赤ちゃんの命名 コメディ

地球に住むお父さん、お母さん、ジュン、ミサ、タク、リコの一家6人が宇宙ツアーに参加し、ホームステイしながらいろいろな星の生活を見て回ります。地球では考えられないような文化や習慣・自然環境があり、驚きの毎日を過ごしながら家族が成長していきます。宇宙を旅するが宇宙SF小説とは違う異色ホームドラマ。アニメならば約10分、1話完結の物語。
トナミKK 29 0 0 12/26
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第一稿

【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HF=ホストファーザー
HM=ホストマザー


○飛 ...続きを読む
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【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HF=ホストファーザー
HM=ホストマザー


○飛行機の中

地球家族6人が向かい合わせに座っている。
タク「今日は、どんな国を訪問することになるのか、楽しみだな」
ミサが少し暗い表情をしている。
ミサ「私、今朝、怖い夢を見たんだ」
ジュン「怖い夢? 熊とかオオカミに襲われたとか?」
ミサ「ううん、そういう怖さとは違うんだ。夢の中で、ある星のある国を訪問したんだけど、その国の人たちには名前がないの。Aの3155番さんとかZの5848番さんとか、記号や番号で呼び合っているのよ」
ジュン「そういえば、以前、僕が通っていた塾でも、先生は僕たちの名前を呼ばず、必ず番号で呼んでいたな。名前だと同姓同名がいたり読み間違えたりするから、とかいって」
ミサ「まあ、なんて冷たい塾なんでしょう。私たちにはひとりひとりちゃんと名前がついているんだから、名前で呼んでほしいわ。でも、私の見た夢では、そうじゃなくて、そもそも人には番号が与えられているだけで名前がついていないのよ」
父「ミサの言うとおり、その夢はぞっとするね。地球上で、人に名前のない国なんてないと思うよ。名前には、親の思いが込められているんだから、とても大切だ」
ジュン「なるほど」
母「ところでミサはその夢を何時頃見たの?」
ミサ「明け方よ。起きる直前だった」
母「それならば大丈夫よ。朝に見る夢は逆夢といって、現実とは逆になると言われているのよ。今日訪問する国には、きっと人々に名前がついているわ」
父「お母さん、違うよ。深夜に見る夢が逆夢で、朝見る夢は正夢と言われているよ。朝に夢を見ると、その通りになるんだ」
母「え、朝は逆夢でしょ?」
父「朝は正夢だよ」
ミサ「ちょっと、そんなことで夫婦喧嘩しないで。もうすぐ答えがわかるんだから。あー、でもお母さんの言うとおり逆夢だとうれしいな」

○ホストハウスの玄関

地球家族6人がホストハウスに到着。リコが玄関を開ける。
リコ「おじゃまします」
奥から声がする。
HM「どうぞお上がりください」

○ダイニング

地球家族6人とHF、HM(老夫婦)。
HM「4人もお子さんがいらっしゃると、にぎやかでいいですわね。うちは娘一人だけですから」
HF「お名前は?」
ジュン「ジュンです」
ミサ「ミサです」
タク「タクです」
リコ「リコです」
HM「娘はもう結婚して家を出ていますので、今日は私たち二人がお世話させていただきます。よろしくお願いします」
父「よろしくお願いします」
ミサ「あの、突然なんですけど、お二人のお名前も教えていただけませんか?」
HF「あ、失礼、申し遅れました。私の名前はサケロといいます。こちらの言葉で『大空』という意味があるんです」
HM「そして、私の名前はトミラです。『愛情』という意味があるんですよ」
ミサ「あ、そうなんですか(ほっとした表情)」
HM「え、何か?」
ミサ「あ、いえ、別に」
父「ところで、名字のほうは?」
HF「この国には名字はないんですよ」
タク「名字がない?」
HF「正確に言えば、国民全員が同じ名字なんです。だから、もう誰も使わなくなりました」
ミサ「全員が同じ名字なんてことがあるんですか? びっくりです」
HM「昔はいろいろな名字があったらしいんですけど、少しずつ減っていって、今は一つになったんですよ」
ミサ「よくわからないわ。どうして減ったんですか?」
HM「これはどこの国でも同じことだと思いますけど、珍しい名字の人がもし子供を残さなければ、その名字の人間はいなくなりますよね」
ミサ「そうですね」
HM「逆に、新しい名字が増えることは絶対ありませんよね」
ミサ「確かにそうですね」
HM「つまり、どこの国であっても、名字というものは減る一方なんです。そしてこの国では、かなり昔の話ですが、ついに一つになってしまったというわけなんです」
ジュン「なるほど・・・」
HF「さて、名前の話はこのくらいにして、みなさんのお泊りになる部屋にご案内しましょう」
HF、立ち上がる。

○客間

地球家族6人。
ミサ「名字が一つしかないのは驚いたけど、この国の人たちにはちゃんと良い名前がついていてよかったわ」
母「そうね、やっぱりミサの夢は逆夢だったということね」
父「うーん」
父、首をひねる。
そのとき、HMが入ってくる。
HM「みなさん、すみません。ちょっと私たち出かけなければならなくて。実は、娘に赤ちゃんが生まれたんです。今電話がありました」
父「本当ですか? それはおめでとうございます」
HM「よかったら、みなさんも赤ちゃん、見ますか? 病院はここから歩いて5分のところにありますから」
母「ええ、ぜひ」

○病院

病室でHFとHMが赤ちゃんを抱き上げている。その横のベッドに赤ちゃんの母親が寝ている。
看護師が話しかける。
看護師「元気な女の子ですよ」
この部屋はガラス張りになっており、外から地球家族6人が眺めている。

○夜、ダイニング

地球家族6人とHF、HM。
ジュン「お名前は、これから考えるんですか?」
ミサ「ミサなんて、いい名前だと思いますよ」
タク「そうか、リコのほうがいい名前じゃないか、なあリコ?」
リコ「ミサもリコも、どっちもいい名前だよ」
HM「ありがとう、みんな。でも、この国では、名前は3文字という決まりがあるんです」(作者注:日本語の場合は3文字、英語に翻訳する場合は3音節、など)
父「あ、そうなんですか? 確かに、お二人はサケロさんとトミラさんで、どちらも3文字ですね」
HF「それに、赤ちゃんの名前は、もう決まっているんです。マガナといいます」
母「マガナちゃんですか」
HM「今日はもう遅いので、明日、みなさんがお帰りになった後にでも、役所に出生届を出しに行こうと思っています」

○客間

地球家族6人。
ミサ「また一つ驚きね。名前の文字数に決まりがあるというのは」
父「あまり長い名前をつけたがる人がいると、いろいろと大変だからね」
母「それにしても、おめでたい日に遭遇したわね」

○翌朝、ダイニング

地球家族6人とHF、HM。朝食を食べている。
父「私たちは、この後、出発準備をしたら、失礼しますので。一晩ありがとうございました。娘さんにもよろしく」
HF「はい。じゃあ、みなさんと一緒にわれわれも外に出て、役所に行くことにしましょうか」
ミサ「ところで、赤ちゃんの名前にはどういう意味があるんですか?」
HM「マガナという名前ですか? 意味はないんですよ」
タク「意味がない?」
HM「もうその名前しか残っていなかったんです」
ジュン「どういうことですか?」
HM「赤ちゃんに命名して役所に届けると、同じ名前はもう誰も使うことができないんです」
ジュン「じゃあ、この国には同名の人がいないんですね」
HM「そうです。名字は全員同じですから、名前まで同じだと同姓同名になってしまい、まぎらわしいですからね。名前は全員別々なんです。そうすると、大空とか愛情とか、いい意味を持った名前は先にどんどん使われてしまい、最近は、意味の持たない名前しか残っていませんでした」
地球家族6人「・・・」
HM「それに、名前は3文字という規則がありますので、使える名前自体がどんどん残り少なくなっていました。そして、今回私たちが命名するマ・ガ・ナという組み合わせが、最後の1つなんです」
HF「そう、その名前しか残っていなかったので、われわれには命名の選択肢がありませんでした。まあ、名前を考えるのも大変ですから、考える必要がないのは楽でよかったですよ」
HFとHMが笑う。
地球家族、複雑な表情。

○客間

地球家族6人、荷物をしまい、出発準備をしている。ミサの手が止まっている。
ジュン「ミサ、早く準備しないと、もうすぐ出発だよ」
ミサ「あー、ショックだわ。赤ちゃんの名前に何も意味がなかったなんて」
父「うん、ミサの気持ち、わかるよ。ね、お母さん、やっぱり、ミサが昨日の朝見た夢は、正夢だったんだよ」
母「そうね」
ミサ「え、どういうこと?」
父「確かに、この国の人たちには名前らしきものがある。でも、最初の頃はともかく、今では単に、使われていない文字の組み合わせを順番に割り当てているだけだ。これは、ミサが見た夢の、数字が文字に置き換わったにすぎない。これはもはや名前とはいえないだろう?」
ミサ「そうか、そのとおりね・・・」
そのとき、HFとHMの大声が聞こえる。
HF「大変だ!」
HM「そんな!」
ジュン「なんだろう?」
地球家族、あわてて客間を飛び出す。

○ダイニング

地球家族6人がかけつけると、HF、HMがテレビのニュースを見入っている。
画面の中で、アナウンサーがニュースを読んでいる。
アナウンサー「今のニュースをくりかえしお伝えします。今朝生まれた赤ちゃんが、マガナちゃんと名づけられ、先ほど正式に役所で受理されました」
HF「マガナの名前を、他の人にとられてしまったぞ」
HM「えー、なんで? うちのほうが先に生まれたのに」
HF「そうか、生まれた順番じゃなくて、役所に先に届けたほうが優先されるんだな。これはわれわれの勘違いだ」
アナウンサー「今までわが国には、人の名前を3文字にするという規則がありましたが、これで3文字のすべての名前を使いきったことになります」
ミサ「使いきっちゃたら、これからどうするのかしら・・・?」
アナウンサー「そこで、これからつける名前は4文字にするという規則が適用されます。これから役所に届けられる方は、4文字の名前でお願いします」
HF「・・・」
HM「・・・」
HF「とにかく、娘に連絡だ」

○病院の病室

HF・HMの娘がベッドで寝ている。その夫とHF、HM、地球家族6人が立っている。
娘の夫「私たちも、名前のことを今ニュースで聞いて、動揺しているんです」
娘「新しい名前なんて、考えられないわ。お母さんたちで考えてもらえないかしら?」
HM「えーっ、どうしましょう。私たちも何も考えてなかったから・・・」
HF「(地球家族に向かって)この国では最近はもう、意味のある名前をつけることができず、あいている文字の組み合わせから適当に選ぶしかありませんでした。なので、命名の習慣がないのです。今、突然名前をつけろと言われても、頭が働かなくて・・・」
ミサ「何をおっしゃっているんですか! 今ならば、4文字の言葉だったら選び放題じゃないですか。最高の名前をつけてあげましょうよ」
ジュン「そうですよ、4文字で何かいい言葉、ないですか?」
HM「うーん、何でもいいと言われると、かえって何も思い浮かばないわ。もう時間がないわね。みなさん、何かないかしら」
父「じゃあ、誠実を表す言葉は?」
HM「それは3文字です」
母「幸福は?」
HM「それも3文字です」
ジュン「思いやりは?」
HM「それは5文字」
ミサ「元気は?」
HM「3文字」
タク「純粋は?」
HM「5文字」
タク「リコ、何かない?」
リコ「イチゴは?」
HM「イチゴは4文字です!」
地球家族全員「・・・」
HM「そうだ、みなさん、昨日提案してくださいましたね。ミサとかリコって。二つつなげて、ミサリコにしましょう!」
HF「ミサリコ! それがいい!」
ミサ「あ、いや、ミサもリコもいい名前ですけど、二つつなげると必ずしも・・・」
HF「よし、決まりだ、決まりだ」
HM「さあ、出発しましょう。地球のみなさんは、次の目的地へ。私たちは役所へ・・・」
HFとHM、笑顔でバタバタと動き出す。地球家族は顔を見合わせて苦笑いする。

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