけりゃ一体誰が…あ!お前、このこと他の誰にも言ってないだろうな?」

如月記者「はい。編集長と先輩と…あ!すみません!」

後藤記者「どうしたんだよぬく?」

如月記者「こないだ武藤先輩と佐藤選手について話をした時にアメリカに取材に行くことを話してしまいました。」

後藤記者「武藤って社会部のか?」

如月記者「はい。武藤先輩が佐藤選手のファンだって言っていたのでつい話が盛り上がってしまって。」

後藤記者「だからアイツ、あの時俺に舞斗のこと…」

如月記者「すみません。僕のせいです。」

後藤記者「もういい。俺が直接舞斗に会ってくる。」

如月記者「僕も一緒に行きます。」

後藤記者「いや、俺1人でいく。お前は、リサの取材に行ってこい。」

如月記者「はい。わかりました。」

〈14〉スケートリンク

鬼塚コーチ「今年のグランプリシリーズ、舞斗の派遣先は、アメリカとカナダに決まったわ。もちろん参戦するわよね?」

舞斗「はい。」

鬼塚「アメリカに決まったのも運命だと思うの。お母さんに会いに行ってみたら?」

舞斗「いや、、、」

鬼塚「気が向いたらでいいからさ。とりあえず、アメリカ大会に向けて練習して、試合が終わった後に会い行こうと思ったらでいいからさ。」

舞斗「はい。考えてみます。ありがとうございます。」

佐藤は、しばらくベンチに座って考え事をする。そこに後藤記者が走ってやって来る。

鈴木記者「舞斗!」

有舞「鈴木記者、お疲れ様です。どうしたんですか?そんなに慌てて。」

後藤記者「舞斗!すまなかった。」

舞斗「どうしたんですか?」

後藤記者「お母さんの記事。俺の部下が口を滑らせたんだ。本当にすまなかった。実はオリンピックの後、舞斗のお母さんについて調べてたんだ。お母さんの居場所を突き止めたら舞斗に教えてあげようと思って。なのにこんな形になってしまってすまなかった。」

佐藤「そうだったですね。後藤さん、謝らないでください。僕のためにこんなことまでしてくれてたなんて知りませんでした。その気持ちだけで僕は、嬉しいです。」

鈴木記者「舞斗…」

有舞「世界ジュニアの後、僕が表彰式すっぽかしたの覚えてます?」

鈴木記者「ああ。トイレで泣いてた時だろ?」

有舞「はい。優勝者がいない表彰式なんて今考えたら恐ろしいですよね。しかも後から連れ出された僕は、優勝したのにすべてのジャンプを失敗した人のように暗い表情で周りの人を困らせていましたよね。」

鈴木記者「そうだったな。もう10年も経つのか。」

有舞「でもあの時も鈴木さんは、トイレで僕の話を聞いてくれましたよね。絶対に記事にしたら特ダネになるような話だったのに10年間黙ってくれていた。」

鈴木記者「当然だろ。俺は、舞斗が試合で勝った時に見せる笑顔が一番好きなんだ。だから舞斗には、幸せに生きてほしんだ。今度試合のある会場の近くにお母さんは、暮らしているそうだ。会いたいと思ったらいつでも言ってくれ。場所を教えるからな。」

有舞「ありがとうございます。僕も勇気を出してみようと思います。」

鈴木記者「おう。」

〈17〉アメリカ

家政婦「奥様、大変です。日本で奥様の記事が出ています。」

舞斗の母「それは本当なの?見せてちょうだい。」

家政婦が舞斗の母に記事を渡す。

家政婦「奥様がここで暮らされていること、旦那様と再婚されたことなどが書かれていました。」

有舞の母「これを舞斗が知れば、私に絶望するに違いないわ。」

家政婦「奥様、奥様が悪いのではありません。仕方がなかったことではありませんか。今週末、息子さんがアメリカの試合に出場されるそうです。」

有舞の母「今回は、行かないことにするわ。マスコミにバレてしまった以上これまでのように見に行くことは、できないわ。舞斗に見つかってしまっては、これまでの努力が水の泡となってしまう。」

家政婦「息子さんは、奥様に会いたがっているに違いありません。」

舞斗の母「今回のことで舞斗が私に会いに来るかもしれない。それを止めなくては。ばーや、あの人に電話してちょうだい。」

家政婦「はい。かしこまりました。」

〈18〉グランプリアメリカ大会

インタビュー記者「佐藤選手、アメリカ大会優勝おめでとうございます。」

佐藤「ありがとうございます。」

インタビュー記者「今回の優勝を今一番伝えたい人は、どなたですか?」

佐藤「報道があったので皆さんお察しだと思うのですが、今アメリカにいる母に伝えたいと思います。今までどこにいるか分からなかった母が今同じ国に存在していると思うと考え深いものがあります。試合後に10年ぶりに会えることを願っています。」

インタビュー記者「10年ぶりにお会いしたら、優勝以外に伝えたいことは、ありますか?」

佐藤「はい。まずフィギュアスケートに出会わせてくれたことに感謝したいと思います。どんなに苦しいことがあっても今日まで競技を続けられたのは、母に会いたいという気持ちがあったからです。なので感謝という一言では言い表せないものがありますね。」

インタビュー記者「貴重なお話ありがとうございました。」

佐藤「こちらこそありがとうございます。」

佐藤は、インタビューを終え、歩きはじめる。そこに会長がやって来る。

会長「舞斗、優勝おめでとう。」

佐藤「会長、ありがとうございます。会長がグランプリシリーズに帯同するなんて珍しいですね。」

会長「舞斗、今日お母さんに会いに行くのか?」

佐藤「はい。そのつもりです。自分の目でしっかりと確かめたいんです。」

会長「それはやめておいた方がいい。お母さんは、君のために君のそばを離れたんだ。その気持ちも分かってあげなさい。」

佐藤「分かっています。今まで僕を育ててくれてありがとうございます。お父さん。」

会長「舞斗!なぜそれを?」

佐藤「僕が気づいてないとでも思ってたんですか?」

会長「(うなずく)」

佐藤「はじめは、本当に信じていました。親切な叔父さんが僕をサポートしてくれているのかと。でも気づいたんです。僕以外に無償で寮に住んでいる人やレッスンを受けている人がいないことに。」

会長「舞斗…」

佐藤「それでも僕は、期待されているからだと思っていました。でもある日聞いてしまったんです。あなたが協会の人に自分の息子の話をしているところを。そしてすぐにその息子は、僕であることを知りました。」

会長「そうだったのか。これまで知らないフリをしているのは、辛かっただろう。このような想いをさせてしまってすまなかった。僕は、君が3歳の時に彼女と離婚をしたんだ。だから君は、僕の顔を覚えていなかったのだろう。」

佐藤「はい。でも父と母と3人でアイススケート場によく遊びに行っていたのを覚えています。」

会長「そうか。その時の僕は、コーチ業やアイスショーなどで全国を旅していたんだ。だからほとんど家に帰ることがなかった。そして僕たちは、すれ違い離婚することになってしまったのだよ。」

佐藤「そうだったんですね。」

会長「舞斗の母親から連絡が来たのは、5年後のことだった。その時に病気を患ったことと息子を引き取ってほしいと言われたんだ。あの時母親が迎えに来ると嘘をついてしまってすまなかった。僕は、ずっと後悔していたんだ。君に嘘をついてしまったことを。」

佐藤「僕が母親の元に残ると言うことを聞かなかったからですよね。あの時母親が迎えに来ないと知っていたら、東京まで来ていなかったと思います。あなたがいなければ、今の僕はいません。オリンピックで2度もチャンピオンになることは、できていなかったと思います。僕は、あなたに感謝しているのです。」

会長「舞斗…」

後藤記者「舞斗!車の手配が完了したぞ。」

佐藤「後藤さん!ありがとうございます!それではお父さん、行ってきます。」

会長「おう。気をつけてな。悔いが残らないように。」

佐藤「はい。」

佐藤は、走って行く。

会長が息子への思いを歌う。

〈19〉

後藤記者「舞斗、着いたぞ。ここのお屋敷みたいだ。俺は、外で待ってるからな。」

佐藤「はい。後藤さん、ありがとうございます。」

後藤記者「おう。頑張るんだぞ。」

佐藤は、お屋敷のインターフォンを鳴らす。

家政婦「はい。」

家政婦が屋敷からでてくる。

佐藤「初めまして。佐藤舞斗と申します。ここに僕の母が住んでいると伺ったのですが…」

家政婦「奥様の息子さまでございますか?フィギュアスケート選手の?」

佐藤「そうです。」

家政婦「奥様をお呼びしますね。それまでこちらでお待ちくださいませ。」

家政婦は、リビングまで案内する。

家政婦「奥様!奥様!息子さまがお越しになられました。」

舞斗の母「え?どういうことなの?」

舞斗の母がリビングへやって来る。舞斗の母は、佐藤を見ると、大粒の涙を浮かべた。

佐藤「お母さん?お久しぶりです。舞斗です?覚えていますか?」

舞斗の母が舞斗を抱きしめた。

舞斗の母「覚えているに決まってるでしょう。ごめんね。ごめんね。これまで会いに行かなくて。本当にごめんね。」

佐藤「これまで一度も会いにきてくれなかったからもうこの世にいないのではないかと思っていたんだ。それか僕のことを忘れてしまったんじゃないかって。」

舞斗の母「そんな訳ないじゃない。あなたは、この世でたった1人の息子だもの。1日もあなたのことを忘れたことなどないわ。」

佐藤「僕もです。これまで頑張ってこられたのは、あなたがどこかで見ているかもしれないと思えたからです。」

舞斗の母「実は、これまでも何度も試合を観に行ったの。世界ジュニア選手権も見に行ったのよ。」

佐藤「そうだったんですか。何故会ってくれなかったんですか?」

舞斗の母「その日も体調が悪くなってしまって、途中で帰らないといけなくなったよ。このままの私があなたに再会しても迷惑をかけてしまうと思ったの。あなたは、世界を代表するフィギュアスケート選手。スポーツだけに専念してほしいって。」

佐藤「そうだったんですね。」

舞斗の母「アメリカに来たのは、病気を治すために来たの。実は、私癌を患っているの。日本の病院の先生に紹介してもらってここの病院に通うようになったのが3年前のことよ。そしてそこの主治医と結婚したの。ずっと話すことができなくてごめんね。」

佐藤「そうだったんですね。お母さん、今幸せ?」

舞斗の母「もちろん幸せよ。息子がこんなにも立派になってくれて。」

佐藤「その言葉を聞けて良かったです。」

舞斗の母「舞斗は、良い人はいないの?好きな人とかさ。」

佐藤「好きな人は、います。でも大切な人が側から離れてしまうのが怖くて、想いを伝えることができないんです。」

舞斗の母「その子は、私がいない間ずっとあなたの側にいてくれたんでしょう?」

佐藤「(うなずく)」

まいとの母「それなら大丈夫よ。想いは、伝えないと伝わらないものよ。側にいてくれるうちに想いを伝えないとその子も離れていってしまうわよ。」

佐藤「そうですね。僕も勇気を出して想いを伝えてみようと思います。ありがとうございます。」

まいとの母「よし決まったらすぐに伝えに行きなさい。」

佐藤「はい。」

〈20〉

記者「今回、日本アイスダンスカップル史上初のグランプリシリーズ優勝を果たしました一ノ瀬井上組です。優勝おめでとうございます。」

リサ、井上「ありがとうございます。」

記者「一ノ瀬選手は、怪我でオリンピック欠場からのシングルから転向して望んだ今回の大会でした。今の率直な想いをお聞かせください。」

リサ「そうですね。正直言うと、オリンピックに出場できなかったのは、自分でも認めたくない程悔しいものでした。そして幼い頃からずっと一緒に練習してきた仲間たちがオリンピックに出場し、メダルを獲得しているのを見ると、自分は何をしているんだろうと思う日々もありました。今回この大会で優勝することができ、仲間たちに一歩近づけたのではないかと思うと、嬉しいです。」

記者「貴重なお話、ありがとうございました。」

一ノ瀬井上「ありがとうございます。」

インタビューを終えた2人に選手たちが祝福の声をかける。そして皆が花などの贈り物を渡す。2人は、感謝の気持ちを伝える。そして、舞斗もリサに花を渡す。

舞斗「リサ!優勝おめでとう。」

リサ「ありがとう。舞斗も優勝おめでとう。」

舞斗「おう。ありがとう。」

そして鬼頭コーチも祝福の言葉をかける。

鬼頭コーチ「リサ、おめでとう。夢への第一歩だね。」

リサ「はい。ありがとうございます。」

鬼頭コーチ「プレゼントいっぱいもらったね。…って誰だ?リサに薔薇を渡したやつは?しかも3本じゃねーか。」

リサ「え?私薔薇なんてもらったけ?いっぱい貰いすぎて気づいてなかった。赤い花って誰だっけ?…ってあ!先生プレゼントお願いします。私行ってきます。」

リサが走り出す。

リサ「井上くん、舞斗見なかった?」

井上「舞斗ならあっちに行ったよ。」

リサ「ありがとう。」

リサは、舞斗を見つける。

リサ「舞斗!」

佐藤「おう。リサ、どうしたんだよ?」

リサ「どうしたんだよじゃないわよ。こんなものをさりげなく渡すんじゃないわよ。」

佐藤「ごめんって。僕が悲しい時、楽しい時、怒ってる時、喜んでいる時、すべての時間に君が存在していたんだ。君がいない人生を想像することができない。これまで想いを伝えることで君が側から離れてしまうことを恐れてた。でも伝えるよ。僕は、リサのことを愛しています。」

リサ「(泣き出す)」

佐藤「ごめん。そんなに嫌だった?」

リサ「遅すぎるわよ。私も舞斗のこと愛しているわ。」

佐藤「リサ、本当か?」

リサ「本当よ。」

佐藤は、リサを抱きしめる。

2人は、デュエット曲を歌う。

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