【登場人物】
東幹太(20) 大学生。富永瞼のファン。
富永瞼(20) 『おたまギャラクシー』メンバー。
島内照也(20) 幹太のオタク友達。
松島友美(18) 幹太のバイト先にいる女性。
岸谷アン(21) 同メンバー。瞼の親友。
(他、多数)
○ バス・中(昼)
ギュウギュウ詰めの車内。
座席に座っている、東幹太(20)。
隣で立っている、コワモテの男と目
が合うが、すぐにそらす。
幹太N「東幹太、二十歳、大学生です。ちな
みに僕は、座っているのではありま
せん。きたるお年寄りのために、席
をキープしているのであります」
バス、停留所に停まる。老婆が乗車
してくる。
幹太、すかさず立ち上がり、
幹 太「こちら、どうぞ!」
老 婆「あら、悪いわねえ」
老婆、座る。
幹太、コワモテの男にドヤ顔をする。
男、「やるじゃん」みたいな顔。
○ 大学・正門(昼)
幹太、歩いてくる。守衛、気付いて、
守 衛「おはようございまーす」
幹 太「おはようございます! 今日はいい
天気ですね。絶好の大学日和です」
守 衛「あ、そう」
幹 太「守衛さんからすれば、絶好の警備日
和、といったところでしょうか」
守 衛「うん、まあね」
チャイムが鳴っている。
幹 太「しかし雨の日というのも、なかなか
趣深いものがありますよね」
守 衛「うん、いいから行きなよ」
○ 同・教室(昼)
大教室。席の後方が生徒で埋まる中、
幹太、一人だけ最前列で授業を聞い
ている。
生徒たち、幹太を見てウワサしてい
る。
幹太N「僕は、常に周りの模範となる行動を
心がけています」
幹太、挙手。教授、気付き、
教 授「はい、キミ」
幹 太「近年の少子高齢化には、どのような
アプローチが効果的なのでしょうか。
政府は働き方改革などに着手してい
ますが、それが直接的に…」
教 授「今そんな話してないだろうが。聞い
てないならもう来なくていいよ」
幹 太「…すいません!」
生徒たち、いっそうザワザワする。
教 授「はい、次はセミの一生について学ん
でいきます。次のレジュメを見てく
ださい」
○ 同・正門までの道(昼)
幹太、一人で歩いている。
前を歩く女子のグループ。そのうち
の一人のカバンがねじれている。
幹太、肩のヒモを掴み、直す。
女 子「キャッ! (振り返る)」
幹 太「カバン、ねじれてましたよ」
女子グループ、スタスタと逃げてい
く。「なに今の」「マジキモいんだ
けど」などと話している。
幹 太「(いいことしたなぁ、という顔)」
○ 駅・構内(昼)
エスカレーター。幹太、一人だけ真
ん中に立っている。
後ろからコワモテの男(バスと同
じ)、歩いてきて、幹太の後ろで止
まる。
男 「邪魔だよオメエ」
幹 太「(振り返り)これが本来の乗り方な
ので」
男 「またオメエか。ケンカ売ってるとし
か思えねえな」
幹 太「ですけど、これが、本来の乗り方な
ので」
男 「(胸ぐらを掴み)んだとコラ!」
幹 太「日本エスカレーター協会が推奨して
いる乗り方は、真ん中…」
男 「いてまうぞコラ!」
男、幹太を下へ突き落とす。
幹太、転げ落ちる。
○ コンビニ・事務所(夜)
顔が傷だらけの幹太、座っている。
向かいに店長の寺島(50)。
幹 太「…ときに、世間というのは冷たいも
のです」
寺 島「…まあよく分かんないけど、採用」
幹 太「本当ですか?」
寺 島「来週の月曜、印鑑と保険証持ってき
て」
幹 太「はい! よろしくお願いします!」
幹太N「僕がこんな日常をおくっているのに
は、理由がありまして」
○ 幹太の部屋(夜)
パソコンの画面。映っているのは、
一人暮らしワンルームの部屋。
ライブ映像らしい。
そこにフレームインしてきたのは、
ジャージ姿の富永瞼(20)。
幹太、それを見ながら、深いため息。
○ タイトル『恋はサイリウムのように』
○ ライブハウス(夜)(二週間前)
『おたまギャラクシー』のライブ。
岸谷アン(21)、鮫島ゆりあ(17)、
柏木雫(18)、新城早苗(18)、富
永瞼。
五人のメンバーが、音楽に合わせて
踊っている。
五十人ほどのファン、一心不乱にサ
イリウムを振り、掛け声を挙げてい
る。狂気に近い熱気。
その中に、幹太と島内照也(20)も
いる。
ステージ向かって右端の、瞼。
懸命に踊ってはいるが、表情は浮か
ず、キレもイマイチ。
幹太、心配そうに瞼を見ている。
○ ファミレス(夜)
島内、チェキを見ている。
岸谷アンとの2ショット。
島 内「やっぱアンちゃん可愛いわ。運営が
推す理由分かる。実力不足とかほざ
いてるニワカ完全に蹴散らしたっし
ょ」
幹 太「……(スマホを見ている)」
島 内「おい、ヒガシ少年。アイドルが恋愛
しないとかマジで思ってたんか?」
スマホの画面。
『おたまギャラクシー富永瞼、マネ
ージャーと熱愛か』という、まとめ
サイトの見出し。
幹 太「これがアンちゃんだったら発狂して
るくせに」
島 内「俺はアンちゃんのパフォーマンスが
好きなんであって、別にどんな男と
付き合ってたって構いやしないよ」
幹 太「恋愛はおろか、ウンコすらしないと
思ってたよ、瞼ちゃんは」
島 内「待て。恋愛したとは書いてあるけど、
ウンコしてるとは書いてないだろ」
幹 太「恋愛してるってことはウンコもして
るってことだよ!」
他の客、幹太のほうを見る。
幹太、ばつが悪そうな顔。
島 内「まあ今日のパフォーマンスを見る限
り、本当なんじゃねえの? 明らか
に動揺してたし」
幹 太「瞼ちゃんはそんな子じゃない。何よ
りもファンを大事にしてくれてる」
島 内「なあヒガシさんよぉ。彼女らも人間
なんだよ。俺らがアイドルに大事に
されてるように、アイドルだって誰
かに大事にされたいって思うんじゃ
ねえの? 知らんけど」
幹 太「……」
島 内「ま、ここで議論が白熱しても、真相
なんて分かりゃせんけどな。そんな
に知りたきゃ、部屋でも覗けば?
って話よ」
ハッとする幹太。
幹太の頭で「部屋でも覗けば? っ
て話よ」の部分がリフレインする。
○ ドンキホーテ・中(夜)
幹太、小型カメラのコーナーを見て
いる。
薄暗い表情。
意を決したように、ひとつのカメラ
を手に取る。
○ 幹太の部屋(夜)
『クマラマン』という、クマがカメ
ラを担いでいるヌイグルミ。
幹太、備え付けのカメラのダミーを
取り外し、小型カメラを装着する。
変わらず、薄暗い表情。
○ ライブハウス・ロビー(夜)
『おたまギャラクシー』握手会。
メンバーとファンが、長机を隔てて
握手している。
幹太、意を決して瞼の前へ。握手し
ながら、
瞼 「あ、また来てくれたんだ! ありが
とね」
幹 太「…最近、元気なさそうだけど、大丈
夫?」
瞼 「…うん、大丈夫! ごめんね心配か
けて」
幹 太「(カバンをまさぐり)これ」
クマラマンを差し出す。
瞼 「あ! クマラマンだ!」
幹 太「ブログで好きって言ってたから」
瞼 「読んでくれたんだ! ありがとう。
おうちに飾るね!」
剥がしの男、幹太の肩を掴み、スラ
イドさせる。
名残惜しそうに瞼を見る幹太。
幹太に手を振る瞼。
島内、幹太の頭を叩き、
島 内「お前なにプレゼントとか渡しちゃっ
てんの? 言えよひとこと」
幹 太「周りを出し抜こうと思って」
島 内「生意気なんだよこのやろぉ」
幹 太「ちょ、やめろよぉ」
二人、じゃれる。
○ ライブハウス・楽屋(夜)
私服の瞼、楽屋を出ようとする。
瞼 「じゃあ、お疲れさまでした」
メンバーたち、「お疲れ〜」と言う。
アン、瞼に寄ってきて、
ア ン「ファンの人にプレゼント貰ってた?」
瞼 「ああ、うん。ヌイグルミ」
ア ン「気を付けなね。最近、盗撮とか盗聴
とか多いから。スタッフさんに調べ
てもらえば?」
瞼 「ううん、大丈夫だよ。じゃ」
瞼、出ていく。
後ろで誰かが「私のプリッツ食べた
のだれ〜?」とか言っている。
○ 幹太の部屋(夜)
バタンとドアを閉める幹太。そして、
部屋をウロウロし始める。
幹 太「やってしまったやってしまったやっ
てしまったやってしまった…」
パソコンを開き、アイコンをクリッ
クする。
汗ばむ手を太ももで拭う。
動画のプレーヤーが開き、『通信中』
と表示される。
読み込みが完了すると、突然、瞼の
顔がドアップで映る。
幹 太「!」
後ろにひっくり返る。すぐに立ち上
がり、画面を見る。
瞼、どうやら部屋にヌイグルミを設
置している。映像が固定され、瞼が
フレームアウトする。部屋が映し出
される。
幹 太「これが…瞼ちゃんの、部屋…」
瞼、上着を脱ぎ、着替え始める。
幹 太「おおっ!」
幹太、思わず顔を手で覆う。
幹 太「ダメだダメだダメだ! これはあく
まで熱愛報道の真偽を確かめるため
の行為であって、決してプライベー
トを覗き見るつもりは…やっぱ見た
い!」
幹太、我慢できなくなり、手を外す。
瞼、既に着替え終え、ジャージ姿に
なっている。
幹太、ホッとした表情。
瞼、缶ビールを手に、ソファに座る。
テレビを点け、飲み始める。
幹 太「瞼ちゃん、ビール飲むんだ…」
瞼、テーブルのタバコを手に取り、
火を点ける。
幹 太「!」
さらにスルメを取り出し、ライター
で軽く炙って食べ始める。
幹 太「ウソだろ…おい、ウソだって言って
くれよ!」
横になり、尻をかきながらテレビを
観る瞼。「ははは」と笑ったりする。
幹 太「いや待て、落ち着け。この生活ぶり
で交際相手がいるとは毛頭考えられ
ない。つまり検証は成功だ。これで
瞼ちゃんの嫌疑を晴らすことができ
る! …いや待て、どうやって説明
する! 部屋を覗いた結果シロだと
分かりましたなんて言ったら、俺が
クロだとバレるじゃないか! もは
やシロの意味合いすら下着の色だと
捉えられる可能性が…」
すると、画面の中から着信音が。
幹 太「!」
瞼、スマホを耳に当てる。
瞼 「もしもし? ああ、もう帰ってきた。
今日? 握手会。大丈夫だよ、別に
変なことされないから。また仕送り
したの? いらないって言ってるの
に! …うん、ありがと。じゃあ貯
金しておくね」
幹 太「…これは、…おっかさんか?」
瞼 「それよりそっちはどうなの? 腰の
調子は? ダメだよあんまり無理し
たら、もう若くないんだし」
パソコンのキーボードに雫が落ちる。
幹太、泣いている。
幹 太「俺は…俺は、なんてことを…」
○ 大学・全景(昼)
○ 同・教室(昼)
休み時間。生徒のまばらにいる中、
幹太と島内、後ろの席で話している。
島 内「(大声で)盗撮?」
幹 太「シッ!」
島 内「お前、マジでやったの?」
幹 太「今となってはものすごく後悔してる。
でももう返してくれとも言えないし、
引き返せないんだ」
島 内「だからって俺に言われてもさ…」
幹 太「誰かに言わないと潰れちまいそうだ
ったんだよ。俺ら友達だろ? この
秘密、俺と一緒に墓場まで持ってっ
てくれよ、なあ!」
島 内「…ひとつだけ、方法があるぞ」
幹 太「なんだよ、もったいぶらないで教え
てくれ!」
島 内「徳を積むんだ」
幹 太「…徳?」
島 内「とにかく良い行いをするんだよ。そ
うすれば神様は、お前を良い方向へ
導いてくれる。俺も、できる限り協
力するよ」
幹 太「(感動して)…島内」
島 内「俺ら、友達だもんな」
幹 太「お前、ホントに良い奴…」
島 内「そのかわり、と言っちゃ何だけど」
幹 太「?」
島 内「瞼ちゃんの下着の色、教えてくんね
えかな? できれば毎日。これも、
人のために行うことだから、徳にカ
ウントされるよ」
幹 太「ああ、分かった」
島 内「…よし」
幹太N「というわけで」
○ コンビニ(夜)
幹太、コンビニの制服。猛スピード
で雑誌を整理している。
顔に絆創膏がいくつかある。
幹太N「東幹太、破竹の勢いで徳を積んでい
る最中なのであります」
寺島、寄ってきて、
寺 島「精が出るねえ。じゃ、あとよろしく
ね」
幹 太「はい、お疲れさまでした!」
寺 島「あ、今日はもう一人夜番いるから、
分かんないことあったら彼女に聞い
て」
幹 太「彼女?」
するとバックヤードから、松島友美
(18)、出てくる。
思わず見とれる幹太。
寺 島「ああ友美ちゃん、新人」
友 美「はじめまして、松島です」
幹 太「…あ、は、は、は、は、はじめます」
寺 島「何を?」
○ ライブハウス(夜)
『おたまギャラクシー』ライブ。
MCで、メンバーが話している。
ア ン「というわけで、ここまで十曲聴いて
いただきましたが、どうですか皆さ
ん、楽しんでますか〜!」
「ウォー!」と声を挙げるファンた
ち。
すると袖から、タキシード姿の支配
人・富樫(45)、登場。
ざわつくファンたち。その中に、島
内もいる。
メンバー、動揺した様子。
富 樫「えー、突然ではございますが、皆さ
んにご報告がございます」
瞼、じっと富樫を観ている。
○ ライブハウス・ロビー(夜)
ライブ終了後。ファンたち、一斉に
会場から出てくる。
各々、スマホでツイートしたり電話
したりしている。
島内、そんなファンたちをかき分け
て出てくる。
島 内「えらいこっちゃえらいこっちゃ…」
スマホをポケットから出そうとする
が、動揺して上手く掴めない。
○ コンビニ(夜)
レジで精算作業をしている友美。
幹太、その様子を見てメモを取る。
友 美「じゃあバイトは初めてなんですか?」
幹 太「はい、初めてです」
友 美「最初のうちは慣れないことだらけで
不安だと思いますけど、なんでも聞
いてくださいね」
幹 太「なんでも聞いていいんですか?」
友 美「もちろんですよ。分からないままに
しておくのが一番困りますから」
幹 太「彼氏とかいるんですか?」
友 美「(幹太を見て)え?」
幹 太「彼氏とかいるんですか?」
友 美「いや、あの」
幹 太「彼氏とかいる…」
すると、幹太に着信。島内から。
友 美「ああ、出ちゃっていいですよ、お客
さんいないし」
幹 太「失礼します」
幹太、しゃがみ、
幹 太「今日は薄いピンク」
島内の声「大変なことになったぞ」
幹 太「何? 今、バイト中…」
× × ×
ライブハウス、外。
島 内「次のシングル、投票で選ばれた四人
だけで出すって。ビリの一人は参加
できないって!」
× × ×
幹 太「なぬっ!」
友 美「?」
島内の声「瞼ちゃん結構きわどいかもな。ス
キャンダルもまだハッキリしてね
えし」
幹 太「……」
島内の声「そいえば今、バイトとか言った?
ついに始めたのか? 何のバイ
ト?」
幹太、電話を切る。
友 美「なんか、深刻な電話ですか?」
幹 太「(立ち上がり)いや、大丈夫です」
友 美「いませんよ」
幹 太「え?」
友 美「彼氏、今はいません」
幹 太「…あ、へえ〜」
○ ライブハウス・楽屋(夜)
メンバーと富樫、話している。
ア ン「どういうことですか」
富 樫「どういうって、あそこで話したとお
りだよ」
雫 「五人で人気を競い合うなんて残酷す
ぎます。しかも、一人脱落者を出す
なんて」
早 苗「そうそう。仲間が仲間に思えなくな
っちゃうし」
ゆりあ「私は別にいいと思うけど」
ア ン「どうして?」
ゆりあ「みんな知ってるのに知らないフリし
てるじゃないですか、人気に格差が
出始めてることなんて。この際ハッ
キリさせればいいと思います」
ア ン「あんたね…」
富 樫「富永、お前はどう思う?」
瞼 「…私は、…賛成です」
ア ン「待って! 瞼ちゃん、利用されてる
って! 瞼ちゃんが賛成すればやっ
てもいいって、この人そう思ってる
から聞くんだよ!」
ゆりあ「そりゃ賛成するでしょう、瞼さんは」
ア ン「あんた、何が言いたいの」
ゆりあ「富樫さんと一番仲良しじゃないです
か」
アン、ゆりあを睨み、出ていく。
富 樫「とにかく、これは決定事項だから」
富樫、出ていく。
瞼 「……」
○ 幹太の部屋(夜)
ベッドに倒れ込む幹太。
視線の先に、瞼のポスター。
手を伸ばし、微笑みかけている。
幹太、それをじっと見ている。
幹太N「あれ以来、瞼ちゃんの部屋は一度も
覗いていません。島内に教えている
下着の色は、無論デタラメなのであ
ります」
パソコンに視線を移す。
ふと、立ち上がる。
○ 瞼の部屋(夜)
同じポスターが貼ってある。
テレビの上に、クマラマン。
瞼、変わらずジャージ姿でタバコを
吸っている。
ふと、クマラマンを見る。
瞼、何か考えている。
○ 幹太の部屋〜瞼の部屋(カットバック)
幹太、パソコンの起動ボタンを押す。
汗ばむ手を太ももで拭う。
× × ×
瞼、全身鏡の前に立ち、自分を眺め
る。
× × ×
幹太、アイコンをクリックしようと
して、やめる。
× × ×
瞼、女性らしいスウェットに着替え
始める。
× × ×
幹太、またアイコンをクリックしか
けて、やめる。
× × ×
瞼、カーペットにコロコロをかけた
り、いらない雑誌を捨てたりしてい
る。
× × ×
幹 太「…まあとはいえ、徳はだいぶ貯まっ
ているでしょうから」
幹太、アイコンを押す。
『通信中』の表示。
× × ×
綺麗に整頓された部屋。ビールの缶
もタバコの吸い殻も無い。
瞼、可愛らしいスウェット姿に体育
座りでテレビを観ている。
野菜スティックを小動物のようにポ
リポリ食べている。
× × ×
幹太、その様子を見ている。
幹 太「瞼ちゃん、…やっぱ付き合ってるん
だ」
幹太、妙に清々しい表情で、伸びを
する。
○ 駅・出口(昼)
幹太と島内、仲良さそうに歩いてい
る。
誰かが幹太の肩を叩く。振り返ると、
友美。
幹 太「あっ!」
友 美「最寄りここですか? 私もなんです」
島 内「(小声で)どちらさま?」
幹 太「バイト先の、かたです」
友 美「学校帰りですか?」
幹 太「まあ、そんなところですかね」
島 内「生写真、物色しに行くんです」
幹 太「おい!」
友 美「え、アイドルとか?」
島 内「おたまギャラクシーって知ってま
す?」
幹 太「知るわけないだろ、馴れ馴れしくす
んな」
友 美「『つゆだくファンタジー』めっちゃ
聴いてます!」
島 内「え、知ってるんすか! うわ、めっ
ちゃ嬉しい、なんか嬉しい」
友 美「今度、いろいろ教えてくださいね!」
幹 太「あ、あ、はい」
友 美「じゃ、バイトなんで。今日出勤です
よね? 待ってます!」
友美、去る。
島 内「お前ちょっと徳積みすぎじゃね?」
幹 太「…かもしんない」
○ コンビニ(夜)
幹太と友美、事務所で話している。
幹 太「瞼ちゃんは、自分の魅せ方っていう
のを一番理解してるんですよ。笑顔
ひとつ取っても、曲調によって妖艶
だったりキャピキャピだったり、変
わるんです。そこがスゴイところで
すね」
友 美「っていうか、それに気付く東さんが
スゴい(笑)」
幹 太「いやもう一目瞭然なんですって!」
友 美「じゃあ、ずっとその、瞼さんって人
のファンなの?」
幹太、途端に表情が曇り、
幹 太「…まあ、そうなりますね」
友 美「ふうん、私もライブ行きたいなあ。
ストレス発散になるし」
幹 太「…ファンの定義って、何なんでしょ
うか」
友 美「?」
幹 太「僕は、無条件にその人を応援できる
ほど、心の広い人間じゃないんです。
自分の理想を投影してしまうし、時
には幻滅してしまうこともあります。
僕は、ファン失格です」
友 美「その人が頑張ってるなら、応援すれ
ばいいんじゃないですか?」
幹 太「?」
友 美「頑張ってない人を応援する必要はな
いだろうし、逆に言えば、頑張って
さえいれば、どんな応援だって心強
いと思うんです」
幹 太「……」
友 美「そういった意味じゃ、私もヒガシさ
んのファンですよ」
幹 太「え?」
友 美「(微笑んで)休憩あがりますね」
友美、売り場へ出ていく。
幹 太「…マジで積みすぎたかもしんねえ」
すると、幹太に着信。島内から。
幹 太「ムラサキ」
島内の声「やってしまいましたなあ、瞼ちゃ
ん」
幹 太「は?」
島内の声「まとめサイト見てみろよ」
幹太、まとめサイトを開く。
『富永瞼、またもマネージャーと密
会』
との見出し。
幹 太「……」
島内の声「こりゃ選抜落ち確定だな。ご愁傷
様」
幹 太「別に、もう知ってたよ」
島 内「は? どういうことだよ、おい」
幹太、電話を切る。
○ 同・外(早朝)
幹太、バイトを終え歩き出す。仕事
をやりきった、達成感に満ちた笑顔。
後ろから友美、やってきて、
友 美「ちょっと! 先行かないでください
よ」
幹 太「ああ、すいません」
友 美「次シフト被るの、だいぶ先ですよ
ね?」
幹 太「…そう、でしたっけ」
友 美「デートしません?」
幹 太「…なぬっ!」
友 美「また連絡します!」
友美、去る。
幹太、その背中をじっと見ている。
○ 大学・食堂(昼)
幹太と島内、メシを食いながら話し
ている。
島 内「これはもう、お前が声を挙げるしか
なくないか? 運営も守ってくれな
いし、瞼ちゃんが可哀想だよ」
幹 太「ご愁傷様とか言ってたくせに」
島 内「そりゃアンちゃんのことを思えばラ
イバルが減るのはいいことだけど、
あまりにもさあ」
幹 太「俺もそれどころじゃないかもしれん」
島 内「…お前、まさか」
幹 太「松島友美氏との密会が決定しました」
島 内「貴様、ドルオタの分際で!」
幹 太「島内、お前には本当に感謝してるよ。
お前の助言で、人生が変わった」
島 内「お前、大切なこと忘れてないか?」
幹 太「?」
島 内「俺はいつだってお前を警察に売るこ
とができるんだぞ」
幹 太「き、貴様、そんな強請りを!」
島 内「それが嫌なら言うとおりにしろ。瞼
ちゃんの嫌疑を晴らすんだよ」
幹 太「でも、そんなことしたら…」
島 内「自分が豚箱に入るのと、推しが涙を
飲むの、どっちがいい?」
幹 太「……」
島 内「ドルオタ根性、見せてみろや」
島内、強い眼差し。
幹太、戸惑っている。
○ 同・構内・廊下(昼)
幹太、ウロウロしている。周りの生
徒、通りすがりにウワサしている。
幹 太「俺に、どうしろっていうんだ…」
幹太、ふと掲示板を見る。
『クラウドファンディングって知っ
てる?』という見出しのポスター。
幹太、それを剥がして、
幹 太「これだ!」
○ ライブハウス・楽屋(昼)
メンバー、衣装を着て待機している。
全員無言。瞼はいない。
雫、アンのもとへやってきて、
雫 「瞼さんは?」
ア ン「今、富樫さんと話してる」
ゆりあ「あの二人、一緒にしといて大丈夫な
んですかね」
雫 「ちょっと、ゆりあ」
ア ン「……」
○ 同・廊下(昼)
瞼と富樫、話している。
富 樫「本当のこと、話したほうがいいんじ
ゃないか」
瞼 「…ここでやめたら、全部が水の泡に
なります」
富 樫「結果としてファンを傷つけてるなら、
意味ないだろう」
瞼 「もう少し続けさせてください」
富 樫「(困った顔)」
そこへアン、やってきて、
ア ン「瞼! ちょっと」
瞼 「……」
○ 大学・パソコン室(昼)
幹太、クラウドファンディングのサ
イトに自分のページを作っている。
隣に島内もいる。
幹太、キーボードを打ちながら、
幹 太「火事場の馬鹿力とはこのことだね。
俺が積み上げた徳に共感した人が寄
付をする。そのお金でCDを買う。
瞼ちゃんに投票する。瞼ちゃんは選
抜入りを果たす!」
島 内「……」
幹 太「えっと昨日は、横断歩道でおばあさ
んの荷物を持ってあげた、その後タ
クシーを拾って家まで送ってあげた、
お邪魔して一緒に水戸黄門を鑑賞し
た…」
島内、パソコンの電源コードをひっ
こ抜く。画面が一瞬で消える。
幹 太「おい! 何すんだよ!」
島 内「お前、何も分かってねえな。そんな
ことで選抜に入ったって何も意味ね
えんだよ!」
幹 太「どうして!」
島 内「確かにこれで金が集まりゃ投票では
勝てるかもしんねえけどよ、その後
のこと考えろよ。何も瞼ちゃんの為
になってねえだろ!」
幹 太「瞼ちゃんは実際、富樫と付き合って
るんだよ。酒もタバコもやめてさ、
ジェラートピケに身を包んで野菜ス
ティックかじってるの。この変化を
恋と呼ばずに何と呼ぶんだよ!」
島 内「じゃあお前、瞼ちゃんが実際に富樫
連れ込んでるの見たのかよ!」
幹 太「そりゃ、見てないけど…」
島 内「だったら決めつけないで信じてやれ
よ! それがファンってもんだろ!」
幹 太「……」
島 内「なんだよ、現実で良いことあったら
ホイホイしっぽ振って行きやがって。
お前にとって瞼ちゃんはその程度か
よ! お前の魂はその程度かよ!」
島内、立ち上がる。しかし急に立ち
止まり、
島 内「…今日は」
幹 太「…ターコイズブルー」
島 内「……」
島内、去る。
○ 同・非常階段(昼)
瞼とアン、話している。
ア ン「私は、アンタのこと信じてるよ。で
も、何も言ってくれないんじゃ、こ
っちもどうしていいか分かんないっ
ていうか」
瞼 「…ごめん」
ア ン「いや、謝ってほしいんじゃなくて」
瞼 「でもアンちゃんには分かんないと思
う。私の気持ち」
ア ン「なんでよ。レッスン生のときからず
っと一緒だったじゃん。グループ決
まったときも、私と瞼が年長組だか
ら引っ張っていこうねって、このメ
ンバーで天下取ろうねって約束した
じゃん!」
瞼 「だから余計に分かんないんだよ!」
ア ン「……」
瞼 「同じ道歩いてきたから余計に分かん
ないんだよ。同じ努力して、同じ喜
びと同じ悔しさを味わってるのに、
いつからこんなに差ができたの?
どうしてアンは人気があるの? …
藁にもすがるような思いでやってる
私の気持ちなんて、アンには分かん
ないよ」
アン、しばらく考えて、
ア ン「…そうだね、分かんないかも」
瞼 「……」
ア ン「できることなら代わってほしいよ、
センターポジションなんて。並外れ
た才能もないのに、漠然と真ん中に
立たされてる気持ち、分かる? し
んどいよ、私だって。すぐにでも逃
げ出したいよ」
瞼 「…アンちゃん」
ア ン「でもいつか、誰もが認めるセンター
になるって決めたの。だから逃げな
い。だから瞼も、私たちから逃げな
いでほしい。私たちだけは、同じ志
でいられるんだからさ」
瞼 「…ありがとう。…富樫さんと最初に
撮られたときは、辞めるかもって相
談してたの」
ア ン「……(瞼をじっと見ている)」
瞼 「でも引き止められて、それからは、
いろいろ相談してた」
ア ン「…いろいろって?」
瞼 「ファンの人に、部屋覗かれてること
とか」
ア ン「!」
○ 駅・出口(夕方)
幹太、うつむきながら歩いている。
友美、立っている。
歩いてきた幹太を見つけ、
友 美「(手を振り)おーい!」
幹太、軽く手を挙げる。
○ 公園(夜)
幹太と友美、ベンチに座っている。
友 美「で、その友達が人面魚にソックリで、
みんなで大笑いしちゃって!」
幹太、缶コーヒーを飲んでいる。
幹 太「……」
友 美「東さん? …東さん!」
幹 太「あ、は、はい」
友 美「もうそれ、カラでしょ」
幹 太「(缶を振って)…あ」
友 美「具合でも悪いんですか?」
幹 太「いや、大丈夫です」
友 美「ごめんなさい、初めてのデートなの
に、公園なんて。もっと気の利いた
プラン立てろよって思いますよね」
幹 太「僕のこと好きなんですか?」
友 美「…え?」
幹 太「僕のこと好きなんですか?」
友 美「いや、あの」
幹 太「僕はクズ人間ですよ? 禊のために
徳を積んでいたのに、ちょっと良い
ことがあるとすぐのぼせ上がって、
自分を見失うようなクズ人間です」
友 美「…ちょっとよく分からないです」
幹 太「…すいません」
少し沈黙があり、
友 美「私も、アイドル好きだったことがあ
って」
幹 太「え?」
友 美「ライブとかよく行ってたんです。で、
サイリウムってあるじゃないですか。
パキって折ると光って、振り回すや
つ」
幹 太「オタクは常に持ち歩いてます」
友 美「あれって意外と長持ちして、ライブ
から帰ってきてもまだ光ってたりす
るんですよね」
幹 太「最近は品質が向上しましたから」
友 美「あれ、すごい嫌なんです。なんでラ
イブが終わったらすぐ消えてくれな
いの? って。だって、切ないじゃ
ないですか。役目を終えても光り続
けてるの」
幹 太「…考えたこともなかったです」
友 美「で、なんか、人生とかも、そうなの
かなぁって」
幹 太「はい?」
友 美「いや、そのときちょうど前の彼にフ
ラれたときで、そういうのよく考え
てて、…良いときじゃなくても、光
らなきゃいけないことも、あるのか
なぁって」
幹 太「…光らなきゃいけない」
友 美「初めて東さんと会ったとき、私には
すごく光って見えたんです。サイリ
ウムみたいに」
幹 太「ね、寝不足だったんじゃないっすか
ぁ?(笑)」
友 美「だから、どんなときでも、光ってて
ほしいんです、東さんには」
幹 太「……」
友 美「ダラダラと、つまんない話をしてし
まいました」
幹 太「おもしろかったです」
二人、少し笑う。
○ 幹太の部屋(夜)
幹太、パソコンの前に座っている。
意を決したように画面を開き、アイ
コンをドラッグする。
『ゴミ箱』へ入れようとする。
幹 太「…最後にもう一回だけ!」
幹太、アイコンをクリックする。
動画が開く。
瞼、カメラに向かって正座している。
幹 太「!」
瞼 「おーい。見てくれてますか? もう
飽きちゃったかな」
幹 太「…え、え、どういうこと?」
瞼 「まずは、このヌイグルミをくれたフ
ァンの方、ありがとうございます。
あなたに、伝えたいことがあります」
茫然と画面を見る幹太。
○ ライブハウス・ロビー(夜)
長机に『投票箱』が置かれている。
ファンたち、続々とそこへ用紙を投
入していく。
一人で三十枚ほど入れる者もいる。
幹太、一枚の用紙を持って並んでい
る。
声 「どのツラ下げて来たんだ」
幹太、振り返ると、島内がいる。
幹 太「…島内」
島 内「厳しそうだから、一枚は瞼ちゃんに
入れてやるよ」
幹 太「…これを入れたら、警察に行く」
島 内「お前」
幹 太「大丈夫だよ。俺は、サイリウムなん
だ」
島 内「…は?」
幹 太「(大声で)ちょっといいですか!」
全員、幹太を見る。
幹太、目を閉じ、大きく息を吸い込
んで、
幹 太「富永瞼さんの熱愛疑惑について、私
からお話ししたいことがございます」
ファン1「なんでオタクが弁明すんだよ!」
ファン2「そうだよ! 本人出せ本人!」
騒ぎ出すファンたち。
幹 太「うるさいっ!」
静かになる。
幹 太「実は私、富永瞼さんの家を、盗撮し
ておりました」
再び騒ぎ出すファン。
「なんだコイツ」「おい! 犯罪者
がいるぞ!」「運営なんとかしろよ」
などと声が聞こえる。
ファン3、幹太に飛びかかり、
ファン3「テメエ、殺す!」
だが島内、ファン3を柔道技で投げ
倒す。
再び静まり返る。
島 内「…続けろ」
幹太、頷き、
幹 太「熱愛疑惑の真偽を確かめたいという
その一心で、カメラを仕込んだヌイ
グルミを瞼ちゃんにプレゼントしま
した。私の犯した過ちは、決して許
されるものではありません。しか
し! 私はそこで、富永瞼の、真の
アイドル魂を見ることとなるのです」
物陰から、メンバーたち、様子を見
ている。
瞼、不安そうな表情。
○ 幹太の部屋(シーン○○の続き)
瞼 「撮られていることは、ついこないだ
知りました。でもきっと、期待に沿
えるようなシーンはなかったと思い
ます。ごめんなさい」
幹 太「そんな…」
瞼 「でも私は、警察に行ったりはしませ
ん。なぜなら、撮られていることで、
常にアイドルでいようという自覚が
芽生えたからです」
幹 太「…!」
瞼 「ご存知の通り、私はグループで一番
人気がないです。だから、次のシン
グルも、きっと厳しいと思います。
でも撮られていることを知ってから、
家での自分を少し変えてみました。
見てくれてたかな? お酒もタバコ
もやめて、可愛い部屋着も買って、
女の子らしい座り方をしてみてます。
そうすると、不思議とステージでも
自信が付いてきたんです。 最近会
いにきてくれてなかったけど、結構
頑張ってたんですよ?(笑)」
幹 太「俺が来てないのも、分かってくれて
た…」
瞼 「きっと周りはこんなふうに言うと思
います。盗撮すらも利用して、ファ
ン獲得に必死だな! って。でも実
際そうだからそれでいいんです。必
死すぎて、アドバイスくれてた富樫
さんと写真撮られちゃったけど。だ
からあなたにも、ずっとファンでい
てほしいなって、思ってます」
幹太、泣いている。
瞼 「投票はどんな結果でも、堂々とスピ
ーチするつもりです。是非、観に来
てくださいね。じゃ、おやすみなさ
い」
瞼、部屋の電気を消す。
真っ暗になる画面。
幹太、嗚咽をあげて号泣している。
幹 太「瞼ちゃん…瞼ちゃん…」
○ 戻り
幹 太「瞼さんは、こんな私だけのために、
四六時中アイドルでいるよう努めて
くれていたんです」
瞼、じっと幹太を見ている。
○ 楽屋(夜)(瞼の回想)
瞼と富樫、話している。
富 樫「盗撮? すぐにでも、警察に言わな
いと!」
瞼 「大丈夫です。というよりむしろ、チ
ャンスだと思っています」
富 樫「…?」
瞼 「二十四時間、アイドルやります」
○ ファッションビル(昼)(瞼の回想)
ブティック。
瞼と富樫、服を選んでいる。
富 樫「富永は、もう少しシックなイメージ
じゃないか? これだと女の子すぎ
るな」
瞼 「そうですかね?」
富 樫「つーか、なんで俺なんだよ。メンバ
ーに来てもらえばいいじゃないか」
瞼 「出し抜かなくちゃ、意味ないですか
ら」
富樫、切ない表情。
○ 瞼の部屋(夜)(瞼の回想)
アロマディフューザーを稼働し、美
顔ローラーを施している瞼。
ふと、クマラマンに視線をやる。
その、カメラ。
○ 戻り
幹 太「私はこの一票を投じたあと、警察に
出頭するつもりです。ですが、ひと
つだけ、お伝えしたいことがありま
す。…誰が何と言おうと、富永瞼は
最強のアイドルです!」
幹太、投票箱に用紙を入れる。
瞼、物陰で涙をこらえている。
島内、拍手する。しかしファンに伝
染することはなく、皆あっけに取ら
れている。
幹太、去る。
○ 同・外(夜)
幹太、歩いている。
憑き物が取れたような顔。
○ コンビニ・事務所(夜)
寺島、新聞を読んでいる。
友美、入ってきて、
友 美「店長、東さんまだですか?」
寺 島「え、もうそんな時間?」
友 美「忘れてんのかな…」
○ 同・外〜交番・前(夜)
電話をかける友美。
(以下、カットバック)
友 美「もしもし? 今日出勤だよ?」
幹 太「今まで、ありがとうございました」
友 美「は? 何?」
幹 太「…人は、どこでも、光れますよね」
友 美「え、ちょっと、どうしたの?」
電話が切れる。
幹太、交番へ向かう。
すると後ろから、瞼の声。
瞼 「待って!」
振り返ると、息を切らしている瞼。
瞼 「結果だけでも、見てってよ。…てい
うか、自首なんかしなくていいよ!」
幹 太「ダメです。僕がやったことは犯罪で
す」
瞼、手に持っていたクマラマンを渡
す。
瞼 「今度は、私の番だから」
幹 太「?」
瞼 「あなたが、どれだけ罪を償って生活
してるか、私が見るから。これでオ
アイコでしょう?」
幹 太「……」
瞼 「待ってるね」
瞼、振り返り、走っていく。
幹太、いつまでもその背中を見てい
る。
○ ファミレス(夜)
幹太と島内、話している。
幹 太「…いろいろ、すまなかったな」
島 内「いや、うん。あの、別にいいんだけ
どさ」
幹太、クマラマンを愛しそうに撫で
ている。
島 内「いやおかしくねえ? なんで盗撮し
た奴がハッピーエンドになってん
の?」
幹 太「やっぱ、徳積みすぎたかもしんない
わ」
島 内「ファンに殺されるぞ。っていうかお
前、あの子はどうすんだよ。瞼ちゃ
んが見てるのに連れ込めねえだろ」
幹 太「連れ込むなんて、そんなのアイドル
の家にカメラ仕込むより難しいよ」
島 内「なんだその巧妙な嫌味」
幹 太「(突然)あ、いけねっ」
○ ライブハウス・非常階段(夜)
瞼、しゃがんでいる。
アン、やってくる。瞼、それに気付
いて振り返る。
ア ン「ごめん、泣いてた?」
瞼 「ううん、逆にスッキリした気分なん
だ。…一位、おめでとう」
ア ン「…瞼には勝てないよ」
瞼 「勝ってるじゃん」
ア ン「そうじゃなくて。私にあんな覚悟は
ないもん」
瞼、少し笑って、
瞼 「サイリウム、綺麗だったなあ。海み
たいだった」
ア ン「もっともっと、でっかい海にしよう
よ」
アン、瞼の肩を抱く。
瞼、笑って頷く。
○ コンビニ・事務所(夜)
幹太、急いで制服に着替えている。
友美、幹太の脇腹をつねりながら、
友 美「変な電話よこすから、心配したじゃ
ん!」
幹 太「すいません」
友 美「ほんと、人の気持ち考えてよね!」
幹 太「すいません」
友美、幹太をなじり続けている。
無造作に開いた、カバンの中。
サイリウムが、まだ光り続けている。
(完)
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