父親になれない僕と息子になれない僕 ドラマ

旬の過ぎた俳優の高橋義男(34)は俳優生命の危機にあった。そんな義男のもとに、井上早苗(14)と名乗る少年が訪ねてくる。実は早苗は義男が昔付き合っていた井上由紀子(34)との息子であった。そんな早苗は義男の家に泊まると言い出し、半場強制的に居座り・・・
寺本拓史 62 3 0 10/06
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第一稿

登場人物

高橋義男(34) 俳優
井上早苗(14) 中学2年生
石井菜美(27) 義男の彼女
松井邦彦(28) 義男のマネージャー
山中隆(55) 映画監督
井上 ...続きを読む
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登場人物

高橋義男(34) 俳優
井上早苗(14) 中学2年生
石井菜美(27) 義男の彼女
松井邦彦(28) 義男のマネージャー
山中隆(55) 映画監督
井上由紀子(34) 早苗の母親
滝田宏(40) 週刊芸能の記者

課長
撮影スタッフA
撮影スタッフB
同級生
保健体育教師
年配の警察官
アクセサリショップ店員
女子高生A
女子高生B
店員







◯撮影所 分娩室セット
   分娩台で妊婦、痛みに悶えている。
   医者、看護師一同、処置に当たる。
   慌てた様子の高橋義男(34)が分娩
   室に入って来る。
義男「真由美!」
妊婦「あなた・・・」
義男「(側に寄り、手を取る)・・・頑張
 れ!もう少しだ!」
山中「カット」
   監督の山中隆(55) 、無表情に義男
   を見る。
助監督「カットー!」
隆「・・・義男さん」
義男「?」

◯タクシー車内(夜)
義男「(山中を真似て)演技っていうのは嘘
 つくことじゃないよ」

   マネージャーの松井邦彦(28)、ス
   ケジュール帳を確認している。
邦彦「だから分かりましたって」
義男「偉そうなやつ」
邦彦「そりゃ偉いですよ。山中さんは一流の
 映画監督なんですから」
義男「でも20回もやらせて、またやり直し
 って。人間として二流だよ・・・」
邦彦「(苦笑)」
義男「あ、ああ。俺こんな事やるために俳優
 になったんじゃないんだけど。ねぇ・・・
 松井君」
邦彦「はい」
義男「断ってさ。別の」
邦彦「無理言わないでくださいよ。事務所か
 ら何度もお願いして、無理言って出させて
 もらってるんですよ」
義男「じゃあ、その無理言ったせいでいじめ
 られてるわけね」
邦彦「(ため息)・・・義男さん、ご自身の
状況把握してますか?」
義男「状況?理解してるよ。自分のことなん
 だから」
邦彦「いいえ、分かってません。今あなた3
 4歳」
義男「それが?」
邦彦「つまりね、賞味期限切れかけてるんで
 すよ」
義男「は?賞味期限切れかけ?もしかして臭
 う?」
邦彦「違いますよ。視聴者から飽きられてる
 んですよ。20代はフレッシュなイケメン
 俳優で通してましたけど。正直もう限界で
 す。なので事務所としては今回を機に演技
 派に転身して欲しいんです」
義男「松本君、マネージャーがそんな事言っ
 ていいの?そんなに僕らって仲悪かった?」
邦彦「マネージャーだからビジネスとして嘘
 偽りなく言っているだけです」
義男「・・・」
◯マンション・前(夜)
邦彦「(タクシー窓から)今は演技に集中し
 てください」
義男「はいはい」
邦彦「それでは失礼します」
   邦彦の乗せたタクシーが去っていく。
義男「くそメガネ」
   義男の携帯が鳴る。

◯花屋
   石井菜美(27)、軽い作業をしなが
   ら電話に出ている。
菜美(電話)「もう少しで仕事終わるからそ
 っちいくね」
義男(電話)「うん。分かった。いつもみた
 いに裏口から」

◯義男宅・リビング
   義男と菜美、テーブルを挟んで向かい
   合いコーヒーを飲んでいる。
菜美「ねぇ」
義男「うん?」
菜美「いつまで?」
義男「いつまでって?」
菜美「いや、こう。コソコソしてないとダメ
 なのかなって」
義男「いつまでって。難しい質問だね(苦
 笑)」
菜美「あなたが有名人だからっていうの分か
 ってる。でも、いつまでもこんな風に付き
 合うのかなって」
義男「あ、あれだよ。今日もマネージャーか
 ら撮影してる映画に集中しろって散々言わ
 れてるから」
菜美「そっか」
義男「そう。今は演技一筋」
菜美「じゃあ、その撮影終わったら?」
義男「終わったら・・・うーん」
菜美「撮影終わったら。その私たちの関係っ
 て進むの?」
義男「・・・コーヒー冷めちゃうよ(苦笑)」

◯中学校・グラウンド(朝)
   男子陸上部の生徒達が練習試合をして
   いる。井上早苗(14)、追ってくる
   後続ランナー逃げるように先頭を走る。

◯同・水飲み場
   早苗、水で顔を洗っている。
同級生「またフったんだって」
早苗「何?・・・早速?」
同級生「付き合っておけばいいものを」
早苗「別に好きじゃなかったし」
同級生「じゃあさ。好きなやつでもいるの?」
早苗「は?」
同級生「え、いるの?」
早苗「いないよ」
同級生「なんだ」
早苗「それに中途半端に付き合うのって可哀
 想だろ」
同級生「可哀想か。また真面目なこと言って」
早苗「お前が不真面目すぎるんだよ」
同級生「でも健全じゃなくない?」
早苗「健全?」
同級生「俺らの年頃で女子に興味ないなんて
 不健全てこと」
早苗「・・・」

◯中学校・教室(昼)
   授業始まり前の騒がしい様子。
保健体育教師「今日の保健体育の授業は男子
 と女子別にやります」

×  ×  ×
   教室内は暗闇。備え付けのテレビには
   古い性教育ビデオが流れている。
   何人かの生徒はうつ伏せになり寝てい
   る。
早苗、真剣に画面を見ている。

◯撮影所・分娩室セット(夜)
義男「真由美!」
妊婦「あなた・・・」
義男「(側に寄り、手を取る)・・・頑張
 れ!もう少しだ!」

×  ×  ×

隆「もう一回」

×  ×  ×
義男「真由美!」
妊婦「あなた・・・」

   邦彦、セットから離れた位置で撮影を
   見ている。その横に記者の滝田宏(4
   0)が近づいてくる。
宏「やってる。やってる」
邦彦「(気づき)お疲れ様です」
宏「お疲れお疲れ」
邦彦「取材ですか?」
宏「そう」
邦彦「やめてくだいよ。変な記事書くの」
宏「書かない。書かない。ガセは出す気ない 
 からさ。たださ。今回の撮影面白そうだな
 って思って」
邦彦「?」
邦彦「実力派監督VS顔だけ俳優。どうこの見
 出し」
邦彦「・・・冗談きついな(苦笑)」
隆「もう一回」
   スタッフがぞろぞろと動き出す。

◯義男宅・寝室(朝)
SE ピンポーン
チャイムが鳴る。

義男「う、うん(寝起き)」

SE ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン
義男「っんだよ・・・」

◯同・玄関
   早苗、スーツケースを持ち立っている。
義男「?・・・えっと誰?」
早苗「入るよ。(横を通り、中に入って行
 く)」
義男「ちょ、ちょっと」

◯同・リビング
義男「何勝手に人ん家に入ってんの!」
   早苗、無視して部屋の中を見ている。
義男「おい。聞こえないの!?」
早苗「朝っぱらから大きい声出すなよ。聞こ
 えてるよ」
義男「・・・このクソガキ。名前」
早苗「は?」
義男「は?じゃなくて。名前、他人の家入る

 よりもまず名乗る。どういう教育されてん
 だよ」
早苗「さなえ」
義男「さなえ?・・苗字は?」
早苗「井上」
義男「は!?」

×  ×  ×
   義男と早苗、テーブルを挟んで向かい
   合っている。
義男「(赤ん坊の頃の写真を見て)だいぶ大
 人っぽくなったね」
早苗「(写真を奪い)これいつの写真」
義男「・・・君が生まれて3ヶ月頃の」
早苗「こんなのしかないのかよ」
義男「しょうがないだろ。これが君と会った 
 最後の写真だから・・・で、お母さんは今
 どこに?」
早苗「来てないよ」
義男「来てないって(苦笑)。じゃあ友達
 と?」
早苗「一人」
義男「一人?わざわざ岐阜から?」
早苗「そう」
義男「またなんで?」
早苗「家出」
義男「家出!?」
早苗「だから当分、ここに泊まるから」
義男「え、泊まるって!ちょ、ちょっと」
早苗「嫌なの?」
義男「い、嫌とまでは言わないけど、今仕事
 で結構忙しいから困るよ」
早苗「なら、泊まるから」

◯義男宅・トイレ
   義男、便座に腰掛けながら井上由紀子
   (34)に電話をしている。
義男(電話)「そう。家出したって」
由紀子(電話)「その・・・家出した理由に
 ついて本人は?」
義男「何も」
由紀子「いつもみたいに部活の朝練で家を出
 て行きましたし、前日も普段と変わらない
 様子だったから・・・」
義男「というかどうやって住所を」
由紀子「もしかして・・・あなたが毎月送っ
 て来てる養育費の封筒じゃないですか?」
義男「?」
由紀子「前、あの子の部屋で封筒見つけて。
 その時ははあまり気にしなかったんだけど」
義男「それで、住所が」
由紀子「あの・・・今いうのもあれですけ
 ど・・・」
義男「?」
由紀子「前も言いましたけど。養育費は別に
 送って来なくても大丈夫です」
義男「だって銀行の口座教えてくれないし」

◯オフィス
   社内の忙しそうな様子。
由紀子「いえ、そういうことではなくて。私 
も仕事してるので自分たちでなんとかやっ     
 ていけてますから・・・」
課長「ゴホンッ」
由紀子「ごめんなさい。ちょっと今週は忙し
 くて、会社休めないんですぐ帰ってくるよ
 うに説得してください(小声で)」
義男「え・・・」

◯義男宅・リビング
義男「あの、早苗君?今、お母さんから連絡
 あってね。すぐに帰って来るようにって。
 君、学校サボったんだって?ダメじゃない
 か。ほら、駅まで送ってくから」
早苗「ああ。スーツケース重くて疲れたなー」
義男「あ、じゃあ。俺、運ぶからさ。今から」
早苗「足もパンパン」
義男「じゃあ、タクシー呼ぶから」
早苗「タクシー嫌い」
義男「・・・」
早苗「帰らない(睨む)」
×  ×  ×

   義男、撮影現場に行く支度をしている。
義男「じゃあ、現場行って来るから」
早苗「どこの工事現場?」
義男「さ、撮影だよ。映画」
早苗「本当に俳優やってたんだ」
義男「まぁね」
早苗「あのダイコン演技で」
義男「・・・」

◯撮影所・分娩室セット
隆「もう一回」
義男「・・・(隆を睨む)」

◯街中
   早苗、スーツケースを持ち歩いている。

◯駅・男子トイレ・前〜中
早苗、キャリーケースを持ち男子トイレに入って行く。

◯撮影所・分娩室
   スタッフ達の疲れた顔。
   義男、演技をしている。
義男「真由美!」

◯駅・男子トイレ・中
   早苗、個室から出て来る。ウィッグを
   つけ、女の子の格好をしている。足に
   は、履き慣れていないハイヒール。

撮影所・休憩室
義男「ああ、くそ。いつまでやらせんだよ」
   義男の携帯電話が鳴り、出る。
義男(電話)「はい、高橋です。はい?娘?」

◯警察署内(夕方)
義男「あの(入って来て)お電話いただきま
した高橋ですが」
年配の警察官「あ、お父さん。こっちこっち」
義男「はい」
   年配の警察官、義男をジロジロ見てい
   る。
義男「何か?」
年配の警察官「どっかで見たことある顔だ
 ね・・・お仕事なに?芸能人?」
義男「い、いやー。よく似てるって言われる
 人いるんですけど(苦笑)違いますよ。僕、
 建設業で働いているから。現場違い」
年配の警察官「そっか、撮影現場と建設現場
 ってことね(笑)」
義男「(苦笑)」
年配の警察官「あ、この部屋。この部屋」

◯警察署・部屋
   ソファーには女装した早苗が座ってい
   る。
年配の警察官「娘さんを補導しましてね。中
学生のぐらいの子だったんで声をかけてみたら。学生書も何もないし、何も言わない。ただあなたの電話番号を言ったものですから」
義男「はぁ、ですが」
早苗「・・・」
義男「何かの間違えではないかと。この娘ぐ
 らいの息子はいるのですが・・・」
年配の警察官「じゃあ、息子さんのお知り合
 いじゃないですか?友達とか」
義男「うーん。それは」
年配の警察官「このままにしとくわけにもい
 かないし。試しに電話で聞いてみてくださ
 いよ」
義男「はー」
   義男、携帯を取り出し早苗に電話をす
   る。目の前にいる早苗の携帯が鳴る。
義男「?」

◯道(夜)
義男と依然、女装している早苗がスーツケースを持って歩いている。
義男「いたずら?」
早苗「いたずら?」
義男「いや、こっちが聞いてるの。それにス
 ーツケース持てないとか足痛いとか行って
 普通に持って歩いてるじゃん・・・あんま
 りからかわないでよ」
   早苗、立ち止まる。
義男「?」
早苗「確かに朝言ったことは嘘」
義男「ほら」
早苗「でもこの格好は本当」
義男「本当って何?まぁ人の趣味にとやかく
 いうつもりなんてないけどさ。男のむすめ
 って書いて男の娘ってやつでしょ。最近の
 後輩の奴らってでも男なのか女なのか分か
 らない奴ら多いしさ、最近の子ってよく分
 からないな」
早苗「趣味じゃない」
義男「?」
早苗「本当に女の子になりたいんだ」
義男「・・・お、女になるって!な、なに言
 い出すんだよ。も、もうびっくりすること
 言わないでよ」
早苗「・・・」
義男「・・・き、君、面白いね」
早苗「何が面白いだよ。バカにすんな」
義男「・・・じゃ、じゃあ本気?」
早苗「だから言ってるだろ」
義男「それって、体も女みたいになりたいっ
 てわけ?」
早苗「それは・・・まだ、わかんないけ
 ど・・・でもいつかはそうなりたいとは思
 ってる」
義男「他に誰か知ってるの?」
早苗「・・・知らない」
義男「じゃ、じゃあ、君のお母さんは?」
早苗「言えるわけないだろ」
義男「い、いや。早いよ。だって君まだ13
歳」
早苗「14」
義男「ほぼ、一緒だよ。まだ君は思春期のど
 真ん中、確かに今はそう思ってるかもしれ
 ないけどね」
早苗「最近じゃないよ。前から・・・生まれ
 た時から」
義男「じゃ、じゃあ、なおさら君のお母さん
 に相談して」
早苗「言えないから家出した」
義男「はぁ?」
早苗「だから家には帰れない・・・」
義男「は!?帰れないって。で、でも俺は言
 い訳?そんな大事な話」
早苗「まぁ、不本意だけど。あんたは父親で
 もなんでもないし、どう思われてもいいか
 ら・・・だから」
義男「・・・だから?」
義男「母さんに言ったら殺すよ(作り笑)」
義男「お、脅さないでよ(苦笑)」
木陰から二人の様子をカメラで撮る宏。

◯義男宅・リビング(朝)
SE ピンポーン
チャイムが鳴る。

義男「う、うん(寝起き)」

SE ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン

義男「っんだよ。また」

◯高橋家・玄関〜リビング
義男「(開けて)はい」
邦彦「ちょっと入りますよ」
   邦彦、ズカズカと部屋に入って行く。
義男「おいおい。勝手に入られちゃ困るよ」
邦彦「今、僕が困ってるんですよ!」
義男「!?」
邦彦「さっき、週刊芸能から連絡がありまし
た。あなたのスクープを載せるって」
義男「え?」
邦彦「映画の撮影そっちのけでお泊りデー
 ト!」
義男「そ、そんなことしてないよ」
邦彦「ほんとですか?」
義男「ほ、本当だよ」
邦彦「義男さん。嘘はやめましょう。嘘言っ
 たって先方はもう出すって宣言してるんで
 すから」
義男「だ、だから」
邦彦「(睨む)」
義男「・・・分かった。ごめん」
邦彦「演技に集中するって約束したじゃない
 ですか!」
義男「わ、分かってるよ。でも俺も人間だよ。
 息抜きしたっていいじゃないか」
邦彦「息抜きするなとは言ってません。ただ
 まだ撮影が始まったばかりなのにプロ意識
 が欠けていることに怒ってるんです」
義男「で、でもむやみやたらに会ってたわけ
 じゃないし。裏口から入ってもらったり気
 は使ってたんだけど(ごにょごにょ)」
邦彦「だから言い訳はいいですって・・・ち
 なみに一人だけなんですよね?」
義男「あ、当たり前だろ。これでもいちおう
 真剣に恋愛してるつもりだ」
邦彦「よくもまぁ大事な時期に真剣な恋愛だ
 なんて・・・分かりました。芸能人なら一
 人や二人の浮名ぐらい流してもすぐに忘れ
 去られます。でもですよ!これからですよ。
 大事なのは!」
義男「これから?」
邦彦「そう。スクープされたことはマイナス
 に変わりありません。なのでここいらで俳
 優として活躍して、賞の一つや二つ取って
 ください」
義男「そっか。良かった。じゃあ取ろう。賞」
邦彦「また能天気に・・・監督の心象を察し
てください。あなた演技もまともにできてないんですよ。とりあえずすぐにでもそのお付き合いしている方に会わないでください」
義男「えー、お茶ぐらいだめ?」
邦彦「だめに決まってるでしょ!ご自身のこ
 となんだから真剣に受け止めてください。
 担当が私じゃなかったらね。あなたなん
 て!」
早苗「うるさいな」
邦彦「?(早苗に気づき)・・・どなた」

×  ×  ×
   義男の横に早苗、邦彦が向かい合い座
   っている。
邦彦「なるほど。隠し子ってやつですね」
義男「(早苗を気にして)隠し子なんて言わ
 ないで」
邦彦「なんで言わなかったんですか?」
義男「だって言う必要ないと思ったから。こ
の子が生まれた時はまだ事務所にも所属してなかったし」
邦彦「いえ、これほど言う必要のあることは
 ないでしょ!年齢サバ読む方がまだ可愛い
 もんですよ!それになんであなたと一緒に
 暮らしてるんですか?」
義男「いや、それがね」
邦彦「もしかしてこの子のお母さんから脅迫
 されてるとか?」
早苗「おい。くそメガネ」
邦彦「く、クソメガネ?」
早苗「母さんが脅迫なんかするわけないだろ。
 第一このクズ」
義男「クズ!?」
早苗「に一回も頼らなかったし、そもそも養
 育費だって要求してない。勝手にこいつが
 罪滅ぼしとして送って来るけど、そのお金
 も使ってないし、何度も断ってる」
邦彦「じゃあ、お母さんは何も要求してこな
いと・・・ちょっと。義男さんこっちきてください。二人だけで」
義男「え?なんで?」
邦彦「いいから!」
   義男と邦彦、早苗から距離を置いた位
   置に移動する。
邦彦「じゃあなんであの子なんでいるんです
 か?(小声で)」
義男「それが家出で(小声)」
邦彦「家出?どんな理由があろうと早く返し
 てくださいよ。この件までスクープされた
 ら、終わりですよ(小声)」
義男「わ、分かってるよ。でも、なかなかの
 上手で(小声)」
邦彦「あなた今更、父親になる気なんてない
 でしょ(小声)」
義男「ま、まぁ。今更、父親になるの
 は・・・それに嫌われてるみたいだし(小
 声)」
邦彦「じゃあ、チャンスじゃないですか。力
ずくでもなんでもいいからあの子を追い出してくださいよ(小声)」
義男「追い出すってさすがに酷くない?(小
 声)」
邦彦「酷いも何もこれまで隠してたんだから
 いいじゃないですか?確かにあの子には酷
 かもしれないですけど。中途半端に優しく
 する方がもっと酷いですよ!(小声)」
邦彦「う、うん。そ、そうだね(小声)」
邦彦「頼みますよ。僕にも一歳の子供がいる
 んですから(小声)」
早苗「二人してコソコソなに喋ってんの?」
邦彦「今、撮影してる映画の話でね」
早苗「ふーん」
邦彦「お父さんすごいんだよ。あの山中隆監
 督の映画に」
早苗「興味ない。それにそいつは父親でもな
 んでもないから」
義男「(イライラ)・・・」

◯街中(昼)
   早苗、女装して歩いている。

◯アクセサリショップ
   早苗、恐る恐る入り、店内を覗く。
   棚に置いてあるピアスを手に取る。
店員「そちらに」
早苗「!?」
店員「鏡もございますので、つけてみてくだ
 さいね」
早苗「は、はい。ありがとうございます」

◯デパート・ショウウィンドウ・前
   早苗、自分の姿をウィンドウに映し、
   ピアスをつけた自分を嬉しそうに見て
   いる。

◯撮影所・廊下
スタッフA「義男さん、だいぶ顔変わったね」
スタッフB「ああ、確かにこの何日かでだい
ぶ老けたね」

◯撮影所・休憩室
   義男、目元の皺を見ている。
義男「はー、松井君」
邦彦「はい」
義男「これって本当に終わるの?」
邦彦「僕が聞きたいですよ。連日、僕も上司
 から説教で家帰れてないんですから」

◯義男宅・リビング(夜)
義男「ただいま(辺りをキョロキョロと見る)
 早苗君」

◯義男宅・寝室
   部屋に早苗の姿はない。
義男「どこ行ってんだよ」
   義男の電話に菜美から着信が入る。

◯花屋
菜美、作業をしながら義男と電話をしている。
菜美(電話)「ねぇ、仕事終わったらそっち
 に行ってもいい?」

◯義男宅・リビング
義男「あ、いや・・・ごめん。ちょっと今か
 らスポンサーの人たちと飲みに行くから」

◯花屋
菜美「そっか・・・じゃあ、明日は?」

◯義男宅・リビング
義男「明日も撮影でちょっと・・・前にも言
 ったけど、最近マネージャーが演技の練習
 しろってうるさくて。だから、当分会えな
 さそう」

◯花屋
菜美「・・・大変そうだね。分かった。じゃ

あ、また落ち着いたら会いに行くから」

◯義男宅・リビング
義男「う、うん。そうしてもらえると助かる」

◯街中(夜)
   早苗、手にはショッピングバッグを持
   ち、街中を歩いている。化粧品のポス
   ターを見つけ足を止める。赤い口紅を
   つけた美しい女性が写っている。
   早苗、ぼーっとそれを眺めている。

◯義男宅・玄関
   早苗、スーツケースを寝室に運び入れ
   る。
義男「遅い」
早苗「別に遅くてもいいだろ」
義男「よくないよ。あ、また」
早苗「また?」
義男「そのスーツケース。も
しかして、またあの格好で?」
早苗「悪い?」
義男「別に悪いとまでは言わないけどさ。中
 学生が夜の9時まで外に出歩いてるとまた
 補導されて」
早苗「ガミガミうるさいな」
義男「うるさいって。ここは俺の家だよ。好
 き勝手されるのは困る」
早苗「人のこととやかく言って暇あるんだっ
 たら、そのヘボ演技直す努力したら」
義男「へ、ヘボって・・・ああ。もう。き、
 君、家帰ったら?お母さん心配してるはず
 だよ」
早苗「だから帰らないって、前も言ったじゃ
 ん。馬鹿なの?」
義男「ば、馬鹿って。も、もう帰れよ」
早苗「やだ。帰らない」
義男「こ、こうなったら・・・武力行使出し
 ちゃうよ」
早苗「あ、いいの?隠し子に暴力」
義男「え?」
早苗「母さんは人がいいから言わないけど。
 僕は人がよくないから。どっかにタレ込ん
 でもいいんだけど」
義男「そ、それは・・・ちょ」
義男「なら、何も言うなよな(寝室に入って
 行く)」
義男「・・・(イライラ)」

◯同・リビング(朝)
   台所から料理をしている音が。
義男「う、ううう(起きる)」
   早苗、台所に立ち朝食を作っている。
義男「(テーブルの朝食を見て)こ、これ」
早苗「・・・(料理している)」
義男「・・・その昨日はお互い熱くなりすぎ
 ちゃったね。ごめん」
早苗「別に・・・気にしてないよ」
義男「そ、そっか。これ、君が作ってくれた
 の?ありがとう」
早苗「何言ってんの?別にあんたの分ないよ」
義男「は?仲直りの印に」
早苗「なんで、あんたと仲直りする必要があ
 るの。勘違いするなよ」
義男「勘違いって・・・でもこれ俺の家の食
 材だろ」
早苗「そうだよ。それが」
義男「だったら俺が食べてもいいだろ(食べ
 る)・・・あ、美味い」
早苗「美味しいだろうね。だって母さんいつ
 も仕事で帰りが遅いから僕がご飯作らない
 といけないから(わざと暗く)」
義男「・・・出かけてくる」
早苗「撮影は?クビ?」
義男「今日は撮休・・・(イライラ)」

◯コンビニエンスストア
   義男、マスクをして完全に変装してい
   る。
棚に置かれている週刊誌を手に取り、自分の記事のページを開く。
義男「は!?」

◯駅前・トイレ・中
   早苗、コンパクトミラーを見ながら口
   紅をつけている。

◯街中
早苗、街中を女装して歩いている。

◯花屋
   菜美が週刊誌で義男のスクープ記事を
   見ている。菜美の携帯に義男からの着
   信が入る。しかし、無視している。

◯喫茶店
店員「いらっしゃいませ」

菜美、女子高生の近くのテーブルに腰を下ろす。
店員「(水を持ってきて)ご注文は何になさいますか?」
菜美「はい、えっと。このケーキセット」
店員「はい、少々お待ちください」
女子高生A「ね、ねぇ。あの子」
女子高生B「うん?」
女子高生A「男の子じゃない?(小声で)」
女子高生B「え?どれ?」
女子高生A「あそこにいる?(小声)」
女子高生B「あの子?なんで?普通に可愛い
 子じゃん」
女子高生A「だって今、声が男の子みたいだ
 った気がする」
女子高校B「(凝視)確かに・・・少し肩幅
 大きいかも」
女子高生A「ほら、言ったでしょ」
女子高生B「でも少し、体格が大きい子だけ
 のじゃない?」
早苗「・・・(聞こえている)」
女子高生A「でもあの髪の毛作り物っぽいじ
 ゃん」
女子高生A「え、なんかそう見えてきた」
女子高生B「でしょでしょ!」
   盛り上がり、自然と声が大きくなる女
   子高生二人。二人の会話を聞き、店内
   の客が早苗の方を興味津々に見始める。
早苗「・・・(視線に耐えられない)」
   早苗、立ち上がり逃げるように店内に
   出ていく。
店員「え、お、お客さん!ケーキは!」

◯街中
   早苗、無我夢中で逃げるように走って
   いる。
   周りの人たちが走る早苗を見ている。
早苗「・・・(視線を感じて)」

◯デパート・ショウウィンドウ・前
早苗、ショウウィンドウの前で足を止める。
汗で、化粧が崩れてしまった顔がショウウィンドウに写る。

◯花屋
   菜美、店内の掃除をしている。
   自動ドアが開く。
菜美「いらっしゃ・・・」
義男「(手を上げて)やあ」
   菜美、義男から別の場所に移動し、作
   業をする。
義男「あ、あの今日の週刊芸能に載ってたや
 つだけどさ」
菜美「・・・(作業を続ける)」
義男「あの・・・菜美さん?」
菜美「・・・何?週刊芸能って」
義男「あ、いや。どうしたというか知らなか
 ったら別に」
菜美「・・・そう」
義男「うん」
菜美「・・・じゃあ帰って」
義男「帰ってって?なんか冷たくない?」
菜美「仕事中だから(義男の前を通り、別の
 場所へ移動する)」
義男「や、やっぱ見たんでしょ」
菜美「・・・(作業をしている)」
義男「・・・これ」
菜美「だから邪魔しないでって」
義男「この花ください」
菜美「(イライラしながら花を取り)じゃあ
 お会計はあちらで」
義男「あと、あの棚に入ってる白いやつ」
菜美、棚に行き、花を取ろうとする。
義男「だから、その。あの子はなんというか
 色々と複雑な事情があって。それでしょう
 がなく。べ、別に邪な気持ちでもなんでも
 ないから。あ、あとあの奥の赤いの(花を
 指し)」
菜美「・・・(奥の赤い花を取ろうとする)」
義男「それで。今すぐには言えないんだけど。
でも俺は真剣な気持ちで君のこと」
菜美「(手を止めて)真剣って何?コソコソ
 付き合ったりすること?付き合ってるのに
 裏口から会いに行くこと?それとも浮気す
 ること?」
義男「だから、あれは浮気じゃなくて。確か
 にコソコソ会ってたかもしれないけど。あ
 れはしょうがなく」
菜美「しょうがないよね。あなたは芸能人様
 なんだから」
義男「・・・」
菜美「・・・私の友達最近結婚したの」
義男「結婚?」
菜美「私の年頃だったらみんな結婚したり、
 お母さんになったりしてる。別に結婚願望
 があるわけじゃないけど。でも私もそろそ
 ろ自分の年齢考えちゃう(苦笑)・・・は
 い、これ(花束を義男に渡し)」
義男「・・・(受け取り)」
菜美「あなたと付き合うの疲れちゃった」
◯街中・路地裏(夕方)
   早苗、乱暴にカツラを脱ぎ捨てゴミ箱
   に捨てる。

◯住宅街
   義男、花束を持ち、呆然と歩いてる。
   前から母親と娘が前を仲良さそうに歩
   いている。
   義男、花束を突然地面に叩きつける。
母親「!?(子供を連れて足早に去って行
 く)」

◯義男宅・寝室(夜)
   早苗、俯き自分の体を確かめている。
   玄関の扉が閉まる音と足音。

◯同・玄関〜寝室・前
   義男、ズカズカと寝室の前まできて、
   ドアノブを回す。しかし、鍵がかかっ
   ている。
義男「おい!ここ開けろ!」
早苗「・・・嫌だ」
義男「開けろって!ここから出てこい!」
早苗「騒ぐならどっか外行ってこいよ!」
義男「外行ってこいって!?もう我慢の限界
 だよ!君が出ていけよ!」
早苗「いいの?隠し子のことバラしても」
義男「は!?それズルくない?」
早苗「ズルくないだろ。事実だろ」
義男「事実だけど何年も前の話じゃないか」
早苗「そうだよ。無責任にあんたが子供作っ
 て捨てた」
義男「た、確かに俺は君のいう通り無責任だ
 ったよ。でもあの時は俺も若かったし、そ
 れに俳優になるには・・・」
早苗「なるには僕と母さんが荷物だったんだ
 ろ・・・」
義男「荷物だなんて言わないけど」
早苗「でもそうじゃないか・・・まぁ顔だけ
で売るにはクリーンなイメージがいるから」
義男「だからその顔だけっていうのもやめろ
 よ」
早苗「でももう顔だけ食っていけない。そろ
 そろ引退考えた方がいいんじゃない」
義男「は!?君にご心配かけていただくても
 ね。あの山口隆監督の映画の主役やってる
 んです」
早苗「人の名前だして。偉そうにするなよ。
 どうせ事務所のゴリ押しだろ」
義男「・・・じゃ、じゃあ言わしてもらうけ
 どお前だってな。今だけなんだぞ」
早苗「何が?」
義男「そんな女の格好なんてできるの。今は
 まだいいかもしれないけどな。お前だって
 俺みたいに歳くえばすね毛だって、ヒゲだ
 って生えてくる」
早苗「別に剃ればいいだろ。そんなの」
義男「まだ生えてないから分からないだろう
 けどな。剃っても剃っても生えてくるんだ
 からな」
早苗「何言い出すんだよ(苦笑)」
義男「それに脇毛だって生えてきて。喉仏だ
 って出てくる。肩幅だって大きくなる。ワ
 ンピースも着れない。足のサイズだって大
 きくなって履ける女物なんてなくなる」
早苗「・・・やめろよ」
義男「いや、良くない。俺が君を捨てたこと
 が事実なら、俺は君に現実を教えるからな。
 毛が生えるのは、別に見えるところだけじ
 ゃなくてな。下の部分にだって」
早苗「やめろって・・・(泣)」
義男「え?」

◯同・寝室
   早苗、膝を抱えて泣いている。
早苗「あんたに教えてもらわなくても・・・
 そんな現実知ってるよ(泣)」

◯同・寝室(夜)
義男「ちょ、ちょっと言い過ぎたかもしれな
い・・・」
早苗「(泣)」
義男「・・・ごめん」

◯撮影所・分娩室(朝)
隆「義男さん」
義男「は、はい」
スタッフ一同、動きを止める。
隆「今回の」
義男「はい」
隆「一番酷かった」
スタッフA「はい、また血糊準備してー」
スタッフ一同、動き始める。

◯床屋・前〜中
   早苗、床屋の前を行ったり来たりして
   いる。
早苗「・・・(思い切って入る)」
   店内にはバリカンの音が響いている。

◯撮影所・分娩室
義男「あの!何がいけないんですか?」
   スタッフ一同、動きを止める。
義男「監督はもう一度。もう一度って。もう
 何百回もやってますよね!正直、このシー
 ンでそんなに時間かけなくてもいいんじゃ 
 ないですか?たかがワンシーンごときで」
   邦彦、後ろの方で顔を引きつらせる。
義男「あれでしょ。僕が顔だけの俳優とか。
 週刊誌とか見て腹たってるんでしょ。でも
 やり方陰険すぎません?」
邦彦「演技、演技(口パク)」
隆「君はこれまで何を思ってこのシーンを演
 じた?」
義男「何をって。散々色んなパターンをやり
 ましたよ。生まれてくる子供のこと思った
 り。頑張ってる嫁さんのこと考えたり」
隆「本当かな?」
義男「?」
隆「君からは逃げたいって感情しか伝わって
こなかった」
義男「感じないって、感じないって感覚的な
 こと言われても困るな。そういうの言いが
 かりって言うんですよ」
隆「言いがかりなんかじゃないけどな(苦
 笑)」
義男「・・・じゃあ、もう良いです」
邦彦「ち、ちょっと義男さん!」
義男「オッケーもカットももう良いです。こ
 の仕事降ります」
邦彦「よ、義男さん!休憩!休憩しましょ
 う!すみません。休憩頂きます!」

◯撮影所・休憩室
義男「ああ!くそっ!(衣装を投げる)」
邦彦「(入って来て)あんた頭おかしくなっ
 たのかよ!謝って来てくださいよ!」
義男「おかしくなんてなってねぇよ。もうや
 めやめ」
邦彦「あなたがそんな態度取るんだったら、こっちにも考えがありますよ」
義男「代役でもなんでも立てればいいだろ!
 (出ていく)」
邦彦「いいんですか!?本当に代役立てます
 よ!」
義男「勝手にしろ!」

◯義男宅・リビング
   義男、気だるそうにリビングに入って
   くる。
   邦彦からの着信。しかし、義男は無視
   する。
義男「・・・(シクシク泣き出す)」
早苗「30超えたおっさんが泣くなよ。気持
 ち悪い」
義男「!?(気づき)・・・いやー・・・こ
 れはね。あの・・・ただ、目薬さしてただ
 けで。(早苗を見て)なんで部屋の中で
 帽子?」
早苗「・・・(帽子を取る)」
義男「!?・・・(笑)」
   早苗の頭が丸刈りになっている。
早苗「(恥ずかしそうに)わ、笑うなよ!」
義男「だ、だって!ぼ、坊主って(笑)」
早苗「だから笑うなって!」

◯河川敷
   二人が河川敷に座っている。
早苗「やっぱり首になったんだ」
義男「やっぱってなんだよ。違うよ。こっち
 からやめたんだよ」
早苗「ああ、これで無職の30男・・・これ
 からどうやって食べてく気?まともに仕事
 したことないくせに」
義男「こ、これでも、由紀子、君のお母さん
 と付き合ってた時はそれなりに働いてたん
 だから」
早苗「嘘つけ。母さんのヒモだろ」
義男「ヒモなんてなるわけないだろ。居酒屋
で働いたり、建設現場で働いたり。あの頃は色々やってたよ」
早苗「ふーん、意外。仕事もしたことないた
 だの怠けもんだと思ってた」
義男「怠けもんって・・・君、僕のこと誤解
 してるよ」
早苗「誤解はしてないと思うけど」
義男「・・・それより君、頭。」
早苗「(頭を触り)・・・」
義男「なんで?」
早苗「男になろうと思って」
義男「それで坊主って安直じゃ(苦笑)」
早苗「安直で悪い?」
義男「別に悪いとは言わないけど・・・じゃ
 あ女の子になるのは」
早苗「やめた」
義男「やめたって・・・もしかして俺の言っ
 たこと気にしてる?あれはそのつい感情的
になっただけで本当に女の人になる人もいるし、体だって今の技術ならなんとでも。あれはオーバーに言っただけだよ」
早苗「母さん。同級生。先生。隣の家のおば
 さん。学校帰りに行く駄菓子屋のおじいさ
 ん」
義男「?」
早苗「そういう人たちの目が怖いんだ・・・
 体なんてどうだっていい・・・誰も知らな
 い場所に来たら自分らしく生きれると思っ
 たけど・・・でも、僕が臆病なのは変わら
 なくて・・・怖いんだ・・・」
義男「・・・お、臆病って・・・それで君は
 良いの?納得してるの」
早苗「いいよ。もう決めたことだし」
義男「でも」
早苗「・・・明日、帰るよ」
義男「・・・」

◯撮影所 廊下(朝)
邦彦「ちょっと何しに来たんですか?」
義男「何しにって撮影に決まってるだろ」
邦彦「もうあなた降板したんでしょ」
   義男、ズカズカと進んでいく。

◯撮影所・分娩室
   義男、勢いよく扉を開ける。
   動きを止めるスタッフ。
隆「?」
義男「(頭を下げて)別にこの映画に出たい
 わけではないです。別にあなたが世間で一
 流と言われようと全く尊敬もしていません。
 人間としては二流だとも思っています」
邦彦「あ、あんたそんなこと言いに来たのか
 よ」
義男「でも・・・オッケーをもらわないで逃
 げるのは三流だと思います。なので・・・
 このシーンでオッケーをもらえるまで帰り
 ません」
邦彦「もう代わりはもういるんですから帰っ
 てください」
隆「・・・じゃあ見せてください」
義男「・・・はい?」
隆「付き合いますよ」

◯撮影所・控え室
邦彦「オッケーが出たとしてもあなたは自分
 で降板したのですから、今更代役での撮影
 を変えることはできませんからね」
義男「うん、分かってる」
邦彦「でも・・・今日の演技は良かったです」
義男「・・・それはビジネスとして?」
邦彦「個人的な意見ですよ」
義男「(微笑)」
邦彦「(微笑)」

◯義男宅・リビング(昼)
   早苗、帰り支度をしている。
義男「・・・ねぇ」
早苗「何?」
義男「これ(赤いワンピースとウィッグを出
 す)」
早苗「なんだよ。それ」
義男「似合うだろうなって思って」
早苗「だからそういうのはやめたんだって」
義男「別に・・・やめなくても良いじゃな
 い?」
早苗「やめなくてもいいって・・・人の話聞
 いてた?」
義男「いや、俺は・・・君がどういう格好し
 ようと、どういう生き方をしようと認める
 よ」
早苗「あんたに認められてもどうしようもな
 いんだけど・・・また無責任なことされて
 て傷つくのは僕なんだけど」
義男「無責任じゃないよ・・・じゃあ、もし
 仮に君のお母さんとか、周りの人たちが君
 のこと否定したら。ここに帰って来ればい
 い」
早苗「・・・」
義男「いつでも帰って来ていいから・・・」
早苗「どうせ自分が寂しいだけだろ」
義男「そうかも(苦笑)」
早苗「じゃあさ、逆にあんたが孤独死しそう
 になったら来てあげるよ」
義男「孤独死!?」
早苗「(笑)まぁ・・・ありがとう」
義男「・・・(微笑)」

◯道
   女装している早苗とスーツケースを持
   っている義男が歩いている。

◯井上宅・玄関・前
   早苗、ベルを鳴らそうか悩んでいる。

◯菜美宅・玄関・前
   義男、玄関前をウロウロしている。

◯井上宅・玄関・前
早苗、ベルを鳴らし、出てくる由紀子。
由紀子「?どなた?」
早苗「・・・母さん」
由紀子「!?さ、早苗」
早苗「・・・うん」
由紀子「・・・」
早苗「・・・」
由紀子「おかえり(微笑)」
早苗「・・・(微笑)」

井上宅・玄関・前
菜美「何?もう私たちの関係は終わってるん
 だから帰ってよ(扉を閉めようとする)」
義男「(足をドアに挟み)撮影、首になった
 んだ」
菜美「は?それで慰めて欲しいわけ。あいに
 く私はそんな都合のいい女じゃないんで」
義男「それと娘が家に来てた」
菜美「娘って」
義男「あの週刊誌に載ってた女の子は俺の娘
なんだ」
菜美「あ、ありえない・・・」
義男「・・・ごめん」
菜美「子供がいるなんて言わなかったじゃな
 い!」
義男「・・・言ったら・・・嫌がられるんじ
 ないかと思って」
菜美「・・・そんな大事なことを教えて来れ
 ないあなたが嫌」
義男「分かってる。だからもう一度やり直し
 てくれなんて言わない、でも君に伝えてお
 きたかったから」
菜美「・・・そんな自己満足されても困るん
 だけど」
義男「だよね・・・もう君には会わないよう
 にするから・・・ごめん(帰ろうとする)」
菜美「・・・それで?」
義男「(振り返り)それで?」
菜美「もう嘘はないの?」
義男「ない」
菜美「じゃあ、私のこと好きだったのは?」
義男「・・・本当」
菜美「だとしても私、今回のこと許すつもり
 なんてないよ」
義男「いいよ。許してもらわなくても」
菜美「それにずっとネチネチ言い続けるよ」
義男「いいよ」
菜美「朝も昼も晩もずっと言い続けるよ。そ
 れでもいいならやり直してあげる」
義男「え、本当に?」
菜美「うん」
菜美「・・・(微笑)」
義男「・・・(微笑)」

◯撮影所・廊下
邦彦(電話)「義男さん!戻って来てくださ
 い!代役が逃げました!」

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