天皇杯 スポーツ

1998年。既に解散が決まったプロサッカークラブ・横浜フロイデスは、最期の公式戦=天皇杯に挑む。
マヤマ 山本 26 0 0 11/23
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第一稿

<登場人物>
古江 茂(34)横浜フロイデスの選手兼GKコーチ
元町 風馬(26)同サポーター
古江 翼(12)古江の息子
代田 万里(24)元町の恋人
志賀崎 直(22 ...続きを読む
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<登場人物>
古江 茂(34)横浜フロイデスの選手兼GKコーチ
元町 風馬(26)同サポーター
古江 翼(12)古江の息子
代田 万里(24)元町の恋人
志賀崎 直(22)横浜フロイデスの選手
岩本 宏(29)同
高田 佳之(21)同
桃井 靖史(21)同
サンタナ(30)同
前川 透(39)同監督
古江 雅子(34)古江の妻
古江 未来(5)古江の娘
暁(26)横浜フロイデスのサポーター
加奈(26)同
内野(43)同



<本編> 
○東平尾公園博多の森球技場・外観
   T「1998年12月13日 天皇杯3回戦 徳島FC戦」
大人の翼M「こうして、横浜フロイデスにとって最後の天皇杯が幕を開けた」

○同・グラウンド
   フロイデスと徳島の試合が行われている。動きの堅いフロイデスの選手達。岩本宏(29)が徳島の選手に抜かれる。
大人の翼M「天皇杯は、全試合がトーナメントである。それはつまり……」
岩本「しまった」
   徳島の選手のシュートが決まる。
   スコアが「2―2」と表示される。
   喜ぶ徳島の選手達。
大人の翼M「負けた瞬間、チームが解散するという事を意味した」
   うなだれるフロイデスの選手達と、ゴールに入ったボールを拾う志賀崎直(22)。
志賀崎「何やってんだよ、簡単に抜かれすぎだろ!」
岩本「あぁ、わかってるよ……」
前川の声「まったく、相手は格下だぞ?」

○同・ロッカールーム
   岩本、志賀崎、高田佳之(21)、桃井靖史(21)、サンタナ(30)ら選手や前川透(39)らが集まっている。
   T「横浜フロイデス 4―2 徳島FC」
前川「それを、こんなギリギリで……」
サンタナ「格下ダカラダヨ」
岩本「守って守ってカウンター。やりづらいったらない」
志賀崎「しかもアイツら、失うもん無ぇしな」
高田「それに比べて自分たちは、失うものが大きすぎて……」
   重い空気が漂う。
桃井「(空気を変えるように)でもまぁ、次はセレソンが上がってくるんじゃないっスか? そしたら、通常運転っスよ」
   そこに入ってくる古江茂(34)。
古江「そう思ってるなら、悪い知らせだ」
岩本「え、まさか……?」
古江「六対四でヴァンクール甲府の勝利、だってさ」
志賀崎「一部リーグのチームが、二部リーグのチームに負けた……」
桃井「ジャイアントキリング……」
高田「これだから恐いんだよ、一発勝負の天皇杯は」
   さらに重い空気が漂う。
古江「大丈夫だ。俺達にはサポーターが付いている。(主に高田を見て)約束しただろ?」

○鳥取市営バードスタジアム・グラウンド
   T「1998年12月20日 天皇杯4回戦 ヴァンクール甲府戦」
   スタンドにいる暁(26)と加奈(26)の元にやってくる内野(43)。
内野「どうもどうも、先週は来られなくてすみませんでしたね。加奈さんは足の具合、いかがですか?」
加奈「えぇ、まぁ、何とか」
内野「あれ? 元町君は?」
暁「さぁ? 何やってんだか……」
元町の声「いるよ」
   暁の元にやってくる元町風馬(26)。
元町「確かに、もうすぐ失くなるチームだけど、どんなに辛くても、今はまだ、俺はフロイデスを応援できるんだ」
   文庫本『君のそばで会おう』を持つ元町。
元町「この俺の想いは、失くしちゃいけないんだ!」
暁「風馬……」
   加奈の隣にやってくる代田万里(24)。
万里「ぎこちなさは無くなったみたい」
加奈「ですね」
   顔を見合わせ笑う万里と加奈。
    ×     ×     ×
   フロイデスと甲府の試合が行われている。高田のシュートが決まる。
   喜び、高田に抱きつくフロイデスの選手達。
高田「まだだ。コレを最後になんてさせてたまるか!」
   喜ぶ前川、古江らフロイデスベンチ。
   T「横浜フロイデス 3―0 ヴァンクール甲府」

○東戸塚トレセン・グラウンド
   多数のマスコミが駆けつける中、練習するフロイデスの選手達。それを見ている前川と古江。
古江「増えてきましたね、マスコミ」
前川「大方、次で負けるとでも思ってんだろ」
古江「まぁ、次はリーグ戦二位の磐田ですし、勝ってもその次が一位の鹿島ですからね。そう思うのも無理ないですよ。ただ……」
前川「ただ?」
古江「個人的には『マスコミが増えた事』よりも『マスコミが減ってた事』の方が恐いんですけどね」
前川「?」

○神戸ユニバー記念陸上競技場・グラウンド
   T「1998年12月23日 天皇杯準々決勝 シフレ磐田戦」
   フロイデスと磐田の試合が行われている。
   ホイッスルが鳴る。
   喜ぶフロイデスの選手達。
   喜ぶ元町、万里、暁、加奈、内野。
元町「やっぱり、フロイデスは最高だ~!」
暁「バーカ。そんな事、最初っからわかってる事だろうが」
   その様子を笑いながら見ている万里、加奈、内野。
万里「……あれ、何か聞こえません?」
内野「え?」
   磐田サポーターから発せられる「横浜フロイデス」コール。その中心には、署名活動時に協力してくれた磐田サポーター達。それを聞き、涙目の元町。
元町「こんな事、あるんだね……」
   T「横浜フロイデス 2ー1 シフレ磐田」

○マンション・古江宅・翼の部屋・中
   コートを着て、カバンを背負い、身支度を済ませる翼。
翼「よし」
   ドアノブに手をかけようとするが握れず、呼吸が荒くなる翼。力なく手を下ろす。

○同・同・同・前
   身支度を済ませて立つ雅子。
雅子「翼、時間だよ?」
翼の声「……ごめん、やっぱ無理」
雅子「……そっか。ママ達は行っちゃうけど一人で大丈夫?」
翼の声「……うん」
雅子「わかった。じゃあ、お昼ご飯は用意しておくから、留守番よろしくね」
翼の声「……うん」

○大阪市長居スタジアム・グラウンド
   T「1998年12月27日 天皇杯準決勝 アトラス鹿島戦」
   フロイデスと鹿島の試合が行われている。
   スタンドから声援を送る元町、万里、暁、加奈、内野。
   フロイデスの選手がシュートを決め、盛り上がる。

○マンション・古江宅・翼の部屋・中
   『君のそばで会おう』を読む翼。

○大阪市長居スタジアム・グラウンド
   喜ぶフロイデスの選手達。
   T「横浜フロイデス 1ー0 アトラス鹿島」
   ピッチになだれ込むフロイデスの控え選手達。

○同・外
   出てくる雅子と未来。
未来「ナオ君かっこ良かったね」
雅子「そうだね(と言いながらPHSを操作する)」
未来「どこにかけるの?」
雅子「ん? お家。お兄ちゃん出るかな?」
未来「出ないと思う」
雅子「ハハハ、そうかもね」
翼の声「……もしもし」
雅子「(驚いて)翼!?」
翼の声「なんだ、母さんか」

○マンション・古江宅・リビング
   電話に出ている翼。以下、適宜カットバックで。
翼「で、何?」
雅子「あぁ、うん。フロイデス、勝ったよ」
翼「そっか」
雅子「決勝はさ、一緒に応援しに行こうね」
翼「……うん」
雅子「そうだ、晩ご飯何がいい?」
翼「別に、何でも」
雅子「そっかそっか。じゃあさ……」

○国立霞ヶ丘競技場・外(夜)
   横断幕を作る元町、暁、加奈らフロイデスのサポーター達。
元町「(時計を見て)あ、もうすぐ……」
   T「1999年1月1日」

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