恋はサイリウムのように ドラマ

崖っぷちアイドルと、徳を積むオタクの物語。
明星圭太 7 1 0 08/19
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第一稿

【登場人物】
東幹太(20) 大学生。富永瞼のファン。
富永瞼(20) 『おたまギャラクシー』メンバー。
島内照也(20) 幹太のオタク友達。
松島友美(18) 幹太のバイ ...続きを読む
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【登場人物】
東幹太(20) 大学生。富永瞼のファン。
富永瞼(20) 『おたまギャラクシー』メンバー。
島内照也(20) 幹太のオタク友達。
松島友美(18) 幹太のバイト先にいる女性。
岸谷アン(21) 同メンバー。瞼の親友。
(他、多数)

○ バス・中(昼)
    ギュウギュウ詰めの車内。
    座席に座っている、東幹太(20)。
    隣で立っている、コワモテの男と目
    が合うが、すぐにそらす。
幹太N「東幹太、二十歳、大学生です。ちな
    みに僕は、座っているのではありま
    せん。きたるお年寄りのために、席
    をキープしているのであります」
    バス、停留所に停まる。老婆が乗車
    してくる。
    幹太、すかさず立ち上がり、
幹 太「こちら、どうぞ!」
老 婆「あら、悪いわねえ」
    老婆、座る。
    幹太、コワモテの男にドヤ顔をする。
    男、「やるじゃん」みたいな顔。

○ 大学・正門(昼)
    幹太、歩いてくる。守衛、気付いて、
守 衛「おはようございまーす」
幹 太「おはようございます! 今日はいい
    天気ですね。絶好の大学日和です」
守 衛「あ、そう」
幹 太「守衛さんからすれば、絶好の警備日
    和、といったところでしょうか」
守 衛「うん、まあね」
    チャイムが鳴っている。
幹 太「しかし雨の日というのも、なかなか
    趣深いものがありますよね」
守 衛「うん、いいから行きなよ」

○ 同・教室(昼)
    大教室。席の後方が生徒で埋まる中、
    幹太、一人だけ最前列で授業を聞い
    ている。
    生徒たち、幹太を見てウワサしてい
    る。
幹太N「僕は、常に周りの模範となる行動を
    心がけています」
    幹太、挙手。教授、気付き、
教 授「はい、キミ」
幹 太「近年の少子高齢化には、どのような
    アプローチが効果的なのでしょうか。
    政府は働き方改革などに着手してい
    ますが、それが直接的に…」
教 授「今そんな話してないだろうが。聞い
    てないならもう来なくていいよ」
幹 太「…すいません!」
    生徒たち、いっそうザワザワする。
教 授「はい、次はセミの一生について学ん
    でいきます。次のレジュメを見てく
    ださい」

○ 同・正門までの道(昼)
    幹太、一人で歩いている。
    前を歩く女子のグループ。そのうち
    の一人のカバンがねじれている。
    幹太、肩のヒモを掴み、直す。
女 子「キャッ! (振り返る)」
幹 太「カバン、ねじれてましたよ」
    女子グループ、スタスタと逃げてい
    く。「なに今の」「マジキモいんだ
    けど」などと話している。
幹 太「(いいことしたなぁ、という顔)」
    
○ 駅・構内(昼)
    エスカレーター。幹太、一人だけ真
    ん中に立っている。
    後ろからコワモテの男(バスと同
    じ)、歩いてきて、幹太の後ろで止
    まる。
 男 「邪魔だよオメエ」
幹 太「(振り返り)これが本来の乗り方な
    ので」
 男 「またオメエか。ケンカ売ってるとし
    か思えねえな」
幹 太「ですけど、これが、本来の乗り方な
ので」
 男 「(胸ぐらを掴み)んだとコラ!」
幹 太「日本エスカレーター協会が推奨して
    いる乗り方は、真ん中…」
 男 「いてまうぞコラ!」
    男、幹太を下へ突き落とす。
    幹太、転げ落ちる。

○ コンビニ・事務所(夜)
    顔が傷だらけの幹太、座っている。
    向かいに店長の寺島(50)。
幹 太「…ときに、世間というのは冷たいも
    のです」
寺 島「…まあよく分かんないけど、採用」
幹 太「本当ですか?」
寺 島「来週の月曜、印鑑と保険証持ってき
    て」
幹 太「はい! よろしくお願いします!」
幹太N「僕がこんな日常をおくっているのに
    は、理由がありまして」

○ 幹太の部屋(夜)
    パソコンの画面。映っているのは、
    一人暮らしワンルームの部屋。
    ライブ映像らしい。
    そこにフレームインしてきたのは、
    ジャージ姿の富永瞼(20)。
    幹太、それを見ながら、深いため息。

○ タイトル『恋はサイリウムのように』

○ ライブハウス(夜)(二週間前)
    『おたまギャラクシー』のライブ。
    岸谷アン(21)、鮫島ゆりあ(17)、
    柏木雫(18)、新城早苗(18)、富
    永瞼。
    五人のメンバーが、音楽に合わせて
    踊っている。
    五十人ほどのファン、一心不乱にサ
    イリウムを振り、掛け声を挙げてい
    る。狂気に近い熱気。
    その中に、幹太と島内照也(20)も
    いる。
    ステージ向かって右端の、瞼。
    懸命に踊ってはいるが、表情は浮か
    ず、キレもイマイチ。
    幹太、心配そうに瞼を見ている。

○ ファミレス(夜)
    島内、チェキを見ている。
    岸谷アンとの2ショット。
島 内「やっぱアンちゃん可愛いわ。運営が
    推す理由分かる。実力不足とかほざ
    いてるニワカ完全に蹴散らしたっし
    ょ」
幹 太「……(スマホを見ている)」
島 内「おい、ヒガシ少年。アイドルが恋愛
    しないとかマジで思ってたんか?」 
    スマホの画面。
    『おたまギャラクシー富永瞼、マネ
ージャーと熱愛か』という、まとめ
サイトの見出し。
幹 太「これがアンちゃんだったら発狂して
    るくせに」
島 内「俺はアンちゃんのパフォーマンスが
    好きなんであって、別にどんな男と
    付き合ってたって構いやしないよ」
幹 太「恋愛はおろか、ウンコすらしないと
    思ってたよ、瞼ちゃんは」 
島 内「待て。恋愛したとは書いてあるけど、   
    ウンコしてるとは書いてないだろ」
幹 太「恋愛してるってことはウンコもして
    るってことだよ!」
    他の客、幹太のほうを見る。
    幹太、ばつが悪そうな顔。
島 内「まあ今日のパフォーマンスを見る限
    り、本当なんじゃねえの? 明らか
    に動揺してたし」
幹 太「瞼ちゃんはそんな子じゃない。何よ
    りもファンを大事にしてくれてる」
島 内「なあヒガシさんよぉ。彼女らも人間
    なんだよ。俺らがアイドルに大事に
    されてるように、アイドルだって誰
    かに大事にされたいって思うんじゃ
    ねえの? 知らんけど」
幹 太「……」
島 内「ま、ここで議論が白熱しても、真相
なんて分かりゃせんけどな。そんな
に知りたきゃ、部屋でも覗けば? 
って話よ」
ハッとする幹太。
幹太の頭で「部屋でも覗けば? っ
て話よ」の部分がリフレインする。

○ ドンキホーテ・中(夜)
    幹太、小型カメラのコーナーを見て
    いる。
    薄暗い表情。
    意を決したように、ひとつのカメラ
    を手に取る。

○ 幹太の部屋(夜)
    『クマラマン』という、クマがカメ
    ラを担いでいるヌイグルミ。
    幹太、備え付けのカメラのダミーを
    取り外し、小型カメラを装着する。
    変わらず、薄暗い表情。

○ ライブハウス・ロビー(夜)
    『おたまギャラクシー』握手会。
    メンバーとファンが、長机を隔てて
    握手している。
    幹太、意を決して瞼の前へ。握手し
ながら、
 瞼 「あ、また来てくれたんだ! ありが
    とね」
幹 太「…最近、元気なさそうだけど、大丈
    夫?」
 瞼 「…うん、大丈夫! ごめんね心配か
    けて」
幹 太「(カバンをまさぐり)これ」
    クマラマンを差し出す。
 瞼 「あ! クマラマンだ!」
幹 太「ブログで好きって言ってたから」
 瞼 「読んでくれたんだ! ありがとう。
    おうちに飾るね!」
    剥がしの男、幹太の肩を掴み、スラ
    イドさせる。
    名残惜しそうに瞼を見る幹太。
    幹太に手を振る瞼。
    島内、幹太の頭を叩き、
島 内「お前なにプレゼントとか渡しちゃっ
てんの? 言えよひとこと」
幹 太「周りを出し抜こうと思って」
島 内「生意気なんだよこのやろぉ」
幹 太「ちょ、やめろよぉ」
    二人、じゃれる。

○ ライブハウス・楽屋(夜)
    私服の瞼、楽屋を出ようとする。
 瞼 「じゃあ、お疲れさまでした」
    メンバーたち、「お疲れ〜」と言う。
    アン、瞼に寄ってきて、
ア ン「ファンの人にプレゼント貰ってた?」
 瞼 「ああ、うん。ヌイグルミ」
ア ン「気を付けなね。最近、盗撮とか盗聴
    とか多いから。スタッフさんに調べ
    てもらえば?」
 瞼 「ううん、大丈夫だよ。じゃ」
    瞼、出ていく。
    後ろで誰かが「私のプリッツ食べた
    のだれ〜?」とか言っている。

○ 幹太の部屋(夜)
    バタンとドアを閉める幹太。そして、
部屋をウロウロし始める。
幹 太「やってしまったやってしまったやっ
    てしまったやってしまった…」
    パソコンを開き、アイコンをクリッ
    クする。
    汗ばむ手を太ももで拭う。
    動画のプレーヤーが開き、『通信中』
    と表示される。
    読み込みが完了すると、突然、瞼の
    顔がドアップで映る。
幹 太「!」
    後ろにひっくり返る。すぐに立ち上
    がり、画面を見る。
    瞼、どうやら部屋にヌイグルミを設
    置している。映像が固定され、瞼が
    フレームアウトする。部屋が映し出
    される。
幹 太「これが…瞼ちゃんの、部屋…」
    瞼、上着を脱ぎ、着替え始める。
幹 太「おおっ!」
    幹太、思わず顔を手で覆う。
幹 太「ダメだダメだダメだ! これはあく
    まで熱愛報道の真偽を確かめるため
    の行為であって、決してプライベー
    トを覗き見るつもりは…やっぱ見た
    い!」 
    幹太、我慢できなくなり、手を外す。
    瞼、既に着替え終え、ジャージ姿に
    なっている。
    幹太、ホッとした表情。
    瞼、缶ビールを手に、ソファに座る。
    テレビを点け、飲み始める。
幹 太「瞼ちゃん、ビール飲むんだ…」
    瞼、テーブルのタバコを手に取り、
    火を点ける。
幹 太「!」
    さらにスルメを取り出し、ライター
    で軽く炙って食べ始める。
幹 太「ウソだろ…おい、ウソだって言って
    くれよ!」
    横になり、尻をかきながらテレビを
    観る瞼。「ははは」と笑ったりする。
幹 太「いや待て、落ち着け。この生活ぶり
    で交際相手がいるとは毛頭考えられ
    ない。つまり検証は成功だ。これで
    瞼ちゃんの嫌疑を晴らすことができ
    る! …いや待て、どうやって説明
    する! 部屋を覗いた結果シロだと
    分かりましたなんて言ったら、俺が
    クロだとバレるじゃないか! もは
    やシロの意味合いすら下着の色だと
    捉えられる可能性が…」
    すると、画面の中から着信音が。
幹 太「!」
    瞼、スマホを耳に当てる。
 瞼 「もしもし? ああ、もう帰ってきた。
    今日? 握手会。大丈夫だよ、別に
    変なことされないから。また仕送り
    したの? いらないって言ってるの 
    に! …うん、ありがと。じゃあ貯
    金しておくね」
幹 太「…これは、…おっかさんか?」
 瞼 「それよりそっちはどうなの? 腰の
    調子は? ダメだよあんまり無理し
    たら、もう若くないんだし」
    パソコンのキーボードに雫が落ちる。
    幹太、泣いている。
幹 太「俺は…俺は、なんてことを…」

○ 大学・全景(昼)
    
○ 同・教室(昼)
    休み時間。生徒のまばらにいる中、
    幹太と島内、後ろの席で話している。
島 内「(大声で)盗撮?」
幹 太「シッ!」
島 内「お前、マジでやったの?」
幹 太「今となってはものすごく後悔してる。
    でももう返してくれとも言えないし、
    引き返せないんだ」
島 内「だからって俺に言われてもさ…」
幹 太「誰かに言わないと潰れちまいそうだ
    ったんだよ。俺ら友達だろ? この
    秘密、俺と一緒に墓場まで持ってっ
    てくれよ、なあ!」
島 内「…ひとつだけ、方法があるぞ」
幹 太「なんだよ、もったいぶらないで教え
てくれ!」
島 内「徳を積むんだ」
幹 太「…徳?」  
島 内「とにかく良い行いをするんだよ。そ
    うすれば神様は、お前を良い方向へ
    導いてくれる。俺も、できる限り協
    力するよ」
幹 太「(感動して)…島内」
島 内「俺ら、友達だもんな」
幹 太「お前、ホントに良い奴…」
島 内「そのかわり、と言っちゃ何だけど」
幹 太「?」
島 内「瞼ちゃんの下着の色、教えてくんね
    えかな? できれば毎日。これも、
    人のために行うことだから、徳にカ
    ウントされるよ」
幹 太「ああ、分かった」
島 内「…よし」
幹太N「というわけで」

○ コンビニ(夜)
    幹太、コンビニの制服。猛スピード
    で雑誌を整理している。
    顔に絆創膏がいくつかある。
幹太N「東幹太、破竹の勢いで徳を積んでい
    る最中なのであります」
    寺島、寄ってきて、
寺 島「精が出るねえ。じゃ、あとよろしく
    ね」
幹 太「はい、お疲れさまでした!」
寺 島「あ、今日はもう一人夜番いるから、
    分かんないことあったら彼女に聞い
    て」
幹 太「彼女?」
    するとバックヤードから、松島友美
    (18)、出てくる。
    思わず見とれる幹太。
寺 島「ああ友美ちゃん、新人」
友 美「はじめまして、松島です」
幹 太「…あ、は、は、は、は、はじめます」
寺 島「何を?」

○ ライブハウス(夜)
    『おたまギャラクシー』ライブ。
    MCで、メンバーが話している。
ア ン「というわけで、ここまで十曲聴いて
    いただきましたが、どうですか皆さ
    ん、楽しんでますか〜!」
    「ウォー!」と声を挙げるファンた
    ち。
    すると袖から、タキシード姿の支配
    人・富樫(45)、登場。
    ざわつくファンたち。その中に、島
    内もいる。
    メンバー、動揺した様子。
富 樫「えー、突然ではございますが、皆さ
    んにご報告がございます」
    瞼、じっと富樫を観ている。

○ ライブハウス・ロビー(夜)
    ライブ終了後。ファンたち、一斉に
    会場から出てくる。
    各々、スマホでツイートしたり電話
    したりしている。
島内、そんなファンたちをかき分け
て出てくる。
島 内「えらいこっちゃえらいこっちゃ…」
    スマホをポケットから出そうとする
    が、動揺して上手く掴めない。

○ コンビニ(夜)
    レジで精算作業をしている友美。
    幹太、その様子を見てメモを取る。
友 美「じゃあバイトは初めてなんですか?」
幹 太「はい、初めてです」
友 美「最初のうちは慣れないことだらけで
    不安だと思いますけど、なんでも聞
    いてくださいね」
幹 太「なんでも聞いていいんですか?」
友 美「もちろんですよ。分からないままに
    しておくのが一番困りますから」   
幹 太「彼氏とかいるんですか?」
友 美「(幹太を見て)え?」
幹 太「彼氏とかいるんですか?」
友 美「いや、あの」
幹 太「彼氏とかいる…」
    すると、幹太に着信。島内から。
友 美「ああ、出ちゃっていいですよ、お客
    さんいないし」
幹 太「失礼します」
    幹太、しゃがみ、
幹 太「今日は薄いピンク」
島内の声「大変なことになったぞ」
幹 太「何? 今、バイト中…」

   ×      ×      ×
    ライブハウス、外。
島 内「次のシングル、投票で選ばれた四人
    だけで出すって。ビリの一人は参加
できないって!」
   ×      ×      ×

幹 太「なぬっ!」
友 美「?」
島内の声「瞼ちゃん結構きわどいかもな。ス
     キャンダルもまだハッキリしてね
     えし」
幹 太「……」
島内の声「そいえば今、バイトとか言った? 
     ついに始めたのか? 何のバイ
     ト?」
    幹太、電話を切る。
友 美「なんか、深刻な電話ですか?」
幹 太「(立ち上がり)いや、大丈夫です」
友 美「いませんよ」 
幹 太「え?」
友 美「彼氏、今はいません」
幹 太「…あ、へえ〜」

○ ライブハウス・楽屋(夜)
    メンバーと富樫、話している。
ア ン「どういうことですか」
富 樫「どういうって、あそこで話したとお
    りだよ」
 雫 「五人で人気を競い合うなんて残酷す
    ぎます。しかも、一人脱落者を出す
なんて」
早 苗「そうそう。仲間が仲間に思えなくな
    っちゃうし」
ゆりあ「私は別にいいと思うけど」
ア ン「どうして?」
ゆりあ「みんな知ってるのに知らないフリし
    てるじゃないですか、人気に格差が
    出始めてることなんて。この際ハッ
    キリさせればいいと思います」
ア ン「あんたね…」 
富 樫「富永、お前はどう思う?」
 瞼 「…私は、…賛成です」
ア ン「待って! 瞼ちゃん、利用されてる
    って! 瞼ちゃんが賛成すればやっ
    てもいいって、この人そう思ってる
    から聞くんだよ!」
ゆりあ「そりゃ賛成するでしょう、瞼さんは」
ア ン「あんた、何が言いたいの」
ゆりあ「富樫さんと一番仲良しじゃないです
か」
    アン、ゆりあを睨み、出ていく。
富 樫「とにかく、これは決定事項だから」
    富樫、出ていく。
 瞼 「……」

○ 幹太の部屋(夜)
    ベッドに倒れ込む幹太。
    視線の先に、瞼のポスター。
    手を伸ばし、微笑みかけている。
    幹太、それをじっと見ている。
幹太N「あれ以来、瞼ちゃんの部屋は一度も
    覗いていません。島内に教えている
下着の色は、無論デタラメなのであ
ります」
    パソコンに視線を移す。
    ふと、立ち上がる。

○ 瞼の部屋(夜)
    同じポスターが貼ってある。
    テレビの上に、クマラマン。
    瞼、変わらずジャージ姿でタバコを
    吸っている。
    ふと、クマラマンを見る。
    瞼、何か考えている。

○ 幹太の部屋〜瞼の部屋(カットバック)
    幹太、パソコンの起動ボタンを押す。
    汗ばむ手を太ももで拭う。
      × × ×
    瞼、全身鏡の前に立ち、自分を眺め
    る。
      × × ×
    幹太、アイコンをクリックしようと
    して、やめる。
      × × ×
    瞼、女性らしいスウェットに着替え
    始める。
      × × ×
    幹太、またアイコンをクリックしか
    けて、やめる。
      × × ×
    瞼、カーペットにコロコロをかけた
    り、いらない雑誌を捨てたりしてい
    る。
      × × ×
    幹 太「…まあとはいえ、徳はだいぶ貯まっ
    ているでしょうから」
    幹太、アイコンを押す。
    『通信中』の表示。
      × × ×
    綺麗に整頓された部屋。ビールの缶
    もタバコの吸い殻も無い。
    瞼、可愛らしいスウェット姿に体育
    座りでテレビを観ている。
    野菜スティックを小動物のようにポ
    リポリ食べている。
      × × ×
    幹太、その様子を見ている。
幹 太「瞼ちゃん、…やっぱ付き合ってるん
    だ」
    幹太、妙に清々しい表情で、伸びを
    する。

○ 駅・出口(昼)
    幹太と島内、仲良さそうに歩いてい
    る。
    誰かが幹太の肩を叩く。振り返ると、
    友美。
幹 太「あっ!」
友 美「最寄りここですか? 私もなんです」
島 内「(小声で)どちらさま?」
幹 太「バイト先の、かたです」
友 美「学校帰りですか?」
幹 太「まあ、そんなところですかね」
島 内「生写真、物色しに行くんです」
幹 太「おい!」
友 美「え、アイドルとか?」
島 内「おたまギャラクシーって知ってま
    す?」
幹 太「知るわけないだろ、馴れ馴れしくす
    んな」
友 美「『つゆだくファンタジー』めっちゃ
    聴いてます!」
島 内「え、知ってるんすか! うわ、めっ
    ちゃ嬉しい、なんか嬉しい」
友 美「今度、いろいろ教えてくださいね!」
幹 太「あ、あ、はい」
友 美「じゃ、バイトなんで。今日出勤です
    よね? 待ってます!」
    友美、去る。
島 内「お前ちょっと徳積みすぎじゃね?」
幹 太「…かもしんない」

○ コンビニ(夜)
    幹太と友美、事務所で話している。
幹 太「瞼ちゃんは、自分の魅せ方っていう
    のを一番理解してるんですよ。笑顔
    ひとつ取っても、曲調によって妖艶
    だったりキャピキャピだったり、変
    わるんです。そこがスゴイところで
    すね」
友 美「っていうか、それに気付く東さんが
    スゴい(笑)」
幹 太「いやもう一目瞭然なんですって!」
友 美「じゃあ、ずっとその、瞼さんって人
    のファンなの?」
    幹太、途端に表情が曇り、
幹 太「…まあ、そうなりますね」
友 美「ふうん、私もライブ行きたいなあ。
    ストレス発散になるし」
幹 太「…ファンの定義って、何なんでしょ
    うか」
友 美「?」
幹 太「僕は、無条件にその人を応援できる
    ほど、心の広い人間じゃないんです。
    自分の理想を投影してしまうし、時
    には幻滅してしまうこともあります。
    僕は、ファン失格です」 
友 美「その人が頑張ってるなら、応援すれ
    ばいいんじゃないですか?」
幹 太「?」
友 美「頑張ってない人を応援する必要はな
    いだろうし、逆に言えば、頑張って
    さえいれば、どんな応援だって心強
    いと思うんです」
幹 太「……」
友 美「そういった意味じゃ、私もヒガシさ
    んのファンですよ」
幹 太「え?」
友 美「(微笑んで)休憩あがりますね」
    友美、売り場へ出ていく。
幹 太「…マジで積みすぎたかもしんねえ」
    すると、幹太に着信。島内から。
幹 太「ムラサキ」
島内の声「やってしまいましたなあ、瞼ちゃ
     ん」
幹 太「は?」
島内の声「まとめサイト見てみろよ」
    幹太、まとめサイトを開く。
    『富永瞼、またもマネージャーと密
会』
    との見出し。
幹 太「……」
島内の声「こりゃ選抜落ち確定だな。ご愁傷
     様」
幹 太「別に、もう知ってたよ」
島 内「は? どういうことだよ、おい」
    幹太、電話を切る。

○ 同・外(早朝)
    幹太、バイトを終え歩き出す。仕事
    をやりきった、達成感に満ちた笑顔。
    後ろから友美、やってきて、
友 美「ちょっと! 先行かないでください
よ」
幹 太「ああ、すいません」
友 美「次シフト被るの、だいぶ先ですよ
    ね?」
幹 太「…そう、でしたっけ」
友 美「デートしません?」
幹 太「…なぬっ!」
友 美「また連絡します!」
   友美、去る。
   幹太、その背中をじっと見ている。

○ 大学・食堂(昼)
    幹太と島内、メシを食いながら話し
    ている。
島 内「これはもう、お前が声を挙げるしか
    なくないか? 運営も守ってくれな
    いし、瞼ちゃんが可哀想だよ」
幹 太「ご愁傷様とか言ってたくせに」
島 内「そりゃアンちゃんのことを思えばラ
    イバルが減るのはいいことだけど、
    あまりにもさあ」
幹 太「俺もそれどころじゃないかもしれん」
島 内「…お前、まさか」
幹 太「松島友美氏との密会が決定しました」
島 内「貴様、ドルオタの分際で!」
幹 太「島内、お前には本当に感謝してるよ。
    お前の助言で、人生が変わった」
島 内「お前、大切なこと忘れてないか?」
幹 太「?」
島 内「俺はいつだってお前を警察に売るこ
    とができるんだぞ」
幹 太「き、貴様、そんな強請りを!」
島 内「それが嫌なら言うとおりにしろ。瞼
    ちゃんの嫌疑を晴らすんだよ」
幹 太「でも、そんなことしたら…」
島 内「自分が豚箱に入るのと、推しが涙を
    飲むの、どっちがいい?」
幹 太「……」
島 内「ドルオタ根性、見せてみろや」
    島内、強い眼差し。
    幹太、戸惑っている。

○ 同・構内・廊下(昼)
    幹太、ウロウロしている。周りの生
    徒、通りすがりにウワサしている。
幹 太「俺に、どうしろっていうんだ…」
    幹太、ふと掲示板を見る。
    『クラウドファンディングって知っ
    てる?』という見出しのポスター。
    幹太、それを剥がして、
幹 太「これだ!」

○ ライブハウス・楽屋(昼)
    メンバー、衣装を着て待機している。
    全員無言。瞼はいない。
    雫、アンのもとへやってきて、
 雫 「瞼さんは?」
ア ン「今、富樫さんと話してる」
ゆりあ「あの二人、一緒にしといて大丈夫な
んですかね」
 雫 「ちょっと、ゆりあ」
ア ン「……」

○ 同・廊下(昼)
    瞼と富樫、話している。
富 樫「本当のこと、話したほうがいいんじ
    ゃないか」
 瞼 「…ここでやめたら、全部が水の泡に
    なります」
富 樫「結果としてファンを傷つけてるなら、
    意味ないだろう」
 瞼 「もう少し続けさせてください」
富 樫「(困った顔)」
    そこへアン、やってきて、
ア ン「瞼! ちょっと」
 瞼 「……」

○ 大学・パソコン室(昼)
    幹太、クラウドファンディングのサ
    イトに自分のページを作っている。
    隣に島内もいる。
    幹太、キーボードを打ちながら、
幹 太「火事場の馬鹿力とはこのことだね。
    俺が積み上げた徳に共感した人が寄
    付をする。そのお金でCDを買う。
    瞼ちゃんに投票する。瞼ちゃんは選
    抜入りを果たす!」
島 内「……」
幹 太「えっと昨日は、横断歩道でおばあさ
    んの荷物を持ってあげた、その後タ
    クシーを拾って家まで送ってあげた、
    お邪魔して一緒に水戸黄門を鑑賞し
    た…」
    島内、パソコンの電源コードをひっ
    こ抜く。画面が一瞬で消える。
幹 太「おい! 何すんだよ!」
島 内「お前、何も分かってねえな。そんな
    ことで選抜に入ったって何も意味ね
    えんだよ!」 
幹 太「どうして!」
島 内「確かにこれで金が集まりゃ投票では
    勝てるかもしんねえけどよ、その後
    のこと考えろよ。何も瞼ちゃんの為
    になってねえだろ!」
幹 太「瞼ちゃんは実際、富樫と付き合って
    るんだよ。酒もタバコもやめてさ、
    ジェラートピケに身を包んで野菜ス
    ティックかじってるの。この変化を
    恋と呼ばずに何と呼ぶんだよ!」
島 内「じゃあお前、瞼ちゃんが実際に富樫
    連れ込んでるの見たのかよ!」
幹 太「そりゃ、見てないけど…」
島 内「だったら決めつけないで信じてやれ
    よ! それがファンってもんだろ!」
幹 太「……」
島 内「なんだよ、現実で良いことあったら
    ホイホイしっぽ振って行きやがって。
    お前にとって瞼ちゃんはその程度か
    よ! お前の魂はその程度かよ!」
    島内、立ち上がる。しかし急に立ち
    止まり、
島 内「…今日は」
幹 太「…ターコイズブルー」
島 内「……」
    島内、去る。

○ 同・非常階段(昼)
    瞼とアン、話している。
ア ン「私は、アンタのこと信じてるよ。で
    も、何も言ってくれないんじゃ、こ
    っちもどうしていいか分かんないっ
    ていうか」
 瞼 「…ごめん」
ア ン「いや、謝ってほしいんじゃなくて」
 瞼 「でもアンちゃんには分かんないと思
    う。私の気持ち」
ア ン「なんでよ。レッスン生のときからず
    っと一緒だったじゃん。グループ決
    まったときも、私と瞼が年長組だか
    ら引っ張っていこうねって、このメ
    ンバーで天下取ろうねって約束した
    じゃん!」
 瞼 「だから余計に分かんないんだよ!」
ア ン「……」
 瞼 「同じ道歩いてきたから余計に分かん
    ないんだよ。同じ努力して、同じ喜
    びと同じ悔しさを味わってるのに、
    いつからこんなに差ができたの? 
    どうしてアンは人気があるの? …
    藁にもすがるような思いでやってる
    私の気持ちなんて、アンには分かん
    ないよ」
    アン、しばらく考えて、
ア ン「…そうだね、分かんないかも」
 瞼 「……」
ア ン「できることなら代わってほしいよ、
    センターポジションなんて。並外れ
    た才能もないのに、漠然と真ん中に
    立たされてる気持ち、分かる? し
    んどいよ、私だって。すぐにでも逃
    げ出したいよ」
 瞼 「…アンちゃん」
ア ン「でもいつか、誰もが認めるセンター
    になるって決めたの。だから逃げな
    い。だから瞼も、私たちから逃げな
    いでほしい。私たちだけは、同じ志
    でいられるんだからさ」
 瞼 「…ありがとう。…富樫さんと最初に
    撮られたときは、辞めるかもって相
    談してたの」
ア ン「……(瞼をじっと見ている)」
 瞼 「でも引き止められて、それからは、
    いろいろ相談してた」
ア ン「…いろいろって?」
 瞼 「ファンの人に、部屋覗かれてること
とか」
ア ン「!」

○ 駅・出口(夕方)
    幹太、うつむきながら歩いている。
    友美、立っている。
    歩いてきた幹太を見つけ、
友 美「(手を振り)おーい!」
    幹太、軽く手を挙げる。

○ 公園(夜)
    幹太と友美、ベンチに座っている。
友 美「で、その友達が人面魚にソックリで、
    みんなで大笑いしちゃって!」
    幹太、缶コーヒーを飲んでいる。
幹 太「……」
友 美「東さん? …東さん!」
幹 太「あ、は、はい」
友 美「もうそれ、カラでしょ」
幹 太「(缶を振って)…あ」
友 美「具合でも悪いんですか?」
幹 太「いや、大丈夫です」
友 美「ごめんなさい、初めてのデートなの
    に、公園なんて。もっと気の利いた
    プラン立てろよって思いますよね」
幹 太「僕のこと好きなんですか?」
友 美「…え?」
幹 太「僕のこと好きなんですか?」
友 美「いや、あの」
幹 太「僕はクズ人間ですよ? 禊のために
    徳を積んでいたのに、ちょっと良い
    ことがあるとすぐのぼせ上がって、
    自分を見失うようなクズ人間です」
友 美「…ちょっとよく分からないです」
幹 太「…すいません」
    少し沈黙があり、
友 美「私も、アイドル好きだったことがあ
    って」
幹 太「え?」
友 美「ライブとかよく行ってたんです。で、
    サイリウムってあるじゃないですか。
    パキって折ると光って、振り回すや
    つ」
幹 太「オタクは常に持ち歩いてます」
友 美「あれって意外と長持ちして、ライブ
    から帰ってきてもまだ光ってたりす
    るんですよね」
幹 太「最近は品質が向上しましたから」
友 美「あれ、すごい嫌なんです。なんでラ
    イブが終わったらすぐ消えてくれな
    いの? って。だって、切ないじゃ
    ないですか。役目を終えても光り続
    けてるの」
幹 太「…考えたこともなかったです」
友 美「で、なんか、人生とかも、そうなの
    かなぁって」
幹 太「はい?」
友 美「いや、そのときちょうど前の彼にフ
    ラれたときで、そういうのよく考え
    てて、…良いときじゃなくても、光
    らなきゃいけないことも、あるのか
    なぁって」
幹 太「…光らなきゃいけない」
友 美「初めて東さんと会ったとき、私には
    すごく光って見えたんです。サイリ
    ウムみたいに」
幹 太「ね、寝不足だったんじゃないっすか
    ぁ?(笑)」
友 美「だから、どんなときでも、光ってて
    ほしいんです、東さんには」
幹 太「……」 
友 美「ダラダラと、つまんない話をしてし
    まいました」
幹 太「おもしろかったです」
    二人、少し笑う。

○ 幹太の部屋(夜)
    幹太、パソコンの前に座っている。
    意を決したように画面を開き、アイ
コンをドラッグする。
    『ゴミ箱』へ入れようとする。
幹 太「…最後にもう一回だけ!」
    幹太、アイコンをクリックする。
    動画が開く。
    瞼、カメラに向かって正座している。
幹 太「!」
 瞼 「おーい。見てくれてますか? もう
飽きちゃったかな」
幹 太「…え、え、どういうこと?」
 瞼 「まずは、このヌイグルミをくれたフ
    ァンの方、ありがとうございます。
あなたに、伝えたいことがあります」
    茫然と画面を見る幹太。

○ ライブハウス・ロビー(夜)
    長机に『投票箱』が置かれている。
    ファンたち、続々とそこへ用紙を投
    入していく。
    一人で三十枚ほど入れる者もいる。
    幹太、一枚の用紙を持って並んでい
    る。
 声 「どのツラ下げて来たんだ」
    幹太、振り返ると、島内がいる。
幹 太「…島内」
島 内「厳しそうだから、一枚は瞼ちゃんに
    入れてやるよ」
幹 太「…これを入れたら、警察に行く」
島 内「お前」
幹 太「大丈夫だよ。俺は、サイリウムなん
だ」
島 内「…は?」
幹 太「(大声で)ちょっといいですか!」
    全員、幹太を見る。
    幹太、目を閉じ、大きく息を吸い込
    んで、
幹 太「富永瞼さんの熱愛疑惑について、私
    からお話ししたいことがございます」  
ファン1「なんでオタクが弁明すんだよ!」
ファン2「そうだよ! 本人出せ本人!」
    騒ぎ出すファンたち。
幹 太「うるさいっ!」
    静かになる。
幹 太「実は私、富永瞼さんの家を、盗撮し
    ておりました」
    再び騒ぎ出すファン。
    「なんだコイツ」「おい! 犯罪者
    がいるぞ!」「運営なんとかしろよ」
    などと声が聞こえる。
    ファン3、幹太に飛びかかり、
ファン3「テメエ、殺す!」
    だが島内、ファン3を柔道技で投げ
    倒す。
    再び静まり返る。
島 内「…続けろ」
    幹太、頷き、
幹 太「熱愛疑惑の真偽を確かめたいという
    その一心で、カメラを仕込んだヌイ
    グルミを瞼ちゃんにプレゼントしま
    した。私の犯した過ちは、決して許
    されるものではありません。しか
    し! 私はそこで、富永瞼の、真の
    アイドル魂を見ることとなるのです」
    物陰から、メンバーたち、様子を見
    ている。
    瞼、不安そうな表情。

○ 幹太の部屋(シーン○○の続き)
 瞼 「撮られていることは、ついこないだ
    知りました。でもきっと、期待に沿
    えるようなシーンはなかったと思い
    ます。ごめんなさい」
幹 太「そんな…」
 瞼 「でも私は、警察に行ったりはしませ
    ん。なぜなら、撮られていることで、
    常にアイドルでいようという自覚が
    芽生えたからです」
幹 太「…!」
 瞼 「ご存知の通り、私はグループで一番
人気がないです。だから、次のシン
    グルも、きっと厳しいと思います。
    でも撮られていることを知ってから、
    家での自分を少し変えてみました。
    見てくれてたかな? お酒もタバコ
    もやめて、可愛い部屋着も買って、
    女の子らしい座り方をしてみてます。
    そうすると、不思議とステージでも
    自信が付いてきたんです。 最近会
    いにきてくれてなかったけど、結構
    頑張ってたんですよ?(笑)」
幹 太「俺が来てないのも、分かってくれて
    た…」
 瞼 「きっと周りはこんなふうに言うと思
    います。盗撮すらも利用して、ファ
    ン獲得に必死だな! って。でも実
    際そうだからそれでいいんです。必
    死すぎて、アドバイスくれてた富樫
    さんと写真撮られちゃったけど。だ
    からあなたにも、ずっとファンでい
    てほしいなって、思ってます」
    幹太、泣いている。
 瞼 「投票はどんな結果でも、堂々とスピ
    ーチするつもりです。是非、観に来
    てくださいね。じゃ、おやすみなさ
    い」
    瞼、部屋の電気を消す。
    真っ暗になる画面。
    幹太、嗚咽をあげて号泣している。
幹 太「瞼ちゃん…瞼ちゃん…」

○ 戻り
幹 太「瞼さんは、こんな私だけのために、
    四六時中アイドルでいるよう努めて
    くれていたんです」
瞼、じっと幹太を見ている。

○ 楽屋(夜)(瞼の回想)
    瞼と富樫、話している。
富 樫「盗撮? すぐにでも、警察に言わな
    いと!」
 瞼 「大丈夫です。というよりむしろ、チ
    ャンスだと思っています」
富 樫「…?」
 瞼 「二十四時間、アイドルやります」

○ ファッションビル(昼)(瞼の回想)
    ブティック。
    瞼と富樫、服を選んでいる。
富 樫「富永は、もう少しシックなイメージ
    じゃないか? これだと女の子すぎ
    るな」
 瞼 「そうですかね?」
富 樫「つーか、なんで俺なんだよ。メンバ
    ーに来てもらえばいいじゃないか」
 瞼 「出し抜かなくちゃ、意味ないですか
    ら」
    富樫、切ない表情。

○ 瞼の部屋(夜)(瞼の回想)
    アロマディフューザーを稼働し、美
    顔ローラーを施している瞼。
    ふと、クマラマンに視線をやる。
    その、カメラ。

○ 戻り
幹 太「私はこの一票を投じたあと、警察に
    出頭するつもりです。ですが、ひと
    つだけ、お伝えしたいことがありま
    す。…誰が何と言おうと、富永瞼は
    最強のアイドルです!」
    幹太、投票箱に用紙を入れる。
    瞼、物陰で涙をこらえている。
    島内、拍手する。しかしファンに伝
    染することはなく、皆あっけに取ら
    れている。
    幹太、去る。

○ 同・外(夜)
    幹太、歩いている。
    憑き物が取れたような顔。

○ コンビニ・事務所(夜)
    寺島、新聞を読んでいる。
    友美、入ってきて、
友 美「店長、東さんまだですか?」
寺 島「え、もうそんな時間?」
友 美「忘れてんのかな…」

○ 同・外〜交番・前(夜)
    電話をかける友美。
    (以下、カットバック)
友 美「もしもし? 今日出勤だよ?」
幹 太「今まで、ありがとうございました」
友 美「は? 何?」
幹 太「…人は、どこでも、光れますよね」
友 美「え、ちょっと、どうしたの?」
    電話が切れる。
    幹太、交番へ向かう。
    すると後ろから、瞼の声。
 瞼 「待って!」
    振り返ると、息を切らしている瞼。
 瞼 「結果だけでも、見てってよ。…てい
    うか、自首なんかしなくていいよ!」
幹 太「ダメです。僕がやったことは犯罪で
    す」
    瞼、手に持っていたクマラマンを渡
    す。
 瞼 「今度は、私の番だから」
幹 太「?」
 瞼 「あなたが、どれだけ罪を償って生活
    してるか、私が見るから。これでオ
    アイコでしょう?」
幹 太「……」
 瞼 「待ってるね」
    瞼、振り返り、走っていく。
    幹太、いつまでもその背中を見てい
    る。

○ ファミレス(夜)
    幹太と島内、話している。
幹 太「…いろいろ、すまなかったな」
島 内「いや、うん。あの、別にいいんだけ
どさ」
    幹太、クマラマンを愛しそうに撫で
    ている。
島 内「いやおかしくねえ? なんで盗撮し
    た奴がハッピーエンドになってん
    の?」
幹 太「やっぱ、徳積みすぎたかもしんない
    わ」
島 内「ファンに殺されるぞ。っていうかお
    前、あの子はどうすんだよ。瞼ちゃ
    んが見てるのに連れ込めねえだろ」
幹 太「連れ込むなんて、そんなのアイドル
    の家にカメラ仕込むより難しいよ」
島 内「なんだその巧妙な嫌味」
幹 太「(突然)あ、いけねっ」

○ ライブハウス・非常階段(夜)
    瞼、しゃがんでいる。
    アン、やってくる。瞼、それに気付
    いて振り返る。
ア ン「ごめん、泣いてた?」
 瞼 「ううん、逆にスッキリした気分なん
    だ。…一位、おめでとう」
ア ン「…瞼には勝てないよ」
 瞼 「勝ってるじゃん」
ア ン「そうじゃなくて。私にあんな覚悟は
    ないもん」
    瞼、少し笑って、
 瞼 「サイリウム、綺麗だったなあ。海み
    たいだった」
ア ン「もっともっと、でっかい海にしよう
    よ」
    アン、瞼の肩を抱く。
    瞼、笑って頷く。

○ コンビニ・事務所(夜)
    幹太、急いで制服に着替えている。
    友美、幹太の脇腹をつねりながら、
友 美「変な電話よこすから、心配したじゃ
ん!」
幹 太「すいません」
友 美「ほんと、人の気持ち考えてよね!」
幹 太「すいません」
    友美、幹太をなじり続けている。
    無造作に開いた、カバンの中。
    サイリウムが、まだ光り続けている。

(完)

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