<人物>
西条剛(23)広告代理店社員
西条奈保子(50)剛の母
牛本涼介(28)剛の上司
◯コーポ白滝・外観(朝)
白を基調にした外壁。入口に溜まっている落ち葉を管理人が掃いている。
◯同・西条家・リビング(朝)
キリッと7:3に分けた西条剛(23)は姿見を確認しながら、
ネクタイを結んでいる。エプロン姿の西条奈保子(50)が見ている。
奈保子「剛、貸しなさい」
剛「就活でもやったんだから、できるって」
奈保子「初日くらい母ちゃんに任せなさい」
奈保子、剛からネクタイを奪い取る。
テキパキと剛のネクタイを締める。
剛、恥ずかしそうに
剛「ありがとう」
ピンポーンとチャイムが鳴る。
奈保子「ハーイ」
ドアを開けて出ていく。
奈保子の声「どうも〜」
バタンとドアが閉まる音。
奈保子ドアを開けて入ってくる。
剛、顔をしかめて
剛「また買ったん?」
奈保子の手には四角い箱。
奈保子「ホワイトホワイトって美容液。YOUTUBEの広告で
出てきたんだけど、シミが消えるって」
剛、ため息をつきながら
剛「母ちゃん何回騙されるのさ。消えるなんてエグい広告信じちゃダメだって」
奈保子、ばつが悪そうな顔。
剛「やっぱり正しいWEB広告は必要だなぁ」
奈保子「広告代理店って激務なんでしょ?」
剛、苦笑いで
剛「大丈夫だって。じゃあ行ってきます」
◯恵比寿ガーデンプレイス・全景(朝)
T恵比寿ガーデンプレイス
レンガの建物、高層ビルが立ち並ぶ。
◯同・ロイヤルタワー・15階(朝)
一角の入口に『株式会社アドマーケティング』と書かれたプレート。
◯株式会社アドマーケティング・会議室(朝)
ホワイトボードの前には牛本涼介(28)。センターパートのパーマで
自信に満ちた顔。牛本の前に剛が座っている。
牛本「牛本です。西条君のメンターなので、わからないところは
何でも聞いてな」
剛「よろしくお願いします」
牛本「俺たちのやることは依頼主の商品を、広告使ってたくさん売ること。
それでだ」
牛本がファイルから資料を出す。
牛本「西条君の担当はこれ」
剛、資料を受け取り眺める。資料には銀色のチューブで『シミューズ』。
牛本「M&Z社の新商品『シミューズ』って美容液。ガンガン売ってこう」
剛「はい!」
◯同・喫煙所(夕)
剛入ってくる。牛本、剛を見て
牛本「お疲れさん」
剛、ピンと背筋を伸ばして
剛「牛本さん、お疲れ様です!」
牛本「入って1週間だよな?どう?慣れた?」
剛、苦笑いで
剛「わからないことだらけです」
牛本、アイコスの煙をフーッと吐き
牛本「西条はさ、なんでこの会社入ったの?」
剛「正しい広告で正しい人に正しい商品を届けるためです」
牛本「そうじゃなくてさ。本音聞かせてよ」
剛「えっ本音ですけど」
牛本、鼻で笑う。
牛本「あーそういうタイプね」
剛、不思議そうな表情。
牛本「うちってさ、弱小WEB広告代理店じゃん?利益が出なきゃ即ピンチ。
だから評価基準は利益を出せるかどうかだけ。
正しさより売れるかどうかなんだよね」
剛、牛本を見つめている。
牛本「まぁとにかく、西条は半年の試用期間で結果出せば問題ないから」
牛本出ていく。剛、アイコスを咥える。
◯会議室(朝)
牛本難しい表情で座っている。ノックの音。
剛の声「失礼します」
剛入ってくる。
牛本「座ってくれ」
剛座る。牛本、剛の向かいに座る。
牛本「単刀直入に言うぞ。シミューズ、全然売れてない」
剛、唇を噛み、俯く。牛本、手元のパソコンを操作しながら
牛本「理由、自分でわかってるか?」
剛「いえ、わかりません」
牛本「1番の問題はコピーライティングだな」
牛本、画面を剛に見せる。
牛本「インパクトがないんだよ。シミューズのメリットを最初に伝えきれてな
い」
剛「すみません」
牛本「前も言ったけど、うちは利益至上主義だからさ。このままじゃ試用期間で
クビになるぞ」
剛、膝に置いた拳が震えている。
◯西条家・剛の部屋(夜)
剛、机の前で本を読んでいる。机の上には5、6冊の広告関連の本が
積み上がっている。所々付箋が挟んである。
◯リビング(朝)
剛、ぼーっと食事。奈保子、剛を心配そうに見ながら
奈保子「剛、どうお仕事は?」
剛「え、ああ、うん。順調だよ」
奈保子「なんていう商品を売ってるの?」
剛「ごちそうさま」
剛、逃げるように食器を片付ける。
◯会議室(夕)
剛と牛本が向かい合って座っている。
牛本「直してきたの、これ?」
剛「はい」
牛本、不機嫌そうに
牛本「弱いね。シミを消すぐらい言わなきゃ」
剛「でも化粧品でシミが消えるって謳うのは薬機法で禁止されてますけど」
牛本、ため息をつく。
牛本「そんなん、消費者庁に注意されてから直せばいいんだよ。
それに怒られるのは俺たちじゃなくて、広告主なんだから」
剛、口をギュッと結ぶ。
牛本「お前の同期、粗利7桁稼ぐやつも出てきたよ」
剛「修正します」
剛、一礼して出ていく。
◯株式会社アドマーケティング・オフィス(夜)
フロアに残っているのは剛のみ。鬼のような形相でPCに向かう。
◯会議室(朝)
剛と牛本が向かい合って座っている。
牛本「うん、いいね。これで行ってみよう」
剛、ほっとした表情。
◯リビング(夕)
PCの前にいる奈保子。画面には「シミが一瞬で消える新美容液・
シミューズ」の広告。顎に手を当てて悩んでいる表情。しばらくして、
購入ボタンを押す。
◯会議室(朝)
剛と牛本が向かい合って座っている。
牛本「いいねシミューズ。かなり売れてるよ。西条、MVPに選ばれるかもな」
剛「MVPですか?」
牛本「今期1番利益を出したやつが選ばれるんだよ。今の成績なら
いけるいける」
剛「なら、試用期間、合格ですかね」
牛本「絶対大丈夫でしょ」
剛、机の下で小さくガッツポーズ。
◯西条家・洗面台(夕)
奈保子、鏡を見ると顔に赤いポツポツができている。
棚の上のシミューズの銀色の容器を恨めしく見つめる。
◯リビング(夜)
ドアが開き、笑顔で剛入ってくる。
剛「ただいま」
料理をしている奈保子、振り返る。
奈保子「おかえり。あれ、いいことあった?」
剛「うん、まあね」
剛、笑顔を浮かべ、出ていく。
奈保子、笑顔で料理を続ける。
◯洗面台(夜)
剛、棚の上のシミューズに気が付く。口を半開きにして手に取り
見つめる。
◯リビング(夜)
剛ドアを乱暴に開けて入ってくる。手にシミューズ。
剛「母ちゃん、これ」
奈保子、バツが悪そうな顔で
奈保子「ごめんね。剛が言ってたのにまた買っちゃった。シミ消えなかったし、
肌に合わないから返品する予定なの」
奈保子の赤くかぶれた顔を見て、呆然と立ち尽くす剛。
◯オフィス(朝)
剛MVPと刻まれたトロフィーを手に20人ほどの社員に囲まれている。
牛本満面の笑みで激しく拍手。剛虚ろな表情。
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