私のパパは電脳美少女 ドラマ

食品会社で働く可愛成夫(48)は、よくいる小太りの中年男である。男手一つで高校生の娘の愛理(あいり)(16)を育てているが、冷たく接せられ、会社の部下からも敬遠される寂しい毎日を送っている。 そんな可愛が唯一、自分らしくいられるのはネットの世界。可愛には人気美少女VTuber『みるる』という裏の顔があるのだった。 今夜も彼はネットの海に叫ぶ。 「こにゃにゃちわ!みんなのアイドルみるるだよぉ」
荻 安理紗 94 0 0 10/30
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第一稿

私のパパは電脳美少女

【あらすじ】
 食品会社で働く可愛(かわい)成夫(しげお)(48)は、よくいる小太りの中年男である。男手一つで高校生の娘の可愛愛理(あいり)(16)を ...続きを読む
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私のパパは電脳美少女

【あらすじ】
 食品会社で働く可愛(かわい)成夫(しげお)(48)は、よくいる小太りの中年男である。男手一つで高校生の娘の可愛愛理(あいり)(16)を育てているが、冷たく接せられ、会社の部下からも敬遠される寂しい毎日を送っている。そんな可愛が唯一、自分らしくいられるのはネットの世界。可愛には人気美少女VTuber『みるる』という裏の顔があるのだった。
「こにゃにゃちわ! みんなのアイドルみるるだよぉ」

 美少女を夢中で演じる可愛とは裏腹に、娘の愛理は『女性らしさ』にコンプレックスを抱き、アンバランスな思春期を過ごしている。亡くなった母の一言がきっかけで、子供の頃大好きだった野球をやめてしまい、自分自身をなかなか肯定できない愛理。そんな娘に可愛は「愛理は愛理らしく」と度々伝えるが、父と娘の間には冷たい隙間風が吹く毎日。

 ある日、愛理に『みるる』がバレそうになる可愛。なんとか危機を乗り越え、安堵する。しかしファンの贈り物がきっかけで、愛理は父の秘密を知ってしまうのであった。
 散々、「愛理は愛理らしく」と言ってくるクセに、世間や家族には自分の本当の姿を隠している可愛に愛理は苛立つ。秘密を知ったことは隠しながら、可愛を強く詰る愛理。「お父さんは自分らしく生きてるの?」
 愛理の言葉にショックを受けたまま、可愛は初生配信に挑戦。無事成功したように思えたが、可愛の顔が配信されるアクシデントが発生。パニックになった可愛は失踪。ネットニュースにもなり、世間を騒がせる。しかし数日後、突然、『みるる』の生配信が行われ、『みるる』は復活。驚く可愛に、『みるる』を演じる愛理がカメラ越しに伝える。
本物の『みるる』はお父さんだけだと。愛理は叫ぶ。「目の前で見せてよ、本当のお父さん」
 可愛は愛理の元へ全力で走っていき、視聴者に向かって宣言するのだ。
「俺こそがみるるだ!」(終) 

【登場人物表】
 可愛(かわい)成夫(しげお)(48) 会社員、VTuber
 可愛愛理(あいり)(16) 可愛の娘、高校生
 小石川涼介(15) 愛理の後輩、高校生
 可愛真美子(40) 可愛の妻、故人
 三島祐輝(27) 可愛の部下
 平岡公孝(30) 可愛の部下
 朝倉圭介(17) 愛理の先輩、高校生
 三浦芽衣(17) 愛理の先輩、高校生
 山崎ほのか(24) YouTuber
 女性アナウンサー(26)
 女性社員A(31)
 野球少年


○小石川家・涼介の部屋(夕)
   タブレットに表示されている、美少女
   VTuber『みるる』の動画。
みるる「はあい! みなさんこにゃにゃちわ。
 みんなの可愛い妹、みるるだよ」
   タブレットを持ち、床に胡座で座って
   いる小石川涼介(15)、色白の少年。
   部屋には大量のフィギュアとマンガ。
   小石川、笑顔で、
小石川「こにゃにゃちわ〜!」
   眉をひそめる可愛愛理(16)の顔。
   愛理、ベッドに寝転んでプロ野球選手
   名鑑を読んでいる。ショートカットで
   ジャージ姿。
   みるる、可愛らしい素ぶりで、
みるる「今日はぁ、早口言葉に挑戦だよぉ。なまむぎなまごめなまたまっ……。へへっ、噛んじゃったー」
小石川「かわいいー!」
愛理「うるせ!」
   愛理、プロ野球選手名鑑を閉じ、寝転
   んだまま小石川からタブレットを奪う。
小石川「あ、先輩!」
   愛理、動画を停止する。
愛理「あーイライラするイライラする。この甲高い声にイライラする。なに?私、生理なワケ?」
小石川「生理なんすか?」
愛理「うっさい。セクハラ。時代考えて」
小石川「言ったのはそっちっす。逆セクハラ!」
   愛理、停止した画面を見て、
愛理「こんなぶりっこ女のどこがいいワケ?」
小石川「(みるる口調で)すべてですよぉ」
愛理「うわぁ。喋り方まで毒されている」
小石川「みるるは優しくていい子なんですよ。特に毎週しているお悩み相談コーナーなんか慈愛に満ち溢れてて……」
   小石川、タブレットを愛理から奪おうとする。かわす愛理。
小石川「この間なんて、俺の人生相談に回答してくれて」
愛理「小石川の悩みってなに?ソシャゲガチャが当たらないとか?」
小石川「俺の人生なんだと思ってるんですか。まあエスエスレアが出ないのは悩みです」
   小石川、部屋の隅からダンボールを持ってくる。
小石川「人生に困ったらこれを見なさいって」
   スマホの着信音(プロ野球応援歌)。
   愛理、ポケットからスマホを取り出し、
   寝転んだまま電話に出る。

○スーパー(夕)
   スーツ姿でカゴを持っている可愛成夫(48)。少し太った体で汗が額に滲む。
   スマホを耳に当てている可愛。
可愛「おー愛理。今日、直帰できるから俺がメシ作るぞ。ハンバーグか?やっぱりハンバーグがいいのか?わっ」
   切れる電話。
   首をかしげる可愛。
   可愛、卵を選びながら、
可愛「(小声で)なまむぎなまごめなまたまっ……。あー言えねー」

○小石川家・涼介の部屋(夕)
   電話を切る愛理。
愛理「帰るわ小石川」
小石川「えー。一緒に見たい映画あったのに」
愛理「アメコミならいいよ」
小石川「いや、もっとハートフルなやつを」
愛理「彼女つくって見れば?」
小石川「いやー三次元の女は無理っす」
   愛理、タブレットを小石川に渡す。
愛理「んじゃ」
   愛理、スマホをポケットに入れる。
   プロ野球選手名鑑を持って出ていく。
小石川「一緒に見ようと思ったのになー」
   小石川、ダンボールを開く。『男はつらいよ』シリーズのDVDが並んでいる。
小石川「今夜はこれにしよ」
   小石川、DVDを一本取り出す。

○野球グラウンド前の道(夜)
   プロ野球選手名鑑を持って歩く愛理。
野球少年の声「ナイスピー!」
   立ち止まり、グラウンドを見る愛理。
   グラウンドには野球を練習する少年達。
   ため息をつき、歩き出す愛理。

○マンション・可愛家・リビング(夜)
   リビングの隅には仏壇がある。食卓の上にリモコンとティッシュと夕食。
   ハンバーグを食べている可愛と愛理。
   ワイシャツ姿の可愛、黒スエットを着ている愛理。
可愛「あれか?今日も彼氏のところか?お付き合いは順調か?」
   愛理、うんざりした顔で、
愛理「彼氏じゃないから。アイツはなんて言うの?ほら、舎弟みたいな」
   可愛、驚いて、
可愛「舎弟?女の子がそんな言葉……」
   愛理、ため息をついて、
愛理「お母さんみたいなことすぐ言うよね」
   仏壇にある可愛真美子(40)の写真。
   真美子、しとやかな美女。
可愛「いや、そういうつもりじゃないんだ。愛理は愛理らしくいてくれたら……」
愛理「あっそ」
可愛「……」
   可愛、気まずそうにテーブルにあるテレビのリモコンを押す。
   テレビにニュース番組が映る。
   スタジオ内にいる女性アナウンサー(26)の笑顔。
女性アナウンサー「さあ、今夜の『トレンドタイム』のコーナーでは、巷で話題の『美少女VTuber』の紹介です」
   箸でハンバーグをつかんだまま、テレビを凝視する可愛。
   テレビに興味なく食事をする愛理。
女性アナウンサー「ネットで人気を集める『美少女VTuber』達をまずはご紹介!」
   テレビに美少女VTuberの姿と名前が
   数秒ごとに表示されていく。
   愛理、テレビをちらっと見て、
愛理「こんなのなにがいいんだろ」
可愛「……」
女性アナウンサー「最近特に人気なのがこちらの美少女!」
   テレビに『みるる』の姿。
みるる「こにゃにゃちわ!みんなのアイドルみるるだよぉ」
   可愛、箸からハンバーグを床に落とす。
愛理「!」
みるる「今日も、私をいっつも応援してくれる『みるらー』のために頑張るね!」
   可愛、呆然とした顔で箸を床に落とす。
愛理「ちょっ、なにしてんの」
可愛「いや、なんでもない、片付けなきゃ」
   可愛、ティッシュを取って床に這う。
女性アナウンサーの声「この『みるる』ちゃん。美少女らしからぬ含蓄のある人生相談コーナーが人気で」
   愛理、リモコンでテレビを消す。
愛理「この『みるる』? すっごい嫌い。声が高くて甘ったるくて頭痛くなる」
   可愛、床を掃除しながら、
可愛「……そ、そうか? 可愛いじゃないか」
   愛理、鼻で笑って、
愛理「大体、中身が美少女じゃないから、VTuberなんかやってんでしょ?絶対オバサンかメタボのオジサンだよ」
   可愛、床を拭く手を止め、動揺して、
可愛「そ、そういうものなのか……?」
愛理「まあ、そうなんじゃない? 案外お父さんみたいな中年オヤジかもね」
   可愛、更に動揺して激しく床を拭く。
   × × ×
   可愛、DVDプレイヤーからDVDを取り出し、パッケージにしまう。
   パッケージは映画、『男はつらいよ』。
   可愛、壁時計を見る。
   時計は二時を指している。

○同・同・愛理の部屋(夜)
   ベッドで眠っている愛理、大きな鼾。

○同・同・可愛の部屋(夜)
   可愛、グリーンバックを背景にビデオカメラの前に立っている。
   可愛の全身にはモーションキャプチャー機器が取り付けられている。
   可愛、愛らしい身振り手振りで、
可愛「こにゃにゃちわ! みんなの輝く太陽『みるる』だよぉ。私に会えなくて寂しかった?」
   可愛の口と動きに合わせて、赤いノートパソコンの画面で『みるる』が動く。
可愛「いつも私の応援をしてくれる『みるらー』のみんな!ありがとね!先週オススメした『寅さん』シリーズ見てくれた?」
   笑顔の可愛。
可愛「人生で悩んだら、まず『寅さん』!」

○未来食品・営業部
   デスクに座っている可愛。可愛に向かって立っている三島祐輝(27)。
可愛「今期の契約、これじゃ全然ノルマ達成できないぞ! どんすんだ三島!」
   三島、不服そうに、
三島「でも、精一杯やってます」
   平岡公孝(30)と女性社員A(31)が遠巻きに可愛と三島を見ながら、
平岡「相変わらずキツいな。可愛部長」
女性社員A「三島君に容赦なしだね」
可愛「もっと気持ちを込めて、顧客にアピールするんだ」
三島「気持ちを込めるって言われても……」
可愛「愛情を込めて」
   可愛、胸に両手を当てて、
可愛「アピールするように」
   可愛、両手をゆっくりと前へ広げる。
可愛「ファンの皆さんありがとうって……」
三島「ファン?」
可愛「(慌てて)あっ、いや、なんでもない」
三島「?」
可愛「ほら、仕事戻れ戻れ!」
   首を傾げながら自席へ向かう三島。

○自由ヶ丘高校・外観

○同・中庭
   芝生のある中庭。
   私服姿の生徒たちが昼食を食べている。
   ジャージを着た愛理がスマホで動画を見ている。
   スマホ画面、白い覆面をした男が激しくヒップホップを踊っている。
   投稿者名は『Mr.M』。
愛理「うま……」
   隣でアイロンビーズを並べている小石川。
   朝倉圭介(17)が歩いてくる。男前。
   朝倉の隣には三浦芽衣(16)。美少女。
   朝倉と芽衣、腕を組んでいる。
愛理「!」
   愛理、動画を閉じて勢いよく立つ。
   小石川のビーズが地面に落ちる。
小石川「うわ!」
愛理「こんにちは!朝倉先輩!」
   笑顔の愛理。
朝倉「お、愛理じゃん。今日も小石川とつるんでるんだな」
芽衣「ラブラブだね!」
愛理「小石川はそんなんじゃないですよー」
   小石川、ビーズを拾いながら朝倉と芽衣に会釈。
芽衣「え?彼氏じゃないの?」
朝倉「あれだよな。愛理は小石川の親分」
芽衣「(笑いながら)なにそれー」
   苦笑いの愛理。
朝倉「入学したての小石川をカツアゲしてた連中、愛理がボコボコにしてやったんだよ」
   × × ×
   (フラッシュ)
   不良たちを殴る愛理。
   × × ×
芽衣「かっこいいー!」
朝倉「俺より男前だろ?芽衣も俺がカツアゲされてたら助けてくれる?」
芽衣「(笑いながら)私には無理無理!」
   苦笑いがぎこちなくなる愛理。
   小石川、不思議そうに愛理を見る。

○未来食品・男性トイレ・個室・中
   便座に座ってスマホを見ている可愛。
   スマホ画面には『みるる』のツイッターアカウント。
   『通知』ボタンをタップする可愛。
   ファンからのリプライが並んでいる。
   笑顔でスワイプさせていく可愛。
   可愛、手を止める。
   『寅さんDK@みるらー』からリプライ。
   『今日の配信も最高!今度はみるるのダンスが見たいな!K-popアイドルなんてどう?』
可愛「(小声で)けーぽっぷ……?」

○自由ヶ丘高校・中庭
   歩き去っていく朝倉と芽衣の後ろ姿。
   愛理、ため息をついてベンチに座る。
   ベンチの隣で小石川が忙しなくビーズを並べている。
   遠くなる芽衣の後ろ姿。
   愛理、芽衣の後ろ姿を見ながら、
愛理「(遠い目で)やっぱりああいう娘(こ)がいいんだろうなー」
小石川「よし。やっとここまで戻った……。ん?なんか言いました?」
   愛理、ジロリと小石川を睨む。
   小石川、怖がってビクッとする。
小石川「ああ、芽衣先輩っすか。可愛いですよねー。女の子って感じ」
愛理「男はみーんなああいうのが好き」
小石川「愛理先輩とはマジ大違い」
愛理「(小石川の声を遮るように)もう一度ビーズ拾わせてあげようか」
小石川「(慌てて)マジ勘弁してください」
愛理「てか、さっきから何してんの」
   小石川、ニヤついて、
小石川「ふふ。芽衣先輩も可愛いけどー、一番可愛いのはみるる!」
   小石川、並べたビーズを愛理に渡す。
   みるるに似ていなくもないアイロンビーズアート。
愛理「?」
小石川「わかりません?みるるっすよ!」
愛理「ビミョい……。てかなんなのコレ」
小石川「アイロンビーズって知りません?ビーズ並べて、上からアイロン当てたら固まって、モチーフができるんっすよ」
愛理「知らん」
小石川「子供の頃遊んだりしませんでした?女の子たちが大好きだったなー」
愛理「ふーん」
小石川「完成したら、みるるに渡したいなー」
愛理「渡すって……。会えるわけ?」
小石川「人生長いからいつかは会えるかも」
愛理「……」
   じっとビーズを見る愛理。
愛理「私こういうの遊びたがらない子供だったんだよね。女の子っぽい遊び」
小石川「小さい頃からガサツだったんすか?」
愛理「(怒って)は?」
   愛理、ビーズを小石川に突き返す。
   受け取る小石川。
愛理「でもさ、母親は私に女の子らしくさせたくてさ。『将来は娘を宝塚に入れる』とか親戚に言ってたわけ」
小石川「そりゃ期待に外れて成長しましたね」

○愛理のイメージ・可愛家・リビング
   花柄のワンピースを着て箒を持つ真美子、宝塚の娘役のように踊っている。
愛理の声「年中花柄の服着てさ。少女趣味もいいとこ」

○元の自由ヶ丘高校・中庭
愛理「バレエもピアノも私は嫌でさー。母親は嫌がったけど、地元の少年野球参加して毎日バット振ってたわけ。ま、やめたけど」
小石川「スポーツ少女がなぜヤンキーに」
愛理「喧嘩売るのが趣味なの?」
小石川「なんでやめたんすか?野球」
愛理「……そりゃ私、女だし。いつかはやめないと」
小石川「ソフトボールとかあるじゃないっすか。あと今は女子野球もあるし」
   愛理、目を伏せて、
愛理「……母親がさ。いや、お母さん、私が十歳のとき癌で死んだんだよね」
小石川「……」
   × × ×
   (フラッシュ)
   病床に伏している真美子。
   × × ×
愛理「死ぬ直前にさ、『愛理は私の可愛いお姫様。世界で一番可愛い女の子』とか言っててさ。笑えるでしょ」
小石川「……」
愛理「そしたら、なんか、その日から野球ができなくなった」
   遠くではしゃぐ、生徒達の声。
小石川「……すいません。変なこと聞いて」
愛理「いや、私もなんかごめん」
小石川「でもアレっすね。怖いですね」
愛理「?」
小石川「亡くなった人の言葉って」
愛理「……!」
   スマホの通知音。
   小石川、スマホを取り出して見る。
小石川「わっ! やったー!」
   笑顔の小石川。
愛理「?」
小石川「みるるからリプきたー!」
   小石川、愛理にスマホ画面を突き出す。
   画面にはツイッター。
   みるるが『今日の配信も最高!今度はみるるのダンスが見たいな!K-popアイドルなんてどう?』を引用リツイートし、
   『ダンスは苦手だけど、みるる、頑張って、みるみるみるるんね!』とコメントし
   ている。

○未来食品・男性トイレ
   可愛、イヤホンをしながらスマホで女性K-popアイドルの動画を見て踊っている。下手。
   トイレのドアが開き、三島が見える。
三島「!」
   固まる三島。
   気づかず踊り続けている可愛。
平岡の声「おい、三島早く入れよー」
   三島、ドアを閉める。
   ドアが少し開き、三島の片腕が入ってくる。
   三島の腕、照明のスイッチに辿り着く。
   三島、高速で照明の点滅を繰り返す。
可愛「!」
   可愛、イヤホンを外し、照明を見る。
   ドアが開き、三島と平岡が入ってくる。
   三島、可愛と目を合わせない。
   可愛、咳払いをして出ていく。
   平岡、不思議そうに可愛と三島を見る。
   三島と平岡、並んで用を足し始める。
平岡「おー部長だ。コワコワ」
三島「……」
平岡「お前さっき絞られてたろー。可哀想に」
三島「まあ、仕事ですし」
平岡「クールだな」
   用を足し終わる三島と平岡。
三島「最近思うんすよね」
   平岡、ズボンのチャックを上げながら、
平岡「なにが?」
三島「可愛部長ってかわいいなって」
平岡「え?」
   平岡、三島を見る。
平岡「うあっ! 痛っ、挟んだ!」
   平岡、苦痛の顔。
   慌てる三島。

○マンション・可愛家・可愛の部屋(夜)
   可愛、グリーンバックを背景に立ち、
   全身にモーションキャプチャー機器を付けて、動画収録をしている。
可愛「立てば芍薬座れば牡丹。歩く姿はまさに美少女!こにゃにゃちわ!みんなの大天使みるるだよ」
   元気一杯の可愛。
可愛「今日は、リクエストがあったダンスに挑戦!みるる、カッコよくK-pop踊れるかなぁ?では、ミュージックスタート!」
   赤いノートパコソンのキーを押す可愛。
   音楽が流れる。

○同・同・愛理の部屋(夜)
   ベッドで眠っている愛理、大きな鼾。
   ドアの外から少し響く音楽。

○同・同・可愛の部屋(夜)
   踊っている可愛。少し上達している。
   可愛、勢いよくターンする。
可愛「わっ!」
   可愛、滑り、グリーンバックを掴む。
   グリーンバックが破け、可愛、こける。
   グリーンバックのスタンドが倒れ、大きな金属音。

○同・同・愛理の部屋(夜)
   響く大きな金属音。
愛理「!」
   目覚める愛理。
   ドアの外から響き続ける音楽。
愛理「?」

○同・同・可愛の部屋(夜)
   可愛、腰をさすりながら床を這う。
可愛「いたた」
   可愛、這いながらパソコンに辿りつき、キーを押して、音楽を止める。
愛理の声「お父さん、なにしてんの?」
可愛「!」

○同・同・廊下・可愛の部屋の前(夜)
   ドア前に黒スエット姿の愛理。
愛理「なんか落とした?入るよー」

○同・同・可愛の部屋(夜)
   動くドアノブ。
可愛「(大声で)ダメだ!来るな!」
   可愛、ドアに向かって高速で這う。
   小さく開くドア。
   可愛、ドアに背を預け、ドアを閉じる。

○同・同・廊下・可愛の部屋の前(夜)
愛理「え、なに。開けてよ!」
   愛理、無理やりドアを開けようとする。
可愛の声「ダメだ!絶対にダメだ!」

○同・同・可愛の部屋(夜)
   必死でドアを押さえ付ける可愛。
愛理の声「(怒って)なんなの!」
可愛「アレだ!危険なんだ!」
愛理の声「なにが!」
可愛「す、すっごいデッカいゴキブリがいる」
愛理の声「マ、マジ?」
   ドアノブが上がる。
   可愛、ホッとした顔。

○同・同・廊下・可愛の部屋の前(夜)
   ドア前の愛理、スリッパを片足脱いで、
愛理「ゴキブリ叩くの手伝う!」
   ドアを開けようとする愛理。

○同・同・可愛の部屋(夜)
   ドアノブが下がる。
可愛「!」
   必死でドアを押さえつける可愛。
愛理の声「(更に怒って)なんなのもう!」
可愛「クモもいるんだ! 大きいやつ!」
愛理の声「なんでそんなにいるの!」
可愛「ご近所から逃げてきたのかもしれない!毒グモ……タランチュラかも?」
愛理の声「は?そんなん死ぬじゃん!いいから開けろ!」
   汗を流してドアを押さえつける可愛。
   可愛、ハッとした顔で、
可愛「(大声で)ヘビもいるぞ!」

○同・同・廊下・可愛の部屋の前(夜)
   ドア前の愛理、顔を歪ませて、
愛理「え、やだ、無理」
   愛理、ドアノブから手を離す。
可愛の声「アナコンダみたいにデカイぞ」
   愛理、頭を横に振って、
愛理「ムリムリ無理無理!」
可愛の声「わっ! ドアの前まで来てる!」
愛理「(慌てて)朝までに追い出して!」
   愛理、走っていく。

○同・同・可愛の部屋(夜)
   ドアに耳を立てる可愛。
   遠のいていく愛理の足音。
   可愛、ホッとため息をつく。
   可愛、ゆっくりと立ち上がる。
可愛「イタタ」
   可愛、腰に手を当てる。
   破れたグリーンバック。
   折れたグリーンバックのスタンド。
   可愛、困り顔で、
可愛「収録どうしよ……」

○レンタルスタジオ『Free』・前(夜)
   スーツ姿の可愛、大きな鞄を持ち、周
   囲を見回しながら入っていく。

○同・スタジオA(夜)
   ソファーとビデオカメラがある。
   山崎ほのか(24)、ソファーに座って動画の収録中。
ほのか「ほのかに燃える熱い炎!ほのかの情熱チャンネル!」

○同・受付(夜)
   小石川、受付に立ったまま居眠り中。
   可愛が入ってきて受付前に立つ。
可愛「……すみません」
   小石川、起きる。
小石川「!い、いらっしゃいませ」
可愛「あのぉ、こちらのレンタルスタジオでは、グリーンバックの貸出しがあるとネットで見て……」
小石川「ああ、VTuber様専用スタジオですね」
可愛「は、はい。そちらでお願いします」

○同・スタジオA(夜)
   収録中のほのか。
ほのか「今回のチャレンジはコレ!」
   ほのか、ソファーの横に隠していた爬虫類ケースを持ち上げて写す。
   ケースのなかにはヘビ。
ほのか「我が家にお迎えした、この『ヘビ太郎』くんと仲良くなろうと思います〜」
   ほのか、ケースの蓋を開ける。

○同・受付(夜)
   レジを打っている小石川。
   財布を開いている可愛。
小石川「はい、料金頂きました」
   小石川、受付の引出しから鍵を出して、
小石川「スタジオBです」
   小石川、鍵を可愛に差し出す。

○同・スタジオA(夜)
   収録中のほのか。
   スマホの着信音。
   ほのか、蓋が開きヘビが入ったままのケースをソファーに置く。
   ほのか、不機嫌に電話に出る。
ほのか「なんなん?今、仕事中なんやけど」
   廊下へのドア、ほんの少し開いている。
   ケースの中のヘビ。
ほのか「は?また金?なんでウチがアンタのパチ代支援しなあかんねん。女にたかるのも大概にせいな」
   ケース。ヘビがいない。

○同・スタジオB(夜)
   照明の消えた真っ暗な部屋。
   鍵が開く音。
   ドアが開き、鞄を持った可愛が見える。
   照明スイッチを押す可愛。
   照明が点く。
   グリーンバック、ディスプレイ、音響装置などの収録機材、デスクと二つの椅子が置かれている。
可愛「本格的……」
   入ってくる可愛。ドアが閉まっていく。
   ドアが閉まる寸前、ヘビが入ってくる。

○同・スタジオA(夜)
   電話中のほのか。
ほのか「だから金は振り込まん!何回言われてもおんなじや!こっちも仕事のネタにヘビ買(こ)うて金欠なんや!」
   ほのか、ケースを見る。
ほのか「!」

○同・受付(夜)
   小石川、受付に立ったまま居眠り中。
可愛の声「(絶叫)うわあああああああ!」
小石川「!」
   起きる小石川。

○同・廊下・スタジオB前(夜)
   小石川、勢いよくスタジオBのドアを開ける。

○同・スタジオB(夜)
   モーションキャプチャー機器を付けた可愛が腰を抜かしている。
   小石川、可愛に駆け寄り、しゃがむ。
小石川「大丈夫っすか?」
   可愛、目の前を指差して、
可愛「無理、ムリっ、無理」
小石川「?」
可愛「ヘビっ、ヘビー!」
   小石川、可愛が指差す方を見る。
   ヘビ。
小石川「うわっ」
   開いたままのドアからほのかが見える。
ほのか「すいませーん。ヘビ見ぃひんかった?」
   可愛と小石川、震えてヘビを指差す。
   ほのか、ヘビを見て、
ほのか「もー。そんなとこおったん」
   ほのか入ってきて、ヘビを掴み上げる。
可愛・小石川「すごっ」
ほのか「迷惑かけてホンマごめんなさーい」
   ほのか出ていく。
   ホッと息を吐く可愛と小石川。
小石川「お体大丈夫っすか?」
可愛「ああ、大丈夫、大丈夫」
   立ち上がった小石川、デスク上の赤いノートパソコンに目をとめる。
   画面には、腰を抜かしている『みるる』。
小石川「……みるる?」
可愛「え?」
   小石川、驚いた顔で可愛を見る。
可愛「やっば……」
   × × ×
   可愛と小石川、椅子に座って缶コーヒーを飲んでいる。
   可愛、モーションキャプチャー機器を外している。
可愛「いやー、ガッカリさせてごめんな」
小石川「いや、全然」
可愛「えっ。でも君、俺の……いや、みるるのファンなんだろ?こんなオッさん……」
小石川「俺は、みるるが好きなだけだから中の人はどんな感じでも大丈夫で。てか早く会えて嬉しいっす」
可愛「?」
小石川「ここってYouTuberとかVTuberの人がよく利用してるじゃないっすか。いつかみるるに会えないかなって期待してて」
可愛「ほー。そんな目的で……」
小石川「高校も近いしちょうどいいかなって」
可愛「まだ高校生なんだ」
   小石川、ニヤッと笑ってポケットから
   スマホを取り出す。
小石川「ダンスの動画はいつ頃っすか?」
可愛「?」
   小石川、可愛にスマホ画面を見せる。
   画面には『寅さんDK@みるらー』の
   ツイッタープロフィール。
   可愛、小石川とスマホを交互に見て、
   目をパチクリさせる。

○マンション・可愛家・愛理の部屋(夜)
   愛理、暗い顔でクローゼットを開ける。
   クローゼットの隅にホコリを被った野球道具がある。
   野球道具を見つめる愛理。
   愛理、クローゼットを勢いよく閉める。

○道(夜)
   並んで歩く可愛と小石川。
可愛「やっぱり一番のマドンナは浅丘ルリ子かなぁ。吉永小百合もいいけど」
小石川「俺は田中裕子っすね。いしだあゆみもあり」
可愛「センスいいなー。はぁ。娘も見てくれないかな。『寅さん』」
小石川「娘さんいらっしゃるんすか」
可愛「うん。君と同じ高校生」
小石川「やっぱり秘密っすか?『みるる』」
可愛「まあね。バレたらなんて思われるか」
小石川「……なんで始めたんすか?」
可愛「妻がよく娘に言っててね。『優しく愛らしい女の子になれば、誰からも愛されるのよって』」
小石川「?」
可愛「病気で妻を亡くしてから、どんどん娘とうまく話せなくなって。役職持ちになると会社の連中も俺を敬遠していくし」
   可愛、ぼんやりと空を見上げる。
可愛「妻の写真を見てふと思ったんだぁ。女の子になったら、誰かに受け入れられるのかなって」
小石川「それでVTuberに」
可愛「うん。『女の子 なりたい』でググったらVTuberの動画が出てきて」
   可愛と小石川、笑う。
小石川「どうでした?なってみて」
可愛「サイコーだね。みんな俺の話を聞いてくれるし、俺のすることを喜んでくれるし」
小石川「チヤホヤもしてくれるし?」
   可愛、笑う。
可愛「みるるを演じているときは、自分のことが嫌いじゃないんだ。女の子っていいな」
小石川「現実の女の子たちはなんか大変そうっすけどねー」
可愛「……確かに娘もそうだな。あんまり話してくれないけど。いや、俺がなにを話しかけたらいいか分からなくて……」
   可愛、歩みを止める。
   小石川、歩みを止める。
可愛「俺、なにやってんだろうな」
小石川「……」
可愛「初めて会った君やネットの人たちにはたくさん話すことができるのに、話すべき相手にはなにも言えない」
   可愛、ため息をついて、
可愛「みるるの実態はこんな情けないオッサンなんだよ。失望させてゴメンな」
小石川「けど、俺はみるるに救われましたよ」
可愛「!」
小石川「みるる……アナタが頑張って動画を投稿して、色んなことに挑戦したり、みんなからの悩み相談にのるのを見てると、凄く元気が出てきて」
   微笑む小石川。
小石川「寅さんに出会えたのも、みるるのお陰っす!」
   小石川、ポケットからアイロンビーズ
   アート取り出し、可愛に見せる。
可愛「?」
   みるるを模したビーズモチーフ。
小石川「コレ、みるるです。下手だけど」
   小石川、モチーフを可愛に手渡す。
   じっとモチーフを見つめる可愛。
小石川「みるるが素敵なのは、可愛い女の子だからじゃなくって……みるるが、みるるを演じるアナタが素敵だからっすよ」
   可愛、微笑んで小石川を見て、
可愛「ありがとう」
   歩きだす可愛と小石川。
小石川「ウチのスタジオ使うなら今度生配信してみてくださいよ。設備ばっちし」
可愛「……やり方教えてくれる?」
小石川「もちろんっす!」

○マンション・可愛家・可愛の部屋(朝)
   ベッドで眠っている可愛、穏やかな顔。

○同・同・玄関・中(朝)
   靴を履いている愛理。
   愛理、鍵置き場から鍵を取る。
愛理「!」
   鍵置き場の鍵の一つに、みるるを模したビーズモチーフがキーホルダーで繋がっている。
   × × ×
   (フラッシュ)
   ビーズを並べる小石川。
小石川の声「みるるに渡したいなー」
   × × ×
   怪訝な顔の愛理。

○未来食品・男性トイレ
   可愛、汗をかきながらターンの練習中。
   トイレのドアが開き、三島が見える。
三島「!」
   固まる三島。
可愛「!」
   固まる可愛。
   三島、ドアを閉め入ってくる。
   三島、可愛をじっと見つめ、
三島「ギリギリまで、顔を正面において」
   三島、華麗にターンを決める。
三島「体の軸を上に持ち上げる。コレがターンのコツです」
可愛「?」
三島「ホラ、やってみて」
   可愛、戸惑いながらターン。フラつく。
三島「もっとインナーマッスルを引き上げて」
   可愛、ターン。
三島「ちがう!」
   可愛、ターン。

○自由ヶ丘高校・中庭
   生徒たちが昼食を食べている。
   愛理、ベンチで牛乳を飲んでいる。
   愛理の隣の小石川、編み物中。
   愛理、小石川を見て、
愛理「またなんか作ってんの?」
小石川「みるるをイメージしたマフラーっす」
愛理「……この間のアレは?」
小石川「アレ? ああ、ビーズの奴っすか。完成しましたよー」
   生徒たちがはしゃぐ声。
愛理「……いつか渡せるといいね。みるるに」
小石川「お、珍しく優しいっすね」
   小石川、ニヤリと笑って、
小石川「……願いって叶うもんすねー」
愛理「え……どういうこと?」
小石川「ふふ。ノーコメントっす」
   愛理、驚愕の顔。

○マンション・可愛家・可愛の部屋(夕)
   夕陽が差し込んでいる部屋。
   開いたクローゼットの中に、グリーンバックとスタンド。ビデオカメラ。
   呆然とクローゼットを見ている愛理。
   × × ×
   赤いノートパソコンを開いている愛理。
   画面には編集中の『みるる』の動画。
   驚いている愛理の顔。

○同・同・リビング(夜)
   夕食の唐揚げが並んだ食卓。
   愛理、食卓の椅子に座りスマホで『みるる』の動画を見ている。
   困惑している愛理の顔。

○同・同・玄関(夜)
   スーツ姿の可愛が帰宅する。

○同・同・リビング(夜)
可愛の声「ただいまー」
   愛理、急いで動画を閉じる。
   × × ×
   夕食を囲む可愛と愛理。ワイシャツ姿の可愛と黒スエットを着ている愛理。
可愛「唐揚げ上手だな。母さん譲り」
愛理「(不機嫌に)売ってる唐揚げ粉使ってるだけだから」
可愛「……」
愛理「……」
可愛「(気まずそうに)メシ、そんな頑張って作らなくてもいいんだぞ?」
愛理「マズイってこと?」
可愛「そんな訳ないだろ。高校生だしやりたいこと色々あるかなって」
愛理「別にないからいいよ」
可愛「ほら、部活に入るのはどうだ?」
愛理「高二から入ってどうすんの」
可愛「……俺の部下がさ、女子のソフトボールチームやってて、高校生でも大歓迎らしくて……」
   愛理、箸を置いて、
愛理「(大声で)もうやんないって言ったでしょ!ソフトボールも野球も」
可愛「……」
   可愛、箸を止めて、
可愛「まぁ、また気が向いたときに始めたらいいさ。愛理は愛理らしく、自分の好きに」
愛理「私らしく?私らしくってなに。一体」
可愛「?」
愛理「しょっちゅう『愛理は愛理らしく』って繰り返してるけどさ、お父さんはその言葉の意味分かって言ってんの?」
可愛「……そりゃ、自分自身がやりたいことを」
愛理「自分の好きに振舞っても、みんなが認めてくれるとは限らないじゃん」
   愛理の顔、苦しくなっていく。
可愛「みんなは無理でも理解してくれる人は現れるよ」
愛理「じゃあ、お父さんは自分らしく生きてるの?本当の自分を晒け出してる?怖いことはない?」
   戸惑った顔の可愛。
可愛「……一体どうしたんだよ」
愛理「……ゴメン。ご馳走さま」
   愛理、出ていく。
   困惑した顔の可愛。

○レンタルスタジオ『Free』・スタジオB(夜)
   可愛、モーションキャプチャー機器を付けて立っている。ワイシャツ姿の可
   愛、沈んだ顔。
   赤いノートパソコンの前に小石川。
小石川「なんか元気ないっすねー」
可愛「(苦笑いで)ははは。歳かな」
小石川「初生配信っすよ! 元気出して!」
   可愛、グリーンバック前に立つ。
小石川「三、二、一!」
   小石川、キーボードを叩く。

○マンション・可愛家・愛理の部屋(夜)
   ベッドに座ってスマホを見ている愛理。
   愛理、苦しげな顔。
   スマホ画面には『みるる』の生配信。
みるる「こにゃにゃちわ! みんなの心のオアシス、みるるだよ。初生配信に挑戦!」
   『初生配信ワクテカ』『待ってました!』などの喜びのコメントが流れる。

○レンタルスタジオ『Free』・スタジオB(夜)
   可愛、生配信中。
可愛「(元気に)みんなのリクエストに応えてダンスに挑戦するよ!私のダンスでみんなに元気をあげたいな。ミュージックスタート!」
   小石川、キーボードを叩く。
   音楽が鳴る。
   踊り始める可愛。だいぶ上達している。

○マンション・可愛家・愛理の部屋(夜)
   スマホを見ている愛理、驚く。
愛理「マジか……」
   スマホ画面には踊る『みるる』。

○レンタルスタジオ『Free』・スタジオB(夜)
   踊っている可愛。
   小石川、可愛に親指を立てる。
   可愛、曲の最後に華麗なターン。
   可愛、笑顔でバンザイをする。
   ケーブルがブチっと切れる音。
可愛「?」
小石川「あっ!」

○マンション・可愛家・愛理の部屋(夜)
   スマホを見ている愛理、目を見開く。
愛理「……嘘でしょ?」
   スマホ画面のみるる、首から上が可愛
   の顔。

○レンタルスタジオ『Free』・スタジオB(夜)
   バンザイのまま固まっている可愛。
   可愛のモーションキャプチャー機器の首と背中の間のケーブルが切れている。
小石川「(大声で)やばいっす! 顔、顔!」
可愛「え?」
   可愛、首の後ろに手を当ててケーブル
   が切れていることに気づく。
可愛「うそだろ……」

○マンション・可愛家・愛理の部屋(夜)
   驚愕の顔でスマホを見ている愛理。
   スマホ画面、固まっている可愛の顔。
   コメントには『顔バレきたwww』『おっさん!きしょ』などの罵倒コメントが流れている。
   可愛、走って画面から出ていく。
   追いかける小石川が一瞬映る。
愛理「小石川⁉︎」

○道路(夜)
   走っている小石川。息切れして止まる。
   スマホの着信音。
   小石川、スマホに出る。

○マンション・可愛家・愛理の部屋(夜)
   スマホを耳に当てている愛理。
愛理「(慌てて)小石川!お父さんは?」

○道路(夜)
   スマホを耳に当てている小石川。
小石川「お父さん?……え?」

○未来食品・食堂
   昼食を食べている社員たち、ニヤニヤとスマホを見ている。
   同じ席の三島と平岡。
   平岡、ニヤニヤと笑いながら、
平岡「可愛部長、もう三日も病欠だろ?」
   三島、眉をひそめる。
平岡「ニュースにもなってヤバイよなぁ」
   平岡、三島にスマホの画面を見せる。
   画面にはネットニュース。『人気VTuber「みるる」!配信中に顔バレ』とタイトル。
   昼食中の社員たちのスマホ画面、顔バレした瞬間の『みるる』の画像。
三島「やめましょうよ」
平岡「なんだよ。つれねーな」

○ネットカフェ・外観(夜)

○ネットカフェ・個室・中(夜)
   フラット席の個室。
   無精髭を生やした可愛が、ワイシャツ姿で呆然と横になっている。
   可愛、ポケットからスマホを取り出して見る。
   愛理からの何十件もの不在着信。
   可愛、悲痛な顔でスマホを床に伏せる。
   スマホの通知音。
   可愛、スマホを見る。
   画面に『「みるる復活!生配信!」のライブが開始されます』の通知文。
可愛「俺のアカウントだぞ……なんで?」
   可愛、通知文をタップする。
   みるるの配信動画が表示される。
みるる「こにゃにゃちわ! みんなの美少女みるるだよ!お久しぶり!」
   『みるる復活キタ!』『おっさんwww』などの嘲笑したコメントが並ぶ。
可愛「?」
みるる「この間は、みんなをびっくりさせてゴメンね。ダンスでコケちゃって私本当にドジっ子。しかも、その後逃げ出して……」
   みるる、俯く。
   みるる、正面を向いて、
みるる「(大声で)おいコラクソ親父。逃げ出してんじゃねーよ!」
可愛「!」
   『キャラ変?』『一体なに?』などの不
   審がるコメントが流れる。

○レンタルスタジオ『Free』・スタジオB(夜)
   モーションキャプチャー機器を付けて、
   生配信をしている愛理。
   赤いノートパソコンの前に小石川。
   愛理、不安そうに小石川を見る。
   小石川、OKサインを出す。
愛理「ミュージックスタート!」
   音楽が鳴る。

○ネットカフェ・個室・中(夜)
   呆然とスマホを見ている可愛。
   みるる、踊っている。非常に下手。
   『なんか下手になってね?』『偽物』などの、疑問を持つコメントが流れる。
みるる「もういい。ストップ、ストップ」
   音楽が止む。
   みるる、胡座で座る。

○レンタルスタジオ『Free』・スタジオB(夜)
   胡座で座っている愛理。
愛理「見たか?バカ親父。私じゃダンスはできないし、人生相談にものれない。寅さんについてもなんも知らん」

○ネットカフェ・個室・中(夜)
   呆然とスマホを見ている可愛。
みるる「気づいてたよ。お父さんがみるるなの」
可愛「!」
   『娘ってこと?』『すげぇ』などの驚くコメントが流れる。
みるる「アンタ頑張ってたじゃん。みんなを喜ばして、励まして……。やりたいことやって、本当の自分でいたじゃん」

○レンタルスタジオ『Free』・スタジオB(夜)
   胡座で座っている愛理。
愛理「みるるの体と声を借りても、私じゃ、みるるになれない。他の人でも無理。お父さんしか無理なんだよ」
   愛理、カメラを見据えて、
愛理「目の前で見せてよ、本当のお父さん」

○ネットカフェ・個室・中(夜)
   涙目でスマホを見ている可愛。
   スマホ画面のみるる、正面を見て、
みるる・愛理の声「(大声で)私に見せろよ!」
可愛「!」
   可愛、急いで出ていく。

○道路(夜)
   可愛、走っている。
   可愛、転ぶ。
   可愛、起き上がり、走っていく。

○レンタルスタジオ『Free』・スタジオB(夜)
   胡座で座っている愛理、不安げな顔。
   小石川、心配そうに愛理へ手を振る。
   愛理、小石川に弱々しく微笑む。
   愛理、立ち上がる。
愛理「あー。本物のみるるが来るまで、場繋ぎします。偽者にしかできないことで」
   愛理、スタジオの隅からバットを取っ
   てきて素振りを始める。
愛理「いーち、にー」
   × × ×
   汗だくで素振りをする愛理。
愛理「四百六十二、四百六十三……」
   パソコンには素振りをする『みるる』の姿。
『意味わからん』『なんなの?』などの不審がったコメントが流れる。
   ドアが勢いよく開く音。
愛理・小石川「!」
   可愛、息を切らしてグリーンバックの前に入り、ビデオカメラを見据えて、
可愛「俺が本物のみるる。いや、みるるの中の人です」

○未来食品・営業部(夜)
   三島以外誰もいない。
   デスクに座ってスマホを見ている三島。
   三島、驚いた顔。
   スマホ画面には、『みるる』の生配信。
   汗だくの可愛が写っている。
可愛「デブで中年の、美少女でもなんでもないオッサンです」

○レンタルスタジオ『Free』・スタジオB(夜)
   カメラを見据えている可愛。
可愛「そんな自分が恥ずかしく、情けなくて、怖くて逃げ出してしまいました」
   微笑む可愛。
可愛「でも怖がることなんてなかったんです。みるると俺は一心同体で、分けることなんてできない存在で……。みるらーのみんな、スタジオのバイト君、会社の部下、俺の娘……。沢山の人たちが俺とみるるを見守ってくれてたんだ!」
   愛理、ホッとした顔でバットを降ろす。
   笑顔の小石川。
可愛「(大声で)俺こそがみるるだ!」
   数秒間の沈黙。
   パソコン画面、コメントが途絶える。
愛理「じゃあ、始めよ。本物のみるるの配信」
   可愛、愛理に向かって頷く。
   パソコン画面、『みるる復活!』『本物キタ!』『胸熱展開!』など、喜びのコメントが流れていく。
   × × ×
   モーションキャプチャー機器を付けた
   可愛が立っている。
   パソコン前、愛理と小石川がいる。
可愛「こにゃにゃちわ!みんなの元気の源、みるるだよ!ミュージックスタート!」
   音楽が鳴り始める。
   パソコン画面、みるるが踊っている。

○未来食品・営業部(朝)
   可愛、デスクでパソコンに向かっている。落ち着きがない。
   社員たちが遠巻きに可愛をジロジロと見ている。
   三島が笑顔で可愛のデスクに歩いてくる。
   可愛、驚いて、
可愛「お、おはよう、三島」
三島「ダンス、よかったですよ」
可愛「ほんとに?というか見てたのか……」
三島「ダンスも仕事も一緒ですよね」
可愛「?」
三島「愛情を込めて」
   三島、胸に両手を当てて、
三島「アピールするように」
   三島、両手をゆっくりと前へ広げる。
可愛「!」
三島「部長が休んでる間、契約取れましたよ。内容の確認お願いします」
可愛「(笑顔で)ああ!」

○公園野球場(夕)
   愛理、小石川、朝倉、芽衣と高校生数人が草野球をしている。
   笑顔でバットを構えている愛理。

○レンタルスタジオ『Free』・スタジオB
   収録をしている可愛。
   赤いノートパソコン前に小石川。
   小石川の後ろ、険しい顔の愛理がカンペを掲げている。
   カンペ、『もっとブリッコしろ!』と殴り書き。

○ダンススタジオ
   響くヒップホップミュージック。
   白い覆面をした男がビデオカメラの前で、激しく踊っている。
   華麗にターンを決めた男、カメラを停止させる。
   男、覆面を脱ぐ。
   満足そうな三島の顔が現れる。

○マンション・可愛家・リビング(夜)
   花柄のパジャマを着た愛理、『男はつらいよ』のDVDをプレイヤーに入れる。
   テレビ前のソファーに座る愛理。
   隣には可愛が座っている。
   可愛と愛理、リラックスした表情。
(おわり)

「私のパパは電脳美少女」(PDFファイル:640.15 KB)
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