灯火 ドラマ

ロウソクの灯を消さないで歩いて高野山まで運ぶという謎のアルバイトを引き受けた主人公が色々な人と出会い、仲間を増やしながら目的地を目指すが、次第にSNSを通じて日本中に有名になる。
岩本 隆一郎 3 0 0 08/23
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第一稿

○とある暗い室内
   暗闇から男の手が伸び、マッチを擦る。
   ポッと灯がともり、テーブルの上のロウソクに移される。
   男……黒岩良夫(42)の顔が浮かび上がる。
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○とある暗い室内
   暗闇から男の手が伸び、マッチを擦る。
   ポッと灯がともり、テーブルの上のロウソクに移される。
   男……黒岩良夫(42)の顔が浮かび上がる。
黒岩「一千万」
   と、マッチの火を吹き消す。
   黒岩のテーブルの向いに座る澤田信司(29)、ロウソクの灯にじっと見入る。
黒岩「この灯を消さずに、ただ、貴方は歩くだけです」
   信司、不安げにロウソクの灯を見つめる。
黒岩「ひたすら……ただ、ひたすら、歩く」
信司「歩くって、いったいどれくらい歩くんですか?」
黒岩「東京から、高野山・金剛寺まで」
信司「えっ?高野山って、まさかあの……」
黒岩「そう和歌山県の高野山です」
   信司、思わず黙ってしまう。
   ろうそくの灯がわずかに揺らめく。
信司「でもそんな長い間、ロウソクの灯が持たないじゃないですか」
   黒岩、足元のリュックを重そうに持ち上げると、テーブルにドサっと置き中身を見せる。
   リュックの中には大量のロウソク。
信司「!」
黒岩「一つのロウソクの燃焼時間は約四時間。東京から高野山までは約六百キロメートル。毎日二十キロメートル歩くとして、三十日分のロウソク百八十個を用意してあります」
信司、リュックを軽く持ち上げる。
信司「重っ!」
黒岩「但し公共交通機関を使うのは禁止。必ず歩いて高野山まで行く事」
信司「あの、一体それにはどんな意味があるんですか?」
   黒岩、無視して話を続ける。
黒岩「ロウソクが無くなるか、途中で灯が消えたらこの仕事は終了です。その場合報酬は一銭も支払われません」
信司「本当にそんな簡単な事で一千万円貰えるんですか?」
   黒岩、無言でテーブルに契約書を出す。
信司、ロウソクの入ったカバンを重そうに背負うと、ひったくるように契約書を自分の方に引き寄せる。

○信司のアパート(翌日の明け方)
   まだ薄暗い部屋。
   女性と仲良く映った写真や流しのコップに入った二つの歯ブラシなど女性と暮らした跡が   見てとれる。
   信司、リュックからロウソクを一つ取り出すと、ロウソク台にセットして灯を点ける。 
   簡易テントを縛り付けたリュックを背負い、ロウソクを持つ。
   部屋を一瞥して、力強く頷くと部屋から出ていく信司。

○タイトル
「灯火」   

○国道をまたぐ陸橋(朝)
   風に揺れるロウソクの灯を片手で庇いながら恐るおそる歩いている信司。
   通行人、信司の事を不審な目で見ながら通り過ぎる。
   信司、ロウソクの灯に集中するあまり、周りの様子にまったく気付かない。

○街中・国道沿いの歩道
   川崎の道路標識。
   ロウソクが小さくなり灯が消えかかる。
   信司、道の脇に座り、リュックから新しいロウソクを取り出し、慣れない手つきで灯を移   す。
信司「(炎に触れ)あちっ!」
   通行人、その様子を不思議そうに見る。
信司、その視線に気付き、慌ててリュックを背負うと恥ずかしそうにその場を立ち去る。

○市街地
   信司、ロウソクの灯を運ぶのにだいぶ慣れ、真っすぐ前を見ながら歩いている。
   信司、病院の横を通る。
   見上げると、一つの窓から女の子がじっとこちらを見つめている
  
○病院・病室(回想)
   澤田樹里(29)、ベッドの上で体を起こして、見舞いに来た信司と話している。
樹里「それ本当にまともな仕事なの?」
信司「東郷先生の紹介だから大丈夫さ」
樹里「でも運送会社の方はどうするのよ」
信司「会社には休職願い出してきた」
樹里「そんな大事な事、どうして一言相談してくれなかったの」
信司「相談したら反対しただろ」
樹里「当たり前でしょ。もし失敗したらただ働きじゃない」
信司「じゃあ、他に何が出来るってんだよ。俺達には金も時間も無いんだ」
樹里「私いつ死ぬか分かんないなら、信司と一緒に居たい」
信司「ごめん。必ず成功させてすぐ戻るから」
信司、リュックを持って出て行く。
   枕もとの蜜柑を投げる樹里。
樹里「信司の馬鹿!勝手にすれば」
(回想終わり)

○国道沿いのバス停
   信司、ベンチに座り、脇にロウソクを置くと、ラインを打つ。
   「川崎なう」
   ろうそくと自撮り写メを送る信司。

○病院・病室
   樹里、ベッドの上で信司のラインを見て返事を打つ。
   「ガンバ!帰るまでチューはお預けよ」
   樹里、キスする真似の写メを返す。
   その時、東郷が部屋に入ってくる。
   恥ずかしそうにスマホを隠す樹里。
東郷「澤田さん、お加減はいかがですか?」
樹里「お陰様で今日はとても調子が良いです」
東郷「それは良かった。でも安心しないで下さい。あなたは神経髄芽腫と言って脳に腫瘍が出来 てるんです。早く手術で取り除かなければまた意識障害が出るはずです」
   スマホをぎゅっと握り締める樹里。

○国道沿いの歩道
   信司、ロウソクの灯を手に真っすぐ前を見ながら歩いている。

○近くの電信柱の陰  
   黒岩、信司の歩く姿をこっそり写真に撮り、インスタグラムに投稿する。
   信司の写ったインスタグラムの写真。

○インスタを見ている人々
食卓でタブレットを見ている主婦。
   自室でパソコン画面を見る学生。
   カフェでスマホを見ながら話し合う恋人達。

○ある証券会社・オフィス
   佐々木数馬(24)、自分のデスクでスマホを弄り、信司の写ったインスタグラムを見て   いる。
   隣のOLが声を掛ける。
OL「ねえ数馬、今夜みんなで飲みに行くけど、あんたも来るよね」
数馬「えっ、僕、今日はちょっと」
OL「えー、行かないの?」
   数馬、困り顔でしぶしぶ頷く。
数馬「分かりました、行きます」
OL「やっぱ、そうこなくっちゃ。数馬、付き合い良いから好きよ」
   上司が数馬に声を掛ける。
上司「佐々木くん、ちょっと」
数馬「はい」
   上司のデスクの前に立つ数馬。
上司「(機嫌悪く)君、楽しく飲みに行くのも良いけど、分かってるだろうね」
   上司、壁の営業成績の棒グラフを見る。数馬が最下位。
数馬「すみません。来月は頑張ります」
上司「その台詞、先月も聞いたぞ」
数馬「そうでしたっけ?」
上司「そんなんだからいつまでたってもビリなんだよ」
   上司、わざと辺りに聞こえる声で、
上司「いいか、うちは給料泥棒に払う金なんか無いんだ。もう少し気合入れてやれよ」
   またか、という感じで苦笑いするスタッフ達。
   逃げ場も無く小さくなっている数馬。

○公園
   信司、痛そうに足を庇い、ベンチに座る。
   ゆっくり靴を脱ぐと、足の裏に沢山のマメ。
   所どころ潰れていて……。
信司「うわ……」
   信司、またそうっと靴を履く。
   足元で沢山の小さな蟻が行列を作り歩いている。
信司「(ため息)」
   信司、じっと蟻を見るうちにうとうとしてしまう。
*     *     *
信司、目を覚ます。
   子供がロウソクを悪戯して吹き消そうとしている。
信司「こらっ!」
   びっくりして泣きながら母親の方に逃げる子供。
   睨む母親。
   信司、慌ててロウソクを持って逃げるように立ち去る。

○そばの木の陰
   黒岩、インスタグラムに写真を投稿する。
   信司が足のマメを見る写真と、子供を叱る写真。

○国道沿いの歩道(夕方)
   信司、速度も極端に落ちて、足を引き摺りながら痛そうに歩く。
   
○数馬のマンション(夜)
   ワンルームマンション。
   数馬、酔って帰って来ると、冷蔵庫からペットボトルの水を出して飲む。
   怠そうにソファに座ると、ポケットからスマホを取り出し信司のインスタグラムを見る。
   そのまま横になると壁に飾られた操り人形と目が合う。
   じっと考え込む数馬。

○住宅街の道(夜)
   信司、朦朧として歩き、大きく道の中央にはみ出す。
   後ろから来た車がクラクションを鳴らす。
   信司、慌てて車を避け尻餅を着く。
   運転手、窓から顔を出して怒鳴る。
運転手「バカヤロー、気を付けろ!」
   信司、ロウソクが消えていないのを確認してホッとする。
   辛そうに立ち上がると、また歩き出す信司。

○相模川・橋のたもと(明け方)
   信司、足を引き摺りながら河原に降りて橋の下に入り込む。
   信司、ロウソクの灯を取り換えようとするが目も霞み、手元が定まらない。
   なんとかロウソクを交換すると、そのまま倒れて眠り込む。
   信司の目の前で静かに揺れるロウソクの灯。
   *   *   *
   信司、倒れたままの姿勢で目を覚ます。
   目の前にロウソクの灯がぼんやり見える。
信司「樹里……」

○回想・信司の下宿(夜)
   薄暗い部屋、こたつの上にロウソクが灯る。
   窓に叩きつける雨。
   スマホから天気のニュースが流れる。
ニュース(声)「日本上空に流れ込んだ寒気の影響で関東周辺はみぞれ交じりの雨となってお  り、一部の地域で停電などの被害が出ています」
   こたつに入っている信司と樹里。
   樹里、窓の外を眺め、
樹里「明日の朝には止むと良いわね」
信司「ああ」
   信司、こたつの上の蜜柑を取ると皮を剥き、そのまま口に放り込む。
   樹里も蜜柑の皮を剥き、丁寧に白いスジを取る。
   その樹里の所作をじっと見ている信司。
信司「樹里は偉いな」
   樹里、笑いながら、
樹里「どうしたの、急に?」
信司「俺、樹里のそういうマメな性格あこがれちゃうよ」
樹里「これ、ただの趣味だから」
信司「俺は絶対そんな趣味持てないよ」
樹里「昔ね、お母さんとどっちが綺麗に剥けるか良く競争してたの。ある時なんか二人で一箱全部剥いちゃってさ、さすがに蜜柑食べ過ぎて気持ち悪くなったわ」
   樹里、スジの無い綺麗な蜜柑を信司に渡す。
樹里「はい」
信司「ありがとう」
樹里「昔はお母さんが何でこんな面倒くさい事好きなのか全然分からなかった。でも今なら良く 分かるよ」
   一房食べる信司。
信司「美味い。さっき俺が食べたのと同じ蜜柑とは思えないよ」
樹里「余計なスジが付いてるとどんな美味しい蜜柑も味が落ちちゃうのよ」
信司「俺、樹里と一緒になれて本当に良かった」
樹里「蜜柑が美味しく剥けるから?」
信司「ち、違うよ」
   樹里、悪戯っぽく笑いながら、
樹里「冗談よ。じゃあお返しに美味しいチューして」
   信司、樹里にキスをする。
樹里「もう一つ剥いてあげるね」
   樹里、蜜柑を取って皮を剥こうとすると手が震え落とす。
樹里「えっ?」
   そのまま意識を失いその場に倒れる樹里。
信司、樹里を揺り起こす。
信司「どうした、樹里!樹里!」
   動かない樹里。

○元の橋のたもと(朝)
   信司、再び目を覚ますと目の前のロウソクが無い。
   信司、慌てて飛び起き、辺りを見回す。橋のたもとに一軒の小屋。
   信司、痛そうに足を引き摺りながら小屋に向かう。

○橋のたもとの小屋(朝)
   粗末な作りの小屋と、その横にはスクラップが山と積んである。
峰岸健司(35)ともう一人のホームレス仲間、小屋の前でタバコを吸い、将棋を指している。
   その横に信司のロウソクの灯。
信司「(ホッとして)あった」
峰岸「お兄さん。起きたか?悪いけどタバコの火借りたよ」
   信司、二人を怒鳴りつける。
信司「何やってんだ、あんたら。その灯が消えたらどうすんだよ!」
   信司の剣幕を峰岸が制する。
峰岸「兄さん、まあ少し落ち着きなよ」
   信司、峰岸の凄みのある返事にたじろぐ。
   峰岸、信司をしげしげと見つめ、
峰岸「兄さん、このロウソクの灯がそんなに大事なのか?」
信司「この灯を消さずに高野山まで運ばないといけないんです」
峰岸「(呆れた感じで)高野山。歩いてか?」
   峰岸、信司の足を見る。
峰岸「兄さん、その足ちょっと見せてみな」
信司「えっ?」
峰岸「痛てえんだろ」
信司「そんなのあなたには関係ないでしょ」
峰岸「その足じゃとても高野山までは行かれねえぜ、良いから見せてみなって」
   *    *    *
   椅子に座った信司の足を見ている峰岸。
   信司の足、マメが全部破れて血が滲んでいる。
   峰岸、信司の足にちょっと触る。
信司、激痛に顔を歪める。
信司「いっ!」
峰岸「こりゃひでえ、よくこれで歩けもんだ。二、三日休んだ方が良いな」
信司「そんな時間無いです。一日でも早く着かないとダメなんです」
峰岸「兄さん、焦る気持ちは分かるが、まだ先は長いんだ。頑張るのと無茶は違うぜ」
信司「でもどうしても行かなきゃダメなんです」
   信司をじっと見る峰岸。
   峰岸、仲間のホームレスに、
峰岸「おい、悪いが小屋の中に包帯が有るから持ってきてくれ。あとそこらに生えてるドクダミの葉っぱも」
仲間「面倒くせいな」
   しぶしぶ小屋に向かう仲間。
信司「一人で何とかするから構わないで下さい」
峰岸「兄さんも頑固だね。人の行為は素直に受けるもんだぜ」
   黙り込む信司。
   峰岸に包帯とドクダミの葉を渡すホームレス仲間。
   峰岸、ドクダミの葉っぱをそっと信司の足に貼る。
ホームレス仲間「(信司に)峰さんは元陸上の名トレーナーだったんだ。安心して任せな」
   峰岸、顔が一瞬曇る。
峰岸「昔の話はよしてくれ。今じゃそんなの何の役にも立たねえよ」
   *   *   *
   信司の足に綺麗に包帯が巻かれている。
峰岸「どうだ?これで少しは楽に歩けるはずだぜ」
   信司、足を試しながら、
信司「ありがとうございます。嘘みたいに楽になりました」
峰岸「なあに、たばこの火の礼だ」
峰岸、スクラップの山に近づくと、中から松葉杖を見つけて信司に渡す。
峰岸「これも持ってきな。良いか、これからは一日に歩く時間を決めて、ちゃんと足を休めるん だ。分かったな」
信司「(笑顔で)はい」
   信司、松葉杖を手に歩き始める。
   見送る峰岸とホームレス仲間。
   橋の上から大きく手を振る信司。

○証券会社・オフィス
   数馬、課長の机に退職願いを置く。
   驚いて数馬を見る課長。
課長「佐々木、これはいったい」
数馬「ちょっとやりたい事があるんです」
課長「でも君、この忙しい時に……」
数馬「色々考えた上での結論です。では、失礼します」
   数馬、自分の席のリュックを手に取ると、そのままオフィスを後にする。
   呆気に取られて見送る課長と同僚達。

○国道沿いの歩道
   信司、松葉杖を突き、ロウソクの灯を手に歩いている。
   その姿を車の中から撮影する黒岩。
   投稿されたインスタグラムの写真。

○箱根・山道
   旧箱根街道の案内板
   松葉杖を突き、ロウソクを手に山道を歩く信司。
   道沿いからちょっと入った所に古い祠がある。
   信司、祠と松葉杖を交互に見る。
   *    *   *
   祠に杖を立て掛け、杖に手を合わせる信司。
信司「ありがとうございました」
   と、杖を置いたまま歩き出す。  

○清水市・清水公園(夜)
   簡易テントの前でインスタントラーメンを啜る信司。
   その横で力強く灯るロウソク。
   信司、伸びた顎ひげを擦る。
   (シャッター音)
   インスタグラムに投稿された信司の写真。

○同・テントの中(夜)
   すやすやと寝ている信司。
   その横でロウソクの灯が小さくなり今にも消えそう。
   スマホのアラームが鳴る。
   信司、さっと起きて、慣れた手つきで新しいロウソクに灯を移す。
   信司、また直ぐに眠りにつく。

○同・テント前(早朝)
   出発の準備をしている信司。
   信司の足元の視界に入る男の足。
   信司、ゆっくり顔を上げると、そこに数馬が立ってる。
数馬「あの、もしかしてロウソクを運んでいる人ですか?」
   怪訝そうに数馬を眺める信司。
数馬「僕、佐々木数馬と言います。貴方の事をインスタグラムで観て会いに来ました」
   信司、意外そうに、
信司「インスタグラム?」
数馬「こ、これです」
   数馬、ポケットからスマホを出して見せる。
   信司がロウソクを持って歩く姿や、ロウソクと共にキャンプしている姿に沢山の「いい    ね」が付いている。
   インスタグラムの写真を驚きながら見る信司。
信司「いつの間に……」
   不安そうに辺りを見回す信司。
数馬「あの、大丈夫ですか?」
信司「ああ」
数馬「昨夜、ここの公園でキャンプする貴方がアップされていたんで、位置情報を頼りにやって来たんです」
   リュックを背負い、ろうそくを持って歩き始める信司。
   信司の後に付いていく数馬。
数馬「あのー、貴方のお名前を教えていただけますか?」
信司「(ぶっきら棒に)澤田信司」
数馬「では、信司さんってお呼びすれば良いですね」
信司「……」
   決まり悪そうに話題を変える数馬。
数馬「僕、営業なんで歩くのには自信があるんです。どうかご一緒させて下さい」
信司「付いてきたいなら勝手にすれば良い」
数馬「(嬉しそうに)ありがとうございます」
数馬「一体、どこまで行くんですか?」
信司「高野山」
数馬「(大声で)こ、高野山‼」
数馬、唖然として一瞬立ち止まる。
数馬「和歌山県まで歩いて行くんですか?」
   信司、無視して歩き続ける。

○国道沿いの歩道
   信司に付いて歩く数馬。
   通行人、二人を怪訝そうに見て何かひそひそ話している。
   恥ずかしさに体を縮める数馬。
   気にせずに歩き続ける信司。

○バス停・ベンチ(夕方)
   数馬、疲れた顔でハンカチで汗を拭いている。
   その横でテキパキとロウソクを交換する信司。
   興味深そうにその様子を見る数馬。
   (シャッター音)
   インスタグラムに投稿された信司と数馬の写真。

○国道 (夜)
   疲れ切った顔で、足を引き摺り、遅れ気味の数馬。
数馬「すみません。もう少しゆっくり歩いてもらえませんか」
   信司、数馬の方を振り返り、
信司「ついて来られないなら帰って良いよ」
   かえってペースを上げる信司。
数馬「そんな……」
   必死に後を追う数馬。

○国道(夜)
   何とか信司に付いて歩いていたが、ついに力尽きその場に座り込む数馬。
数馬「もう僕一歩も歩けません。今日はもう終わりにしましょうよ」
信司「俺には時間が無いんだ。今日はあと十キロ歩く」
数馬「あと十キロ!」
   その場でぐったりする数馬。
信司「歩くのは自信があるとか言ってたくせに、根性無いな」
   数馬、不貞腐れて、
数馬「まさか一日でこんなに歩くなんて思ってなかったんです」
   数馬、辛そうに足を擦る。
   
○(フラッシュ)相模川の橋のたもとの小屋
   峰岸が数馬に言った台詞が蘇る。
峰岸「兄さん、頑張るのと無茶は違うぜ」

○元の国道(夜)
   信司、座り込んだ数馬をじっと見る。
信司「分かったよ。今日はここで終わりにしよう」
   数馬、ホッとして、
数馬「本当ですか?助かったー」

○公園(夜)
   月明かりに浮かび上がる簡易テント。

○同・テントの中(夜)
   ロウソクの灯を前に座って話す二人。
数馬「すみません。僕のせいで結局足引っ張っちゃって」
   痛そうに足を擦る数馬。
信司「大丈夫か?」
数馬「大丈夫です。一晩寝れば治りますから」
信司「数馬だったっけ」
   数馬、嬉しそうに、
数馬「初めて名前呼んでくれましたね」
信司「無理させて悪かったな。良く考えると俺も最初はこんなだったよ」
   ロウソクの灯が頷くように揺らめく。
信司「ところで数馬は何でわざわざ俺に会いに来たんだ?」
数馬「僕、大学入って、会社に就職して、これまでただ人に言われるまま生きてきました。でも最近、自分のやりたい事って本当にこんな事なんだろうかって思い始めて」
   数馬の話を真剣に聞く信司。
数馬「そんな時、貴方の事をインスタグラムで見たんです。こんな人に縛られない人生もあるの かと思ったら何故か貴方と一緒に歩きたくなって」
信司「会社の方は大丈夫なのか?」
数馬「ご安心下さい。辞めてきましたから」
信司「辞めた!俺の為にか?」
数馬「(明るく)はい」
信司「お前アホか?俺はただ嫁さんの病気を治す金が要るからやってるだけだよ」
   数馬、意外そうに、
数馬「こんな事して金になるんですか?」
信司「ああ、成功したら一千万円貰える。それがあれば彼女の手術が出来るんだ」
数馬「い、一千万円!それ騙されてるんじゃないですか?」
信司「そうかもな。でも出来るだけ早く手術が必要なんだ」
数馬「それで先を急いでるんですね」
信司「ああ」
   数馬、また痛そうに足を擦る。
信司「ちょっと、その足見せてごらん」
数馬「良いんです。自分の事は自分で何とかします」
信司「人の行為は素直に受けるもんだ」
   数馬、すまなさそうに足を信司に見せる。
   信司、数馬の足を取って、足の裏を見ると豆が出来て潰れかかってる。
信司「けっこう酷いな」
   すると信司の手と数馬の足が一瞬強く光る。
   数馬、足を動かしながら、
数馬「あれ⁉足が急に楽になりました。今何したんですか?」
信司「いや、俺は特に何も」
   数馬、自分の足を見て驚く
数馬「豆が治ってます!」
   不思議そうに見詰め合う二人。
   *    *    *
並んで寝ころび揺らめくロウソクの灯を見る二人。
数馬「こうやって見るとロウソクの灯って、なかなか綺麗なもんですね」
信司「ああ」 
数馬「ご迷惑掛けるかもしれませんけど明日も宜しくお願いします」
信司「こちらこそ宜しく」
   信司、にっこり微笑み、数馬に手を差し出す。
   その手を力強く握り返す数馬。

○静岡市・茶畑
   麗らかな日差しに輝く茶畑の上を微風が渡る。
   女達が歌いながら茶を摘んでいる。
   ロウソクを持つ信司の後に付いて歩く数馬。

○バス停の待合小屋
   外は激しい雨。
   信司と数馬、並んでただ空から落ちて来る雨を見ている。
   二人の間で暫し休息するように静かに揺らめくロウソクの灯
   (シャッター音)
   投稿されたインスタグラムの画面。
   
○インスタを見ている人々
   電車でタブレットを見る会社員。
   教室でスマホを覗き込む女子高生達。
   公園でスマホを見せてながら井戸端会議する主婦たち。
  
○神社の軒下(夕方)
   数馬、リュックからロウソクを出してぎこちなく交換する。   
   その様子を見守る信司。

○掛川市・国道
   掛川市の交通標識。
   信司と数馬、美しい山並みを背景に黙々と歩いている。

○海岸・砂浜(夕方)
   大きな松の木の下でテントの用意をする信司と数馬。
   信司、伸びたひげを擦る。
   数馬、同じく伸びたひげを擦る。
   お互い同じ仕草に気付き笑う。
     
○同・砂浜(夜)
   数馬、すっかり慣れた手付きで手際良くロウソクの灯を交換する。
   その顔はすっかり穏やか。
   数馬、リュックを覗くと中のロウソクが半分になっている。
   その時、数馬の後ろから女性の声。
女性(声)「あのー、すみません。キャンプファイー用のマッチ忘れちゃって。その灯、ちょっ と分けてもらえませんか?」
   信司と数馬、振り返ると若い女性がロウソクを持って立っている。
   女性、信司達のホームレス風の姿に気付き、一瞬恐れの表情を見せる。
   信司、数馬に黙って頷く。
   数馬、自分達のロウソクから女性のロウソクに灯を移す。
女性「あ、ありがとうございました」
   女性、足早にその場を立ち去る。
   *    *   *
   砂浜に座り、ロウソクの灯をうっとりと見詰めながら話をする二人。
数馬「僕、信司さんと出会えて本当に良かったです。これまでは自分が世界で一番ちっぽけな人 間じゃないかって思えて、自信持てなくて、だから人にずっと合わせて生きてたんです。でも 今はそんなのどうでも良くなりました」
信司「俺だって同じだよ。彼女に相応しい男に成りたいと思いながら、実際は何も出来ず生きて ただけさ」
信司、蜜柑を抜いて白いスジを丁寧に取る。
信司「俺達、実は似たもの同士なのかもな」
数馬「信司さんの奥さんってどんな人なんでですか?」
信司「樹里はどこにでも居る女だよ。でも俺には彼女が必要なんだ」
数馬「僕、一度会ってみたいです」
信司「ああ。だから何としてもこの旅を成功させて彼女を救わないといけないんだ。そしたら今 度こそ彼女に相応しい男になれる気がする」
数馬「大丈夫、信司さんなら出来ますよ」
   ロウソクを見詰める二人。
   その時、轟音とともに突風が吹く。
   松の梢とテントが大きく揺れて、ロウソクの灯が一瞬のうちに吹き消される。
   煙だけが立ち上るロウソクをただ茫然と見詰める二人。
数馬「……し、信司さん……」
   信司、立ち上がって天に向かって叫ぶ。
信司「あーー」
   数馬、その横にうずくまり、砂を何度も何度も拳で叩く。
数馬「嘘だ!嘘だ!そんな……」
   頭を抱え狼狽える信司。
   数馬、急に体を起こし立ち上がる。
数馬「信司さん!さっきの女の人のロウソク」
信司、ハッとして、すぐに消えたロウソクを手に海岸の方に走り出す。
   辺りを見回しながら必死に砂浜を走る二人。
   遠くにキャンプファイヤの火が見える。
   信司と数馬、そちらに向かって全速力で走る。

○国道沿い(朝)
   信司と数馬、黙々と歩いている。
   その信司の手にはロウソクの灯がしっかりと輝いている。

○街外れ・お稲荷さん
   信司、手を合わせお祈りをした後、お供えのロウソクに自分達のロウソクの灯を移す。
信司「もうあんな事思いは二度とごめんだからな。これからはこうやって色々な所に灯を分けな がら歩こう」
数馬「はい。こうすればもう安心ですね」
   また歩き始める二人。
   (カメラのシャッター音)
   二人がお稲荷さんにロウソクの灯を供えるインスタグラムの写真。

○街の教会
   信司と数馬、ロウソクを持って教会の中に入っていく。

○ゲームセンター
   小倉彩(20)、一人でファイチングゲームをしている。
   その隣では女子高生数人が楽しそうに盛り上がりながらゲームをしている。
   彩、ちらっとそちらに気を取られた隙に敵に倒される。
   画面にゲームオーバーの文字。
   彩、悔しそうに画面を見る。

○彩の家(夕方)
   彩、帰って来る。
彩「ただいま、お母さん」
   小倉冴子(42)、嬉しそうに化粧をして出かける支度をしている。
冴子「お帰り、彩。今夜も仕事で遅くなるから宜しくね」
彩「分かった。何か作っとこうか?」
冴子「食べて帰るから良いわ。彩の分はそこに用意してあるから」
   食卓の上にコンビニ弁当。
彩「……」
冴子「じゃあ、留守番宜しくね」
   バタバタと出て行く冴子。
   彩、食卓の上の弁当を手に取ると思いっきりごみ箱に捨てる。
   リュックに身の回りの物を詰め込む。
   化粧台に口紅で大きく「嘘つき」と書いてそのまま家を出て行く。

○浜松駅・バス停(朝)
   浜松―東京行きの表示。
   彩、ベンチに座ってゲームに熱中している。
   冴子からの電話着信でゲームが中断される。
   彩、すかさず着信拒否する。
   そこに信司と数馬がやってきて来て彩の横に座り一休みする。
   彩、二人とロウソクの灯を交互に見る。
彩「ねえ、そのロウソク何にするの?」
信司「この灯を高野山まで運ぶんだ」
彩「へー、何かつまんなそう」
数馬「信司さんは奥さんのためにそのロウソクを運んでるんだ。偉いだろ」
彩「そういうのって、何かうざい」
   そこに東京行きのバスが来る。
彩「来た来た。じゃあ、二人とも頑張ってね!」
彩、さっとバスに乗り込み、二人に明るく手を振る。
   つられて手を振る二人。
   バスのドアが閉まりゆっくり発車する。
信司「じゃあ俺達も行くか」
数馬「はい」
   信司と数馬、また歩き出す。
   すると後方でバスが止まり、彩が降りて走ってくる。
彩「待ってー、やっぱあたしも一緒に行く!」
   信司と数馬、顔を見合わせるが、黙って歩き続ける。
   彩、二人に追い付き、
彩「あたし彩、宜しくね」
   何も答えずにただ歩く二人。
彩「二人とも、臭うよ。お風呂入った方が良いんじゃない」
   焦って自分の臭いを嗅ぐ二人。

○公園(夕方)
   テントを張り、泊り支度をする三人。
   信司と数馬、髭が無くなり久しぶりにさっぱりした顔。
数馬「信司さん、何か食べるもの買ってきます」
信司「ああ宜しく」
彩「あたしも行く!」
   追いかけて、さりげなく数馬に腕を絡める彩。
彩「うーん、石鹸の良い匂い」
数馬「こら、止めろって」 
   迷惑そうにその手を振り払う数馬。
   その後ろ姿を微笑んで見る信司。

○コンビニ前(夜)
   数馬と彩、買い物袋を下げて出てくる。
   そこに今西正(40)が近付き、二人に声を掛ける。
今西「すみません。私、東阪テレビの今西と申します。最近SNSであなた達の事が話題になっ ていまして、ちょっとお話を伺えないでしょうか?」
   戸惑いながら顔を見合わせる二人。

○近くのファミレス(夜)
   ボックス席に座る数馬と彩。
   向かいに今西とビデオを持ったカメラマンが座ってインタビューしている。
今西「それでは、信司さんは奥さんの病気を直すためロウソクの灯を高野山まで運んでるんです ね?」
数馬「ええ、信司さんって本当に偉いんです」
   彩、ゲームをしながら二人の話を聞いている。
今西「でも何でロウソクの灯を運ぶと奥さんを救えるんですか?」
数馬「驚かないで下さいよ。ロウソクを運べば一千万円貰えるんです。それで彼女の手術が出来 るって訳です」
   今西、意地悪な笑みを浮かべながら、
今西「しかし、そんな楽な仕事より、もっとちゃんと働いて稼いだ金の方がその奥さんも喜ぶん じゃないですか?」
   数馬、机をバンッと叩いて立ち上がる。
数馬「(大声で)楽ってどういう事ですか!あなたはロウソクの灯を消さずに運ぶのがどれだけ 大変か知らないでしょ!それに彼女にはもう時間が無いんだ。すぐにでも金が要るんです」
   数馬の大きな声に驚く彩と周りの客。
今西「(周りを気にしながら)まあまあ、私はただ一般論を申しただけでして……」
数馬「あなたと話してても時間の無駄です。これで失礼します。彩、行くぞ」
   彩の手を引き、席を立つ数馬。
彩「えー、もう少しでラスボス倒せるとこだったのに」
   そのまま出て行く信司と彩。
   不敵な笑いで二人を見送る今西。

○公園(夜)
   信司と数馬、ベンチに寝袋を敷いて寝る支度。
   テントから楽しそうに顔を出す彩。
彩「ねえ、こっちで一緒に寝ようよ。彩、キャンプなんて久しぶり」
信司「俺達は外で寝るから。彩はそこで寝な」
彩「えー、なんでー。つまんないの」
   浮かない顔で支度をする数馬。
信司「どうした数馬?なんか元気ないな」
数馬「信司さん、僕達のやってる事って変じゃないですよね?」
信司「何だよ急に?」
数馬「いえ、別に……」
信司「俺達は別にみんなの為にやってる訳じゃない。自分が納得出来ればそれで良いんじゃない のか?」
   数馬、少し元気になり、
数馬「そうですよね!ちょっと気が楽になりました」
   その時、急に大粒の雨が降ってくる。
   彩、テントから手招きする。
彩「二人とも、こっちこっち!」
   慌ててテントに逃げ込む信司と数馬。
   
○同・テントの中(夜)
   テントを叩く雨の音。
   窮屈な空間で、三人が川の字に寝てロウソクの灯を見ている。
   彩、信司と数馬の間に挟まれて嬉しそう。
彩「彩、急にお兄ちゃんが二人出来たみたい」
   彩、眼の前のロウソクの灯を見る。
彩「ロウソクもあるし、今日は私達兄妹の誕生日ね」
   彩、思い切り息を吸い込んで、ほっぺたを膨らましロウソクの灯を吹き消そうとする。
信司「(慌てて)おい、こら!」
   二人同時に手で彩の口を塞ぐ。
   ゲラゲラ笑う彩。
数馬「お前なー、人をからかうのもいい加減にしろよ」
   彩をくすぐる二人。
   ますます笑い転げる彩。
   三人の前で心なしか楽しそうに揺らめくロウソク。
   *    *    *
   雨も止んで静かなテントの中ですやすや寝ている三人。
   その薄闇の中ではっきりと光る信司の体。

○浜名湖
   美しく輝く湖を背景に歩く信司、数馬、彩。
   (カメラのシャッター音)
   3人が歩くインスタグラムの写真。

○スーパー・駐車場
   信司、数馬、彩、ベンチで休憩していている。
   彩、スマホのゲームを始めようととするが、止めてそのままアプリを削除する。
   信司、ラインを打つ。
   「浜名なう」
   樹里の返信
「浜名湖いいな」
   信司の送信。
「今度一緒に行こう」

○病院・病棟の廊下
   樹里、窓際で信司のラインを見て返事を打つ。
   「絶対だからね」
   信司の返信。
「そっちの調子はどう?」
   樹里、返事を打つ、
「こっちは元気だか」
   樹里、急に手が震えて字が打てなくなる。
   怯える表情の樹里。
   スマホを落とし、その場に倒れる樹里。
   近くの看護婦が駆け寄る。
看護婦「大丈夫、澤田さん?」
   青白い顔で意識の無い樹里。
   大声で叫ぶ看護婦。
看護婦「誰か、すぐ東郷先生を呼んで!」

○元のスーパー・駐車場
   ラインの返事を待つ信司。
   するとロウソクの灯が急に小さくなり消えそうになる。
   それに気付いて叫ぶ彩。
彩「信司、ロウソクが!」
信司、慌ててロウソクに手をかざし意識を集中する。
   するとロウソクの灯がまた元に戻る。
彩「今の何?」
数馬「……」
信司「みんな、時間が無い、急ごう」
   信司、ロウソクを持って歩き始める。
数馬「信司さん!」
彩「信司!」
   数馬と彩、慌てて後を追う。

○豊橋・街中
   豊橋駅行きの市電が通り過ぎる。
   人通りの多い通りを足早に歩く三人。

○国道
   雨の中、傘でロウソクの灯を庇いながら歩く三人。
   (カメラのシャッター音)
   投稿されたインスタグラムの写真。
   
○病院・病室
   樹里、青白い顔でベッドに横になりテレビを見ている。  
   (テレビ画面)
   国道を歩く信司、数馬、彩の映像。
司会「最近SNSでロウソクを持って歩く三人組が話題となっています。彼らは神社や教会にロ ウソクの灯を分け与えながら高野山に向かっているようです」
   教会の祭壇のロウソクに灯を移す信司の映像。
   その同じ画面に次々と現れるSNSの「感動しました」「偉すぎ!」など賛辞のコメン    ト。
司会「いかがですか?コメンテーターの大場さん」
コメンテーター「いやー、今の若い人は信仰心などすっかり無くしてしまったと思っていました が、これは実に素晴らしい。まるで現代に蘇った聖者ですな」
   清々しい表情の信司。
(テレビ画面終わり)
樹里「(画面に向かって)ガンバ!信司」

○国道
   沿道に大勢の見物人やマスコミが集まって、信司達に声援を送る。
通行人1「しっかり!」
通行人2「応援してます!」
   信司、歩きながら数馬に話し掛ける。
信司「不思議なもんだな。ただロウソクの灯を運んでるだけなのに、こんなにも大勢の人が応援 してくれるなんて」
   彩、嬉しそうに応援する人々に手を振る。
彩「私、人に注目されるのがこんなに嬉しいなんて知らなかった」
数馬「(不安げに)このまま無事ゴール出来ると良いけど」
彩「大丈夫だって。ねえ信司」
信司「(浮かない声で)そうだな」
彩「もう、二人とも心配し過ぎ」

○相模川の橋のたもとの小屋
   峰岸、ホームレスの仲間たちと河原で焚火をしている。
   ホームレスの一人が焚火に新聞紙をくべるとそこに信司達の写真が小さく載っている。
峰岸「そ、それ!」
   峰岸、慌てて火の中なら燃えた新聞を引っ張り出すと、手で叩いて灯を消す。
   仲間がその滑稽な動きを笑う。
峰岸「こ、これ、この前の若い兄ちゃんだ」
仲間「そう言えばそうだ」
峰岸「こいつの足、俺が治してやったんだ」
   ホームレス仲間、峰岸を囲んんで写真を見る。
   記事を読んだ峰岸、目を潤ませながら、
峰岸「こいつがこんな有名になるなんてよ。俺もまだ少しは人様の役に立つって事か」
仲間「良かったな、峯さん」
   焦げた新聞記事の皴を丁寧に伸ばし胸に抱き抱える。

○豊橋・ショッピングモール・フードコート
   信司と彩、テーブルでお昼を食べている。
   二人の横のテーブルでは小さな女の子と母親が楽しそうに食事している。
   彩、その様子を寂しそうに見る。
   彩の様子に気付く信司。
信司「どうした彩?」
彩「何でもない」
信司「心配事が有るなら何でも相談しろよ」
   彩、急に真剣な顔になる。
彩「あのさ、私、本当は家出してきたんだ」
信司「何となく分かってたよ」
彩「じゃあ、なんで!」
信司「帰れって言ったら帰ったか?」
彩「それは……」
信司「誰でも自分の事は自分で決めるしかないのさ」
彩「お母さん心配してるだろうし、これが終わったら私、家に帰る」
信司「ああ、それが良い」
彩「私、自分が誰にも相手にされない気がして、ずっとゲームに逃げてた」
数馬「みんな同じだよ」
彩「でも誰かに認めてもらうにはまず自分が変わらなけきゃって分かったの」
数馬「彩はもう変わったよ。これからはどこに行っても大丈夫さ」
彩「信司、ありがと」
   その時、壁の大型テレビに信司達のニュースが流れる。
(テレビ画面)
T「聖者か偽善者か?」
司会「例のロウソク集団ですが、リーダーの澤田信司は金儲けでこのような事をしていると分か りました。その額なんと一千万円です!」
   ファミレスでの今西から数馬へのインタビュー映像の一部が流れる。
数馬「(自慢げに)ロウソクを運べば一千万円貰えるんです」
   別の映像が編集されて流れる。
数馬「すぐに金が要るんです」
同じ画面内にSNSの「売名行為だ」
「金儲け主義を宗教と結びつけるな」など非難のコメント。
(テレビ画面終わり)
   泣きそうな顔で信司に説明する彩。
彩「これぜんぜん違うよ!数馬は信司の事を褒めてただけなのに」
   信司、恐い顔で彩を見詰める。
信司「彩、数馬はどこだ?」
彩「分かんない。さっきトイレに行くって言ったまま戻ってこないの」
信司「もしあいつがこれを観たら……彩、直ぐに数馬を探すんだ」

〇大通り
   一人で幽霊のように歩いている数馬。

〇街中
   信司と彩、数馬を探してモールや街の色々な所を見て回る。
   
〇豊橋駅・待合室
   数馬、無言で俯いて、ベンチに座っている。
   その足元の視界に入る信司と彩の靴。
信司(声)「数馬」
彩(声)「数馬」
  数馬、泣きそうな顔を上げる。
数馬「信司さん、すみません。でも、僕あんなつもりなかったんです」
信司「分かってるよ」
数馬「僕の事、信じてくれるんですか?」
信司「当り前だろ。お前の事は俺が一番良く分かってるって。それより数馬、こんな所に居てど うするつもりだったんだ」
数馬「僕、取り返しのつかない事しちゃって。だから……だから」
信司「これで諦めて帰るのか?そしてまたみんなの顔色見ながら生きるのか?それじゃ今までと 何も変わらないじゃないか」
数馬「でも、でも、俺が居ると迷惑が……」
信司「お前は悪くない。俺達はただ今まで通りロウソクの灯を運ぶだけだ」
数馬、信司の足にすがり付いて泣く。
数馬「信司さん……ありがとう。ありがとう」
   そっと数馬の肩に手を置く信司。
信司「さあ、行こう」
   数馬、泣き晴らした顔で信司を見る。
数馬「(力強く)はい」
   数馬、二人がロウソクを持っていないのに気付く。
数馬「信司さん、ロウソクはどうしたんすか?」
信司「ロウソクか?」
   信司と彩、笑いながら顔を見合せる。

〇コインロッカー
   信司、扉を開ける。
   中で嬉しそうにロウソクが灯っている。
   信司、大事そうにそれを取り出す。

〇国道
   信司、数馬、彩、黙々と歩いている。
   沿道に更に集まる野次馬。
   ある野次馬、信司達の写真を撮り、批判のコメントと共にツイッターに投稿する。
   「金の亡者!」
   他の野次馬、ポスターを貼った板を扇いで風を起こしロウソクの灯を消そうとする。
   必至に手で灯を守りながら歩く信司。

○病院・病室
   樹里、ベッドに青白い顔でぐったり横になりながらテレビを観る。
(テレビ画面)
   野次馬の前を黙々と歩く信司達。
司会「ロウソク集団に対しては非難の声が上がる一方、賛辞の声も依然多く、日本中を巻き込ん だ一大論争に発展しています」
   画面のSNS投稿に「早くやめろ」「負けないで頑張って」などの惨事と非難が交互に出   る。
コメンテーター「ようは新興宗教のエセ教祖様って事ですか?残念ですね。今の若い人にも信仰 の力が復活したと信じてたのですが残念です」
(テレビ画面終わり)
   樹里、ベッドで意識を失くしてぐったりしている。

○教会・聖堂
   薄暗い空間の正面奥に祭壇と十字架に磔になったキリストの像。
   数名の信者が長席に座り、静かに祈っている。
   祭壇に向かって静かに進む信司、数馬、彩。
   席で祈っていた女性信者が隣の席の斉藤和江(42)にひそひそ声で話す。
   和江の脇には杖が立て掛けてある。
   女性信者「あれ、ニュースに出てた人達よ」
和江「私もユーチューブで観たわ」
   祭壇には点灯していないロウソクが沢山並ぶ。
   信司達、祭壇の消えたロウソクに灯を移そうとすると自分のロウソクの灯が急に小さくな   る。
   信司、精神を集中して灯に手をかざし祈る。
   すると信司の体が光り、祭壇に並ぶ消えたロウソクがいっせいに灯る。
女性信者「今の何?」
男性信者「俺も見たぞ!」
   和江、驚いて立ち上がり、杖を突きながら、三名に近づく。
和江「あなた達一体何をしたの?」
和江、勢い余って転んでしまう。
   信司、倒れた和江に寄り添い、助け起こそうとする。
信司「大丈夫ですか?」
和江「私達を騙そうとしたってそうはいかないわよ」
信司「俺はただロウソクの灯が消えないように祈っただけです」
   和江、自力で立ち上がろうとするが杖が滑って上手くいかない。
   信司、和江に手を貸そうとする。
和江「構わないで。自分の事は自分でするわ」
   和江、杖を掴んで何とか立とうと必死になる。 
   その時信司の手が微かに光って見える。
信司「(和江に)ちょっと失礼します」
信司、和江の脚に軽く触れ、強く祈ると、和江の脚が一瞬大きく光る。
   驚く和江。
信司「ちょっと立ってみて下さい」
和江「でも、私……」
信司「良いから、自分を信じて」
和江、足に力を入れると杖無しで自分で立ち上がる。
和江「なんで⁉」
男性信者「奇跡だ!」
   信司、和江に頭を下げると黙って教会を出て行く。
   和江、直った足でそのまま三人の後に従う。

○四日市市(夜)
   夜間照明に照らし出された美しいコンビナートの装置群。
   ロウソクを持つ信司を先頭に、数馬、彩、和江、そしてさらに多くの人々が列になって歩   いている。

○街の電気店・テレビ売り場
   たくさんの人が信司達のニュースを観ている。
(テレビ画面)  
信司、数馬、彩と多くの人達が列になって歩いているシーンが映る。
司会「ロウソク集団は、行く先々で病気を治しながら進んでおり、癒された人々が次々と後に  従っています。この奇跡の数々に批判の声は消え今では感謝と肯定的な意見がほとんどです」
   信司が手を患部に当てると元気になる人々。
   頭を下げ信司達に感謝する家族の映像。

○研究室
   色々な実験装置と、ラットの入ったケースが並んでいる。
   あるケースには灯るロウソクと元気なラットが一匹入っている。
   もう一つのケースには病気でぐったりしたラットが一匹入っている。
   研究員、ろうそくのケースのラットを取り出し、ぐったりしたラットのケースに入れる。
   元気なラットが弱ったラットを舐める。
   すると弱ったラットが一瞬光り、急に元気に動き出す。
黒岩「どうやら新薬の効果が出て来た様だな」
研究員「はい、ラット実験の結果通りです。ロウソクに含まれる新薬の成分を吸う事で隠れた治 癒能力が覚醒したのです」
黒岩「昔から手当という言葉があるように人間は元々触るだけで相手を癒す力を持っている。  我々はそれを科学的に増強したんだ」

○病院・集中治療室(夜)
   樹里、沢山の計器を取り付けられ、昏睡状態でベットに寝ている。
  
○奈良・田舎道
   遠くに五重の塔が見える。
   ロウソクを持った信司を先頭に列になって歩く集団。
ニュースの声「ロウソク集団はついに奈良に到達し、高野山まであと一日という所までやって来 ました」
   
○高野山麓・森の中
   巨大な古木の元で休憩している信司達。
   強風に森の木々が大きく揺れる。
   誰かのスマホから天気予報が流れる。
天気予報士(声)「大型で強い台風8号は時速50キロの早いスピードで北東に進んでおり、今 夜にも近畿半島に上陸する予定です。近隣の住民は土砂崩れなどに十分警戒して下さい」
数馬「何もこんな時に……」
彩「何とか間に合うと良いけど」
   数馬、ロウソクを交換する。
   リュックを覗くとロウソクはあと一つしかない。
   信司、大汗を掻いてグッタリしているが、何とか体を起こす。
   その様子を心配そうに見る彩。
彩「信司、大丈夫?」
信司「ああ、ちょっと疲れただけだ」
数馬「信司さん、ちょっとだけ休んでから行きましょう。この風じゃあ灯が消えちまうかもしれ ないし」
   彩、心配そうに信司の額に手を当てる。
   すると彩の手と信司の額が鮮やかに光る。
   信司、大きく息を吐き元気を取り戻す。
信司「彩、ありがとう。もう大丈夫だ」
   自分の手を見て驚く彩。
信司「ここでじっとしててもロウソクが無くなるだけだ、すぐ行こう」
数馬「分かりました。最後までご一緒します」
信司「数馬、ありがとな。お前が居なければここまで来られなかったと思う」
数馬「お役に立てて嬉しいです」
   ふて腐れる彩。
彩「どうせ私なんか、何の訳にも立たないし」
   信司、彩の頭を撫ぜる。
信司「お前もな、彩」
   ちょっと嬉しそうにはにかむ彩。
   三人、ロウソクの灯をじっと見る。
信司「俺達みんな蜜柑のスジが取れたのかもな」
数馬「何ですかそれ?」
信司「(恥ずかしそうに)いや、何でもない」
   彩、信司と数馬を交互に見詰め、
彩「ねえ、この旅が終わっても、二人ともずっと私のお兄ちゃんで居てくれる」
数馬「何言ってんだ、彩。俺達もうとっくに家族だろ」
   泣きそうな顔で数馬に抱き付く彩。
   数馬、しっかりと彩を受け止める。
  
○高野山・金剛峯寺(夜)
   風雨の中、境内に大勢の人々が集まっている。
   マスコミ陣が雨に打たれながら寺の前で中継を始める。
司会「えー、高野山からの中継です。今夜いよいよあのロウソク集団が到着します。しかし台風 8号の影響で風雨が一段と強くなって来ました。果たして彼等はロウソクの灯を消さずに無事 辿り着く事が出来るのでしょうか?」
   マスコミや見物人が信司達の到着を今か今かと待つ。
   ついに山門をくぐり抜けて信司達が姿を現わす。
   一行、雨風を防ぐ為に、信司を中心に周りを取り囲み、傘で上からの雨を防ぎながらゆっ   くり進んでくる。
マスコミ「今見えました!みな輪になってロウソクの灯を守りながらゆっくりとこちらに向かっ て来ます」
   信司の手の中のロウソクの灯、大きく揺れて今にも消えそう。

○中継を見ている人々(夜)
   家でテレビを食い入るように見る家族一同。
   自室で手に汗握りパソコンを見ている学生。
   屋外でスマホをじっと見ている夜勤の道路工事の労働者。

○車の中(夜)
   黒岩、車のテレビ画面に映る信司達の中継を身を乗り出して観ている。
   手に持つ缶コーヒーに思わず力が入り小刻みに震える。

○高野山・金剛峯寺(夜)
   信司達、何とか前に進もうとするが強い風雨にすぐ押し戻され、なかなか前へ進めない。
   その時突然、雨風がピタリと止む。
   信司達、何が起きたか一瞬分からず辺りを見回す。
   上を見上げる信司達。
   上空に丸い雲の切れ目があり、星空が見える。
アナウンサー「(上を見上げながら)皆さん。ご覧下さい。台風の目です!まさに奇跡としか言 いようがありません!」
   風雨の止んだ境内を進み、ついに伽藍の前に到着する信司達。
   見物客から大きな拍手が起こる。
   信司、数馬、彩、感慨深げにお寺を見上げると、一緒に歩いてきた仲間達や集まった人々   を無言で見渡す。
   その時、彩が誰かに気付く。
彩「!」
信司「どうした、彩?」
彩「何でもない……」
   信司、辺りを見回すと一人の女性と目が合う。
   冴子である。
   信司、微笑んで冴子に近付き手を伸ばす。
彩「!」
   冴子、戸惑っている。
信司「彩の……お母さんですね」
冴子、だまって頷く。
   信司、彩と冴子の手と手を握らせる。
彩「お母さん…」
冴子「彩……」
   彩、思わず涙がこぼれる。
   彩を抱きしめる冴子。
冴子「ごめんよ、彩。お母さんを許して」
彩「こっちこそごめん、勝手に家飛び出して」
   信司と数馬、その様子を愛おしく見る。
彩「お母さん、私行って来る」
   大きく頷く冴子。
   信司、数馬、彩、お堂に続く階段を登り始める。
   マスコミがカメラを持って後に付いていこうとするのを他の仲間達が体を張って止める。

○同・堂内(夜)
   薄暗いお堂の中央に立派な仏像。
   その両脇に身分の高そうな僧侶達が並んで座り、厳かにお経を唱えている。
   信司達、その間をゆっくり進む。
   ついに仏壇に達してロウソクを捧げる信司。
信司「(感慨深げに)やったぞ」
   数馬と彩、顔を見合わせ嬉しそう。
   しかしその瞬間、ロウソクの灯が小さくなりついに消えてしまう。
   消えたロウソクをただ見詰める三人。
彩「し、信司!」
数馬「樹里さんに何かあったんじゃ」
信司「ああ」
   信司と数馬、慌ててお堂を出て大声で叫ぶ。
信司「誰か!俺を東京まで連れてって下さい」
   そこに一台の車が滑り込み信司の目の前で止まる。
   窓が開くと、中から黒岩が顔を出す。
黒岩「(信司に)早く、乗って!」
信司「黒岩さん⁉何で!」
黒岩「事情は後だ!さあ、早く」
信司「はい」
信司、助手席に飛び乗る。
黒岩「飛ばすからしっかり摑まってて下さいよ」
   黒岩の車、もの凄い勢いで走り去る。

○高速道路(夜)
   猛スピードで走る黒岩の車。

○車内
   速度メーターは百八十キロ。
黒岩「ついにやりましたね。おめでとう」
信司「ありがとうございます」
信司「でも一体どうして、あの場に」
黒岩「貴方の事を時々写真に撮ってはインスタグラムに投稿してたんです」   
信司「あれは貴方だったんですか」
黒岩「最初は監視の為でしが、次第に貴方を応援する気持ちに変わりました」
信司「貴方は一体?」
黒岩「本当の私は製薬会社の研究員です。そしてこの仕事はロウソクに練り込んだ新薬の臨床実 験だったんです」
信司「じゃあ、俺の癒しの力って……」
黒岩「はい」
   その時、後ろから警察のバイクがサイレンを鳴らし追いかけて来る。
黒岩「畜生!」
   警察のバイク、黒川の車に止まるよう指示する。
   黒川の車がスピードを落とし停まる。
   警察、バイクから降りて黒岩の車に近付く。
   
○病院・玄関
   警察のバイクに先導されて黒岩の車が到着する。
   警察、軽く手を挙げると走り去る。
   信司、車から飛び降りる。
信司「ありがとうございました」
黒川「良いから、早く行って!」
信司「はい」
   頭を下げ、病院に駆け込む信司。

○病院・樹里の病室
   信司、部屋に飛び込んでくる。
樹里のベッドの周りに東郷や看護婦らが集まっている。
   樹里の顔には白い布。
   東郷、信司に苦しそうに話し掛ける。
東郷「残念ですが、たった今亡くなりました」
信司「そ、そんな」
   呆然と立ち尽くす信司。
   *   *   *
   信司、泣き腫らした目で樹里のベッドの横に一人座っている。
信司「樹里!俺頑張ったのに、何でもう少し待ってくれなかったんだ」
   穏やかに眠るような顔の樹里。
信司「ご免。樹里。君が一番頑張ったんだよな」
   信司、樹里の頬にそっと触る。
信司「俺、君に食べてもらいたくて蜜柑も上手に剥けるようになったんだよ、なのに……」
   信司、最後のロウソクを取り出すと、樹里の枕元に置き灯を点ける。
   その灯に柔らかく照らされる樹里の穏やかな顔。
信司「ゆっくりお休み、樹里」
   信司、樹里にそっとキスをする。
   すると樹里の体全体が明るく輝く。
信司、驚いて樹里を見る。
樹里、静かに目を開く。
樹里「信司……来てくれたのね」
信司「樹里!」
   思わず樹里を抱き締める信司。

○製薬会社・応接室 
   信司と黒岩が話している。
   二人の間のテーブルに分厚い封筒とロウソクの灯。
   信司の横にはすっかり元気になった樹里が居る。
   黒岩、封筒を信司の方に押し出す。
黒岩「約束の一千万円です。受け取って下さい」
信司「ありがとうございます」
黒岩「貴方の事を騙して本当に申し訳ありませんでした」
信司「いえ、結果的に樹里も助かりましたし」
信司、優しく樹里に微笑み手を握る。
黒岩「恥ずかしながら貴方には改めて人を救う事の尊さや信仰心を教えて頂きました」
信司「こちらこそ、人の役に立つ力を与えていただいて感謝しています」
黒岩「それで、これから貴方はどうするんですか?」
信司「はい、この一千万円で今度は全国を巡り、もっと大勢の人を救いたいと思います」
黒岩「そうですか。私達もこの薬を早く世に出して多くの人を救いたいと思います。それまでお 互い頑張りましょう」
   黒岩、しっかりと信司の手を握る。

○知床・海岸線の道路
   何処までも続く海岸線。
   荒々しい波が岩礁を穿つ。
   信司、数馬、彩、元気になった樹里、そして癒された大勢の人々が一列になって歩いてい   る。
   樹里、信司に微笑み掛ける。
   信司、樹里に優しく微笑み返す。
   彩、数馬に腕組みして嬉しそうに歩く。
   真っ直ぐ前を見て歩く信司の手にはロウソクが力強く灯っている。

エンドタイトル  完

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