覆面戦士マスクドクリケット2号 舞台

彗星のように現れたNew Hero、覆面戦士マスクドクリケット2号の正体は佐々岡という名のさえないオジサンだった。 会社では上司と部下の板挟み、家庭では反抗期の娘に手を焼く佐々岡は、マスクドクリケットに変身している時だけ充実した気分を味わうことができていた。 だがそんなある日、全日本怪人組合の大首領はマスクドクリケットを倒す最悪の一手を思いついてしまう・・・。
松横丁 22 0 0 07/29
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第一稿

主な登場人物
マスクドクリケット2号・・M
佐々岡・・・・・・・・・・S
月子・・・・・・・・・・・T
千恵・・・・・・・・・・・C
藤木・・・・・・・・・・・F
黒田 ...続きを読む
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主な登場人物
マスクドクリケット2号・・M
佐々岡・・・・・・・・・・S
月子・・・・・・・・・・・T
千恵・・・・・・・・・・・C
藤木・・・・・・・・・・・F
黒田博士・・・・・・・・・K
大首領女人格・・・・・・・D
大首領男人格・・・・・・・d
タコサタン・・・・・・・・O

本文
プロローグ

パトカーのサイレンSE。野次馬SE。緞帳ダークオープン。声のみでニュースキャスター(N)

N 本日未明、全日本怪人組合を名乗る集団がファミリーレストラン・ロイヤルゲストに押し入った事件について続報が入りました。集団は襲撃当時店内にいた三十人を人質に取り、三億円を要求している模様です。

地明かりCI。タコサタンと組合員1がいる。タコサタンは受話器を持っている。

O 貴様もあきらめが悪いな、大臣。我々の手のひらには三十人の人質の命が乗っているのだよ。穏やかな昼下がりを地獄絵図に変えたくなければ早く金を用意したまえ。

タコサタン、電話を切る。組合員2が下手から入ってくる。

O 人質は大人しくしているか?

2ハンドシグナルをする。

O ふっふっふ、賢明なことだ。

タコサタンのセリフの途中で照明明滅。

O ん?ヒューズが切れたか?

暗転。打撲音SE。

O なんだ!?

明転。組合員12が倒れている。

O なんてことだ!?誰だ!誰がこんなことを!
M だれだ~だれだ~だれだ~っとこりゃ。
O この声は!

クリケット、セットの裏から登場。

M コオロギの仮面に人の心!覆面戦士、マ~スクドクリケット!

クリケット、ポージング。

M 2号!

爆発音SE。

O また貴様か!何度我々の邪魔をしたら気がすむんだ!?
M お前たちが下らないことやってる限りは何度でも邪魔してやるさ
O 下らないだと!
M 大体なんだファミレスって。金がほしかったら普通銀行だろ。
O 銀行強盗なんかしたらお急ぎの方々に申し訳ないだろ!
M なんでちょっと気ィ使ってんだ…。ファミレスだって迷惑には変わりないだろ。
O 平日の昼間からファミレスにいる者など、旦那には吉野家の牛丼並を食わせといて自
分はママ友とランチと洒落混むワイフどもしかおらぬわ!
M それお前の話か?苦労してんだな。
O 同情するなら金を呉れ!
M わあ、ノスタルジックなセリフ。
O このネタ通じるのか。お前実は結構年・・
M そんなこと言うな!子供の夢が壊れるだろうが!
O だれが貴様のような虫面に夢など抱くか。
M 蝶のように刺し、蜂のように舞う!昆虫舐めるなよ!
O 逆だ!逆!
M 構うか!行くぜ、クリケット、ラリアートっ!
O や、やめ・・!

クリケット、タコサタンにラリアットする。

O あべしっ・・!

タコサタン、倒れる。

M へっ、ウルトラCってとこかな。

クリケット、客席を向く。

M はいはいはいはい、今日も大分集まってるじゃないの。

クリケット、喋りながら舞台手前端まで歩いてきて縁のところに腰かける。

M しかしあんたたちも暇だねー。昼間っから俺のこと見に集まってきちゃったってわけ?そこの奥さんとか大丈夫?洗濯物終わってる?(ここら辺のセリフは当日の客に合わせて)見た感じ皆初めましてって感じだな。じゃあ、自己紹介も兼ねて回想編とかいっとく?

舞台袖から黒子が出てきて会社のセットを用意する。佐々岡も位置に着く。

M 回想とかコンパクトにまとめたいんだけどよー、どうも年取ると話が長・・って自分で
言ってちゃ世話ねーな。準備できたかー?

黒子、クリケットに向かって腕で輪を作る。

M それでは、第一話、「マスクドクリケット2号誕生の秘密」のはじまりはじまり~なんつって。

クリケット、一旦上手袖に引っ込む。去り際にチャオッといいながら手を振る。

第一幕・爆誕!マスクドクリケット2号
一場

固定電話コールSE。佐々岡、電話をとる。

S はい、石森出版係長の佐々岡です。・・はい、ええ、承知いたしました。後日改めて伺いますので、はい、失礼します。

佐々岡、深くため息をつき湯のみに口をつける。怪訝そうな顔をして湯飲みをのぞき込む。

S おーい、お茶呉れ、お茶。

沈黙。佐々岡、咳払い。

S 田村君、お茶呉れないか。
田 申し訳ありません、今手が離せないのでご自分でお願いします。(声のみ)
S ん、いや・・そうだな。

佐々岡、湯飲みを持って上手へ向かう。上手の方を見て驚く。

S 部長!いかがされましたか?・・・はい、先日の書類ですか?それでしたら部下に・・(下手の方を向く)おーい、鈴木君、こないだ君に渡した書類だけど・・なにぃ~なくしたぁ!?君は一体・・(上手を向く)は、いや只今探してまいりますので。

佐々岡、下手へ駆け抜ける。上手からクリケットが頭をかきながら出で来る。

M ったく・・我ながら頭が痛くなってくるぜ。(客席を向く)冴えねえって?んなこたぁわかってるさ。あれがまあ、昔の俺の平均的日常だ。

クリケット、また喋りながら舞台縁に腰かける。家のセットが用意される。千恵、位置に着く。

M ところでお兄さん、お子さんはいらっしゃるかい?はー、りゅうせきだね、ながれるいしだね、流石だねえ。俺は一応一時の父やってんだけどさー。・・(振り返って)もーいーかーい?

黒子、『ゲッツ、からーのー』で答え、去る。

M 白亜紀に流行ったような一発ギャグだな、おい。それじゃあ、行きますよーっと。
クリケット、今度は去らずに椅子に腰掛ける。この後、クリケットは佐々岡一家の邪魔をしない程度に動き回る。

S ただいまー。(上手から、姿見せずに)

佐々岡、上手から入ってくる。

C おかえりなさい。遅かったんですね。
S ああ、部下がヘマしてな。風呂は?
C 今沸かし直しますから、待っててください。
S うん・・月子は?
C 今日は友達と遊ぶから遅くなるんですって。
S 遅くなるって・・(腕時計を見る)もうこんな時間だぞ!
C もうあの子も高校生ですから。
S 高校生ったってまだまだ子供じゃないか。
C そうですねえ・・。
T ただいまー。(上手から、姿見せずに)
S む、帰ってきたか。
C あなた、あまり強く言わないでやってください。
S どういう意味だ?

月子、上手から入ってくる。

T あ。(佐々岡を見て)
S あ、とはなんだ。お前なあ、こんな時間まで何やってたんだ?
T お母さんから聞いてないの?友達と遊んで・・
S こんな遅くまで遊ぶやつがいるか!
T うっさいわね、私の勝手でしょ。

月子、喋りながら下手へ向かい、そのまま抜けていく。

S 親に向かってなんだその口の利き方は!
T あー!

月子、下手から走ってくる。

T おかーさん!私とお父さんの洗濯物一緒にしないでって言ったでしょ!?
S 月子!お父さんの洗濯物が汚いとでもいうのか!
T そうよ!なんか酸っぱいにおいするし!
S なんだとぉ!
T もう知らない!洗い直す!
S おい、まだ話は・・

月子下手へ去る。

S 全く・・。
C 許してあげてください。思春期なんですよ。
S だからってなあ・・ところで風呂はまだか?
C あっ、ごめんなさい。忘れてました。
S ええ・・
C すぐにいれますから

千恵、下手に去る。佐々岡、溜息をついてタバコを取り出し、火をつけようとするが、やめて上手へ去る。クリケットは手前側のサスの位置に。

M とまあ(手前サス以外FO)一服してから風呂入って寝るってなったら、いつも通りってことになったんだけどよ。(上手手前サスFI中では佐々岡がタバコを吸っている)あの日はちっと勝手が違ったつーわけさ。

下手手前サス、手前サスCF。下手サス内には藤木が倒れている。

S ふーっ、ん?

佐々岡、正面を見て驚いた表情。奥へ歩いていく。上手手前サスCO。佐々岡、下手手前サスに恐る恐る入る。

S あのー、大丈夫ですか?随分酔っているようですが・・。
藤木、佐々岡に掴みかかる。
F た・・のむ、これを・・。
藤木、佐々岡からベルトとメモを受け取る。

S これって・・まさかあなたは!

藤木、力尽きたように倒れる。

S ちょっと!しっかりいてください!

佐々岡、ガラケーを取り出し、ダイヤルする。

S すいません、けが人が・・ええ、住所は・・

下手手前サス、手前サスCF。手前サス内ではクリケットが寝ている。

M ZZZ・・おう!?(照明席に向かって)急に明るくすんじゃねーよ!(客席を見て)あー、どこまで話したっけ?・・そうそう!何を貰ったかって話だな!一つはメモ。住所が書いてあったからそこに行けって意味だと思ったわけさ。

上手手前サスCI。中には佐々岡。インターホンを押す仕草、何事かを言った後、手前サスFO。その後、SS(床舐め)CI。

M 警察に相談?いや、思いもしなかったな。その辺はもう一つの品物に関わるんだけど・・まあ、今から見せるよ。

クリケット喋りながら上手へ歩いていく、上手袖から腕だけ出し、テレビのリモコンを舞台の方へ向け、スイッチを押すと地明かりCI。研究所のセットが組まれている。黒田博士は黒電話で電話している。黒田博士、電話を切る。

K 意識はないが命に別状はないそうじゃ。
S それを聞けて良かったです。えーと、ふじ・・?
K 藤木じゃな。
S ああ、藤木さんがうちの前で倒れていた時はどうなることかと思いましたが。
K うむ。

沈黙。黒田、物入をまさぐる。

S それと、藤木さんからこれもお預かりしていたのですが・・

佐々岡、ベルトを取り出す。

S これって、まさかマスクドクリケットの・・。

黒田、佐々岡にスプレーを吹き付ける。佐々岡、倒れる。ブルーCI。BGMCI。黒子は実験室セットを組む。実験室セットが組み終わったら地明かりCI。BGMFO。ベッドに佐々岡が縛り上げられている。

S ん、ん~。

佐々岡目を開けて自分が縛られていると気づく。

S な、なんだこれは!

佐々岡、黒田が自分の脇で手術の準備をしているのを見る。

S 黒田さん、あなたがやったんですか!?
K そうじゃ、だがワシのことは黒田博士と呼べ。
S そんなことより早く解放してください!
K それはできぬ。
S どうしてですか!?
K お手前はこれを(ベルトを持ち上げる)藤木から託されてしまったからの。
S やっぱりあの人が、藤木さんがマスクドクリケットなんですね!?
K 左様!ちょうど今から三十年前、ジョーカー帝国を名乗る一団が世界征服をたくらんだ。彼奴らは一般人を化け物へと改造し、従えようとしておったのじゃ。
S それは知ってます。史上最大規模の誘拐事件だかでニュースにもなってたし。
K ならば、彼奴等に肉体を改造されながらも人の心を捨てずに逃げおおせたものがいたことを知っておるか?
S え?
K そう、それこそ藤木弘之、マスクドクリケットじゃ!
S まさか!
K まさかも大阪もないわ。ジョーカー帝国のアジトを逃れた藤木は大学時代の恩師であるワシを訪ねた。
S 大学教授だったんですか・・。
K 給料安いからやめたがね。改造によって得た力は人の心のままでは百パーセントは発揮できん。そこでワシはこのベルトを発明した!
S それがあれば百パーセントの力が・・
K 左様じゃ。人の心を保ったまま、な。そして藤木はマスクドクリケットとして正体を隠してジョーカー帝国に挑んだ!あとはお手前も知る通りじゃ。マスクドクリケットこと藤木は首領ゴルゴンを倒してジョーカー帝国を滅ぼした。
S ええ、よく知ってますよ。ファンでしたから。
K じゃが、帝国は完全に滅びたわけではなかったのじゃ。
S え!?
K 残党が全日本怪人組合を名乗り、いまだに世界征服を目論んでいるのじゃ。
S そうだったんですか。
K かれこれ二十年近くワシと藤木は戦っておった。
S 藤木さんのけがはそれで、ですか?
K 間違いなくそうじゃろう。このままでは誰も組合を止められぬ。
S ど、どうすればいいんですか!?
K ・・ジョーカー帝国が滅んだあと、ワシはその研究資料の一部を入手した。そこには連中がどうやって藤木を改造したかが書いてあったのじゃ。
S ・・・。
K お手前、ヒーローにならんか?
S え?
K マスクドクリケット・・さしずめ2号と言ったところかの。
S い、いやいやいやいや!無理ですよ!私、一般人ですし!
K 藤木も元々は一介の学生じゃ。改造さえすればお手前のような腹の突き出た不健康中年でも戦えるわい。
S 確かにメタボ検査引っ掛かりましたけど、いやそんなことじゃなくて!
K 大事じゃ大事。首さえ無事なら再生できるしの。
S いや、それ敵よりよっぽど化け物じゃないですか。
K 冗談じゃ。
S この状況でよく言いましたね!
K それに、悪いことばかりではないぞ。
S え?
K 考えても見よ、皆のあこがれマスクドクリケットじゃ。変身中だけとはいえ冴えない中年からはおさらばよ。
S 冴えないって・・。
K おや、お手前自身そう感じてると思ったんじゃがの。
S いや、確かにそうですけど。
K ぶっちゃけ、お手間に拒否権はない、藤木の正体を知ってしまった以上はの。
S え、ええ!
K そうじゃそうじゃ、くれぐれも他言はせぬようにな。その時はお手前を動物に変えてやるゆえ覚悟しておけよ。
S そ、そんなことできるわけが・・
K うむ、冗談じゃ。
S また冗談ですか!

黒田、セリフの途中で佐々岡に注射をする。佐々岡、気絶。中央大サスFI。黒田、オペを始める。この間にテレビ局セットを作る。暗転。

四場

明転。舞台にはタコサタンと部下がいる。タコサタンは部下にメイクされてる。

O まんべんなく塗るのだ。今日の私は全日本怪人組合の顔なのだからな。放送機材の準備
はどうだ?

部下からOKの合図が来る。

O ふっふっふ、それでは、お茶の間に絶望をお届けしようか。

タコサタン、カメラの前に出る。カメラマンの部下(正体はクリケット)、3、2、1の合図を送る。

O こんばんは日本国民の諸君、私は全日本怪人組合関東支部長のタコサタンだ。我々はジョーカー帝国の生き残りとして偉大なるゴルゴン首領の遺志を継ぎ、世界征服を敢行する。だが、三十年前とは決定的に違うことがある。君たちを助けられるものは誰もいない!マスクドクリケットは我々が始末したのだからなあ!はーはっはっはっは!

タコサタンの高笑いに合わせるようにクリケットも高笑いする。タコサタンが笑いをやめてもクリケットの笑いが続く。

O 貴様、何故笑っている?一体なんだというのだ?
M なんだかんだと聞かれたら。答えてあげるが世の情け。

クリケット、変装を解き、カメラの前に躍り出る。

M コオロギの仮面に人の心!覆面戦士マスクドクリケット2号!参上!
O マスクドクリケット・・2号、だとぅ!?
M テレビ局占拠たあ、また味な真似しやがって。おかげで朝ドラが見れねえじゃねえか、どうしてくれんだ?
O 早朝出勤の私には朝ドラなどはなから関係ないわ!
M 勝手なこと言いやがって、朝のコーヒーブレイクを奪った罪はしっかり償ってもらうぜ。
O しゃらくさいわ!者ども、であえであえ!

組合員、あつまってクリケットを囲む。

O かかれっ!

組合員、わめきながらクリケットに迫る。

M ピーピーうるせえひよこどもだ。挨拶してやるよ!

クリケット、右手の人差し指と中指をそろえて突き上げる。組合員ふっとぶ

M はーはっはあ!ちっと挨拶が丁寧になりすぎちまったかな?
O その強さ・・口調・・マスクドクリケットそのものではないか。
M 言ったろ?マスクドクリケット2号、だってな。
O 小賢しい・・退くぞ、貴様ら。

タコサタン、組合員とともに下手へ去る。
M (カメラに向かって)全国の女子高生のみなさ~ん、この通り、悪い奴は俺が片っ端か
ら倒しちゃうから安心してね~。チャオ!

クリケット、カメラから顔を外す。

M それ以来、あちこちで全日本怪人組合の連中をぶっ飛ばして回ってるってわけ。

第二幕・恐怖!全日本怪人組合の罠
一場

クリケット、舞台端に腰かける。銀行セットを組み直す。

M しかしまあ、今にして思えば黒田博士もひでぇもんだよな。やってること悪の組織と変わんねぇんじゃねえの?そうそう、藤木さんは無事だから安心しな。・・あとでお見舞いいかねぇとな。そいじゃ、あの阿保を警察に引き渡して今日の任務は終わりかな?

クリケットのセリフの途中からタコサタンが立ち上がる。クリケットのセリフの終わり辺りでタコサタンがクリケットの首を押さえて羽交い絞めにする。

M お前、気絶してたんじゃ・・。
O ちょうど目が覚めたところでな。壁に向かって何をぶつぶつ言っている?
M 壁?お前改造されたくせにこれが(客席をさす)見えないのか?
O なんのことだ?時間稼ぎはよすんだな。
M ったく、やっぱ俺だけか。
O ではそろそろ三途の川のライン下りと行こうか。
M ぐっ!

タコサタン、クリケットの首を絞め始める。ヨーヨーがタコサタンにあたってタコサタン、気絶する。せき込むクリケット。ホリにラビットレディのシルエットが映る。

M 何モンだ!

レディ、セットの上に姿を現す。

T 月の光に導かれ、悪の刃を打ち砕く!ムーンソルジャー、ラビットレディ!
SE。以下、ラビットレディタコサタンを縛り上げながら。

T って、別に初対面じゃないでしょ。
M いや、お客さんに配慮した結果だよ。
T はあ?なにわけのわからないことを。
M つーかなんだこれ?(ヨーヨーを拾いあげる)ヨーヨー?スケバン刑事か、お前は。
T スケバン・・?
M こいつがジェネレーションギャップってやつかね。(客席に、内緒話のように)
T さっきから壁に向かって何言ってんのよ。そんな調子だから倒した相手に逆襲されるのよ。
M 待て、なんで俺がこいつを倒したって知ってんだ?
T 最初から見てたもの。
M じゃあもっと早く助けてくれてもよくなーい?
T 人質の安全が確保されなきゃ派手なことはできないでしょ!
M コイツの手下は俺が全部倒したんだからんなこと・・
T 警察に引き渡すまでが安全確保よ!
M いやそんな、家に帰るまでが遠足みたいなこと言われても。
T あなたみたいに一人で突っ走るやり方は古いのよ。昭和ヒーローらしく早いとこ引退したら?
M 昭和ヒーローだけども!ったくいけすかねえ女だよ。(客席を向いて)ぽっと出の新人ヒーローのくせに、バックにお上がついてるから調子乗ってんだよ。
T だからそこに何があるっていうのよ・・そうそう、あなたも政府の管轄から離れた危険人物という点では彼らと変わりないから、行いには気を付けることね。
M いい!?
T じゃ、私は一足先に失礼させてもらうわ。ごめんあそばせ。

レディ、下手へ去る。

M はあ、今どきのやつはどいつもこいつも生意気だよ。

クリケット、腕時計を見る。

M ってやべえ!外回りの途中だったんだ!

クリケット、下手へ去る。ブルーCI。病院セットを作る。
二場
ブルーCO。藤木がベッドでコーヒーを入れている。それを見る佐々岡。

F おいしくなれよ~。たのむよ~。ありがと~う。うむ。
S はー、いい香りですねえ。
カップを準備する佐々岡の目の前で、コーヒーを捨てる藤木。
S えっ・・。
F 一杯目は捨てるんですよ、はっはっはっは!
S そ、そうですか。ははは・・。

再度コーヒーを入れる藤木。

F おいしくなれよ~。頼むよ~。こうやって一滴ずつ入れるのが拘りなんですよ。はっはっは。
S は、はあ。
F おいしくなれよ~。ありがと~う。うむ。では、カップを。
S はい。

佐々岡、藤木にカップを渡す。藤木、コーヒーを注ぐ。

F ありがと~う(小声で)。お待たせしました、どうぞ。
S いただきます。

佐々岡、コーヒーを飲む。

S ん、うまい。
F そうですか、それはよかった!
S やはり手ずから入れたコーヒーというのは格別ですね。
F はっはっは、そうでしょう。いやー、気に入っていただけてよかった。いつもお見舞いに来ていただいて申し訳ないので、ささやかですがお礼をしたいと考えていたんですよ。
S いや、そんな。
F 申し訳ないと言えば、ヒーロー家業の方は慣れましたかな?
S ええ、なんとかやっていけてます。
F そうですか・・。改めて申し訳ない。博士も変人ですが、まさか一般人のあなたを改造するとは・・。 (頭を下げる)
S 顔を上げてください。藤木さんのせいではありませんから。
F いや、誠に申し訳ない。あなたには仕事も家庭もあるというのに・・。
S はは、いいんですよ。私なんぞどちらでも鼻つまみ者ですから。
F 佐々岡さん・・。
S 今の私にとってはマスクドクリケットが仕事みたいなものですよ。
F 佐々岡さん、それでは・・。

ガラケー呼び出しSE

S あ、すいません。病院なのに。
F まあ、私しかいませんから。
S それでは少しだけ。・・はい、佐々岡です。今病院で・・はい、すぐかけ直します。

佐々岡、電話を切る。

S すみません、そういうことなのでお暇致します。
F ええ。今日はありがとう。

会釈して下手へ立ち去りかける佐々岡。

F ああ、一つ言い忘れてました。
S (振り返って)なんですか?
F 今日佐々岡さんが倒したタコサタンですが・・
S はい。
F あれは全日本怪人組合の重鎮です。幹部を失った連中は何をしてくるかわかりません。
くれぐれも気を付けて。
S はい。藤木さんも養生してください。
F うむ。ありがとう。

佐々岡、下手へ去る。中央大サス、SSCF。笹岡、下手からSSへ。家のセット作る。佐々岡電話をかける。

S 佐々岡です。はい、はい。はあ、わかりました。明日朝の八時ですね。

佐々岡、電話を切る。その場でタバコを出して一服し、また歩き出す。上手へ去る。SS地
明かりCC。家のセットのところに千恵がいる。 ドア開くSE。佐々岡上手から入ってく
る。

C おかえりなさい。
S 風呂湧いてるか?
C ちょうどさっきつけたところです。
S そうか。
佐々岡、椅子に腰かける。リモコンを客席の方に向けて押す。テレビのSE。
C あなた、少しいいですか
S 疲れてるんだ。明日にしてくれ。
C 毎日そうおっしゃるじゃないですか。
S 疲れてるんだ。仕方ないだろ。
C そう言われても・・月子のことなんですけど。
S んー?(テレビ見たまま)
C 最近夜遊びがあまりにも多くて・・あなたからも何か言ってやってあげれませんか?
S 別にいいじゃないか。第一、母さんがほっとけと言ったんじゃないか。
C それはそうですけど・・いくらなんでも多すぎます。何を聞いても友達と遊んでるの一点張りで。
S それはまあ、そうだろうな。
C いえ、どうもなにか隠してるような。
S 年頃なんだから隠し事の一つや二つあるだろう。
C でも!

お風呂が沸きましたのSE。

S よっこらせ。
C あなた!
S 明日も早いんだ。このことはまた後で話そう。
C そうなんですか?
S 新人教育のついての会議とかでさ。全く、この忙しい時期に。
C 新人教育なんて、あなたが一番力を入れてらしたじゃありませんか。
S ダメな奴はダメなままだ。ほっとくのが一番効率がいい。
C そんな言い方って・・。

佐々岡、テレビを消して下手へ去る。

C あなた!それともう一つ・・。
S 後にしてくれ!

千恵、客席の方へ。カーテン開けるマイム&SE。小さく足音のSE。

C やっぱり、誰かに見られてるみたい・・。

千恵、カーテン閉じるマイム&SE。千恵、下手へ去る。ブルーCI。セット組み直す。

三場

セット組みが終わった時点で大勢の声で大首領コールが入る。照明、明滅。大首領、手前サスの位置へ。一瞬暗転して手前サスCI。

D ひとーつ、人の世の生き血をすすり
d ふたーつ、不埒な悪行三昧
D みーっつ
d ミントの香りでお口すっきり大首領!
D このオタンチン!醜いコオロギを、退治してくれよう大首領!だべ!
d まろろろろ、そうでおじゃったか?

女人格側の手が男人格側の顔を引っぱたく。

d あなや!
D 全く・・・(客席に向かって)悪かったべ。第一万飛んで十二回全日本怪人組合総会の始まりだべ!
d 金も人も第一回の半分以下の総会でおじゃる!
D 余計なこというでねえ!
d もうこれ煩いから消すでおじゃる。

男人格、足元のラジカセのスイッチ切る。(大首領コール止む)

D そっだらことしたら静かになって寂しいべ。
d 兎にあらずんば我慢するでおじゃる。
D んむむむむ。
d まあ、気持ちはわかるでおじゃる。タコサタンも今や塀の向こうでおじゃるし。
D タコ助・・まったくなにやってんだべ・・・。
d げに憎きはマスクドクリケットぞ。
D あの虫っ子!ホウ酸団子でも食わしてやりたいべ!
d それはゴキブリの退治法でおじゃる。
D ゴキブリもコオロギも同じようなもんだべ。
d 笑止!ゴキブリにはゴキブリの、コオロギにはコオロギの退治法があるでおじゃる。
D あんれ!そうだったべ。
d (客席に向かって)この作戦にはそちらの協力が不可欠でおじゃる。
D 偉大なるジョーカー帝国復活の時はすぐそこだべ。

大首領、哄笑する。照明、明滅。 大首領下手へ去る。

四場

地明かりCI。クリケットと倒れ伏した組合員。

M ったく、悪さばかりしやがって。いい加減にしろってんだ。(客席を見て)ヘイ、仕事帰りの怪人退治ショーにようこそ。こちとら疲れてんのによ~。ほんともうマイッチング~なんてな。

ラビットレディ、下手から現れる。

T あ。
M 一足遅かったな。まあちょうどいい、こいつら連れてってくれよ。
T あなたのおこぼれをもらう気はないわ・・自分で引き渡しなさい。
M つれねえなあ。

ノイズSE。

T 何の音?
M なにが?
T いや、だから・・って、もしかしてそれじゃない?(ベルトを指して)
M え?(ベルトを見る)あ、やべえ!
クリケット、下手へ退散する

T はあ、仕方ないわね。

レディ、組合員を連れていく。

地明かりSSCF。セリフを言いながらSSへ佐々岡と黒田が入ってくる。家のセット作る。

S 博士、どうなんですか?直るんですか?
K ええい、よく見んとわからんと言うておるのに!
S は、はあ。すいません。
K どれどれ?ふーむ、お手前、近頃変身しすぎじゃな
S しすぎとかあるんですか?
K 精密機械じゃし、年代物じゃしな。使いすぎたら壊れもするわい。
S はあ、それで、直るんですか?
K まあ、明日には直るじゃろ。
S はー、よかった。
K お手前、そんなにヒーロー家業にはまっておったのか?
S あ、いや、まあ。
K まあいいわい。今日明日は休暇じゃと思ってよく休むことじゃ。
S 休暇、ですか。
K ホレ、早速修理するから出ていけ。アディオース。
S では、失礼します。

黒田、下手から去る。佐々岡、上手から去る。 地明かりCI。

S おーい、風呂―。

家のセット。佐々岡、上手から入ってくる。

S 母さーん、風呂―。(机の上のビデオテープを見つけて)ん、なんだあれ。

佐々岡、テープを手にする。

S 今どきカセット?んー、拝啓マスクドクリケット2号様!?

佐々岡、カセットをプレイヤーにセットする。大首領の声。最初は声のみだが、 地明かり下手サスCFして大首領の姿があらわになる。大首領はフェードに合わせて入ってくる。

D ひとーつ、人の世の生き血をすすり
d ふたーつ、不埒な悪行三昧
D みーっつ
d 出たほいのよさほいのほーい、醜い娘と
D そっだら下品な歌うたうでねえ!

女人格側の手が男人格を引っぱたく。

d あなや!
D 全く・・改めて、あたすは全日本怪人組合の大首領だべ。
d 初めましてじゃのう、マスクドクリケット2号。否!
D 石森出版の佐々岡係長!

このセリフを聞いて佐々岡が驚くところを見せたら中央大サスをFOさせる。

d ぽっぽっぽ、驚いたでおじゃるか?
D 下調べはバッチグーだべ。
d こんなのもあるぞえ。

大首領、映写機を回す。中央大サスがアンバーでFI。サス内では月子と千恵が話している。

C お母さんも月子ぐらいの時はお父さん、いえ、おじいちゃんが鬱陶しくてたまらなかったわ。
T ふーん。
C それが思春期といえばそうだと思うの。でもね成人式の日に大泣きしてるおじいちゃんを見て、ああ、私はなんて馬鹿なことをしていたんだろうって思ったのよ。
T 別に私は、そんなこと・・。
C 今はそう思うのよね。でも、そうね、お父さんも寂しがり屋だから、たまにはお帰り、くらい言ってあげて。
T まあ、それくらいならいいけど・・。でも、お父さんと私の洗濯物をいっしょに洗うのは禁止だからね!
C はいはい、わかってます。

中央大サス、FO。

D 中々できた嫁さんと娘さんだべ。
d フィルムを間違えたでおじゃる。
D 普通に感心しちゃったべ・・・。
d 本物はこっちでおじゃる。

大首領、映写機を回す。中央大サスアンバーでFI。月子と千恵がいる。

T お母さん、ごめん、もう行かなきゃ。
C 外せない用事なんでしょう。大丈夫よ。
T ・・お父さんもひどいよ。今日は結婚記念日なのに・・・
C  これまで毎年お祝いしてくれたんだもの、一回くらい忘れても仕方ないわよ。
T ・・・実はね、今朝、お父さんに言ったんだよ。今日は結婚記念日でしょって。でも、お父さん生返事ばっかで・・
C 月子。
T 最近お父さん変だよ。私の話も、お母さんの話も全然聞いてくれないじゃん。
C 仕方ないのよ。仕事が忙しいんだから。
T お母さん!・・・ごめん、もう、行くね。
C ええ、いってらっしゃい。
T お父さんなんて、、もう、知らない。

月子、去る。千恵、月子を見送った後、机の上の写真立てを手に取って見る。チャイムSE。

C あの子ったら、忘れ物かしら。

千恵、写真立てを置いて上手に去る。

C なんですか!やめっ!きゃーっ!

中央大サスFO。

d おじゃおじゃ、聞いての通り、そちの奥方はまろたちが預かった。
D 返してほしけりゃ、ジョーカー帝国本部跡地まで来るんだべ!
d そうそう、このカセットはしかと燃えないゴミの日に捨てるでおじゃるよ。

大首領、哄笑しながら下手へ去る。プツンというSEとともに地明かりCI。唖然とする佐々岡、ガラケーを取り出して電話する。コール音SE。

K ただいま留守にしております。御用のある方はピーという音の後に・・
S 博士!私です!佐々岡です!
K ああ、お手前か。なんじゃ?
S 私がクリケット2号だとばれてしまいました。
K なんじゃとぉ!?
S それで、か、家内が・・。
K まさか、攫われたのか!?
S は、はい!
K むう。
S ベルトはなんとか直りませんか!?
K 無理じゃ、全速力で修理しても明日の朝まではかかる・・。
S そんな・・。
K すまん。お手前の身体能力は改造によって変身抜きでも多少は向上しておる。それでなんとか・・。
S そんな無茶な!
K すまん、ワシにはどうすることもできん。
S わかり、ました。

佐々岡、電話を切る。机の上の写真立てを見る。

S そうだ!藤木さんなら!

佐々岡、駆け出す。上手から去る。
地明かり上手サスCC。上手サス内で佐々岡走る(手塚治虫のぽっちゃりキャラ風に)。
ある程度走ったところで上手サス、手前サスCF。CFに合わせて佐々岡手前サスへ。

S すいません!藤木さんに面会を・・!え!?緊急手術!?なんで・・そう、ですか。わかりました。

佐々岡、ふらふらと中央大サスの位置へ。それに合わせ中央大サス、手前サスCF。中央大サスでたたずむ佐々岡。そこへレディが現れる。

S ラビットレディ!
T な、なに!?
S 助けてくれ!?今までのことは謝る!頼むから助けてくれ!
T え、いや、なんのこと・・
S 私がマスクドクリケット2号なんだ!私のせいで家内が攫われてしまった!
T おかあっ、あ、あなたが助けに行けばいいじゃない!
S 今は変身できないんだ!
T はあ?
S ベルトが壊れて・・。
T で、でも、だからって助けにもいかないの!?
S 変身できない私では勝てるわけがない・・。
T でも、でも・・。
S お願いだ!

佐々岡、土下座する。

T 変身できないからって、奥さん一人助ける勇気もないの・・。
S そんなこと言ったって・・。
T 知らない。
S え?
T もう知らない!

レディ、下手へ去る。

S もう知らない、か。まるで月子だな。

沈黙。佐々岡、立ち上がる。佐々岡、下手へ立ち去る。ブルー、中央大サスCC。

五場

大首領や四人の組合員が位置に着く。

d 遅いでおじゃるぅ。さては奥方を見捨てたか?
S はーはっはっはっは!
d 誰ぞ!?

佐々岡、上手から登場。

S 安心しなあ!招待されたパーティーには絶対出席するのが俺のポリシーさ!てかなんだお前その顔!?

間。

D なんだべこのオヤジ
d 忘れたでおじゃるか?こやつがマスクドクリケット2号でおじゃる。
S お前も鈍い野郎だな。
d しかし‥なぜ変身せんでおじゃる?
S お前ら風情変身しなくても十分なんだよ!
d コオロギだけあって鳴くのは得手よの・・・そちら

大首領、組合員に合図を送る。組合員に滅多打ちにされる佐々岡。
d のけ、これがまろのフルパワー、100%中の100%でおじゃる
大首領がマントを脱ぎ捨てると赤いコスチュームが現れる。大首領、ハリセンを構える。

d 今のまろは通常の三倍のスピードでおじゃる。

ふらふらと立ち上がる佐々岡、その傍らを駆け抜ける大首領。一拍遅れて無数の攻撃SE。

S ぐああ!
D 無様なもんだべ。
S うる・・せぇ。たかが腰痛が悪化しただけだ。
D 十分致命傷だべ・・ここまでされてなして変身しないんだべ?
d 明々白々でおじゃる。こやつ、変身せぬのではなくできないのでおじゃるよ。

間。

D ガハハ!こっだらおかしなことがあんべか!変身できないマスクドクリケットなんて、ただのおっさんだべ。
S そうだ。
D ん?
S 私は冴えないおっさんだ。
D わかってるべ。
S ヒーロー家業を言い訳に、家族をないがしろにした、だめなおっさんだ。
D だから・・
S だけど、いや、だからこそ、もう間違えない。
D さっきから何を・・
S 私は、おっさんはおっさんでも、家族を守るために働くおっさんだぁ!
D はんっ!

大首領、佐々岡を蹴り飛ばす。

D 興覚めだべ。あとはお前たちで始末しとくべ。

二人の組合員、佐々岡に武器を向ける。三味線のSE。二人の組合員倒れる。

d なんぞ?
T 月に誘われ、花に舞う・・
ラビットレディ、上手から登場。
T マスクドクリケット2号が助っ人、ラビットレディ!
D どちらさんだべ?
T はあ、私って知名度低いのね。
ラビットレディ、佐々岡に近づく。
S ラビット・・レディ。
T じっとして。

レディ、佐々岡の腰にコルセットを巻く。

S これは?
T コルセットよ。これで少しはラクになるはず。

佐々岡、立ち上がる。

S おお、本当だ!ラクだラク!
T (小声で)お母さんのやつなんだけどね・・。
S ん?なにかいったか?
T いーえ、気のせいじゃない?
S そうか。でもどうして助けに・・。
T 政府お抱えのヒーローとして無所属のヒーローに負けてられないからね。
S そうか・・とにかくありがとう。
d 無駄なあがきはすんだでおじゃるか?
D この世にお別れする時間だべ。
T 大首領は・・
S 私がやる。
T 本気?
S ああ、本気と書いてマジだ。
T はいはい、じゃあ、あの二人は任せて頂戴。

レディ、駆け出す。組合員と交戦しながら舞台を去る。

D ガハハ!ホントにあたすに勝てると思ってんべか?
S ああ。私は、負けられないからな。はっ!

佐々岡が手を天にかざすと照明が暗くなって(暗転ではない)声が響く。

声 ストライクベント クリケットマホーク!

煌びやかな照明。その中で黒子が佐々岡に斧を渡す。

声 さざめけコオロギのごとく 情熱の覆面戦士!悪を倒せクリケット!人間(とも)を救えクリケット!

照明が戻り、佐々岡は大首領に向き直る。

S これぞ、音に聞こえた、コオロギのツメ!
D コオロギに爪なんてないべ。
d それもまた些末なこと。今はこれ(剣を上げて)で語るのみにおじゃる!

剣で戦う佐々岡と大首領。

d ありえぬ、かようなおっさんのどこにこれほどの力が・・。
S 日本のおっさん、なめるなよお!

ホリにシルエットだけ映り、居合。倒れる大首領。

D ウボアアアア!
S 勝った・・・わが生涯に一片の悔いなし!

佐々岡、倒れる。

T クリケット!

駆けつけるレディ。暗転。

エピローグ

明転。病院のセット。隣のベッドにいる佐々岡と藤木。佐々岡のベッドのわきにいる月子と千恵。

S おいしくなれよー。頼むよー。ありがとー。
C まあ、いい匂い。

佐々岡、コーヒーを捨てる。

T お父さん!何してるの!
F 一杯目は捨てるんですよ、はっはっは!
T そ、そうなんですか?
S おいしくなれよー。ありがとーう。できた。
カップにコーヒーを注ぐ佐々岡。カップを受け取り呑むほか三人。

C あらおいしい。
F いやー、佐々岡さん、中々筋がいいですよ。
S そうですか?
T ふーん。
S どうだ、月子?
T やっぱ苦い、砂糖ないの?
S お前なあ。

以降、藤木と千恵がしゃべっている隣で月子と佐々岡も喋ってる。

F はっはっは、おいしく飲めるのが一番ですよ。どうぞ。
T ありがとうございます。
C そうだ!藤木さん、これつまらないものなんですが・・。
F あー、そんな、これは申し訳ない。
C いえいえ、うちの主人と仲良くしていただいたお礼ですわ。
F そんなことは・・これはこれは
C 気に入っていただけました?
F ええ、なにぶん、私甘いものには目がないので。
C それはようございました。
F ところで、奥さんのお怪我は・・
C おかげさまでもうなんともありませんわ。
F そうですか。それは何よりです。
C でもどうして全日本怪人組合は私をさらったんでしょう?
F 身代金目的でしょう。連中も相当財政難だったようですし。
C ふーん。
F いずれにせよ崩壊した組織のことです。あまり気に病まない方がいいでしょう。
C そうかもしれませんわね。
T お母さん、そろそろじゃない?
S ん(腕時計見る)そうだな。そうだ、今日はこれで(お札取り出す)何か食ってけよ。
C え、でも・・
S 今から作るんじゃ大変だろう?
T そうだよお母さん、ここは甘えちゃいなよ。私お寿司食べたい!
C この子ったら・・まあでも、今日ぐらいはいいかしらね。
T やった。
C じゃあそろそろお暇しますわ。
T あとこれお父さんの洗濯物。
S ん、悪いな。(籠をまさぐり、パンティーを取り出す)なんだこれ?

月子、パンティーをひったくる。

T お父さんの馬鹿!もう知らない!

月子下手へ走り去る。

C 全くあの子は・・それでは、失礼しました。
F 今日はおいしいものをありがとう。
S 気をつけて帰れよ。

千恵、下手から去る。

F 楽しいご家族ですなあ。
S ええ、本当に・・。

月子下手から無言で入ってきて洗濯物入れからレディのマスクを取り出す。

S なにしてるんだ?
T 忘れ物。
S そういえばお前、父さんのと一緒に洗濯してるのか?
T ・・知―らない。

月子、去る。

F ご家族には気づかれてないようでよかったですな。
S ええ。
F いかがでした?マスクドクリケット2号は?
S もうこりごりですよ。私にはやっぱりサラリーマンが性に合います。
F そうですか。
S ですが・・
F はい?
S 正直楽しかったなー、なんて。
F はっはっはっは。
高笑いする二人。

F そうそう、博士からお見舞いが来てますよ。
S 博士から?
F これです。

藤木、レコードを佐々岡に渡す。

S マスクドクリケットマーチのレコードじゃないですか!
F 絶版になる前に買い占めたそうです。
S 今買ったら相当値が張りますよね。
F レアものですからねえ。
S き、聞きたい!
F そういうと思って、プレイヤーも一緒にくれましたよ。
S うわ、懐かしいー!

藤木、レコードをセットする。マスクドクリケットマーチが流れ出す。

F どうです?一曲。
S ご一緒させてもらいましょう。

マスクドクリケットマーチを歌う二人。

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