#澤高にエアコンを 学園

自衛隊駐屯地に隣接する県立澤ヶ丘高校。授業中に窓も開けられず、夏の暑さに苦しむ生徒達は、エアコンを設置してくれない学校側に文句を言っていた。しかし、彼らの担任・榊原健(34)は「お前らは口だけだ」と、説教を始める。そしてその言葉が、少し違う角度で刺さっていき、生徒達を動かしていく。
マヤマ 山本 49 0 0 08/30
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第一稿

<登場人物>
榊原 健(34)高校教師
渡辺 桜子(17)高校生
ガルシア 翔(17)同
大野 杏璃(17)同
加藤 烈(17)同

服部 胡蝶(17)桜子の友人
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<登場人物>
榊原 健(34)高校教師
渡辺 桜子(17)高校生
ガルシア 翔(17)同
大野 杏璃(17)同
加藤 烈(17)同

服部 胡蝶(17)桜子の友人
首藤 一花(17)ガルシアの幼馴染
田口 海斗(17)加藤の旧友

渡辺 薫子(19)桜子の姉
有紗(17)桜子の友人
美和(17)同
古賀(18)ガルシアの先輩
平尾(17)加藤の友人
山中(17)同
国府田 スープ(23)コスプレイヤー
教師A
杏璃の父
杏璃の母



<本編>
○飛んでいるヘリコプター
   自衛隊のヘリコプター。

○澤ヶ丘高校・上空
   校舎のすぐ上を飛んでいく自衛隊のヘリコプター。その真下にある教室の窓が開いている。
榊原の声「あ~、うるさい!」

○同・教室
   ヘリコプターの騒音の中、授業をする榊原健(34)、化粧を直す渡辺桜子(17)、机に突っ伏して寝ていたが騒音で目を覚ますガルシア翔(17)、窓際の席で真面目に授業を聴く大野杏璃(17)、制服を着崩しひたすら団扇で仰ぐ加藤烈(17)ら。皆、汗をかき暑そう。
榊原「大野、窓閉めて!」
杏璃「……はい」
   窓を閉める杏璃。
榊原「よし、授業続けるぞ。(汗を拭いながら)つまり、これは……で、あるからして……あ~、暑い! 大野、窓開けて!」
杏璃「……はい」
   窓を開ける杏璃。射撃練習の音が聞こえてくる。
榊原「うるさい! 窓閉めて!」
杏璃「……はい」
   窓を閉める杏璃。
榊原「まったく……」
桜子「何なん、さっきから。開けたり閉めたり」
ガルシア「確かに」
榊原「仕方ないだろ。開けたらうるさいし、閉めたら暑いんだから」
加藤「先生、諦めなよ。この学校はさ……」

○同・外観
   自衛隊の駐屯地と隣接した高校。
加藤の声「自衛隊の隣なんだから」

○同・教室
   榊原の授業を受ける桜子、ガルシア、杏璃、加藤ら生徒達。
加藤「窓開けたら、授業になんないんだって」
桜子「テスト期間くらいだよ、おとなしくしてくれんの」
榊原「いや……思ってた以上だわ。お前ら、よく耐えられんな」
加藤「先生と違って、俺らは去年一年経験してるからな」
桜子「っていうか、耐えたくて耐えてんじゃないし。何回も『エアコンつけて』って言ってんのに、つけてくんないのはソッチじゃん」
ガルシア「確かに」
加藤「けど、職員室はエアコンあるんだろ? おかしくね? 学費払ってんのコッチなのに」
ガルシア「確かに」
桜子「ウチらにもエアコン寄越せよ」
加藤「そうだそうだ。(クラスメイトをあおるように)エ~ア~コン、エ~ア~コン」
   クラス中から「エアコン」コール。
榊原「……」
   黒板を拳で叩く榊原。静まり返る一同。
榊原「どうせお前ら、口だけなんだろ?」
桜子「は?」
榊原「ブーブー文句言って、それだけ。おしまい。何もしない。だから何も変わらない。違うか?」
生徒達「……」

○メインタイトル『#澤高にエアコンを』

○澤ヶ丘高校・外観
   「県立澤ヶ丘高等学校」という看板。
   チャイムの音。

○同・教室
   休み時間。思い思いに過ごす生徒達。
桜子の声「……そしたら、何かエスキモー(=榊原のあだ名)のスイッチが入っちゃったらしくてさ」

○同・廊下
   立ち話をする桜子、服部胡蝶(17)、有紗(17)、美和(17)。皆、スカートの丈は短く、顔には化粧。
桜子「授業が終わるまで、謎に説教。マジありえないし」
有紗「何それ、アタオカかよ」
美和「謎の『エアコン』コールの後、そんな事があったとはね」
桜子「え、聞こえてた? マジ草」
有紗「聞こえてたよ。『エアーコンディショナー』って」
美和「語呂悪っ。略せし」
胡蝶「で、説教って何言われたの?」
桜子「何か、色々。『お前らは口だけだ』とか」
胡蝶「ふ~ん。まぁ、それは……(視線の先に何かを見つけ)あっ」
   その場を離れる胡蝶ら女子生徒達。気付かず一人で喋り続ける桜子。
桜子「じゃあ、何? 自分達でエアコン買って設置工事して電気代払えって言う訳? そんな事アリエンティって思わん? (胡蝶らがいない事に気付き)あれ?」
教師A「わ~た~な~べ~」
   反対方向に振り返る桜子。そこに立つ教師A。
桜子「げっ」
教師A「お前、また化粧して学校来てるだろ」
桜子「いや、だからコレは……」
教師A「『化粧は校則で禁止だ』って何回言ったらわかるんだ、お前は」
桜子「……」
教師A「放課後、職員室に来るように」
桜子「え~」
   その場を立ち去る教師A。それを確認してから、桜子の元に戻ってくる胡蝶、有紗、美和。
胡蝶「桜子、ドンマイ」
有紗「そうそう、ドントマインド」
美和「だから略せし」
桜子「揃いも揃って、人の事売ったな。自分達だってメイクしてるくせに」
有紗「気づかない桜子が悪い」
美和「そうだそうだ」
桜子「この~。じゃあ説教されて帰ってくるまで、待っててよね。じゃないと、次は売り返してやるから」
胡蝶&有紗&美和「え~」
   笑う一同。

○同・外観(夕)
教師Aの声「わかったら、帰っていいぞ」

○同・職員室・前(夕)
   扉が開き、部屋から出てくる桜子。不機嫌な表情。
桜子「失礼しました」
   顔を上げる桜子。壁に貼られた掲示物を見て笑っている胡蝶、有紗、美和。
胡蝶「あ、桜子。お帰り~」
桜子「何がおかしいの?」
胡蝶「あぁ。コレコレ」
   胡蝶の指す先を見る桜子。そこには「生徒会長選 立候補者募集」と書かれた掲示物。
桜子「生徒会長?」
胡蝶「(有紗、美和を指し)『立候補してみたら~?』って」
有紗「『いや、胡蝶がしろよ』って」
美和「で、想像したらめっちゃ笑けてきてさ」
桜子「確かに。(笑いながら)スカート、膝丈にしちゃう?」
有紗「アリエンティ~」
美和「逆にオシャンティ~」
桜子「大草原不可避」
   笑う一同。
桜子「さて、じゃあ帰ろうっか」
胡蝶「今日、どこ行く?」
有紗「カラオーケストラっしょ」
美和「略せし」
桜子「いいね。行こ行こ」
   有紗、美和に続いて歩き出す桜子の肩を叩く胡蝶。
桜子「? 何?」
胡蝶「また何か言われたりした?」
桜子「え?」
胡蝶「だから、職員室で」
桜子「あぁ。……別に。いつもの事」
胡蝶「……そっか」
桜子「さぁ、歌うぞ~」

○マンション・外観(夜)

○同・渡辺家・リビング(夜)
   ソファーを占領するように寝転がる桜子。そこにやってくる渡辺薫子(19)。スーツ姿でメイクもしているが、チークが濃い目。
薫子「ただいま~」
桜子「(目もくれず)お帰り~」
薫子「ちょっと、桜子。座れないじゃん。端寄ってよ」
桜子「はいはい」
   ここで初めて薫子の顔を見る桜子。
桜子「……って、お姉ちゃん。何その顔」
薫子「え?」
桜子「いや、だから、そのメイクで会社行ったの? 何かの罰?」
薫子「……やっぱ、変?」
桜子「うん。チーク濃すぎじゃん」
薫子「だって、やり方よくわからないし。桜子と違って、学生時代にメイクしてなかったから」
桜子「……はいはい。どうせウチはお姉ちゃんとは違いますよ」
薫子「どうしたの? 何かあった?」
桜子「別に」
薫子「ふ~ん……真面目で優しいお姉さんが聞いてあげようか?」
桜子「うざっ」
   しばしの沈黙。
教師Aの声「お前は改める気はあるのか?」

○(回想)澤ヶ丘高校・職員室・中
   教師Aからの説教を受ける桜子。
教師A「何回言えばわかるんだ? ん?」
桜子「……さーせん」
教師A「反省文、書いてこいよ?」
桜子「はーい」
教師A「まったく……。姉ちゃんは真面目だったのにな」
   体がピクッと反応する桜子。
教師A「姉妹なのに何で、こうも違うんだか。不思議でしょうがないよ」
桜子「(小声で)……お姉ちゃんは今関係ねぇだろ」
教師A「ん? 何か言ったか?」
桜子「……別に」
薫子の声「なるほどねぇ……」

○マンション・渡辺家・リビング(夜)
   ソファーに並んで座る桜子と薫子。
薫子「優秀な姉を持つと、苦労するね」
桜子「『優秀』なんて一言も言ってねぇわ。調子乗んな」
薫子「……でも私は、今『学生時代に戻れる』ってなったら、メイクするかな」
桜子「え、何? グレんの?」
薫子「違うから。っていうか、桜子ってグレてんの?」
桜子「グレてねぇわ」
薫子「社会に出ると『女性はメイクするのがマナー』なんだって。でも私、一切やってこなかったから、おかげで下手くそで」
桜子「確かに」
   桜子を睨む薫子。話の続きを促す仕草を見せる桜子。
薫子「学生時代に、もっとメイクの勉強もしとけば良かったな、って。学生の内に失敗しとけば良かったな、って」
桜子「そっか」
薫子「むしろ社会で必要なら、学校側が教えてくれてもいいと思うんだけど。逆に校則で禁止とか、今思えばおかしいよね」
桜子「おかしい、か……」
有紗&美和の声「わかりみ~」

○澤ヶ丘高校・廊下
   並んで歩く桜子、胡蝶、有紗、美和。
美和「そうだよね、女子にとってメイクって、将来絶対必要だもんね」
有紗「今度先生に何か言われたら、『校則がおかしいんだ』って言ってやろうぜ」
桜子「いいね。そうすれば、ワンチャン校則変わんじゃね?」
   盛り上がる桜子、有紗、美和。
胡蝶「どうだろ? それで変わるなら、とっくに変わってんじゃない?」
桜子「え~? そう?」
胡蝶「結局、ウチらがここで騒いでたって、何も変わんないって」
桜子「けど、そうとも限らな……」
榊原の声「どうせお前ら、口だけなんだろ?」

○(回想)同・教室
   榊原の話を聞く桜子、ガルシア、杏璃、加藤ら生徒達。
榊原「ブーブー文句言って、それだけ。おしまい。何もしない」

○同・廊下
   並んで歩く桜子、胡蝶、有紗、美和。
榊原の声「だから何も変わらない。違うか?」
桜子「……そっか、口だけか」
胡蝶「?」
桜子「いや、何でも……あっ」
   視線の先に何かを見つける桜子。
榊原の声「いいか、お前ら」

○(回想)同・教室
   榊原の話を聞く桜子、ガルシア、杏璃、加藤ら生徒達。
榊原「エアコンを設置しない。それはこの学校のルールだ」
桜子「だから、そのルールがおかしいって言って……」
榊原「ルールがおかしいと思っているなら、何で動かない? 何でルールを作る側に回ろうとしない?」

○同・廊下
   並んで歩く桜子、胡蝶、有紗、美和。桜子の視線の先、壁に貼られた「生徒会長選 立候補者募集」と書かれた掲示物(職員室前にあったものと同じ)。
榊原の声「当事者はお前らだろ? だったら、お前らが自分で動け」
桜子「……ねぇ、みんな」
胡蝶「ん?」
桜子「もしウチが『生徒会長になる』って言ったら、どうする?」
胡蝶「え?」
美和「いや、その話もう昨日終わったから」
有紗「何なに、天ぷら丼?」
美和「?」
有紗「天丼って事。説明さすなし」
美和「いや、それ略なの?」
   爆笑する有紗、美和。
有紗「そんな事よりさ、今日加藤達と遊ぼうか、って話になってんだけど、行く?」
美和「いいじゃん。行く行く。ねぇ?」
桜子「……あぁ、うん。(無理矢理笑顔を浮かべ)行くに決まってんじゃん」
   その様子を見つめる胡蝶。
榊原の声「ルールが間違っていると思うなら、戦え」

○同・教室
   席に着く桜子。机の上には立候補の届け出用紙。「立候補者名」の欄に「渡辺桜子」、「役職」に「生徒会長」と記載されてあるが、「推薦人」の欄が空欄。
榊原の声「戦って、新しいルールを作れ」
   ため息をつく桜子。その背後からやってきて届け出用紙を手にする胡蝶。
桜子「!? え、胡蝶……?」
胡蝶「これでいい?」
   推薦人の欄に「服部胡蝶」と記入し、届け出用紙を桜子に返す胡蝶。
胡蝶「まぁ、桜子ならやれるでしょ」
桜子「胡蝶……ありがとう」
桜子の声「登校中の皆さん、おはようございます」

○同・校門
   「渡辺桜子」と書かれた襷をかけ選挙活動をする桜子。胡蝶、有紗、美和もチラシを配る等している。
桜子「この度、生徒会長に立候補しました、渡辺桜子です」
榊原の声「お前らは、黙って口開けてれば餌を貰えるひな鳥か? 違うだろ?」
   登校して来るガルシア、チラシを受け取る。チラシには公約として「メイク禁止の校則撤廃」「エアコンの導入」という記載。
桜子「清き一票を、よろしくお願いします!」
ガルシア「ふ~ん……渡辺がねぇ……」

○同・外観(朝)

○河川敷・歩道(朝)
   犬(=フィファ)の散歩をしながらジョギングをするガルシア。
一花の声「お~、フィファ~」

○同・運動場(朝)
   サッカーゴールがある運動場。ゴールポストにリードを括りつけられたフィファと戯れる首藤一花(17)と、サッカーボールを手にその様子を見ているガルシア。
一花「お前はあいかわらずかわいいな~」
ガルシア「……おい、一花。始めんぞ」
    ×     ×     ×
   かなり離れた位置に立つガルシアと一花。ボールを蹴り合う。ガルシアのトラップがやや乱れる。
一花「こら、翔。トラップ乱れてるぞ~」
ガルシア「うるせぇ。俺はキーパーなんだよ。これぐらいいいだろ?」
一花「今どきはキーパーだって、足元の技術要るんだよ」
ガルシア「じゃあ、マネージャーには?」
一花「う~ん……まぁ、無いよりはあった方がいいんじゃない?」
ガルシア「その心は?」
一花「こうやって、練習相手になれる」
ガルシア「確かに」
   その様子を見ているフィファ。

○ガルシア家・外観

○同・リビング
   ドックフードを皿に盛り、フィファの前に置くガルシア。食べようとするフィファを制する。
ガルシア「こら、フィファ。待て。待ぁて」
   待つフィファ。しばしの沈黙。
ガルシア「よし」
   ドックフードを食べ始めるフィファの頭を撫でるガルシア。
ガルシア「なぁ、フィファ。俺はいつまで待ってりゃいいと思う?」
   ガルシアを見るフィファ。首をかしげる。
ガルシア「まぁ、わかる訳ねぇよな」
   立ち上がるガルシア。
ガルシア「とりあえず、やれる事はやるさ」
古賀の声「みんな、わかってると思うが……」

○澤ヶ丘高校・外観
古賀の声「今日の試合に勝てなければ、1部昇格の望みは絶たれる」

○同・グラウンド
   ガルシア、古賀(18)らユニフォーム姿のサッカー部員達が円陣を組んでいる。古賀の腕にはキャプテンマーク。ガルシアはこの中で最も背が高く、GKのユニフォームを着ている。
古賀「必勝だ。絶対、1部に上がるぞ!」
一同「おう!」
古賀「澤高ファイ」
一同「オー!」
    ×     ×     ×
   キックオフ。
   試合の様子をベンチ前から見守る一花。
一花「行け~!」
    ×     ×     ×
   試合をするサッカー部。GKのポジションにつくガルシア。相手のシュートを何本も何本も止める。
ガルシア「OK!」
   DFの選手とハイタッチするガルシア。
    ×     ×     ×
   ゴールキック。大きく前線に蹴り出すガルシア。
ガルシア「今度はコッチの番だ!」
    ×     ×     ×
   古賀ら攻撃陣。相手DFに阻まれ、パス回しに終始する。やがて、シュートに至れないままボールを奪われる。
    ×     ×     ×
   相手のシュートをキャッチし、そのまま素早いスローイングで前線にボールを出す。
ガルシア「カウンター!」
    ×     ×     ×
   古賀ら攻撃陣。簡単なパスミスでチャンスを潰す。
    ×     ×     ×
   相手のコーナーキック。相手と競り合いながらセンタリングをキャッチするガルシア。前線に大きくパントキック。
ガルシア「そろそろ決めて来いよ!」
    ×     ×     ×
   完全にフリーの状態で放った古賀のシュート。枠外。天を仰ぐ古賀。
   その様子をゴール前で見ているガルシア。
ガルシア「くそっ……まだ時間が……」
   試合終了のホイッスル。
   ゴールポストを拳で叩く。
ガルシア「結局、コレかよ……」
   〇対〇である事を示すスコアボード。
古賀の声「みんな、お疲れ」

○同・部室
   壁に「目指せ 1部昇格!」「目指せ 県ベスト8!」の張り紙。
古賀の声「先輩達から託された『1部昇格』という夢が果たせなかったのは、残念だが……」
   古賀を中心にミーティングをするガルシア、一花らサッカー部員達。イライラしている様子のガルシア。
古賀「出来る事はやった。その上でのこの結果なら、受け入れよう」
ガルシア「(小声で)何をやったんだよ」
   ガルシアを目で制す一花。
古賀「今後は各々課題を修正し、『県大会ベスト8』に向けて切り替えていこう」
ガルシアの声「課題なんて明らかだろ」

○河川敷・歩道(夕)
   並んで歩くガルシアと一花。
ガルシア「今日も、先週も、先々週もスコアレスドロー。無失点の俺らに課題、あんのか?」
一花「無い」
ガルシア「だろ? じゃあ、俺らのチームの課題って、何だよ?」
一花「得点力」
ガルシア「だろ? サッカーって、点獲らなきゃ勝てねぇスポーツなんだよ。なのにいつまで待っても、獲ってくれる気配もありゃしねぇ」
一花「まぁ、特に今日の最後の場面は決めて欲しかったよね」
ガルシア「いや、そもそも、シュートにいく回数自体が少なすぎんだよ。撃たなきゃ入る訳ねぇんだよ」
一花「せめてセットプレーで点獲れればいいんだけど……ウチは高さも無いしね」
ガルシア「このままじゃ、3部降格まであるぞ? 先輩達のせいで、俺達の代が。どうすんだよ?」
一花「いっそ(自分を指し)秘密兵器、投入しちゃう?」
ガルシア「確かに。それもありかもな」
一花「ところで翔、いいの? こんなにのんびりと帰ってて」
ガルシア「? 何が?」
一花「いや、だから、翔が帰らないと、誰が私のかわいいフィファに餌あげる訳?」
ガルシア「勝手に自分のもんにすんな。それに、秘密兵器導入したから大丈夫」
一花「秘密兵器?」

○ガルシア家・リビング
   自動給餌器からドッグフードが出てくる。それに気づき、やってくるフィファ。食べ始める。その様子を見ているガルシア。
ガルシア「便利な機械だ事」
   フィファの頭を撫でるガルシア。
ガルシア「良かったな、フィファ。これからは俺がいない日でも、自動で餌もらえるからな」
   ガルシアの手が止まる。
ガルシア「餌……」
榊原の声「どうせお前ら、口だけなんだろ?」

○(回想)澤ヶ丘高校・教室
   榊原の話を聞く桜子、ガルシア、杏璃、加藤ら生徒達。
榊原「お前らは、黙って口開けてれば餌を貰えるひな鳥か? 違うだろ?」

○ガルシア家・リビング
   餌を食べるフィファの頭に手を置くガルシア。
榊原の声「自分の餌は自分で獲りに行け」
ガルシア「自分で獲りに……」
   立ち上がるガルシア。

○河川敷・歩道(朝)
ガルシアの声「あ~、くそっ!」

○河川敷・運動場(朝)
   ゴール前に倒れ込むガルシアとコーナーに立つ一花。ガルシアの脇に転がるボール。
ガルシア「上手くいかねぇな。やっぱ手と頭だと勝手が違うっていうか……」
一花「いきなり上手くいく訳ないでしょ? サッカー舐めんな。それに『勝手が違う』と思ったから、練習してるんでしょ?」
ガルシア「確かに」
一花「よし、じゃあ次」
ガルシア「おう、頼むわ」
   ボールを一花に放るガルシア。
    ×     ×     ×
   ベンチにリードを括りつけられたフィファ。二人の様子を見守っている。
一花の声「あ~、惜しい!」
ガルシアの声「だ~、くそっ。もう一本!」
榊原の声「そんな人任せの奴らに、誰も協力なんてしてくれない」

○澤ヶ丘高校・外観

○同・部室
   壁に張り紙を貼るガルシアと、それを見て驚く古賀。
榊原の声「まず『この生徒達にエアコン設備のある学校生活を送らせてあげたい』と思わせろ」
古賀「翔……お前、本気か?」
ガルシア「やるなら、これくらい行きましょうよ。今更ベスト8くらいで、俺らの評価がひっくり返らんでしょ?」
古賀「……まぁ、言うだけなら」
ガルシア「いや、口だけじゃないっスよ。俺ももう、人任せにしない、待ってるだけじゃない。自分で獲りに行くっス」
   ニヤリと笑うガルシア。
   壁には「目指せ 県ベスト8!」の張り紙の上から貼られた「目指せ 全国!」の張り紙。
榊原の声「自分達の価値を、外に示せ」

○同・グラウンド(夕)
   コーナーキックの練習をするサッカー部員達と、その様子を見守る一花。ガルシアは古賀らと共に攻撃陣に加わっている。
榊原の声「そのためのアシストだったら、俺はいくらでもしてやる」
ガルシア「来い!」
   ボールを蹴る選手。DFの選手達と競り合いながらヘディングするガルシア。しかしボールは相手GKの正面へ。
ガルシア「やばっ」
古賀「おい、翔。これでカウンター食らったら一発で失点なんだぞ?」
ガルシア「すんません」
一花「やっぱり、この作戦は止めた方が……」
ガルシア「いや、でも……」
古賀「俺は、やった方がいいと思う」
ガルシア「先輩……」
古賀「少なくとも、どうしても点が欲しい試合終盤に、こういう秘密兵器の選択肢は、あって損はしない」
ガルシア「確かに」
古賀「さぁ、続けるぞ」
ガルシア「よし、次は決めんぞ!」
榊原の声「もちろん、リスクはあるかもしれない」

○同・廊下(夕)
   窓からサッカー部の練習を見ている杏璃。
榊原の声「でも、恐れるな」
杏璃「青春してるな……」

○大野家・外観(夜)

○同・杏璃の部屋(夜)
   机に向かう杏璃。手に持った名刺を見つめる(ただし、この時点ではまだ何かわからない)。ため息。
   足音。それに気付き、慌てて名刺をしまう杏璃。
    ×     ×     ×
   ノックし、扉を開ける杏璃の母。何事もなかったかのように勉強する杏璃。
杏璃の母「杏璃、ご飯よ」
杏璃「はい、今行きます」

○同・リビング(夜)
   食卓を囲む杏璃、杏璃の父、杏璃の母。杏璃の服装は、やや首元が広めなクルーネック。
杏璃の父「杏璃」
杏璃「はい」
杏璃の父「その服は何だ?」
杏璃「この服、ですか?」
杏璃の父「胸元が開きすぎていないか?」
杏璃「そうですか? でもこれくらい……」
杏璃の母「こら、杏璃」
杏璃「……すみませんでした」
杏璃の父「まったく、はしたない。まさかとは思うが、スカート丈を短くなどしていないだろうな?」
杏璃「もちろんです」
杏璃の父「なら、いい。嫁入り前の娘が、人前でやたらと肌を見せるものじゃないからな」
杏璃「……はい」

○澤ヶ丘高校・外観

○同・廊下
   選挙活動をしている、丈の短いスカート姿の桜子を横目に歩く、膝が隠れるほどの長さのスカートを履く杏璃。
桜子「私が生徒会長となった暁には、『メイク禁止』の校則を廃止、そして……」
   杏璃のスマホに「国府田スープ」という人物から「決まった?」というメッセージが送られてくる。

○同・教室
   席に着く杏璃。「ご相談に乗ってもらえませんか?」という杏璃のメッセージにスープから「今日どう?」という返信が送られてくる。それを見て笑みを浮かべる杏璃。「是非」と返信する。
胡蝶の声「大野さん」
   驚き、顔を上げる杏璃。そこに立つ胡蝶、有紗、美和。
胡蝶「今日の放課後、桜子の演説があるんだけど、来てくれない?」
杏璃「演説? 私が?」
胡蝶「あ、そんな大した事じゃないよ。お客さんとして、居てくれればいいから」
美和「ほら、誰も聞いてない演説とか、映えないじゃん?」
有紗「だから、協力してくれない? 桜子のサクラ」
美和「もう。それ何回言うんだよ」
有紗「だって、面白いじゃん」
杏璃「ごめんなさい。私今日、予定あって」
有紗「何それ、そんな大事な用なの?」
美和「桜子のクラスメイトでしょ? 協力しようとか、そういうのない訳?」
杏璃「いや、でも……」
胡蝶「(たしなめるように)二人とも。予定があるなら、仕方ないじゃん。(杏璃に)ごめんね。また別の機会って事で」
   杏璃から離れていく胡蝶、有紗、美和。入口付近にいる加藤や平尾(17)、山中(17)らの元へ行く。男性陣は加藤同様、制服を着崩した格好。
有紗「何か、拒否られたんだけど」
加藤「はは。じゃあ、拒否られた記念」
   と言いながら、不貞腐れた有紗、美和をスマホで撮影する加藤。
胡蝶「ちょっ、撮んなし」
有紗「勝手にスマートフォン向けんなし」
美和「略せし」
平尾「それにしても、大野って謎だよな。何考えてんのか、全然わかんねぇ」
山中「それな。そうだ、烈さ、大野撮ってこいよ」
加藤「は? 大野を?」
   ゆっくりと杏璃にスマホを向ける加藤。
加藤「……と見せかけて」
   スマホのカメラをインカメラに切り替える加藤。自撮りの形で写真を撮る。
平尾「いや、コッチかよ」
   笑う一同。加藤の視線は、スマホの向こう側の杏璃に向けられたまま。

○スマホ画面
   自撮りした加藤、平尾、山中らの写真。
    ×     ×     ×
   校内で演説する桜子や胡蝶の写真。
    ×     ×     ×
   下校する平尾と山中の写真。
    ×     ×     ×
   ゲームセンターでリズムゲームをする平尾と、それを見て笑う山中の写真。

○ゲームセンター・中(夕)
   店内を歩く加藤、平尾、山中。アニメキャラのグッズが景品となっているUFOキャッチャーの前で足を止める加藤。
加藤「あっ……」
山中「なぁ、服部とはどうなんだ?」
平尾「どうもこうも無ぇよ。ありゃ脈ねぇな。そっちは? ってか、今誰狙いだっけ?」
山中「一花ちゃん」
平尾「誰だっけ、それ?」
山中「サッカー部のマネージャー」
平尾「あぁ。……でもソイツ、サッカー部のキーパーと付き合ってんじゃねぇの?」
山中「それな。一応『まだ』付き合ってはいないっぽいけど……で、烈は?」
加藤「……え?」
平尾「おいおい、聞いとけよ」
山中「そのUFOキャッチャーが、どうかしたか?」
加藤「あ、いや……このキャラ、何だっけ? 見覚えあるんだけど、何で観たか思い出せなくてさ」
平尾「あ~『顔は出てくるけど名前が思い出せねぇ』的なヤツね」
山中「それな。画像だとググりようがないし」
加藤「まぁ、いいや。行こうぜ」
田口の声「加藤君?」
   振り返る加藤、平尾、山中。そこにやってくる、他校の制服を着たオタク風の風貌の男、田口海斗(17)。
加藤「田口君……」
田口「やっぱりそうだ。久しぶり。一瞬、誰だかわからなかったよ」
平尾「何、知り合い?」
加藤「……別に。ただの同中」
   と言って、立ち去ろうとする加藤。
平尾「え、おい。いいのか? 久々の再会なんだろ?」
山中「それな。いつもならここで『記念に一枚』って言って……」
加藤「いらない。じゃあな、田口君」
   そのまま歩いていく加藤。顔を見合わせる平尾と山中。慌てて後を追う。
田口「……」
    ×     ×     ×
   格闘ゲームで対戦する加藤と山中。加藤の後ろに立つ平尾。加藤が負ける。
加藤「くっそ~、また負けかよ~(と言いつつも笑顔)」
平尾「はいはい、交代な」
   席を入れ替わる加藤と平尾。
加藤「いい加減、一回負かそうぜ」
山中「それな。そろそろ俺を負かしてくれよ」
平尾「煽るね~。やってやろうじゃねぇか」
   対戦する平尾と山中の様子を楽し気に見ている加藤。

○加藤家・外観(夜)
加藤の声「ただいま」

○同・加藤の部屋(夜)
   アニメ(UFOキャッチャーの景品にあった作品も含む)のグッズやポスターで溢れている室内。
   ベッドに寝転がる加藤。スマホで撮影した写真をスライドさせていく。
加藤「あーあ……」
   途中から写真も見ずにスライドだけさせ続ける加藤。
加藤「人生楽しむって、しんどいな」
   スマホの画面、中学時代の加藤と田口の写真が表示される。加藤の外見は田口同様、オタク風(メガネ着用)。
加藤「あっ……」

○(回想)同・同
   テレビでアニメ作品を視聴する中学時代の加藤と田口。

○(回想)ゲームセンター・中
   UFOキャッチャーでそのアニメ作品の景品を獲ろうと奮闘する加藤と田口。

○(回想)中学校・教室
   窓際の席に並んで座る加藤と田口。楽しげに話している。しかし、不意に周囲を見回すと、周囲の生徒達から嘲笑されていることに気付く加藤。
田口の声「いや、オタクなんて、辞めようと思って辞められるものでもないでしょ?」

○(回想)加藤家・前
   カメラ付きインターホンの前に立つ田口。
田口「そりゃあ、僕達はクラスで浮いてるかもしれないけど、そんなの気にしたって仕方ないじゃんか」

○(回想)同・リビング
   田口の姿が映されたモニターの前に立つ加藤。
田口「今までだって、ずっとそうしてきたでしょ?」
加藤「そうだよ。今だって別に気にしてない。どう見られててもいいし、俺だってクラスの人が何してようと気にしてないし」
田口「だったら……」
加藤「でも、思っちゃったんだよ。俺、楽してるだけかもな、って」
田口「楽? 何を?」
加藤「人間関係」
田口「人間関係?」
加藤「好かれも、嫌われもしないって、一番楽な人間関係だと思わない?」
    ×     ×     ×
   何も表示されていないモニター。
加藤の声「それでいいのかな、って。そんなんで将来、社会でやっていけるのかな、って」

○(回想)同・加藤の部屋
   姿見の前に立つ加藤。スマホで全身の写真を撮る。
加藤の声「だから俺、高校デビューする。少しくらい、人間関係の努力してみる」

○スマホ画面
   姿見の前で撮られた加藤の写真が何枚も連続で表示される。髪型や服装の崩し方等、徐々に現在の加藤に近づく。
加藤の声「パリピで、リア充で、陽キャな俺になる。自分に嘘をついてでも」

○加藤家・加藤の部屋(夜)
   ベッドに寝転がる加藤。スマホには現在の加藤の全身の画像。
加藤の声「だから田口君、ごめん……」
   スマホに通知音。
   ツイッターを開き(加藤のハンドルネームは「オムレツ」)リリアンというコスプレイヤー(実は杏璃)のツイートを見る加藤。内容は撮影会の告知で、先のアニメキャラのコスプレ写真付き。そのツイートに「いつか会ってみたいな」とコメントする加藤。
加藤「……これが、嘘つきな俺か」
   スマホの電源を切る加藤。

○澤ヶ丘高校・外観

○同・教室
   スマホでリリアンのツイートを見る加藤。オムレツのコメントに対する「私も撮影会でお会いできる日を楽しみにしてますね」というリリアンのリプライを見つめている。
加藤「お会いできる日、か……」
   そこにやってくる平尾と山中。
山中「よう、烈。行こうぜ」
加藤「おう」
   スマホをしまう加藤。

○同・廊下
   並んで歩く加藤、平尾、山中。
平尾「今日さ、また服部達とカラオケ行こうかって話になってんだけど、来るよな?」
加藤「何、お前の婚活に付き合えと?」
山中「それな」
平尾「婚活じゃねぇよ。で、どうすんだ?」
   反対側から歩いてくる杏璃。
加藤「あっ……」
   そのまま加藤達とすれ違っていく杏璃。
山中「俺はいいよ。烈は?」
加藤「俺は……」
榊原の声「もちろん、リスクはあるかもしれない」

○(回想)同・教室
   榊原の話を聞く桜子、ガルシア、杏璃、加藤ら生徒達。
榊原「でも、恐れるな。そもそも、考えが甘いんだよ。安全地帯なんて狭い所から出ずに話を進めようなんて」

○同・廊下
   並んで歩く加藤、平尾、山中。加藤達から遠ざかっていく杏璃。
榊原の声「狭いエリアじゃ行動なんてできない」
   立ち止まる加藤。
加藤「……悪い、今日はパス」
   と言って、杏璃を追って駆け出す加藤。
平尾「え? おい、どこ行くんだ?」
山中「忘れ物でもしたんじゃね?」

○同・階段
   階段を降りている杏璃。そこにやってくる加藤。
榊原の声「行動が伴わない言葉じゃ、相手に響かない」
加藤「あ、あのさ……」
杏璃「?」
   何かを伝える加藤。驚く杏璃。
榊原の声「思いは相手に響いて、初めて何かが生まれる」

○大野家・外観(夜)

○同・杏璃の部屋(夜)
   「井上 尊」と書かれた名刺を見つめる杏璃。
榊原の声「でもその『何か』が、一体どんなものかはわからない。そりゃあ、恐いよな」

○(回想)喫茶店・中
   席に座る杏璃。周囲を見回す。そこにやってくる国府田スープ(23)。
スープ「お待たせ」
杏璃「? ……え、スープさん!?」
スープ「そっか(自分を指し)この状態で会うの初めてだもんね。ガッカリした?」
   首を横に振る杏璃。

○(回想)同・前(夕)
   出てくる杏璃とスープ。
杏璃「すみません。ご相談に乗って頂いた上にご馳走になってしまって……」
スープ「気にしないで。その代わり、将来悩める子羊が現れたら、その子の相談に乗ってあげた上で、奢ってあげな」
杏璃「でも、私じゃ……」
スープ「悩んだ経験は、立派な財産だよ」
杏璃「……はい」

○大野家・杏璃の部屋(夜)
   名刺を見つめる杏璃。意を決し、席を立つ。
榊原の声「もしかしたらそれが、争いの火種になるかもしれない」
杏璃の父の声「バカな事を言うんじゃない!」

○同・リビング(夜)
   両親に名刺とスマホを見せる杏璃。スマホの画面はリリアンとしてのコスプレ画像だが、この時点ではまだわからない。
杏璃の父「お前、こんな……恥を知りなさい、恥を!」
杏璃の母「あなた、落ち着いて。杏璃、お父さんに謝って……」
   唇をかみしめる杏璃。
杏璃「(消え入るような声で)嫌だ」
榊原の声「でもそうなったら、その時は戦え、抗え。たとえ大人相手でも」

○(回想)澤ヶ丘高校・教室
   榊原の話を聞く桜子、ガルシア、杏璃、加藤ら生徒達。
榊原の声「大人達は自分なりの成功法則しか信じない」

○大野家・リビング(夜)
   両親の前に毅然と立つ杏璃。
榊原の声「言い負かされるかもしれない、一人じゃ勝てないかもしれない」
杏璃「嫌です!」
杏璃の母「杏璃……」
杏璃「ちゃんと勉強します。大学も行きます」
杏璃の父「ふざけるな! こんなバカな事!」
杏璃「バカな事じゃない! 仲間もいるし、応援してくれてる人だっているから!」

○(回想)澤ヶ丘高校・階段
   階段の下に立つ杏璃と、上に立つ加藤。
加藤「今度の撮影会、行くから」
杏璃「……え?」
加藤「あ、そうか。あの……(自分を指して)オムレツです」
杏璃「!?」
加藤「応援してるから。頑張って」
   その場を立ち去る加藤。その背中を見つめる杏璃。
榊原の声「だからこそ声を上げて、戦っていることを示せ」

○大野家・リビング(夜)
   両親の前に立つ杏璃。
榊原の声「そうすれば、きっと味方が現れる」
   ここで初めて、スマホの画面が映る。
杏璃「私、この事務所に入って、本格的にやってみたい……やりたいんです。コスプレイヤーを」
   頭を下げる杏璃。
杏璃「お願いします。認めて下さい!」
   顔を見合わせる杏璃の両親。
榊原の声「俺だって、その一人だ」

○(回想)澤ヶ丘高校・教室
   榊原の話を聞く桜子、ガルシア、杏璃、加藤ら生徒達。
榊原「しかるべきタイミングで、壁になってやるし、援護もしてやる」
   ニヤリと笑う榊原。
榊原「こんなクソ暑い教室で授業するなんて、ごめんだからな」
桜子「何だよ、それ」
加藤「結局、自分の為かよ~」
   笑う生徒達。チャイムが鳴る。
榊原「さぁ、時間だ。お前ら、どうする?」
   互いを見合う生徒達。

○同・外観

○同・体育館
   ステージ上で、全校生徒を前に挨拶する桜子。
桜子「この度、生徒会長に当選しました、渡辺桜子です」
   桜子の勇姿に目を細める榊原。
桜子「まず、公約の一つである『エアコン設置』を達成するため……」

○パソコン画面
   クラウドファンディングの画面。タイトルは「県立澤ヶ丘高校にエアコンを設置したい」、支援はまだ〇円。本文には「#澤高にエアコンを」の文字。
桜子の声「クラウドファンディングで支援を募る事となりました」

○澤ヶ丘高校・体育館
   挨拶する桜子。
桜子「そして、エアコン導入の実現には、皆さんの協力も必要です」
   ステージに上がる胡蝶、有紗、美和ら女子生徒達。手には巨大な紙。
桜子「こちら、拡散願います」
   巨大な紙を広げる胡蝶、有紗、美和ら。そこには「#澤高にエアコンを」の文字。

○イベント会場・外観
   続々と集まる人々。
加藤の声「あ~……」

○同・前
   カメラを手に、緊張した面持ちの加藤。
加藤「何か場違い感というか、俺だけ初心者感というか……(隣を見て)ごめんな、付き合わせちゃって」
   加藤の隣に立つ田口。やはり手にはカメラ。
田口「別に、僕は元々来る予定だったからね。じゃあ、そろそろ行こうか」
加藤「おう」

○同・中
   コスプレ姿の杏璃やスープを囲む、加藤、田口らカメラマン達。
田口「スープさん、コッチお願いします」
   加藤や田口側に目を向ける杏璃、スープ。加藤と目が合う杏璃。笑顔。
加藤「……」
   シャッターを切る加藤。

○スマホ画面
   ツイッターの画面。杏璃(リリアン)の撮影会でのコスプレ写真がいくつものアカウントからアップされる。その中にオムレツのものもあり「#澤高にエアコンを」のハッシュタグ付き。
   そのツイートにリツイートするリリアン。やはり「#澤高にエアコンを」のハッシュタグ付き。
   そのツイートをさらにスープや田口が、「#澤高にエアコンを」のハッシュタグを付けてリツイートする。「いいね」の数がどんどん増えていく。

○パソコン画面
   クラウドファンディングの画面。支援率は一〇%程度。

○喫茶店
   自撮りをする胡蝶、有紗、美和。
胡蝶「イェ~イ」

○スマホ画面
   インスタグラムに投稿された、自撮りした胡蝶、有紗、美和の写真。「#澤高にエアコンを」のハッシュタグ付き。

○ゲームセンター
   リズムゲームに挑む平尾。へたくそ。その様子をスマホで撮影する山中。
山中「(笑いながら)いいね、いいね」

○スマホ画面
   ティックトックに投稿された平尾のへたくそなリズムゲームの動画や、山中の格闘ゲームの神プレイ動画。いずれも「#澤高にエアコンを」のハッシュタグ付き。

○河川敷・運動場
   制服姿でリフティングをする一花。

○スマホ画面
   ユーチューブに投稿された、一花のリフティング動画。「#澤高にエアコンを」のハッシュタグ付き。再生数がどんどん増えていく。

○パソコン画面
   クラウドファンディングの画面。支援率は五〇%程度。

○サッカー場・外観

○同・グラウンド
   高校サッカーの試合中。得点は〇対〇、時間は後半アディショナルタイムを示すスコアボード。
   澤ヶ丘高校ボールのコーナーキック。ゴール前には古賀らだけでなく、ガルシアも上がっている。
   ボールを蹴るキッカー。古賀が囮の動きをする事でフリーになるガルシア。ヘディングシュートが見事に決まる。
ガルシア「しゃあ!」
   カメラに駆け寄ってユニフォームをめくるガルシア。インナーシャツに書かれた「#澤高にエアコンを」の文字。

○パソコン画面
   クラウドファンディングの画面。支援率は九〇%を超える。

○澤ヶ丘高校・外観
   桜が咲いている。
   「祝 全国大会出場 サッカー部」の垂れ幕。
榊原の声「みんな、卒業おめでとう」

○同・校門
   「卒業式」の看板の前に立つ杏璃と、その写真を撮る加藤。その脇では胡蝶らと泣き合う桜子や、後輩から胴上げされるガルシアの姿もある。
榊原の声「お前らは、俺の自慢だよ」

○同・教室
   正装で教壇に立つ榊原。室内に設置されたエアコンを見やる。
榊原「いや~、いい生徒を持ったもんだ」
                  (完)

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