本気でアイ・ラブ・ユー 恋愛

アイドルファンの住田友二(26)とアイドルの戸嶋藍(20)。これは二人の恋愛物語であり、アイドルがファンによって再生する物語であり、ファンがアイドルによって再生する物語である。
マヤマ 山本 4 0 0 03/11
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

<登場人物>
住田 友二(26)フリーター
戸嶋 藍(20)アイドル。愛称はアイアイ
住田 恵一(28)住田の兄
喜多 桃(19)アイドル。愛称はキタモモ

女子高生A ...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

<登場人物>
住田 友二(26)フリーター
戸嶋 藍(20)アイドル。愛称はアイアイ
住田 恵一(28)住田の兄
喜多 桃(19)アイドル。愛称はキタモモ

女子高生A
女子高生B
オタク風の男
上司(35)
住田の父
住田の母
係員 声のみ



<本編>
○CDショップ・外観
   雨が降っている。

○同・中
   多数並んだCDの棚。その一角にアイドルグループ・23(トゥエンティースリー)のCDと「本日発売」「ブレイク間近」等と書かれた手書きのポップ。CDジャケットには十名程の女性アイドルが写っている。
   その棚の前に立つ女子高生A、B。
女子高生A「(CDを指して)誰コレ? 知ってる?」
女子高生B「知らない。普通にマイナーなアイドルじゃん?」
女子高生A「だよね。こんなん誰か買う人いんのかね?」
女子高生B「オタクが買うんでしょ? 一人で三枚」
女子高生A「何で三枚も?」
女子高生B「聴く用と、保存用と、保存用の保存用」
女子高生A「うわ〜、キモッ。マジ勘弁」
   その様子をレジ内で見ている住田友二(26)。店員姿。手に持った23のCDを見る。
   CDのジャケットに写るアイドルの一人、戸嶋藍(20)。
   住田のレジの前にやってくるオタク風の男。
オタク風の男「これ下さい」
住田「はい、いらっしゃいませ」
   レジの前に置かれた23のCD三枚。
住田「……」

○川辺(夜)
   雨が降っている。
   傘をさして歩く住田。手にはCDの入った袋を持っている。
住田「結局、買ったのは俺とあの変な男だけって事か」
   ふと人影に気付く住田。
   傘もささず、ずぶ濡れになりながら川の近くに立つ藍。今にも飛び込みそうな様子。

○(フラッシュ)駅
   ホームにやってくる電車。
   今にも飛び降りそうな様子の住田(この時点ではまだ顔はわからない)。

○川辺(夜)
   藍に近づく住田。
住田「(無意識に)ス、ストップ」
   立ち止まり、振り返る藍。
住田「あ……。あ、あの、お、落ち着いて。早まらないで」
藍「……止めないで下さい」
住田「そんなこと言われても、この状況で止めない訳には……あれ、アイアイ?」
   驚き、目をそらす藍。
   袋の中からCDを取り出す住田。ジャケットの藍の写真と目の前の藍を見比べる。
住田「あの……戸嶋藍さん、ですよね?」
   うつむく藍。
   CDのジャケット。曲名は『本気でアイ・ラブ・ユー』。

○タイトル『本気でアイ・ラブ・ユー』

○アパート・外観(夜)
   雨が降っている。

○同・住田の部屋(夜)
   1Kほどの部屋。
   玄関に立つ藍。
   ユニットバスから持ってきたバスタオルを藍に差し出す住田。
住田「とりあえず、コレ使って下さい」
藍「どうも……」
   部屋の中を見る藍。藍のカレンダーなどが貼られている。
藍「本当だったんですね」
住田「え?」
藍「私のファンだって」
住田「えぇ、まぁ、かれこれ三年ほど。……あ、すみません、散らかってて」
   部屋を片付ける住田。
藍「あの……」
住田「(片付けながら)はい」
藍「シャワー、借りてもいいですか?」
住田「あ、はい。どうぞ。……え!?」
    ×     ×     ×
   ユニットバスから漏れるシャワー音。
   落ち着かない様子で室内をうろうろと歩き回る住田。
住田「落ち着け、落ち着け俺。確かに展開は急すぎる。だが、落ち着いて考えれば大丈夫だ。落ち着け、落ち着け俺」
   立ち止まる住田。しばしの沈黙。シャワーの音だけが聞こえる。下半身を押さえる住田。
住田「う、ちょっとトイレ……(ユニットバスに気付いて)って、今入れないじゃん。あ〜、もう! 落ち着け、落ち着け俺」
    ×     ×     ×
   誰も入っていないユニットバス。
   部屋の床に座る住田。視線がおぼつかない。チラリと横を見る。
   ベッドの上に座る藍。男物のスウェットを着ているが、風呂上がりのため、ちょっとセクシーな感じ。
   慌てて視線を反対側に向ける住田。
   ハンガーにかけられた藍の衣服。その中には下着もある。
   目のやり場に困る住田。ソワソワしている。
住田「えっと……何か食べます?」
   首を横に振る藍。
住田「あ、じゃあ、何か飲みます?」
   首を横に振る藍。
住田「そうですか……。あ、あの、俺、住田友二って言います。二六歳なんで、アイアイの六個上、かな? あ、でも全然気にしなくていいんで。……あ、呼び方はアイアイで大丈夫ですか?」
藍「……できれば、それ以外で」
住田「あ〜、じゃあ、藍ちゃん、とか?」
   頷く藍。
住田「じゃあ、藍ちゃん。あ、一応俺、握手会なんかも行った事あるから『はじめまして』じゃないんだけど……覚えて……ないですよね?」
藍「……すみません」
住田「いや、気にしないで下さい。あんまり印象に残る方じゃないんで……」
   しばしの沈黙。
藍「……聞かないんですね」
住田「え、何を?」
藍「私が、死のうとした理由」
住田「……話したいですか?」
   首を横に振る藍。
住田「なら、聞きません」
   しばしの沈黙。
住田「……鉛筆の芯が折れるようなものですよね」
藍「鉛筆の芯?」
住田「鉛筆って、細い方が使いやすいじゃないですか。だから、どんどん削って。何かあったらまた削って。でも削りすぎちゃうと、ある日折れちゃうんですよ」
藍「はぁ……」
住田「でも最後の最後、芯が折れちゃうキッカケになるのは、実は大した衝撃じゃないんですよね。ただ、削りすぎた芯が、その衝撃に耐えられなかっただけで。だから周りの人からは『何でそんな理由で』って思われたりして」
藍「……」
住田「あ、すみません。何か勝手に語っちゃって」
藍「いえ。……実際、そんな感じなんで」
住田「あ、やっぱり?」
藍「どうしてわかるんですか?」
住田「僕だってありますから。死にたいと思った事の一回や二回くらい……」
   住田の携帯電話が鳴る。

○マンション・恵一の部屋(夜)
   23のCDや喜多桃(19)のポスターで溢れかえる室内。
   電話をかけている住田恵一(28)。
恵一「もしもし、俺俺。事故っちゃったから二百万振り込んでくれないかな?」

○アパート・外(夜)
   ドアの前にてスマホで通話する住田。
   以下、適宜カットバック。
住田「で、何の用だ? 兄貴」
恵一「つれねぇなぁ、ユウは。まぁ、いいけど。いやぁ、今日の23の握手会は良かったぜ? ユウも来れば良かったのに」
住田「誰かさんとバイトのシフト交代させられたからな」
恵一「へぇ、ひでぇ奴もいるもんだな」
住田「……自慢話だけなら切るぞ」
恵一「まぁ、待て待て。俺だって自慢話だけで電話するほど暇じゃねぇよ」
住田「じゃあ何だ?」
恵一「いやぁ、キタモモも連ドラの収録で忙しいだろうに、ちゃんと俺の両手を包み込むような握手を……」
住田「切るぞ」
   電話を切ろうとする住田。ふと思い直して再び電話口へ。
住田「なぁ、兄貴。一つ聞いてもいいか?」
恵一「何だ? 金なら無えぞ?」
住田「今日の握手会、藍ちゃん……じゃなくて、アイアイって居た?」
恵一「あ〜、そういや居なかったな。体調不良って説明があったけど、あれは何か違う予感がするな」
住田「予感って?」
恵一「例えば、熱狂的なファンに誘拐されて拉致監禁状態、音信不通、みたいな?」
住田「……もし本当にそうだったら?」
恵一「そんな奴、ファンの風上にも置けねえよな。死刑だ、死刑」
住田「……」
恵一「お〜い、ユウ。どうした?」
住田「いや、何でも無い。じゃあな」
   電話を切る住田。
住田「……ったく、人の気も知らねぇで」

○同・住田の部屋(夜)
   室内に戻ってくる住田。
住田「すみません、長々と……」
   ベッドで布団もかけずに寝ている藍。
住田「寝てるし」
   藍の寝顔。
藍の声「聞かないんですね。私が、死のうとした理由」
住田「何でだよ……」
   立ち上がる住田。
住田「あれ、俺どこで寝りゃいいんだ?」
   藍の横、ベッドの空いてるスペースを見る住田。下半身を押さえる。
住田「バカっ、俺のバカっ」

○同・外(朝)

○同・住田の部屋(朝)
   玄関脇に寝袋で寝ている住田。目を覚まし、ベッドの方へ行く。ベッドで寝ている藍。布団をかけられている。
住田「……夢、じゃなかったんだな」

○同・同
   ちゃぶ台に向かい合って座り、トーストを食べる住田と藍。
   半分も食べずトーストを皿に置く藍。
藍「……ごちそうさまでした」
住田「パン、嫌いでした?」
   首を横に振る藍。
藍「食欲ないんで……」
住田「そうですか……」
   しばしの沈黙。
    ×     ×     ×
   机に向かう住田。履歴書を書いているが、途中でペンが止まる。ふと横に目をやる。
   ベッドに腰掛ける藍。ボ〜ッと窓から外を見ている。
   藍が気になって履歴書を書き進められない住田。ペンを置く。机の引き出しから23のコンサートのチケットの半券を取り出す。半券を眺める住田。

○(回想)コンサート会場・外

○(回想)同・ステージ
   三百席程度の客席のうち、八割ほど埋まっている。熱気。
   その中を恵一(25)に無理矢理連れられて歩く住田(23)。
住田「何で俺がアイドルのコンサートなんかに……」
恵一「いいからいいから。人生変わるぜ?」
    ×     ×     ×
   23のコンサート。ポップな楽曲。笑顔で歌い踊る藍(17)達。決して歌もダンスも上手くない藍。
   それを見ている住田。藍に心を奪われている。

○アパート・住田の部屋
   机の前に座る住田。ベッドに腰掛ける藍を見ている。意を決して立ち上がる住田。
住田「ちょっと散歩にでも行きましょうか」
藍「え?」
住田「いいから、気分転換に。ほら、行きますよ(と言いながら藍の腕を掴む)」
藍「え、ちょっと……」

○コンビニ・前
   先を歩く住田と、後ろを歩く藍。
藍「どこに行くんですか?」
住田「目的地なんてないですよ。散歩ですから」
   ため息をつく藍。コンビニのショウウィンドウを見て足を止める。
住田「どうかしました?」
   藍の視線の先を追う住田。桃が表紙の青年漫画誌が置いてある。
住田「あ、キタモモ……」

○川辺
   並んで座る住田と藍。先ほどの青年漫画誌を見ている藍。
藍「凄いですよね、桃ちゃん。連ドラに出て雑誌の表紙にもなって」
住田「そうですね。23を知らなくてもキタモモは知ってる、って人も結構多いみたいですし」
藍「同じグループのメンバーなのに、何なんだろう、この差」
住田「少なくとも俺は、藍ちゃんの方が、何て言うか、その……」
藍「……『かわいいね』『将来は女優さんかしらね』」
住田「え?」
藍「子供の頃からそんな風に言われてた」

○(フラッシュ)住田家・リビング
   住田の父と住田の母に自慢げに通知表を見せる幼い住田(7)。
藍の声「そんな風に言ってくれる人達の期待に答えたくて」

○(フラッシュ)同・住田の部屋
   机に向かい勉強する幼い住田。
藍の声「私自身、テレビに出てるような女優さん達に憧れて、あんな風に輝きたくて」

○川辺
   並んで座る住田と藍。
藍「それでコンテスト応募して、受かって東京出てきて」

○(フラッシュ)住田家・リビング
   住田の父と住田の母に大学の合格通知を見せる学生服姿の住田。
藍の声「親や周りの人も応援してくれて」

○(フラッシュ)中小企業A・オフィス
   上司(35)に肩を叩かれる住田。
藍の声「事務所の人達にも期待されて」

○川辺
   並んで座る住田と藍。
藍「でも、東京に来たら私よりかわいい娘なんていっぱい居て。おまけに私なんて歌も下手、ダンスも下手、演技もトークも、何も出来なくて」

○(フラッシュ)営業先の会社A・前
   鉛筆の入った段ボールを抱え、頼み込む住田。断られる。
藍の声「だから、全然結果が出せなくて」

○(フラッシュ)中小企業A・オフィス
   上司に肩を叩かれる住田。
藍の声「でも、発破はかけられて」

○(フラッシュ)同・同(夜)
   席に座り作業をする住田。ふと時計を見ると一一時を回っている。
藍の声「どんどん余裕がなくなってって」

○(フラッシュ)同・トイレ
   嘔吐する住田。
藍の声「プレッシャーに押しつぶされて」

○川辺
   並んで座る住田と藍。
藍「それでも諦めなければ(青年誌を握りしめて)こんな風になれるんだって、何とか頑張って耐えてきた。けど……」
住田「けど?」
藍「この間、鏡の前に立った時、作れなかったんだ。笑顔」
住田「……」
藍「笑い方わからない、って何なんだろう? もしそれが、この先どんなに楽しくても、嬉しくても、何があっても笑えないって事なら、それって生きてる意味あるのかなって思えてきて……」
住田「それで、芯が折れちゃった?」
   頷く藍。
住田「……ねぇ、藍ちゃん」
藍「何?」
住田「あの時、もし俺が邪魔しなかったら、本当に死ねてたと思う?」
藍「……少なくとも、川に飛び込む事は出来てたと思う」
住田「なら、それでいいんじゃないかな?」
藍「え?」
住田「自信もっていいと思う。自分は死のうと思えばいつでも死ねるんだって。この先どんなに辛い事があったとしても、いざとなったら自分はいつでも死ねるんだ。そう思って生きてみる、っていうのもいいんじゃないかな?」
藍「……そこまでして生きて、それでいい事ある、なんて本気で言い切れる?」
住田「それはわからない。けど……」
藍「けど?」
住田「人生が変わるような出会いが、あるかもしれない」
藍「人生が変わるような出会い?」
住田「そう。それまでの人生がガラッと変わるくらいの、出会いが」
藍「それって……(と住田を見る)」
住田「(視線に気付いて)ん?」
藍「ううん、何でもない」
   と言って僅かに笑う藍。
住田「あ、今」
藍「え?」
住田「笑ってた。少しだけだけど」
藍「本当に? 良かった……」
   立ち上がる住田。
住田「じゃあ、行こうか」
藍「うん」
   立ち上がる藍。川の下流の方を見る。
藍「この川、ずっとまっすぐ歩いて行くと、うちの事務所の寮があるんだ」
住田「あ、そうなんだ……」
   上流に向けて歩き出す藍。
藍「? 行かないの?」
住田「ごめんごめん」
   並んで歩く住田と藍。

○アパート・住田の部屋
   23のライブDVDなどが入っている棚。DVDを手に取って見ている藍とその姿を後ろから見ている住田。
藍「凄いね。こんなに集めるの、大変だったんじゃない?」
住田「まぁ、大した事ないよ」
藍「そう? (DVDのパッケージを見ながら)うわ〜、懐かしい〜」
    ×     ×     ×
   キッチンで料理をする住田と、その様子を見ている藍。塩を入れる住田。
藍「ねぇ、量計ってる?」
住田「ん? 適当だよ、適当」
藍「大丈夫なの?」
住田「大丈夫、大丈夫。何とかなるって」
    ×     ×     ×
   ちゃぶ台の上にのった料理。
   それを食べている藍と、その姿を心配そうに見ている住田。
住田「どう?」
藍「……塩、多かったんじゃない?」
住田「やっぱり? 俺もそう思った」
藍「あ、でも、全然食べれるから。大丈夫」
住田「ありがとう。最高の褒め言葉だよ」
藍「いやいや、全然褒めてないよ?」
   笑う藍。
住田「……何か、変な感じ」
藍「え?」
   藍の背後に藍のカレンダーがある。

○同・外観(夜)

○同・住田の部屋(夜)
   ベッドで寝ている藍。
   その様子を見て満足そうな住田。机の上のパソコンに向かう。インターネットの「お気に入り」から藍のブログを選ぶ。パソコン画面に映る藍のブログ。
住田「(ブログを見て)あ……」

○CDショップ・外観

○同・中
   レジに立つ住田。考え事をしている。
   隣にやってくる恵一。同じく店員姿。
恵一「おい、ユウ。何考えてんだ?」
住田「別に」
恵一「俺にはわかる。ユウは今、人生の岐路に立っているんだろ? お兄さんに相談してみろって」
住田「遠慮しとく」
恵一「言えって。気になるじゃねぇか」
住田「断る」
恵一「おいおい、ユウ。お前、俺にそんな事言える立場だと思ってんのか?」
住田「は?」
恵一「お前が今、ここにこうして居られるのは、誰のおかげだと思ってんだ?」
住田「(苦々しい)」

○アパート・外観(夜)

○同・住田の部屋(夜)
   ちゃぶ台の前に座る藍。戸惑った顔。
   藍の横に座る住田。呆れた顔。
   藍の正面に座る恵一。驚いた顔。住田と藍を交互に見比べる。
恵一「(住田に)本物?」
住田「本物」
恵一「何で?」
住田「色々あったの」
恵一「色々って……え、本物?」
藍「戸嶋藍です。よろしく」
恵一「あ、ユウの兄貴の住田恵一です。よろしく。あ、あの……ずっとファンでした」
住田「嘘付くな。兄貴はキタモモ推しだろ」
恵一「今それ言うんじゃねぇよ」
藍「桃ちゃん、人気ありますからね」
恵一「あ、でも、俺がキタモモの次に推してるのはアイアイですから」
住田「うん、兄貴もう帰れ」
   恵一を強引に玄関まで引っ張る住田。
恵一「え、おい、ちょっと」

○同・外(夜)
   恵一とともに出てくる住田。
恵一「ちょっ、ちょっと待てって」
住田「何だよ」
恵一「まさか、二人は付き合って……」
住田「んな訳ねぇだろ」
恵一「ヤったのか? ヤっちまったのか?」
住田「ヤってねぇよ。成り行きで、今この家にいるだけだって」
恵一「本当か?」
住田「本当だよ」
恵一「本当に、コレっぽっちもそういう衝動に駆られなかったのか?」
住田「……駆られてねぇよ」
恵一「何だ、今の間は?」
住田「とにかく、これで満足だろ? 今日は帰ってくれよ。あ、この事は誰にも言うんじゃねぇぞ?」
恵一「それはいいけどよ……どうするつもりなんだ?」
住田「どうするつもりって……」
恵一「このままって訳にはいかねぇだろ? アイアイはアイドルで、アイドルは恋愛しちゃいけねぇんだって事くらい、ユウだってわかってんだろ?」
住田「……そんな事はわかってる」
恵一「じゃあ、どうするつもりなんだよ」
住田「今はまだ……兄貴ならわかるだろ? 今の藍ちゃんは、あの頃の俺と同じなんだよ」
恵一「……わかったよ。ユウの事だから、落ち着いて考えりゃ変な事には走らねぇだろうし。今日の所は、とりあえず帰るわ」
住田「あぁ、悪いな」
   歩き出す恵一。立ち止まり振り返る。
恵一「なぁ、ユウ。今『あの頃の俺と同じ』って言ったよな?」
住田「あぁ」
恵一「俺が思うに、一緒なのはあの頃のユウじゃねぇ。今のユウだ」
住田「は? どういう意味だよ」
恵一「そのまんまの意味だよ」
   再び歩き出す恵一。

○同・住田の部屋(夜)
   部屋に戻ってくる住田。
   23のライブDVDを手に取り、じっと見ている藍。
   そんな藍の様子を見ている住田。
住田「ただいま」
藍「あ、おかえり」
   DVDを棚に戻す藍。
藍「何か面白い人だったね。お兄さん」
住田「ごめんね。根が悪い奴だから」
藍「それ、フォローになってないよ?」
   軽く笑みを浮かべる藍。その様子を見ている住田。

○同・外観(朝)

○同・住田の部屋
   机に向かう住田。履歴書を書いているが、ペンが進まない。
恵一の声「どうするつもりなんだよ」

○(フラッシュ)同・外(夜)
   並んで立つ住田と恵一。
恵一「このままって訳にはいかねぇだろ?」

○同・住田の部屋
   机の前に座る住田。
恵一の声「お前は怖がってるだけなんじゃねぇのか?」
   そこにやってくる藍。履歴書を覗き見る。「京浜大学 卒業」の文字。
藍「『京浜大学 卒業』? 京浜大学って、あの京浜大学?」
住田「え? あぁ、うん」
藍「凄っ。じゃあ、ユウ君ってひょっとして超頭いい?」
住田「そんな事ないって」
藍「でも、こんないい大学出てても就職って難しいんだね。高卒で何も出来ない私なんて、もっと……。あ、書き終わったら見せてくれる? 参考までに」
住田「いいけど、書き終わるか……」
藍「え?」
住田「あ、いや、何でもない。けど、藍ちゃんは履歴書書く機会なんてないでしょ?」
藍「……アイドル、辞めようかなって思ってるから」
住田「それは……精神的に辛い、から?」
藍「それもあるけど……(住田を見て)恋、しちゃったみたいだから」
住田「え……?」
藍「アイドルのまま恋愛する訳にもいかないじゃん? 恋か仕事か、どっちか取るとするなら、私は……」
住田「藍ちゃん……」
藍「……迷惑?」
住田「いや、全然」
藍「よかった……。そういえばユウ君は、何で私の事……?」
住田「あ〜、最初は、兄貴に無理矢理連れて行かれたライブでね。かわいいな、って」
藍「歌もダンスも下手だけど、って?」
住田「でも、輝いてた」
藍「え?」
住田「当時の俺は完璧主義者でね。正解を出さなきゃいけない。ミスするなんてあり得ない。そう思ってた」

○(回想)コンサート会場・ステージ
   笑顔で歌い踊る藍達。決して歌もダンスも上手くない藍。
住田の声「でも、藍ちゃんに出会った。歌もダンスも、上手くはなかったのに、輝いてた。それが正解にも見えた。あぁ、完璧にやらなくてもいいんだ、って」

○アパート・住田の部屋
   向かい合う住田と藍。
住田「塩を入れすぎても食べられれば問題ないんだって。そう教えてくれたのは藍ちゃんだった」
藍「私が……」
住田「俺にとって、人生が変わるような出会いだった。この子を応援するために生きよう、って思えた。藍ちゃんはそういう、凄いアイドルなんだよ。俺にとっても、みんなにとっても」
   パソコンで藍のブログを見せる住田。最後の記事のコメント欄には藍の様子を心配する声、詳しい病状の問い合わせ、激励など様々なコメントが残されている。
藍「こんなに……」
住田「そう。今もこんなにたくさんの人が、藍ちゃんを待ってる。もし俺がコメントしてる側の人間で、突然藍ちゃんがいなくなったら、って思うと……」
藍「……」
住田「だから、俺に応援させてよ。藍ちゃん……じゃなくて、アイアイの事を」
藍「ユウ君……」
住田「……迷惑かな?」
藍「ううん。ありがとう」

○CDショップ・中
   レジの前に立つ恵一。そこにやってくる住田。
恵一「おっ、交代か。じゃあ、俺もう上がりだから、お疲れ」
住田「なぁ、兄貴」
恵一「あ?」
住田「……帰ったから」
恵一「誰が?」
住田「(客に気付き)いらっしゃいませ」
恵一「どこに?」

○アパート・住田の部屋(夜)
   帰ってくる住田。
住田「ただいま」
   何の反応もない。
   ユニットバスを見つめる住田。視線の先には、洗面台の上にある二本の歯ブラシ。

○同・同(朝)
   玄関脇に寝袋で寝ている住田。目を覚まし、ベッドの方へ行く。誰もいないベッド。

○同・同
   ちゃぶ台の前に座り、一人でトーストを食べている住田。トーストを持って机に移動し、パソコンに向かう住田。
   画面には藍のブログが映っている。
   ため息をつく住田。
   藍のブログ記事は「桃ちゃんのドラマに出演します」という内容。

○CDショップ・中
   棚に置かれた23のCDやポップを撤去し、別のCDを置く住田。
女子高生Aの声「キタモモだ!」
住田「ん?」
   外に出る住田。

○同・前
   出てくる住田。
女子高生B「本物ヤバっ、超かわいい」
   ドラマのロケが行われており、女子高生A、Bら大勢の野次馬がそれを囲んでいる。視線の先には桃。
住田「あ〜、キタモモのドラマか……」
   視線を移す住田。監督と話している藍の姿。
住田「アイアイ……」
    ×     ×     ×
   本番に入り、NGを出す藍。監督から演技指導を受ける。
   その様子を心配そうに見つめる住田。
    ×     ×     ×
   本番に入り、OKを貰う藍。安堵の笑みを浮かべる。
   その様子を嬉しそうに見つめる住田。
    ×     ×     ×
   スタッフや桃らと談笑する藍。
   その様子を寂しそうに見つめる住田。
   店内に戻って行く。
恵一の声「何で声かけかなかったんだよ」

○マンション・恵一の部屋(夜)
   食事をしながら向かい合って座る住田と恵一。
恵一「久しぶりの、感動の再会だろ?」
住田「兄貴の言う通りだったんだよ。アイアイと一緒なのはあの頃の俺じゃない、今の俺だった」

○(フラッシュ)アパート・住田の部屋(夜)
   23のライブDVDを手に取り、じっと見ている藍。
住田の声「本当は、心の底では『戻りたい』って思っている。でも……」

○(フラッシュ)川辺(夜)
   傘もささず、ずぶ濡れになりながら川の近くに立つ藍。今にも飛び込みそうな様子。
住田の声「また同じ事を繰り返すのが恐くて最初の一歩が踏み出せなくて……」

○(フラッシュ)アパート・住田の部屋
   机に向かい、履歴書を書く住田。ペンが止まる。
住田の声「でも、アイアイはその一歩を踏み出した。俺がまだ踏み出せてない一歩を」

○マンション・恵一の部屋(夜)
   食事しながら向かい合って座る住田と恵一。
住田「そんな今の俺には、アイアイの前に立つ資格も、会わせる顔も無ぇよ」
恵一「ファンがアイドルの前に立つのに資格も何も必要ねぇだろ。ユウは真面目だな」
住田「兄貴が不真面目なんだ」
恵一「とにかく、ユウはあそこでアイアイに声をかけるべきだった。そこでキタモモを紹介してもらって、そこから俺を紹介すべきだったんだよ」
住田「……まさか兄貴、『言いたい事があるから来い』って、それだけかよ」
恵一「他に何がある?」
住田「……俺がバイト辞める事とか」
恵一「あ〜、これからシフト代わって貰う時、誰に頼むか考えなきゃな」
   ため息をつく住田。

○アパート・住田の部屋
   机に向かい、何かを書いている住田。脇には書き上がった履歴書がある。
   室内のラックにはスーツと藍色のネクタイがかけられている。
住田の声「戸嶋藍様」

○コンサート会場・外観

○同・ステージ
   コンサートの準備をしているスタッフ達。

○同・リハーサル室
   各々休憩している23のメンバー達。一人で座っている藍の元にやってくる桃。封筒を持っている。
桃「はい、これアイアイ宛」
藍「ありがとう」
   封筒を開ける藍。中には住田の履歴書のコピーと便箋が入っている。
藍「(履歴書を見て)書き終わったんだ」
   便箋に目を通す藍。
住田の声「お元気ですか? 日々の活躍、拝見しています」

○オフィス街
   スーツ姿に藍色のネクタイを着けて歩く住田。
住田の声「アイアイと過ごしたあの数日間は私にとってもかけがえの無い日々でした」

○大企業A・会議室
   面接試験を受ける住田。
住田の声「楽しかった思い出、感謝の言葉、離ればなれになった事の寂しさ……」

○マンション・恵一の部屋
   向かい合って座る住田と恵一。
住田「兄貴、頼む」
住田の声「全部はとても書ききれませんが、どうしても一つ、伝えたい事があります」

○コンサート会場・リハーサル室
   手紙を読んでいる藍。
住田の声「この数日間で、私は……」
   藍の元にやってくる桃。
桃「藍ちゃん、始まるって」
藍「あ、うん。今行く」
   手紙をカバンにしまう藍。
住田の声「本気でアイアイを好きになりました」
    ×     ×     ×
   ダンス練習をする23のメンバー。
住田の声「本気でアイアイに恋をしました」
   その中で踊る藍。
住田の声「だから、本気でアイアイのファンをやります」

○アパート・住田の部屋
   ベッドに座る住田。右手には不採用通知を持っている。ため息をつく住田。左手には23のコンサートのチケットを持っている。
住田の声「今度のライブ、もちろん観に行きます」
    ×     ×     ×
   パソコンの前に座る住田。
住田「(画面を見ながら)マジか……」
住田の声「その時、私はアイアイのイメージカラーの青のサイリウムでVサインを作ります」 
   ペンをVの字にして持つ住田。
住田の声「それが私からアイアイへの『愛しています』のサインです」

○コンサート会場・リハーサル室(夜)
   手紙を読む藍。
住田の声「PS、書き終わった履歴書を同封します。これが……」

○同・外観

○同・ステージ
   三百席程度の客席がほぼ満席。
   コンサートが始まり、盛り上がる客。
   ステージで踊る藍。アップテンポな楽曲。客席を見回す。青いサイリウムで作られたVの字を見つけ、笑顔。
   客席にいる住田。青いサイリウムでVサインを作る。
   笑顔で歌い踊る藍。

○(回想)同・リハーサル室
   手紙を読む藍。
住田の声「これが、私がこれまで生きてきた履歴です」
   同封された分厚い便箋の束を見る。一行目には「住田友二 履歴書」と書いてある。
住田の声「アイアイを好きになる瞬間までの私です」

○同・ステージ
   笑顔で歌い踊る藍。
住田の声「この履歴書を、私からアイアイへの恋文に代えさせていただきます」

○(回想)住田家・リビング
   住田の父と住田の母に自慢げに通知表を見せる小学生の住田。
住田の父「おお、凄いじゃないか友二」
住田の母「本当、恵一とは大違いね」
    ×     ×     ×
   住田の父と住田の母に合格通知を見せる学生服姿の住田。
住田の父「良くやったな。さすが友二だ」
住田の母「恵一はあんなだし、お父さんもお母さんも、友二には期待してるんだから、これからも頑張ってね」

○コンサート会場・ステージ
   歌い踊る藍ら23のメンバー。アップテンポな楽曲。
   客席でノリノリな住田。

○(回想)大企業B・外観
   大きな自社ビル。

○(回想)同・会議室
   面接官と対峙する住田。
住田「最近、三年以内に会社を辞める新人が多いのは、忍耐力の不足だと思います。その点、私には忍耐力があります、ぜひ御社でその力を……」

○(回想)駅
   ベンチに座る住田。落胆している。
   傍らに置いてある新聞には「就職氷河期」の文字。

○コンサート会場・ステージ
   歌い踊る藍ら23のメンバー。バラード曲。
   曲に合わせて(青以外の)サイリウムを振る住田。

○(回想)中小企業A・外観
   あまり大きくないテナントビル。

○(回想)同・オフィス
   上司に肩を叩かれる住田。
上司「うちみたいな会社にもこんな高学歴がくるようになったか。幹部候補生だな」
住田「そんな事ないですよ」
上司「期待してるぞ、エリート」
    ×     ×     ×
   住田ら数名の新人の前に置かれる段ボール箱。中には大量の鉛筆。
上司「という訳で、この鉛筆を飛び込みで売ってこい」
住田「え?」
   顔を見合わせる住田ら新人達。

○(回想)営業先の会社A・前
   鉛筆の入った段ボールを抱え、頼み込む住田。断られる。
   地図に×印を付ける住田。
    ×     ×     ×
   ×印で埋まる地図。

○(回想)中小企業A・オフィス
   住田の机の上に置かれた段ボール箱、鉛筆はまだ大量に残っている。
   他の新人達の段ボール箱、残数は住田の半分ほど。
上司「頑張れよ、エリート君」
住田「はぁ……」
   住田の肩を叩く上司。

○(回想)同・同(夜)
   席に座り作業をする住田。ふと時計を見ると一一時を回っている。ため息。
   手元の鉛筆を削っている。

○(回想)営業先の会社B・前
   ドアの前に立つ住田。鉛筆の入ったダンボールを抱えている。
住田「あの、こちら……」
   ピシャリと閉められるドア。

○(回想)中小企業A・トイレ
   嘔吐する住田。

○(回想)同・オフィス
   デスクに座りノートパソコンを開いている住田。画面には誤字脱字を指摘するメール。文末には「頼むよ、エリート先生」と書かれている。
   ノートパソコンを無造作に閉じる住田。席を立つ。
   その勢いで、机の上に置いてあった鉛筆が床に落ちる。鉛筆の芯が折れる。

○(回想)駅
   ホームに向かってくる電車。
   今にも飛び降りそうな様子の住田。
恵一「ストップ」
   立ち止まる住田。
   ホームを通過する電車。
   振り返る住田。立っている恵一。
恵一「やっぱりユウか。久しぶりだな」
住田「兄貴……」

○(回想)喫茶店
   向かい合って座る住田と恵一。電話をかけている恵一。
恵一「おかけになった電話番号は、現在使われておりません。……あ〜、今ちょっと手が離せないんで、後でかけ直す感じでいいっスか? すんません。じゃあ後で」
   電話を切る恵一。
恵一「悪い悪い、バイトの先輩からでな」
住田「……大見得切って高校中退して家出て行ったくせに、結局アイドルオタクのフリーターとはな。兄貴らしいというか」
恵一「ユウこそ、いい大学卒業しといて自殺志願者じゃねぇか」
住田「……」
恵一「で、どうするつもりだ?」
住田「どうするって?」
恵一「仕事辞めるにしても、続けるにしてもこのままって訳にはいかねぇだろ?」
住田「わかってる」
恵一「じゃあ、どうするつもりなんだよ」
住田「仕事は辞めない。辞めたら、兄貴と一緒になっちまう」
恵一「相変わらず見下してくれるねぇ。まぁ俺はどっちでもいいし、それがユウの本心なら構わねぇけどよ」
住田「けど、何だよ」
恵一「ユウは怖がってるだけなんじゃねぇのか?」
住田「怖がってるって、何を?」
恵一「人生が変わる事を、だよ」
住田「人生が変わる事?」
恵一「確かに、ずっといい学校行っていい成績とってきたユウからすれば、社会人歴半年でドロップアウトするなんて、地獄に堕ちるようなもんなんだろうけどよ、生き方なんて、他にいくらでもあるんだからな。怖がらなくていいんだぜ?」
住田「……別に、怖がってなんかねぇよ」
恵一「あ、そ。じゃあこの後ちょっと付き合えよ。死のうとしてたくらいだ、予定空いてんだろ?」
住田「どこに?」
恵一「いい所」

○(回想)コンサート会場・外

○(回想)同・ステージ
   八割ほど埋まっている客席。
   その中を恵一に無理矢理連れられて歩く住田。
住田「何で俺がアイドルのコンサートになんかに……」
恵一「いいからいいから。人生変わるぜ?」
    ×     ×     ×
   歌い踊る藍ら23のメンバー。ポップな楽曲。
   それを見ている住田。藍に心を奪われている。

○同・同
   歌い踊る藍ら23のメンバー。ポップな楽曲のサビ。振り付けはファンも一緒に出来るような簡単なもの。
   客席で同じ振り付けで踊る住田。

○(回想)握手会会場
   藍と握手する住田。
住田「あの……」
藍「はい」
住田「その……」
係員の声「はい、離れて」
   住田から手を離す藍。
住田「あ……」
   数歩進んでから振り返る住田。
   オタク風の男と握手する藍。
オタク風の男「会いたかったよアイアイ」
藍「いつもありがとうございます」
オタク風の男「あれ? ちょっと太った?」
藍「え〜、そんな事ないですよ〜」
   楽しそうに会話する藍とオタク風の男の姿を羨ましそうに見ている住田。

○(回想)コンサート会場・中
   歌い踊る藍ら23のメンバー。アップテンポな曲その2。
   客席からステージを見ている住田。他の客が「キタモモ」等とコールしているが、自身は声が出せない。

○同・同
   歌い踊る藍ら23のメンバー。アップテンポな曲その2。
   他の客と一緒に客席から「アイアイ」等とコールする住田。

○(回想)アパート・住田の部屋
   部屋に藍のカレンダーを貼る住田。
   満足そうに頷く住田。

○(回想)CDショップ・中
   23のCDの棚に手書きのポップを貼る住田。
住田「これでよし、と」

○コンサート会場・中
   歌い踊る藍ら23のメンバー。ポップな楽曲その2。
   客席でPPPHをする住田。

○(回想)恵一の家・恵一の部屋
   23のライブDVDを観ながら、恵一にPPPHを教わっている住田。
恵一「ダメだダメだ。もっとプライドとか羞恥心とか、そういうのを捨てんだよ」
住田「わかってるよ」
恵一「はい、もう一回」

○(回想)オフィス街
   スーツ姿で藍色のネクタイを着けて歩く住田。アイポッドで音楽を聴きながら小さくPPPHの練習をしている。

○(回想)中小企業B・会議室
   面接試験を受けている住田。
   面接官の手元にある住田の履歴書。趣味の欄に「アイドルの応援」と書いてある。

○コンサート会場・ステージ
   歌い踊る23の藍らメンバー。ポップな楽曲その2を歌い終える。
   客席から拍手を送る住田。
    ×     ×     ×
   ステージでMC中の藍、桃ら23のメンバー。
桃「そしたら監督さんが『いいじゃんソレ』って言って。そっちがオーケーになっちゃったんだよね」
   客席から笑いが起きる。
桃「そういえば、アイアイもドラマ出てくれたじゃん?」
   住田を見ている藍。
桃「……アイアイ? 聞いてる?」
藍「……ごめん、その前に一つだけ言わせて貰ってもいいかな?」
桃「え、どうしたの?」
藍「(客席に向かって)この間、握手会とか急に休んじゃんって、すみませんでした」
   頭を下げる藍。
桃「まぁ、人間だし、体調悪くなる事だってあるんだから、気にしなくても……」
藍「恋、してました」
桃「え?」
   ざわつく客席。
藍「あの時、私はアイドルなのに、恋をしていました」
   黙って藍を見ている住田。
藍「私は、その人の事が本気で好きでした。出会ったばっかりの人だったけど。私にとっては、人生が変わるような、そんな出会いでした」
   動揺する23のメンバー。
藍「アイドル辞めて、その人とずっと一緒に居たい、って思いました。……アイドル失格だと思います」
桃「ちょ、藍ちゃん……」
藍「でも、フラれちゃいました」
住田「え……?」
藍「その人は私に『応援させて』って。『本気でファンをやる』って。そう言ってくれました」
   住田を見つめる藍。
藍「おかげで私も、自分の気持ちに気付く事が出来ました。私は、アイドルでいたい」
   会場中を見渡す藍。
藍「このメンバーと一緒に、スタッフさん達に見守られて、ファンの皆さんの前で、歌って踊って笑えるこのステージが、私が一番輝ける場所だと思うから。だから……」
   言葉に詰まる藍。
住田「頑張れ、アイアイ!」
   他の客からの声援が飛ぶ。
藍「だから、もし皆さんが許してくれるなら私は本気でアイドルをやりたいです。本気でアイドルをやりきりたいです。もう一度私にチャンスを下さい。お願いします」
   頭を下げる藍。
   静まる客席。
   顔を上げる藍。目を見開く。
   青いサイリウムで作られたVサインが、客席中に溢れている。
   笑顔で、両手で(計八本くらいの)青いサイリウムでVサインを作る住田。その隣にやってくる恵一。
恵一「俺の協力に感謝しろよ」
住田「まさか兄貴に、ここまでの人脈があったとはな」
   目に涙を浮かべる藍。
桃「……え〜っと、じゃあ、アイアイの本気宣言が飛び出した所で、次の曲行きましょうか。私達の最新シングル曲です。タイトルは……」
藍「『本気でアイ・ラブ・ユー』!」
   満面の笑顔で歌い踊る藍。
   客席から声援を送る住田。

○オフィス街
   T「五年後」

○駅
   スポーツ新聞を読んでいる人。
   一面の見出しに「元23 戸嶋藍 結婚」の文字と藍の写真。
   記事内に書いてある「相手は六歳上の会社員」の文字。    
                 (完)

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。