<登場人物>
児嶋 清人(44)小学校教師、六学年主任
芳沢 咲良(30)保護者、児嶋の元教え子
芳沢 麻美(12)児嶋の教え子、咲良の娘
巽 進太郎(48)小学校教師、一学年主任
冨士原 学(52)同、三学年主任
木皿儀 夢(23)教育実習生(大学院生)
港 一真(33)小学校教師
碓氷(37)同
河上(29)同
宇佐(39)同
名波 飛鳥(61)同校長
松元 次春(55)同副校長
長瀬 碧 (7) 巽の教え子
植原 理央(7) 同
狩野 耕造(64)大学教授
児嶋 綾乃(40)児嶋の妻
アナウンサー
校内放送 声のみ
店員 声のみ
<本編>
○小学校・廊下
走って移動する児嶋清人(44)ら教師達。それを呆然と見ている生徒達。
麻美N「大学医学部付属病院」
× × ×
走って移動する巽進太郎(48)らまた別の教師達。壁には「廊下は走らない」と書かれた張り紙。
麻美N「通称『白い巨塔』で繰り広げられる、醜い大人達の権力争い」
○同・校長室・前
整列する児嶋、巽ら教師達。部屋から出てくる名波飛鳥(59)と松元次春(55)。
麻美N「それと同じ事が、この場所でも起きていた」
○同・外観
「京浜大学教育学部付属小学校」と書かれた看板。
麻美N「大学教育学部付属小学校」
校内放送の声「まもなく、校長先生の総点検です」
○同・廊下
飛鳥を先頭に歩く教師達。二列目に松元と児嶋、児嶋の後ろに苦虫を嚙み潰したような顔で続く巽。
そこに飛び出してきて、飛鳥にぶつかる生徒。
飛鳥「どこの生徒です?」
飛鳥が松元に、松元が児嶋にアイコンタクトをする。
児嶋「宇佐先生のクラスかと」
列の後方から、顔面蒼白で出てくる宇佐(39)。
宇佐「し、失礼いたしました!」
飛鳥「(宇佐に目もくれず)行きましょう」
その場に立ち尽くす宇佐以外の教師達が再び歩き出す。列の後方にいる碓氷(37)と河上(29)が一度振り返り、宇佐を見やる。
河上「宇佐先生、可哀想に」
碓氷「これでもう、出世とはオサラバだな」
麻美N「子供という『若葉』のあふれたこの場所で築かれた」
○同・教室
廊下を歩く教師達の姿がガラス越しに見える中、机に向かいノートに何か書いている芳沢麻美(12)。
麻美N「醜い大人達の城を、人々はこう呼ぶ」
ノートを閉じる麻美。表紙に書かれた「緑の巨塔」の文字。
○メインタイトル『緑の巨塔』
○大学・講堂・前
「大日本教育学会」と書かれた看板。
児嶋の声「では表の八をご覧ください」
○同・同・中
ステージ上で論文の発表をする児嶋。客席には多くの人の姿。
T「京浜大学教育学部付属小学校第6学年主任 児嶋清人」
児嶋「ご覧の通り、生徒群Aと生徒群Bでは、習熟度に大きな差が見受けられます」
客席から感嘆の声。
児嶋「以上の結果により……」
狩野の声「いやぁ、素晴らしい論文でしたね」
○同・同・前
握手する児嶋と狩野耕造(64)。
狩野「さすが児嶋先生」
T「京浜大学学長 狩野耕造」
児嶋「まぁ、我ながら上出来かと」
河上の声「で、どっちに付くんだ?」
○小学校・職員室
席に座る木皿儀夢(23)に迫る碓氷、河上。
碓氷「どうなの、木皿儀先生?」
T「京浜大学教育学部付属小学校教育実習生 木皿儀夢」
夢「どっち、と言いますと?」
河上「決まってんだろ、副校長選挙だよ」
○(回想)同・廊下
飛鳥を先頭に歩く教師達。
T「京浜大学教育学部付属小学校校長 名波飛鳥」
碓氷の声「この学校の名波校長は、もうじき退官を迎える」
二列目を歩く松元。
T「京浜大学教育学部付属小学校副校長 松元次春」
碓氷の声「次の校長は、松元副校長。ここまでは既定路線」
河上の声「問題は次の副校長。言い換えれば、次の次の校長だ」
二列目を歩く児嶋とその後ろを歩く巽。
T「京浜大学教育学部付属小学校第1学年主任 巽進太郎」
碓氷の声「その候補は慣例として、一年生か六年生の学年主任。つまり児嶋先生か、巽先生だ」
河上の声「まぁ、現状で言えば児嶋先生が一歩リードだな。論文至上主義者の副校長ともツーカーの仲だし、本学内での評価も高い」
○同・職員室
夢を囲む碓氷と河上。
河上「だから、今のうちに児嶋派に入っておいた方がいいと思う訳。木皿儀先生だって、大学内で出世、したいでしょ?」
碓氷「目指せ第二の女帝。第二の名波校長」
夢「それは、まぁ……」
児嶋の声「将来の幹部候補生を、あまりイジメてはいけませんよ」
ソコにやってくる児嶋。
児嶋「僕の布教活動をしてくれる事自体は、上出来ですけどね」
河上「児嶋先生、おかえりなさい」
碓氷「学会はどうでした?」
児嶋「おかげさまで」
河上「そんな事より、景気づけに(と言いながら杯を交わす仕草で)今夜あたりどうです? 児嶋副校長」
碓氷「河上先生、気が早すぎだよ」
そこにやってくる港一真(33)。
港「児嶋先生、お戻りだったんですね」
河上「あぁ、ちょうど良かった。港先生も今夜……」
港に続いてやってくる芳沢咲良(30)。怒りの表情。児嶋を見て一礼。
咲良「児嶋先生、よろしいですか?」
港「今なら、会議室は空いてます」
児嶋「(港に)上出来です。(咲良に)場所を変えましょうか」
咲良と共に出ていく児嶋。
夢「あの、今の方は……?」
碓氷「児嶋先生のクラスの、芳沢さんのお母さん。まぁ、いわゆるモンスターペアレントってヤツだな」
河上「未婚の母だとかで、娘を溺愛してんのかもしれないけどさ……」
○同・会議室・前
やってくる児嶋と咲良。
河上の声「ちょっとした事ですぐ学校に怒鳴り込んでくるから、迷惑してんだよ」
○同・同・中
連れだって入ってくる児嶋と咲良。
碓氷の声「児嶋先生も、相当参ってるって話」
ドアを閉めるなり、激しく求めあう児嶋と咲良。
児嶋「あいかわらず『怒鳴り込んでくる保護者』の表情が上手いな。上出来だ」
T「保護者兼愛人 芳沢咲良」
咲良「でもたまにはラブホテルに社会科見学とか、お互いの家に家庭訪問とか、してみたいと思わない? 先、生?」
児嶋「悪い子だな。小学校の時の担任の先生の出来が、よほど悪かったんだろう」
咲良「なら、貴方のせいね。先、生?」
再び激しく求めあう児嶋と咲良。
× × ×
乱れた服を整える児嶋と咲良。
咲良「副校長にはなれそうなの?」
児嶋「対立候補はいるが、問題ない。積み上げてきた実績と信頼が違うからな」
○小学校・外観
校内放送の声「まもなく、校長先生の総点検です」
○同・廊下
飛鳥を先頭に歩く教師たち。二列目に松元と巽、巽の後ろに苦虫を嚙み潰したような顔で続く児嶋。
碓氷の声「おめでとうございます」
○同・職員室
巽に続いて歩く碓氷と河上。
碓氷「まさか巽先生の娘さんと、狩野学長の息子さんがご結婚されるなんて」
河上「という事は、狩野学長とご家族になられた訳ですね。巽学長」
碓氷「河上先生、気が早すぎだよ」
巽「そうだよ、河上先生。せめて『巽副校長』にしてくれないと。ハッハッハ」
巽に続いて笑う碓氷、河上。
その様子を見ている児嶋と港。
児嶋「……」
歩き出す巽、碓氷、河上。児嶋達の脇を通る。
巽「あぁ、児嶋先生。私が校長になった際には、先生を副校長に推薦してあげても構いませんよ? ハッハッハ」
出ていく巽。気まずそうに笑いながらそれに続く碓氷、河上。
児嶋「港先生はいいんですか? 巽先生の所に行かなくて」
港「あの二人と一緒にしないで下さい。私は、児嶋先生が副校長にふさわしいと思っているからこそ、支持しているだけです」
児嶋「上出来です」
松元の声「その通り」
そこにやってくる松元。立ち上がる児嶋と港。
児嶋「副校長」
松元「児嶋君は何も心配する必要はない。学長と家族になったから次期副校長? そんなバカな話があるものか」
港「同感です」
松元「副校長選挙は所詮一人一票。学長一人の力ではどうにもできんし、それに私は、理事長との強いパイプがある。その私が後ろ盾である以上、児嶋君が次期副校長になるのは、既定路線だよ」
児嶋「ありがとうございます」
松元「大船に乗った気でいたまえ」
児嶋の背中を叩く松元。
○同・前
通学して来る小学生達と校門前に集まる多数のマスコミ。その中に居る麻美。
麻美「……邪魔」
アナウンサーの声「京浜大学教育学部付属小学校の裏口入学疑惑に、新たな動きです」
○同・会議室
会議中。飛鳥、巽を中心に児嶋、冨士原学(52)ら、松元を除く全教員が出席している。モニターにはニュース画面が映っている。
アナウンサー「理事長に続き、今回新たに、副校長が関与していた可能性が浮上しています」
停止される映像。
巽「え~、こういう訳ですので、今回の件では、本校でも内部調査委員会を立ち上げる事になりました」
飛鳥「つきましては、ココは是非、冨士原先生にお願いしたいのですが?」
T「京浜大学教育学部付属小学校第3学年主任 冨士原学」
冨士原「またですか? こういう役割は、いつも俺じゃないですか」
飛鳥「こういう事はやはり、変な忖度をせず、中立的な立場から物事をご覧になられる冨士原先生がベストかと」
冨士原「……仕方ないですな」
巽「とにかく、本校としては理事長と副校長が行った悪事を断固として許さない。そういった姿勢を強調していきましょう」
勝ち誇ったように児嶋を見やる巽。机の下で拳を握り締める児嶋。
○児嶋家・外観(夜)
「児嶋」と書かれた表札。
児嶋の声「くそっ! 松元の野郎!」
○同・児嶋の部屋(夜)
上着をベッドに叩きつける児嶋。
児嶋「論文を何本代筆してやったと思ってんだ。人の好意を無駄にしやがって!」
ドアをノックする音。
綾乃の声「どうかしたの?」
児嶋「(息を整え)……何でもありませんよ」
○同・ダイニング(夜)
晩酌をする児嶋と、つまみを出す児嶋綾乃(40)。そのまま部屋を出ようとする綾乃。
児嶋「たまには付き合いませんか?」
足を止める綾乃。
T「妻 児嶋綾乃」
綾乃「どうしたの? 珍しい」
児嶋「別に、夫婦なら普通の事だと思いますけどね?」
綾乃「パパの力でも借りたくなった?」
児嶋「まぁ、そうは言わずに……」
綾乃の肩に触れようとする児嶋。その手を払いのけ、部屋を出る綾乃。
児嶋「……」
再び酒を飲む児嶋。視線の先に児嶋の父の遺影。
児嶋「……俺は、親父みたいにはならない。なってたまるか」
勢いよく酒を飲み干す児嶋。
麻美N「選挙戦は現状、児嶋が不利なのは明確な事実だった」
○小学校・教室
作戦会議をする児嶋、港。黒板には「児嶋派」「巽派」「冨士原派」と描かれた円の中に多数のマグネットが置かれている。「児嶋派」から「巽派」に次々とマグネットを動かす港。
麻美N「実際、児嶋は多くの支持者を巽に奪われていた。しかしその巽にしてもまだ、過半数の支持者は確保できていない」
「冨士原派」の部分を叩く港。
麻美N「カギを握るのは、どちらにも属さない第三勢力」
○高級料亭・外観(夜)
麻美N「出世争いに目もくれず、現場一筋四半世紀を超える、中立派の……」
○同・中(夜)
対面した席に座る児嶋と冨士原。
麻美N「この男だった」
冨士原「随分とお高そうなお店ですな」
児嶋「あまり他の方々のお耳には入れたくない話もありましてね」
冨士原「一体、どんなお話ですかな?」
児嶋「単刀直入に申し上げます。副校長選挙で、僕に力を貸していただけませんか?」
冨士原「……」
児嶋「戦況は今、巽先生が有利です。しかしそれは、理事や本学の教授陣が学長に忖度しているからです。冨士原先生はそういうものが一番お嫌いだと思うのですが、いかがでしょう?」
冨士原「……何だ、その話でしたか。てっきり、副校長の不正に関する話かと思っていたんですがな」
児嶋「内部調査は順調ですか?」
冨士原「さっぱりですよ。肝心の松元副校長と連絡が全くとれませんからな」
児嶋「それは大変ですね」
冨士原「そういう児嶋先生は、何か加担されたりしていないんですかな? 松元副校長と随分親しかったようですが」
児嶋「一切ありませんよ。そもそも、僕は第六学年主任ですよ? 入試の時期なんて、自分の生徒の事で手一杯ですよ」
冨士原「なるほど。それは一理ありますな」
児嶋「ですが、調査の手助けくらいなら、出来ると思いますよ?」
冨士原「と、言いますと?」
扉をノックする音。
店員の声「お連れ様がお見えです」
児嶋「上出来なタイミングですね。どうぞ」
入ってくる松元。
松元「児嶋先生。話とは……(冨士原に気付いて)!?」
冨士原「これはこれは、松元副校長」
松元「(児嶋に)どういう事だ?」
児嶋「冨士原先生がお困りだろうと思いましてね。一席設けさせていただきました」
松元「冗談じゃない」
帰ろうとする松元の腕を掴む児嶋。
児嶋「まぁまぁ。ここでお逃げになると、印象が悪くなりますよ?」
松元「児嶋。お前、俺を売るのか?」
児嶋「貸しを作った相手が破産したんですよ? 回収を試みるのは当然でしょう?」
松元「なっ……」
児嶋「貴方はもう終わったんです。元副校長」
力なく児嶋が座っていた席に座る松元。
児嶋「では冨士原先生。お好きなだけどうぞ」
冨士原「コレが、俺への『貸し』という事ですかな?」
児嶋「なに、ほんのご挨拶ですよ」
出口に向かう児嶋。
児嶋「では、私は席を外しますね。あまり他の方々のお耳には入れたくない話もあると思いますので」
意味深に笑い、部屋を出る児嶋。
冨士原の声「副校長は全て認めましたよ」
○小学校・会議室
対峙する児嶋と冨士原。
冨士原「児嶋先生のおかげですな」
児嶋「当然のことをしたまでですよ」
冨士原「……うちの中でも、児嶋派か巽派か、意見が分かれてましてな」
児嶋「ほう」
冨士原「全員が児嶋派になるには、今から論文を二、三本仕上げるくらい児嶋先生が圧倒的な実績を作るか、巽先生が致命的な不祥事を起こすか、あるいはその両方が必要だと思われますな」
児嶋「貴重な情報をありがとうございます」
冨士原「なに。俺は人に『借り』を作るのが嫌いなだけですよ」
児嶋の声「作戦は上出来でしたね」
○同・廊下(夕)
並んで歩く児嶋と港。
児嶋「とはいえ、論文執筆と、致命的な不祥事ですか……」
港「随分と骨が折れそうですね」
児嶋「副校長が不祥事を認めた以上、おそらく校長の退官を待たずに選挙が行われるでしょうからね……(前方に何かを見つけ)ん?」
児嶋の視線の先、児嶋らに気付いて逃げる植原理央(7)ら。
植原「やべっ」
児嶋「廊下は走ってはいけませんよ」
植原らが居た場所、泣いている長瀬碧(7)。
児嶋「どうかしましたか?」
児嶋らに気付き、逃げ出す長瀬。
港「何だったんでしょうね?」
児嶋「確か今のは全員、巽先生のクラスの生徒だったように思いますが……?」
港「調べておきます」
児嶋「上出来です」
その場を立ち去る港。
児嶋「あとは論文ですか……」
○同・外観
○同・教室
教壇に立つ児嶋。
児嶋「ではA班はこのプリントを、B班はこのプリントを、C班は両方のプリントを取りに来てください」
続々とプリントを取りに来る生徒達。その中に居る麻美。乗り気ではない。
児嶋「ではやり方を説明しますね……」
○同・職員室(夜)
児嶋以外誰もいない室内。パソコンに向かい論文を書く児嶋。
児嶋「ふ~」
目頭を押さえる。
○同・外観
○同・会議室・中
服装を整える児嶋と咲良。
咲良「何かお疲れみたいね。先、生?」
児嶋「論文なんて、そうポンポン書けるもんじゃないからな」
部屋を出ていこうとする児嶋と咲良。
咲良「最後にもう一回」
立ち止まりキスをする児嶋と咲良。部屋を出る。
○同・同・前
出てくる児嶋と咲良。そこに立っている夢。
夢「児嶋先生」
児嶋「木皿儀先生!?」
夢「コチラにいらっしゃると聞きまして」
児嶋「……いつから?」
夢「? いや、ちょうど今来たところですけど……」
咲良「(児嶋をきっと睨み)では、私は納得するまで何度でも来ますから」
その場を立ち去る咲良。
児嶋「(すれ違いざま、咲良に小声で)上出来です」
応えるように児嶋の手に触れる咲良。そのまま去っていく。
児嶋「で、木皿儀先生。用件は?」
夢「これを読んでいただきたくて」
児嶋に論文を渡す夢。タイトルは「令和時代における通信教育の在り方について」。
児嶋「『令和時代における通信教育の在り方について』……コレは?」
夢「私の論文です。ぜひ、児嶋先生からアドバイスをいただきたくて」
児嶋「何故、僕に? 今、大学で出世するなら、巽先生についた方がよろしいんじゃないですか?」
夢「やはり、論文といえば児嶋先生ですし。それに……」
児嶋「それに?」
夢「(周囲を気にし、小声で)巽先生のやり方は、どうも好きになれないんですよ。子供同士を結婚させるなんて、まるで戦国時代じゃないですか」
児嶋「青いですね」
夢「とにかく、私は児嶋先生を応援してますので、頑張ってください。失礼します」
一礼し、その場を去る夢。
児嶋「……まったく。この忙しい時に、投票権もない女実習生の論文を、何で読まなきゃならないんだ」
論文をパラパラと流し読みする児嶋。
児嶋の声「子供達には、より多彩な授業を受ける権利があります」
○大学・講堂・中
ステージ上で論文の発表をする児嶋。客席では多くの人の姿。
児嶋「通信教育及び在宅教育に力を入れる事は、新しい学校の在り方を示し……」
大画面に表示されている論文のタイトルは「新時代における通信教育の在り方について」。
○小学校・外観
夢の声「どういう事ですか!?」
○同・会議室
対峙する児嶋と夢。
夢「あれは私の論文ですよね?」
児嶋「ですからきちんと、共同執筆者として名前を記載しておきましたよ?」
夢「名前が載っている載っていないという話ではなくて……」
児嶋「木皿儀先生は、僕の応援をしてくれるんじゃなかったんですか?」
夢「それとこれとは、話が違います」
児嶋「同じですよ。僕も松元先生に何本の論文を献上したことか。学年主任にまでとんとん拍子に出世できたのは、そのおかげと言っても過言ではありませんね」
夢「……」
児嶋「それに、共同執筆者だからといって、木皿儀先生の評価が半減する訳ではありませんし、むしろ女性の単独執筆では正当に評価されるかも怪しいですからね。双方に損のない話だと思いますが」
夢「……わかりました」
児嶋「上出来です」
ノックし、入ってくる港。
港「あ、失礼。お取り込み中でしたか?」
児嶋「いえ、ちょうど話が終わった所です」
港「例の生徒の情報です」
長瀬の写真を机に置く港。
港「長瀬碧。一年一組。やはり巽先生のクラスの生徒でした」
○(回想)同・廊下
皆で外へ遊びに行こうとする一年生達(その中心には植原)。その輪から離れている長瀬。
T「京浜大学教育学部付属小学校第1学年 長瀬碧」
港の声「学業、運動とも成績は芳しくなく、内気で、教室の隅にいるようなおとなしい生徒だそうです」
○同・会議室
机に置かれた写真を見る児嶋と港。その傍らに立つ夢。
港「尚、幼稚園時代にはイジメを受けていたそうです。それで、地元の小学校ではなく、ウチへ」
児嶋「なるほど」
港「それから、逃げていった方の生徒ですが」
植原の写真を机に置く港。
港「植原理央。同じく一年一組の生徒です」
○(回想)同・廊下
皆で外へ遊びに行こうとする一年生達の中心にいる植原。その輪から離れている長瀬を一瞥する。
T「京浜大学教育学部付属小学校第1学年 植原理央」
港の声「学業、運動とも成績は優秀でクラスの中心人物です。ただ、やや粗暴な所があり、他の生徒への暴力など、数回の注意を受けているようです」
○同・会議室
机に置かれた写真を見る児嶋と港。その傍らに立つ夢。
港「語弊があるかもしれませんが、いじめっ子の素養はあるかと」
児嶋「同意見ですね」
港「ひとまず、わかったのはココまでなのですが……」
児嶋「いえ、上出来です。あとはイジメの確たる証拠があれば……」
夢に目をやる児嶋と港。
夢「? え、何ですか?」
児嶋「僕達と比べて、実習生である木皿儀先生ならば、一年生のフロアへの出入りは容易でしょう?」
夢「それは、そうですけど……」
港「イジメの様子を動画で撮影してきてください」
夢「え、でも……」
児嶋「コレは、イジメを受けている生徒を救うためなんですよ?」
夢「……そういう事なら」
港「あとはこの生徒がイジメを原因とした不登校にでもなれば、巽先生の指導力を問う声は出てくるでしょうね」
児嶋「(まんざらでもない顔で)港先生。教師たるもの、そういう発言は慎んだ方がいいと思いますよ?」
笑う児嶋と港。その様子を怪しむように見ている夢。
○同・外観
児嶋の声「三田さん。山中さん……」
○同・教室
教壇に立ち出席をとる児嶋。
児嶋「芳沢さん」
空席に目をやる児嶋。
巽の声「児嶋先生、大丈夫ですか?」
○同・職員室
児嶋の元にやってくる巽。
巽「先生のクラス、不登校の生徒が出ているそうじゃないですか」
児嶋「まだ三日休んでいるだけですよ」
巽「何だったら、この副校長代理が相談にのりますので、何なりと。ハッハッハ」
立ち去る巽の背中を睨む児嶋。
インターホンの音。
○団地・外観
咲良の声「はーい」
○同・芳沢家・玄関
ドアを開ける咲良。そこに立つ児嶋。
咲良「あら、本当に家庭訪問に来てくれたのね。先、生?」
児嶋の声「元気そうですね」
○同・同・麻美の部屋
床に座る児嶋と、背を向けるように机に向かう麻美。
児嶋「明日は学校に来られそうですか?」
麻美「休みます」
児嶋「理由は?」
麻美「行きたくないから」
児嶋「そんなのは理由になりませんよ」
麻美「じゃあ、何ですか?」
児嶋の方へ向き直る麻美。
T「京浜大学教育学部付属小学校第6学年 芳沢麻美」
麻美「私には『学校に行かない』権利はないって言いたいんですか?」
児嶋「僕はそんな事言ってませんよ」
麻美「じゃあ、学校に行かないのも私の自由って事ですよね?」
児嶋「もちろんです。ですが、世界には学校に行きたくても行けない、そんな恵まれない子供達も大勢いるんです。その上で、学校に行かない権利を主張されますか?」
麻美「先生、勘違いしてます」
児嶋「勘違い? 何を?」
麻美「学校に行きたくても行けない子供は、確かに恵まれてないと思います。でもそれは『学校に行けないから』じゃなくて『学校に行くという選択肢がないから』だと思います」
児嶋「選択肢がないから?」
麻美「学校に行きたいのに『学校に行く』という選択肢がないから、学校に行けない。選択肢の数に恵まれてないんです」
児嶋「なるほど。面白い考え方ですね」
麻美「もちろん、逆もあります」
児嶋「逆?」
麻美「学校に行きたくないのに『学校に行かない』という選択肢を奪われた子供は、学校に行きたくても行けない子供と同じくらい恵まれていない、という事になるんですよ」
児嶋「確かに、僕達大人にとって『子供に教育を受けさせる』のは義務であり、子供達が『教育を受ける』のは権利です。ですが、その権利を持たない子供達も大勢いる中で、少なからずその権利を得た芳沢さんには、きちんと教育を受ける義務があると、僕は思うんですがね」
麻美「……そしてその教育の発展のためには、私達は研究の実験体となる義務がある、って事ですか?」
児嶋「? どういう意味でしょう?」
麻美「先生は私達で実験して、論文書いてるんですよね?」
児嶋「随分と険のある言い方ですね」
麻美「先生の実験はいつも、良い出来のグループと悪い出来のグループに分かれます。良い方ならともかく、悪い方に入れられた子供の気持ち、考えた事ありますか?」
児嶋「……」
麻美「私達は、大人のモルモットじゃない!」
児嶋の声「……って言われてな」
○同・同・咲良の部屋
裸でベットに横になる児嶋と咲良。
児嶋「まったく、困ったもんだ」
咲良「でも、ちょっとわかるな」
児嶋「わかる? 何が?」
咲良「だってほら、私達っていわゆる『ゆとり教育』の世代でしょ? でも今は『脱ゆとり』。まるで私達の世代が間違った教育を受けてたみたいで、ちょっと気分悪いよね」
児嶋「お前も裏切る気か?」
咲良「まさか。自分の元担任を裏切る訳ないでしょ。先、生?」
児嶋「だが、お前の娘の不登校が続けば、選挙戦は余計に不利になる。そこでだ、芳沢。協力してほしい事がある」
咲良「何? 私だってさすがに、麻美を無理やり学校に行かせる訳にも……」
児嶋「そうじゃない」
○小学校・外観
○同・職員室
巽、冨士原らはいるが児嶋、港らは不在。
そこにやってくる咲良。
咲良「失礼します」
冨士原「(空席を確認し)児嶋先生なら、今席を外してるようですな」
咲良「そうですか……。では、巽先生は?」
巽「? 私に何か?」
巽の元にやってくる咲良。
咲良「(小声で)少しお時間いただけます? 先、生?」
巽「?」
咲良の声「副校長選挙に役立ちそうな、児嶋先生の情報があるんですよ」
○ラブホテル・前(夜)
車が出てくる。助手席に咲良、運転席に巽。周囲を警戒しながら運転する巽。
咲良の声「児嶋先生に副校長になられたら、私も嫌なんです」
路肩に停められた別の車。中から巽達をスマホで撮影している児嶋。
咲良の声「出来れば誰もいない所で、二人っきりでお話できませんか?」
児嶋の声「……とでも言って、巽をラブホテルにおびき出せ」
撮影を終え、車を走らせる児嶋。
児嶋の声「その現場を、俺が押さえる」
○林道(夜)
停まっている児嶋の車。
児嶋の声「別に巽に抱かれる必要はない」
○車内(夜)
後部座席に並んで座る児嶋と咲良。キスを交わす。
児嶋の声「保護者とホテルに出入りする写真一枚で、ヤツは終わりだ」
咲良「で、どうだった?」
児嶋「上出来だ。よくやった」
咲良「作戦通りね。先、生?」
児嶋「それにしても時間かかったな。もう少し早く出てくるかと思ったが」
咲良「二回戦しちゃったからね」
動きが止まる児嶋。
児嶋「巽と寝たのか?」
咲良「あれ、寝ちゃダメなんて言ってたっけ。先、生?」
児嶋「……お仕置きが必要なようだな」
咲良に覆いかぶさる児嶋。
咲良「その前に。撮った動画、私にも見せてよ。先、生?」
児嶋「……いいだろう」
態勢を戻し、スマホを取り出す児嶋。
○同・教室(夕)
スマホの動画を見ている児嶋と夢。
動画では長瀬に詰め寄る植原らに割って入る夢の様子が映っている。
夢「(動画内)コラ、君たち。止めなさい」
動画を止める児嶋。
児嶋「何ですか、コレは?」
夢「え? ですから、イジメの……」
児嶋「木皿儀先生が生徒達のじゃれ合いに割って入るだけの動画など何の意味もありませんよ?」
夢「そんな……」
児嶋「撮り直してきてください。今度はイジメの様子を、最後まで見守るんですよ?」
夢「はぁ……」
○同・前
救急車に搬送される長瀬。
○同・体育館
飛鳥と巽による記者会見が行われている。
飛鳥「今回、本校の生徒がケガをした件に関して、本校で調査を行った所、イジメの存在は確認できませんでした」
記者から罵声の嵐。
巽「静粛に願います」
飛鳥「(罵声に負けじと大声で)したがって、本件はただの事故であり……」
○(動画)同・一年生の教室
植原らにイジメられている長瀬の様子をスマホで隠し撮りした動画。
植原「長瀬。お前、先生に何かチクったろ」
長瀬「い、言ってないよ」
植原「嘘つくんじゃねぇよ。だったら何で俺がマークされんだよ」
長瀬「し、知らないよ」
植原「調子乗ってんじゃねぇぞ!」
長瀬を突き飛ばす植原。窓ガラスに頭から突っ込む長瀬。
○(イメージ)
先の動画がネット上で拡散されていく。
重なるように「京浜大学教育学部付属小学校でまた不祥事」「今度はイジメ隠し 証拠動画流出」といった見出し。
○小学校・外観
○同・会議室
会議中。児嶋、巽、冨士原、港、碓氷らが出席している。
冨士原「度重なる騒ぎで、校長も解任されてしまった訳ですが、どうしますかな?」
児嶋「校長、副校長ともに不在ですからね」
碓氷「現状、副校長代理の巽先生に校長代理を務めてもらったらどうでしょう?」
巽「私は構いませんが」
児嶋「しかし、今回の件では、担任である巽先生の責任を問う声もありますからね」
港「それに『副校長代理』として記者会見でのウソ発言に立ち会っている訳ですし」
巽「ぐ……」
冨士原「となると……順番としては児嶋先生になるんですかな?」
児嶋「(まんざらでもない顔で)私ですか?」
港「まぁ、妥当ですよね」
冨士原「異論はありますかな?」
挙手する巽。
冨士原「巽先生」
巽「異論ではないんですが、一つ気になる事がありまして。例の動画の流出元です」
冨士原「あの、イジメの?」
巽「一年生の生徒がそれほどスマホを持っているとも思えませんし、そもそも撮影者の視点が高すぎる」
冨士原「確かに、大人の目線でしたな」
巽「で、生徒達から、木皿儀先生が撮影している姿を見た、との証言がありまして」
児嶋に目をやる巽。
巽「児嶋先生は、木皿儀先生と論文を共同執筆なさる仲ですから、何かご存じなんじゃないかと思うんですが……?」
児嶋「イジメの動画を流出させるとは、学校に対する背信行為ですね。目をかけてきただけに残念ですが、それが事実なら、即日解雇が妥当かと」
港「えっ……」
冨士原「巽先生、それでよろしいですかな?」
巽「……」
冨士原「では、校長副校長の件は、今日の会議の結論を元に、来週の大学の理事会で正式決定を仰ぐ、という事で」
児嶋「異議なし」
勝ち誇ったような顔の児嶋。
○児嶋家・外観(夜)
○同・ダイニング(夜)
父の遺影を前に酒を飲む児嶋。
児嶋「見たか、親父。副校長を飛び越えて、校長だ。俺は親父とは違う。俺は親父を超えたんだ」
高笑いする児嶋。
児嶋「しかし、念には念を入れて、切り札も仕込んでおくとするか」
スマホに目をやる児嶋。
○大学・外観
○同・会議室
狩野を中心に児嶋、巽、冨士原らが出席し理事会が開かれている。
狩野「では、名波飛鳥校長の解任に賛成の方は挙手を願います」
全員が挙手をする。
狩野「全会一致ですね。え~、次の議題は……」
児嶋「新校長と新副校長の任命では?」
狩野「(書類を見ながら)いや、違いますね」
児嶋「え?」
冨士原「児嶋先生。急ぎすぎですよ。まずは松元副校長の処遇についてですな」
狩野「そうでしたそうでした」
児嶋「松元先生の?」
狩野「え~、第三者委員会や、冨士原先生を中心とした内部調査委員からの報告によると『松元先生は裏口入学への関与は認めたものの、全ては理事長からの圧力によるものであった』との事です」
児嶋「何ですって?」
狩野「情状酌量の余地は十分と考え、松元先生の復職並びに新校長就任の決議をしたいと思います。賛成の方、挙手を」
児嶋以外が全員挙手。児嶋も後を追うようにしぶしぶ挙手をする。
狩野「これまた全会一致ですね。では、お入りください」
扉が開き、松元が入ってくる。
児嶋「松元……先生」
松元「新校長の松元です。皆様のお心遣いに感謝し、職務にまい進いたします」
席に着く松元。
狩野「次が、新副校長ですね。確か巽先生と児嶋先生が立候補していると……」
松元「私は、巽先生を推薦します」
児嶋「!?」
狩野「私も、巽先生がいいと思いますね」
巽「ありがとうございます」
児嶋「お待ちください。先日、我が校で行われた職員会議では『児嶋を第一候補に』という事で意見がまとまって……」
狩野「(書類を探しながら)いや……、コチラに届いた議事録には、そのような記載はありませんね」
児嶋「そんな……」
冨士原に目をやる児嶋。
冨士原「(思い出したように)あぁ、そうでした。一つ妙な動画が届いてましてな」
巽「動画?」
冨士原「新副校長人事に関わるような内容ですので、皆さんで共有したいのですが、よろしいですかな?」
狩野「どうぞ」
冨士原のノートパソコンから流れる、咲良と巽がラブホテルから出てくる動画。ざわつく一同。
巽「(立ち上がり)!?」
松元「コレは……」
冨士原「相手の方は、確か保護者の方ですな」
児嶋「(白々しく)ウチのクラスの生徒の母親……だと思いますね」
巽「(気づいて)まさか!?」
児嶋に視線を向ける巽。目を一切合わせない児嶋。
狩野「(顔を真っ赤にし)巽先生。一体どういう事ですか!?」
巽「申し訳ございません」
狩野「処分は追って知らせます。ひとまず副校長選挙は辞退していただけますね?」
力なく着席する巽。
児嶋「残念ですが、副校長選挙は実質、僕の信任投票という事になりますね」
冨士原「だから児嶋先生、急ぎすぎですよ。動画はまだ続きがありますからな」
児嶋「続き?」
ラブホテルの動画が終わり、会議室で児嶋と咲良が抱き合っている動画が始まる。
児嶋「なっ!?」
狩野「児嶋先生!?」
冨士原「相手は同じ方のようですな」
松元「しかもコレ、ウチの会議室じゃありませんか?」
狩野「学校内ですって!?」
児嶋「一体、何で……」
狩野「児嶋先生、説明してください」
笑い出す児嶋。
松元「児嶋先生?」
児嶋「コレは捏造です」
狩野「捏造?」
児嶋「考えてみて下さい。教師と保護者が、学校の会議室で事を行う? あまりに常軌を逸している、非現実的です」
狩野「まぁ、言われてみれば……」
児嶋「そもそも、僕は数々の論文を書き、大学への貢献もしてきました。この僕こそが最も副校長にふさわしいと……」
冨士原「その論文なんですが、一つ気になることがありましてな」
狩野「気になる事?」
冨士原「児嶋先生は先日『新時代における通信教育の在り方について』という論文を発表されましたな?」
児嶋「それが、何か?」
冨士原「実はそれより以前に、教育実習生の木皿儀先生から『論文を見て欲しい』と頼まれた事がありましてな」
夢の論文を取り出す冨士原。
冨士原「それがコチラですな。『令和時代における通信教育の在り方について』」
児嶋「何故、冨士原先生がソレを?」
冨士原「そもそも俺が『論文を読んでもらうなら俺より児嶋先生の方がいい』と木皿儀先生に話したので」
児嶋「そんな……」
冨士原「児嶋先生の論文も一応、共同執筆者として木皿儀先生の名はありますが、両者を比べると九割九分、木皿儀先生が書いた内容です。これは共同執筆というより、盗作に近いかと」
児嶋「誤解を招くような発言は慎んでいただけませんか?」
冨士原「では、本人に聞いてみますかな?」
児嶋「本人?」
冨士原「実は今日、来てもらっているんです。入りなさい」
扉が開き、入ってくる夢。
児嶋「木皿儀先生!?」
夢「その論文は、私が児嶋先生に提出し、無許可で、児嶋先生の名前で発表されました」
児嶋「証拠は?」
夢「ありません」
児嶋「話になりませんね」
夢「ですが、別の証拠ならあります」
ボイスレコーダーを取り出す夢。
児嶋「別の証拠?」
夢「(涙を流しながら)私は、イジメの動画を撮影していました。見ていたのに、止める事も出来ませんでした。全ては児嶋先生の指示です。コレが、その証拠です」
ボイスレコーダーを再生する夢。動画と同じ植原や長瀬の声が聞こえる。
児嶋の声「(ボイスレコーダーから)よく撮れてますね。上出来です」
夢の声「(ボイスレコーダーから)まさかこんな大事になると思わなくて……止める事が出来ませんでした」
児嶋の声「(ボイスレコーダーから)ですから、上出来です。よく我慢しましたね」
夢の声「(ボイスレコーダーから)え?」
児嶋の声「(ボイスレコーダーから)あとはこの動画を、上手い事拡散させて下さい」
立ち上がる児嶋。
児嶋「止めろ!」
夢「この場で児嶋先生からのパワーハラスメントを告発します」
児嶋「貴様……」
狩野「もう結構です。児嶋先生、貴方を解雇します。それとも、採決が必要ですか?」
松元「必要ないでしょう」
全員の冷たい視線が児嶋に集中する。力なく着席する児嶋。
児嶋「バカな……こんな事が……」
松元「となると、新副校長はどうなるんでしょうか?」
狩野「他に管理職の資格を持つのは……冨士原先生くらいですよね?」
冨士原「まぁ、持ってますけど」
狩野「お願いできますか?」
冨士原「俺が副校長ですか? まったく、こういう役割はいつも俺になるんですな」
狩野「冨士原先生の副校長就任に賛成の方、挙手をお願いします」
児嶋と巽以外全員が挙手をする。
○団地・外観
○同・芳沢家・玄関
奥の部屋から漏れてくる声。
咲良の声「元担任を裏切る訳ないでしょ?」
○小学校・外観
○同・職員室
児嶋が使っていた机。物が何もなくなっている。
○同・前
薄汚れた服装の児嶋が学校を眺めている。そこに登校してくる麻美。
児嶋「芳沢……学校来たのか」
麻美「モルモット扱いする担任が居なくなったって聞いたから」
児嶋「そうか。そうだったな。すまなかった」
立ち去ろうとする児嶋。
麻美「先生」
児嶋「ん?」
麻美「コレ、知ってる?」
一枚の写真を差し出す麻美。小学三年生時代の咲良がいるクラス写真。
児嶋「何だ、この写真?」
麻美「お母さんが、ここの三年生だった頃の写真だって」
児嶋「三年生……」
そこに写る当時の担任の冨士原。
児嶋「!?」
○団地・芳沢家・咲良の部屋
抱き合う咲良と冨士原。
咲良「全部うまくいったわね。先、生?」
冨士原「まったく、俺はいい教え子を持ったもんだな」
○小学校・前
児嶋に写真を渡す麻美。
麻美「じゃあ、お元気で。先、生?」
立ち去る麻美。
写真を強く握りつぶす児嶋。
児嶋「冨士原~!!」
(完)
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