登場人物
蘭(30)事務のOL
りか子(30)事務のOL
ルミ(24)広報のOL
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本文
オフィスのトイレ。
蘭と、りか子が談笑中。
蘭「でもさ山本さんて、すっぴんで出社する
くせになんで昼休みに厚化粧すんのかね」
りか子「そうそうそう。あたしさっき、山本
さんどこ行ったか知りません? て本人に
聞いちゃって焦ったわー」
蘭「まあでもあれか、化粧するだけマシか」
りか子「だね。あたしらぜんぜんやる気ない
もんね」
蘭「あーあ、うちの部署もさぁ、もう少し若
い男増やしてくんないかねー」
りか子「それ。ほんとそれだわ」
通りかかるルミ。
ルミ「あ、先輩、お疲れ様でーす」
そのまま通り過ぎていくルミ。
りか子「あれ、誰だっけ?」
蘭「広報のルミちゃん」
りか子「ああ、ルミちゃんね。なんかキラキ
ラしててムカつくのよね」
蘭「あ、ねえ、これ見た?」
スマホを見せる蘭。
りか子「ん? ルミちゃん公式ファンク・ラ
ブ・サイト? なにこれエロいサイト?」
蘭「違うわよ。ファン・クラブサイト。なに
よファンク・ラブ・サイトって、ないわよ
そんなサイト」
りか子「ああ、ファン・クラブサイトね。っ
て、え? なにあの子、ファンクラブなん
てあんの?」
蘭「あんのよ。ほらこの前、雑誌の取材であ
の子インタビュー受けてたでしょ? それ
以来、社内のアホな男子が騒いじゃって」
りか子「なにそれ。あの子、なんか勘違いし
ちゃってんじゃないの?」
蘭「ちやほやする男がバカなのよ」
りか子「むかつく。SNSで珍しくいいね押
してきたと思ったら、自分のとこで大々的
に結婚報告してるやつぐらいムカつく」
蘭「わかる! 有名人でもねーのにおおげさ
に結婚報告してさ、離婚すると、あたし一
般人なんでー、みたいな感じでシレッとフ
ェードアウトしちゃうやつ」
りか子「ったく、どいつもこいつもみんなバ
カな男に騙されて不幸になればいいのよ!
お祈りするぜ!」
袖からルミが戻ってくる。
ルミ「あの、先輩」
蘭「あ、ルミちゃん」
りか子「どうしたの?」
ルミ「ちょっと相談したいことがあって」
蘭「相談?」
りか子「……」
ルミ「そのファンクラブサイト、誰が作った
か知りませんか?」
蘭「あ、これのこと?」
りか子「もしかして今の話、聞こえてた?」
ルミ「めちゃくちゃ聞こえてましたよ。あた
しファンクラブなんて作った覚えないし、
こんなサイトがあること自体恥ずかしくて」
蘭「まあいいんじゃない。嫌われるよりは好
かれてた方がさ」
ルミ「ちなみに、先輩たちはあたしのこと嫌
いですよね?」
蘭「そ、そんなことないわよ。ねえ?」
りか子「そりゃそうよ。むしろファンクラブ
入ろうかって話してたとこ」
ルミ「そんなの困ります。最近、ストーカー
みたいなことされたりしてるし、男の人に
見られるのがすごく怖くて……」
蘭「そうだったんだ」
りか子「そんなに気にすることないんじゃな
い?」
ルミ「あたし、先輩たちを見習って、化粧も
しないで出社してるし、香水もつけないよ
うにして、なるべくオーラ消すように努力
したんですけど、ぜんぜん効果なくて」
蘭「そっかー、効果ないんだ? あはは」
りか子「別にこっちはオーラ消したつもりは
ないんだけど、なんでだろ」
ルミ「あたし、いったい何をどうすれば先輩
たちみたいになれますか? 毎日毎日考え
てるんですけどぜんぜんわからなくて」
蘭「相談なんだよね?」
ルミ「相談なんです」
りか子「ケンカじゃなくて?」
ルミ「相談なんです」
蘭「よかったー。相談だって」
りか子「なかなか難しいんじゃない。あたし
たちのレベルに達するまでは」
ルミ「また気軽に相談させてもらってもいい
ですか?」
蘭「もちろんよ」
りか子「気軽になんでも言って」
ルミ「よかった。ありがとうございます」
去っていくルミ。
間。
蘭「なんて表現しようか」
りか子「この虚しさ?」
蘭「うん」
りか子「wifiがないおばあちゃんちぐら
い虚しい」
蘭「ちょっと、わかりづらいかな……」
りか子「うーん、そう?」
蘭「男の人と食事して、お店を出て、ごちそ
うさまでしたって言ったら、え、君の分は
払ってないよって言われて、振り返ったら
お店の人が慌てて追いかけて来てた時ぐら
い虚しい」
りか子「そんなことあったの?」
蘭「あったの」
りか子「浮気されたのに、ドラクエクリアす
る途中でマリオカートやりたくなることぐ
らいあるでしょって彼に言われて、何も言
い返せなかった時ぐらい虚しい」
蘭「やばいそれ、泣きたい」
りか子「あたしもよ」
蘭「泣きたいよね……あ、ダメだ涙出てこね
ー」
袖から戻ってくるルミ。
ルミ「先輩! 先輩!」
蘭「どうしたの……?」
ルミ「ファンクラブサイト作った人がわかっ
たんです!」
りか子「え、誰?」
ルミ「いつもすっぴんで出社してくる総務部
の、あのオーラのない……」
りか子「え、山本さん?」
蘭「なんで山本さんが?」
ルミ「それが山本さんの旦那さんが、芸能事
務所のマネージャーやってるみたいで、フ
ァンクラブサイトのフォロワーが1万人に
なったら、スカウトしてくれるって」
蘭「へえ……」
りか子「すごいじゃん」
ルミ「頑張ります!」
蘭「がんばって!」
ルミ「はい!」
去っていくルミ。
間。
蘭「いま何人?」
りか子「(スマホを見て)9998」
蘭「え……あとふたり?」
りか子「あとふたり」
蘭「やばいじゃん」
りか子「やばいじゃんって言っちゃったね」
蘭「ま、時間の問題か」
りか子「……たしかに」
蘭「じゃあ、あたしたちがフォローしなくて
も大丈夫だよね」
りか子「それはそうでしょ」
蘭「あ、フォロワー1人減った」
りか子「え! ……ほんとだ」
蘭「っしゃ!(ガッツポーズ)」
間。
りか子「なんか虚しくない?」
蘭「ぜんぜん」
りか子「そういえばさぁ、ルミちゃんてさ
ぁ……」
蘭「え、なになに?」
りか子、蘭に耳打ちする。
蘭「うそ?!」
りか子「しっ! 単なる噂レベル」
蘭「へっへっへ。忙しくなりそうだね~」
去っていく蘭。
りか子「絶対悪いこと考えてるよね」
あとを追うりか子。
暗転。
ルミの声「きゃー!」
明転。
スマホを見て膝を落としているルミ。
現れる蘭とりか子。
蘭「どうしたの、ルミちゃん」
ルミ「先輩……あたしのフォロワーがどんど
ん減ってるんです」
蘭「あらあら、それは大変」
りか子「あんたがルミちゃんの悪い噂ばらま
いたからでしょ。ルミちゃんが部長と副社
長の息子と二股かけてるって」
蘭「え、あたし知らない知らない。だって信
じる信じないはフォロワーの勝手でしょ」
りか子「あんた悪魔ね」
蘭「けーっけっけけ!」
ルミ「おい……」
蘭「え?」
ルミ「お前、何してくれてんだ、こら」
ルミ、蘭の胸ぐらを掴む。
蘭「はい? あの……」
ルミ「どうすんだ、これ。もうちょっとで1
万だったのにお前のせいで半分だぞ」
蘭「はい、すいません……」
ルミ「謝ったってしょうがねえだろ。どうす
んだって聞いてんだよ」
蘭「すぐに何とかします……」
ルミ「あたりめーだろ。さっさと処理してこ
いや、このすっぴん豆タンクが」
蘭「はい……すぐに処理して参ります。この
すっぴん豆タンクめが……」
ルミ「ほら何やってんだよ、ダッシュだよダ
ッシュ! そっからダッシュだって!」
蘭「ひいい!」
走り去る蘭。
一部始終を、りか子がスマホ動画で撮
っていた。
ルミ「あ……」
りか子、ニヤリと笑って逃げていく。
追いかけるルミ。
N「その後、この3人の行方を知る者は誰も
いなかった」
暗転。
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