クロスライフ 学園

クロスワードパズルというものはタテだけ読んでも、ヨコだけ読んでも全てのマスは埋まらない。人生も同じ。一つの視点だけでは全ては見えず、複数の視点で見て初めて物事の全体像が見えてくる。 本作は小池裕太(17)、辻彩子(17)、宇佐美恵介(17)の三人の視点で描かれる「シナリオ風パズル」である。彼らの「とある2時間」を読み解いた時、見えてくる全体像とは……?
マヤマ 山本 60 0 0 09/28
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第一稿

<登場人物>
小池 裕太(17)二年四組、バスケ部
辻 彩子(17)/ナンシー  同、帰宅部/劇中劇のキャラ
宇佐美 恵介(17)/チャールズ  同、同、彩子の幼なじみ/劇中 ...続きを読む
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<登場人物>
小池 裕太(17)二年四組、バスケ部
辻 彩子(17)/ナンシー  同、帰宅部/劇中劇のキャラ
宇佐美 恵介(17)/チャールズ  同、同、彩子の幼なじみ/劇中劇のキャラ
五島 洋平(17)/ブライアン警部補  同、宇佐美の友人/劇中劇のキャラ
伊藤 美羽(17)/レベッカ  同、彩子の友人/劇中劇のキャラ
久我 拓馬(17)同、バスケ部
多田 真実(17)同
小金沢 さくら(17)同
平岡 浩司(17)二年二組、真実の恋人
浅野 慎吾(17)/アンソニー   同、バスケ部/劇中劇のキャラ
白石 和己(17)同、美羽の恋人
玉置 純(17)同、彩子の友人
東山 (17)二年四組
英語教師
社会科教師



<本編>
○黒味
   T「人生は、クロスワードパズルのようなものである。」

○田所高校・校門
   「県立田所高等学校」と書かれた看板。
東山N「ここは県立田所高校」
   登校する生徒達。その中に居る東山(17)。
東山N「男女共学で、偏差値には県内で下の上程度」

○同・屋上
   多くの生徒が談笑している。その脇を通る東山。
東山N「そんな、どこにでもあるような高校である」

○同・校庭
   制服姿でサッカーをする小池裕太(17)ら男子生徒達。その脇を通る東山。
東山N「そんな高校に通う三人の生徒の」

○同・廊下
   辻彩子(17)ら生徒達が歩いている。その脇を通る東山。
東山N「高校生活が交差する」

○同・二年四組
   授業を受けている生徒達。その中に居る宇佐美恵介(17)、東山。
東山N「まるで、クロスワードパズルのように」

○メインタイトル『クロスライフ』

○田所高校・外観
   一一時三〇分を示す時計。
   T「小池裕太のカギ 1」

○同・廊下
   教室の入り口に「2ー4」の文字。

○同・二年四組
   授業を受けている生徒達。
   英語の構文が書かれた黒板。
   こっそりとバスケットボール雑誌を読んでいる小池。
英語教師「はい、じゃあ単語テストやるよ」
   生徒達からため息が漏れる。読んでいた雑誌を机の中にしまう小池。
五島「おい小池、取りにきてくれや」
   小池の三つ前の席に座る五島洋平(17)が振り返って小池を見ている。小池と五島の間には二人分の空席が並んでいる。
   席を立つ小池。五島からテストの解答用紙を受け取る。五島の一つ後ろの席を見る小池。
小池「あれ、宇佐美って今日休みだったっけ?」
五島「いや、二時間目までおったで。この時間から行方不明や」
小池「へぇ、珍しい事もあるもんだな」
   席に戻る小池。
英語教師「それじゃ、テスト開始」
   一斉にペンを動かす生徒達。
   名前の欄に「小池裕太」と書く小池。
    ×     ×     ×
   苦悶の表情の小池。頭を掻く。
英語教師「はい、止め。隣の席の人と答案用紙を交換して~」
   ため息をつく小池。左隣に座る東山と答案用紙を交換する。名前の欄に「東山」としか書かれていない東山の答案用紙。
小池「(小声で)名前も書けよ」
   筆箱から赤ペンを取り出す小池。
    ×     ×     ×
   全て丸が付いた東山の答案用紙。右下に「10点」と書く小池。
小池「また満点かよ」
   再び東山と答案用紙を交換する小池。
   「2点」と書かれた小池の答案用紙。
   多田真実(17)が右隣の席から覗き込むように小池の答案用紙を見る。
真実「小池、二点かよ。あり得ねぇ」
小池「勝手に見んなよ。……っていうか、そういう多田は何点なんだよ?」
真実「(得意げに)三点~」
小池「大して変わんねぇじゃん」

○同・外観
   一一時四〇分を示す時計。
   チャイムが鳴る。

○同・二年四組
   談笑する生徒達。
   席に座っている彩子。
   席に座り、頬杖をついて彩子に見とれている小池。小さくため息をつく。
小池Ⅿ「かわいいなぁ、辻さん」
   宇佐美の席を見つめる彩子。
   その視線の先を追う小池。
小池Ⅿ「何見てるんだろ?」
   携帯電話を取り出し、電話をかける彩子。
   不安そうな表情の小池。
小池Ⅿ「誰にかけてるんだろ?」
   彩子の席に近づく五島。五島と話をする彩子。
   不安そうな表情の小池。
小池Ⅿ「何話してるんだろ?」
   急に小池の視界に入ってくる久我拓馬(17)。
久我「おい!」
小池「おわっ。何だよ拓馬、いきなり」
久我「裕太、お前便所に行きたそうな顔してんな」
小池「拓馬が便所に行きたいんだろ?」
久我「よくわかったな。お前スパイか?」
小池「で、連れションのお誘いって訳だろ」
久我「そうそう、お前エスパーか?」
小池「はいはい。じゃあ行くか」
   席を立つ小池。

○同・廊下
   並んで歩く小池と久我。久我は床を見回しながら歩き、小池はそれを怪訝そうに見ている。

○同・便所
   床を見回している久我。
小池「拓馬、何してんだ?」
久我「なぁ、裕太。俺の鍵知らねぇか?」
小池「鍵?」
久我「そう、家の鍵」
小池「知らねぇよ」
久我「そうか。こりゃ腹切るしかねぇな」
小池「失くしたのか?」
久我「みたいだな」
小池「便所で?」
久我「失くした場所がわかってたら、苦労しねぇっつーの」
   水の流れる音。個室のドアが開いて東山が出てくる。
久我「お、『何でも知ってる』東山。いい所に来てくれたな」
東山「何だ?」
久我「東山さ、俺の鍵知らねぇ?」
東山「鍵、失くしたのか?」
久我「どうやらその可能性が高いらしい。そんな俺を助けてみようとは思わないか?」
東山「わかった、探しておく」
久我「マジで? サンキュー!」
   便所を出て行く東山。
久我「いや~、これでもう安心だな。首くくらずに済みそうだぜ」
小池「さっきは『腹切る』って言ってなかったか?」

○同・二年四組
   教室に入ってくる小池と久我。小池に歩み寄る彩子。
彩子「小池君」
   少し驚いた表情の小池。
小池「な、何?」
彩子「さっき浅野君が来て『今日の部活は体育館に変更だ』って伝えてって。久我君にも」
小池「あ、わ、わかった。ありがとう」
   自分の席に戻る彩子。彩子の後ろ姿を見る小池。笑みを浮かべる。
小池Ⅿ「何かラッキー。辻さんと話せちゃったよ」
   チャイムが鳴る。
   慌てて笑みを押殺す小池。
   窓の外を眺めている久我。久我に歩み寄る小池。
小池「鍵探さなくていいのか?」
久我「あの『何でも知ってる』事で有名な東山に任せたんだから、もう大丈夫だろ」
小池「『何でも知ってる』ねぇ……」
   久我の席に視線を移す小池。東山がウロウロしている。
小池「あ、そうそう。慎吾から伝言」
久我「何? 昼飯おごってくれるって?」
小池「違ぇよ。今日の部活、体育館に変更らしいぜ」
久我「マジで? やったな、これであの室内練とおさらばだぜ! ……で、誰情報?」
小池「だから、慎吾だって」
久我「だとすると……今ひとつ信憑性に欠けるな」
小池「まぁな。慎吾はどんな嘘でも簡単に信じるからな……」
   考える小池と久我。
久我「よし、今から確認してくる」
小池「は? もう授業始まるぞ?」
社会科教師「その通り」
   驚いて振り返る小池と久我。教壇に立つ社会科教師。
小池「(小声で)いつの間に」
久我「(小声で)マジで存在感ねぇな」
社会科教師「二人とも、さっさと席に着け」
   笑いが起こる教室。彩子も笑っている。席に戻る小池と久我。
真実「バーカ」
小池「うるせぇ」
社会科教師「では授業を始めます」

○同・外観
   一二時を示す時計。
   T「小池裕太のカギ 2」

○同・二年四組
   授業を受ける生徒。世界史の教科書が開かれている。ウトウトする小池。
小池Ⅿ「やべっ、眠ぃ……」
   何か話している様子の社会科教師。
   立ち上がる久我。
   机に突っ伏して寝始める小池。

○黒味
社会科教師の声「小池、おい小池」

○(夢の中)田所高校・二年四組
   目を開け、立ち上がる小池。
   教壇に立つ社会科教師。授業を受ける生徒。誰も小池の事を気にしない。
   小池の前の席に伊藤美羽(17)、二つ前の席に宇佐美が座っている。
   自分の机の上に開かれているノートを見る小池。ノートに大きく「予知夢」と書いてある。
   後ろを振り返る小池。後ろの黒板に大きく「予知夢」と書いてある。
小池「予知夢、か……」
   周囲を見回す小池。
   空席となっている彩子の席。
小池「辻さんがいない……?」
   周囲を見回す小池。
小池「おいおい、一体何を予知させる気だよ……」
   教室を出る小池。

○(夢の中)同・廊下
   歩いている小池。周囲を見回す。
小池「辻さん、どこだ……?」
   彩子の笑い声。
小池「こっちか?」

○(夢の中)同・階段
   階段を下りる小池。立ち止まり、周囲を見回す。
   彩子の笑い声。
   再び階段を下りる小池。

○(夢の中)同・昇降口
   小池がやってくる。小池に背を向けて出口に立つ彩子。彩子の隣に立つジャージ姿の男。小池に気付き振り返る彩子。笑顔。
彩子「これから純とデートなんだ!」
小池「え!?」
   彩子の台詞にエコーがかかって繰り返される。
小池Ⅿ「そ、そんな……辻さんに彼氏が……? う、嘘だ……」
   再び小池に背を向け、ジャージ姿の男と手をつないで歩き出す彩子。
小池Ⅿ「嫌だ、嫌だよ」
   遠ざかる彩子とジャージ姿の男。右手を伸ばす小池。
小池「待って!」

○同・二年四組
   右手を伸ばして立っている小池。立っている五島。社会科教師と生徒全員が小池を見る。小池の前の席に美羽が座っている一方、東山の席が空席となっている。
社会科教師「小池、何か質問か?」
小池「……いえ、何でも無いです」
   失笑する生徒達。失笑する彩子。
   恥ずかしそうに着席する小池。立ったままの五島。
社会科教師「おい五島、早く読め」
五島「いや『待って』言うから、待ってた方がええんかな~、思うて」
   笑う生徒達。うつむく小池。

○同・外観
   一二時三〇分を示す時計。
   T「小池裕太のカギ 3」

○同・二年四組
   立って教科書を読んでいる五島。
   美羽をつつく小池。振り返る美羽。機嫌の悪そうな表情。
小池「伊藤、今日は遅かったな」
美羽「悪かったわね」
   また背を向ける美羽。不思議そうな表情の小池。真実の方を見る。
小池「なぁ、なんで伊藤の奴、あんなに機嫌悪いんだ?」
   機嫌の悪そうな表情の真実。
真実「知らねぇよ」
小池「お前もかよ」
   空席となった東山の席を見る小池。
小池「東山はいなくなってるし。……俺が寝てる間に、何があったんだ?」
   首を傾げる小池。

○同・外観
   一二時四〇分を示す時計。
   チャイムが鳴る。

○同・二年四組
   教室を出る社会科教師。走って教室を出る久我。大きく伸びをする小池。
   ノートに「ジュン 純 潤 淳」と書いてある。
小池「俺も行こうっと」
   席を立ち、教室の出口へ歩く小池。振り返る。弁当箱を持って美羽と話している彩子。
小池「とりあえず、ジュンはいない、と」
   教室を出る小池。

○同・廊下
   教室の入り口に「2―2」の文字。

○同・二年二組
   教室の入り口に立つ小池。席に座っている浅野慎吾(17)。
小池「おい慎吾、行こうぜ」
浅野「うん、今行く」
   席を立つ浅野。

○同・廊下
   並んで歩く小池と浅野。
浅野「拓馬は?」
小池「今頃学食で、席確保してるハズ」
   並んで歩く小池と浅野。

○同・学生食堂
   生徒達で混み合っている。
   四人がけのテーブルに座り、焼きそばを食べる小池、久我、浅野。
久我「そしたら裕太のやつ、いきなり『待てぇい!』とか叫んでさ」
浅野「すごいね裕太、かっこいい」
小池「そんな言い方してねぇし」
久我「今日でお前の評価は二段階下がっちまったな」
浅野「ドンマイ、裕太」
   無言で焼きそばを口に運ぶ小池。
久我「あぁ、早く部のみんなにも話してぇ」
小池「やめろ。……そういえば、今日の部活って本当に体育館なのか?」
浅野「うん。なんか女子のバレー部が急に今日の部活休みになったんだって」
久我「それって、誰情報?」
浅野「瀬田先生からだよ。ウチのクラス、三時間目が体育だったから」
久我「それなら間違いねぇな。っていうか、二組の体育って瀬田だったんだ」
浅野「そうだよ。もう最悪」
小池「何で?」
浅野「今の体育のバスケなんてさ、部活みたいな基礎練からやらされるんだよ?」
久我「うわ、最悪。瀬田の奴、部活と勘違いしてんじゃねぇの?」
浅野「そうだよね。おかげでウチのクラスのヤンキーがキレそうになっちゃってさ。大変だったんだから」
小池「そいつはご愁傷様」
久我「いやぁ、ウチのクラスの体育が瀬田じゃなくて良かったな、裕太」
小池「あぁ。珍しく拓馬に同意するわ」
久我「お、こりゃ今日は雨が降るな」
浅野「え、僕今日傘持ってきてないよ」
小池「真に受けんなって」
   笑う小池と久我。
浅野「なんだ、良かった~」
   入口の方を見る久我。
久我「なぁ裕太、あれ東山じゃねぇ?」
小池「え?」
   入口の方を見る小池。歩いてくる東山。徐々に近づいてくる。
久我「気のせいか、こっちに近づいてきてねぇか?」
小池「気のせいじゃなさそうだな」
   久我の真横まで歩いてくる東山。テーブルの上に鍵を置く。
東山「お前の鍵、これか?」
久我「お~、そうそうコレコレ。マジでサンキューな!」
   鍵を手に取る久我。
東山「良かった。それじゃ」
久我「マジで助かったわ。このご恩は一生かかっても償うからな!」
小池「恩は返すもんだろ」
   歩いてその場を去る東山。
久我「いやぁ、さすが東山だな」
浅野「よくわからないけど、凄いね」
小池「本当に何でも知ってるんだな」
   焼きそばを口に運ぶ三人。
久我「ところで、話戻すけどさ」
浅野「何の話だったっけ?」
久我「だから裕太が授業中に『ちょっと待てぇい!』って啖呵を切った話だって」
浅野「そうだったね」
小池「もういいだろ、その話は」

○同・外観
   一三時を示す時計。
   T「小池裕太のカギ 4」

○同・学生食堂
   四人がけのテーブルに座る小池、久我、浅野。三人の前には空の皿。
浅野「ねぇねぇ、昨日の『ラフプラ』って観た?」
久我「うお~、観んの忘れた!」
浅野「僕も観てないんだけど、何かめちゃくちゃ面白かったらしいんだよね」
久我「マジかよ!? うわ~、俺の人生最大の汚点だわ~」
   考え事をしている小池。

○(回想)同・昇降口
   夢の中。笑顔の彩子。
彩子「これから純とデートなんだ!」

○同・学生食堂
   考え事をしている小池。
小池M「純って、誰だ……?」
   急に視界に入ってくる久我。
久我「おい!」
小池「おわっ。何だよ拓馬、脅かすなよ」
久我「何百回も呼んだっつーの。何ボケ~っとしてんだよ」
浅野「そうそう、心ここにあらずって感じ」
小池「そうか?」
久我「何考えてたんだ? どうせエロい事だろうけどさ」
浅野「お年頃だね」
小池「違ぇよ。……また予知夢見てさ」
久我「何、世界が滅びる夢か?」
浅野「え、何で? 何で滅びちゃうの?」
小池「……黙って聞け」
浅野「あ、ごめん」
   ため息をつく小池。
小池「辻さんの夢を見たんだよ」
久我「お~、おめでとう」
浅野「おめでとう!」
小池「だから黙って聞けって。……辻さんに彼氏が出来る夢だったんだよ」
浅野「え~!? 辻さん彼氏できたの!?」
小池「だから夢だって」
久我「で、その辻の彼氏ってのは誰だったんだよ」
小池「顔は見えなかったんだけど、『ジュン』って呼ばれてた」
久我「ジュンって誰だ?」
小池「それを聞きてぇんだよ。誰か知らねぇか? ジュンって名前の男」
   考え込む久我と浅野。
久我「う~ん、身に覚えがねぇな……」
小池「……あ、五島は? あいつの下の名前って何だっけ?」
久我「五島は、確か洋平だな」
小池「そっか。……慎吾は何か知らねぇ?」
浅野「あの人は? ほら、辻さんの幼なじみだとかいう人」
小池「そんな奴いんのか?」
浅野「ほら、四組の人だよ」
小池「え、ウチのクラス? 誰?」
浅野「名前は思い出せないんだけど、『ケーちゃん』って呼ばれてたと思う」
小池「……って事は、ジュンじゃねぇじゃん」
浅野「あ、そうだね」
小池「なぁ、拓馬。お前は辻さんと隣の席なんだからさ、何か知らねぇか?」
   真面目な表情の久我。
久我「っていうかさ、そのジュンってのが誰かなんてこの際関係ねぇだろ」
浅野「どういう意味?」
久我「要するに、裕太が見た予知夢は『このままだと辻を誰かに取られちゃうぞ』って意味なんじゃねぇのか?」
浅野「さすが拓馬、頭いい」
小池「なるほどな……」
久我「もう、告っちまえよ。辻だって『小池君っていい人だね』って言ってたぜ?」
浅野「お~、やったじゃん裕太」
   久我をじっと見る小池。
久我「早く告ってスッキリしちまえよ」
浅野「頑張れ!」
   久我をじっと見る小池。
小池「拓馬」
久我「何だよ」
   笑いをこらえる表情の久我。
小池「それはさ、ただ単にそういう展開の方が面白いから言ってんだろ?」
久我「あ、バレた? いや、成功しても玉砕しても、それはそれで面白いじゃん?」
浅野「え~、演技だったの? 全然気付かなかった~」
   ため息をつく小池。

○同・廊下
   歩いている小池と久我と浅野。
浅野「次は英語か~、単語テスト嫌だな~」
久我「別に、あんなの楽勝じゃん。俺は今日も百点だったしな」
浅野「さすが拓馬、頭いい。僕なんて毎回半分越えるのがやっとだよ」
小池「まぁ、十点満点のテストだから、百点はありえないけどな」
久我「そういう裕太は、今日のテスト何点だったんだよ」
小池「え……?」

○(フラッシュ)同・二年四組
   「2点」と書かれた解答用紙。

○同・廊下
   歩いている小池と久我と浅野。
小池「教えねぇよ」
浅野「そっか。あ、じゃあ俺はここで」
   軽く手を挙げる浅野。
   教室の入口に「2―2」の文字。
   教室に入って行く浅野。歩いている小池と久我。
拓馬「裕太、お前便所に行きたそうな顔してんな」
小池「あ~、今回はパス」
拓馬「あ、そ。後悔しても知らねぇぞ?」
   便所に入って行く久我。歩いている小池。
   教室の入口に「2―4」の文字。
   教室のドアの前で立ち止まる小池。
小池「後悔しても知らねぇぞ、か」
   目を閉じる小池。

○(イメージ)同・二年四組(夕)
   小池と彩子がいる。他に人はいない。
小池「辻さん」
彩子「何?」
小池「僕と、付き合って下さい」
   頭を下げる小池。
彩子「ごめんなさい」
小池「え……?」
   頭を上げる小池。
   彩子の隣に、小池に背中を向けて立つジャージ姿の男。笑顔の彩子。
彩子「これから、純とデートなんだ」

○同・廊下
   ドアの前に立つ小池。目を開く。首を横に振る。
小池「だめだ。今は良いイメージが浮かばない」
   ドアを開ける小池。

○同・二年四組
   後ろのドアから入ってくる小池。
   自分の席に座る彩子と、その前に立つ美羽。両手を合わせている美羽。
美羽「……マジでごめんね~」
彩子「別にいいって。今日は純とデートするから」
小池「え……?」
   驚く小池。
   話し続けている様子の彩子と美羽。
   先ほどの彩子の台詞にエコーがかかって繰り返される。
小池Ⅿ「そ、そんな……こんなに早く夢が現実になるなんて……」
   うなだれる小池。

○(回想)同・昇降口
   夢の中。小池に背を向け、ジャージ姿の男と手をつないで歩き出す彩子。遠ざかる二人。

○同・二年四組
   落ち込んでいる小池。ふらふらと歩きながら教室を出る。

○同・廊下
   教室から出てくる小池。下を向いてふらふらと歩いている。
   急に視界に久我が入ってくる。
久我「おい!」
小池「……何だよ」
久我「もっと驚けよ。どうした? 抜け殻の魂みたいになってるぞ?」
小池「……」
久我「……こりゃ重症だな。何があった?」
小池「……辻さんが、今日ジュンとデートなんだって」
久我「何? 誰情報?」
小池「辻さんと伊藤がそんな話してた」
久我「そりゃ間違いねぇな。だから早く告っちまえって言ってたのによ」
小池「……だな」
   ふらふらと歩き出す小池。
久我「授業は?」
小池「……今はそんな気分じゃねぇわ」
久我「そりゃそうだな。で、どこ行く気?」
小池「……屋上かな」
久我「飛び降りんなら、遺書は残しとけよ。『久我拓馬君に全財産を譲ります』って」
小池「……死んでも書かねぇわ」
   教室に入る久我。ふらふらと歩く小池。

○同・階段
   階段を上る小池。

○同・屋上
   誰もいない。ドアが開き、小池がやってくる。周囲を見回す。
小池「……誰もいないなんて、珍しいな」
   歩き出す小池。フェンスに寄りかかる。
小池「どこまでも独りぼっち、って訳か」
   苦笑いする小池。
久我の声「要するに、裕太が見た予知夢は『このままだと辻を誰かに取られちゃうぞ』って意味なんじゃねぇのか?」
   うつむく小池。
久我の声「だからよ、もう告ってスッキリしちまえよ」
小池「悔しいけど、拓馬の言う通りか」
   小池の頬に水滴が当たる。不思議そうに空を見上げる小池。
   突然の豪雨。
   ずぶ濡れになる小池。
小池「……最悪だ」
   呆然と立ち尽くす小池。ため息をつく。

○同・外観
   一三時三〇分を示す時計。
   チャイムが鳴る。

○黒味
   T「小池裕太のカギ 完」

○田所高校・外観
   一一時三〇分を示す時計。
   T「辻彩子のカギ 1」

○同・廊下
   教室の入り口に「2―4」の文字。

○同・二年四組
   授業を受けている生徒達。
   英語の構文が書かれた黒板。
   ノートをとっている彩子。宇佐美の席を見る。空席。
英語教師「はい、じゃあ単語テストやるよ」
   生徒達からため息が漏れる。教科書とノートを机の中にしまう彩子。前の席の生徒から答案用紙がまわってくる。一枚とって後ろにまわす彩子。
英語教師「それじゃ、テスト開始」
   一斉にペンを動かす生徒達。
   名前の欄に「辻彩子」と書く彩子。
    ×     ×     ×
   自分の答案を確認している彩子。
英語教師「はい、止め。隣の席の人と答案用紙を交換して~」
   右隣に座る拓馬と答案用紙を交換する彩子。
    ×     ×     ×
   全て丸が付いた拓馬の答案用紙。右下に「10点」と書く彩子。
彩子「また満点だ」
   再び久我と答案用紙を交換する彩子。「8点」と書かれた彩子の答案用紙。
彩子「おしいな~」
   右を向く彩子。
彩子「久我君凄いね、また満点じゃん」
久我「まぁ、世界は俺中心に回ってるから」
   笑う彩子。

○同・外観
   一一時四〇分を示す時計。
   チャイムが鳴る。

○同・二年四組
   自分の席に座り、宇佐美の席を見ている彩子。
彩子Ⅿ「それにしてもケーちゃん、どこ行っちゃったんだろ」
   携帯電話を開きアドレス帳から「宇佐美恵介」を選ぶ彩子。電話をかける。
音声案内の声「おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、かかりません」
   電話を切る彩子。
彩子Ⅿ「ケーちゃんはいっつも電源切ってるんだもんな~」
   彩子の目の前にやってくる五島。
五島「おう辻、宇佐美がどこ行ったか知らへんか?」
彩子「わかんない」
五島「お前ら幼なじみちゃうんか?」
彩子「幼なじみだからって、何でもわかる訳じゃないって」
五島「そらそやな。ほな、どこに居るか想像つかへんか?」
彩子「そうだな~」
   宇佐美の席を見る彩子。カバンがかけられている。
彩子「二時間目までは教室にいたし、カバンもまだある。という事は……」
   目を閉じる彩子。

○(イメージ)同・保健室
   ベッドで寝ている宇佐美。うなされている。

○同・二年四組
   目を開ける彩子。
彩子「やっぱり、保健室かな~?」
五島「やっぱりそうか。ほな、ちょっと保健室見てくるわ」
彩子「ケーちゃんに何か用事なの?」
五島「俺、次の世界史で多分当てられるんやけど、予習してへんねん。アイツが居らなヤバいわ~」
   教室を出て行く五島。
彩子「さて、と。続きでも読もうかな」
   携帯電話を開く彩子。画面に『名探偵チャールズの事件簿3』と書いてある。

○(イメージ)マリアの家・外観

○(イメージ)同・中
   死体を囲った印がある。その側で泣き崩れているナンシー(=彩子)とレベッカ(=美羽)。
   その脇に立っているチャールズ(=宇佐美)とブライアン(=五島)。
ナンシー「マリアを殺したのは、一体誰なんですか?」
ブライアン「それを今調べとる所やって。……どや、チャールズ。お前なら犯人わかったんちゃうか?」
チャールズ「簡単に言わないで下さいよ、ブライアン警部補。すぐには無理です」
   走ってくる足音。勢い良く部屋の扉が開き、アンソニー(=浅野)が姿を現す。
ナンシー「アンソニー君」
アンソニー「あ、辻さん」

○田所高校・二年四組
   座ったまま後ろを振り返る彩子。ドアの所に立っている浅野。
彩子「浅野君、どうかした?」
   浅野に駆け寄る彩子。
浅野「裕太か拓馬、いない?」
彩子「いないみたいだけど……」
浅野「じゃあさ、戻ってきたら『今日の部活は体育館に変更だから』って伝えといてくれる?」
彩子「うん、わかった」
浅野「ありがとう。……あ、できれば裕太に言っておいてくれる?」
彩子「いいけど、何で」
浅野「その方が都合いいからさ」
彩子「ふ~ん、わかった、伝えとくね」
浅野「ごめんね、よろしく」
   歩いて行く浅野。席に戻る彩子。
彩子「何の都合だろ?」
    ×     ×     ×
   教室に入ってくる小池と久我。小池に歩み寄る彩子。
彩子「小池君」
   少し驚いた表情の小池。
小池「な、何?」
彩子「さっき浅野君が来て『今日の部活は体育館に変更だ』って伝えてって。久我君にも」
小池「あ、わ、わかった。ありがとう」
    ×     ×     ×
   チャイムが鳴る。
   彩子の左隣の席に小金沢さくら(17)が座る。尚、この時右隣の久我の席の周辺を東山がウロウロしている。
彩子「あ、さくら。お帰り」
さくら「ただいま。……あ、彩子と宇佐美って、確か幼なじみだったよね」
彩子「うん。そうだけど」
さくら「あいつマジで面白いね」
彩子「え?」
さくら「あれ、彩子知らないの? 宇佐美の奴『不良デビューです』って言って、屋上で授業サボってたよ?」
   言いながら笑うさくら。驚く彩子。
彩子「ケーちゃんが、不良デビュー!?」
   目を閉じる彩子。

○(イメージ)同・屋上
   タバコを吸う宇佐美。
   ケンカをする宇佐美。
   カツアゲをする宇佐美。

○同・二年四組
   目を開ける彩子。首を傾げる。
彩子「やっぱり、イメージできないな……」
   携帯電話を取り出す彩子。操作する。
   携帯電話に映るメールの画面。宛先は宇佐美、本文は「何で屋上にいるの? 不良デビューって何?」と書いてある。送信画面に切り替わる。
彩子「……あ、でも電源切ってるんだっけ」
   社会科教師が教室に入ってきて、教壇に立つ。
   それを見て席に着く生徒達。ただし教壇の前で話をしている小池と久我は社会科教師の存在に気づいていない様子。
社会科教師「二人とも、さっさと席に着け」
   笑いが起こる教室。笑う彩子。何か小声で言いながら席に戻る小池と久我。
久我「マジでハメられた~」
   笑う彩子。

○同・外観
   一二時を示す時計。
   T「辻彩子のカギ 2」

○同・二年四組
   世界史の授業を受ける彩子、久我ら生徒達。机の上には教科書の他、プリントが置かれている。尚、小池をはじめ寝ている生徒もちらほらと見受けられる。
社会科教師「じゃあ、前回配ったプリントの問題を答えてもらおうか。前回の続きだと……久我拓馬」
久我「え~、俺かよ~」
社会科教師「いいから、一から三に入る答えを言いなさい」
   立ち上がる久我。
久我「一番が一〇九六年、二番が十字軍、三番がエルサレム」
社会科教師「正解だ。座っていいぞ」
   座る久我。
彩子「さすがだね」
久我「俺も自分の才能が恐いわ」
   笑う彩子。
社会科教師「……東山、どうかしたか?」
   振り返る彩子。立っている東山。
東山「飯、食う」
   歩き出す東山。
社会科教師「おい、ちょっと待て、東山」
   教室を出る東山。
社会科教師「まったく……」
   失笑が漏れる教室。
彩子「東山君も面白いな~」
    ×     ×     ×
   机に突っ伏して寝ている生徒の数が確実に増えている。
   ノートをとっている彩子。
社会科教師「じゃあ、教科書の一二八ページを読んでもらおうかな。久我の次だから……小池裕太」
   無言の教室。
社会科教師「小池、おい小池」
   振り返る彩子。机に突っ伏して寝ている小池。ため息をつく社会科教師。
社会科教師「仕方ないな。小池の次は……小金沢さくら。読んで」
さくら「はぁ~? マジ最悪なんだけど」
   立ち上がるさくら。教科書を読む。
   小池の席に近づいて行く社会科教師。
   携帯電話のバイブ音。机の下で携帯電話を開く彩子。画面に「新着メール 1件」の文字。
   教科書を読み終えて座るさくら。
社会科教師「授業中の携帯電話の使用は禁止なのは知っているな?」
   慌てて携帯電話を閉じる彩子。振り返る。真実の後ろに立つ社会科教師。
真実「……すいませんでした」
社会科教師「じゃあ没収。放課後、職員室に取りに来なさい」
真実「いや、マジで反省してるんで、それだけは勘弁して下さいよ~」
社会科教師「そういう決まりだから」
真実「……マジあり得ねぇ」
   社会科教師に携帯電話を渡す真実。
   ほっとする彩子。
彩子「(小声で)危ない危ない」
   携帯電話をしまう彩子。
    ×     ×     ×
   半分近い生徒が机に突っ伏して寝ている。
   ノートをとっている彩子。
社会科教師「じゃあ教科書の……」
   教室に入ってくる美羽。不機嫌そうな表情。
社会科教師「伊藤、遅刻だぞ」
美羽「あ、電車止まってたんで」
   席に着く美羽。
社会科教師「じゃあ教科書の一二九ページ。次は……五島洋平だな。読んで」
五島「教科書か、助かったわ~」
   立ち上がる五島。
社会科教師「何か言ったか?」
五島「いや、何でもあらへんですわ。え~っと、一二九ページやな……」
小池「待って!」
   振り返る彩子。右手を前に伸ばして立っている小池。
社会科教師「小池、何か質問か?」
小池「……いえ、何でも無いです」
   失笑する生徒達。失笑する彩子。恥ずかしそうに着席する小池。
社会科教師「おい五島、早く読め」
五島「いや『待って』言うから、待ってた方がええんかな~、思うて」
   笑う生徒達。笑う彩子。

○同・外観
   一二時三〇分を示す時計。
   T「辻彩子のカギ 3」

○同・二年四組
   立って教科書を読んでいる五島。
   笑いをこらえている久我。それを見る彩子。久我と目が合う。
久我「裕太の奴、バカだよな」
彩子「う~ん、まぁ、ちょっとかわいそうだけどね」
久我「え、バカだとは思わない?」
彩子「うん。さすがにそこまでは、ね」
久我「じゃあさ、裕太の事どう思う?」
彩子「どうって……まぁ『悪い人じゃないんだろうな~』くらいかな?」
久我「ふ~ん、なるほどね~」
   満足そうな表情の久我。
   首を傾げる彩子。

○同・外観
   一二時四〇分を示す時計。
   チャイムが鳴る。

○同・二年四組
   教室を出る社会科教師。走って教室を出る久我。
   携帯電話を開く彩子。メールの画面が映り、差出人に宇佐美、本文には「今は練習中です」と書いてある。
彩子「練習中って……何の練習?」
   目を閉じる彩子。

○(イメージ)同・屋上
   タバコを吸う宇佐美。
   ケンカをする宇佐美。
   カツアゲをする宇佐美。

○同・二年四組
   目を開ける彩子。
彩子「やっぱり、想像できないな~」
   弁当箱を持って席を立つ彩子。美羽の席に向かう。
彩子「美羽、今日遅かったじゃん」
美羽「彩子、話聞いてくれるよね?」
彩子「また白石君とけんかしたの?」
美羽「いや、今度の今度はマジで絶対に和己が悪いんだから」
彩子「わかったわかった。純が来てからね」
美羽「うん」
   美羽の席と近くの机をくっつける彩子。五島がやってくる。
五島「おい辻、結局宇佐美は保健室におらんかったで」
彩子「あ~、何か屋上にいるらしいよ。不良デビューだ、ってメールが来たから」
五島「……は? 何やそれ、めっちゃおもろそうやん。ちょっと屋上行ってくるわ」
   教室を出て行く五島。すれ違い様に入ってくる玉置純(17)。スカートの下にジャージをはいている、ボーイッシュな女子生徒。
純「お待たせ~」
   美羽の隣の席に座る純。
    ×     ×     ×
   弁当を広げている彩子と美羽と純。
美羽「そしたら和己がいきなり逆ギレしてきた訳。マジ信じられる?」
彩子「あ~、それは白石君が悪いね」
純「白石って、細かい事を超気にするからな~」
美羽「そうそう、そうなんだよ~」
純「それで、その後どうなった訳?」
美羽「で、ちょうどそこで電車来たから『一緒に行きたくないから、一人で先に乗ってよ』って言ったら」
純「まさかの?」
美羽「マジで一人で乗って先に行っちゃったんだから。マジ信じられないでしょ?」
純「ありえね~」
彩子「あ~、それはちょっとひどいかも」
美羽「そしたら、次の電車が事故で止まっちゃっててさ。大遅刻だから」
純「超ツイてないね」
美羽「という訳で、今日は三人でどっか買い物ね。ウチのストレス発散に付き合ってもらうから」
純「いいね、行こう行こう」
彩子「純、部活はいいの?」
純「バレー部は今日休み。先生出張だって。超ラッキーなんだけど」
美羽「よし、じゃあ決定だから」
彩子「オッケ~」
   白石和己(17)が教室に入ってくる。カフェオレを二本持っている。
白石「美羽」
美羽「!? ……何だ、和己か。何か用?」
   カフェオレ一本を美羽に差し出す白石。
美羽「え、ウチにくれんの?」
白石「悪かったよ、今日は」
美羽「ありがとう~。ウチの方こそ、何かごめんね~」
白石「いや、あれは俺が悪かったよ」
美羽「いや、ウチも……」
   白石と美羽を冷ややかな目で見ている彩子と純。
純「結局、こういうオチか」
彩子「まぁ、予想通りだけどね」
純「カフェオレ一本で、こんなにあっさり仲直りできるカップルって、超珍しいよね」
彩子「多分ね」
純「あーあ、仲のよろしい事」
   おかずを口に運ぶ彩子と純。
白石「あっ!」
美羽「どうしたの?」
白石「自販機からお釣り持ってくるの忘れたかも」
美羽「え~、ヤバいじゃん。いくら?」
白石「五百円玉入れて、カファオレ二本買ったから……三百円だ。どうしよう、今からでも取りに行った方がいいかな?」
美羽「どうだろう? 彩子はどう思う?」
彩子「もう誰かに取られてると思うけど」
純「ウチもそう思う。白石も男ならスパッと諦めな」
白石「あ~、やっちまった~」
   顔を寄せる彩子と純。
純「あーあ、細かい事を気にする奴は嫌だね~」
彩子「まぁね」

○同・外観
   一三時を示す時計。
   T「辻彩子のカギ 4」

○同・二年四組
   二人で話をしている美羽と白石。弁当を食べている彩子と純。
純「ねぇ、昨日の『ラフプラ』って観た?」
彩子「観てないけど?」
純「そっか。ウチも観てないんだけど、何か超面白かったらしいんだよね」
彩子「そうなんだ~」
純「ねぇ、二人は観た?」
   美羽と白石に視線を向ける彩子と純。
   気付かずに話し続ける美羽と白石。
純「お~い、そこのお二人さ~ん」
美羽「あ、ごめんごめん。何?」
純「昨日の『ラフプラ』って観た?」
美羽「ウチは観てないな~。和己は?」
和己「俺も観逃した。何か、昨日のはかなり面白かったらしいんだよね」
美羽「へぇ、そうなんだ~。ウチも観たかったな~」
   再び二人だけで話し始める美羽と白石。その姿を呆れながら見ている彩子と純。
純「あーあ、仲のよろしい事」
彩子「まぁ、平和でいいけどね」
   おかずを口に運ぶ純と彩子。
純「ところでさ、『名探偵チャールズの事件簿』の最新話って読んだ?」
彩子「あ~、まだ途中までしか読んでないな~」
純「早く読んだ方がいいって。超面白いから。やっぱ、あの作者のヨウヘイって超天才だわ」
彩子「謎の作者・ヨウヘイね……」
純「名探偵の辻彩子さんは、ヨウヘイの正体はどんな人だと思いますか?」
彩子「そうだな……。案外、高校生くらいなんじゃないかな?」
純「へぇ、何で?」
彩子「言葉遣いとか、何となく歳が近そうな感じだから」
純「確かに。主人公のチャールズなんて、彩子の幼なじみに超そっくりだしね」
彩子「あぁ、ケーちゃんね。確かに、似てるかも」
純「ヨウヘイ高校生説か~。いいねぇ」
彩子「では、名探偵の玉置純さんは、ヨウヘイの正体をどう思われますか?」
純「そうだな~。頭脳明晰で運動神経抜群な超イケメン、って所かな?」
彩子「それって、純の希望じゃないの?」
純「大当たり」
   笑う彩子と純。
    ×     ×     ×
   弁当箱を片付けている彩子と純。美羽と白石の姿はない。
純「美羽、戻ってこないね」
彩子「また二組で白石君としゃべってるんでしょ」
純「あーあ、仲のよろしい事」
彩子「……ところでさ、今日の買い物の話、どうする?」
純「どうするって?」
彩子「このままだと、美羽は今日、白石君と仲直りのデートに行っちゃうと思うんだけど」
純「あ~、あり得るね。じゃあその場合は二人でデートしよっか」
彩子「そうしよ」
   席を立つ純。
純「じゃあ、そろそろウチは教室に戻るね」
彩子「また後でね」
   教室を出て行く純。
   座っていた席を元に戻す彩子。自分の席で携帯電話を操作している東山を見る。
彩子「ケータイ小説でも読んでたりして」
   自分の席に戻り、座る彩子。
彩子「さて、と。続きでも読もうかな」
   携帯電話を開く彩子。画面に『名探偵チャールズの事件簿3』と書いてある。

○(イメージ)マリアの家・外観

○(イメージ)同・中
   死体をチョークで囲った跡がある。その側で泣き崩れているレベッカとナンシー。その脇に立っているチャールズとブライアン。
   勢い良く部屋の扉が開き、アンソニーが姿を現す。
ナンシー「アンソニー君」
アンソニー「マリア、マリア~!」
ブライアン「被害者の婚約者、アンソニーさんやな?」
アンソニー「マリア、何でこんな事に……」
レベッカ「……ごめんなさい」
チャールズ「何か言いましたか?」
レベッカ「私のせいよ。きっとそうだわ。ごめんなさい、許して」
ナンシー「落ち着いて、レベッカ。一体何があったの?」
レベッカ「彩子、ごめんね」

○田所高校・二年四組
   座ったまま顔を上げる彩子。目の前に立ち、両手を合わせている美羽。尚、時折背後に小池の姿が見え隠れする。
彩子「どうしたの、美羽?」
美羽「ウチから言い出しといてアレなんだけど、今日さ……」
彩子「白石君とデート?」
美羽「そういう事になっちゃったから……」
彩子「まぁ、そんな事だろうと思ってたよ」
美羽「あ、彩子にはお見通しだった? いや、マジでごめんね~」
彩子「別にいいって。今日は純とデートするから」
美羽「あら、お似合いのカップル」
彩子「そちらのお二人には負けますけどね」
美羽「だから、また今度ね。今度は恋愛よりも友情をとるから」
彩子「うん、また今度ね」
   自分の席に戻る美羽。
   久我がやってきて、席に座る。
久我「よっ、今日はデートなんだって?」
彩子「え、聞こえてた?」
久我「俺の聴力はマサイ族並みだからな」
彩子「マサイ族って、耳いいんだっけ?」
久我「そんな事より、俺に許可無く男を作るなんて……」
彩子「え? いやいや、今日のデートの相手は、れっきとした女の子だから」
久我「なるほど。まぁ、昔と比べたら同性愛者に対して寛容な世の中にはなったよな」
   笑う彩子。
   前方のドアから五島、真実、宇佐美が入ってくる。
   席を立つ彩子。宇佐美に駆け寄る。
彩子「おかえり、ケーちゃん」
宇佐美「あ、彩ちゃん。ただいま」
彩子「『不良デビュー』って、一体何してたの?」
宇佐美「授業サボったり、早弁したり、色々です」
   胸を張る宇佐美。
   ほっとする彩子。
彩子「……で、戻ってきたって事は、不良はもう終了?」
宇佐美「本当は午後の授業もサボる予定だったんですけど……」
   窓の外を見る宇佐美。釣られて窓の外を見る彩子。曇り空が広がっている。
彩子「予定だったけど?」
宇佐美「これから雨が降るって聞いたんで、戻ってきたんです」
彩子「え? 雨降るの?」
宇佐美「……みたいです。じゃあ僕は席に戻りますね。次の時間も、やる事あるんで」
   一礼して歩き出す宇佐美。彩子共々、自分の席に座る。
   突如、豪雨が降り始める。
   それを見て驚く彩子。
久我「こりゃ、デートできなさそうだな」
彩子「そうだね」
久我「怨むなら、裕太を怨むんだな」
彩子「小池君を? 何で?」
久我「あいつのせいで降ってるようなもんだからな」
   首を傾げる彩子。

○同・外観
   一三時三〇分を示す時計。
   チャイムが鳴る。

○黒味
   T「辻彩子のカギ 完」

○田所高校・外観
   一一時三〇分を示す時計。
   T「宇佐美恵介のカギ 1」

○同・屋上
   話をしているカップル。
   ダンスをしている女子生徒達。
   寝ている男子生徒。
   フェンスに寄りかかり体育座りをしている宇佐美。クロスワードパズルの雑誌を開いている。上履きに「宇佐美恵介」と書いてある。
   クロスワードパズルは、まだ一問も埋まっていない。
宇佐美「『生麦生米生○○○』ですか。タマゴ、ですね」
   雑誌にペンで書き込む宇佐美。

○同・外観
   一一時四〇分を示す時計。
   チャイムが鳴る。

○同・屋上
   クロスワードパズルの雑誌にペンを走らせる宇佐美。   
   クロスワードパズルは半分が埋まっている。
宇佐美「『魔法のランプを手にします』ですか。……アラジン、ですね」   
   宇佐美の前を通るさくら。宇佐美を見て驚く。
さくら「あれ、宇佐美?」
宇佐美「あ、小金沢さん。こんにちは」
さくら「こんな所で何やってんの?」
宇佐美「サボってます」
   驚くさくら。
さくら「あの超マジメ君が、どういう心境の変化な訳?」
宇佐美「不良デビューです」
   吹き出すさくら。
   不思議そうな表情の宇佐美。
さくら「マジウケんだけど~。まぁ、せいぜい頑張れよ~」
宇佐美「はい、頑張ります」
   笑顔の宇佐美。
   他の女子生徒とともに屋上を後にするさくら。

○同・外観
   一一時五〇分を示す時計の針。
   チャイムが鳴る。

○同・屋上
   入口から多くの生徒が姿を現す。
   クロスワードパズルの雑誌にペンを走らせる宇佐美。
   クロスワードパズルは、全ての回答が埋まっている。
宇佐美「できました」
   雑誌を閉じる宇佐美。宇佐美の前を通る平岡浩司(17)。宇佐美を見て驚く。
平岡「あれ、お前……?」
宇佐美「あ、平岡君。こんにちは」
平岡「何してんだ、ヤマモト?」
宇佐美「……宇佐美です」
平岡「あ、悪ぃ悪ぃ。で、こんな所で何してんだ、宇佐美?」
宇佐美「サボってます」
平岡「何でまた、そんな事」
宇佐美「不良デビューです」
   吹き出す平岡。
   不思議そうな表情の宇佐美。
平岡「お前面白ぇな」
宇佐美「ありがとうございます」
   宇佐美の隣に座る平岡。
平岡「何でお前みてぇな超マジメ野郎が、急に不良なんだよ」
宇佐美「そうですねぇ……」
   考え込む宇佐美。
宇佐美「平岡君って、兄弟いますか?」
平岡「何だよ、いきなり」
宇佐美「ですから、兄弟です。いますか?」
平岡「あぁ、兄貴がいるけど」
宇佐美「僕は一人っ子なんです」
平岡「あぁ、いいよな、一人っ子って。何か羨ましいわ」
宇佐美「それです」
   平岡を指差す宇佐美。
平岡「は?」
宇佐美「僕は『兄弟がいる人っていいな~』って思いますし、平岡君は『一人っ子っていいな~』って思うじゃないですか」
平岡「話が見えねぇな」
宇佐美「つまり同じような感じで、僕は『不良っていいな~』って憧れていた訳です」
平岡「で、不良デビューっていう訳か」
宇佐美「はい」
平岡「なるほどな。何かわかったような気がするわ」
宇佐美「良かったです」
   笑顔の宇佐美。
   宇佐美をじっくりと観察する平岡。
平岡「でも、特に外見で何か変わったようには見えねぇんだけど」
宇佐美「……そうですね、まだ何をどうしたらいいのかがわからないので」
平岡「なるほどねぇ」
   考え込む平岡。
平岡「よっしゃ」
   手を叩く平岡。
平岡「俺がお前を不良にしてやるよ!」
宇佐美「本当ですか!?」
平岡「おぅ、俺に任せとけ、ノグチ!」
宇佐美「……宇佐美です」
平岡「悪ぃ悪ぃ」
   頭を掻く平岡。

○同・外観
   一二時を示す時計。
   T「宇佐美恵介のカギ 2」

○同・屋上
   立っている宇佐美と、向かい合うようにあぐらをかいて座っている平岡。
平岡「任せとけ、と言ったはいいけどよ」
宇佐美「はい」
平岡「お前の場合、直す所が多すぎんだよなぁ……」
宇佐美「すいません」
   宇佐美を指差す平岡。
平岡「まずは言葉遣いだな」
宇佐美「え、何か変ですか?」
平岡「変だろ。何で同級生の俺に敬語使ってんだよ。お前、育ちがいいのか?」
宇佐美「いえ、そういう訳では……。口癖みたいなものです」
平岡「じゃあ、直せ」
宇佐美「わかりました、気をつけます」
平岡「出来てねぇじゃん」
宇佐美「あ、すいません」
平岡「それもだよ」
宇佐美「えっと……すまん」
平岡「それも別の意味で変なんだけど……まぁ、いっか」
宇佐美「後は、どうしたらいいですか?」
平岡「そうだなぁ……」
   頭を掻く平岡。
   制服の詰め襟まで締め、きちんと上履きを履き、体育座りをする宇佐美の姿。
    ×     ×     ×
   制服の第一ボタンまで開け、上履きのかかとを潰して履き、あぐらをかく宇佐美。
   一息つく平岡。
宇佐美「何か、凄く不良っぽくなった気がします」
   笑顔の宇佐美。
平岡「何言ってんだよ。それでやっと平均的な高校生になった所だって」
宇佐美「そうなんですか? じゃあ、他にどこを直せばいいんですか?」
平岡「う~ん……」
   考え込む平岡。何かを思い出す。
平岡「あれだ、休み時間に勉強するのは、不良としてあるまじき行為だな」
宇佐美「え? 何の事ですか?」
平岡「いやいや、お前休み時間になると、参考書みたいなの開いてんじゃん。俺、去年何回も見たぜ?」
宇佐美「……あ、もしかしてこれの事ですかね?」
   傍らに置いてあるクロスワードパズルの雑誌を指差す宇佐美。雑誌を手に取る平岡。
平岡「クロスワードねぇ……。面白ぇの?」
宇佐美「はい。面白いですよ。趣味です」
平岡「ふ~ん……」
   雑誌を開き、ページをぱらぱらとめくっていく平岡。
平岡「……何コレ。……ムズっ」
   本を閉じて置く平岡。
宇佐美「これもやめた方がいいんですか?」
平岡「ん~、まぁ、不良っぽい趣味じゃねぇけど、いいんじゃね? 好きにすれば」
宇佐美「はい、じゃあ好きにします!」
   笑顔の宇佐美。吹き出す平岡。
平岡「やっぱりお前面白ぇな。……そうだ」
   ポケットから携帯電話を取り出す平岡。
平岡「アドレス教えてくれよ」
宇佐美「あ、はい」
   ポケットに手を入れる宇佐美。携帯電話を取り出すと同時に、鍵が落ちる。
宇佐美「あ」
   鍵を拾う平岡。
平岡「何だこれ。お前ん家の鍵?」
宇佐美「いえ、今朝拾ったんです」

○(回想)同・廊下
   歩いている宇佐美。
   床に落ちている鍵。
宇佐美の声「教室の前の廊下に落ちてたんですよ」
   鍵を拾う宇佐美。ポケットに入れる。

○同・屋上
   鍵を持つ宇佐美。
宇佐美「届けなきゃ、と思っていたんですけど、すっかり忘れてました」
平岡「何か、偉いんだか偉くねぇんだかわかんねぇな」
宇佐美「どうしましょう?」
平岡「まぁ、後で考えりゃいいだろ。それよアドレスだよ」
宇佐美「あ、ちょと待って下さい。今、電源入れますから」
   携帯電話の電源ボタンを押す宇佐美。
平岡「何で電源切ってたんだよ」
宇佐美「いや……授業中は切ってた方がいいかな、と思ったので」
平岡「んな事しなくていいんだよ。っていうか、サボってんだから関係ねぇじゃん」
宇佐美「そういえば、そうですね。じゃあこれからは電源入れておきます」
平岡「あ、でもマナーモードにはしといた方がいいぞ」
宇佐美「何でですか?」
平岡「そうすりゃ、授業中でもメールできるだろ」
宇佐美「なるほど。確かにその方が不良らしいですね」
平岡「だろ?」
宇佐美「はい。……あ、電源入りました」
平岡「よっしゃ」
   赤外線通信をする宇佐美と平岡。
平岡「よし、OK」
宇佐美「はい。……あ、メールが来てる」
   メール受信の携帯電話の画面。
   差出人に「辻彩子」と書いてある。
宇佐美「彩ちゃんからか……」
   メールの本文に「何で屋上にいるの? 不良デビューって何?」と書いてある。
宇佐美「何で知ってるんでしょう?」
平岡「なに、女からメールか? お前も隅に置けねぇな」
   首を横に振る宇佐美。
宇佐美「いや、そういうんじゃないですよ」
平岡「どうだかな~? ……ほれ、早く返信しろよ~」
宇佐美「はい、わかりました」
   携帯電話を操作する宇佐美。
    ×     ×     ×
   弁当を食べている宇佐美。
   メロンパンを食べている平岡。クロスワードパズルの雑誌を見ている。
平岡「なぁ、『牛乳入りコーヒーの事』ってよ、コーヒー牛乳じゃねぇのか?」
宇佐美「さぁ……違うんですか?」
平岡「だってよ、回答欄は五文字なんだよ」
宇佐美「あぁ……じゃあ、カフェオレじゃないですかね?」
平岡「おぉ、そっかそっか」
   メロンパンの最後の一口を食べ、雑誌に回答を記入する平岡。
   弁当を食べている宇佐美。
平岡「どうだ、初めての早弁は?」
宇佐美「何かいいですね。不良だな、って感じです」
平岡「そうか。……お、その玉子焼き美味そうだな。貰っていいか?」
宇佐美「あ、いいですよ」
   宇佐美の弁当から玉子焼きを一切れとる平岡。再び雑誌を見る。
平岡「じゃあさ、『エルサレムを奪還するために派遣された遠征軍』って何だ?」
宇佐美「……ちょっとわからないですね」
平岡「使えねぇな~」
   考え込む平岡。宇佐美と平岡の前を通る東山。
平岡「お、ニシヤマじゃん」
東山「東山、だ」
平岡「悪ぃ悪ぃ」
   頭を掻く平岡。
宇佐美「東山君、こんにちは」
東山「宇佐美、本当に屋上にいた」
平岡「東山もサボりか?」
東山「昼、食べにきた」
平岡「そっか。……あ、ちょうどいい所に来たな。『エルサレムを奪還するために派遣された遠征軍』って何だかわかるか?」
東山「十字軍、だな」
平岡「ジ、ユ、ウ、ジ、グ、ン。おぉ、ピッタリじゃねぇか。さすが『何でも知ってる』男だな」
宇佐美「凄いですね」
   床に置いてある鍵を指差す東山。
東山「その鍵、宇佐美のか」
宇佐美「いえ、今朝拾ったんです」
平岡「持ち主不明なんだけどよ、お前はこれが誰の鍵だかわかるか?」
東山「見当、ついてる」
平岡「うおっ、マジかよ。さすがだな」
東山「鍵、預かっていいか」
平岡「おうおう、任せたぜ」
   東山に鍵を渡す平岡。
宇佐美「よろしくお願いします」
   その場を去っていく東山。
平岡「いやぁ、これで一つ肩の荷が下りたな」
宇佐美「そうですね」
平岡「何か安心したら腹減っちまったよ」
宇佐美「さっき食べ終わったばかりじゃないですか」
平岡「足りねぇな。やっぱり、三時間目の体育が響いてんな」
宇佐美「バスケですか」
平岡「そうなんだよ。あの瀬田とかいうセンコー、バカみてぇにマジな基礎練やらせやがってよ」
宇佐美「そうなんですか」
平岡「バスケ部の顧問だとか言ってたから、部活と勘違いしちまったんだろ。マジでやってらんねぇっつーの」
宇佐美「大変でしたね」
平岡「仕方ねぇ、購買でパン買ってきてもらおうっと」
   携帯電話を操作する平岡。
宇佐美「誰にメールしてるんですか?」
平岡「ん? 彼女」
宇佐美「平岡君って、彼女いるんですね」
平岡「おう。多田真実って言うんだけど、知ってるか?」
宇佐美「あ、ウチのクラスの人です」
平岡「へぇ、お前四組だったんだ」
宇佐美「はい」
平岡「お前もさ、不良になればモテるぜ? 少なくとも今よりはな」
宇佐美「本当ですか? 頑張ります」
平岡「じゃあ、まずは言葉遣いだな。結局直ってねぇし」
宇佐美「すいません」
平岡「まぁ、すぐには直せっつっても無理だろうし、徐々にやろうぜ、ウツノミヤ」
宇佐美「……宇佐美です」
平岡「悪ぃ悪ぃ」
   頭を掻く平岡。

○同・外観
   一二時三〇分を示す時計。
   T「宇佐美恵介のカギ 3」

○同・屋上
   弁当箱を片付けている宇佐美。クロスワードパズルの雑誌を見ている平岡。
平岡「なぁ、『捨てる神あれば○○○神あり』って、何だ?」
宇佐美「拾う、だと思います」
平岡「おぉ、それだそれだ。オッケー、完成したぜ~」
   全て埋まったクロスワードを宇佐美に見せる平岡。
宇佐美「まだ終わってないですよ」
平岡「は? どこがだよ」
宇佐美「最後に二重枠の文字をABC順に並び替えるんです」
平岡「何でそんな事すんだよ」
宇佐美「それが、そのクロスワードパズルの答えだからです」
平岡「へぇ、そうなんだ。どれどれ……ホ、ン、ジ、ツ、ハ、セ、イ、テ、ン、ナ、リ……。『本日は晴天なり』か」
   空を見上げる宇佐美と平岡。
   曇り空が広がっている。
平岡「曇りじゃねぇかよ」
宇佐美「それは、僕に言われましても……」
   仰向けに寝転がる平岡。
平岡「お前もちょっと寝てみ」
宇佐美「あ、はい」
   仰向けに寝転がる宇佐美。
   曇り空が広がっている。
平岡「お前さ、こういう風に空見た事なんてねぇんだろ」
宇佐美「はい、初めてです」
平岡「どうだ?」
宇佐美「何かいいですね、こういうのも」
平岡「だろ? 何も考えずにボケ~ッと空を眺める何て、優等生にはできねぇからな。不良の特権だぜ」
宇佐美「はい」
   空を見ている二人。
平岡「本当は、晴れてるともっと気持ちいいんだけどな」
宇佐美「そうなんですか。明日は晴れるといいですね」
   宇佐美を見る平岡。
平岡「明日も来んのか?」
   平岡を見る宇佐美。
宇佐美「いけませんか?」
平岡「いや、大歓迎だぜ」
宇佐美「ありがとうございます」
   お互いの顔を見ながら笑い合う二人。

○同・外観
   一二時四〇分を示す時計。
   チャイムが鳴る。

○同・屋上
   弁当を広げる女子生徒達。
   談笑する男子生徒達。
   フェンスに寄りかかり、並んで座っている宇佐美と平岡。
   真実が二人の前に来る。
真実「浩司、やっぱりここにいたんだ」
平岡「お、真実。早かったな」
   宇佐美に気付く真実。
真実「……っていうか、宇佐美!? 何でこんな所にいるの?」
宇佐美「多田さん、こんにちは」
平岡「いやさ『不良になりたい』って言うから、俺が指導してやってたんだよ」
   吹き出す真実。
   不思議そうな表情の宇佐美。
真実「宇佐美が不良? マジあり得ねぇ」
平岡「やっぱりそう思うよな~」
   笑う平岡と真実。
平岡「あ、そんな事より」
   両手を差し出す平岡。
真実「何? その手?」
平岡「何って、俺の焼きそばパンだよ」
真実「はぁ? 知らねぇよ?」
平岡「いやいや、メールしたじゃねぇかよ」
真実「あ~。っていうかさ、ケータイ没収されちゃったんだよね」
   ため息をつく真実。
平岡「はぁ? 何で?」
真実「授業中にいじってたら先生に見つかっちゃってさ。即没収。マジあり得ないんだけど」
平岡「アホかお前」
真実「アホって言うな」
平岡「じゃあ、俺の焼きそばパンはどうなるんだよ」
真実「知らねぇよ。自分で買ってくればいいじゃん」
平岡「何だよ、その言い方は!」
   立ち上がって口論を始める平岡と真実。
   二人の顔を交互に見る宇佐美。
平岡「おい、フカミ!」
宇佐美「……宇佐美です」
平岡「宇佐美、行くぞ!」
   歩き出す平岡。慌てて付いて行く宇佐美。
宇佐美「え、どこにですか?」
平岡「購買だよ、購買! 仕方ねぇから自分で行くんだよ! 誰かさんがドジっちまったからよ!」
真実「人のせいにしてんじゃねぇよ!」
   早歩きの平岡。小走りで付いて行く宇佐美。

○同・廊下
   ビニール袋を持った平岡。不機嫌そうな表情。後ろから付いてくる宇佐美。
平岡「ったく、結局焼きそばパン買えなかったじゃねぇかよ」
宇佐美「焼きそばパンって、人気ありますからね」
   自動販売機の前を通る平岡。立ち止まる。それに合わせて立ち止まる宇佐美。
平岡「ちょっと待ってろ。飲み物買うからよ」
   財布から百円玉を取り出し、自動販売機に入れる平岡。
   カフェオレの下に「100円」と書いてある。ボタンを押す。
宇佐美「平岡君って、カフェオレが好きなんですか?」
平岡「いや、別に? 何でか知らねぇけど、カフェオレが飲みたくなったんだよ」
宇佐美「そうですか」
   自動販売機からカフェオレを取り出す平岡。お釣りのレバーに手をかける。
   お金の落ちる音。
   お釣りを取り出す平岡。手の中に百円玉が三枚。
平岡「お、超ラッキー!」
   笑顔の平岡。三枚の百円玉を宇佐美に見せる。
宇佐美「前に買った人が取るの忘れてたんですかね?」
平岡「やっぱりな、捨てる神あれば拾う神あり、だぜ」
   百円玉を二枚、自動販売機に入れる平岡。カフェオレのボタンを二度押す。
   カフェオレ二本を取り出す平岡。
宇佐美「三本も飲むんですか?」
平岡「そんなに飲める訳ねぇだろ。ほれ」
   カフェオレを一本、宇佐美に手渡す平岡。
宇佐美「え?」
平岡「『え?』じゃねぇよ。お前の分」
宇佐美「いいんですか?」
   笑顔の宇佐美。
平岡「おう、俺のおごりだ」
   歩き出す平岡。後ろから付いて行く宇佐美。
宇佐美「じゃあ、もう一本は?」
平岡「そんなん、決まってんだろ」
   笑う平岡。

○同・屋上
   カフェオレを真実に手渡す平岡。
真実「お~、何、浩司のおごり?」
平岡「おう、色々あってな」
   平岡と顔を見合わせる宇佐美。
真実「サンキュー」
   笑い合う平岡と真実。それを見て微笑む宇佐美。

○同・外観
   一三時を示す時計。
   T「宇佐美恵介のカギ 4」

○同・屋上
   フェンスに寄りかかり、並んで座っている平岡と真実。二人の正面に座る宇佐美。玉子サンドを食べる平岡。
平岡「そういやさ、昨日の『ラフプラ』って観たか?」
真実「あ~、観んの忘れた~」
平岡「俺も観てねぇんだけどよ、何かめちゃくちゃ面白かったらしいんだよな」
真実「そうなんだ~」
平岡「お前は? 観てねぇか?」
   宇佐美を見る平岡。首を横に振る宇佐美。
宇佐美「あの、その『ラフプラ』って何ですか?」
   驚く平岡と真実。
真実「宇佐美、『ラフプラ』知らねぇの?」
平岡「おいおい、マジで言ってんのかよ」
宇佐美「……はい」
真実「マジあり得ねぇんだけど」
平岡「『ラフプラ』っていうのは、深夜にやってるお笑い番組だよ」
真実「めっちゃ面白ぇんだよ?」
宇佐美「そうなんですか……」
平岡「でも、正式名称何って言ったっけ?」
真実「笑う惑星って書いて『笑惑星』でしょ」
平岡「そうだそうだ。でも何で、笑う惑星って書いて『ラフプラ』なんだ?」
真実「さぁ?」
宇佐美「ラフプラネットの略じゃないですか?」
真実「ヤバっ。コイツ天才。誰かさんと大違い」
平岡「あぁ、もう。そんな事はどうでもいいんだよ。来週からは絶対に観るんだぞ」
宇佐美「はい、わかりました」
平岡「よし」
   頷く平岡。
   五島が歩いてくる。
五島「お~、宇佐美。やっと見つけたで」
宇佐美「あ、五島君。こんにちは」
五島「屋上におる聞いて来たんやけど、全然見つからんさかい、屋上一周してしもうたわ」
宇佐美「すみません。少し前まで、購買に行ってたんです」
五島「そら、しゃあないわな」
   平岡を見る五島。
五島「おう、平岡やんか」
平岡「よっ、ゴシマ。久しぶりだな」
五島「だからゴシマちゃうわ。五つの島と書いてゴ・ト・ウや! 何遍同じボケかますねん」
平岡「悪ぃ悪ぃ」
   頭を掻く平岡。宇佐美を見る五島。
五島「平岡と一緒におるっちゅう事は、不良デビュー言うんは、ほんまらしいな」
宇佐美「はい、そうです」
五島「で、その辺の話を詳しく聞きたいんやけど……、平岡、ちょっと宇佐美借りてもええか?」
平岡「おう、持ってけや」
五島「おおきに。ほな、宇佐美ちょっとこっち来てくれや」
   歩き出す五島を追いかける宇佐美。
    ×     ×     ×
   向かい合う宇佐美と五島。
五島「で、何でお前が不良でビューやねん」
宇佐美「それなんですけど、五島君って兄弟いますか?」
五島「いや、おらんで。一人っ子や」
宇佐美「あ、そうですか……。じゃあどうしましょう」
五島「兄弟が何か関係あるんか?」
宇佐美「いや、関係はないんですけど……」
五島「ないんかい」
   考え込む宇佐美。
宇佐美「つまり、人は自分と違う境遇の人に憧れるって事です」
五島「何やようわからんけど、おもろいな。その設定、貰うてもええか?」
宇佐美「また、ケータイ小説ですか?」
五島「せやで。何や、主人公のモデルを宇佐美にしとると、創作意欲がわくんやな、これが」
宇佐美「今度はどういうお話なんですか?」
五島「主人公のチャールズが、ひょんな事からギャングの組織に潜入捜査するんや」
宇佐美「なるほど」
五島「そこで出会うたギャングのショーンと友情が芽生えた所で、事件発生や」
宇佐美「どんな事件なんですか?」
五島「そこまでは教えられへん。カミングスーンや」
宇佐美「そうですか。でも、やっぱり登場人物は外国人なんですね」
五島「そらそやろ、主人公がチャールズで、ギャングの名前が山本やったら、おかしいやんか」
宇佐美「それもそうですね」
五島「で、使うてええんか?」
宇佐美「あ、はい。僕なんかでよければ」
五島「おおきに。あ、言わんでもわかってる思うけど……」
宇佐美「五島君がケータイ小説を書いている事は内緒に、ですか?」
五島「そういうこっちゃ。正体不明の作家っちゅうミステリアスな感じにしたいねん」
宇佐美「それって、効果あるんですか?」
五島「あるやろ。今頃俺の正体を、頭脳明晰で運動神経抜群な超イケメン、って思うてる人もおるかもしれんやろ?」
宇佐美「そうなんですか?」
五島「せやから、その夢を壊さんようにするのも、大事な使命なんやで」
宇佐美「凄いですね。わかりました、内緒にします」
五島「頼むで。この事知っとんのは宇佐美と東山くらいなんやからな」
宇佐美「あ、やっぱり東山君は知ってるんですね」
五島「せやねん。何か俺のファンや言うとったで」
宇佐美「そうなんですか」
五島「さて、そろそろ戻ろか」
宇佐美「はい」
   歩き出す五島。後ろから付いてくる宇佐美。

○同・外観
   一三時二五分を示す時計。

○同・屋上
   座って話をしている宇佐美と平岡と真実と五島。
五島「さて、ぼちぼち昼休みも終わりやな。教室戻ろか」
   立ち上がる五島と真実。座ったままの宇佐美と平岡。二人を不思議そうな表情で見る五島。
五島「何やお前ら、戻らへんのか?」
平岡「おう、午後もサボるからよ」
宇佐美「僕もです」
五島「せやけど、これから雨降るらしいで。屋上にはおらん方がええんちゃう?」
平岡「え、雨降んのか?」
   空を見上げる宇佐美と平岡。
   曇り空が広がっている。
平岡「そうは見えねぇけど」
宇佐美「今朝の天気予報でも、雨とは言っていなかったと思いますけど……?」
五島「何や、東山から聞いとらんのか?」
真実「そうだ、東山が来た時、二人とも購買に行ってたんだっけ」
平岡「東山が何て言ってたんだ?」
真実「『これから雨が降るから、屋上にはいない方がいい』って感じの事をね」
五島「ご丁寧に、屋上にいる全員に言ってまわったみたいやで」
   出口に視線を向ける宇佐美。
   次々に屋上をあとにする生徒達。
平岡「あいつが言うなら、確実に雨降んじゃねぇかよ」
宇佐美「あの、午後の授業はどうしましょうか?」
平岡「雨なら仕方ねぇな。教室戻るか」
宇佐美「わかりました。僕も教室に戻って、授業受けてきます」
平岡「それじゃダメだっつーの。授業中は寝るんだよ」
宇佐美「わかりました。頑張ります」
平岡「おう、頑張れよ、ウツミ」
宇佐美「……宇佐美です」
平岡「悪ぃ悪ぃ」
   頭を掻く平岡。

○同・廊下
   教室の入口に「2ー2」の文字。
   宇佐美、平岡、五島、多田が歩いている。
平岡「じゃあ、またな」
真実「また後でね」
五島「ほな」
宇佐美「今日はありがとうございました」
   教室に入って行く平岡。歩き出す宇佐美と五島と真実。
   教室の入口に「2ー4」の文字。
   教室に入って行く宇佐美と五島と真実。

○同・二年四組
   前方のドアから教室に入ってくる宇佐美と五島と真実。
   宇佐美に駆け寄る彩子。
彩子「おかえり、ケーちゃん」
宇佐美「あ、彩ちゃん。ただいま」
彩子「『不良デビュー』って、一体何してたの?」
宇佐美「授業サボったり、早弁したり、色々です」
   胸を張る宇佐美。
   ほっと胸を撫で下ろす彩子。
彩子「……で、戻ってきたって事は、不良はもう終了?」
宇佐美「本当は午後の授業もサボる予定だったんですけど……」
   窓の外を見る宇佐美。釣られて窓の外を見る彩子。
   曇り空が広がっている。
彩子「予定だったけど?」
宇佐美「これから雨が降るって聞いたんで、戻ってきたんです」
彩子「え? 雨降るの?」
宇佐美「みたいです。……じゃあ僕は席に戻りますね。次の時間も、やる事あるんで」
   一礼して歩き出す宇佐美。自分の席に座り、窓の外を見る。
   突如、豪雨が降り始める。
   驚く宇佐美。一つ前の席に座る五島が振り返る。
五島「ほんまに降ってきたな」
宇佐美「東山君は凄いですね」
五島「宇佐美、危なかったな。あのまま屋上におったら……」
宇佐美「ずぶ濡れになっていましたね」
   笑う宇佐美と五島。

○同・外観
   一三時三〇分を示す時計。
   チャイムが鳴る。

○黒味
   T「宇佐美恵介のカギ 完」

○田所高校・外観
   一六時を示す時計。
   雨はやんでいる。

○同・校門
   下校する生徒達。
東山N「人生は、クロスワードパズルのようなものである」

○同・体育館
   ジャージ姿でバスケをする小池と久我と浅野。大きなくしゃみをする小池。
   それを見て笑う久我と浅野。
東山N「タテのカギだけでは、全てのマスは埋まらない」

○市街地
   買い物をする彩子と純。
東山N「ヨコのカギだけでも、全てのマスは埋まらない」

○DVDショップ
   不良映画のDVDを手に取る宇佐美。
東山N「一つの視点からでは、物事の全体像は見えてこない」

○道路
   並んで歩いている平岡と真実。真実の手には携帯電話がある。
東山N「しかし、人間は複数の視点を持つ事はできない」

○電車・中
   携帯電話を操作している五島。
東山N「だからこそ、考えるべきである」

○コンビニ
   雑誌を立ち読みしているさくら。
東山N「明日も、彼らの人生は交差する」

○駅・ホーム
   口論している美羽と白石。
東山N「貴方の人生も、きっと誰かと交差する」

○田所高校・二年四組(夕)
   本を読んでいる東山。
東山N「そして、もしもその全てが見えたとしたら」
   本を閉じる。表紙に「クロスライフ」と書いてある。
東山N「一体、どんな答えが見えてくるのだろうか」

○黒味
   T「クロスライフ 完」
                   (完)

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