美容師はモテたい 日常

深夜ドラマ風。美容師・黒尾慶一は、鏡に映る表情でお客の嘘がわかる。彼のもとへ、長髪をバッサリ切りたいという女性客がやってくる。
みやした 9 0 0 10/22
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第一稿

   人 物

黒尾慶一(29) 美容師(スタイリスト)
宮本瑞希(23) アパレルショップ店員
手島和輝(22) 美容師(アシスタント)

○Hair Salon  ...続きを読む
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   人 物

黒尾慶一(29) 美容師(スタイリスト)
宮本瑞希(23) アパレルショップ店員
手島和輝(22) 美容師(アシスタント)

○Hair Salon Crow・店内
他の従業員が働くなか、一人腕を組んで立っている黒尾慶一(29)。
全身黒できめ、髪はパーマをかけてワックスをつけている。
黒尾N「美容師とは接客業だ。いくら腕が上手くても、接客が下手では指名はもらえない」
手島和輝(22)、黒尾のもとへきて、
手島「アニキ、きました」
手島が目をやった先には、宮本瑞希(24)が座っている。
瑞希は茶髪ロングで、暖色のロングスカートを履いている。
黒尾「……かわいいか」
手島「かわいいっす。しかも背高くてモデルみたいっす」
黒尾「おし。しっかり見とけよ。俺のテクニック」
手島「はい!」
黒尾、瑞希のもとへ行く。
黒尾N「少ない会話からお客の好みをつきとめ、その人に最適な接客を心掛ける。そしてあわよくば、連絡先を」
黒尾「本日担当する黒尾です。よろしくお願いします(一礼)」
瑞希「よろしくお願いします」
瑞希は女性の中では低く、落ち着いた声をしている。
黒尾「どんな髪型にされますか」
瑞希、スマホを差し出す。
瑞希「こんな感じで…」
ベリーショートのモデルの顔写真が映っている。
黒尾「結構短いですね」
瑞希「えぇ、まぁ」
黒尾、スマホと瑞希の顔を交互に見て、
黒尾「ちょっと、ロングからこれだと、切り過ぎかなって気も……」
瑞希「あー……」
黒尾「後ろを少し残したほうが、かわいさが出て良いと思うんですが、いかがでしょう」
瑞希「あ、はい、じゃあそれで」
黒尾、鏡に映った瑞希の表情を見る。
黒尾「あれですかね、春だから心機一転みたいな感じですか」
瑞希「あー、まぁ、長いと面倒だなと思って」
黒尾、再び瑞希を見つめる。
黒尾「わかりました。では、シャンプーの準備をしますので、お待ちください」
   ☓   ☓   ☓
黒尾、手島のもとへやってきて、
黒尾「あの子、嘘ついてる」
手島「また見抜いたんですか」
黒尾「ショートにしたいって言うから理由を聞いたら、適当にごまかされたが、何かわけがある顔だった」
手島「……失恋とか?」
黒尾と手島、目を見合わせる。
黒尾「まさか、おま、そんな安直なわけないだろう」
手島「いやいや、女子が髪をバッサリ切るって、失恋しかないっすよ!」
黒尾「と、とりあえず、俺が探りを入れるから、お前はシャンプー、いつも通りな」
手島「うす」
   ☓   ☓   ☓
瑞希は白いケープを羽織り座っている。
瑞希の髪は濡れている。
黒尾は瑞希の後ろに立ち、
黒尾「それでは、切っていきますねー」
手島「はい」
黒尾は瑞希の長髪を、肩の高さで切っていく。
黒尾N「俺は嘘がわかる。モテたい一心で接客を続けていたら、鏡に映る表情で、相手の嘘を見抜けるようになってしまった」
黒尾「うちの店、初めてですよねー」
手島「あ、はい。前の店が潰れちゃって……」
黒尾、鏡に映った瑞希を見る。
黒尾N「これも嘘だ。初対面では、本当のことを話さない客も多い。まずは、無難な話題から」
黒尾「お仕事は、何されてるんですか」
瑞希「アパレルの店員です」
黒尾N「これはホントだ」
黒尾「アパレルですか。どうりで、おしゃれな服だと思いました」
瑞希「あぁ、とんでもないです」
黒尾「背も高いから、モデルさんかと思いましたよ」
瑞希「いやいや、無駄にがたいがよくて、困ってます」
黒尾N「よし。次は、プライベートな話題へ」
黒尾「今日は、何か予定あるんですか」
瑞希「あー、実は岩手の実家に帰るんです」
黒尾N「これもホントだ」
黒尾「岩手ですか。何か用があるんですか」
瑞希「なんていうか、父が危篤で…」
黒尾「えっ、大丈夫ですか?」
瑞希「元々持病があったんですけど、急に悪くなって、母に呼び出されて」
黒尾「すみません、なんか、デリカシーなくて」
瑞希「いえいえ、こちらこそ、すみません」
黒尾N「しくったー、重い雰囲気になってしまった」
黒尾「とりあえず、バッサリ切りました」
瑞希「あ、はい」
瑞希の髪は肩の高さまで短くなった。
黒尾はカットを続ける。
黒尾「実家かー。俺は長らく帰ってないっすねー。親は何してるんだろ」
瑞希「連絡とってないんですか?」
黒尾「そうっすねー。親は俺のこと期待してないし、俺も好き勝手生きてるって感じで」
瑞希「でもいいですね、それ」
黒尾「そうすか?」
瑞希「私の友達に、実家がお寺の人がいて」
黒尾「お寺!」
瑞希「その人は長男で、跡取りなんですけど、それが嫌で、家出してこっち来てて」
黒尾「あー。それは嫌ですよねー。跡取り」
瑞希「もう何年も帰ってないらしくて。だから、そういうしがらみなく生きてるのはいいなって」
黒尾、鏡に映った瑞希を見る。
瑞希、黒尾と鏡越しに目が合い、目を逸らす。
黒尾「そうですか」
   ☓   ☓   ☓
手島がドライヤーで瑞希の髪を乾かしている。
後ろで、黒尾は腕を組んで考え事をしている。
黒尾「……そういうことか」
手島、黒尾のもとへきて、
手島「ドライヤー終わりましたけど、アニキ、いきますか」
黒尾「いや、いい」
手島「まじすか、じゃ俺、いってもいいすか」
黒尾「いや、アイツはやめとけ」
手島「なんでですか」
黒尾「あいつは、男なんだよ」
手島「……はい?」
黒尾「いや、男だった、と言うべきか」
黒尾は瑞希のもとへ歩いていく。
手島は振り返り、驚いた顔で瑞希を見つめる。
黒尾「お待たせしました」
瑞希、軽く一礼する。
黒尾は瑞希の後頭部を見て、
黒尾「もう少し、カットしますね」
瑞希「あ、はい」
黒尾、後ろの髪を切っていく。
黒尾「さっきの、お寺の男の子? の話ですけど」
瑞希「はい」
黒尾「俺はクソ男なので、すぐ女に飽きるんですよ」
瑞希「はい?」
黒尾「でも急に別れようって言うと、向こうを傷つけるじゃないすか。だから徐々に、匂わしてくんです。お前のこともう好きじゃないって」
瑞希「はぁ」
黒尾「だからそのー、徐々に匂わせていけばいいんじゃないすかね、その人も」
瑞希「……」
黒尾「実家に帰って話はするけど、家を継ぐ気はないみたいな。てか、何年も帰ってないんですよね、その人」
瑞希「はい」
黒尾「だったら帰って、顔見せるだけで十分ですよ。絶対喜びますよ、親は」
瑞希「そうですかね」
黒尾「はい」
黒尾、カットを終えハサミをしまう。
バックミラーを開き、瑞希に後頭部を見せる。
黒尾「やっぱり後ろも短く切っておきました」
瑞希「……え?」
黒尾は鏡に映る瑞希を見て、
黒尾「かっこいいですよ、すごく」
瑞希「あ、ありがとうございます!」
黒尾「また、いらしてください。うち、エクステとかもできるんで」
瑞希「……はい!」
   ☓   ☓   ☓
黒尾、モップで床の髪を集めている。
黒尾N「美容師とは接客業だ。少ない会話からお客の好みをつきとめ、その人に最適な接客を心掛ける」
手島、机の上の雑誌を片付けながら、
手島「でもアニキ、自分からは絶対別れないって言ってませんでした? 前の彼女とも3年くらい付き合ってたって…」
黒尾、鏡に映った自分を見て、
黒尾「あほ。こっちが嘘をつく時だってあるんだよ」

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