こたつウォーズ コメディ

寒い日の必需品、こたつ。 一度入れば、出たくなくなる不思議な代物…。 ある家族も、こたつが原因でちょっとした小競り合いが…? よろしい、ならば戦争だ。
白石 謙悟 58 1 0 06/04
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第一稿

『こたつウォーズ』

登場人物

静河(しずか)…3兄弟の長女。自己中な女王様気質
遼太(りょうた)…3兄弟の次男。比較的普通な人
政弘(まさひろ)…3兄弟 ...続きを読む
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『こたつウォーズ』

登場人物

静河(しずか)…3兄弟の長女。自己中な女王様気質
遼太(りょうた)…3兄弟の次男。比較的普通な人
政弘(まさひろ)…3兄弟の末っ子。姉の圧力に勝てない
父(声のみ)…最後に一言だけ、声のみ出演

暗転。舞台中央にこたつがある。
政弘が登場。とても寒そう

政弘「あ〜寒い寒い…。…あれ?」

こたつをしばらく見た後、周りの様子をうかがう

政「…もしかして、1番乗り?え、マジで?まだ誰も帰ってない?」

再び用心深く周りを見回す

政「きた!俺の時代きたッ!!…まぁ、つかの間の幸せだろうけど、
  堪能させてもらうぜ!」

満足気にこたつに入ろうとする政弘。
直前で静河が登場。政弘を吹っ飛ばす

政「ぐふっ!?」
静河「さーーーーむーーー!!何、今日尋常じゃないくらい寒いんだけど!?」

そそくさとこたつに入る静河

政「姉ちゃん…。ああ、さらば、俺の時代…」
静「ん?ああ、政弘か。おかえりー」
政「いや、俺の方が帰って来たの早かったよ!?さっき思い切りぶつかったじゃん」
静「知らん!あ、ちょっとそこのドア閉めといて」
政「姉ちゃんが開けたんだろ!自分で閉めろよ!」
静「(怖く)早くしろ」
政「はい…」

ドアを閉める政弘

政「ちっくしょー、あの女…調子に乗りやがって…。理不尽だ…!」
静「政弘―」
政「何?」
静「台所からみかん取って来て。もうなくなってるから」
政「あ!?ヤだよ!!寒いもん!!もうこの部屋出たくないし」
静「………(無言の圧力)」
政「大体、姉ちゃんは…」
静「………」
政「………」

政弘、ハケる。
みかんを持って登場

政「(みかんを渡しながら)だ、大体さ、今日1番に帰ったの俺だよ!?」
静「何言ってんのよ。私でしょ」
政「いいや、俺です。我が家条例第13条の3項!『こたつのポジショニング権は
  最も早くこたつに入った者にあり!』」
静「じゃあ、あんたが最も早かったって証明できるの?」
政「しょ、証明…って言われてもあれだけど…」
静「我が家条例第20条!『お姉ちゃんの言うことは絶対』」
政「不公平過ぎるだろ!俺は間違いなく1番乗りなんだ!」
静「異議あり!!」
政「!?」
静「政弘被告、我が家条例第13条その3項をもう一度言ってみてください」
政「な、何だよ、急に…。『こたつのポジショニング権は、最も早くこたつに
  入った者にあり』だろ?」
静「その通り。それを踏まえた上でお聞きしますが…あなた、こたつに入りましたか?」
政「そりゃ、もちろん!1番乗りだからな!……あれ?」
静「そういうことです。あなたはこたつに入っていない!
  入る直前に私と衝突し、コケた。そして私がこたつに入った。
  よって、ポジショニング権は私にあります(どや顔で)」
政「ぐ……ぐおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!(崩れ落ち)」
静「全く、見苦しいわよ、政弘。最初から私の勝利で勝敗は決していたの。
  それなのにグダグダと…愚かな弟ね!」
政「ちっ、ちくしょう…!今日もエデンは姉ちゃんが独占なのか…」

みかんを食べながらテレビを見ている静河。
そこへ遼太が登場

遼太「ただいまー」
政「にいちゃああああああん!!!」

遼太の足にすがりつく政弘

遼「うおお!?何だよ、どうした政弘!?」
政「兄ちゃん!もう俺耐えきれねぇよ!もう我慢の限界だ!」
遼「は?」
政「あいつ!あいつがぁぁ!!(静河を指さし)」
静「あ、遼太お帰りー。今日はいつもより早いのね」
遼「ああ、はいはい…。また姉貴絡みか…。しょうがねぇなー…」
政「兄ちゃん!俺は下剋上するぜ!もうあの女の横暴には辛抱ならん!!」
遼「お、落ち着け!何があったかは知らんが、とりあえず落ち着け!」
静「ちょっと、うるさいわよ政弘!テレビ聞こえないだろうが、コラ!」
政「ええい、いつまでも言いなりになると思うなよ、姉ちゃん!いや、静河!」
静「あん?(睨み)」
政「ひいいぃぃ!!(遼太の影に隠れ)」
遼「喧嘩売っといて逃げんなよ…。ってか、何で名前で言い直したんだ?」
政「兄ちゃん、おかしいと思わないか!?姉ちゃんは好き勝手し過ぎだよ!
  俺だって…俺だって、あの位置に座って、優雅にテレビ見ながらみかん
  食いたいよ!」
遼「まぁまぁ、いいじゃねぇか。おぉ、寒い寒い…(こたつに入り)」
政「兄ちゃーん!!」
遼「お前、寒くないか?」
政「寒い!!」
遼「なら、早く入れよ」

そそくさとこたつに入る政弘
しばらく間。やっぱり納得のいかない表情の政弘

政「あああ、やっぱりおかしい!」
遼「何が?」
政「この状況が!」
遼「別にいつも通りじゃねぇか」
政「これがいつも通りになってるのが納得いかないんだよ、俺は!」
遼「じゃあ、どうしたいんだ?」

政弘、静河の方をちら見。そして無言で指さし

遼「姉貴?」
政「ここに座りたい。姉ちゃんばっかりずるい」
遼「んー…そんなにか?」
政「うん!!」
遼「まぁ、気持ちはわからんでもないが…」

遼太、静河の方をちら見

政「だろ!?つーか、兄ちゃんも本当はここがいいんだろ!?」
遼「確かに…占領し過ぎ、かもな」
政「そうともさ!!」

遼太、静河の方へ向き直す

遼「姉貴」
静「………」
遼「姉貴っ!」
静「………」
遼「寝てやがる」
政「くっそー…のん気なもんだぜ」
遼「おーい、姉貴ってば」
静「………」
遼「…厚化粧」
静「誰がオバサンだ、コラァ!!」
遼「すげぇ反応のよさ…」
静「ああ、もう何よ?せっかくの安眠を邪魔しないでくれる?」
遼「悪い悪い。でもちょっと話があってさ」
静「後にして。今、超眠いの」
遼「…大事な話(真剣な顔で)」
静「…何よ?」
遼「…があるんだって、政弘が」
政「いきなり俺に振るの!?」
静「あら、政弘被告。まだ言い訳があるの?」
政「ち、ちきしょおおぉぉ!!この悪女ぉぉぉ!!」
静「話にならないわね。もう寝るわよ。おやすみー」
遼「ストップ、姉貴」
静「しつこいわね、もう!」
遼「たまにはそこ、政弘に代わってやれよ」
政「…!に、兄ちゃん!」
静「ヤダ!」
遼「即答かよ…」
静「そう簡単に、このベストポジションを渡してなるもんですか」
遼「まぁ確かに、その位置は全てにおいて完璧な場所だもんな。
  寝ながらテレビも見れる、ドアから最も遠いから隙間風も当たらない、
  出ずに本棚から漫画が取れる、おまけにストーブも近い…」
政「まさにエデン!」
静「よくわかってるじゃない」
遼「そんな楽園を、たまには可愛い弟に譲ってやる気はないのか?」
政「そうだそうだ!」
静「甘ったれてんじゃないわよ!私は今、受験シーズン真っただ中。
  毎日毎日勉強で疲れてんのよ!いいじゃん、家に居る時くらい
  姉を労ってよ…(泣き真似)」
政「じゃあ、こんな所で寝てる暇があったら、部屋で勉強しろよな!」
静「後でねー(寝ころぶ)」
政「このダメ女ぁぁぁ!!」
遼「落ち着け、政弘。そう何度も叫んでるとご近所さんに迷惑だ」
政「ハァハァ…」
遼「政弘、お前の気持ちはわかる。実は、兄ちゃんもおかしいと思ってるんだ」
政「え…?」
遼「俺、この数カ月間、エデンに座った記憶がないんだ」
政「に、兄ちゃんも!?」
遼「まさか…お前もか?」
政「うん!」
遼「…となると、独占し続けてるのはやはり…」

政弘、遼太が静河を見る

遼「家族会議…、いや、兄弟会議が必要だな」
政「御意」

2人、仰々しく座り直す。静河は寝ている

遼「姉貴、起きろ。緊急会議だ」
政「兄弟全員、強制参加だぜ!」

一向に起きる気配がない静河

政・遼「…厚化粧」
静「ノーマルじゃ、コラァ!!」
遼「姉貴、もう一度言う。緊急会議だ」
静「会議?何の?」
政「えーと…その、エデンについての会議」
静「はあ?」
遼「とりあえず、席につきたまえ。話はそれからだ」
静「何だってのよ、もう…」

座り直す静河

遼「では、緊急会議を始める。よろしくお願いします」
政「しゃーす!!」
静「面白いのやってないかなぁ」

テレビのチャンネルを変える静河。
遼太がそれを奪う

静「ちょ、ちょっとぉ!」
遼「兄弟全員参加です」
静「はぁ、もうわかったわよ。で、何?」
遼「端的に概要を説明しよう。今、姉貴が座ってる位置…通称エデンだが、
  そのポジショニング権について、忌々しき事態が発生している」
静「だから、その忌々しき事態ってのを教えてくれる?」
遼「副議長、説明を」
政「はっ!」
静「あんた、いつから副議長になったのよ!?」
政「そもそも、このエデンは家族全員に平等に座るという絶対的な権利があります。
  家族内の秩序を守るためです。しかし、近日の調査によると…」
静「…?」
政「俺と兄貴はこの数カ月間、エデンに座ってねぇんですよ!!」
静「異議あり!!」
政「うっ!?」
静「被告人、また同じ過ちを繰り返すつもりですか?」
政「な、何を!?」
静「さっき証明したばかりじゃないですか。我が家条例13条でね!」
政「うぐっ…!」
静「また泣かされたいのかしら?」
政「ぎ、議長!」
遼「でもおかしいですね、静河さん。この数カ月間、あなたは毎日1番にこたつに
  入っていたのですか?」
静「どういう意味よ?」
遼「受験勉強のために、塾にまで通っている姉貴が、いくら部活があって
  遅くなる俺達より、毎日毎日1番乗りなんて考えにくい」
政「た…確かに!」
遼「俺達の部活が休みで、姉貴が塾に行ってる時だってあるはずだ。
  それなのに、全く俺達がエデンを利用できないってのはどういうことだ?」
政「ヒューヒュー!」
静「くっ…。珍しく知恵を絞ったわね、遼太…」
遼「俺だって、たまには考えるさ」
政「すごいぜ、兄ちゃん!姉ちゃんが焦ったところなんて、久しぶりに見たぜ!」
遼「ふっ…」
静「確かに、あんたの言う事には筋が通ってるわね…」
遼「ああ。そして、導き出される答えはひとつ!」
政「姉貴がエデンを独占してるってことだな!」
遼「いかに我が家条例があるといえども、特例があることは姉貴も知ってるな。
  家族間の秩序を守るため、1カ月以上のエデンの独占は禁止されている!」
政「最高議長の母さんが決めたことだな…」
遼「もう言い逃れはできねぇぞ、姉貴!家族の平和のためにも、今すぐそこを…!」

途中で、何かに気付く遼太

政「に、兄ちゃん…?」
静「ふっふっふ…。どうやら気付いたようね、遼太。最大の矛盾に…!」
政「な…何!?」
静「馬鹿ね、あなた達。私がここを独占してるですって?そんなのは言いがかりよ」
政「ど、どういうことだ!?」
静「少し考えたらわかるじゃない…。私が塾に通っいて、あなた達が先に
  帰って来た日は確かにあったわ。だったら、その日、あなた達のどちらかが
  エデンに座ってるはずでしょ?」
政「…!」
静「本当はわかってるんじゃないの?その日、エデンに座っていた人は…」
政「ま、まさか…」
遼「座っていたのは………」
遼・政「父さん……」

遼太、政弘、がっくり。
そして勢いよく起きる

遼「そぉぉだよ!親父だよ!親父、普通にここに座ってテレビ見てた!!」
政「でかいから足が付き出るんだよな!しかもくさいし!!」
遼「そのくせ、寝たらイビキうるせぇし!部屋で寝ろよ、マジで!」
政「俺なんか、この前、足踏んじゃってめっちゃ怒られたよ!
  突き出てる足が悪いんだろ!?マッサージされたくないんだったら、
  そんな所で寝るなっつーの!!」
遼・政「あー!!ムカつく!!!」

間。しばらくして2人、おそるおそる静河を見る

静「気は済んだ?」
政「あ…」
遼「お、おう…」
静「何か言うことはー?」
遼・政「すみませんでした…」
静「よろしい」
政「に、兄ちゃん…」
遼「敗訴だな…」
静「敗訴も何も、私は訴えられるようなことはしてないわよ!別に1カ月以上
  独占なんかしてないし。むしろ、裁判にかけられるのはお父さんじゃん」
遼「何でこんな思い違いしてたんだろ…」
静「人の心理的な現象ね」
政「どういうこと?」
静「お父さんは怖いでしょ?だから、お父さんが原因とわかっていても
  直接的には言うことができなかった。そこで…」
遼「行き場のない不満を、姉貴にぶつけちまったってことか?」
静「そういうことじゃない?つまり、私はお父さんの身代わりになったってわけ。
  いい迷惑だわ」
政「そ、そんなぁ…。じゃあ、エデンは…俺達の楽園は…」
静「いいじゃない!私だって、実は結構久しぶりなのよ!満喫させてよ!」
遼「し、しかし姉貴!俺達はそれ以上に久しいんだぜ!平等にいこう!
  というわけで、今日だけは俺に譲ってくれ」
政「おい!?散々カッコつけといて、今更そんなんでいいの!?」
遼「うるせぇ!プライドなんて捨てるためにあんだよ!」
政「えぇぇ!?」
遼「さぁ、姉貴!そこを明け渡せ!」
静「嫌よ!あれだけ濡れ衣着せといて、よくいけしゃあしゃあと言えるわね!
  何、それとも力尽くで奪うの?遼太ってば、変態!!」
遼「可愛い子振るな!似合わん!!」
政「いや、兄ちゃん以上に報われてないのは俺だと自負している!
  最も楽園に見放された堕天使にこそ、安息の救いが必要なんだよ!」
静「痛ッ!何、政弘あんた中二病なの!?」
政「違うわ!大体、姉ちゃんは長女だろ!少しは弟に譲ってやるとかしろよ!
  そんなんだからモテねーんだよ!」
静「あぁ!?今何つったあああ!?」
遼「えぇい、静かにしろ!姉貴、静河だけに静かにしろ!!」
静・政「つまらねぇよ!」

しばらく、皆で言い争い

静「ストーップ!!わかった、わかったわよ!そこまで言うなら…ジャンケンで
  決めましょう!後腐れなく!いいわね!」
遼「ジャンケンか…望むところだ!」
政「神よ!ジャンケンの神よ!我に力を!プリーズ・ギブミー・パワー!!」
静「行くわよッ!!ジャーンケーン!」
父(声のみ)「ただいまーーーー」

全員の動きが止まる。
玄関の方を向いて、深いため息。
急に寒いことに気付き、3人ともエデン以外の場所に寄り添って入る。
再び、深いため息

静・遼・政「(不満そうに)…おかえりィーー…」

―完―
  

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