<登場人物>
和田 公平(17)高校生
赤沢 義経(17)和田の同級生
川端 菜々(17)和田の幼なじみ
相楽 秀生(17)他校の不良
高谷 英二郎(18)相楽達のボス
中浜 恵介(16)相楽の舎弟
柳原 若葉(17)菜々の友人
早坂(19)ヤンキー
子分A 早坂の子分
子分B 同
舎弟A 相楽の舎弟
舎弟B 同
男A
男B
警官
<本編>
○デパート・屋上
ヒーローショーをやっている。
和田N「男の子なら誰しも、一度はヒーローに憧れる」
ショーを見ている子供。
和田N「でも、ヒーローって何だろうか?」
○高校・廊下
男子に手紙を渡す女子高生。
和田N「勇気がある人の事だろうか?」
○繁華街
両手に大量の買い物袋を下げた主婦。
和田N「力が強い人の事だろうか?」
○公園(夕)
ベンチに座る川端菜々(17)。
和田N「僕は思う」
赤髪の男、赤沢義経(17)に肩を借りてやってくる和田公平(17)。
和田N「それはきっと……」
○同(夜)
人通りは少ない。
○同・裏(夜)
早坂(18)、子分A、子分Bにカツアゲされている和田。
和田「あ、いや、だから、その……」
子分A「『だから』じゃねぇんだよ。『さっさと金出せ』って言ってんの」
子分B「早くしねぇと、痛い目に遭うぜ?」
和田「あ、はい。あ、でも……」
子分A「『でも』じゃねぇんだよ」
和田「あ、はい、ですけど……」
早坂「ウザってぇ野郎だな」
早坂に殴られる和田。倒れる。
和田のズボンの後ろのポケットから財布を抜き取る早坂。
和田「あっ」
早坂「手間かけさせんな。(財布の中身を見ながら)ちっ、千円ぽっちかよ」
財布から千円札を抜き取る早坂。
和田「(小声で)返して……ください」
早坂「あぁ!?」
千円札を奪い返そうとする和田。
和田「返して下さい!」
早坂「ウザってぇな」
早坂に突き飛ばされる和田。
和田「痛っ」
千円札をポケットにしまう早坂。
早坂「お前さ、俺と喧嘩してぇの?」
和田「あ、いえ、そういう訳じゃ……」
子分A「止めとけって。お前が早坂さんに勝とうなんて百年早ぇよ」
子分B「そうそう。早坂さん、マジで強ぇんだって。この辺じゃ最強なんだぜ?」
早坂「まぁ、そういう事だ。どうすんの? やんの? やんねぇの?」
赤沢の声「誰が最強なんだっつーの」
早坂「あぁ!?」
振り返る早坂、子分A、子分B。
歩いてくる赤沢。
赤沢「(早坂に向かって)お前か? さっき『最強だ』っつってたのは」
子分A「誰だお前?」
赤沢「俺は玉山高校の赤沢っつーもんだ」
和田「(小声で)ウチの高校……?」
子分A「玉高?」
子分B「赤沢?」
顔を見合わせて笑う早坂たち。
赤沢「何がおかしいんだっつーの」
早坂「いやさ、俺ら、この辺の不良の情報には結構詳しいんだけどよ、玉高の赤沢なんて聞いた事ねぇな」
赤沢「あっそ。じゃあ教えてやるからかかってこいっつーの」
早坂「ウザってぇ野郎だな。てめぇなんて瞬殺してやるぜ」
赤沢に殴り掛かる早坂。早坂の拳より先に決まる赤沢の拳。KOする早坂。
早坂に駆け寄る子分A、子分B。
子分A「早坂さん、大丈夫っスか!?」
子分B「マジかよ……一撃だぜ?」
子分A「こいつ、ハンパなく強ぇ……。荒高の高谷並みじゃねぇかよ」
赤沢「つーか、手応えなさすぎだっつーの」
子分B「とりあえず、逃げようぜ」
子分A「だな。……覚えてろよ!」
早坂を抱えて逃げる子分A、子分B。立ち去ろうとする赤沢。
和田「あ、あの、ありがとうございました」
赤沢「別に。つーか、お前を助けた訳じゃねぇっつーの」
その場を立ち去る赤沢。
その後ろ姿を見る和田。笑顔。
和田N「僕はその日、ヒーローに出会った」
思い出したように立ち尽くす和田。
和田「あ……お金……」
○玉山高校・校門
「玉山高等学校」と書かれた看板。
○同・廊下
「まもなく県大会 頑張れ玉山高校女子テニス部!」と書かれた紙が貼ってある掲示板。
菜々に小さい紙袋を渡す和田。和田の口元には絆創膏。
和田「菜々ちゃん、誕生日おめでとう」
菜々「ありがとう、こうちゃん。開けてもいい?」
和田「あぁ……うん……」
紙袋の中の箱を開ける菜々。テニスラケットのケータイストラップが一つだけ入っている。
菜々「ストラップ?」
和田「ごめんね。色々あって、こんなのしか買えなくって……」
菜々「そんな事ないって。もうすぐ県大会だし、おまもり代わりに付けとくね。それより『色々あった』って言ってたけど……ひょっとしてカツアゲとかされた?」
和田「あ、うん……え、何でわかったの?」
菜々「だって、(和田の口元に貼られた絆創膏を指さして)それ」
和田「あ」
菜々「まったく、世の中どうなってるんだろうね? こうちゃん、気をつけないと」
和田「あ、うん、そうだね。でも昨日は、助けてくれたヒーローがいたんだ」
菜々「ヒーロー?」
和田「あ、うん。この高校の人で、名前は……あれ、何て名前だったっけ……?」
菜々「もう、しっかりしてよ~」
若葉の声「菜々~」
後ろからやってきて菜々に抱きつく柳原若葉(17)。
若葉「お誕生日おめでとう!」
菜々「(驚いて)わわっ。もう、若葉~」
若葉「十七か~、いいねぇ、若いって」
菜々「え? 赤い?」
若葉「若いって言ったの。赤いって、赤沢の髪じゃないんだから」
和田「そうそう、赤沢君!」
菜々「どうしたの、こうちゃん?」
和田「だから、赤沢君だよ。昨日、僕の事助けてくれたヒーロー。(若葉に)その赤沢君って、今教室にいるんですか?」
若葉「え? いや、今は屋上に居るっぽいって誰かが言ってたけど……」
和田「ありがとうございます。(菜々に)じゃあ、また後で」
走って行く和田。
若葉「どうかしたの? 和田の奴」
菜々「わかんない」
○同・屋上
扉を開けてやってくる和田。
和田「居た……」
寝転がっている赤沢。
赤沢の元に来る和田。
和田「(小声で)あ、あの……」
無反応の赤沢。
和田「あ、あの!」
赤沢「……は?」
和田「昨日は、ありがとうございました」
赤沢「……は? ……つーか、お前誰だよ」
和田「あ、はい。二年B組の和田公平って言います」
赤沢「ふ~ん。で、用件は何つったっけ?」
和田「あ、はい。昨日のお礼を……」
赤沢「昨日……? あぁ、あの公園でボコられてた奴か」
和田「あ、はい。そうです」
赤沢「昨日も言ったけどよ、別にお前助けた訳じゃねぇから、お礼言われても困るんだっつーの」
和田「あ、はい。すみません」
しばしの沈黙。立ったまましどろもどろしている和田。
赤沢「……つーか、まだ何か用かよ」
和田「あ、はい。……あの、隣に座ってもいいですか?」
赤沢「好きにしろよ」
和田「あ、はい。ありがとうございます」
赤沢の隣に座る和田。
赤沢「で? 何の用だよ」
和田「あ、はい。質問してもいいですか?」
赤沢「質問? 何だよ」
和田「あ、はい。あの、何で赤く染めているんですか?」
赤沢「は? 別に、何か良いかな、って思っただけだっつーの。文句あんのかよ」
和田「あ、いえ。カッコイイと思います」
赤沢「……ならいいっつーの」
和田「あ、はい。じゃあ、何でそんなに喧嘩強いんですか?」
赤沢「知らねぇよ。つーか、相手が弱すぎんだっつーの」
和田「あ、はい。あ、ちなみに、好きな食べ物って何ですか?」
赤沢「ハンバーグ……つーか、さっきから何なんだよお前。質問ばっかしてきてよ」
和田「あ、はい、すみません。赤沢君の事をもっと知りたいと思いまして……」
赤沢「知ってどうすんだっつーの」
和田「あ、はい。できたら、お友達になって欲しいな、って思いまして……」
赤沢「……は?」
○同・廊下
並んで歩く和田と菜々。驚く菜々。
菜々「何で友達に?」
和田「何でって言われても……。だって、赤沢君は僕にとってヒーローだし……」
菜々「どこがヒーローな訳? ただのヤンキーでしょ。……まぁ、いいけど。どうせ相手にされなかったんだろうし……」
和田「ううん、OKしてくれたよ」
菜々「……嘘でしょ!?」
後ろからやってくる赤沢。カバンを持っている。
赤沢「おう、和田。行くぞ」
和田「あ、はい。あ、でも授業は……?」
赤沢「そんなもん、サボるに決まってるっつーの。何、来ねぇの?」
和田「あ、いえ、行きます。……あ、カバン取ってきますね」
教室に戻って行く和田。
菜々「ちょっと、こうちゃん……。(赤沢をにらんで)赤沢、どういうつもりな訳?」
赤沢「どういうつもりも何も、俺はただ友達と遊びに行くだけだっつーの」
カバンを持ってやってくる和田。
和田「すみません、お待たせしました」
赤沢「よし、行くぞ」
和田「あ、はい。(菜々を見て)じゃあ菜々ちゃん、また明日ね」
歩いて行く和田と赤沢。
菜々「……嘘でしょ?」
○繁華街
歩いている赤沢。赤沢の後ろを歩く和田。立ち止まる赤沢。
赤沢「(振り返って)つーか、お前よ」
和田「(立ち止まって)あ、はい」
赤沢「黙ってねぇで何かしゃべれっつーの」
和田「あ、はい。すみません。……あ、でも何を話せばいいんですか?」
赤沢「何でもいいっつーの。趣味とかよ」
和田「あ、はい。趣味は……特にないです」
赤沢「ねぇのかよ。じゃあ、特技」
和田「あ、はい。……特技もないです」
赤沢「マジかよ……。つーかお前、それで人生楽しいのかよ」
和田「あ、いえ、あんまり……」
赤沢「だろうな。仕方ねぇ、俺が今から楽しい所に連れてってやるよ」
和田「あ、はい。ありがとうございます!」
○ゲームセンター・外観
○同・中
リズム系のゲームをする和田と赤沢。
シューティングゲームをする和田と赤沢。
格闘ゲームをする和田と赤沢。和田の画面に「You Win」の文字。
和田「やった!」
赤沢の画面に「You Lose」の文字。
赤沢「(肩を落として)マジかよ……」
○ハンバーガーショップ・外観
○同・中
席に座って談笑する男Aと男B。
男A「なぁ、大宮駅って何線と何線があったっけ?」
男B「京浜東北線とか、あと埼京線とか」
赤沢の声「誰が最強なんだっつーの」
振り返る男Aと男B。トレイを持って二人の脇に立つ赤沢。二人を睨む。
男A&男B「(驚いて)ひっ」
逃げ出す男Aと男B。トレイを持ってやってくる和田。
和田「あ、そこの席空いてますね」
赤沢「は? ……あぁ、そうだな」
男Aと男Bが座っていた席に座る和田と赤沢。
○繁華街
並んで歩く和田と赤沢。
和田「美味しかったですね」
赤沢「そうか? つーか、普通のハンバーガーだったっつーの」
和田「あ、はい。でも、友達と一緒に食べるっていうのが初めてだったんで……」
赤沢「……ふ~ん」
警官の声「ちょっと、そこの二人」
振り返る和田と赤沢。警官が来る。
警官「君たち、高校生だよね? 何やってるの、こんな時間に。学校は?」
和田「あ、はい。あの、その……(言いながら、赤沢を見る)」
赤沢「ちっ……。あ、(警官の後方を指差しながら)あんな所に指名手配犯が!」
警官「(後方を振り返って)何!?」
和田「え、どこですか?」
赤沢「つーか、お前まで引っかかってどうすんだっつーの」
和田の手を引いて走り出す赤沢。
警官「あ、こら!」
○公園
ベンチと、その脇にある自動販売機。
息を切らしてやってくる和田と赤沢。
赤沢「ここまで来れば大丈夫だろ」
和田「よかった……です……」
倒れ込む和田。
赤沢「お前、大げさだっつーの」
意識の無い和田。
赤沢「おい、和田? お~い」
○同(夕)
ベンチで寝ている和田。目を覚ます。
和田「あれ……ここは……」
缶ジュースを飲んでいる赤沢。右手に未開封の缶ジュースを持っている。
赤沢「やっと起きたか。つーかお前、体力なさすぎだっつーの。(缶ジュースを和田に差し出して)はいよ」
和田「あ、はい、すみません。……あ、おいくらですか?」
赤沢「別に、これくらい奢るっつーの」
和田「あ、はい。ありがとうございます」
体を起こし、ベンチに腰掛ける和田。
和田の隣に座る赤沢。
和田「何かすみません、ご迷惑をおかけしたみたいで……」
赤沢「別にいいっつーの。さてと……」
缶ジュースを飲み干して立ち上がる赤沢。空き缶をゴミ箱に投げ捨てる。
赤沢「俺はそろそろ帰るわ」
和田「あ、はい。じゃあ僕も……(と言って立ち上がろうとする)」
赤沢「お前はもう少し休んどけっつーの。またぶっ倒れられたらかなわねぇし」
和田「あ、はい、すみません……」
赤沢「……じゃあ、また明日な」
和田「(笑顔で)あ、はい!」
○玉山高校・外観
○同・廊下
カバンとラケットバッグを背負って歩いている菜々。後ろからやってきて菜々に抱きつく若葉。
若葉「菜々~」
菜々「もう、何だよ若葉~。これから部活なんだけど~」
若葉「ねぇ、知ってる? 昨日、あのウルトラマジメな和田とあのヤンキーの赤沢が、学校サボってデートしてたんだって~」
菜々「知ってるよ。っていうか、『デート』って言い方はどうかと思うけど……」
若葉「いいじゃん。ねぇねぇ、あの二人っていつの間に仲良くなったの?」
菜々「知らないよ、そんなの。っていうか、こっちが知りたいくらい」
若葉「何だ、幼なじみに聞けばわかると思ったのに~」
菜々「幼なじみだからって、何でも知ってるって訳じゃないって」
若葉「まぁ、そうだけど。で、その和田は今日はどこ行っちゃったの?」
菜々「屋上。……多分、赤沢と一緒」
若葉「なるほど、今日は屋上でデートか~」
菜々「だから~」
○同・屋上
並んで寝転がる和田と赤沢。
和田「あの、一つ聞いてもいいですか?」
赤沢「何だよ」
和田「どうして、僕とお友達になってくれたんですか?」
赤沢「は? つーか、お前から『友達になってくれ』つってきたんじゃねぇかよ」
和田「あ、はい。それはそうなんですけど……。何でOKしてくれたのかな、って」
赤沢「……別に。大した理由なんて無ぇっつーの」
和田「あ、そうですか……。あ、すみませんでした、変な事聞いちゃって」
赤沢「別にいいっつーの」
和田「あ、それから……」
赤沢「まだ何かあんのかよ」
和田「あ、はい。ありがとうございました。僕とお友達になってくれて」
赤沢「……別にいいつーの」
空を見上げる二人。青空が広がる。
○どこかの部屋
壁に貼られた十月のカレンダー。めくられて十一月になる。
○玉山高校・外観
「祝 関東大会出場 女子硬式テニス部」と書かれた横断幕がある。
○同・廊下
カバンを背負って立つ菜々。教室から続々と出てくる生徒達。教室から出てくる若葉。
若葉「菜々、じゃあね~」
菜々「また明日ね~」
その場から去る若葉。
足音に気付き、振り返る菜々。
菜々「こうちゃん」
やってくる和田。
和田「あ、菜々ちゃん。あ、そういえば、関東大会決まったんだよね。おめでとう」
菜々「ありがとう。こうちゃんのくれたおまもりが効いたのかな」
和田「菜々ちゃんの実力だよ。練習、凄く頑張ってたもん。あれ? 今日部活は?」
菜々「昨日の疲れをとるために、今日は休みなんだ」
和田「そっか~、良かったね」
菜々「うん。だからさ……」
隣の教室から出てくる赤沢。カバンを背負っている。
赤沢「おい、和田。何してんだ? つーか、帰る準備できてねぇじゃん。置いてかれてぇのかよ」
和田「あ、すみません。すぐに準備します。(菜々に)あ、話の途中でごめんね」
菜々「え、ちょっと……」
教室に入って行く和田。
赤沢を睨む菜々。
赤沢「……何だよ」
菜々「あんた、ここん所ずっとこうちゃんと一緒だけどさ、何でこうちゃんな訳?」
赤沢「は?」
菜々「授業サボったり、遊び歩きたいんだったらさ、他の人誘えばいいじゃん。なのに何でよりによってこうちゃんな訳? あんた、他に友達居ないの?」
赤沢「うるせぇな。つーか、お前には関係ねぇっつーの」
菜々「……へぇ、居ないんだ」
赤沢「ちっ」
教室から出てくる和田。
和田「あ、すみません、お待たせしました」
赤沢「あ~……和田さ」
和田「あ、はい。何ですか?」
赤沢「悪ぃんだけど、俺、用事思い出した」
和田「あ、用事ですか?」
赤沢「そうそう。だから、先帰ってるわ。また明日な」
和田「あ、はい。さようなら」
赤沢「おう。(菜々に)つーか、これで一個貸しだからな」
菜々「え? あぁ……」
その場を去る赤沢。
和田「何か借りたんですか?」
菜々「え? ううん、何でも無いよ? あ、こうちゃんさ、今日一緒に帰らない?」
和田「え? あ、うん。いいよ」
○道路
並んで歩く和田と菜々。
菜々「久しぶりだね、一緒に帰るの」
和田「あ、うん、そうだね」
菜々「こうちゃんって最近、ずっと赤沢と一緒にいるんだもん」
和田「そりゃ、友達だもん」
菜々「あんなヤンキーのどこがいい訳?」
和田「赤沢君って、見た目はあんな感じだけど、いい所もたくさんあるんだよ」
菜々「例えば?」
和田「あ、うん。そうだな~……」
× × ×
遠くから和田と菜々の様子を見ている相楽秀生(17)。相楽の周囲にいる中浜恵介(16)と数名の不良達。全員、制服姿。
相楽「おい、あの女いいんじゃねぇ? あの制服、どこの高校だ?」
中浜「玉高じゃないっスかね?」
相楽「よし、決めた。今日はあの玉高の女にするから。行くぞ」
中浜「うっス」
歩き出す相楽達。
○公園
ベンチ近くにやってくる和田と菜々。
和田「そうそう、前にここで僕が倒れちゃった時も、赤沢君が面倒みてくれて……」
菜々「へぇ、赤沢がねぇ……」
和田「ね? 赤沢君っていい人でしょ?」
菜々「まぁ、少しは見直したけど……」
相楽の声「そこの彼女~」
後ろからやってきて菜々の肩に手を回す相楽。
相楽「今から俺と一緒に遊ばねぇ?」
菜々「(手を振り払って)ちょっと、何するんですか!?」
周囲を見回す菜々。和田と菜々を囲むように立つ中浜達数名の不良。
菜々「……大きい声出しますよ?」
相楽「別に襲おうってつもりはねぇって。彼女と遊びたいだけだから。あ、そうそう、俺は荒高の相楽ってんだ、よろしく」
菜々「荒高……あのヤンキー高校の……」
相楽「できれば、彼女も名前を教えてくれると助かるんだけどな~」
菜々「興味ないですから。(和田の手を取って)行こう」
歩き出そうとする菜々と和田。その行く手を遮る中浜。
菜々「どいて下さい」
中浜「そういう訳にはいかないっス」
相楽「素直に言う事聞いといた方がいいから。なぁ、中浜。教えてやれよ」
中浜「うっス。(和田と菜々に向かって)自分たち、高谷さんの下なんスよ。聞いた事ないっスか? 荒高の高谷さん」
和田「荒高の高谷……」
○(回想)繁華街・裏(夜)
KOした早坂の脇にいる子分A。
子分A「こいつ、ハンパなく強ぇ……。荒高の高谷並みじゃねぇかよ」
○公園
相楽達に囲まれている和田と菜々。
菜々「こうちゃん、何か知ってるの?」
和田「あ、うん。名前だけは聞いた事ある」
相楽「つまり、俺を敵に回すって事は、高谷さんを敵に回すって事だから。で、高谷さんを敵に回すって事は……言わなくてもわかるっしょ?」
菜々「だから付き合え、って言いたい訳?」
相楽「そういう事」
菜々「お断りします」
相楽「そう言うなって(と言いながら菜々の腕を掴む)悪いようにはしねぇから」
菜々「離して下さい(と言いながら相楽の腕を振り払う)」
相楽と菜々の間に入る和田。
菜々「こうちゃん……」
相楽「どけよ。少年に用はねぇから」
和田「そ、そういう訳にはいきません」
相楽「あっそ」
和田を殴る相楽。倒れる和田。
和田「痛っ」
菜々「こうちゃん!」
相楽「(中浜に向かって)やれ」
中浜「うっス」
倒れている和田を囲む中浜と不良達。
和田を蹴る中浜。
和田「うっ……」
菜々「ちょっと、警察呼ぶわよ」
携帯電話を取り出す菜々。
菜々の携帯電話を取り上げる相楽。
菜々「何すんのよ」
相楽「警察に電話なんてさせねぇから」
菜々の携帯電話に付いているテニスラケットのストラップ。
相楽「何、このストラップ。彼女~、これダサくねぇ?」
菜々「うるさい、返せ!」
カバンで相楽を何度も叩く菜々。菜々を突き飛ばす相楽。倒れる菜々(この時に足をひねる)。
菜々「痛っ」
和田「菜々ちゃん」
相楽「(菜々を見下ろしながら)ごめんね、彼女。でも俺、力づくってのも嫌いじゃねぇから、気をつけな」
相楽を睨む菜々。
警官の声「そこの君たち、何してる?」
やってくる警官。
相楽「ちっ。おい、行くぞ」
中浜「うっス」
逃げる相楽達。
警官「待てっ」
和田と菜々には目もくれずに、相楽達を追いかける警官。
菜々「こうちゃん、大丈夫?」
和田「あ、うん。何とか。菜々ちゃんは?」
菜々「私は大丈……(立ち上がろうとして右足を抑えて)痛っ」
和田「大丈夫?」
菜々「大丈夫、ちょっとひねっただけだと思うから……痛っ」
和田「あ、びょ、病院。病院行かなきゃ」
○玉山高校・外観
○同・廊下
歩いている和田。申し訳なさそうな表情。口元には絆創膏。
若葉の声「ちょっと菜々、どうしたの!?」
かけよってくる若葉。
和田の隣にいる、松葉杖姿の菜々。
菜々「ちょっと、捻挫しちゃって……」
若葉「でも、その格好……」
菜々「大丈夫。大げさに見えるけど、この方が少しでも早く治るから……」
若葉「今度の大会は? 間に合うの?」
菜々「……」
若葉「そんな……菜々、あんなに一生懸命練習してたのに……」
二人の背中を見ている和田。
○同・屋上
寝転がる赤沢と、その隣に座る和田。
和田「一体、どうしたらいいんでしょうか? 僕のせいで菜々ちゃんは……」
赤沢「つーか、考えすぎだろ。どう考えたって、悪ぃのお前じゃねぇし」
和田「あ、はい、そうかもしれません。ですけど、もし僕が……」
赤沢「(起き上がりながら)あ~、もうめんどくせぇな。よし、こんな所でウジウジしてねぇで、憂さ晴らしに行くぞ」
和田「え? あ、はい」
○ゲームセンター
リズムゲームをしている和田。後ろで見ている赤沢。ミスを連発し、強制終了を示す画面。
和田「あ……」
赤沢「お前、リズム感なさすぎだっつーの。代われ」
和田と交代する赤沢。どんどん得点がのびる。
和田「さすがですね」
赤沢「まだまだ、これからだっつーの」
相楽の声「あ~あ、いい女いねぇな~」
振り返る和田。
相楽、中浜、不良数名が歩いている。
和田「あの人達……」
その場を離れる和田。
赤沢「おい、どこ行くんだっつーの」
相楽達の後をつける和田。
× × ×
スロットの影から覗き見る和田。
スロットの席に座る相楽達。
相楽「あ~あ、昨日の娘は良かったのにな」
中浜「あぁ、あの玉高の娘っスよね。逃した魚は大きいって奴っスか」
相楽「よし、決めた。もう一回、菜々ちゃんに会いに行く」
中浜「どうすんスか?」
相楽「じゃ~ん、あの娘の携帯」
菜々の携帯電話を見せる相楽。
中浜「そういえば、返してなかったっスね」
相楽「これ上手く使えば、あの娘キープできんじゃねぇ?」
中浜「そうっスね」
相楽「よし、中浜。何か作戦立てとけ」
中浜「え、自分っスか?」
相楽「当たりめぇだろ。おめぇがこの中で一番頭良いんだから。よし、行くぞ」
歩き出す相楽達。
その場に立ち尽くす和田。
和田「どうしよう……どうすれば……」
後ろからやってくる赤沢。
赤沢「あ、いたいた。(和田の顔を見て)つーか、何があったんだよ」
和田「赤沢君……」
○繁華街
並んで歩く和田と赤沢。
赤沢「なるほどな。つまりお前は、あの女を守りたいっつー訳か」
和田「あ、はい。そうです」
赤沢「で、具体的に何をしてぇんだよ」
和田「あ、はい。僕はどうすればいいんでしょうか?」
赤沢「俺に聞くなっつーの。まぁ、俺だったら、その相楽っつー奴をぶっ飛ばしてでも止めさせるけどな」
和田「やっぱり、そうですよね……。赤沢君お願いします。僕の代わりにその相楽って人をぶっ飛ばして下さい」
赤沢「別に手伝ってやってもいいけどよ、最後に相楽と決着付けんのはお前だからな」
和田「あ、いえ、僕は足手まといになると思うんで……」
赤沢「は? 俺に一人で行けっつーのかよ」
和田「あ、はい。お願いします」
赤沢「何言ってんだよ。つーか、お前がやんねぇと意味がねぇっつーの」
和田「でも、僕にはそんな力はないですし、勇気もありませんから……だから、赤沢君にお願いするしかないんです」
赤沢「断る」
和田「何でですか?」
赤沢「あのな、お前の幼なじみがどうなろうと、俺には関係ねぇんだっつーの」
和田「そんな……お願いします。僕たち、友達じゃないですか」
赤沢「つーか、お前にとって友達って何なんだよ」
和田「え?」
赤沢「友達っつーのは、もっと対等なもんじゃねぇのか? なのに何で俺だけが手ぇ汚して、お前は高みの見物なんだっつーの」
和田「あ、いえ、そんなつもりじゃ……」
赤沢「俺はお前の子分でも舎弟でもねぇんだっつーの。ったく、胸くそ悪ぃ」
和田を置いて歩いて行く赤沢。
○玉山高校・外観
○同・屋上
一人で座っている和田。
○同・廊下
一人で立っている赤沢。
○道路(夕)
歩いている和田。
○繁華街(夕)
歩いている赤沢。看板を蹴り飛ばす。
○ゲームセンター・中
格闘ゲームをする和田。画面に「You Lose」の文字。
○ハンバーガーショップ・中
一人でハンバーガーを食べる赤沢。一口食べて、トレイに置く。
○玉山高校・廊下
歩いている和田。
和田の向かい側から歩いてくる赤沢。
無言ですれ違う和田と赤沢。
○同・校門
松葉杖なしで歩いている菜々。後ろからやってくる和田。
和田「あ、おはよう、菜々ちゃん。松葉杖とれたんだ、良かったね」
菜々「(浮かない表情で)あぁ、こうちゃんか。おはよう……」
和田「どうしたの? 何かあった?」
菜々「うん、実はさ……」
○同・屋上
並んで立つ和田と菜々。
和田「え? あの相楽って人から?」
菜々「うん。家に電話がかかってきて『携帯返したいから、今度会わない?』って」
和田「あ、でも、断ったん……だよね?」
菜々「……日曜日の夕方五時、あの公園で待ち合わせ」
和田「え? 何で?」
菜々「私だって会いたくないし、顔も見たくない。だけどあいつ、私の携帯持ってるんだよ? こうちゃんとか若葉とか、みんなの連絡先が入ってるんだよ? 変な事に使われるかもしれないんだよ? 行かない訳にはいかないじゃん……」
和田「菜々ちゃん……」
拳を握る和田。
和田「どうすれば……」
和田の声「どうすればいいんでしょうか?」
○(回想)繁華街
並んで歩く和田と赤沢。
赤沢「まぁ、俺だったら、その相楽っつー奴を力づくでも止めに行くけどな」
○玉山高校・屋上
決意した表情の和田。
和田「……やめさせなきゃ」
屋上から出て行く和田。
菜々「こうちゃん?」
○玉山高校・校門
走って出て行く和田。
○ゲームセンター
周囲を見回す和田。
和田「どこだろう……?」
○道路
走りながら周囲を見回す和田。
和田「いない……」
○公園(夕)
フラフラの状態でやってくる和田。
和田「ここにもいない、か……」
倒れ込むようにベンチに座る和田。
和田「どこに行けば、あの人達に会えるんだろう? 他に行きそうな場所も知らないし荒高には近づきたくないし……」
高谷の声「……君。ねぇ、そこの君。聞こえてないの?」
顔を上げる和田。
自動販売機の前に立つ高谷英二郎(18)。荒高の学生服姿。不良っぽくない外見。雨でもないのにビニール傘をさしている。
和田「あ、僕ですか?」
高谷「そう、君。僕、ジュース飲みたいんだけどさ、お金足りなくて。五〇円貸してくれないかな?」
和田「あ、カ、カツアゲしようとしてもダメですよ。もう、そんなのには屈しないって決めましたから」
高谷「カツアゲじゃないって。ちょっと借りるだけだよ?」
和田「あ、はぁ。……でも、貸した所で、どうやって返して……」
高谷「頼むよ~。今、君しか頼める人いないんだから。僕を見捨てるつもり?」
和田「あ、いえ、ですけど……」
× × ×
自動販売機の取り出し口に落ちる缶ジュース。それを手に取る高谷。
高谷「ありがとね。本当に、心の底から思ってるんだからね?」
高谷の脇に、財布を持って立つ和田。
和田「はぁ……(高谷の制服を見て)あっ」
○(回想)同
荒高の制服姿の相楽達。
○同(夕)
自動販売機の前に立つ和田と高谷。
高谷「お金返すのは、今度会った時って事でいいよね? それじゃ」
和田「あ、あの!」
高谷「ん? どうかした?」
和田「あ、あの、その制服って事は、もしかして、荒高の方ですか?」
高谷「うん、そうだけど?」
和田「あ、あの、荒高の相楽っていう人、知りませんか?」
高谷「……相楽?」
○玉山高校・外観
○同・廊下
誰もいない。
○道路
歩いている赤沢。私服姿。
赤沢「暇っつーか、何つーか……」
菜々「赤沢!」
振り返る赤沢。走ってきて赤沢の隣で立ち止まる菜々。右足を気にする。
赤沢「つーか、ケガ治ったばっかで走んなっつーの」
菜々「うるさい。そんな事より、あんた、こうちゃんに何吹き込んだ訳?」
赤沢「は? 何の話だよ」
菜々「しらばっくれる訳? あんた以外に、こうちゃんに変な事吹き込む奴なんている訳ないんだから」
赤沢「ほんとに何も知らねぇっつーの。つーか、最近あいつと口聞いてねぇし」
菜々「じゃあ、一体誰? 誰がこうちゃんに……」
赤沢「つーか、何があったんだよ」
菜々「こうちゃんからメールが来たの」
赤沢に携帯電話(前と違う機種)の画面を見せる。
菜々「さっき家に行ったらもう居ないし、まさか本当に行っちゃった訳じゃ……」
赤沢「これは……」
和田の声「菜々ちゃん」
○倉庫・外観
○同・前
歩いてくる和田。
和田の声「相楽って人のアジトって場所を教えてもらったから、今から行ってくるね」
○道路
並んで立つ赤沢と菜々。菜々の携帯電話を見ている赤沢。
和田の声「この先、菜々ちゃんに近づかないように、もちろん携帯も返してもらえるように頼んでみる」
赤沢「あのバカ」
走り出す赤沢。
菜々「ちょっと、赤沢!」
○倉庫・中
入ってくる和田。
和田の声「それで素直に聞いてもらえるような相手じゃないかもしれないけれど」
談笑している相楽や中浜と、二〇名の不良達。和田に気付く相楽達。
舎弟A「誰だおめぇ?」
和田の方に振り向く不良達。
たじろぐ和田。
○道路
走っている赤沢。
和田の声「ぶっ飛ばしてでも、言う事聞いてもらうから。だから安心して……」
○倉庫・中
相楽に頭を下げている和田。相楽の後ろに立つ中浜ら不良達。
和田の声「待っててね」
相楽「そんな事お願いされてもねぇ」
和田「お願いします」
相楽「なぁ、少年。俺が『嫌だ』って言ったらどうすんの?」
和田「あ、はい。ぶっ飛ばしてでも、言う事を聞いてもらいます」
しばしの沈黙。吹き出す相楽。
相楽「少年、面白すぎだから。よし、決めた。少年の言う通りにしてやるよ」
和田「本当ですか!?」
相楽「あぁ。ただし……」
指を鳴らす相楽。和田を囲む不良達。
相楽「こいつら全員を倒したらな」
和田「えっ……」
○繁華街
走っている赤沢。
赤沢「つーか俺、相楽のアジトなんて知らねぇっつーの」
向かい側から歩いてきた早坂とぶつかる赤沢。
赤沢「悪ぃ」
早坂「痛ぇな、この野郎」
足を止める赤沢。
振り返る早坂と、その後ろ立つ子分Aと子分B。
早坂「この俺にぶつかっといて逃げようなんて、かなりウザってぇ野郎だな」
赤沢「今急いでんだっつーの……(振り返って早坂と目が合い)あれ、お前……?」
子分A「あっ」
子分B「げっ」
早坂「あ、あの時の……」
赤沢「何か文句あんのかよ」
早坂「い、いえ。何でもありません。どうもすみませんでした」
赤沢「わかりゃいいんだっつーの」
振り返り、数歩走ってから立ち止まる赤沢。再度早坂の方に振り返る。
赤沢「おい、ちょっと待て」
立ち止まる早坂、子分A、子分B。恐る恐る振り返る。
早坂「な、何ですか?」
赤沢「(早坂の胸ぐらを掴み)お前、この辺の不良の情報に詳しいっつってたよな?」
早坂「は、はい。その通りです……」
赤沢「荒高の相楽っつー奴の事、教えろ」
○倉庫・中
傷だらけで倒れている和田。それを囲む中浜ら不良達と、その後ろで見ている相楽。
舎弟A「もう終わりか?」
和田「いえ……まだ……お願いを聞いてもらえていませんから……」
舎弟B「おいおい、こいつバカか?」
舎弟A「おめぇ、死にてぇのかよ」
和田を殴ろうとする舎弟A。
相楽「よし、決めた」
手を止める舎弟A。
和田の元にくる相楽。和田の胸ぐらを掴んで無理矢理立たせる。
相楽「菜々ちゃんとの仲を取り持てよ。嚇して付き合うってのは好きじゃねぇから。そしたら、許してやるよ」
和田「『嫌です』って言ったら……?」
相楽「ぶっ飛ばす」
和田を殴る相楽。気を失う和田。
舎弟A「さっすが相楽さん」
相楽「この少年、バカだから。最初から勝てる訳ねぇんだよ。俺らは、高谷さんを支えてる、最強の軍団なんだから」
赤沢の声「誰が最強なんだっつーの」
やってくる赤沢。
舎弟A「(赤沢の前に立ち)誰だおめぇ?」
赤沢「どけ」
舎弟A「あのな、ここは俺らの……」
赤沢「どけっつってんだよ」
舎弟Aを殴る赤沢。KOする舎弟A。
ざわつく不良達。
和田の元にくる赤沢。
赤沢「お~い、大丈夫か~? つーか、生きてんのかよ」
和田「(目を覚まし)……あ、赤沢君。……あれ、どうしてここにいるんですか?」
赤沢「どっかのバカが一人で乗り込むっつーから、わざわざ来てやったんだっつーの」
和田「あ、ありがとうございます。……でも大丈夫ですから」
赤沢「全然、大丈夫には見えねぇっつーの」
和田「でも、僕がやらないと意味が無いんです。赤沢君が言ったんじゃないですか」
赤沢「俺はこうも言ったぜ。『別に手伝ってやってもいいけど、最後に相楽と決着付けんのはお前だからな』ってな」
和田「え?」
赤沢「だから、今はそこで休んどけっつーの。舞台は、俺が整えてやるからよ」
不良達を見回す赤沢。
舎弟B「おいおい、おめぇわかってんのか? 俺らの仲間に手ぇ出したんだ、ただじゃ済まさねぇぞ?」
赤沢「ただじゃ済まさねぇ、か。それはこっちの台詞だっつーの」
舎弟B「何だと? おめぇもぶっ殺す!」
赤沢に殴り掛かる舎弟B。赤沢の拳が先に命中し、KOする舎弟B。
赤沢「俺のダチをこんなにしやがって、お前ら許さねぇっつーの」
次々に赤沢に殴り掛かる不良達。それを次々と返り討ちにする赤沢。
その姿を見ている和田。
和田「す、すごい……」
次々とKOする不良達。相楽と中浜以外、全員倒れている。
相楽「中浜!」
中浜「うっス」
対峙する赤沢と中浜。中浜を殴る赤沢。倒れずに踏みとどまる中浜。
赤沢「ふ~ん」
赤沢に殴り掛かる中浜。その拳を受け止める赤沢。
赤沢「ちょっとはマシな奴も居るんだな」
中浜「どうもっス」
赤沢に殴り掛かる中浜。それをかわして、中浜を殴る赤沢。KOする中浜。
赤沢「ちょっとだけだっつーの」
赤沢の元に歩いてくる相楽。倒れている不良達を見ている。
相楽「あ~あ、情けねぇ。お前ら弱すぎだから。……よし、決めた」
対峙する赤沢と相楽。
相楽「俺が敵を取ってやるから」
赤沢「悪ぃけど、俺の出番はここまで。(振り返って)おい、和田。出番だぞ」
和田「あ、はい」
立ち上がる和田。フラフラと歩きながら、相楽の前に立つ。
相楽「おいおい、赤頭、おめぇ、少年助けにきたんじゃねぇの?」
赤沢「違ぇって。俺はこいつの手伝いに来ただけだっつーの」
相楽「手伝いって、おめぇ……」
赤沢「それに、そもそも俺は、最強じゃねぇ奴には興味がねぇんだっつーの」
相楽「言ってくれるねぇ。よし、決めた。おめぇは俺が……」
和田「相楽さん!」
相楽「……何だよ、少年」
和田「もう一度、お願いします。二度と菜々ちゃんに近づかないで下さい」
頭を下げる和田。
相楽「少年の言う事なんて聞く訳ねぇから」
和田「……では、ぶっ飛ばします」
相楽に殴り掛かる和田。それをかわして、和田を殴る相楽。倒れる和田。
赤沢の方に振り返る相楽。
相楽「おい、赤頭。次はおめぇの番だから」
赤沢「まだ終わってねぇっつーの」
相楽「は?」
振り返る相楽。立ち上がっている和田。相楽に殴り掛かる。
和田「……約束、して下さい」
相楽「こりねぇ奴だな」
和田を殴る相楽。倒れる和田、立ち上がる。
和田「……約束、して下さい」
相楽「しつけぇから」
相楽に殴り掛かる和田。和田に殴り掛かる相楽。よろける和田。その結果、偶然にも相楽の拳をかわす。
相楽「なっ!?」
バランスを崩す相楽。その隙に相楽を殴る和田。ついに命中する。
その様子を後ろで見ている赤沢。
赤沢「運がいいっつーか、何つーか」
殴られたまま動かない相楽。殴ったまま動かない和田。
和田「……約束、してくれますか?」
相楽「……あ~あ、痛くも痒くもねぇ。けどおめぇ、絶対許さねえから」
和田「ひっ……」
和田を殴る相楽。倒れる和田。
相楽「まだ終わってねぇから。……立てよ」
和田の胸ぐらを掴んで無理矢理立たせ殴る相楽。倒れる和田。再び和田の胸ぐらを掴んで無理矢理立たせる。
舌打ちして歩き出す赤沢。
赤沢「おい、お前その辺で……」
高谷の声「ちょっと待ってくれるかな?」
やってくる高谷。室内にも関わらずビニール傘をさしている。
驚き、手を離す相楽。その場に座り込む和田。振り返る。
和田「あ、貴方は、あの時の……」
赤沢「誰だ、お前?」
相楽「た、高谷さん……」
和田「え!? この人が、高谷さん……?」
相楽の前に立つ高谷。動揺する相楽。
相楽「高谷さん、ここに来るなんて珍しいですね。何かあったんですか?」
高谷「いやぁ、相楽君がさ、僕の名前をちらつかせて色々と悪さしてるって噂を聞いたんだよね。それ、本当?」
相楽「そ、それは……」
高谷「勝手な事して、覚悟できてるよね?」
相楽「あ、あ、あ……」
高谷の蹴りが相楽に命中する。KOする相楽。相楽の服のポケットから落ちる菜々の携帯電話。
それを見て驚く和田と赤沢。
赤沢「……ふ~ん」
和田「す、すごい……」
高谷「さてと」
和田の元にやってくる高谷。和田に五〇円玉を差し出す。
高谷「これで、貸し借り無しって事でいいよね?」
和田「え? ……あ、はい」
微笑み、歩き出す高谷。高谷の前に立ちふさがる赤沢。
赤沢「よう、お前が最強っつー奴だな」
高谷「へぇ、僕ってそう呼ばれてるの?」
赤沢「せっかく会ったんだ。ちょっと相手してくれよ」
高谷「う~ん……今日は止めておいた方がいいんじゃないかな?」
赤沢「は? 逃げんのかよ」
高谷「そうじゃなくて、君の今日の仕事は、彼を連れて帰る事じゃないの?」
和田を見る高谷。和田を見る赤沢。
赤沢「それは……何つーか……」
高谷「だからさ、今日は止めておこうよ。手を合わせるのは、今度会った時って事でいいよね? それじゃ」
倉庫から出て行く高谷。
和田の元に来る赤沢。菜々の携帯電話を拾う和田。和田に肩を貸す赤沢。
和田「あ、ありがとう」
赤沢「別にいいっつーの。つーか、お前の事ちょっと見直したぜ」
和田「あ、いや、僕は何も。赤沢君と高谷さんがいなかったらどうなってたか……」
赤沢「いいじゃねぇか。お前があの女の事守ったって事に変わりねぇんだからよ」
和田「それでいいのかな?」
赤沢「いいんだっつーの。……つーか、お前言葉遣い変えたのかよ」
和田「あ、うん。……ダメかな?」
赤沢「別にいいっつーの。行くぞ」
歩き出す和田と赤沢。
和田N「男の子なら誰しも、一度はヒーローに憧れる」
○道路(夕)
赤沢に肩を預けて歩く和田。
和田N「でも、ヒーローって何だろうか?」
○高校・廊下
男子に手紙を渡す女子高生。
和田N「勇気がある人の事だろうか?」
○繁華街
両手に大量の買い物袋を下げた主婦。
和田N「力が強い人の事だろうか?」
○公園(夕)
五時を示す時計。
ベンチに座っている菜々。
和田N「僕は思う」
やってくる和田と赤沢。
和田N「それはきっと……」
二人に気付き、立ち上がる菜々。
和田N「誰かの未来に、希望を与えられる人の事だと思う」
菜々に携帯電話を渡す和田。
和田N「だから、もし僕が」
携帯電話を受け取る菜々。涙目。
和田N「誰かに、ほんの少しでも、希望を与える事が出来たなら」
笑う赤沢。
和田N「僕はその人にとってのヒーローに」
笑う和田。
和田N「なれるのかな?」
(完)
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