リゾート農園へようこそ ドラマ

沖縄宮古島へ、リゾートバイトに出た美波。そこで出会った農家のおばーちゃんとの日常。
葵カズハ 3 0 0 08/16
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第一稿

〇宮古島 全景

〇サトの畑
   アロハシャツにモンペ、麦藁帽にティ
アドロップのサングラスをかけた大
掛美波(20)と、色違いファッションの
小林サト(65)が畑仕 ...続きを読む
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〇宮古島 全景

〇サトの畑
   アロハシャツにモンペ、麦藁帽にティ
アドロップのサングラスをかけた大
掛美波(20)と、色違いファッションの
小林サト(65)が畑仕事をしている。
畑の入り口に「サツマイモ」と書かれ
た立て札が立っている。
サト「強くひっぱっから切れちまったろーが」
美波「……わざとじゃねーよ」
サト「(ため息をつき)たかが蝉くれーで」
美波「蝉が顔面に突進してきたら逃げるだろ、
普通」
サト「処女じゃあるめーし」
美波「何度も言うけど、私は!処女!」
サト「二月もやってんだからいい加減慣れろ」
   美波、舌打ち。
美波「慣れても意味ねーだろ。東京で蝉が顔面に突っ込んでくるなんて有り得ないし」
   サト、立ち上がって美里を見ろし、美里の尻を蹴る。
   美波、バランスを崩して土に顔を突っ
込む。サト、それを見て指をさし、腹
を抱えて笑う。
サト「あと一ヶ月もあるんだ。蝉くれーでい
ちいちツル切られてたら商売になんない
んだよ!」
   美波、腕で体を持ち上げ、サトを睨む。
美波「こんのーやろー」
サト「家も飯も食わせてやってんだ。しっ
かり働け!」
   美波、口をわなわなさせる。
   サト、サツマイモを掘り始める。
サト「ほれ、急げ!日が暮れるぞ!」
   美波、サトの後ろ姿に大袈裟に中指を
立てる。サトの隣に屈み、サツマイモ
を掘り始める。

〇サトの家 全景(夜)
   白い木造の平屋。
   門の両脇にシーサーが飾られている。
   
〇同 居間 中(夜)
   大き目のちゃぶ大で食事をとる美波と
サト。ちゃぶ台には泡盛の瓶が置かれ
ている。サト、泡盛の瓶を持ちあげ、
美波の方を見る。
サト「ほれ」
   サト、泡盛を美波の方に差し出す。
   美波、グラスを持ち無言でサトの方に
向ける。
サト、グラスに泡盛を注ぎため息。
サト「まだ怒ってるんか」
美波「別に」
サト「(美波の真似をしながら)別に」
美波「うっせー!」
サト、声を上げて笑う。
   美波、口を尖らせ無言で泡盛を飲む。
   サト、それを見てもう一つのグラスに
泡盛を注ぎ、飲む。

〇同 縁側 中(夜)
   座ってチラシを見ている美波。
   スイカを持ってサトが来る。
   美波が持っているチラシ『リゾート農
園で夢のスローライフ』
サト、美波の事を一瞥して見て座る。
美波、サトに気づく。
サト、美波にスイカを渡す。
サト「よくできとるだろ」
   サト、顎でチラシを指す。
美波「ほとんど詐欺だろ」
サト「どっこにも嘘は書いてねーけど?」
美波「いっちばん重要な事が書いてねーし」
サト「(チラシを除きながら)どれ」
  美波、スイカでチラシの上の方を指し、
美波「ここら辺にでっかく『ババァの介護を
しながら』って書いとけ」
   サト、美波を蹴ろうとする。美波、そ
れをかわす。目を細めてにやりと笑う。
美波「タイミング分かってきた」
   サト、驚いた表情。
   美波、空を見上げる。サト、空を見上
げる。空には満月が浮かんでいる。
美波「三ヶ月なんてあっという間だな」
サト「……」
   サト、美波を盗み見て深呼吸をする。
美波「……どーすんだよ、畑」
サト「どーもこーも、続けるに決まってりゃ」
美波「一人で?」
   美波、サトを見る。
   サト、美波を見てにやりと笑い、
サト「あっちゃこっちゃにチラシばらまいと
るから余裕じゃ」
  美波、月を見上げる。
美波「……あっそ」

〇ドン・キホーテ宮古島店 駐車場 中
   人で賑わう駐車場。
   大量の荷物を抱えて歩いている美波。
   軽トラックの横で立ち止まり、荷台に
荷物を置く。ポケットを探る美波。
諸田陽一(28)が歩いてくる。
諸田、美波の肩を叩く。
美波、振り返って諸田を見る。満面の
笑み。
美波「陽さん」
   諸田、笑顔で応える。
諸田「こき使われてんなー」
美波「『あと2週間なんだから少しは役に立て』
とか言って、わざと重いもんばっか」
諸田「え?美波ちゃん帰っちゃうの?」
美波「え、うん。だって他にいるとこねーし」
   諸田、トラックの荷台に手をつき、頭
を垂れて愕然とする。
諸田「美波ちゃんもだめかー。うまく行って
るように見えたのになー」
   諸田、しゃがみ込む。
   美波、諸田の姿を見て怪訝な顔。
美波「だって、きっかり3ヵ月がルールだろ?」
   諸田、勢いよく顔を上げる。
諸田「サトさんがそう言ったの?」
美波「う、うん」
諸田「もー。サトさんってそういう所あるん
だよなー。意地っ張りっつーかなんつーか」
   諸田、再び頭を垂れる。
   美波、慌ててしゃがみ、諸田の肩をつ
かむ。諸田、顔を上げる。
美波「え、なに?どういう事?」
   諸田、美波を見て深いため息をつき、
口を開くが、すぐに口を閉じて頭を垂
れる。
美波、諸田の肩を大きく揺らす。諸田、
頭が前後に激しく揺れる。
美波「おい、説明しろよ」
諸田「ちょ、美波ちゃん、やめ、喋れない」
   美波、はっとした表情で諸田の肩を放
る。諸田、転びそうになる。
諸田「(ため息をつきながら)あの人、あの性
格だろ?今まで何人か来たんだけど、皆ダ
メでさぁ」
美波「(鼻で笑いながら)だろうな」
諸田「次ダメだったら、俺ら役場で手伝おう
ってなってたのさ。したら、先月サトさん
が急に来て、チラシ全部回収してくれっつ
ーから」
美波「え……?」
諸田「てっきり美波ちゃんは継続してくれる
んだと思って、喜んでたのになぁ」
   美波、驚いた表情のまま固まっている。

〇サトの畑
   屈んで畑仕事をしているサト。
   畑の前に軽トラックが止まる。
   サト、それに気づき立ち上がる。
   軽トラックから美波が下りてくる。
   美波、怒ったような顔。
   サト、軽トラックの方に歩いてくる。
   軽トラックの前で立ち止まり、荷台を
見る。
サト「ご苦労さん」
   美波、難しい表情のまま固まっている。
   サト、美波の方を見る。
サト「なんだ?変な顔して」
美波「スーパーで陽さんに会った」
サト「ようさん?」
美波「役場の。初日、ここに私連れて来てく
れた」
  サト、驚いた表情。美波から視線を逸
らして背を向け、畑の方に早歩きする。
サト「役場の人間の名前なんていちいち覚え
てらんないわ」
  美波、サトの方を見る。
  サト、屈んで畑仕事をする。
  美波、サトの横まで歩いていく。
美波「チラシ、ばらまいてるから余裕なんじ
ゃなかったっけ?」
サト「余裕余裕。お前さんがいなくなっても、
すーぐ次が来るわ」
美波「本人達の合意があれば、何か月いても
いいんだって?」
サト、無言で畑仕事を続ける。
美波「そんなこと聞いてねーけど」
   サト、無言で畑仕事を続ける。
美波「私、来月には帰るんだけど」
サト「おー帰れ帰れ。お前みたいな騒がしい
のがいなくなったら、夜も静かに眠れるわ」
美波「夜は静かに寝てんだろ!」
サト「(真顔で)毎晩酷い歯ぎしりさね」
美波「え!?」
   美波、驚いた表情で口元を押さえる。
   サト、それを見て声を出して笑う。
   美波、サトを見て笑う。
サト「おめーがどーしてもっつーんなら、役
場に延長申請してやってもいいけど」
美波「ばばぁが泣いて頼むなら、役場につい
てってやってもいいけど?」
サトと美波、同時に噴出し、二人で腹
を抱えて笑う。

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