#36 カラスのいる麦畑 ホラー

私の母は、カラスでした。
竹田行人 13 0 0 09/19
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第一稿

「カラスのいる麦畑」


登場人物
風見紋(27)会社員   
風見愛子(54)紋の母
風見平助(65)紋の父
風見実(29)紋の夫
風見渉(31)紋の兄
風見亜 ...続きを読む
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「カラスのいる麦畑」


登場人物
風見紋(27)会社員   
風見愛子(54)紋の母
風見平助(65)紋の父
風見実(29)紋の夫
風見渉(31)紋の兄
風見亜希(23)紋の妹


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○世田谷総合病院・外観
   鉄筋12階建ての建物。
   壁に「世田谷総合病院」の文字。

○同・病棟廊下
   リノリウムの床。
   風見紋(27)と風見実(29)、病室から出てくる。
紋「お父さん。またね」
実「失礼します」
   実、病室のドアを閉める。
   紋と実、歩き出す。
紋「全然喋れなくなってた」
実「反応はあった。大丈夫」
紋「酸素マスクとか。点滴とか心電図とか。お父さんじゃないみたい」
実「お義父さんは。アヤのお父さんだよ」
紋「うん。ありがと。ミノルくん」
実「お義母さん。お義父さんの世話。楽しそうにしてたね」
紋「うん。嬉しいんだと思う。今まで夫婦の時間なんてほとんどなかったから」
実「オシドリ夫婦ってああいうのを言うんだろうなって思ったよ」
紋「私の理想の夫婦」
   紋、実と手を繋ぐ。
紋「私たちもああなれたらいいな」
実「ああ」
   紋と実、微笑み合い、角を曲がる。
   階段と踊り場。
   烏、鳴き声とともに踊り場の窓の外を横切る。
紋「やだな。こんなとき。烏とか」
実「あいつ。1人だな」
紋「え」
実「いや。なんかの本で読んだんだけど。烏って生涯に1パートナーなんだって」
紋「へー。意外に一途」
実「だから1人の烏は独身か、連れ合いを亡くしてるってことなんだよ」
紋「やめてよ。余計不吉じゃん」
実「ごめん。でも。考えちゃってさ」
   烏、窓の外の高いところを飛んでいる。
実「1人で飛ぶ空で烏が感じるのは、自由なのか。それとも孤独なのかって」
紋「実くん?」
   烏、窓の外の高いところを飛んでいる。

○同・談話室・中
   食堂が併設されている。
   見舞客がまばらに座っている。
   風見渉(31)と風見亜希(23)、窓際のテーブル席に座っている。
   渉と亜希の前には紙コップ。
   紋、紙コップを手に入ってくる。
亜希「ホント信じらんない」
渉「いろいろあんだよ。夫婦のカタチは」
   紋、渉と亜希に歩み寄る。
紋「アキ。アユムにぃ」
亜希「あ。紋ねぇ」
紋「お見舞いしてきた」
渉「そっか。実くんは?」
紋「仕事戻るって。よろしく言ってた」
亜希「なんだ。久しぶりにお義兄さんと話したかったのに」
渉「わざわざ悪かったな」
紋「ううん。平気」
   紋、テーブルの空いている席に座る。
紋「なんの話してたの?」
亜希「お母さん。なんでお父さんとずっと一緒にいれるのかって話」
紋「どういうこと?」
亜希「お母さんって学生時代タレントみたいなのやってたんでしょ? いい男なんてそこら中にいただろうに」
紋「まぁ立場上? そういうわけにもいかなかったんじゃない?」
亜希「でもさ。いくらグループの一人娘だからって、あんな地味で面白みのない人。私だったらお見合いの時点で断るけどな」
渉「おいおい」
紋「まー。男としてどうかって言われると。確かにね」
渉「こらこら」
亜希「あとアレ。お父さんトイレ長い」
紋「あー。確かに。でもそれ。どこのお父さんも同じなんじゃない?」
亜希「そう! みんな言うよね」
紋「アレ。なんでなんだろうね」
亜希「永遠の謎だよね」
渉「あー。たぶん自由を感じられるからだよ」
亜希「自由?」
渉「オレも最近わかったんだけどさ」
   渉、スマートフォンを取り出す。
   スマートフォン画面。
   待ち受け画像は家族写真。
渉「オレが会社員でも夫でも父親でもなく、風見渉でいられる場所って、そんな無いんだよ。生活の中で」
亜希「どゆこと?」
渉「家族の中でも多かれ少なかれ与えられた役割を演じてるってこと」
亜希「えー! なんかヤダその考え方」
紋「でも。それちょっわかるかも」
亜希「紋ねぇも演じてるの?」
紋「あー。違くて。ふっと相手の内側が見えて。ドキっとすること。ある」
亜希「そうなんだ」
   携帯電話のバイブ音。
   紋、スマートフォンを操作する。
紋「お。噂をすれば実くん。コート? ああ。ごめん。わたし病室戻るわ」
   紋、立ち上がるときにテーブルに体をぶつける。
   紙コップが倒れ、コーヒーがこぼれる。
亜希「あーあーあー」
渉「いい。やっとく。行ってきな」
紋「あー。ありがと」
   コーヒー、テーブルから滴り落ちる。

○同・病棟廊下(夕)
   紋、病室のドアに手をかける。
愛子の声「ねぇ。平助さん。平助さんは子どもたちをどういう風に思ってます?」
   紋、手を止める。

○同・病室・中(夕)
   壁に麦畑を描いた絵画。
   絵画の中の空を烏が飛んでいる。
   風見平助(65)、酸素マスクや点滴を付けてベッドに横になっている。
   ベッドの傍らには心電図モニタ。
   脈拍は70前後。
   風見愛子(54)、ベッドの脇のイスに腰掛けている。
   平助の顔に西日が当たっている。
愛子「眩しい? ごめんなさい。渉は。とっても頭がいい子。知識だけじゃなく、知恵もあって。深く、真摯に考えられる」
   愛子、窓に歩み寄る。
愛子「紋は。とっても優しい子。自分のことより他人のことを考えて、いつも清く、正しく行動できる」
   愛子、窓の外を眺める。
愛子「亜希は。とっても楽しい子。あの子の周りには自然と人が集まって、どこにでも笑顔と、幸せを作ることができる」
   窓の外には烏が飛んでいる。
愛子「3人とも。自慢の子」
   愛子、窓の外を眺めている。
愛子「平助さんは傾きかけたグループの経営を立て直したし、家族も大事にしてくれた。誰にでもできることじゃない」
   愛子、カーテンに手をかける。
愛子「でも。それはお見合いの時からわかってた。だって私。平助さんと初めて会ったとき。思ったから」
   愛子、カーテンを引く。
愛子「なんてつまらない人なんだろうって」
   脈拍、90前後にまで上がる。
愛子「私ね。平助さんとお見合いする前からお付き合いしてた人がいるの」
   愛子、ベッドに歩み寄る。
愛子「頭がよくて。優しくて。楽しくて。とっても素敵な人」
   脈拍、110にまで上がる。
愛子「いつか言わなきゃって思ってたんだけど、延ばしのばしになっちゃった」
   愛子、平助に顔を寄せる。
愛子「あの子たち。平助さんの子じゃないの」
   脈拍、130にまで上がる。
   平助、手を伸ばし、愛子の頬に触れる。
   愛子、頬に伸びた平助の手を握る。
   愛子の頬に一筋の涙。

○同・屋上(夕)
   物干し台が幾つも並んでいる。
   紋、ふらつきながら歩いている。
   烏が降りてきて、物干し台に止まる。
   紋と烏、目を見合わせる。
紋「お母さん?」
   携帯電話のバイブ音。
   紋、スマートフォンを取り出し、耳に当てる。
亜希の声「紋ねぇ!? お父さんが! お父さんが大変なの! どこにいるの!?」
紋「お母さんと話してる」
亜希の声「なに言ってんの? お母さんならここにいるよ! 早く来て紋ねぇ!」
紋「ううん。たぶんこっちにいるのが本物のお母さんだよ」
亜希の声「紋ねぇ?! 紋ねぇ! あ」
   紋、通話を終える。
   紋と烏、目を見合わせる。
   紋、烏に歩み寄る。
紋「ねぇ。お母さん。どっちなの?」
   紋と烏、目を見合わせる。
紋「お母さんが今感じてるのは。孤独なの? それとも。自由なの?」
   烏、大きく口を開け、鳴く。

〈おわり〉

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