人物
中田進 (28)派遣社員
荒木崇 (32)中田の同僚
佐藤高広 (38)中田の上司
荒木友美 (28)荒木の妻
○工業団地 俯瞰
田園の中に数個の工場が建つ。
◯三つ葉自動車部品(株) 全景
門柱に『三つ葉自動車部品』のプレート。
敷地内には大きな工場の建屋。
◯同 製造ライン 中
大きなベルトコンベア。
その上を自動車のホイールが次から次に流れる。
作業着を着た数人の作業者たちが、ラインに流れる重そうなホイールを裏返し、金槌を片手に裏面に刻印を打つ作業をしている。
作業を続ける中田進(28)。
中田の斜め前で作業をする荒木崇(32)。
いきなり止まるコンベア。
作業を止め不思議そうな顔の作業者たち。
隣接する事務所から製造ラインに入ってくる佐藤高広(38)。
佐藤「はい、作業止めて、作業止めて、一回
集まってー」
一斉に作業を止め、集合する作業者たち。
その中にいる荒木と中田。
佐藤「えー先日の作業ロットから不良が発生しました。刻印漏れです。ロット表からはこのチームの作業時に発生したことが分かりました」
荒木を見る中田。
佐藤「あのー、なんとかなんないですかねー、 これで何回目ですか?ほっんとに。派遣の方々はウチがダメになっても他に行けばいいんですけど、私らそうもいかないいんでね。信用なくなるんですよ、ちゃんとやってください、こんな簡単な仕事」
お互いの顔を見合わす作業員たち。
◯同 たちばな食堂 入口
入口ガラスに『たちばな食堂』の文字。
◯同 中
多くの社員がテーブルにつき食事をしている。
荒木、テーブルにトレイごと激しく定食を置き席に着く。
荒木「あーイラっとする、佐藤課長」
後に続きテーブルに定食を置き席につく荒木。
中田「言い方がムカつきますけどね」
荒木「何様だっつうの、仕事はしないくせに、そう思わない?」
中田「あれでも正社員っすからね、なりたいっすわー、課長にも出せって言われてるし」
荒木「なに?中田君ってそっち側なの?」
中田「そんなんじゃないっすけど、荒木さんは?今回も希望出さないんすか?これ」
中田、『正社員登用申請書』と書かれた紙をテーブルに置く。
荒木「出さないよ。俺は劇団あるし、夢があるから」
中田「奥さん、なんか言ったりしません?」
荒木、少し詰まりながら、
荒木「う、うん、応援してくれてるよ」
中田「よかった今回は募集、一人なんすよねぇ、ウチは嫁があまり体強くないから早く安心させたいんす」
荒木「おーがんばれ、がんばれ夢の持てない若者よ」
中田「俺は、幸せな家庭を持ちたいだけっすよ」
荒木「いいんじゃない?そういうのも。俺は夢にしか興味ないし、ぜんっぜんだから、応援するために辞退するよ」
中田「あざーっす」
申請書を見つめる荒木。
◯居酒屋 大将 前 (夜)
商店街にある居酒屋。
降りていたシャッターが開き店員たち数名が出てくる。
後から出てくる中田。
店員たち「お疲れ様でしたー」
方々に散る店員たち。
◯商店街 (夜)
店のシャッターが降りた商店街。
スマホを片手に歩く中田。
スマホ画面、ライン『由香:申請書出した?』の文字。
スマホを操作する中田。
スマホ画面、ライン『進:出したよー、熱は?下がった?』の文字。続いてライン『由香:うん、大丈夫、3年間無遅刻無欠勤、きっとなれる!正社員』の文字。
微笑む中田。
ラインの着信音。
中田、スマホを操作する。
スマホ画面、ライン『荒木:トニーズに来ない?』の文字。
ハテナ顔の中田。
◯トニーズ 外観 (夜)
郊外型のファミレス。屋根の上に『トニーズ』の看板。
◯同 店内 中 (夜)
普通のファミレス。入口から入ってくる中田。辺りを見回す。
一つの席にメニューで顔を隠すように座る荒木。
メニューからチラッと顔を出し中田を見る荒木。
中田、荒木に気付く中田。荒木のテーブルに行き座る。
中田「なにやってんすか?」
荒木、小声で、
荒木「しっ、あっち、あっち」
荒木、目配せで別のテーブルを指す。
× × ×
別のテーブルで若い女性と手をつないで楽しそうに話す佐藤。
× × ×
中田「えっ!あれ、総務の和田さんと佐藤課長じゃないっすか?」
荒木「しっ、声出すなって」
ニタニタする荒木。
◯三つ葉自動車部品(株)製造ライン (朝)
作業員たちが集合しコソコソ話をしている。
その中にいる荒木。
出勤してくる中田。
中田「おはようございます」
中田、様子に気付き、
中田「なんかあったんすか?」
作業者「会社のホームページに書き込みがあったんだって、総務の和田さんと佐藤課長が不倫してるって」
荒木と目が合う中田。
ニヤニヤしている荒木。
× × ×
隣接する事務所で佐藤が部長(男性)に怒鳴られペコペコ謝っている姿。
× × ×
佐藤の姿を見つめる作業者たち。
作業者「みっともねー」
持ち場に移動する作業者たち。
ニタニタして中田に近づく荒木。
荒木、小声で、
荒木「スッキリ〜。自業自得」
荒木、中田の肩を叩き去る。
呆気にとられる中田。
◯アパート 外観 夜
古びた2階建アパート。
◯同 荒木宅 玄関 外
表札に『荒木』の文字。
◯同 居間 中
和室二間の部屋。
テーブルに置かれた数枚の『督促状』と書かれた葉書。
督促状を手に取り眺めるお腹の大きな荒木友美(28)。
玄関の開閉音。居間に入ってきて座る荒木。
荒木「悪ぃ、稽古遅くまでかかちゃって」
友美「ご飯は?」
荒木「食べてきた」
友美「稼ぎも少ないのに?外で?」
荒木「牛丼だよ、いいだろそれくらい!」
友美、手に持つ督促状を荒木に投げながら、
友美「出産費用がかさんで、電気、ガス、水 道が止まりそうな家計状況なのになんで外で牛丼なの?正社員になって稼いでからにしてよ。こんな田舎で叶わない夢追うのはいいからさ、家庭を取るのか夢を取るのか?はっきりしてよ、私は一人でもこの子育てるから」
おし黙る荒木。
ため息をつく友美。
立ち上がり玄関に向かう荒木。
友美「どこ行くの」
荒木「外の空気吸ってくるだけ」
友美「そうやってまた逃げる」
荒木、玄関から出て行く。
◯同 玄関 外 (夜)
玄関のドアが開き出てくる荒木。
ポケットから『正社員登用申請書』を取り出し見つめる。
◯三つ葉自動車部品(株)製造ライン (朝)
出勤する中田。
中田「おはようございまーす」
コソコソ話をする荒木と佐藤。
佐藤、中田に近づき、
佐藤「申請書出せって言ったけどアレ無しな、密告するようなやつと仕事できないから」
佐藤、手に持つ申請書を見せる。
氏名の欄に『荒木崇』の文字。
唖然とする中田。
舌打ちをして立ち去る佐藤。
ラインの着信音。ポケットからスマホを出し画面を見る中田。
スマホ画面、『由香:今日発表でしょ?正社員、なれた?』の文字。
荒木、中田の横にきて肩を叩き、
荒木「中田君のせいにしちゃった、悪ぃ、嫁が喜ぶもんだからさ」
顔が曇る中田。
作業台の上にある金槌。
荒木を睨みつける中田。
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