【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HF=ホストファーザー
HS=ホストシスター(ホストハウスの娘) 18歳
○バスの中
地球家族6人がバスに乗っている。
運転手「お客さんたちは、明日の朝、6時半の飛行機に乗るんですよね」
父「はい、そうなんです。明日は朝早いから大変で・・・」
運転手「おまかせください。空港までのバスは、私が運転することになっていますから。明日は朝が早いから、10時前には寝なくちゃな・・・。あ、もうすぐバスターミナルに着きますよ。この先の道は、おわかりになりますか?」
父「ホストハウスまでの道順は地図があるのでわかると思いますけど・・・」
運転手「ちょっと見せてください」
運転手、父が持っている地図を見る。
運転手「おー、奇遇だなあ! 私、このホストハウスのすぐ隣に住んでいるんですよ」
母「あら、そうなんですか?」
○その日の夜、ホストハウスの居間
地球家族6人とHF、HS
父「今日は、いろいろと案内していただいてありがとうございました」
HF「いえいえ。そろそろお休みになられたほうがいいのでは? 明日は朝が早いとおっしゃっていましたね」
父「はい。実は、明日の朝は、6時に出発しないと飛行機の時間に間に合わないんです。そこで、私たち5時半に起きたいんですけど、目覚まし時計を貸していただけませんでしょうか?」
HF「この星には目覚まし時計は無いんですよ」
ジュン「目覚まし時計が無いんですか? それで、起きられるんですか?」
HF「私たちの体は便利にできています。寝てからちょうど7時間半後に目が覚めるんですよ。たとえば、5時半に起きるためには、夜の10時に寝ればいいんです」
HF、時計を見る。今、9時50分過ぎ。
HF「そろそろ10時になりますね。それじゃ、私たち、今から寝て、5時半に起きて、みなさんを起こしてあげますよ」
HS「それがいいわ。私たちは、ある意味、目覚まし時計よりもずっと正確です。今まで、7時間半後に起きられなかったことは一度も無いんですから」
HFとHS、笑う。
HF「それでは、おやすみなさい」
HF、立ち上がって寝室に向かう。地球家族6人、呆然としている。
HS「それじゃ、私も寝ようかしら」
父「あのー、本当に目覚まし時計無しで、大丈夫でしょうか? 明日の朝は、飛行機に乗り遅れると大変なことになるものですから・・・」
HS「大丈夫ですよ。父にまかせてください」
ミサ「寝始めてから7時間半後に起きられなかったことは一度もないと言っていましたけど、本当に今まで、一度もないんですか?」
HS「父は忘れているみたいですけど、1回だけ起きられなかったことがあります。私がまだ小さい頃の話だから、10年以上前です」
ジュン「それは何か理由があったんですか?」
HS「ええ、その日は、夜中に地震があったんです。地震はとても珍しくて、眠っている私たちが目を覚ますほどの地震は、私の記憶ではそれ1回だけです」
タク「へえ」
HS「それで、夜中に一度目を覚ましてしまってからもう一度寝た場合には、次に起きるのは2回目に寝てから7時間半後になってしまうんです。それで、私も父も、その日だけは、朝の予定の時間に起きられずに遅刻してしまいました」
ミサ「なるほど、あなたがたの体内時計はとても正確だけど、融通がきかないところもあるんですね」
父「そうすると、私たちは、うるさくしないように、あまり大声を出さないようにしなければなりませんね。万が一、あなたがたが途中で目覚めてしまったら、5時半に起きられなくなりますから」
HS「ちょっとやそっとの物音では、けっして起きませんから大丈夫です。あ、もし心配なようでしたら、夜の会話はこれを使ってください」
HS、携帯電話のようなものを6個取り出して地球家族に配る。
母「これは?」
HS「単純な通信機です。遠くにいる人にでも、これなら小声で話ができますから。会話をする相手を選ぶこともできるので、ないしょ話をするときにも便利なんですよ」
HS、時計を見る。もうすぐ10時。
HS「あ、10時になる。すぐ寝ないと、5時半に起きられないわ。それじゃ、おやすみなさい」
HS、急いで寝室に向かおうとする。
ジュン「あ、HSさん。寝る前に、すみません。いらなくなった時計があったら、もらえませんか?」
○客間
地球家族6人が寝る準備をしている。
母「とりあえず、とても正確な人間目覚まし時計がいらっしゃるから、明日の朝の心配は無さそうね?」
父「いや、どうかな。機械の時計とどちらが信頼できるかと考えると、難しい問題だ」
ジュンがみんなに向かって置時計を見せる。
ジュン「じゃーん、できたよ!」
ミサ「何、それ? さっきからずっとドライバーを使っていじってたみたいだけど」
ジュン「使わなくなった時計をもらったので、改造して目覚まし時計を作ってみたんだ」
タク「へえ、すごーい。兄さん器用だね」
ジュン「僕は機械に強いからね。それじゃあ、5時半にセットして・・・」
ジュン、時計の裏のねじを回し、アラームをセットする。
父「本当にちゃんと鳴るのか?」
ジュン「大丈夫だと思うよ。まあ、HFさんとHSさんが起こしてくれるって言うし、それがダメだった場合の保険だと思ってよ。それじゃ、僕も寝るね」
ジュン、ベッドに入って目を閉じる。
○しばらくして、客間
地球家族6人がベッドに入っている。
父「(通信機を使って、小声で)お母さん、ミサ、タク、リコ、聞こえるか?」
ミサ「聞こえるわ。どうしたの?」
父「お父さん、やっぱり心配だから、朝まで起きていようと思う。HFさんもHSさんも起きられなくて、ジュンの目覚まし時計も鳴らなかったら大変だからね」
母「大丈夫?」
父「うん、一日くらい眠らなくてもなんとかなるよ。お父さんにまかせて、みんな、安心して寝なさい」
母「でも、お父さんが起きていたら、ジュンが気を悪くするかも。自分の作った時計が信用されていないんだなって」
父「そうだな。じゃあ、ベッドの中で、眠ったふりをして起きていることにするよ。それじゃ、おやすみ」
○真夜中、客間
突然、ジュンの作った目覚まし時計が、ものすごく大きな音をたててジリジリジリと鳴る。
地球家族6人、びっくりして飛び起きる。
父「ん、なんだ、朝か? いや、まだ外は暗いぞ」
ジュン、時計を観察する。
ジュン「しまった、セットの仕方を間違えた。まだ2時半だよ。今、やり直したから、今度こそ5時半に鳴るよ。ごめんね、みんな。じゃ、おやすみ」
ミサ「ちょっと、待って。今の目覚まし時計の音で、HFさんとHSさんが目を覚ましてしまったんじゃないかしら・・・」
父「かなり大きな音だったからな。1階まで響いたかもしれないな」
タク「起きているかどうか、見に行ってみようか」
父「音を立てないように、そっと頼むよ」
○HFの寝室
ドアをそっと開けるタク。中でHFはベッドで目を閉じて眠っている。
タク「(心の中で)大丈夫、眠っているな」
○HSの寝室
ドアをそっと開けるミサ。中でHSはベッドで目を閉じて眠っている。
ミサ「(心の中で)良かった」
○客間
ミサ「二人とも眠っていたわ。大丈夫よ」
父「いや、油断できないと思うな。目覚まし時計の音で目覚めて、その後もう一度眠り直している可能性もあるからな」
ミサ「5時半に起きられなかったら、どうしよう・・・」
ジュン「でも、その時のために、この目覚まし時計があるんだから、安心してよ。ちゃんと鳴ることは確認できたんだから。じゃあ、おやすみ」
ジュン、ベッドに戻って目を閉じる。他のみんなもベッドに戻る。
○しばらくして、客間
地球家族6人がベッドに入っている。
父「(通信機を使って、小声で)お母さん、ミサ、タク、リコ、聞こえるか? お父さんが朝まで起きているから、みんな、安心して寝なさい。あと3時間だから、なんとかなるよ。じゃあ、おやすみ」
○しばらくして、客間
地球家族6人がベッドに入っている。
母「(通信機を使って、小声で)ミサ、タク、リコ、聞こえる? お母さんも朝まで起きていることにするわ。さっき、目覚ましが鳴ったとき、お父さん、明らかに眠っていたわよね。だから、お父さんだけにまかせるのは不安で。だから、お母さんが起きていることにするわ。でも、起きているとわかったらお父さんを信用していないみたいで、お父さんが気を悪くするだろうから、ベッドで目を閉じたまま起きていることにするわ。だから、みんなは安心して寝てちょうだい。それじゃ、おやすみなさい」
○しばらくして、客間
地球家族6人がベッドに入っている。
ミサ「(通信機を使って、小声で)タク、リコ、聞こえる? お父さんとお母さんにまかせるのは不安だから、私が朝まで起きていることにするわ。年をとると、徹夜はけっこう難しいのよ。でも私なら大丈夫。でも、起きているとわかったらお母さんを信用していないみたいで、お母さんが気を悪くするだろうから、ベッドで目を閉じたまま起きていることにするわ。だから、二人とも安心して寝て。それじゃ、おやすみなさい」
○しばらくして、客間
地球家族6人がベッドに入っている。
タク「(通信機を使って、小声で)リコ、聞こえる? ミサにまかせるのは不安だから、僕が朝まで起きていることにするよ。ミサは寝るのが大好きだからね。気を悪くするといけないから、ベッドで目を閉じたまま起きていることにするよ。リコは安心して寝な。それじゃ、おやすみなさい」
○しばらくして、客間
地球家族6人がベッドに入っている。
ミサ「(心の中で)眠っちゃいけない。眠っちゃいけない・・・。眠っちゃいけないって考えれば考えるほど眠くなるのは、どうして?」
タク「(心の中で)眠っちゃいけない。眠っちゃいけない・・・、う、眠い・・・」
リコ「(心の中で)私も起きてたほうがいいのかな? いや、私が起きていると、みんな私のこと心配するかもしれない。私はちゃんと眠らなきゃ・・・、眠らなきゃ・・・」
○朝、客間
時計が5時半を少し過ぎた時間を指している。
リコがみんなを起こして回っている。他の地球家族5人はぐっすり眠っている。
リコ「みんな、起きて! 5時半だよー!」
他の5人、ようやく目を覚ます。
父「なんてことだ・・・」
母「完全に眠ってしまったわ」
ジュン「どうして目覚まし時計が鳴らなかったんだろう・・・ みんな、ごめん・・・」
ミサ「HFさんとHSさんも起こしに来ないわ。まだ二人とも眠っているのね。やっぱり夜中に一度起きてしまったんだわ」
タク「でも、どうしてリコだけ起きていられたの?」
リコ「起きているつもりはなかったの。みんなが私のこと心配するといけないから、眠らなきゃ、眠らなきゃと思ったら、逆に、どんどん目がさえちゃって・・・」
ジュン「でも、リコのおかげで助かったよ。あやうく、飛行機に乗り遅れるところだった。ありがとう」
父「さあ、急いで出発するしたくをするぞ!」
○バスターミナル
地球家族6人がバスターミナルに到着する。
バスが1台止まっているが、中には誰もいない。
ジュン「あのバスだね。運転手さんはいないのかな」
父「そろそろ発車時刻なのに、おかしいな」
母「あそこにバス会社の事務所があるから、聞いてみましょう」
○バスの事務所
地球家族6人が受付の男性事務員に声をかける。
父「すみません、空港行きのバスに乗りたいんですけど、運転手さんは?」
事務員「それが、まだ来てないんですよ。寝坊するはずないし、おかしいな」
ジュン「もしかして、運転手さん、僕たちが泊まった家のとなりに住んでいるんですよね。まさか、この目覚まし時計が鳴ったときに、目覚めてしまったのかも・・・」
ジュン、目覚まし時計を手に持って青ざめている。
ミサ「とにかく、運転手さんの家に早く電話してください」
事務員「いや、今から電話しても間に合いません。他の運転手がここの2階で寝ていますから、一人起こしましょう」
○バスの事務所の2階
男性事務員に連れられて地球家族6人が部屋をのぞくと、10人ほどの運転手がベッドで眠っている。
タク「うわ、すごい」
事務員「みんな、バスの発車時刻に間に合うように、その7時間半前に、みんな眠り始めたんですよ。今回は、やむを得ません。このうち、誰か一人を起こしましょう。誰にしようかな・・・」
そのとき、ジュンが持っていた目覚まし時計が突然、ジリジリジリと鳴り出す。
運転手10人、その音に驚いて全員飛び起きる。
全員、驚いて目を見開く。
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