故人様のご意向ですッ ドラマ

藤森芽衣(19)ら藤森家の面々は、祖父の自然葬(海洋散骨)の際に葬祭業界の最大手企業「みんなの理葬」を利用し、担当の川石瑠佳(25)と接点を持つようになる。しかし、父の自分本位な墓選び等により家族間、特に父と兄の関係に亀裂が生じるようになり……。
マヤマ 山本 14 0 0 11/29
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第一稿

<登場人物>
藤森 芽衣(19)(26)大学生
川石 瑠佳(25)(32)葬儀会社社員
藤森 大介(59)(66)芽衣の父
藤森 智代(53)芽衣の母
藤森 大悟(31) ...続きを読む
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<登場人物>
藤森 芽衣(19)(26)大学生
川石 瑠佳(25)(32)葬儀会社社員
藤森 大介(59)(66)芽衣の父
藤森 智代(53)芽衣の母
藤森 大悟(31)(38)芽衣の兄
田上 加寿子(55)(62)芽衣の叔母
田上 陵(22)(29)芽衣の従兄弟
村田 孝行(22)(29)芽衣の恋人



<本編>
○海上
   海面から顔が出たり沈んだりしながら、懸命に立ち泳ぎをする藤森芽衣(26)。
芽衣M「あれ……? 私、何でこんな事してるんだったっけ……?」

○航海するクルーザー
   七年前までさかのぼる。
芽衣M「あれは確か……」

○クルーザー・甲板
   手すりに寄り掛かり、海風を浴びる芽衣(19)と藤森大悟(31)。ともに喪服姿。一通り景色を堪能した後、まんじゅうを取り出し、口に運ぶ芽衣。
芽衣「(満面の笑みで)ん~、美味ひ」
大悟「こんな時に、よく食べられるね」
芽衣「そう? むしろ、こんな時だからこそ、食べるべきなんじゃない?」
大悟「そうなの? じゃあ、俺にも一個ちょうだい」
芽衣「嫌だ」
大悟「ケチ」
   笑う芽衣。
瑠佳の声「私は死ぬ! 私は死ぬ!」
芽衣「?」
   声のした方に顔を向ける芽衣と大悟。ベンチコート姿の川石瑠佳(25)が海に向かって叫んでいる。
瑠佳「私は生きる! 私は生きる!」
   顔を見合わせる芽衣と大悟。顎を使い、芽衣を瑠佳の元に行かせようとする大悟と渋々従う芽衣。その間も瑠佳は叫び続ける。
瑠佳「見よ、この勇気ある者を。
  この毛深い男が、太陽を呼び、輝かせる!
  一歩上へ! さらに一歩上へ!
  一歩上へ! さらに一歩上へ!
  太陽は輝く!」
芽衣「あの……な、何を?」
瑠佳「あぁ、ご心配には及びません。ハカです」
芽衣「ハカ?」
瑠佳「はい、ハカです。ご存知ありません? ハカ」
芽衣「ラグビーの?」
瑠佳「はい。ニュージーランド代表・オールブラックスが試合前にやる、ハカです」
芽衣「知ってますけど……何で?」
瑠佳「ルーティンなんです」
芽衣「ハカが?」
瑠佳「はい」
芽衣「えっと……何で?」
瑠佳「これから、勝負が始まるので」
   と言ってベンチコートを脱ぐ瑠佳。スーツ姿。
瑠佳の声「皆様、ポイントに到着致しました」
    ×     ×     ×
   芽衣、藤森大介(59)、藤森智代(53)、大悟、田上加寿子(55)、田上陵(22)らの前に立つ瑠佳。瑠佳以外は全員喪服姿。
瑠佳「ではただいまより、故藤森大吉様の四十九日法要、海洋散骨を始めさせていただきます」
   小瓶に詰められた、粉末状の遺骨を手に持つ参列者達。やや戸惑いの表情。
瑠佳「これは、故人様のご意向です」
   小瓶をまじまじと見つめる芽衣。
芽衣「……」

○メインタイトル『故人様のご意向ですッ』

○みんなの理葬・外観
   「株式会社みんなの理葬」の看板。
瑠佳の声「株式会社みんなの理葬は」

○同・店舗
   パーテーションで区切られた各ブースで接客する社員達。
瑠佳の声「昨今、多様化を極めている葬儀やお墓選びの在り方から」

○(イメージ)各地
   葬儀の準備や墓参りをする社員。
瑠佳の声「遺言作成、墓参りや墓じまいの代行業務、果ては永代供養のご案内まで」

○藤森家・外観
   豪華な一軒家。「藤森」の表札。
瑠佳の声「お客様の死後の不安を和らげ、ご遺族様に寄り添い、理想を実現する」

○同・リビング
   テーブルを挟んで向かい合う瑠佳と藤森、智代。藤森らの後ろに芽衣と大悟もいる。手には「みんなの理葬」のパンフレット。おはぎを食べながら話を聞く芽衣。また、このシーン以降も含め大悟は私服でカーゴパンツ着用。
瑠佳「ハッピーエンディングカンパニーです」
芽衣「(満面の笑みで)ん~、美味ひ」
智代「こら、芽衣。今食べなくてもいいでしょ。(瑠佳に)すみませんね」
瑠佳「ご心配には及びません」
藤森「それよりさ、おたくの会社説明は前も聞いたから。さっさと本題入れよ」
智代「ちょっと、言い方。(瑠佳に)すみませんね」
瑠佳「ご心配には及びません。えっと、今回のご用件というのが……」
藤森「墓だよ」
大悟「ハカ? ラグビーの?」
藤森「大悟、お前バカか?」
大悟「あぁ、お墓の話か」
芽衣「でも、おじいちゃんの骨はこの前全部撒いたじゃん。誰のお墓?」
藤森「決まってんだろ。俺のだよ」
芽衣「え、自分の買うの? 何で?」
智代「それはお母さんも言ったんだけどねぇ」
藤森「(キレ気味に)何か文句あんのか?」
瑠佳「生前にお墓を購入されるのは、縁起の良い事だと言われてますよ」
藤森「ほら見ろ」
瑠佳「で、どのようなお墓をご希望されてますでしょうか?」
藤森「そりゃあ、一番良い奴だろ」
瑠佳「(タブレット端末を操作し)そうしますと……」
   瑠佳が見せるタブレット端末の画面を覗き込む芽衣、藤森、智代、大悟。大きな古墳の画像。
瑠佳「コチラの古墳型になります」
芽衣「いやいや、デカいデカいデカい」
瑠佳「総工費が二〇億円程度で……」
芽衣「高い高い高い」
藤森「いいねぇ」
芽衣「全然よくない」
藤森「何でだ? 墓といえば人生最期の家みたいなもんだろ? それを豪華にして、何が悪い?」
芽衣「ものには限度があるし、そもそも私は嫁に行ったらその墓入らないよね?」
藤森「だったら、尚更口出すな」
芽衣「(呆れて)」
智代「じゃあ私が言わせてもらうけど、そんなお金、どうするの?」
藤森「何とかなるだろ。あぁ(大悟に)その代わり、遺産は残らないからな。当てにすんなよ?」
大悟「別に、してないよ」
藤森「どうだか」
芽衣「(小声で)また決めつける」
智代「でもお墓って、買うだけじゃなくて、そのあとも管理費みたいなの、かかるんでしょ? お高いんじゃないの?」
瑠佳「ご心配には及びません。この規模のお墓ですと……」
   電卓をたたき、数字を見せる瑠佳。
瑠佳「この程度かと」
芽衣&智代&大悟「!?」
藤森「思ってたよりは安いな」
芽衣「十分高いわ」
智代「こんな大金、大悟に払えると思う?」
大悟「え、お、俺!?」
智代「それはそうでしょう? 跡取りなんだから」
大悟「む、無理だよ」
藤森「だろうな。いい年して独り身でフリーターのお前じゃ」
芽衣「そんな言い方……」
藤森「あーあ、仕方ない。もうちょっと安くて小さい墓にしてやるか。(瑠佳に)ある?」
瑠佳「ご心配には及びません。おすすめですと、パンフレットにある……」
   パンフレットに目を落とす藤森ら。俯く大悟を見やる芽衣。
芽衣「……」
芽衣の声「今日は散々だったね」

○同・玄関(夕)
   帰り支度をする大悟と見送りに立つ芽衣。
芽衣「少しは言い返したらよかったのに」
大悟「別に。独り身なのも、フリーターなのも事実だから」
芽衣「まったく……。あとさ(大悟の服を指し)そろそろカーゴ止めて、ジーパンとかチノパンとか履いた方がいいんじゃない?」
大悟「そう? まぁ、考えとく」
芽衣「考えといて。じゃあ、気を付けて」
大悟「うん。良いお年を」
芽衣「あ、そんな予定? 良いお年を~」
   出ていく大悟。
芽衣「ふぅ」

○同・リビング(夕)
   やってくる芽衣。パンフレットを手に二種類の墓(どちらも一般的なサイズ)の写真を交互に見る藤森と智代。
智代「じゃあ、このどっちかって事ね?」
藤森「どっちも地味だけどな。お前、どっちがいいんだ?」
智代「私はどっちでも。(芽衣に気付き)芽衣はどっちがいいと思う?」
芽衣「どっちがどう違うの?」
智代「高くて雲孫まで入れるお墓と、安いけど昆孫までしか入れないお墓」
芽衣「雲孫? 昆孫?」
智代「雲孫は仍孫の子供で、昆孫は来孫の子供」
芽衣「……ダメだ、一つもわかんない」
   と言ってその場を立ち去る芽衣。
智代「まぁ、何にしても、人間は死んでからもお金がかかるって事ね」
藤森「そうだな。結局、親父の葬式も儲からなかったし」
芽衣「……」
   部屋を出る芽衣。

○同・芽衣の部屋(夕)
   部屋に入ってくる芽衣。
芽衣「『葬式が儲からない』って……あ~、イライラする。甘い物、甘い物……」

○マンション・外観
加寿子の声「そんな酷い事言ったの?」

○同・田上家
   テーブルを挟んで向かい合う芽衣と加寿子。芽衣はたい焼きを食べている。
芽衣「(満面の笑みで)ん~、美味ひ」
加寿子「葬式で儲かるなら、みんな毎日やってるっての」
芽衣「本当、さすがにアレは引いたわ。叔母ちゃんからも何か言っといてよ」
加寿子「妹の言う事、聞く人に見える?」
芽衣「見えない」
加寿子「じゃあ、芽衣ちゃん達が言わなきゃ」
芽衣「子供の言う事、聞く人に見える?」
加寿子「娘は無理か。男同士なら……」
芽衣「お兄ちゃんが、そういう事言える人に見える?」
加寿子「見えないね。あ~あ、大悟君がもう少ししっかりしてればな~。別に病気とか障害とかって訳じゃないんだし」
芽衣「まぁ『今のところは』ですけどね」
加寿子「今のところ?」
芽衣「もしかしたら十年後に『病気』として認められる『何かしら』かもしれないじゃないですか」
加寿子「あぁ、そういう事?」
芽衣「生きるのが下手なのは明らかなんだし、いっそ何かしらの病気であってくれた方が本人も楽に……」
   ドアの開く音。
田上の声「ただいま~」
村田の声「お邪魔します」
   やってくる田上と村田孝行(22)。
田上「(芽衣を見て)おっす」
芽衣「陵君、お帰り~(と言いながら、村田を見て会釈)」
   芽衣に会釈を返す村田。
芽衣「お客さん来てるなら、私帰るね。叔母ちゃん、またね」
加寿子「あ、ちょっと待ってて。智代さんに渡しといて欲しいものあってね」
芽衣「は~い」
   奥の部屋に姿を消す加寿子。
村田「あの……」
芽衣「すみません、お邪魔虫はすぐ帰りますので」
村田「いや、邪魔じゃないです」
芽衣「え?」
田上「今日コイツ『芽衣に会いたい』って言って来てんだよ」
村田「おい、陵。そんなハッキリ……」
芽衣「……私、会った事ありましたっけ?」
田上「ほら、この前車で送ってやった時に、一緒に乗ってた奴」
芽衣「(思い出し)あ~」
村田「村田孝行です」
芽衣「藤森芽衣です。陵君とは……」
村田「あ、聞いてます。陵の伯父さんの、娘さん」
芽衣「従妹でよくね?」
田上「確かに」
   笑う芽衣と田上。
村田「あの、その……あんこ好きだと伺ったのでコレどうぞ」
   と言って袋を差し出す村田。
芽衣「え、でも……(と言って田上を見る)」
田上「大丈夫大丈夫、貰っとけ」
芽衣「じゃあ、ありがたく」
   袋の中身を見る芽衣。1kgのこしあんが入っている。
芽衣「え、ごと?」
   芽衣を見つめる村田。愛想笑いを浮かべる芽衣。

○藤森家・外観
   正月飾りが飾ってある。

○同・玄関
   開錠し、扉を開ける芽衣。入ってくる大悟。
大悟「あ~、寒っ」
芽衣「おめでとう」
大悟「ありがとう」
芽衣「何が?」
大悟「わかんない。何が?」
芽衣「明けまして、って事」
大悟「あぁ。おめでとうございます」
芽衣「何だよ『ありがとう』って」
大悟「だって、わからなかったんだもん」
   笑う芽衣。

○同・リビング
   テーブルを囲む芽衣、藤森、智代、大悟。芽衣は餅にあんこを乗せて食べている。
芽衣「(満面の笑みで)ん~、美味ひ」
大悟「そういえば、お墓ってどうなったの?」
藤森「ん? もう買ったぞ」
芽衣「え!? 初耳なんだけど(と言って智代を見やる)」
智代「私も聞いてない。どういう事?」
藤森「別にわざわざ報告する事でもないだろ。ほら、コレだよ」
   と言って写真を見せる藤森。以前見ていたパンフレットのものより若干豪華な墓石。
藤森「どうだ? いいだろ、この墓」
芽衣「? 何か豪華になってない?」
智代「なってる」
藤森「(大悟に)お前のために、お前に合わせて、小さい墓にしてやったんだ。ちゃんと世話しろよ?」
大悟「……」
藤森「あと、墓ってのは跡取りがいないと入れないからな? さっさと結婚して子供産め」
芽衣「産むのはお兄ちゃんじゃないけどね」
大悟「……」
藤森「何だよ、言いたい事があるなら自分で言ったらどうだ? それとも死ぬまで妹に面倒見てもらうか? 独居老人になって妹に世話になるなんて事になったら、許さないからな?」
大悟「……」
藤森「おい、何とか言えよバカ」
   と言って大悟の頭を叩く藤森。
芽衣「ちょっと、お父さ……」
大悟「(叫ぶように)あぁぁ~~!!」
三人「!?」
大悟「何が『お前のため』だよ」
藤森「あ?」
大悟「俺のためって言う割に、俺に何も聞いてないじゃん。母さんにも芽衣にも聞いてないじゃん」
藤森「俺の墓だ。俺が決めて何が悪い?」
大悟「だから、結局自分一人で決めてるくせに恩着せがましくするなって言ってんだよ」
藤森「何だとコラ?」
芽衣「お兄……ちゃん……」
   恐怖に身がすくんで動けない芽衣と智代。
大悟「そもそも、自分は独居老人にならないって言い切れんのかよ」
藤森「は? 見ればわかるだろ? 俺は結婚して子供がいて……」
大悟「じゃあアンタと母さん、同時に死ぬのかよ?」
藤森「何が言いたい?」
大悟「もし母さんが先に死んで、芽衣が嫁に行って、俺がアンタを見捨てたら、アンタは独居老人で、孤独死だ」
藤森「見捨てる? お前は今まで誰の金で飯食ってきたと思ってんだ?」
大悟「じゃあアンタは、自分の老後の面倒を見させるために俺に飯食わせてたのか? 俺はアンタの保険か? 世話係か?」
藤森「文句あるなら、今まで俺がお前に使ってやった分の金、全部払え。学費から食費から、全部だ。いくらかかったと思ってる? 払えんのか? あ?」
大悟「そいつは全部、俺が今まで受けてきた肉体的暴力と精神的暴力の慰謝料として受け取っといてやるよ。全っ然足りないけどな!」
藤森「てめぇ!」
   大悟を殴る藤森。倒れる大悟。
智代「大悟!」
芽衣「二人とも、もう止めてよ!」
藤森「うるせぇ! (大悟に)ぶっ殺すぞ、この野郎!」
   笑い出す大悟。
芽衣「?」
藤森「何がおかしい?」
大悟「……今、言ったよね? 『ぶっ殺す』って言ったよね?」
   立ち上がる大悟。カーゴパンツの腿部分のポケットからナイフを取り出す。
芽衣「!?」
大悟「じゃあ、コレは正当防衛だよね」
藤森「お前……親を何だと思って……」
大悟「『殺したい対象』だとしか思ってないよ。子供の頃からずっと、ずっと!」
   ナイフを向けたまま藤森に迫る大悟。
大悟「ただ、殺したら殺したで、そのあとの人生、片親で生きていかなきゃならないから、だから殺さなかっただけだ。俺の人生、人質に取られてたから殺さなかっただけだ」
   芽衣に視線を向ける大悟。
大悟「今だってそうだ。今殺したら芽衣の学費を払うヤツが居なくなる」
   ナイフをしまう大悟。
大悟「だから見逃してやっただけだ。勘違いすんな」
   出口に向かっていく大悟。
藤森「二度と帰ってくるな!」
大悟「頼まれたって、帰ってこないよ」
   出ていく大悟。
智代「大悟!」
芽衣「お兄ちゃん!」
藤森「放っておけ、あんな奴」
   顔を見合わせる芽衣と智代。

○マンション・外観
   スマホの呼び出し音。

○同・田上家
   テーブルを囲む芽衣、加寿子、田上。田上はスマホから電話をかけている。
田上「ダメだ。大悟君、出ない」
芽衣「陵君でもダメか……」
加寿子「アパートも引き払ってたんだって?」
芽衣「どこ行っちゃったんだろ……?」
加寿子「でも、実家に帰るのにナイフを持ってきてたって事でしょ? 最初から準備万端だった、って事?」
芽衣「そうは見えなかったけどな……」
田上「……あのさ。コレ、本当は口止めされてたんだけど」
芽衣「? 何?」
田上「大悟君、いつもカーゴパンツのポケットにナイフ入れてたよ? 大分昔から」
芽衣「え!?」
田上「何かの漫画でそんなシーンがあったんだって。『いつでも殺せるんだ、って思ってないと我慢できなくなりそうだから』って」
芽衣「そう……だったんだ……」

○藤森家・外観(夜)

○同・リビング(夜)
   ソファーに座る智代。憔悴しきっている様子。そこにやってくる藤森。
藤森「おい、飯は?」
智代「……」
藤森「おい!」
   固定電話が鳴る。
智代「!?」
   弾かれたように受話器を取る智代。
智代「もしもし、大悟!? ……あぁ、そうですか。いえ、それで?」
   智代の様子を呆れたように見ながらソファーに腰を下ろす藤森。そこにコンビニの袋を持って入ってくる芽衣。
芽衣「ただいま」
   藤森の前にコンビニ弁当を置く芽衣。
芽衣「はい、ご飯」
藤森「しょぼい飯だな」
芽衣「嫌なら、食べなくていい」
   と言って、自分はアンパンを取り出し食べる芽衣。受話器を置き、力なくソファーに座る智代。
藤森「大悟の事は忘れろ」
智代「……」
藤森「大悟は、もう死んだんだ」
智代「生きてます」
藤森「死んだんだ!」
智代「だったらあの子の骨、貴方ご自慢のお墓に入れてあげなさいよ」
藤森「何だと?」
智代「もちろん、あの子の方が嫌がるかもしれないけどね」
藤森「好き勝手言いやがって。文句あるなら、自分の墓くらい自分で買え!」
智代「そうさせてもらいます!」
芽衣「お母さん……?」
智代「私だって、貴方と同じお墓に入るなんてごめんだわ」

○霊園
   墓石の代わりに木が一本立つ共同墓地(=樹木葬)。その前に立ち、手を合わせる喪服姿の芽衣(22)。そこにやってくる瑠佳(28)。
芽衣「何か変な感じですね。墓石じゃなくて木っていうのも」
瑠佳「慣れれば、これはこれで良いものです」
芽衣「で、管理費もかからない?」
瑠佳「はい。永代供養ですので、ご遺族様のご負担にならぬよう、初期費用以降は弊社で責任をもって管理させていただきます。ご心配には及びません」
藤森の声「やっぱり、納得できない」
   振り返る芽衣と瑠佳。やってくる喪服姿の藤森(62)。
藤森「アイツは俺の妻だ。その骨は、俺が買った墓に入れるのが筋だろう? それをこんな、その他大勢みたいなところに入れやがって」
瑠佳「ですが、コチラに納骨をするのが故人様のご意向です」
藤森「俺は夫だ。喪主だ」
瑠佳「故人様のご意向が最優先です」
   笑顔だが、有無を言わせぬ圧力を放つ瑠佳。
藤森「……もういい」
瑠佳「そうですか。では」
   一礼し、立ち去る瑠佳。
藤森「おい、芽衣。お前今、彼氏いるのか?」
芽衣「何、藪から棒に」
藤森「もし結婚するなら、婿に取れよ?」
芽衣「は? 何で?」
藤森「決まってんだろ。跡取りがいないからだよ。藤森家も、俺の墓も」
芽衣「無理だよ。今の彼氏、一人っ子だから」
藤森「じゃあ、別れて別の男探せ」
芽衣「は?」
藤森「いいな」
   立ち去る藤森。その背中を睨みつける芽衣。
芽衣の声「本当、自分勝手な人」

○団子屋
   座席で向かい合う芽衣と村田(25)。芽衣の前にはあんこの団子。
芽衣「私の事、結婚の事、何だと思ってんだか」
   団子を口に運ぶ芽衣。
芽衣「(満面の笑みで)ん~、美味ひ」
村田「表情筋が忙しそうだね」
芽衣「そこの心配されたの初めてだわ」
村田「で、芽衣にとって『結婚』って何なんだ?」
芽衣「え?」
村田「例えば……ほら『紙切れ一枚の関係』って言う人もいるでしょ?」
芽衣「あ~……まぁ、当人同士はそうかもしれないけど、結婚で一番大事なのは『相手の家族と家族になる事』『相手と自分の家族が家族になる事』じゃない?」
村田「なるほどね」
芽衣「でもウチのお父さんと家族になるって、難易度が……」
村田「ねぇ、芽衣」
芽衣「うん?」
村田「実は俺、転勤が決まったんだ」
芽衣「え? どこに?」
村田「ニュージーランド」
芽衣「……そっか。ずっと海外勤務希望してたもんね。良かったじゃん。おめでとう」
村田「ありがとう。でも俺は、一人で行くつもりはない。芽衣にも一緒に来て欲しい」
   ポケットから指輪の入った箱を取り出し、芽衣の前に置く村田。
芽衣「!?」

○藤森家・芽衣の部屋(夜)
   机に向かう芽衣。机の上には指輪の入った箱。
村田の声「僕の家族と、家族になってください」
   指輪を見つめる芽衣。一度取り出し、指にはめようとするも、そのまま箱に戻す。
芽衣「……」
芽衣の声「ねぇ、どうしたらいいかな?」

○霊園
   樹木葬の木の前で手を合わせる芽衣。モナカがお供えされてある。
芽衣「お母さんだったら、どうする?」
   顔を上げる芽衣。
芽衣「どっちを選べば、後悔しないと思う?」
瑠佳の声「思うままにされたら良いんじゃないですか?」
芽衣「え?」
   振り返る芽衣。そこにやってくる瑠佳。
瑠佳「いらしてたんですね」
芽衣「あ、どうも。何でここに……?」
瑠佳「? 弊社で管理している場所ですので」
芽衣「そうかそうか。じゃあ、よろしくお願いします」
   一礼し、立ち去ろうとする芽衣。
瑠佳「私で良ければ、話お聞きしますよ?」
芽衣「え? でも……」
瑠佳「ご心配には及びません」
    ×     ×     ×
   ベンチに並んで座る芽衣と瑠佳。芽衣の手にはお供え物として置いてあったモナカ。
瑠佳「なるほど、海外ですか……遠距離で、というお考えは?」
芽衣「難しいと思います。だから結婚してついていくか、別れるか」
瑠佳「悩まれているんですね」
芽衣「あんな父でも、一人してしまうのは心苦しいというか……でも、彼氏も凄く良い人で……」
瑠佳「ご心配には及びません。どちらを選んでも、後悔しますよ」
芽衣「え?」
瑠佳「人間、そういう風に出来ているものです。Aを選べば『Bを選べばよかった』と後悔し、Bを選べば『Aの方が良かったんじゃないか?』と後悔する。隣の芝生は青く見えて、逃がした魚は大きく思える。人生なんて、そんなもんですよ」
芽衣「……そっか。結局、後悔するのか」
瑠佳「ですから、安心して後悔してください」
芽衣「わかりました。私、後悔する道を選びます」
   モナカを口に運ぶ芽衣。
芽衣「(満面の笑みで)ん~、美味ひ」
   それを見てほほ笑む瑠佳。

○藤森家・外観

○同・リビング
   藤森に頭を下げる芽衣と村田。
藤森「認めない」
芽衣「お父さん」
藤森「嫁に出すだけでも認められないのに、海外だ? どれだけ親不孝なんだお前は」
芽衣「仕方ないでしょ?」
藤森「村田君と言ったね。悪いが、娘とは縁がなかったと思って欲しい」
村田「いや、それは……」
芽衣「何でそんな事、お父さんに決められなきゃいけないの?」
藤森「俺の娘だからだ」
芽衣「(ため息交じりに)……わかりました」
村田「芽衣ちゃん?」
芽衣「私は、孝行と結婚します。ニュージーランドについていきます」
藤森「は? 何だそれ? 何もわかってないだろが」
芽衣「わかってないのはお父さんの方だよ。私は成人だから。お父さんの許可なんて必要ない」
藤森「な……」
芽衣「行こう、孝行」
   立ち上がる芽衣。
藤森「……わかった。お前がそういうつもりなら、俺にも考えがある」
   立ち上がる藤森。
藤森「部屋にある荷物、全部片づけて、とっとと出ていけ。その代わり、二度と家の敷居は跨がせないからな!」
芽衣「孝行。部屋、コッチだから」
   出ていく芽衣。藤森に一礼し、芽衣を追いかける村田。
   ソファーに座り込む藤森。
藤森「……」

○同・芽衣の部屋
   荷物をまとめる芽衣と村田。ただし、大半の荷物は既にまとめられている。
芽衣「ね、言った通りになったでしょ?」
村田「一言一句違わなくて驚いた。……でも、本当にいいの? これで」
芽衣「聞いてたでしょ? あの人は『自分が幸せになれるかどうか』しか考えてくれないから」
村田「でも、人間なんて皆そうで……」
芽衣「そう。だから私も、自分が幸せになれる方を選ぶ。(薬指の指輪を指し)幸せにしてくれるんだよね?」
村田「もちろん」
芽衣「じゃあ(大きな段ボール箱を指し)それ、ちょっとどかして」
村田「はいはい。(段ボール箱をどかし)よっと。(腰を押さえ)お~……」
芽衣「大丈夫? 痛い?」
村田「大丈夫。ただの成長痛」
芽衣「何、腰伸びるの?」
   笑う芽衣。

○空港・外観

○同・中
   大荷物を持って歩く芽衣と村田。見送りに立つ田上(25)。
田上「じゃあな、芽衣ちゃん。村田も。気を付けて」
村田「あぁ」
芽衣「ありがとね、陵君。見送りなんて」
田上「まぁ、一応俺は二人の恋のキューピッドになってしまった責任があるから。で、向こうにはどれくらい?」
村田「三年か、四年かな」
芽衣「だからその間、もしお父さんに何かあったら、その時は……」
田上「わかってる。俺とかおふくろが、何とか面倒見とくよ」
芽衣「お願い」
田上「じゃあ出発前、最後に何か伝えとく事、ある?」
芽衣「そうだな……『免許返納、早めにしてよね』って」
田上「うわ……絶対聞かない奴じゃん」
芽衣「だろうね」
   笑う三人。
村田「じゃあ、そろそろ……」
芽衣「うん」
   歩き出す芽衣と村田に手を振る田上。

○同・外
   飛び立つ飛行機。停車した車の傍らに立ち、それを見送る藤森。
藤森「……」
   運転席に乗り込み、車を発進させる。
    ×     ×     ×
   着陸する飛行機。
芽衣の声「ただいま」

○霊園
   樹木葬の木の前で手を合わせる芽衣(26)。大福がお供えされてある。
芽衣「ごめんね、ずっと放っといて。いや、帰国したい気持ちはあったんだけど、なかなか難しいご時世でさ」
   顔を上げる芽衣。
芽衣「でもまぁ、みんなの理葬の人達が管理してくれてたから、平気か。ね、そうだよね?」
   そこにやってくる村田(29)。
村田「芽衣。そろそろ出ないと、遅れるよ?」
芽衣「は~い。ごめんね、お母さん。今日はちょっと用事あって。これからは、ちょくちょく来るからさ。じゃあね」
   立ち去る芽衣。その後すぐ戻り、大福を手に再び立ち去る。

○マンション・外観

○同・田上家
   テーブルを囲む芽衣、瑠佳(32)、加寿子(62)、村田。芽衣はどら焼きを食べている。
芽衣「(満面の笑みで)ん~、美味ひ」
加寿子「芽衣ちゃん、あいかわらずね」
芽衣「いや~、日本に帰ってきたなって感じ」
加寿子「あ、そうそう。見る?」
   加寿子のスマホの画面。田上(29)が抱く赤ん坊の画像。
芽衣「あ、陵君の子供? かわいい~」
村田「芽衣の従兄の子供……何て呼ぶんだろう?」
芽衣「甥? いや、甥じゃないか」
瑠佳「従甥(いとこおい)ですね」
加寿子「へぇ、そうなのね」
芽衣「じゃあ、まさか逆は『従叔母(いとこおば)』?」
瑠佳「ご名答です」
芽衣「当たってんだ」
加寿子「意外と単純ね」
芽衣「ちなみに、その従甥って、親族? あれ、どこまでが親族……?」
村田「親族だと思うよ。確か六頭身以内だったハズだから」
芽衣「(瑠佳に)当たってます?」
瑠佳「おおむね。ただ『六頭身』ではなく『六親等』ですけど」
村田「あ……」
芽衣「そりゃそうだ。六頭身はちょっと頭デカすぎだもん」
   笑う一同。
瑠佳「ところで……(奥の部屋を見やり)まだでしょうか? そろそろ始めたいのですが」
芽衣「あ、ですよね。(奥の部屋に向け)ねぇ、まだ~?」
   返事はない。
加寿子「しょうがないな。(席を立ち)今、連れてきますね」
村田「あ、じゃあ僕が……」
加寿子「いいわよ。帰ってきたばっかで疲れてるでしょ? 座ってて」
   と言って奥の部屋に行く加寿子。
   その後、藤森(66)の乗った車椅子を押して戻ってくる加寿子。
加寿子「お待たせ」
芽衣「……」
藤森「……」
村田「お義父さん、ご無沙汰してます」
芽衣「元気だった?」
藤森「嫌味か?」
芽衣「あ……ちょっとテンプレすぎたね。ごめんごめん」
藤森「……くそ、こんなんなら死んだ方がマシだ」
加寿子「そんな事言わないの」
   テーブルの前に藤森の車椅子を止め、元の席に座る加寿子。
瑠佳「では、皆様お揃いになったので、始めさせていただきます。藤森大悟様のご失踪から七年、本日をもって大悟様は死亡扱いとなりました。ご愁傷様です」
   頭を下げる瑠佳。それに合わせて頭を下げる藤森以外の一同。
瑠佳「本来ならば、ここで死亡後の手続きに入る所なのですが……」
村田「? そのために集まったんですよね?」
瑠佳「そうなんですが、実は少々心配な事がありまして」
加寿子「心配な事?」
芽衣「珍しい」
瑠佳「先日、弊社の京都支店に、葬儀の依頼がありまして。その故人のお名前が『藤森大悟』さん」
一同「!?」
瑠佳「生年月日も一緒でして、もしかしたらと……」
芽衣「その葬儀、いつですか?」
瑠佳「今夜です」
芽衣「今夜!?」
瑠佳「ご案内しましょうか?」
芽衣「是非」

○葬儀場・外観(夜)

○同・会場(夜)
   駆け込んでくる芽衣。祭壇に飾られた大悟(38)の遺影。
芽衣「お兄ちゃん……。生きてたんだ……でも間に合わなかったのか……」
   芽衣の頬を伝う涙。
芽衣「……バカ」
   踵を返す芽衣。そこに立つ大悟。喪服姿。
大悟「!?」
芽衣「ぎゃあああ!?」

○同・控室(夜)
   テーブルを囲む芽衣と大悟。重い沈黙。
芽衣「生前葬、ね……。いや、マジで出たかと思った……」
大悟「死亡扱いになる日だな、と思って」
芽衣「縮まった寿命、返してよ」
大悟「だから、ごめんて」
   沈黙。
大悟「(思い出したように)あ、そうだ」
   別のテーブルの上にある、あんこ入りの八ッ橋を芽衣に差し出す大悟。
大悟「いりはります?」
芽衣「出た、京都弁」
   八ッ橋を口に運ぶ芽衣。
芽衣「(満面の笑みで)ん~、美味ひ」
   それを見て笑う大悟。
芽衣「あけおめ、ことよろ」
大悟「今?」
芽衣「とりあえず」
大悟「じゃあ、ましてでとう、しもしく」
芽衣「はい?」
大悟「明け『まして』おめ『でとう』、こと『しも』よろ『しく』で『ましてでとう、しもしく』」
芽衣「何それ。これが七年ぶりに会った兄妹の会話?」
   笑う芽衣と、つられて笑う大悟。
芽衣「何で京都?」
大悟「良くない? 京都弁」
芽衣「わからん」
大悟「っていうか、(指輪を指し)結婚したんだ?」
芽衣「あ、うん。だいぶ前だけど」
大悟「おめでとう」
芽衣「ありがとう」
大悟「父さんと母さんは? 元気?」
芽衣「……興味ないくせに」
大悟「……確かに。生きてても死んでても、どっちでもいいかも」
芽衣「昔言ってたよね? 『奥さんに先立たれ、娘が嫁いで、息子に見捨てられたら、アンタも独居老人だ』って」
大悟「あぁ……何か言った気がする」
芽衣「まんま、そうなってる」
大悟「え?」
芽衣「お父さん、車の運転中にアクセルとブレーキ踏み間違えて事故起こして今は車椅子生活」

○マンション・田上家(夜)
   窓から見える星空。それを眺めている藤森。車椅子から立ち上がろうとする。大きな物音。
芽衣の声「幸い、他にけが人は出なかったけど、お店に突っ込んじゃったからその損害賠償やら何やらで家も墓も売り払って」

○葬儀場・控室(夜)
   テーブルを囲む芽衣と大悟。
芽衣「今は叔母ちゃんのお世話になってる」
大悟「へぇ……散々偉そうな事言ってたくせに、自分が妹の世話になってるんだ」
芽衣「ざまぁみろ、って思ってる?」
大悟「……。お母さんの事は、お悔やみ申し上げといて」
芽衣「何で他人事? 遺族なんだから、申し上げられる側でしょ」
大悟「だから、俺はもう死んだから」
芽衣「それでいいの?」
大悟「うん。だから芽衣も、俺に会ってない事にして。墓場まで持って行って。一生のお願い」
芽衣「死んでるくせに」
大悟「確かに」
   笑う二人。その時、芽衣のスマホに着信。
芽衣「(画面を見て)あ、旦那だ」
   芽衣をじっと見る大悟。
芽衣「わかったって、言わないから。(電話に出て)あ、孝行。ごめん、後でかけ直してもいいかな? ……え、お父さんが!?」
   大悟を見やる芽衣。
大悟「?」

○マンション・田上家
   藤森の遺影と遺骨が置かれている。
   テーブルを囲む芽衣、瑠佳、加寿子、村田。
瑠佳「では、生前に故藤森大介様からお預かりしていた遺言をお伝えさせていただきます」
   藤森直筆の紙を見せる瑠佳。
瑠佳「『俺にはもう入る墓もない。俺の骨は自然に還してくれればいい』」
芽衣「自然葬……また海?」
加寿子「さすが親子ね」
瑠佳「『宇宙葬を望む』」
村田「宇宙葬?」
瑠佳「その名の通り、宇宙に骨を撒きます。『星になって子孫を見守る』という事で人気のプランです」
芽衣「へぇ、浪漫ある~」
加寿子「でも、どうやって?」
瑠佳「ご心配には及びません。弊社所有のスペースシャトルがありますので」
芽衣「何でもあるな」
村田「宇宙って、そんな簡単に行けるんですか?」
瑠佳「ご心配には及びません。訓練さえ受けていただければ、どなたでも」
芽衣「へぇ。……って、訓練?」

○宇宙センター・外観

○同・各部屋
   ランニングマシンで走る等の基礎体力訓練から座学、重力加速度訓練、閉鎖環境訓練、巨大プール内での無重力環境訓練などを受ける芽衣。疲労困憊。

○海上
   冒頭のシーンに戻る。
   水上サバイバル訓練を受ける芽衣。
芽衣M「あれ……? 私、何でこんな事してるんだったっけ……?」
瑠佳の声「宇宙からの帰還時に、海上へ不時着した場合を想定した訓練ですよ」

○船の上
   訓練を終え、引き上げられる芽衣。寒さに震える芽衣に、温かいお汁粉を差し出す瑠佳。
瑠佳「お疲れ様でした。どうぞ」
芽衣「(満面とはいかないが笑顔で)美味ひ……あ~、生きてる……」
瑠佳「それは何よりです」
芽衣「で、次はどんな訓練ですか?」
瑠佳「ご心配には及びません。以上で全課程修了となります」
芽衣「終わった……。(再びお汁粉を口に運び、今度は満面の笑みで)終わった……」

○宇宙センター・発射場
   発射準備がされたスペースシャトル。
   宇宙服姿で、他のクルーと並んで歩く芽衣(映画『アルマゲドン』風)。尚、アジア人は芽衣のみ。
    ×     ×     ×
   芽衣に宇宙食用の羊羹を渡す瑠佳。
瑠佳「こちら、餞別です」
芽衣「宇宙で羊羹か……楽しみにしてます」
瑠佳「まもなく出発となりますが、何かご心配な事はありますでしょうか?」
芽衣「あの、他の身内は?」
瑠佳「ご時世ですので、一世帯お一人でお願いしております。ただ、ご心配には及びません」

○各地
   それぞれの場所でスマホから発射の様子を見守る加寿子、村田ら。
瑠佳の声「皆様、リモートで見守っておられます」

○宇宙センター・発射場
   向かい合う芽衣と瑠佳。
芽衣「そうですか……。あと、これは凄く今更なんですけど」
瑠佳「何でしょう?」
芽衣「私、宇宙に行かなきゃダメですか?」
瑠佳「はい。それが、故人様の……」
芽衣「ご意向、ですよね」
瑠佳「それでは、お気をつけて」
   一礼し、その場を立ち去る芽衣。
    ×     ×     ×
   発射されるスペースシャトル。

○霊園(夜)
   樹木葬の木の前に立つ大悟。空を見上げると星が輝いている。
                  (完)

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