人 物
佐伯佳奈(18)高校3年生
佐伯優香(16)その妹
佐伯智美(45)その母
島本麻衣(18)そのクラスメート
浅野和樹(16)優香のクラスメート
○公営マンション・外観(朝)
5階建て。築年数を感じさせる外壁。
○同・佐伯家・玄関・外(朝)
玄関扉に『佐伯』と書かれた手製のプレート。
○同・玄関・中(朝)
玄関扉を開ける制服姿の佐伯佳奈(18)。
佳奈「行ってきます」
キッチンから返事が聞こえる。
智美の声「行ってらっしゃい。気を付けてね」
○同・キッチン(朝)
朝食を採る制服姿の佐伯優香(16)。大きな二重の瞳。鼻がスッとして整った顔。佐伯智美(45)が呆れた口調で話す。
智美「あなた達、何で一緒に行かないの?」
優香「だって、お姉ちゃんが嫌がるんだもん」
智美「(呆れ口調で)本当にもう。同じ学校なんだから一緒に行けば良いじゃない」
優香「私といると色々面倒くさいんだって」
○葉山南高校・正門
門柱に『葉山南高等学校』のプレート。
○同・3年A組教室・中
佳奈、友人達と机を並べ、笑いながら弁当を食べている。
○同・1年C組教室・中
優香はヘッドホンで音楽を聴き、1人で弁当を食べている。
斜め前の浅野和樹(16)を時折チラッと見る。和樹は文庫本を読み、1人で弁当を食べている。
○同・1年C組教室・外
複数の男子生徒が教室の中を覗き込む。優香を見つけ、低く驚嘆の声を上げる。
○佐伯家・玄関・中(夜)
佳奈が帰宅する。キッチンから優香と智美の楽しげな声が聞こえる。
○同・キッチン(夜)
優香と智美が並んで夕飯の支度をしている。スラリと伸びる手脚や華奢な骨格が瓜二つ。
佳奈は振り返って廊下の姿見に自分を映す。表情が曇る。
× × ×
夕食時の食卓。智美が佳奈に話す。
智美「佳奈。優香はまだ入学仕立てで慣れてないんだから朝一緒に行ってあげなさいよ」
佳奈「やだよ。面倒くさい」
智美「面倒くさいって。お姉ちゃんでしょ?」
佳奈、智美を見る。優香、割って入る。
優香「良いって、お母さん」
佳奈「優香は良いよね。そうやってお母さんが甘やかしてくれるし、容姿だってお母さんソックリだしさぁ」
○同・キッチン(朝)
優香が制服姿でやって来る。
優香「お姉ちゃんは?」
智美「朝学習があるって早くに出かけたわよ」
智美、優香の朝食を食卓に置く。食卓に佳奈の弁当箱があるのを見つける。
智美「もう。佳奈ったらお弁当忘れちゃって。優香。佳奈の分も持って行ってくれない?」
優香「えぇー、お姉ちゃんに怒られるよ」
智美「お弁当持って行って何で怒られるの?」
優香、朝食を食べる手を止める。
優香「私が妹だって知られたくないんだよ」
智美「どうして?」
優香「(苛立ち)だからー。(諦めて)もういい」
○葉山南高校・3年A組教室・外(朝)
優香、教室を覗き込み佳奈を探す。後ろから男子生徒に話し掛けられる。
男子生徒「誰か探してるの?」
優香、一瞬びくっとする。オドオドした口調で男子生徒に答える。
優香「あっ、あの、佐伯佳奈に用事で」
男子生徒は教室の佳奈を大声で呼ぶ。佳奈、怒った表情でやって来る。
佳奈「あんた。何で来たのよ」
優香、弁当を差し出す。
優香「学校だとスマホの電源切んなきゃいけないじゃん。だから…仕方なかったんだよ」
佳奈、弁当を引ったくるように受取る。
佳奈「(怒り口調で)これでまた今日から中学時代に逆戻りだよ。バカ!」
佳奈、弁当を持って席に戻る。数人の男子生徒が興味有り気に佳奈に近付く。
○同・1年C組教室・中
休憩時間。クラスの男子達がチラチラと優香を見ている。女子達が男子達の視線の先にいる優香を冷たい目で見る。
○予備校ビル・外観(夜)
各階の窓に大きく『絶対合格』の文字。
○同・教室・中(夜)
島本麻衣(18)が隣の佳奈に話し掛ける。
麻衣「佳奈はどこ狙ってるの?」
佳奈「うちはお父さんいないじゃん?妹もいるしさ。お金の事を考れば国立狙いかなぁ」
麻衣「そうなんだ。でも佳奈なら大丈夫でしょ?頭良いし、頑張り屋さんだし」
佳奈「(苦笑いしながら)だと良いんだけどね」
○葉山南高校・3年A組教室・外(朝)
男子生徒が佳奈に頼み込んでいる。
しつこく頼まれ、仕方なくメモを受け取る佳奈の表情は険しい。
○同・1年C組教室・中(朝)
ズカズカと教室に入って来る佳奈。優香にメモを手渡し、強い口調で話す。
佳奈「3年の大塚からあんたにだって!」
優香は怒りの目で佳奈を見る。佳奈は足早に教室を出ていく。皆の視線が優香に集まる。優香と和樹の目が合う。和樹、目を逸らして本を読み始める。
○同・3年A組教室・中
佳奈、髪をクシャクシャする。麻衣が佳奈の肩に手を置く。窓の外は雨。
○同・下駄箱前(夕)
鞄の中を探す優香。
女子生徒が含み笑いで通り過ぎる。
佳奈と麻衣がやって来る。
佳奈、優香と目が合う。
そのまま傘を差して行ってしまう。
優香、傘がないまま一人で雨の中を下校する。
○佐伯家・キッチン(夜)
夕食が並ぶ食卓。優香が佳奈に聞く。
優香「いじわるしてスッキリした?」
佳奈、売り言葉に買い言葉で返す。
佳奈「あんたこそ。モテモテで良かったね」
智美「何なの?あなたたち」
優香「誰かも分からない人に突然付き合ってくれって言われて、私が嬉しいと思う?」
佳奈「知らないよ、そんなの。モテないし」
優香「お姉ちゃんはクラスでいっぱい友達いるから私の事なんて分からないんだよ!」
佳奈、強い口調で言い返す。
佳奈「あんたのせいで、いつも『優香のお姉ちゃん』って言われるの!可愛いあんたのお姉ちゃんって覚えられるの!でも私は私なの。『優香のお姉ちゃん』じゃないの!」
しんとする食卓。
居間のテレビからお笑い芸人の笑い声が聞こえてくる。
○住宅街(朝)
曇り空。家々の鯉のぼりが風に揺れる。
○葉山南高校・1年C組教室・中
チラチラと優香の方を向きながら、女子生徒と男子生徒が言い争いをしている。優香はヘッドホンの音量を上げて目を瞑る。
女子生徒の目が怒っている。
○同・3年A組教室・中(夕)
帰り支度をする佳奈。窓の外は強い雨。
○同・下駄箱前(夕)
鞄の中を探す優香、俯いて細かく肩を震わす。
佳奈がやって来て優香に気付く。そのまま傘を差して行ってしまう。
優香一人立ちすくんでいる。
佳奈が戻って来る。面倒くさそうに優香に話す。
佳奈「あんた、傘忘れたの?」
優香、俯いたまま返事をしない。
佳奈「(イライラした口調で)帰るよ!」
○道路(夕)
1つ傘の下、無言で歩く佳奈と優香。
傘を持つ佳奈。優香との大きな隙間。
佳奈「またモテモテの悩み?」
佳奈が話し掛ける。優香は小さく頷く。
優香「お姉ちゃんは良いよ。学校楽しそうで」
佳奈「あんたこそ、学校中の人気者じゃん」
再び無言の2人。傘をたたく雨音。
優香の右肩が雨に当たり濡れている。
佳奈、優香の顔を見て話し掛ける。
佳奈「あんたさぁ。誰か好きな人いないの?」
優香「えっ?(間を空けて)いる訳ないじゃん」
佳奈「あんた今、嘘ついたでしょ?」
優香「(動揺して)嘘なんてついてないよ」
佳奈「あんたはね、昔から嘘つくときに鼻がピクってするから分かっちゃうの」
優香の顔が赤らむ。2人の隙間が狭まる。
佳奈、優香側に少しだけ傘を倒す。
優香「(小声で)モテるのも辛いんだよ」
佳奈、改めて優香を見る。
佳奈「やっぱりムカつく」
佳奈、傾けた傘を自分の方に戻す。
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