<登場人物>
荒木 輝/エレキテル(17)山田高校生徒会長
入江 理恵(17)同校特撮研究会会長
漆原 虎男(16)同会員
オロチ(18)同校、不良のボス
入江 真(17)理恵の兄
不良A
不良B
校長(58)
主人公/エレキサンダーA(28)劇中劇の主人公
ヒロイン(20)劇中劇のヒロイン
幹部怪人(40)劇中劇の悪役
<本編>
○山田高校・外観
新しめの校舎(新校舎)と、古めの校舎 (旧校舎)、二つの校舎より小さい建物(部活棟)などがある。
ブレザー姿の生徒達が下校している。
荒木の母の声「こら、輝」
○同・旧校舎・校舎裏
不良達がたむろしている。
荒木の母の声「お絵描きするときは、おもちゃを片付けてから、ってお母さんと約束したでしょ?」
そこにやってくる荒木輝(17)。
荒木「やぁ、不良生徒諸君」
不良A「あぁ? テメェは生徒会長の……」
荒木「荒木輝だ」
荒木の母の声「いい、輝?」
荒木「放課後、生徒会室に来るように言っておいたハズだが、こんな所で何をしているんだい?」
不良A「誰がそんな所行くかっての」
笑う不良達。
体をほぐし始める荒木。
荒木の母の声「『ルールを守る』っていうのは、人としてとても大切な事なの」
荒木「そうか、ならば仕方が無い。ルールを守れない者には不本意ながら、少々手荒な真似をさせてもらうよ」
不良達に飛びかかる荒木。
荒木の母の声「だから、ルールを破ると自分が痛い目に遭うって事、良く覚えておきなさい」
青空が広がっている。
頬を叩く音。子供の鳴き声。
○同・ゴミ捨て場
「不良撲滅」「平和な学校生活を」と書かれた荒木の生徒会長選挙のポスターなど、多数のゴミが捨てられている。
ボコボコにされた荒木が、不良達に抱えられ、それらゴミの上に捨てられる。
不良A「弱ぇくせに出しゃばってくんじゃねぇ」
笑いながら去って行く不良達。
荒木「くっ、何故僕はいつもこうなのだ。天は何故、正義であるこの僕に味方しないのだ。……無念」
意識を失う荒木。
そこにやってくる入江理恵(17)と漆原虎男(16)。この時点ではまだ顔はわからない。
理恵「漆原君。彼なんかいいんじゃない?」
漆原「そうですね。では、連れて帰りましょう」
○(劇中劇)研究所
やや古くさい映像。
傷だらけで横たわっている主人公(28)の元に現れるヒロイン(20)。
ヒロイン「貴方のその素晴らしい勇気に免じて、これを授けましょう」
主人公の腰にベルトが巻かれる。
ヒロイン「目覚めるのです。電撃超人エレキサンダーA(エース)」
『電撃超人エレキサンダーA』と書かれたタイトルロゴと全身スーツのヒーローの姿が映し出され、そのままヒーローソングの王道風なオープニング曲が流れる。
○山田高校・部活棟・特撮研究会部室
ソファに横たわる荒木。目を覚ます。
荒木「ん、ここは……」
室内を見回す荒木。
『電撃超人エレキサンダーA』などの特撮ヒーローのポスターやグッズなどが至る所に貼られている部屋。
部屋のテレビ画面に流れる『電撃超人エレキサンダーA』のDVD映像(前のシーンの続き)を観ている理恵と漆原。
自分の腰を見て何かに気付く荒木。
荒木「む?」
漆原「(荒木に気付いて)先輩、気がついたみたいですよ」
理恵「あら、目覚めはいかが?」
荒木「ここは、どこだい?」
理恵「ここは特撮研究会の部室よ」
荒木「君たちは、誰だい?」
漆原「(理恵を指して)こちらは特撮研究会会長の入江理恵先輩、僕は会員の漆原虎男です」
荒木「なるほど。では、これは何だい?」
制服の上から着けられたベルトを見る荒木。
理恵「それは……うん、百聞は一見にしかずね。(単三電池を荒木に渡し)コレをはめてみればわかるはずよ」
荒木「ふむ。それでは一つ、試させてもらおうか。どれどれ……」
ベルトのバックル部分に電池をはめる荒木。体中に電流が走る。
荒木「な、な、な、な、な……」
みるみる表情がこわばり、髪が逆立ち始める荒木(この状態の荒木の事を以降「エレキテル」と呼ぶ)。
エレキテル「キテるキテるぜエレキテル!」
理恵「やったわ。大成功よ」
漆原「電撃超人荒木輝の誕生ですね」
理恵「いいえ、エレキテルよ。電撃超人エレキテル」
エレキテル「何だ、何なんだこの体中から溢れ出るパワーは!」
漆原「それは体中に……」
エレキテル「ごちゃごちゃうるせぇ。奴らはどこだ? (窓の外を見て)そこか!」
窓ガラスを突き破って外に飛び降りるエレキテル。
漆原「あの、ここは二階……。(理恵に)やはり性格に大幅な変化が見られますね、先輩」
理恵「えぇ、そうね。でもきっと、彼なら大丈夫だわ」
○同・旧校舎・校舎裏
たむろしている不良達の元にやってくるエレキテル。
エレキテル「やっと見つけたぜ、お前ら。さっきはよくもやってくれたな」
不良A「また来たのかテメェ。……って、何か雰囲気変わってねぇか?」
エレキテル「ごちゃごちゃうるせぇ。借りは返させてもらうぜ」
不良A「何回やっても同じだっての。行け」
エレキテルに向かって行く別の不良。エレキテルに殴られ吹っ飛ばされる。驚く不良達。
エレキテル「さぁ、次はどいつだ?」
不良A「ち、ちくしょう。(不良達に)行くぞ、テメェら」
エレキテルに向かって行く不良達。
次々と不良達を殴り倒して行くエレキテル。あっという間に、残るは不良Aだけとなる。
不良A「何なんだよ、何なんだよテメェ」
エレキテル「逃げるなら、今のうちだぜ?」
不良A「ち、ちくしょう。誰が逃げるか!」
エレキテルに殴り掛かる不良A。
○同・ゴミ捨て場
次々と捨てられて行く不良達。一番最後に不良Aが捨てられる。
不良A「ちくしょう、覚えてろよ……」
去って行くエレキテルの後ろ姿を睨みつける不良A。
○(劇中劇)荒野
大勢の全身タイツ姿の戦闘員を片っ端からなぎ倒すエレキサンダーA。戦闘員は全滅する。
変身を解き、エレキサンダーAから主人公の姿に戻る。
主人公「いくら相手がザコの戦闘員とはいえこんなにいとも簡単に倒せるとは……にわかには信じられないぜ」
歩き出す主人公。倒れる。
主人公「でも、ちょっと疲れたぜ」
○山田高校・部活棟・特撮研究会部室
部屋のテレビ画面に流れる『電撃超人エレキサンダーA』のDVD映像(前のシーンの続き)。
荒木と向かい合って座る理恵と漆原。荒木は疲労困憊といった表情。
荒木「一体、このベルトは何なんだい?」
理恵「(待ってましたとばかりに)それは、電撃超人変身ベルトよ」
漆原「我が特撮研究会が長年の試行錯誤を重ねた末に完成させた、夢の変身アイテムです」
理恵「操作は簡単。このベルトに単三電池を一本入れるだけ」
漆原「体中に流れる微弱な電流が運動機能や回復機能、その他諸々を飛躍的に向上させます」
理恵「これで君も今日から」
理恵&漆原「(決めポーズを取りながら)電撃超人だ!」
しばしの沈黙。
漆原「そもそも、電撃超人の歴史は……」
荒木「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ。僕が聞きたいのはそういう事ではないんだ」
理恵「じゃあ、何かしら?」
荒木「このベルトは君達が作った、と今言っていたが、一体その目的は何なんだい?」
理恵「荒木君、貴方も知っているでしょう? この学校は、非常に特殊な学校よ」
○同・新校舎・外観
理恵の声「真新しい新校舎を学び舎とし」
○同・同・教室
整理整頓された室内で勉強をする生徒達。服装の乱れも無い。
理恵の声「真面目で優秀な生徒の揃った」
○同・同・廊下
「特進科」と書かれたプレート。
理恵の声「我らが特進科」
○同・旧校舎・外観
理恵の声「そして古びた旧校舎を根城にし」
○同・同・教室
散らかった室内で騒いでいる生徒達。服装の乱れた生徒も数多い。
理恵の声「素行の悪い不良達が多く集まる」
○同・同・廊下
「普通科」と書かれたプレート。これも少し割れている。
理恵の声「憎き普通科」
○同・部活棟・特撮研究会部室
荒木と向かい合って座る理恵と漆原。
理恵「この二つが同じ敷地内に共存しているの。こんな学校、他には滅多にないわ」
荒木「確かに。そのせいで学校内の風紀は乱れ、学校の評判も下がっているし、カツアゲなどの直接的な被害も出ている」
理恵「そう、特進科の生徒達はいつも不良の影におびえながらの生活を余儀なくされているの。でも特進科の生徒の力じゃ、普通科の不良達には立ち向かえない。そんなか弱い生徒達を守るために設立されたのが、この特撮研究会よ」
荒木「生徒会に提出されている活動報告書の内容とは随分異なるようだが?」
理恵「あんなのは建前よ」
荒木「それではルール違反に……」
理恵「あ~、大事な事を言い忘れていたわ。変身は一日五分まで。このタイムリミットは必ず守る事。いいわね?」
漆原「五分を超えると、変身を解いても電気が抜けなくなって、体に悪影響が出る恐れがあるんです」
荒木「それは構わないが、その前の、活動報告書に関するルール違反は……」
理恵「いけない! 漆原君、そろそろBSモーニングで『宇宙勇者マダン』の再放送が始まる時間よ」
漆原「すぐに準備します」
テレビの前に陣取る理恵と漆原。
荒木「……まったく」
○同・外観
○同・新校舎・廊下
すれ違う生徒達に「おはよう」と声をかけながら歩く荒木。
窓の外に何かを見つける荒木。
荒木「む?」
○同・旧校舎・廊下
エロ本を読んでいるまた別の不良達。
そこにやってくる荒木。エロ本を取り上げる。
不良B「何すんだよ、この野郎」
荒木「これは、僕の記憶が正しければ、高校生が読んでいい本ではないはずだ。没収させてもらおう」
荒木の胸ぐらを掴む不良B。
不良B「ふざけんなよ、この野郎」
荒木「その手を離したまえ」
不良B「誰が離すか、この野郎」
荒木「警告はしたのだが……やむを得ん」
単三電池を取り出す荒木。
× × ×
ボコボコにやられ、倒れていれる不良達。それを見下ろすエレキテル。
不良B「す、すいませんでした……」
エレキテル「最初から素直にそう言っときゃいいんだよ、手間かけさせやがって」
その場を去るエレキテル。
○(劇中劇)荒野
怪人を倒すエレキサンダーA。
エレキサンダーA「楽勝だぜ」
かけよってくるヒロイン。
ヒロイン「油断しないで下さい。敵はどんどん強くなってきていますよ」
エレキサンダーA「どんな相手だろうと、俺の強さなら関係ないぜ」
物陰から二人の様子を見ているマント姿の幹部怪人(40)。
幹部怪人「なかなかやるな、エレキサンダーA。どうやら、私の出番も近いようだな。フハハハハ」
マントを翻し、去って行く幹部怪人。
○山田高校・部活棟・特撮研究会部室
部屋のテレビ画面に流れる『電撃超人エレキサンダーA』のDVD映像(前のシーンの続き)。
向かい合って座る荒木と理恵、一人テレビにかじりついている漆原。荒木は「特撮研究会日誌」と書かれたノートを読んでおり、手元にも数冊のノート(日誌その2以降)が置いてある。
荒木「しかし、読めば読むほど、活動報告書との違いが浮き彫りになってくるね」
理恵「ヒーローに秘密はつきものよ」
荒木「(日誌その2を見せて)では『日誌その1』がないのも、何か重大な秘密があるからなのかい?」
理恵「あら、なかった? じゃあ、今度探しておくわね」
荒木「まぁ、いい。どのみち、これが最初の違反なんだ。『一回目は警告まで』と生徒会規約で決められている」
理恵「なら問題ないわね。これからも『不良撲滅』に向けて、一緒に頑張りましょう」
荒木「その点については、同意しよう」
漆原「でも、荒木先輩。オロチには気をつけて下さいね」
荒木「オロチ? 一体何の事だい?」
○同・旧校舎・屋上(夕)
学ラン姿の男、オロチ(18)の周りに集まる不良A、Bら不良達。オロチに頭を下げている。
不良A「お願いします、オロチさん」
不良B「あの生徒会長、何とかして下さい」
オロチ「自分のケツは、自分で拭け」
落ち込む不良達。
オロチ「……と言いたい所だが、今回はお前らの顔を立ててやろう。特別だぞ?」
歓喜に沸く不良達。
オロチ「生徒会長、か……」
○同・新校舎・廊下
生徒達から英雄扱いされ、握手を求められながら歩く荒木。
反対側から荒木に向かって歩いてくるオロチ。オロチに気付き、道をあける生徒達。以下、荒木と近づくオロチの姿をカットバックで。
荒木とすれ違うように歩く、前とは別の不良達。全員茶髪にピアスで、ネクタイを緩めておりズボンは腰パン。
荒木「待ちたまえ、君たち」
荒木に気付き露骨に嫌そうな表情を見せる不良達。
荒木「ネクタイはきちんと締め、腰パンも止めるんだ。制服はちゃんと着たまえ」
互いに目を合わせながら、渋々ネクタイとズボンを直す不良達。
荒木「それから、その頭髪とピアスは校則違反だ。放課後、生徒会室に来たまえ」
苦々しい表情の不良達。
単三電池を取り出す荒木。
荒木「文句があるなら、相手になるよ?」
荒木の前に現れるオロチ。
オロチ「じゃあ、相手になってもらおうか」
○同・旧校舎・屋上
向かい合って立つ荒木とオロチ。
荒木「君は、この学校の生徒かい?」
オロチ「あぁ」
荒木「名前は?」
オロチ「名乗る名前はない。呼びたければオロチと呼んでくれ。会長さん」
荒木「オロチ……あぁ、君が噂に聞いた、不良達の親玉か」
オロチ「親玉とは違うが……まぁ、頭には違いないな」
荒木「そんな君が、この僕に何の用だい?」
オロチ「最近の会長さんのご活躍っぷりが、少々目に余るようになってきたんでね、忠告しにきただけだ」
荒木「ご忠告には感謝しよう。しかし、そもそもはルールを守らない君たちが悪いんじゃないのかい?」
オロチ「俺の忠告に耳を傾けるつもりはないようだな。会長さん」
荒木「当然だろう? ルールを破れば、自分が痛い目に遭うんだ」
オロチ「なるほど、会長さんは正義のヒーローって訳か」
荒木「となると、君たちは悪の権化、という事になるのかい?」
オロチ「確かに、俺たちはワル、すなわち悪だ。だがな、会長さん。悪以上の悪って、何だか知ってるか?」
荒木「悪以上の悪? 何だい?」
オロチ「歪んだ正義だ」
荒木「僕の正義が歪んでいるとでも?」
オロチ「なら、試してみるか? 歪んだ正義じゃ、俺には勝てないけどな」
臨戦態勢に入るオロチ。
荒木「やむを得ん」
単三電池をセットし、エレキテルに変身する荒木。
エレキテル「キテるキテるぜエレキテル!」
オロチ「腕に覚えあり、って訳か」
エレキテル「ごちゃごちゃうるせぇ」
先にオロチを殴るエレキテル。しかしオロチは少しよろける程度。
エレキテル「何!?」
オロチ「なるほど。やるね」
エレキテルを殴るオロチ。倒れる。
オロチ「どうだ?」
エレキテル「くっ、大した事ねぇな」
立ち上がり、本格的にオロチと戦い始めるエレキテル。優勢に戦いを進めているように見えるエレキテル。
エレキテル「これで決めるぜ!」
エレキテルの飛び蹴りを受け止め、そのまま弾き返すオロチ。吹っ飛び倒れるエレキテル。
エレキテル「なっ」
起き上がる間もなく、オロチの猛攻を受けるエレキテル。
エレキテル「ちっ」
チラっと腕時計を見るエレキテル。
エレキテル「ヤベェな、そろそろタイムリミットじゃねぇか」
オロチ「よそ見してる場合か?(と言いながら蹴りの体勢に入っている)」
エレキテル「ヤベッ」
オロチの蹴りをもろに食らうエレキテル。倒れて転がりながら電池が外れ、荒木に戻る。
荒木「しまった……」
倒れている荒木を見下ろすオロチ。
オロチ「これでわかってもらえたかな? 会長さんの正義が歪んでるって」
苦々しくオロチを見上げる荒木。
オロチ「なぁ。会長さんは何のためにこの学校に来たんだ? やっぱり、勉強か?」
荒木「当然だろう? 学校はそういう場だ」
オロチ「俺は、いや、俺たちワルはちょっと違ってね」
学ランの裏地に描かれた龍の刺繍を見せるオロチ。
オロチ「これが何だかわかるか?」
荒木「龍……いや、オロチかい?」
オロチ「そうだ、これがオロチだ。山田高で一番強いワルと認められた人間だけが、このオロチの学ランを着る事が許される」
○(イメージ)同・校門
続々と集まる不良中学生達。
オロチの声「山田高のワルは皆、このオロチを着たくてこの学校に来た。確かにワルだが、まっすぐで純粋だ」
○同・旧校舎・屋上
倒れている荒木の傍らに立つオロチ。
オロチ「その思いを歪んだ正義で踏みにじろうとするなら、俺は見過ごさない。肝に銘じておくんだな」
その場を立ち去るオロチ。
○同・同・校舎裏
ボロボロの体を引きずり歩く荒木。
荒木「あのオロチという生徒、実に強かったな。何か対策を練らねば……むっ?」
不良にカツアゲされている男子生徒を見つける荒木。
荒木「まったく、次から次へと」
単三電池を取り出す荒木。ベルトにセットしようとしてハッとする。
理恵の声「変身は一日五分まで。このタイムリミットは必ず守る事。いいわね?」
変身を躊躇する荒木。
不良に殴られる男子生徒。
荒木「(意を決して)やむを得ん」
走りながらエレキテルに変身する荒木。
エレキテル「キテるキテるぜエレキテル!」
○(劇中劇)倉庫
対峙するエレキサンダーAと幹部怪人
幹部怪人「残念だったな、エレキサンダーA。タイムオーバーだ。フハハハハ」
エレキサンダーA「しまったぁ!」
○山田高校・部活棟・特撮研究会部室
部屋のテレビ画面に流れる『電撃超人エレキサンダーA』のDVD映像(前のシーンの続き)。
机を囲み、向かい合って座る荒木と理恵、漆原。
理恵「そんな……電撃超人でも勝てないなんて……」
漆原「オロチって、そんなに強いんですね」
机の上に置いた拳を震わせる荒木。少し表情がこわばっている。
荒木「(机を叩いて)ちくしょう!」
驚く理恵と漆原。
理恵「荒木君……?」
荒木「(理恵と漆原の視線に気付き)ん? どうかしたのかい?」
理恵「いえ……何でもないわ。それよりも問題はオロチね。何か対策を考えないと。ねぇ、漆原君、もっとエレキテルをもっと強化できないかしら? 例えば、流す電流の量を増やすとか」
漆原「これ以上は無理です。危険すぎます」
理恵「そう……。あ、じゃあ何か武器を作れない? 剣とか銃とか」
漆原「なるほど、それなら……。体に流れる電流を上手く生かせれば、強力な武器を作れるかもしれません」
荒木「待ちたまえ。そんな凶器の制作は法律違反だ。生徒会長として許可できない」
理恵「もう……強化もダメ、武器もダメじゃあ、八方ふさがりだわ」
荒木「安心したまえ。今回は不覚を取ったが次は大丈夫だ。勝ってみせるさ」
理恵「荒木君の事は頼りにしてるわ。でも、やっぱり万全を期して行かないと……」
荒木「ごちゃごちゃうるせぇ」
思わず顔を見合わせる理恵と漆原。
○同・旧校舎・廊下
窓ガラスを割るなど、騒ぐ不良達。
不良A「あの生徒会長に勝っちまうなんて、さっすがオロチさんだよな。これでもう恐いもんなんてねぇぜ。(他の不良に向かって)おらテメェら、騒げ騒げ!」
不良Aの正面に立つ荒木。
不良A「げっ」
荒木「オロチはどこだい?」
不良A「へっ、知るかっての。そもそも、オロチさんに負けたテメェが、一体何の用……」
エレキテルに変身する荒木。不良Aを殴り飛ばす。
エレキテル「ごちゃごちゃうるせぇ。オロチはどこだ?」
不良A「だから知らねぇんだ。いや、マジで」
倒れている不良Aになおも蹴りを加えるエレキテル。引いている周囲の不良達。
○(劇中劇)荒野
ヒロインを襲うエレキサンダーA。その様子を後ろで見ている幹部怪人。
ヒロイン「やめて下さい。一体、どうしたんですか? 目を覚まして下さい、エレキサンダーA」
幹部怪人「フハハハ、残念だったなお嬢ちゃん。ヤツはもう正義の味方・エレキサンダーAではない。自分の力をコントロールできなくなった、ただの怪人なのさ」
ヒロイン「そんな……」
○山田高校・部活棟・特撮研究会部室
部屋のテレビ画面に流れる『電撃超人エレキサンダーA』のDVD映像(前のシーンの続き)。
向かい合う荒木と漆原。
荒木「電池が切れてしまったんだが、新しい電池を貰えるかい?」
漆原「それは構いませんが……」
荒木「何か不都合でもあるのかい?」
漆原「いえ……。ただ最近、電池の減りが早すぎると思うんです」
荒木「そうかい?」
漆原「この電池で、一週間はもつはずなんです。なのに、三日で電池切れだと言われても……」
荒木「何が言いたいんだい?」
漆原「先輩、一日五分っていう制限時間、守ってくれてますよね? 最近の先輩、少し様子がおかしいですし、心配で……」
机を叩く荒木。
荒木「ごちゃごちゃうるせぇ。いいから、早く電池をよこせ」
漆原「は、はい……」
漆原から奪うように電池を受け取り、部屋から出て行く荒木。
荒木と入れ違いで入ってくる理恵。
理恵「ねぇ、漆原君。今、荒木君が……漆原君?」
テレビに映るヒロインが泣いている。
○同・新校舎・廊下
歩いている荒木。
他の生徒は荒木を怖がっている様子。
反対側から小走りに走ってくる不良ではない男子生徒。
エレキテル「おい」
思わず立ち止まる男子生徒。
いつの間にか荒木はエレキテルに変身している状態。
壁を殴るエレキテル。
エレキテル「廊下は走るな。それがルールだろうが」
ビビって逃げて行く男子生徒。
変身を解いて振り返る荒木。
周囲の生徒達も恐れをなして逃げる。
○同・同・校長室・外
「校長室」と書かれた表札。
校長の声「あ~、荒木君」
○同・同・同・中
席に座る校長(59)に向かい合って立つ荒木。
校長「あ~、どうだね、生徒会長の仕事は」
荒木「まずまずです」
校長「そうか。しかし、その~、最近君があちこちで暴力をふるっている、という噂を耳にしてね」
荒木「それは……」
校長「あ~、まぁ、私個人は別に構わないんだよ? 生徒会長としての君も評価している。ただ、その~、父兄や教育委員会からだね、あの~、何を言われるかという事を考えるとだね、その~……」
荒木「(ボソッと)……るせぇな」
校長「あ~、どうしたのかな?」
荒木「ごちゃごちゃうるせぇ。何もやらねぇ校長が口出ししてくんじゃねぇ」
校長「あ、あ、あ、荒木君?」
部屋を出て行く荒木。
呆然と立ち尽くす校長。
○同・同・同・外
部屋を出たその場で我に返る荒木。
荒木「何をやっているんだ、僕は……」
○(劇中劇)研究所
ヒロインにベルトを渡す主人公。
主人公「もう俺は、そのベルトを持つ資格はないんだぜ」
ヒロイン「待って下さい。確かに、貴方は電撃超人の掟を破りました。でも、だからと言って、そこまでする必要はありません」
主人公「それだけじゃないんだぜ」
○山田高校・部活棟・特撮研究会部室
部屋のテレビ画面に流れる『電撃超人エレキサンダーA』のDVD映像(前のシーンの続き)。
机を囲む荒木、理恵、漆原。机の上にはベルトが置いてある。
理恵「それだけじゃないって?」
荒木「僕の正義は歪んでいる」
理恵「正義が、歪んでいる?」
荒木「この間、オロチに言われたのさ。確かに僕は、不良を止めるために拳を振るっている。しかもそれを悪いとは思わず、正義だと信じていた。一番タチが悪いとは思わないかい?」
理恵「仕方ないわ。相手は不良よ?」
荒木「だとしても、僕達がルールを破ったら 不良生徒達と何も変わらないじゃないか。あくまでもルールの範囲内で、彼らと対峙しなければならなかったんだ。それを僕は怠った。僕にはこのベルトを着ける資格なんてなかったんだ」
理恵「じゃあ、荒木君はどうするの? このベルトがなかったら、ただの生徒会長に戻る事になるのよ?」
荒木「それでいい。僕は元々、ただの生徒会長に過ぎなかったのだからね。もちろん、学校の平和を守る努力は続ける。安心したまえ」
理恵「そんなのダメよ。守る側にも力は必要なの。このベルトの力を使って。ね?」
荒木「なら、誰か他の、もっと相応しい人間にこのベルトを託してくれたまえ」
席を立つ荒木。
荒木「僕には、このベルトは重すぎるよ」
部屋を出る荒木。
○同・新校舎・教室
一人席に座る荒木。スマホを操作している。画面には荒木のSNS。「暴力生徒会長」等、荒木の悪口でコメント欄が埋まっている。顔を上げる荒木。視線の先には、何も貼られていない教室の掲示板。
○(回想)同・同・同
荒木の選挙ポスターが貼られた教室の掲示板。
壇上に立つ荒木。多くの生徒が集まっている。荒木は「生徒会長候補」と書かれたたすきをかけている。
荒木「ルールを破る不良達を僕は決して許さない。皆の力を貸して欲しい」
盛り上がる生徒達。
○同・同・同
一人席に座る荒木。
荒木「僕の正義は、どこで歪んでしまったんだろうか……」
○同・ゴミ捨て場
ボコボコにされて倒れる荒木。
荒木を見下ろす不良B。
不良B「今日は変身しねぇのか?」
荒木「あぁ、暴力に暴力で対抗しないと決めたんでね」
不良B「だったら、一生そこで寝てな。この野郎」
その場を去る不良B。
倒れたまま天を仰ぐ荒木。
荒木「またここに戻ってきてしまったのか。……無念」
○同・校門(夜)
ボロボロの体を引きずりながら歩く荒木。門の所に立っている理恵。
理恵「お久しぶりね。そろそろ、体から電気が抜けた頃じゃないかしら?」
荒木「まだ居たのかい? もう遅いんだ、早く帰りたまえ」
理恵「ちょっと来てくれる?」
中に入ろうとする理恵。
荒木「待ちたまえ。校則では、夜間に校内へ入るには事前の申請が……」
理恵「いいから来なさいよ。見て欲しいものがあるの」
中に入って行く理恵。
渋々付いて行く荒木。
○(劇中劇)荒野
本物とそっくりの偽エレキサンダーAが人々を襲っている。逃げる人々。
エレキサンダーAの声「待てぇい」
崖の上に現れるエレキサンダーA。
エレキサンダーA「本物はここにいるぜ」
崖からジャンプし、偽エレキサンダーAにキックを食らわすエレキサンダーA。
○山田高校・部活棟・特撮研究会部室(夜)
部屋のテレビ画面に流れる『電撃超人エレキサンダーA』のDVD映像(前のシーンの続き)。
テレビの前に座る荒木と理恵。
理恵「何回観ても燃えるシーンよね」
荒木「……見せたいもの、というのはコレの事なのかい?」
理恵「いいえ。これはただ、私が観たかっただけよ」
荒木「なら、早く本題に入ってもらえないかい?」
理恵「もう、仕方ないわね」
荒木の前に「特撮研究会日誌その1」と書かれたノートを置く理恵。
理恵「見つかったのよ、日誌」
荒木「別に、これだったら明日でも……(と言いながらパラパラとめくる)むっ?」
日誌には五年前の日付、記入者の欄には「入江」と書いてある。
荒木「この入江というのは……?」
理恵「入江真。特撮研究会創設者にして初代会長。そして、私の兄よ」
荒木「そうだったのか……」
日誌を読む荒木。
真の声「今日は特進科の廊下で、普通科の不良二人が喧嘩騒ぎを起こした。僕は止めに入ったが、力が及ばなかった。結果、窓ガラスが二枚割られ、周囲にいた女子生徒三名が負傷した」
理恵「兄は普通科の不良達から特進科の生徒を守ろうとしていたわ。それでも、奴らは兄が勝てるような相手じゃなかった」
『電撃超人エレキサンダーA』のDVDを手に取る理恵。
理恵「だから、兄は考えた」
○(回想)同・同・同
『電撃超人エレキサンダーA』のDVDを手に持つ入江真(16)。
真の声「だから、僕は考えた」
× × ×
部屋のテレビで『電撃超人エレキサンダーA』のDVDを観ている真。
真の声「今の僕の力では、誰も救う事が出来ないのなら」
× × ×
手作り感満載なヘルメットとマントを身にまとう真。勢い良く部屋を出る。
真の声「揺るがない正義を持った」
× × ×
ボコボコにされて帰ってくる真。ヘルメットやマントもボロボロ。
真の声「皆を助ける力を持った」
× × ×
部屋のテレビで『電撃超人エレキサンダーA』を観ている真。変身ポーズなどを真似している
真の声「そんなヒーローを、この手で生み出すしか無い」
× × ×
ベルトを作っている真。爆発する。
真の声「そのためにはどうすればいいのか。僕に何が出来るのか」
× × ×
日誌を書いている真。
真の声「それを知りたい。同志や後輩と、この思いを共有したい。だから僕は……」
○同・同・同(夜)
日誌を読む荒木。一ページ目に書かれている「だから僕は、ここに特撮研究会を発足させる」の文字。
真の声「ここに特撮研究会を発足させる」
ノートを閉じる荒木。
理恵「私は、兄の思いを受け継ぐために、この研究会に入ったの。そして完成させたのが、このベルトよ」
ベルトを荒木に渡す理恵。
荒木「これは返したものだ。受け取れない」
理恵「いいから、持ってみて」
荒木「(ベルトを手に持ち)むっ?」
理恵「気付いたようね」
荒木「前より、軽くなっている……?」
理恵「この前、荒木君が『重すぎる』って言ったからよ。あの後、漆原君がベルトの軽量化をしてくれたの」
荒木「そういう意味ではなかったのだが」
理恵「そんな事はわかってるわ。でも漆原君は荒木君のためにそのベルトを改良した。私もそれを頼んだ。なぜなら、このベルトの装着者は、荒木君以外には考えられないからよ」
荒木「何故、この僕にこだわるんだい?」
理恵「知っているでしょう? 完成させたこのベルトには、電流の影響で性格が粗暴になってしまうという、欠点とも言うべき副作用があったの」
○(フラッシュ)荒野
ヒロインを襲うエレキサンダーA。
理恵の声「ちょっとやそっとの正義感じゃ、ベルトの影響で悪に染まってしまう」
○山田高校・部活棟・特撮研究会部室(夜)
対峙する荒木と理恵。
理恵「そんな時、荒木君を見つけたの。きっと君なら、悪に染まらないと思ったわ。揺るがない正義を持っていたから」
荒木「揺るがない、正義……?」
理恵「荒木君は、ルールを守らない者に大してだけ、力を使っているわ。それは、荒木君が自分をコントロールできなくなっていた時期も同じ。廊下を走る生徒相手に変身しても、漆原君や校長相手には変身しなかったでしょう?」
荒木「だが、僕の正義は歪んでいる」
理恵「不良達の言う事なんて、気にしなくていいわ。荒木君は、荒木君の正義を貫いてくれればいいの」
荒木を指差す理恵。
理恵「揺るがない正義を持った」
荒木の持ったベルトを指差す理恵。
理恵「皆を助ける力を持った」
単三電池を手に取る理恵。
理恵「そんなヒーロー」
単三電池を荒木に渡す理恵。
理恵「それが、電撃超人エレキテルなのよ」
まだ迷っている様子の荒木。
理恵「いいから戦って。不良に苦しめられている人がいる、だから助ける。それだけでしょ? 迷う必要なんてないはずよ」
無言で理恵を見つめる荒木。
荒木「……わかった。この力を使わせてもらおう」
理恵「ありがとう、荒木君」
荒木「ただし、一つだけ忠告しておこう」
理恵「何かしら?」
荒木「入江君。校則では、制服のスカートの長さは膝にかかる程度と決められている。その長さは校則違反だ。気をつけたまえ」
理恵「え?」
部屋を出て行く荒木。
○同・外観
○同・旧校舎・教室
席に座っている荒木。
部屋に入ってくるオロチ。
荒木「よかった、来てくれたんだね」
オロチ「会長さんがどの面下げて俺に会いにきたのか、興味があってね」
荒木「ああ。本当に、申し訳なかった」
立ち上がり、頭を下げる荒木。
オロチ「ほう。何に対して?」
荒木「君の言う通りだった。僕の正義は歪んでいたよ。僕はルールを守らせるために、自分が別のルールを破ってしまった。不良達を力で抑えるのではなく、他の方法を考えるべきだった。僕が本当に実現したかったのは、不良の撲滅じゃない。皆がきちんとルールを守る学校だ」
オロチ「なるほど。もう少し頭の固い会長さんかと思ったが、意外と話がわかるじゃないか。で、これからどうする?」
荒木「僕のやる事は二つだけだ。僕自身がルールを守り、そして、ルールを守らせる」
オロチ「前々から思ってたんだが、何でそこまでルールにこだわるんだ? 会長さん」
荒木「僕が幼い頃、母が言っていた。『ルールを守るというのは、人としてとても大切な事だ』と」
オロチ「それで?」
荒木「それだけだ」
オロチ「……は?」
荒木「それ以上の理由が必要かい?」
オロチ「いや……その程度の理由でそこまで出来るのか、と思ってな。『開いた口が塞がらない』ってのはこの事だな」
荒木「とにかく、僕にとってルールを守る事は何よりも優先する。だからこそ、言わせてもらおう。我が校の校則にはこう記されている。『学校内では常に指定された制服を身につける事』とね。オロチ君のその服装は明らかに校則違反だ」
オロチ「そう来たか……。これくらい大目に見てくれ、と言っても聞かないよな」
荒木「あぁ。おとなしく、脱いでくれはしないかい?」
オロチ「それは出来ない相談だ。この学ランにはこの学校の不良全員の、そして過去のオロチ達の思いが込められている。俺はそれを背負って立ってるんだ」
荒木「残念だな。では、やむを得ん。君たちのルールに乗っ取り、正式なやり方で君から没収させてもらおうか」
オロチ「正式なやり方?」
荒木「君が前に言ったじゃないか。一番強い者がその学ランを手にする、と。今ここでこの僕が君に勝てば、僕がその学ランの正式な保有者という事になるんだろう?」
オロチ「ふっ(と言って笑い出す)」
荒木「何か間違っていたかい? もしや事前の手続きが必要なのかい?」
オロチ「いや、そんなものは必要ない。一対一でさえあれば、いつどこで勝負を仕掛けても構わない。それがルールだ」
荒木「ならば、早速始めようか」
オロチ「結局、手を合わせる事になるのか。やっぱり会長さんの正義は歪んでいるよ」
荒木「あぁ、そうだろう。だが、僕だけじゃないさ。オロチ君、君もだ」
オロチ「俺はワルだ。正義なんかじゃない」
荒木「でも君は、不良達の純粋でまっすぐな思いを守ろうとした。それは、君にとっての正義なんじゃないのかい?」
オロチ「これはまた、人の揚げ足を取るような事を……」
荒木「では、試してみるかい? 歪んだ正義では、この僕には勝てないよ?」
単三電池をはめる荒木。エレキテルに変身する。
エレキテル「キテるキテるぜエレキテル!」
オロチ「大口を叩いた事、後悔させてやる」
戦い始めるエレキテルとオロチ。ややエレキテルが優勢。
オロチ「腹が決まったからか、一皮むけたからか、何か少しだけ、動きが良くなったんじゃないか? 会長さん」
エレキテル「ごちゃごちゃうるせぇ。(ベルトをさすりながら)ちょっとばかり、体が軽くなっただけだ」
オロチ「そうか。まぁ、それが分かれば、対処するのは簡単だ」
エレキテルを蹴飛ばすオロチ。
オロチ「終わりか? 会長さん」
エレキテル「まだまだぁ」
再びオロチに向かって行く荒木。
荒木M「僕の正義は歪んでいる」
○同・同・廊下
数人の生徒が談笑している。
戦いの勢いで教室から飛び出てくるエレキテルとオロチ。
荒木M「でも、それは僕の正義だけが歪んでいる、という意味ではない」
走りながら戦うエレキテルとオロチ。逃げ惑う生徒達。
荒木M「みんなの正義が歪んでいる」
別の教室の窓から廊下の様子を見ている生徒達。手にはスマホ。
荒木M「調子のいい時だけ便乗し、ダメになったら手のひらを返すような生徒達も」
○同・同・校長室・中
互角に戦うエレキテルとオロチ。
部屋の隅で震えている校長。
校長「あ~、君達、ここをどこだと思って……」
戦いの激しさで、部屋に飾られている歴代校長の写真が次々と落ちて行く。
校長「あ、あ~、あ~」
戦いながら出て行くエレキテルとオロチ。一人、取り残される校長。
荒木M「生徒の行動に文句を言っても、自分では決して動かない教師達も」
○同・部活棟・特撮研究会部室
窓から外を見ている理恵と漆原。
荒木M「不良生徒に勝つためとはいえ、危険な装置を作る特撮研究会の面々も」
窓からはエレキテルとオロチの戦いが見えている。
荒木M「だから、そんな歪んだ正義を倒す、純粋でまっすぐな、真の正義を持つ」
理恵の手には「日誌その1」がある。
荒木M「この学校には、そういうヒーローが必要だ」
○同・校門(夕)
戦い続けているエレキテルとオロチ。
荒木M「だから僕は、僕を倒す真のヒーローが現れるまで」
オロチに蹴り飛ばされるエレキテル。
荒木M「偽りのヒーローとして、歪んだ正義をふるい続ける」
蹴り飛ばされた先、物音がしない。
オロチ「今度こそ、終わりか? 会長さん」
起き上がるエレキテル。
荒木M「僕に勝っていいのは、真のヒーローだけだ。だから、それまでは……」
エレキテル「負ける訳にはいかねぇんだ」
オロチ「ならそろそろ、けりをつけようか」
エレキテル「あぁ、望む所だ」
同時に駆け出すエレキテルとオロチ。双方のパンチが、同時に炸裂する。よろけるも、倒れず踏みとどまるオロチ。
オロチ「ちっ、膝が笑ってやがる」
顔を上げるオロチ。オロチに向かってきているエレキテル。
エレキテルのキックで吹っ飛ばされるオロチ。校門の外で大の字に倒れる。変身を解き、オロチを見下ろす荒木。
荒木「僕の勝ち、のようだね」
オロチ「そうだな。これで俺も、肩の荷が下りたよ。ただ、周りに目を向けてみな」
周囲を見回す荒木。
集まっている大量の不良達。
不良A「ちくしょう、よくもオロチさんを」
不良B「覚悟できてんだろうな、この野郎」
荒木「(オロチに)一対一で勝負するのがルール、ではなかったのかい?」
オロチ「まぁ、アイツらなりに俺の事を思ってくれてるんだろう。全員を相手にするのはなかなか骨が折れるが、どうする? 会長さん」
荒木「(腕時計を見て)まだ時間はあるから相手をしよう。やむを得ん」
単三電池を取り出す荒木。
荒木「これもまた、歪んだ正義か」
○同・外観
エレキテルの声「キテるキテるぜエレキテル!」
(完)
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