君は星になりたかった SF

陸地の2/3が海へと沈み、空には深く雲が立ち込め、生物が育つ環境として限界を迎えた地球。人類は宇宙船・ノアに乗り0.3光年先の小惑星・エデンへと移住した。 これはその1年後にエデンから地球へと発射した小さな宇宙船を取り巻く、3つの想いを描いた物語。
やこう かい 11 0 0 04/06
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第一稿

二人の男女が真剣な眼差しでゲームのコントローラを握っている。

女:うぐ・・・。

男、無表情で激しくコントローラを動かしている。

女:ぐぬぬう・・・。

コント ...続きを読む
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二人の男女が真剣な眼差しでゲームのコントローラを握っている。

女:うぐ・・・。

男、無表情で激しくコントローラを動かしている。

女:ぐぬぬう・・・。

コントローラの音だけが響く。女も負けじとコントローラを動かずが、雑。

女:ぐうううううう・・・・。

女、カッと眼を見開いて悲愴の表情。ゲームセットの音。男、静かに小さくガッツポーズ。

女:ダーーーーーーーーーーーもうつまんないよーーーーー!!!
男:やりたいって言い出したのあなたですよ。
女:でも、だからってこんな、自分が得意なゲーム持ってくるの卑怯だよ!
男:そう言ってゲームの種類を変えること13回目です。いい加減にしてください。
女:冷たいーーーーー!!ねえもっとさあ、初心者でもできる簡単なやつあるじゃんか??ね、パッとは出てこないけどさ、わかるよね?
男:わかりません。
女:クッッッソーーーー!真剣白刃取り!!
男:まああともう1セット残ってます。ゲームは人生と同じです。最後まで諦めないのがコツですよ。
女:すごい顔だよ。
男:・・・
女:まだつかないのーーーーーー!!???
男:あのですね。俺だって行きたかないんですよ。こんな勝手なことして、間違いなく俺はクビですからね
女:ねえあとどのくらいかかるの
男:聞こえてない?
女:かかるの??
男:・・・あと3日と20時間
女:もう無理

バタン、と力つきる女。驚く男。立ち上がり、どうするか迷いオロオロするが、やっぱり席に戻ってゲームを再開する。

女:いや助けんかーい!!
男:元気そうですね。
女:そういう君はずーーーっとそんな感じだよね。
男:はい。
女:・・・そんなに、私と一緒にきたくなかった?
男:はい。
女:即答。
男:はい。俺は戻ったらクビなんで。
女:そーんなに言うのに、だったらどうしてあの時私に声かけたの?ねえ?!私だってあの時半分冗談のつもりで言ったんだよ。そしたらさ、「あの!」って後ろからスッゲーでっかい声で!!や、マジであの時めっちゃびびったからね?!だってそれまでめっちゃ物静かに喋ってんのに急にさ、「あの!!!!!」って、いっっや〜あんな声出るなんて今でも信じられんy
男:誰に向かって喋ってるんですか?
女:え、何それ、そういうボケ?
男:・・・
女:はーあ。つれないねえ。もっとさー、こう盛り上げていこうよ?だってなんだっけ、あと4日と50時間
女:・・・も、あるんでしょ・・・?
男:・・・
女:おい
男:はい
女:なかったことにするな、
男:どこから突っ込んだらいいかわからなかったので
女:・・・。もしかしてさ?
男:なんであの時声をかけたのかって質問の答えですけど。最後、諦めそうになっていた僕を繋ぎ止めてくれたのがあなただったからです。
女:・・・は??
男:たとえそれが仮初めでもいいと思ったんです。まだゲームが続くんなら。
女:え?まじで何言ってるか全然わかんない。
男:大丈夫です。
女:何が??
男:わからないのわかってて言ってるので。
女:あ。けなされている・・・?
男:ちなみに。ゲームはまだ終わってないですからね。
女:え?

女、ハッと画面を振り返り悲愴の表情。ゲームセットの音。男、静かに小さくガッツポーズ。

女:うっっそおおおおお、聞いてないよ!聞いてないよ!!!??
男:これで126勝目です。さて・・・
女:ウェエ・・・
男:今日もお勉強の時間ですね。メモとペンを持って
女:ぐえええ、
男:そんないやそうな顔しないでください。これも、一般教養と常識がカケラもないあなたのための補講授業です。
女:ハイハイハイハーイわかった!「ありがた迷惑」!「お節介」!んーーーっっ「死人に口無し」!!
男:はい、僕を勝手に殺さないでくださいね。さて、今日の「星探し」は、5等星の「イプシロン23」。制限時間は60分です。
女:いやだーーーーー!!!
男:はじめ!

男、笑っている。


OP ♪ 〜








【2】

舞台上には男と女が立っている。それぞれ誰かと話している。

女:はい。そうです。彼は私の恋人でした。
男:ええ、僕がノアの操縦士です。地球に住んでいた62億5731人を、エデンへ移住させることに成功しました。
女:彼は、どうして死んだんでしょうか。
男:・・・いいえ。たった一人。地球に残って死んだ男がいます。
女:どうして彼は、地球に残ったんですか。
男:彼は、僕と同じ宇宙飛行士で、地球での司令塔を任されていました。
女:人類の叡智、宇宙船ノアには、全員乗れるはずではなかったのですか。
男:彼は、正義感の強い男でした。最後の便、ノアは無線不調を起こしていました。燃料も残り少なかった。ノアに何かあったらエデン本局と連絡が取れるのは地球の司令塔だけで、だから、彼は自らあの星とともに死ぬことを選んだのだと思います。
女:そうですか。彼は、世界に見放されたのですね。
男:え・・・?そんな!最後は向こうから無線も切断されていましたし、僕が彼を助ける手段なんて
女:いいえ。もうここに用はありません。62億人の命と引き換えに見殺しにされた私の恋人は、もう戻ってきませんから。
男:ま、待ってください!異動?なぜですか。僕は任務を遂行した!ノアを操縦して人々をエデンに移住させる、これが僕の任務だったはずでしょう!
女:お忙しい中、わざわざありがとうございました。失礼します。
男:っくそ!・・・俺は、お前には勝てないんだな。

照明変化
回想。ノア機内。無線が途切れ途切れになっている

男:おい、返事しろ!!なんで搭乗しない!?もうあまり時間がないぞ・・・おい!聞こえてるのか!?
男:は・・・?いまなんて・・・?!そんなことしたらお前は死ぬんだぞ!俺一人で戻ってなんて報告すればいいんだよ!
男:!!!・・・おい、待てって、おい!おい!!応答しろ!!!!
男:・・・
男:・・・なんで、なんで謝るんだよ・・・

操縦機に突っ伏す男。

照明変化
痛いほどに美しい夕景。遠くからは祭りの騒ぎが響く。ロビーの椅子にそれぞれ男女が座っている。沈黙

女:あなたも、誰か、亡くされたんですか?
男:え
女:あっ、突然すみません。だって、エデン移住計画の成功を祝って、町中こんなに大騒ぎなのに、こんな場所でこんな顔して並んで座ってるなんて、なんだか、つい。
男:あ、ああ。言われてみれば、そうですね。
女:でも、見当違いなこと言っちゃいましたね、ごめんなさい。
男:いえ・・
男:あ。「あなたも」ってことは・・・
女:ああ、ええ。・・・恋人を、亡くしたんです。この移住計画の間に。
男:え?
女:彼は、宇宙飛行士でした。それもとっても優秀な!なんてったって、後もう少しであの宇宙船ノアの操縦士だって夢じゃなかったんですよ。

男,思わず椅子から立ち上がり、後ずさる

女:え、どうかされました?
男:僕、
男:・・・僕は、操縦士でした。
男:宇宙船、ノアの。
女:!!!じゃあ、何か知りませんか、彼のこと。
男:あいつは、優秀な宇宙飛行士でした。・・・本当に。
女:どういうこと
男:すみません、!僕からは、本当にこれしか言えないんです。
女:だって、あなたは、
男:僕、異動になったんです。62億人の命と引き換えに、あなたのたった一人の恋人であり、優秀で勇敢な宇宙飛行士だった彼を見殺しにした、責任を取って。
女:そんな、だってあなたは英雄のはずじゃ
男:でも、残念ながら世間はそうは思ってくれてないみたいです。僕、こんななので、同僚の中にもほとんど友達がいなくて。多分その中の誰かがリークしたんでしょうね、もう実は広まってるんですよ。僕が自分の出世のために仲間を見殺しにしたって、そういう言い方で。
おかげで僕は、明日からただの部品検品の平社員になっちゃいました。
女:そう、だったんですね
男:僕、もう死のうと思ってるんです。人付き合いは苦手だし、信頼もないし。せっかくこんな一生に一度の大仕事を任されて、やっとチャンスが巡ってきたのに、それすらつかめなかった。なんかもう、全然、こんなの生きてても(しょうがないなって)
女:だったら、もう一回飛ばしてくれませんか、ノア。私のために。
男:へ?
女:ノアを操縦できるのはあなただけなんでしょう?私、納得して忘れたいんですよ、彼のこと。だからこの目で見たいんです。彼を飲み込んでしまった水の星を。もう一度だけ。
女:なーんて、嘘です。そんな顔しないでくださいよ。嫌な冗談いっちゃってすみません、忘れてください。
男:・・・
女:あ。それと・・・私は、あなたに生きていて欲しいですよ。それじゃあ。

男:・・・あの!

照明変化
デッキで爆睡する女。見下ろしてため息をつく男。

男:あの!!!
女:ンァ!?
男:ここは、あなたの、ベッドじゃ!ないんですよ!!
女:わ、あわ、ここは、私の、ベッドは?はい?
男:なに寝ぼけてんですか?今日はなんの日ですか?
女:なに・・・?なぞなぞ?
男:・・・
女:すごい顔だよぉ・・・
男:目の前。
女:へ?
男:もう地球ですよ
女:えっ、あ、!!わあああ・・・!!
男:さあ、席についてください。
女:え、この流れでゲームすんの?
男:これはゲームのコントローラであり、この宇宙船のコントローラでもあります。
女:は??
男:着陸します。
女:・・・まじ????

♪ 〜
遠くに空気を切り裂く音が聞こえる。





【3】

女、座って誰かと話している・

女:え?なに?なにの星?・・・んん?なにそれ?
女:へぁぇ〜、有名なお話?・・・ふうん。その、とり?は、なんで星になっちゃったの?
女:そっか、じゃあ、悲しいお話じゃあないんだね。
女:その星、今も見えるのかなあ?

照明変化
水に飲み込まれた星を目の前に佇む二人

男:なにを、見てるんですか?さっきから
女:うん
男:何にも、なくなっちゃいましたね。
女:うん
男:位置座標的には合ってるはずなんですけどね。そこが交差点になっていて、向かいが空き地で・・・ここは七年前まで小さな映画館があったところですね。それからここの通りが大通りにつながっていて、この坂を登ると向こうには展望タワーが・・・ありました。で、今僕たちの立っているここが、あなたの家です。
女:・・・
男:信じられないほど跡形もないですね。この短期間でこんな全てを飲み込んでしまうなんて、改めて自然の力を感じるというか
男:まあ、元はと言えば人間が好き勝手やってたせいだし自業自得だと思いますけどね。まあ、かといってエデンに移住するのが良かったとは僕だって到底、

男:思っていませんでしたけど。

返事をしない女になんとなく嫌な予感がする男。

男:・・・もう、日が沈みますね。
女:見えるかな
男:なにがです?
女:なんかの、とりの星
男:なんかのとりのほし・・・????まあ、雲も分厚いですからね・・・あっ。もしかして星座のことですか?だったらたくさんありますよ。はくちょう座、わし座、
女:違うよ。そんな名前じゃない。
男:あー・・・
女:もっと、聞いたことない名前だった。
男:教えて、もらったんですか?あいつに
女:なんで忘れちゃったんだろ
男:仕方ないですよ。新しいことを記憶するために、古い記憶は忘れていくように、人間はできてるんです。前に進むためには必要な機能です。

女、おもむろに水の中に入っていく。

女:わー冷たい
男:え、ちょ、なにしてるんですか!?そんなことしたら宇宙船びしゃびしゃになっちゃいますよ!!
女:んー、うん。大丈夫。
男:いや?なにも?
女:慣れたら意外と大丈夫。
男:や水の話じゃなくて
女:頑張れば住めそう
男:そんなに!?とにかく一回出てきてください。風邪ひきますよ。
女:私さあ、帰らない。
男:え?
女:ここで、私は星になるのです!
男:なにを言ってるのか、さっぱり・・・
女:彼と同じように。
男:・・・!
女:そしたら、ここでこうして、彼の沈んだ海の上でぷかぷか浮いて空を見ていたら、こんなに分厚い雲越しでも、あの星が見えるんじゃないかって思うんだ。
男:それ、本気で言ってます?
女:うん、本気だよ
男:そんなこと言ったら俺、一人で帰っちゃいますよ
女:うん
男:宇宙船がなかったら、あなたは、死ぬんですよ!
女:でもだって、そうしないと忘れちゃうから
男:忘れるために来たんじゃなかったんですか。
女:忘れたくないことは忘れちゃうのに、忘れたいことは忘れられないんだよね。
男:それって、
女:人生とゲームは同じだから、最後まで諦めないのがコツだ、って
女:君が言ったんでしょ?
男:だったら、生きるの諦めないでくださいよ
女:死のうとしてた人に言われたくないよ
男:・・・
女:はい、君の負け!わかったら即刻ノアに乗船し、エデンに帰還すること!
男:なにを、そんな勝手なこと
女:ごめんね
男:なんで謝るんですか・・・
女:だって私、君には生きて欲しいから。
男:死のうとしてる人に言われたくないです!
女:あー・・・それもそうか、そうだね。じゃあー、私の負けか!
男:は、?
女:あーあ、結局君には一回も勝てなかったなあ。一回くらい勝ちたかったけど、私はここで罰ゲームとして、「星探し」をすることにします。
男:罰ゲームって。
女:今度は、一人で。
男:こんなところから星なんか、見えるわけない。
女:わかんないよ。最後まで、諦めないで信じてみるの。忘れないように。今なら見える気がするから。
男:・・・そうですか。わかりました。あなたは、きっと最初から、そういうつもりだったんですよね。
女:・・・
男:なんでなにも言わないんですか。図星ってことですか?
男:俺は、あなたのいいように使われたってわけですか・・・なら、好きにしてください。俺は帰りますから。
女:うん、ありがとう。
男:俺はただ!あなたに・・・いいえ、なんでもないです。今のあなたには言いたくない。もう会うこともないでしょう。さようなら。

照明変化





【4】

女:見えないなあ
男:見えるわけない。あんなところから星なんて。馬鹿みたいだ。

男、苛立ち椅子に座る。するとバキッという音がし、椅子の上のコントローラが壊れた。

男:しまった!

エンジンのかかる音。発射音。急いで外を見るが、もうすでに遅い。
照明変化
フラフラと席に戻る男。壊れたコントローラを拾い上げる。隣の席にもう女はいない。握る手に力が入る。

女:やっぱり、嘘だったのかなあ・・・
男:なに嘘ついてんだよ、俺
女:でも私も、あの子に嘘ついちゃったからな
男:俺は、どうして大事なタイミングで、大事なことを、素直に言えないんだろう。
男:あの時だって、俺はお前に言いたかったんだ
女:ほんとは、ちゃんと終わりにするつもりだったのに
男:ほんとは、ただ生きていて欲しかっただけなのに
男:それだけなのに
女:君は、ちゃんと生きてくれるかな
男:いや、俺も諦めなきゃいいだけの話か。

もう一方のコントローラを握り、席に着くと、アラートが鳴り響く。

男:あーあ、星になりたいなんて、馬鹿らしいって思ったのになあ。
男:俺の負けだ。

男は最後に微笑むと、爆発音が響き渡った。
暗転

女:あ、光った。

♪- スウィートソウル/KIRINJI

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