<登場人物>
服部 朱雀(17)
服部 雲雀(9)
南 左文字(60)
八田 九朗(20)
弟子A、B
<本編>
○南道場・外観
「南道場」と書かれた看板。
尚、本編全体を通し、人々の服装や町並み等は江戸時代中期のような雰囲気。
○同・中
木刀を手に間合いを図る服部朱雀(17)と弟子A、審判役の弟子B。朱雀に右腕はなく、首飾りを除けば女性らしさも薄い。
壁際に座り、対峙する朱雀と弟子Aの様子を、固唾をのんで見守る服部雲雀(9)や他の弟子達。
弟子B「はじめ!」
朱雀と対峙していた弟子Aが床をける。
弟子Aの攻撃をあしらう朱雀。隙を見て、強烈な一撃を弟子Aにくらわせる。
弟子A「ぐっ」
木刀を落とし、うずくまる弟子A。その弟子Aに木刀を向ける朱雀。降参するように両手を上げる弟子A。
弟子A「……参った」
弟子B「勝負あり」
うなだれる弟子達と、喜び朱雀に駆け寄る雲雀。
雲雀「やった~、さすが姉上」
朱雀「まぁ、僕の強さはお墨付きだからな」
弟子A「頼む」
振り返る朱雀。土下座している弟子A、弟子B。
弟子A「看板だけは、看板だけは持って行かないでくれないか?」
弟子B「南先生の腕が戻ってきた暁には、再戦をお約束します。ですから……」
朱雀「だから、僕は道場破りではないと言っているだろう?」
弟子A「では、一体……?」
× × ×
向かい合う朱雀、雲雀と弟子A、B。
弟子B「赤い目の腕狩り、か……」
朱雀「何か知っているかと思って、話を聞きに来たんだ。君達のお師匠さん、腕の立つ人だったんだろう?」
弟子A「それはもう。南左文字といえば、その名を知らぬものはいない剣術家。其方も聞いた事はあろう?」
雲雀「ありますか?」
朱雀「いや、無い」
気まずい沈黙。
朱雀「で、その南先生とやらの腕を奪った男の目は、どうだ?」
弟子B「どうでしょう……。何分、夜討ちでしたので、先生も犯人の特徴を詳しく覚えてはおられなくて……」
弟子A「ただ、先生が覚えていなかったという事は『赤い目』のような特徴が無かった、とも言えるであろう」
朱雀「そうか。まぁ、仕方ない。邪魔したな」
その場を立ち去ろうとする朱雀と雲雀。
弟子A「待ってくれ」
再び土下座する弟子A、B。
弟子A「朱雀殿。恥を忍んでお頼み申す。先生の腕を奪い返していただけぬか?」
朱雀「それくらい、自分でやればいいだろう?」
弟子A「しかし、相手は夜討ちとはいえ、先生から腕を奪い、かつその腕を身に着けている男。我々ではなかなか……」
朱雀「断る。そこまでする義理は、僕にはない。行くぞ、雲雀」
出ていく朱雀。一礼し、朱雀を追っていく雲雀。
弟子A「朱雀殿~!」
○同・前
前を歩く朱雀に追いつく雲雀。
雲雀「姉上、よろしかったんですか?」
朱雀「よろしいも何も、言った通りだ。僕には彼らを助ける義理は無いし、彼らの師匠の腕より、まずは僕自身の腕だ」
雲雀「そうですか……」
朱雀達の前方からやってくる八田九朗(20)率いる集団。八田のみ三本腕。皆、いやらしい笑みを浮かべている。朱雀達とすれ違っていく八田達の集団。
朱雀「……」
立ち止まり、振り返る朱雀。
雲雀「? 姉上?」
朱雀の視線の先、南道場に入っていく八田達の集団。
八田の声「頼もう」
○同・中
乗り込んでくる八田達の集団に対峙する弟子達。
八田「この道場の看板を賭けて、俺と戦ってもらおうか」
弟子A「悪いが、今は先生が不在だ。出直してきてもらおうか」
八田「迷っているなら、導いてやる。(三本目の腕を指し)コイツは、誰の腕だと思う?」
弟子B「その腕、まさか……」
弟子A「間違いない、先生の腕だ」
弟子B「この……先生の敵!」
木刀を持って駆け出す弟子B。
弟子A「おい、待て!」
八田「ふん」
刀を抜く八田。弟子Bの剣撃を受け止めた後、弟子Bの右腕を斬る八田
弟子B「ぎゃあああっ!?」
八田「さぁ、次は誰だ?」
○同・前
出てくる八田達の集団。八田以外も全員三本腕になっており、中では弟子A、Bらが右腕を奪われ倒れている。
八田「まぁまぁの収穫だった……ん?」
看板が無い。
朱雀の声「看板をお探しかな?」
振り返る八田達。そこに立つ朱雀と雲雀。雲雀の手には南道場の看板。
朱雀「悪いが、僕は一足先に彼らの勝利し、この看板の所有権を得ているんだ。(弟子Aを見やり)間違いないね?」
弟子A「朱雀殿……。あぁ、間違いない」
朱雀「という訳だ。看板が欲しいなら、僕が相手になろう」
八田「ふん。(周囲の取り巻きを煽り)迷っているなら、導いてやる。三本目の腕、試してこい」
刀を手に、一斉に朱雀に斬りかかる八田の取り巻き達。
朱雀「一対多数か。上等だ」
無駄のない動きで、取り巻き達の三本目の腕を次々と斬っていく朱雀。あっという間に八田以外が全滅する。
八田「……やるな」
朱雀「それはそうだろう。僕の強さは、(看板を指し)お墨付きだ」
八田「だが、俺はそうはいかない」
朱雀に斬りかかる八田。八田が押しているように見える。
八田「どうした? 剣に迷いがあるぞ?」
朱雀「さすがだな。実は聞きたい事があるのだが、斬る前に聞くか、斬ってから聞くか、迷っていてね」
八田「迷っているなら、導いてやる。斬られる前に聞きな」
朱雀「上等だ。では、遠慮なく。赤い目の腕狩りを知っているか?」
八田「赤い目? 知らないな」
朱雀「そうか、無駄足だったか……ならもう、遠慮はいらないな」
一気に攻勢に転じる朱雀、防戦一方の八田。逃げるように距離を取る八田。
八田「つ、強い……」
朱雀「だから、そう言っているだろう?」
八田「くそっ、こんな一本腕の女に、三本腕の俺が……。ん? 女、一本腕、朱雀……(思い出したように)まさかアンタ、腕狩り朱雀か?」
朱雀「そうか、僕を知っているか。なら、出し惜しみする必要もあるまい」
独特の構えを見せる朱雀。
朱雀「服部流奥義、上等朱段(じょうとうしゅだん)の一撃!」
八田の三本目の腕を切り落とす朱雀。倒れる八田。
南の声「我が右腕を取り返していただいた事、そして弟子達を助けていただいた事、御礼申し上げる」
○同・中
木刀を手に対峙する朱雀と南左文字(60)、審判役の弟子A。南も弟子Aも二本腕。
南「しかし、奪われた我が道場の看板は、取り返させてもらう。よろしいか?」
朱雀「だから、道場破りじゃないと言って……まぁ、いい。上等だ」
構える朱雀と南。
弟子A「はじめ!」
○同・前
待っている雲雀、弟子Bら弟子達。
雲雀「中で待っていてはいけないのですか?」
弟子B「先生は、そういう方なのです」
雲雀「そうですか……」
出てくる朱雀。顔面蒼白。
雲雀「あ、姉上。おかえりなさ……姉上?」
朱雀「南左文字、か……覚えた」
雲雀「え?」
出てくる南と弟子A。南道場の看板を賭け直す弟子A。
南「鍛えたければ、またいつでも来るといい」
朱雀「……上等だ」
(完)
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