結婚するって、言い訳ですが。 ドラマ

主山優紀(23)は地方のテレビ記者。仕事が忙しく恋人に振られてしまう。女子はハイヒールをはくの続編です。年代設定を1994年に訂正しました。
流合マキ 8 1 0 11/15
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第一稿

〇熊本市市電(夕)
   夕日と、街並みのイルミネーション
   (インサート)1994年12月26日

〇同電車内(夕)
   満員電車。
   主山優紀(23)と、 ...続きを読む
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〇熊本市市電(夕)
   夕日と、街並みのイルミネーション
   (インサート)1994年12月26日

〇同電車内(夕)
   満員電車。
   主山優紀(23)と、下川亨(24)が
   並んで吊革に捕まっている。
   吊革広告には
   『セリエAオリジナルグッズプレゼント』と書いてある。
優紀「ごめんねえ、クリスマスに会えなくて」
下川「うん。忙しいんだよね」
優紀「(M)あれ? わかってる、って言わないの」
下川「降りてから、話そう」
優紀「何を? 気になるんだけど?」
下川「姉さんが、見たらしい」
優紀「見たって?」
下川「夏の、ミニスカート。ダムのニュース」
優紀「あれはすっとしたわ! 他局のニュースに映り込んでいたのよね。ハイヒールのかかとも折れたし、怒られたけど。特ダネで帳消しよ」
下川「それと、ここで会っていること」
優紀「仕方ないよー、長崎にいたら、ずっとポケベルで呼び出されるんだから。対応出来ないって事で、長崎から出る時は、ポケベル置いて行くって言ってるし」
   優紀、下川と腕を組もうとして、下川、
   優紀の腕を離す。
   優紀、下川を見上げる。
   下川、電車の外を見ている。
優紀「(M)やっぱり、綺麗な顔だなあ」
   夕日が陰り、車内灯が全点灯する。
   下川、優紀を見て、目線を逸らす。
優紀「目も合わせたくないって」
下川「降りてから……」
   電車停車する。
優紀「別れない、なら、一緒に降りよう」
   優紀、さっさと乗降口に行く。
   ガラスに映るイルミネーションと、出口に向かう優紀と見送る下川。

〇通信局・全景(朝)
   四角い事務所的一軒家。
   看板に『長テレ島原通信局』と書いてある。

〇同内(朝)
   4つのデスクと応接セット。
   応接テーブルの新聞全社分は、指跡でよれている。
   電話、編集機、カメラと、点いているテレビが5台並んでいる。
   松川和人(53)がデスクに座り、優紀がデスク前に立っている。
松川「え? 結婚する? ああ、どの位?」
優紀「どのくらい? とは?」
松川「休み」
優紀「えっと、退職、ですかね。残念ですけ」
松川「仕事辞める時代じゃないでしょ」
優紀「まあ、仕事を辞めるのは、そうですね。でも」
松川「男女雇用機会均等法が施行されて、まだ10年ならないけれども、我々が」
優紀「あの! …… そうそう、相手も同業者なんで。ちょっと無理かと」
松川「どこの、誰だ?」
優紀「ええっと、あの。読よみ新聞? とにかく、ですね」
   電話が鳴る。
優紀「あの! 部長っ」
   松川、電話を見て、
松川「優紀くん、お仕事。僕、この後すぐ本社戻るから」
   優紀、顔の筋肉を動かしつつ、受話器を取り上げ、
優紀「はい。長テレです」
   優紀、テレビの画面を睨む。
   画面には、結婚式のCMが流れている。

〇記者室・ドア前
   札には『記者室』と書いてある。
   優紀、ドアノブを回そうとして、慌てて耳をドアに当てる。
大木の声「びっくりしたぜぃ。長テレの報道部長から、うちのデスクに電話があったら
しいんだよ。あのお嬢ちゃん、やってくれるぜ。『結婚して辞めるにしても、うちの記者が辞めるばかりじゃないでしょう!』って、あの部長、新聞から来てるから、その後は、男女雇用機会均等法で議論よ」
時子の声「何も、大木さんと、って言ったわけでもなし、聞き流したらいいじゃない」
大木の声「うちの若いのにも聞いてみたけど誰も心あたりはないってよ」
優紀「そんなばれ方って、あるぅ?」
   優紀、そっとドアから離れようとする。
   ドアが開く。
   大木が出て来て、優紀をジロリと見る。
優紀「お疲れ様です……」
   大木、去っていく。

〇同・室内
   壁にぐるりと並ぶデスクにワープロと電話、FAX機が載っている。
   入口傍の机に、時子が座っている。
   時子、指で鬼の角作りながら
時子「大木さんに怒られた?」
優紀「それなら、まだまし。無視されたし」
時子「辞めるっていうのに、変な話になっちゃったみたいね。私でも、驚いた」
優紀「部長が引き留めるなんて、思ってなかったんだもん。あー、東京行きたいから辞
めるってはっきり言うべきだった!」
時子「変に、八方美人になって思わせぶりな事言うからよ。くねくねせずに、はっきりと『恋人に振られたので辞めます!東京行って雑誌編集者になりたいんです!』って、言うべきだった」
優紀「言えたら、苦労しないよー」
時子「言えないって事は、覚悟がないって事。案外、今回引き留められて嬉しかったり」
優紀「違う! でも、何というか、もやもや? でも、違うから」
   全デスクのFAXが動き出す。
   時子、1枚取り、優紀に渡す。
時子「はい。お仕事」
優紀「部長とおんなじ」
   優紀、FAXを受けとる。
時子「火事ね」
優紀「車にカメラ載ってるし」
時子「肩にかけて、携帯したら?」
優紀「恰好悪いからいや」
時子「発生時間からして、間に合うかもよ」
優紀「何に? あー、火事は嫌なんだよね」
   優紀、出て行く。
時子「頑張れ」
   ドアが閉まる。

〇火事現場
   ひとだかりがまばらにできている。
   外見からは燃えた場所がわからない一軒家。
   警察官Aが、テープをはがしている。
   優紀カメラを持って、警察官Aに名刺入れのままの名刺を見せて、
警察官A「あ、長テレさん。裏の台所です。皆さん帰られましたよ」
優紀「そうですか。お仕事ご苦労さまです」
   優紀、カメラを肩にかけたまま、行く。

〇同裏庭
   台所への扉が開け放たれている。
   優紀、中に入ろうとして、ドアに近づく。

〇同家屋内・台所
   ガスレンジ付近とガス台の上の鍋が焼き焦げている。
   続きの居間があり、電話台上の電話の受話器を持つ主婦が話している。
主婦「本当にびっくりしたわあ。警察もなんもかも、カメラで撮られるし…… え? そんな事。自転車でスーパー行ってただけよ。ほんの5分。戻ったら人がいっぱいいてねえ。そう、そうなの…… 天ぷらよお父さんが好きだから、退院祝いにね。お芋がなくて買いに行ったら……」

〇同裏庭
   優紀、ふふっと笑っている。
   中村良平(35)が通りかかる。
中村「あれ。あなたは」
優紀「どなたでしたっけ?」
中村「長テレの主山記者でしょう?」
優紀「ええっ? 何で。人違いです」
中村「名刺頂きましたよね? 僕の名刺、渡したはずですが、覚えてないですか?」
優紀「…… 名刺の人!」
   中村、目をぱちぱちさせる。
   優紀、名刺入れから名刺を取り出す。
   名刺には『長崎県警 刑事 中村良平』と書いてある。
   中村、覗き込み、
中村「それです。よくわかりましたね?」
優紀「あなたぐらいだから」
中村「何が?」
優紀「返しの名刺くれたの。私の名刺で名前を覚えているのも」
   中村、家の中に目線を動かし、
中村「これから撮るんですか? それとも、特に事件性もないので、撮るのなし?」
優紀「一通り、撮影して、コメントもらって帰ります。撮るのなしって、失礼ですね。
これが仕事なんだから撮って帰るの、当たり前なんだけど」
中村「無駄かな? と思って」
優紀「無駄って、どういう事?」
中村「ニュースになるのかと」
優紀「なろうが、なるまいが、仕事で来ている以上、きっちり取材はするわよ! 言っておくけど、今回は」
中村「今回は?」
優紀「今回は、被害者がいなくて、この家の奥さんも電話で笑ってて、個人的には、良かったって思えてる」
中村「それ、マスコミとしては」
優紀「失格って言いたいの? わかってるんだけどー? 火事はね、命だけじゃない、思い出まで持っていくんだから。今回は無事で、良かったの」
   優紀、中に入って行く。
中村「発表なしのガサに来たときは、どんな、先制気鋭気取りの記者かと」
   中村、優紀を見送って、去る。

〇通信局内(夕)
   デスクで、原稿用紙に向かっている優紀。デスク横に進行表とストップウォッチがあり、進行表には、
   『火事30秒』と書いてある。
   
〇同・扉外(夜)
   通信局の灯りが消えて、優紀でてくる。
   優紀、空を見上げて
優紀「あの刑事、何であそこにいたの? あー、春には出ていくぞー!」
   満点の星空。
   

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