やけど ミステリー

火事の夢を毎晩見る工藤瑠璃(20)は、IT会社の社長の宮内拓(45)からプロポーズを受ける。彼こそが、嘗て幼い瑠璃を燃え盛る炎の中から危険を顧みず助けてくれた男だった。その日から、瑠璃の見る夢は変わり、ジョーン(年齢不詳)というピエロが現れるようになる。ジョーンは行きたいところ、欲しい物、何でも夢を叶えてくれるピエロだった。それはまるで明晰夢。しかし、火事で亡くなった両親に会いたいという瑠璃の願いにはジョーンは困ってしまう。ジョーンが瑠璃に伝えたい、13年前の火事の真相とは……
佐藤そら 11 3 0 02/01
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

登場人物
・工藤瑠璃(20)(7)…『DESTINY』勤務
・宮内拓(45)(32)(23)…IT会社社長・瑠璃の恋人
・ジョーン(年齢不詳)…夢の住人・男性ピエロ
・佐倉 ...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

登場人物
・工藤瑠璃(20)(7)…『DESTINY』勤務
・宮内拓(45)(32)(23)…IT会社社長・瑠璃の恋人
・ジョーン(年齢不詳)…夢の住人・男性ピエロ
・佐倉明美(30)…『DESTINY』オーナー

・工藤美希(31)(22)(7)…瑠璃の母
・工藤和正(35)…瑠璃の父
・渡辺友子(40)…施設『ローズマリー』勤務

・山村(33)…施設『希望の子守唄』勤務の女性
・君野(45)…ピアノを弾く女性
・消防士(30代)


○(夢)工藤家(深夜)
    一軒家が激しく燃えている。
   消防車の音、救急車の音が鳴り響く。

○(夢)同・部屋(深夜)
   燃え盛る炎。
   泣き叫ぶ工藤瑠璃(るり)(7)。
   工藤美希(31)と工藤和正(35)が瑠璃のもとへ駆け寄ろうとする。
   分断するように柱が倒れ、瑠璃の腕に当たる。
美希・和正「瑠璃!」
   男が入って来る。
   瑠璃を後ろから抱き上げると外へと連れ去って行く。
瑠璃「(泣きながら)お母さん! お父さん!」
   瑠璃と美希は互いに手を伸ばすが届かない。
   引き裂かれていく家族。
瑠璃「(泣きながら)お母さん! お父さん!」

○瑠璃のアパート・部屋(深夜)
   ハッと目を覚ます瑠璃(20)。
   目から涙が流れる。腕を押さえ、体を丸める。――暗転。

○花屋『DESTINY』(朝)
   2017年。秋の空。
   表で花の手入れをしている瑠璃。
   瑠璃のもとへやって来る佐倉明美(30)。
明美「あの人、またお花買いに来たよ。誰かさんの為に。IT会社の社長かぁ。あーあ、瑠璃ちゃんはいいな、愛されてるんだもん」
瑠璃「えっ? 明美さんだって……」
明美「(呆れたように)うちはダメ。もう冷めきってるの。やがて終わりが来るわ」
   花切りバサミで枯れた花を切り落とす。
明美「咲き続けられたら、素敵なのにね」
   店内に入っていく明美。
   店の前を通りかかる宮内拓(45)。
宮内「(手を振って)瑠璃」
瑠璃「拓! (笑顔になる瑠璃)」
宮内「来週、あのレストランの予約が取れたんだよ!」
瑠璃「え、ホント!」
宮内「うん」
   笑顔で宮内を見送る瑠璃。

○(夢)工藤家(深夜)
   一軒家が激しく燃えている。
   リストの『愛の夢 第3番』が流れ始める。

○(夢)同・部屋(深夜)
   燃え盛る炎。
   泣き叫ぶ瑠璃(7)。
   美希(31)と和正(35)が瑠璃のもとへ駆け寄ろうとする。
   分断するように柱が倒れ、瑠璃の腕に当たる。
美希・和正「瑠璃!」
   男が入って来る。
   瑠璃を後ろから抱き上げると外へと連れ去って行く。
瑠璃「(泣きながら)お母さん! お父さん!」
   瑠璃と美希は互いに手を伸ばすが届かない。
   引き裂かれていく家族。
瑠璃「(泣きながら)お母さん! お父さん!」
   瑠璃を抱き立ち去る宮内(32)。
   宮内を見て、青ざめていく美希の顔。

○瑠璃のアパート・部屋(深夜)
   ハッと目を覚ます瑠璃。
   腕を押さえ、体を丸める。

○レストラン(夜)
   窓から夜景が見える。
   食事をする瑠璃と宮内。
瑠璃「おいしいね」
   笑顔の瑠璃と宮内。
   突然明かりが消え真っ暗になる。
   ざわざわする店内。
   明かりが付くと、108本のバラの花束を抱えた宮内が登場する。
瑠璃「(驚いて)拓……?」
   瑠璃の前に歩いてくる宮内。
宮内「僕と結婚してください」
瑠璃「……!」
   瑠璃に花束を渡す宮内。
瑠璃「はい!」
   周囲から拍手が起こる。

○タイトル
   『やけど』

○(夢)街中
   走って逃げる瑠璃。
   追いかける数人の男達(30代)。
   逃げた先は行き止まり。取り囲まれる。
瑠璃「助けて……」
   目を閉じる瑠璃。
   瑠璃の前に男性ピエロのジョーン(年齢不詳)が現れる。
瑠璃「(目を開け)え?」
   ジョーンが壁に手をかざすと、行き止まりは消え道ができる。
   瑠璃を逃がすジョーン。走る瑠璃に手を振る。
   男達が追いかけようとすると、道は消え、行き止まりに戻る。

○瑠璃のアパート・部屋(深夜)
   ハッと目を覚ます瑠璃。
   息が上がっている。
瑠璃「……!」

○花屋『DESTINY』
   険しい表情の瑠璃。
明美「どうしたの? 怖い顔しちゃって」
瑠璃「えっ……」
明美「プロポーズまで受けた幸せ者とは思えない。108本のバラだったんでしょ? それって、結婚してくださいって意味じゃない!」
瑠璃「はい……」
明美「ちょっとー。何? まさかマリッジブルー?」
瑠璃「いや……夢がいつもと違ったんです」
明美「ん? 夢?」
瑠璃「はい。わたし、毎晩同じ夢を見るんです。自分の家が燃えていく夢」
明美「……」
瑠璃「でも、今日は違った……」
明美「でもそれって、ひょっとしたら良いことなんじゃない?」
瑠璃「えっ……」
明美「瑠璃ちゃんが、あの日から解放されたっていう、そういうことなんじゃない?」
瑠璃「……」
明美「結婚が新たな転機になったのかな」

○(夢)真っ白な空間
   何もない空間を歩いている瑠璃。
   きょろきょろしているとジョーンが現れる。
瑠璃「あなたは……助けてくれたピエロ」
   ジョーンは丁寧にお辞儀をする。
   ステッキのようにダリアの花を取り出し、瑠璃に差し出す。
瑠璃「ダリア……?」
   小刻みに頷くジョーン。
瑠璃「ありがとう。ねぇ、ピエロさんは……」
   ジョーンは胸に縫い付けられた布切れを瑠璃にアピールする。
   『ジョーン』とある。
瑠璃「ジョーン? あなたジョーンっていうの?」
   ジョーンは嬉しそうに小刻みに頷く。
瑠璃「わたしは工藤瑠璃。よろしくね」
   ジョーンは嬉しそうに瑠璃の周りをスキップする。

○車内
   走行中の車内。
宮内「もうすぐ見えてくるよ」
瑠璃「楽しみ(微笑み窓の外を見つめている)」

○宮内の家(一軒家)
瑠璃「ここが、この前言ってた家?」
宮内「そう。今すぐにでも生活できるようになってるから」

○同・室内
   室内を嬉しそうに散策する瑠璃。
   それを見守る宮内。

○同・キッチン
   食器やグラスが既に二人用に揃えられている。
   お揃いのマグカップを見つける。
   微笑む瑠璃。
宮内「気にってくれた?」
瑠璃「うん。なんか、すごい不思議なんだよね。自分の家があるってこと。帰る場所があるってこと」
宮内「(微笑んで)これからは、ここが僕らの家。瑠璃は一人なんかじゃないよ」
瑠璃「うん(微笑む)」

○花屋『DESTINY』
瑠璃「本当にお世話になりました」
   明美にアパートの鍵を渡す瑠璃。
明美「これからは二人暮らしか……」
   明美は店の看板を見ながら、
明美「こういうのを運命って呼ぶのかしらね」
瑠璃「えっ?」
明美「玉の輿って羨む人もいるだろうけど、まぁでも、瑠璃ちゃんにとっては命の恩人だもんね」
瑠璃「(頷いて)はい」
明美「でも羨ましいわ。なんてね(笑顔)」
瑠璃の声「ダリアには素敵な花言葉がある。華麗、優雅、感謝……素敵な未来が待っている気がする」

○(夢)真っ白な空間
   瑠璃が目を覚ますと、何もない空間。
   ジョーンが瑠璃のもとへやって来る。
瑠璃「ジョーン!」
   ジョーンは瑠璃にお辞儀をすると、手招きをする。
瑠璃「えっ? どこかへ行くの?」
   瑠璃の手を引き走り出すジョーン。

○(夢)サーカス会場
瑠璃「サーカス?」
   会場を指差し、首をかしげるジョーン。
瑠璃「(首を横に振り)行ったことない」
  ×  ×  ×
   いつの間にか会場の座席に座っている瑠璃。
   ジョーンの姿はない。
   サーカスが始まる。
瑠璃「!」
   初めて見る光景に驚きの連続。
   玉乗りをしながらジョーンが登場する。
瑠璃「ジョーン! そっか、ジョーンはサーカスのピエロってことだよね」
   火の輪が用意され、メラメラと燃え始める。
   玉から降り、客席にお辞儀をするジョーン。
   火の輪へ近づいて行くジョーン。
瑠璃「えっ?」
   指で火に触れようとして熱がる。
瑠璃「あれって、ライオンとかがくぐるやつじゃ……」
   突然助走をつけ、火に向かって走り始めるジョーン。
瑠璃「ジョーン!」

○宮内の家・寝室(深夜)
   ハッと目を覚ます瑠璃。
   隣には宮内が眠っている。
瑠璃「……」

○花屋『DESTINY』
   スマートフォンで『ピエロの夢』を検索している瑠璃。
   夢占いに『心の奥にある孤独を表しています』とある。
瑠璃「孤独……」

○(夢)真っ白な空間
   瑠璃が目を覚ますと、何もない空間。
   ジョーンが瑠璃のもとへやって来る。
瑠璃「ジョーン……」
   ジョーンは嬉しそうに小刻みに頷く。
瑠璃「体は大丈夫なの? やけどっ……(言葉に詰まる)」
   ジョーンはクルっと回転して見せる。
瑠璃「あなたは誰なの?」
   ジョーンは胸に縫い付けられた『ジョーン』と書かれた布切れをアピールする。
瑠璃「そういうことじゃなくて……。どうして、どうしてわたしの夢の中に現れるの? どこかで会ったことある?」
   首をかしげるジョーン。
   突然瑠璃の手を引っ張り走り出す。
瑠璃「え? ちょっと!」

○(夢)街中
   オシャレな洋服店が並ぶ通り。

○(夢)洋服店
   ジョーンが手招きで瑠璃を誘導。
瑠璃「わー素敵! (洋服を手に取りながら)」
   ご機嫌なジョーン。
瑠璃「あれ? みんな値札がない」
   ジョーンが笑いをこらえている。
   指を鳴らすジョーン。
   瑠璃の服が持っていた洋服に変わる。
瑠璃「わっ! すごい! ジョーンって魔法が使えるの?」
   ジョーンは声を出すこともなく、床でバタバタ笑い転げている。
瑠璃「(首をかしげ)ジョーン?」
   ジョーンは手招きで試着室へ瑠璃を誘導。
瑠璃「え? 何?」
   試着室のカーテンを開くと、瑠璃の背中を突然押すジョーン。
瑠璃「うわっ! (試着室の中へ転ぶように入る)」
  ×  ×  ×
   試着室の反対側から、カーテンを押して転ぶように出てくる瑠璃。
   ウエディングドレス姿に変わっている。
瑠璃「あれ?」
   声を出すこともなく笑い転げているジョーン。
瑠璃「(起き上がりながら)ウエディングドレス?」
   手を叩いて喜ぶジョーン。
瑠璃「ジョーンもお祝いしてくれるんだ」
   微笑む瑠璃。
   ジョーンはカメラを取り出し瑠璃に向ける。
   カシャっとシャッター音。

○宮内の家・寝室(深夜)
   ハッと目を覚ます瑠璃。
   自分の着ている服を確認するが寝間着を着ている。
   隣には宮内が眠っている。
瑠璃「そっか……夢は持って来れないもんね」
   一人で微笑む瑠璃。

○同・玄関(朝)
瑠璃「いってらっしゃい」
宮内「いってきます」
   手を振って宮内を見送る瑠璃。

○(夢)真っ白な空間
   ジョーンが瑠璃のもとへやって来る。
瑠璃の声「ジョーンは毎晩わたしの夢に現れた」
  ×  ×  ×
   ジョーンに豪華な食事を出され、美味しそうに食べる瑠璃。
   手を叩いて喜ぶジョーン。
瑠璃の声「わたしの食べたいもの」
  ×  ×  ×
   イルカショーがやっている。
   乱入したジョーンがイルカ以上の芸を見せる。
   大笑いの瑠璃。
瑠璃の声「行きたいとこ」
  ×  ×  ×
   寝室で目を覚ます瑠璃。一人笑顔。
瑠璃の声「どんな夢でも叶えてくれた」

○花屋『DESTINY』
明美「それって明晰夢ってやつじゃない?」
瑠璃「メイセキム?」
明美「そう、自分自身が夢だと自覚しながら見ている夢の事。明晰夢が見れるようになると、夢を思いのままに操れるようになるんだってさ!」
瑠璃「(頷いて)へぇー」
明美「ねぇ、空とか飛べるんじゃない? 今度飛んできてよ!」
瑠璃「えっ? そんなこと言われても」
明美「だって毎晩現れるんでしょ?」
   頷く瑠璃。
明美「良いピエロだね」
瑠璃「えっ?」
明美「瑠璃ちゃん、前より嬉しそうだから」
瑠璃「……!」

○(夢)真っ白な空間
   ジョーンが瑠璃のもとへやって来る。
瑠璃「ジョーン!」
   嬉しそうなジョーン。
瑠璃「わたしの職場の人が、ジョーンのこと良いピエロだねって褒めてたよ」
   首をかしげるジョーン。
瑠璃「ジョーン、空って飛べる?」
   瑠璃の手を握るジョーン。
   ジョーンと瑠璃の体が宙に浮く。
瑠璃「わっ! すごい!」

○(夢)街中
   空を飛びながら、街を見渡している。
瑠璃「わー! 地図みたい!」
   何かを指差すジョーン。
瑠璃「(指す方向を見て)あっ、わたしの家だ!」
   しばらく飛んでいる瑠璃とジョーン。
瑠璃「あれは、わたしが育った施設……」

○(夢)屋上
   見晴らしのいい屋上に降りる瑠璃とジョーン。
   『希望の子守唄』という看板が見える。
瑠璃「あそこが、わたしのふるさとなの」
   瑠璃を見つめるジョーン。
瑠璃「いつか、お父さんとお母さんが、来てくれるって信じてたんだ……」
   首をかしげるジョーン。
瑠璃「ねぇ、お父さんとお母さんには会える?」
   驚くジョーン。
瑠璃「これは夢の中なんだよね。だったら、会えるよね?」
   悲しい顔で瑠璃を見つめるジョーン。
瑠璃「ねぇ、わたしのお父さんとお母さんに会わせて!」
   頭を抱え、その場にしゃがみ込むと困るジョーン。
瑠璃「どうして? だってこれは夢なんだよ? わたしの見ている夢なんだよ?」
   両耳をふさぐジョーン。
瑠璃「ジョーン……」

○宮内の家・寝室(深夜)
   目を覚ます瑠璃。泣いている。
   涙を拭う瑠璃。
瑠璃「どうして……」

○花屋『DESTINY』
   花の手入れをしている瑠璃。
明美「あーあ。絶対浮気されてるー」
瑠璃「えっ?」
明美「幸せな瑠璃ちゃんにこんな話ごめんね」
瑠璃「いや……」
明美「他の人にするならするで、付き合う前に別れろって話。わたしをキープしつつ他の女にもって、男ってずるいと思わない?」
瑠璃「彼氏さんには、聞いたんですか?」
   首を横に振る明美。
明美「怖くて聞けないよ。もうわたしも30だっていうのに……。結局、惚れた方の負けってことね」
瑠璃「……」
明美「そうだ、瑠璃ちゃんは、空飛べたの?」
瑠璃「えっ……あぁ、はい」
明美「そっか。わたしも明晰夢でも見て、カッコイイ彼氏と付き合いたいわ」
瑠璃「……」

○(夢)真っ白な空間
   ジョーンが膝を抱えてしょんぼりしている。
瑠璃「(ジョーンを見つけて)ジョーン……」
   ジョーンのもとへ駆け寄る。
瑠璃「ごめんね、ジョーン。困らせちゃったよね?」
   困り顔で瑠璃を見つめるジョーン。
瑠璃「夢ってさ、現実世界じゃ、ないじゃない? だから、お父さんやお母さんに会えるのかなって思ったの」
   ジョーンは真下を『ここ』と言うように指差す。
瑠璃「ジョーンにとっては、ここが生きている世界ってこと?」
   小刻みに頷くジョーン。
瑠璃「そっか。……ジョーンは孤独? ひとりぼっちなの?」
   ジョーンは瑠璃を指差す。
瑠璃「瑠璃がいる?」
   ジョーンは嬉しそうに瑠璃の周りをスキップする。

○宮内の家・リビング(夜)
   煙草を吸う宮内。
宮内「明日の休み、どこか行こうか」
瑠璃「え、本当?」
宮内「(微笑んで)久々にピアノコンサートはどう?」
瑠璃「……!」
宮内「ちょうど友人がコンサートを開くんだよ。よかったらってチケットを貰ったんだ」
   チケットを二枚瑠璃に見せる。
瑠璃「嬉しい! 行く行く!」

○(夢)真っ白な空間
   リストの『愛の夢 第3番』が流れている。
   何もない空間を歩いている瑠璃。
瑠璃「この曲って……」
   曲に合わせて踊っているジョーンの姿を見つける。
   瑠璃を見つけ、駆け寄るジョーン。
   瑠璃をその場に座らせ、指を鳴らす。

○(夢)小さな劇場
   いつの間にか、劇場の座席に座っている瑠璃。
   フリップを持って舞台に登場するジョーン。
瑠璃「……?」
   フリップをめくると『わたしの夢ランキング』とある。
   拍手を誘うジョーン。
   つられるように拍手をする瑠璃。
   フリップを一枚ずつめくっていくジョーン。
   『ステキな服を着たい』
   『おいしいものが食べたい』
   『イルカショーが見たい』
   『空を飛びたい』
   瑠璃を指差すジョーン。
瑠璃「……?」
   次のフリップをめくると『でも、そんなことより!』とある。
   フリップをめくると『幸せになりたい』とある。
   続けて激しくフリップをめくっていくジョーン。
   『しがらみから解放されたい』
   『知りたい』
   『傷付きたくない』
   『忘れたい』
   『でも、忘れたくない』
   フリップを叩くジョーン。
瑠璃「(動揺して)えっ……」
   次のフリップをめくる。
   『第3位 サーカスに行きたい』
   『第2位 ピアノを聴きたい』
   『第1位 お母さんに会いたい』
瑠璃「お母さんに会いたい……」
   小刻みに頷くジョーン。
瑠璃「えっ? 会わせてくれるの!?」
   嬉しそうに小刻みに頷くジョーン。
   『こちらへ』と言うように瑠璃を案内するジョーン。

○(夢)街中
   人の姿がない知らない街を、瑠璃とジョーンが歩いている。
   リストの『愛の夢 第3番』が流れている。

○(夢)児童養護施設『ローズマリー』
   施設の前に来ると、ピアノの音が近い。
瑠璃「ローズマリー?」
   窓のある方へと手招きするジョーン。
  ×  ×  ×
   窓から中を覗く、瑠璃とジョーン。
   美希(31)が『愛の夢 第3番』を弾いている。
  ×  ×  ×
瑠璃「お母さん!」
   瑠璃に『静かに』というジェスチャーをするジョーン。
   笑顔で窓の外から演奏を聴く二人。
  ×  ×  ×(現実世界)
   『愛の夢 第3番』が流れ続けている。
   タンカーで運ばれていく瑠璃。
宮内「(顔面蒼白で)瑠璃! 瑠璃!」
  ×  ×  ×
   ピアノを弾き続ける美希。
  ×  ×  ×
瑠璃「この曲はお母さんが弾いてたんだ」
   幸せそうな瑠璃。

○病室
   瑠璃が眠っている。意識がない。
   その横でうなだれている宮内。

○(夢)真っ白な空間
   瑠璃の前に誕生日ケーキを持って現れるジョーン。
   ろうそくは7本。
瑠璃「ジョーン? わたし、今日誕生日じゃないよ? えっ……7歳……」
   ケーキを持ったジョーンが転ぶ。
   ろうそくの火が床から一気に燃え広がり、炎に包まれる。
瑠璃「えっ……」
   瑠璃の手を引き、慌てて駆けだすジョーン。

○(夢)街中
   歩いている瑠璃とジョーン。
   図書館を見つけ、瑠璃を手招きするジョーン。

○(夢)図書館
   新聞コーナーへ向かうと、十三年前の新聞を取り出すジョーン。
   日付は『2004年3月16日』とある。
瑠璃「これって……」
   ジョーンは新聞を開くと、火事の記事を瑠璃に見せる。
   そこには消火された後の工藤家の写真が載っている。
美希の声「瑠璃、誕生日おめでとう」
和正の声「7歳の誕生日おめでとう」
瑠璃「わたしの家……」
   蛍光ペンを取り出すと、『庭から出火したものと思われ、放火の疑いがある』にアンダーラインを引くジョーン。
瑠璃「放火……?」
   ジョーンを見つめる瑠璃。
   瑠璃の手を掴み走り出すジョーン。
瑠璃「え? ちょっと!」

○(夢)映画館
   隣同士で座っている瑠璃とジョーン。
   ポップコーンを瑠璃に差し出すジョーン。
   上映が始まる。
  ×  ×  ×
   スクリーンに古いフィルム映像が流れ始める。
   美希(22)が男(23)と歩いている。
   男の顔はよく見えない。
  ×  ×  ×
瑠璃「お母さん?」
  ×  ×  ×
   ピアノのコンサート会場に男と入っていく美希。
   リストの『愛の夢 第3番』を弾く女性に目を輝かせる。
  ×  ×  ×
   宮内の家に入っていく美希。
   宮内の家にあるお揃いのマグカップを使っている美希。
  ×  ×  ×
瑠璃「えっ? 何で……」
  ×  ×  ×
   突然砂嵐になるスクリーン。
   やがて綺麗な映像に変わる。
  ×  ×  ×
   深夜、煙草を吹かす、フードを深くかぶった男。
   工藤家に向かうと、庭にあるゴミ箱に火のついた煙草を入れる。
   次第に燃え広がっていく炎。
   燃え始める家を見つめる男。
   フードを取ると宮内(32)だった。
  ×  ×  ×
瑠璃「(息を呑む)……!」
  ×  ×  ×
   水をかぶると燃える工藤家の中に入っていく宮内。
  ×  ×  ×
瑠璃「嘘……そんなの嘘だよ!」
  ×  ×  ×
   燃え盛る炎。泣き叫ぶ瑠璃(7)。
   美希(31)と和正(35)が瑠璃のもとへ駆け寄ろうとする。
   分断するように柱が倒れ、瑠璃の腕に当たる。
美希・和正「瑠璃!」
   宮内が入って来る。
   瑠璃を後ろから抱き上げると外へと連れ去って行く。
瑠璃「(泣きながら)お母さん! お父さん!」
   瑠璃と美希は互いに手を伸ばすが届かない。
   引き裂かれていく家族。
瑠璃「(泣きながら)お母さん! お父さん!」
   瑠璃を抱き立ち去る宮内。
   宮内を見て、青ざめていく美希の顔。
  ×  ×  ×
   ジョーンが立ち上がり拍手をする。
   つられるように、周囲の人々も次々と立ち上がり、スタンディングオベーションが起きる。
瑠璃「(その光景に取り残され呆然と)……」
  ×  ×  ×
   会場の扉が開き、宮内が現れる。
宮内「何してるんだよ! こんなところで」
瑠璃「……!」
宮内「僕が、こんなにも愛しているというのに!」
瑠璃「!」

○病室
   目を覚ます瑠璃。ベッドの上にいる。
瑠璃「……」
   意識が戻ったことに気が付く宮内。
宮内「瑠璃! よかった、ホントよかった!」
瑠璃「拓……?」
宮内「大丈夫か? 高熱を出して倒れて、ずっと目が覚めなかったんだぞ。今先生呼んでくるから!」
瑠璃「え……」
   病室を出て行く宮内。
   ゆっくりベッドから起き上がる瑠璃。
   袖をめくると腕に火傷の跡がある。

○花屋『DESTINY』
   ローズマリーが置かれている。
瑠璃の声「どうやらわたしは、長い夢を見ていたらしい……」

○病室
瑠璃「え、検査入院?」
宮内「念のためだよ。こういう時はゆっくり休んで」
瑠璃「うん……。そうだ、拓仕事は?」
宮内「大丈夫だよ。僕の心配はいいから、自分の体のことだけ考えて。あっ、飲み物買ってくるね」
瑠璃「ありがとう」
   病室を出て行く宮内。
瑠璃の声「現実世界の拓は、いつもと変わらず優しかった。何であんな夢を見たのだろう……」

○満月の空(夜)
   晴れた夜空。
瑠璃の声「あの日以来、夢を見なくなった」

○病室
   明美がお見舞いに来る。
明美「びっくりしたよー。話聞いて。大丈夫?」
瑠璃「はい。すみません、ご迷惑かけちゃって」
   首を横に振る明美。
明美「でも、宮内さん休みの時でよかったね。誰もいない時に倒れたら大事になってたかもしれないじゃない?」
瑠璃「でも、全然記憶ないんですよね……」
明美「えっ?」
瑠璃「ピアノコンサートに行くって話して、その日眠って、気付いたらここにいて」
明美「いつものピエロは夢に出てきたの?」
瑠璃「はい。でも、いつもと違って恐ろしい夢でした……」
明美「……」
瑠璃「夢と現実の垣根って、なんなんでしょうね……」

○病院・屋上
   瑠璃が屋上で遠くを見つめている。
瑠璃の声「ジョーンは悪魔だったのだろうか? 夢の中で母に会った時、わたしはあの世に行きかけていたのだろうか? だから、会いたいと言った時、あんなに困った顔をしていたのだろうか?」

○(回想)児童養護施設『希望の子守唄』
   瑠璃(7)が施設の外を見ている。
   施設の女性、山村(33)が、
山村「瑠璃ちゃん、そろそろ中入ろっか」
瑠璃「ヤダ!」
山村「お友達中で待ってるよ」
瑠璃「ヤダ!」
  ×  ×  ×
   宮内(32)が施設の前を通りかかる。
瑠璃「あっ!」
宮内「おっ、瑠璃ちゃん。僕の事分かる?」
瑠璃「助けてくれた人!」
   宮内は瑠璃ににっこりと微笑みかける。

○(回想)道
   ランドセルを背負った瑠璃と、宮内が歩いている。
瑠璃「え、ホントに? いいの?」
宮内「施設の人には秘密だよ」
瑠璃「うん!」

○(回想)コンサート会場
   ピアノのコンサートが行われている。
   リストの『愛の夢 第3番』を弾く女性に目を輝かせる瑠璃。

○(回想)水族館・イルカショー会場
   ショーを見て感激している瑠璃。
   横で笑っている宮内。

○(回想)公園(夜)
瑠璃「拓はひとりぼっちなの?」
宮内「違うよ。僕には瑠璃がいる」
   瑠璃の頭をポンポンする宮内。
瑠璃「ずっといてくれる?」
宮内「ずっと一緒にいる」
瑠璃「どこへも行かない?」
宮内「行かないよ」

○病院・屋上
   瑠璃の目から涙がこぼれる。
瑠璃の声「幸せになりたい。しがらみから解放されたい。でも真実を知りたい。けど、傷付きたくない。全部忘れたい。でも、忘れたくない……。あのフリップはわたしの気持ちだった」

○宮内の家・キッチン
   お揃いのマグカップを手にする瑠璃。
瑠璃「……」
   宮内がやって来る。
宮内「瑠璃、明日からしばらく仕事休みな」
瑠璃「え、でも……」
宮内「異常がなかったといっても、病み上がりみたいなもんなんだし、別に収入的に問題はないんだから」
瑠璃「そうだけど……」
宮内「明美さんにももう伝えてあるから」

○同・玄関(朝)
瑠璃「いってらっしゃい」
宮内「いってきます」
   宮内の後ろ姿を見届ける瑠璃。

○同・リビング(朝)
   灰皿の煙草を掃除する瑠璃。
   誰もいない部屋を見つめる。
瑠璃「(さえない表情で)……」

○図書館
   図書館に入って来る瑠璃。深呼吸する。
   新聞コーナーへ向かい、『2004年3月16日』の新聞を探す。
   新聞を広げ、火事の記事を探す。
   消火された後の工藤家の写真が載っている。
瑠璃「(動揺して)わたしの家……!」
   記事には『庭から出火したものと思われ、放火の疑いがある』とある。
瑠璃「放火……。夢じゃなかったんだ……」

○児童養護施設『ローズマリー』前
   地図を見ながら施設の前までやって来る瑠璃。
瑠璃「本当にあった……」

○同・室内
   子供達が遊んでいる。
   渡辺友子(40)が瑠璃を案内している。
瑠璃「母は、ここで……育ったんですね」
友子「そう、雰囲気は変わっちゃってると思うけど……あ、アルバム持って来るね」
   室内を出て行く友子。
瑠璃の声「母のいた施設は、実在していた。夢は……やはり夢じゃなかった……」
   アルバムを持って来る友子。
友子「これが、その当時の」
   渡されたアルバムを開く瑠璃。
   子供達の写真に一人ずつ目を通していく。
   美希(7)の姿を見つける。
瑠璃「お母さん……」
   子供達の集合写真を見る瑠璃。
   美希の手に、ジョーンと同じ服装のピエロのぬいぐるみが握られている。
瑠璃「ピエロ……! (友子を見て)これって!」
友子「あぁ、このぬいぐるみ、ここへ来た時から持ってたみたいなの。彼女が一番大切にしてたものみたいね」
瑠璃「……!」
友子「ご両親が亡くなる前に、サーカスに家族で行ったみたいで。いつも持ち歩いていたそうよ」
瑠璃「……」
友子「ちょっと待ってて、ひょっとしたらまだあるかもしれない」
  ×  ×  ×
友子「はい(ピエロのぬいぐるみを瑠璃に差し出す)」
   受け取る瑠璃。
   ぬいぐるみの胸に縫い付けられた布切れに『ジョーン』とある。
瑠璃「(動揺して)ジョーン……。あなたはお母さんのピエロだったの?」
   奥から『キラキラ星』が聴こえてくる。
   様子を覗く瑠璃。
   窓の近くにピアノがあり、施設の人が弾いている。
友子「彼女はピアノも好きだったみたいよ」
  ×  ×  ×(回想)
   君野(45)がピアノの前にいる。
君野「じゃあ、ピアノ弾こっか」
美希「やったー!」
   ピアノを弾き始める君野。
友子の声「当時ね、ピアノがすごいうまい、君野さんって方が時折この施設に遊びに来てくれてね、よく弾いてくれてたみたいなの」
  ×  ×  ×
   ジョーンのぬいぐるみを見つめている瑠璃。
友子「よく弾いてもらってた曲が……」
瑠璃「『愛の夢』……」
友子「まぁ、よく知ってるわね」
瑠璃「……」

○道(夕方)
   ジョーンのぬいぐるみを抱えて歩いている瑠璃。
瑠璃の声「母からの愛の夢だった……。ジョーン、あなたはわたしに真実を伝えようとしてくれているの? でもね、ジョーン。わたしやっぱり信じられないの……」

○花屋『DESTINY』(夕方)
   ジョーンのぬいぐるみを手に店にやって来る瑠璃。
明美「あら瑠璃ちゃん! どうしたの?」
   ピエロのぬいぐるみに気が付き、
明美「まぁ、ピエロ!」
瑠璃「わたしの夢の中に現れるピエロは、母が大切にしていたものだったんです」
明美「そうだったの。素敵ね。いつでも瑠璃ちゃんのことを助けてくれてるのね」
瑠璃「……」
  ×  ×  ×(夢・回想)
瑠璃「助けて……」
   目を閉じる瑠璃。
   瑠璃の前にジョーンが現れる。
  ×  ×  ×
瑠璃の声「思えばあの日から、ジョーンはわたしのもとへ現れるようになった」
明美「ここに居たら宮内さん心配しない? 大丈夫?」
瑠璃「あっ……はい。もう帰ります」
   帰ろうとする瑠璃。立ち止まり、
瑠璃「もし、凶悪犯がいて、その人が自分の好きな人だった……明美さんならどうしますか?」
明美「……? えっ?」
瑠璃「たとえばの、話です」
明美「うーん。好きになってから罪を知ってしまったら……本当に好きだったら……嫌いになることは難しいのかもね」
瑠璃「……」
明美「凶悪犯じゃなくても、人を嫌いになるには、その人を嫌いになるまで、その人のイヤなところを見続けるしかない……」
瑠璃「……」
明美「好きになることと同じくらい、難しい気がする。(笑って)もうすぐわたしも彼と別れるわ」

○宮内の家・リビング(夜)
   婚姻届を瑠璃に手渡す宮内。
瑠璃「!」
宮内「ずっとバタバタしてたし、いろいろあったから遅くなっちゃったけど」
瑠璃「婚姻届……」
宮内「もうすぐだし、瑠璃の誕生日に出しに行こう。この日を良い日にしよう」
   宮内の顔を見つめる瑠璃。笑顔の宮内。

○(夢)真っ白な空間
   何もない空間を歩いている瑠璃。
   ショパンの『別れの曲』が聴こえてくる。
   音の方へ向かうと、ジョーンがピアノを弾いている。
   周りにはスイセンの花が沢山咲いている。
瑠璃「ジョーン!」
   瑠璃を見つけると椅子から立ち上がり、瑠璃に丁寧にお辞儀をするジョーン。
   ピアノはひとりでに曲を奏で続ける。
   ジョーンに抱きつく瑠璃。
瑠璃「ジョーン心配したんだよ! ずっと現れないから!」
   ジョーンは声を出すこともなく笑っている。
   突然スイセンの花を刈り取ると、荒々しく瑠璃に突き出す。
   受け取り、
瑠璃「えっ……」
   ひとりでに『別れの曲』を奏でるピアノを指差すジョーン。
瑠璃「これが最後? 最後の夢なの!?」
   小刻みに頷くジョーン。
瑠璃「イヤだ! イヤだよ、そんなの! どうして? どうして最後なの? あなたは、あなたはわたしのお母さんが大切にしていたピエロ……」
   静かに瑠璃を見つめるジョーン。
瑠璃「(スイセンの花を見つめながら)偽りの愛……」
   小刻みに頷くジョーン。
瑠璃「わたしね、結婚するの。結婚しちゃうの。ねぇ、全て偽りだったのかな。うぬぼれてたのかな」
   首をかしげるジョーン。
瑠璃「恋は一過性の精神疾患って言うじゃない? でも、拓しかいなかったの。わたしの横には拓がいて、それがずっと当たり前だった。洗脳なのかな? 好きだって自分を洗脳し続けてたのかな? でも、でもね、今でも拓のことが好きっ……」
   瑠璃の頬を涙が伝う。
瑠璃「騙されてたのかな……。全部、蜃気楼みたいなものだったの……?」
   手を叩いて喜ぶジョーン。
瑠璃「ちっとも楽しくないよ」
   瑠璃の肩をトントンと叩くジョーン。
   手招きで瑠璃を連れ出す。

○(夢)道
   歩いている瑠璃とジョーン。
瑠璃「ねぇ、ジョーン。どこに向かってるの?」
   何も答えないジョーン。
   レンタル収納スペースが見えてくる。
   それを指差すジョーン。
瑠璃「えっ……」

○(夢)レンタル収納スペース
   倉庫の扉には暗証番号で開く鍵が付いている。
   ジョーンは指を8本出し、瑠璃にアピール。
瑠璃「8ケタ……」
   ジョーンは『2・0・0・4』と押し、瑠璃の顔を見る。
瑠璃「……」
   続けて『0・3』と押し、瑠璃の顔を見る。
瑠璃「……」
   続けて『1・6』と押し、瑠璃の顔を見る。
瑠璃「2004年3月16日……」
   小刻みに頷くジョーン。
瑠璃「嘘でしょ……そんなの……」
   鍵が開く。
   扉を開けると写真が流れ出てくる。
   大量の美希の写真。隠し撮り写真。
   工藤一家の隠し撮り写真。
   幼い頃の瑠璃の写真。
   美希の私物。
   ピアノのコンサートの半券。
   ジョーンは、中の物をせっせと取り出していく。
瑠璃「嘘っ……なんで……」
   ジョーンは若い頃の美希と宮内が、幸せそうに写った写真を瑠璃に差し出す。
瑠璃「嘘だよ、嘘だよこんなの!」
   瑠璃の背後から足音が近づく。
宮内の声「いけない子だなぁ。君は見てはいけないものを見てしまったね」
   瑠璃が振り向くと宮内が立っている。
瑠璃「拓!」
   瑠璃を鋭い眼差しで見ている宮内。
瑠璃「嘘だよね……。こんなの嘘だよね?」
宮内「(笑って)僕は瑠璃が生まれる前から、瑠璃を知ってるよ?」
瑠璃「!」
宮内「君の遺伝子が欲しかったんだ」
瑠璃「……」
宮内「君のお母さんは、何も持っていない人と結婚したんだ。僕は何もかも持っているというのに。僕はね、手に入れたい物は何でも手に入れてきた。人の心もね」
瑠璃「(首を横に振り)違う! 拓はそんな人じゃない! わたしの好きな拓は、そんな人じゃない! もっと優しくて、ひとりぼっちのわたしに手を差し伸べてくれた!」
   声をあげて笑う宮内。
宮内「ひとりぼっちにしたのは誰だよ? 僕だよ?」
瑠璃「(息を呑む)……!」
宮内「僕がこんなにも愛しているというのに! 秘密を知ってしまった瑠璃ちゃんには罰を与えないとね」
   宮内は内ポケットから銃を取り出そうとする。
   震えが止まらない瑠璃。
瑠璃「助けて……助けて……ジョーン!」

○宮内の家・寝室(深夜)
   ハッと目を覚ます瑠璃。
   汗だくで体が震えている。
   隣で静かに宮内が眠っている。
   袖をめくると火傷の跡がある。
   瑠璃の目から涙が溢れ出す。

○道
   震える手を押さえながら瑠璃が歩いている。
   夢の中で見たのと同じレンタル収納スペースが見えてくる。
瑠璃「……」

○レンタル収納スペース
   倉庫の扉には暗証番号で開く鍵が付いている。
   震える指で押そうとし、躊躇する。
瑠璃「(自分に言い聞かせるように)大丈夫」
   8ケタ『2・0・0・4・0・3・1・6』を順に押していく。
   鍵が開く。
瑠璃「……!」
   扉を開くと、中から大量の美希の写真が流れ出てくる。
瑠璃「!」
   工藤一家の隠し撮りされた写真を手に取る。
   和正の顔が塗り潰されている。
   写真の裏を見ると『僕がこんなにも愛しているというのに』とある。
瑠璃「……」
   幼い頃の瑠璃の写真。
   美希の私物。
   ピアノのコンサートの半券。
   一つずつ手に取っていく瑠璃。
瑠璃の声「わたしは、母と同じ人生を歩んでいた。いや、歩まされていたのかもしれない。親を失い、わたしは母と同じように施設に行った。そこから彼のシナリオは始まっていたんだ……。母に与えた物をわたしに与え、母と同じ人物をつくっていく……」
   幼い瑠璃と宮内が一緒に写った写真を手に取る。
瑠璃の声「命の恩人を、愛さないはずがなかった……。嫌いになれるはずがなかった……」
   瑠璃の目から涙が溢れだす。

○宮内の家・リビング(3月15日・夜)
   すでに記入された婚姻届を見つめている瑠璃。
   ピエロのぬいぐるみに、
瑠璃「ねぇ、ジョーン。もうすぐ今日が終わっちゃう……」
   何も言わないぬいぐるみ。
  ×  ×  ×
   深夜一時を過ぎ、酔っ払った宮内が帰宅。
   そのまま眠ってしまっている瑠璃。
宮内「こんなところで寝て、風邪ひくぞ」
   瑠璃の寝顔を見ながら煙草を吸う宮内。
宮内「誕生日か……(笑みを浮かべる)」
   灰皿に煙草を入れ、瑠璃に布団をかけると寝室へ向かう。

○(夢)真っ白な空間
瑠璃「ジョーン! ジョーン!」
   何もない空間で瑠璃が叫ぶが、誰も現れない。
瑠璃「(走りながら)ジョーン! ジョーンってば!」
   誰も現れない。
瑠璃「ねぇ、どうして……」

○宮内の家・リビング(深夜)
   目を覚ます瑠璃。
瑠璃「……」

○同・寝室(深夜)
   寝室を覗く。宮内が眠っている。
瑠璃「……」

○道(深夜)
   とぼとぼと、人通りの少ない道を当てもなく歩いている瑠璃。
瑠璃の声「一本違う道を歩いていたら、その事件には遭わなかった。人生も、目の前にある道も、そういうものなのかもしれない」
   街の掲示板の前を通り過ぎ、ふと立ち止まる。

○掲示板前(深夜)
   掲示板を見に戻る瑠璃。
   サーカスのポスターが貼られており、『レムサーカス団』とある。
瑠璃「あっ……」
   ポスターにはジョーンにそっくりのピエロが載っており、ダリアの花を手に持っている。
瑠璃「……!」
  ×  ×  ×(回想)
   丁寧にお辞儀をするジョーン。
   ステッキのようにダリアの花を取り出し、差し出す。
瑠璃の声「ダリアには素敵な花言葉がある。華麗、優雅、感謝……」
  ×  ×  ×
   ポスターを見つめている瑠璃。
瑠璃の声「でも、悪い花言葉もある。それは……」
  ×  ×  ×
   リビングのテーブルにあるピエロのぬいぐるみが、突然煙草の吸殻の入った灰皿へ傾く。
瑠璃の声「裏切り……」
  ×  ×  ×
   掲示板を後にし、歩き始める瑠璃。

○コンビニ前(深夜)
   何かを手にコンビニから出て来る瑠璃。

○道(深夜)
   宮内の家に向かい歩いている瑠璃。
   消防車と救急車が、瑠璃の横を通過していく。
   気にも留めない瑠璃。
瑠璃の声「幸せだったことも事実だった」

○宮内の家(深夜)
   瑠璃が戻って来ると、家が激しく燃えている。
瑠璃「!」
   消火活動が行われている。
瑠璃「拓!」
   燃える家に飛び込んで行こうとする瑠璃。
   消防士(30代)に止められる。
消防士「危険です! 下がってください!」
瑠璃「拓が! 拓が中にいるんです!」
消防士「えっ……」
瑠璃「離して、離して! 拓が! 拓が!」
   泣き叫ぶ瑠璃を無理やり止める消防士。
   瑠璃の手から、サーカスのチケットが二枚ひらひらと落ちて行く。
   燃え盛る炎。
瑠璃の声「分かってる。あなたは裏切り者。なのに……なのに……。偽りのあなたを愛してた。嘘でもあなたを愛してる」

END

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。