○明の住むゴミ屋敷の入り口(朝)
明、ベースボールキャップを被り、玄関のドアを開く。その拍子にドアの前に置いてある高く積まれた雑誌の束や、どこで拾ってきたのかわからない看板などがバタバタと倒れる。
明「チッ!だらしねーなあお前ら」
明、寝起きのけだるい顔で舌打ちをし、倒れた粗大ゴミを見渡しながら入り口の前へ3歩ほど出て、ウンコ座りをしながら、タバコに火をつける。
○ゴミ屋敷のキッチン(朝)
明、ゴミをかき分けながら、キッチンへ移動し、ガスコンロで鍋焼きうどんを温める。沸騰しかけたところで、横に置いてあった積まれた漫画雑誌が倒れ鍋焼きうどんにぶち当たる。明、うどんに入った漫画雑誌を遠くへ投げ飛ばし、気にせずその場でうどんを食べ始める。
○ゴミ屋敷の入り口(朝)
明、ウンコ座りしながら再びタバコを
ふかしながら、横に置いてある冷蔵庫の粗大ゴミを横にずらす。ずらすと錆びた赤いポストが姿を現す。ポストの中を探ると今日の朝刊が入っていて、それを地べたに広げてざっくりと読み始める。
明「…寒いな」
N(明の声)「決してゴミ屋敷ではない。この家の中と外に置かれている家具、家電、雑貨、工具、雑誌は、全て俺の支えだ。ゴミなどではない。もう一度言う
、決してゴミなどではない」
○ゴミ屋敷のリビング(朝)
服が山のように積まれている。
明、そこからダウンジャケットを何着か取り出し見比べる。ダウンジャケットが話し出す。
ダウンジャケットA「明ちゃん、いよいよ肌寒くなってきたね!ダウンと言えばこのアウトドアのキングオブキングの僕だよね?」
ダウンジャケットB「ふん!キングオブキングだと?昔の栄光いつまで引きずってんだよ!」
ダウンジャケットA「何だと?」
ダウンジャケットB「今の若い連中は、俺様の独壇場なんだよ!」
ダウンジャケットA「何言ってやがんだ!機能性、保温性、撥水性、何よりこのデザイン!全てにおいてお前は、この俺様を超えることはできないんだよ!」
ダウンジャケットB「ふん!デザインてそのモスグリーンみたいな色でよく言うよ」
ダウンジャケットA「これは、モスグリーンじゃねえ!マラカイトっていうんだよ!」
ダウンジャケットB「誰が見たってモスグリーンだろ?マラカイトなんて聞きなじみのないカラー名で差をつけようとするところが鼻について人気落ちたんだよ。とにかく今は、アウトドアもヒップホップも俺の独壇場だよ!」
ダウンジャケットA「ていうかお前さあ、独壇場って言うけどさあ」
ダウンジャケットB「何だよ?」
ダウンジャケットA「お前の仲間たちは人気かもしれないけどさあ」
ダウンジャケットB「な、何だよ?」
ダウンジャケットA「お前自体は、20年前 に流行ったデザインだろ?90年代の中高生が着てたデザインじゃん!」
ダウンジャケットB「そ、それはこないだ言わないって約束しただろーが!」
ダウンジャケットA「お前がモスグリーンとか言うからだろ!」
明「うるせーな!どっちも終わってんだよ!お前らが流行りどうこうで勝負してんじゃねえよ!」
ダウンジャケットA、B「はーい」
明「今日はこっち着るわ」
明、ベージュのダウンを取り出して着る。
ダウンジャケットA「えー!よりにもよって探偵物語?」
ダウンジャケットB「そりゃないよー」
ベージュのダウン「明ちゃん、分かってるじゃない」
明、ベースボールキャップを被り直す。
○ゴミ屋敷の入り口(朝)
明、ベージュのダウンを着て再びタバコをふかし辺りを見回す。
N(明の声)「このように俺は、家に置いてある全ての物達と話せるのだ。ゴミなどではない。こいつらは俺のブラザーだ」
タイトル「果ての海峡」
T「30年前」
○(回想)明と父母が住むアパート(夕方)
明(10歳)、ファミコンのスーパーマリオで遊んでいる。その横にある小さな台所で母の恵子(36)が晩御飯の支度をしている。
恵子「明、ご飯の時間だから、ゲームやめなさーい」明「うん分かった。もうちょっとだけ」
父、健三(36)が部屋に早足で入る。
恵子「おかえりなさい」
健三「おい!3万ねえか3万!」
恵子「何に使うのよ!?」
健三「うるせー!早く3万出せ!」
健三、恵子のバッグをみつけ、中からサイフを取り出す。
恵子「ちょっと止めてよ!3万なんて使ったら今月持たないわよ!止めて!」
恵子、健三からサイフを奪う。
健三「じゃあ1万で良いよ!早く出せ!」
恵子「ギャンブルに使う金なんて無いわよ!うちの状況分かってるでしょ?家賃に食費に明の給食費だけでいっぱいいっぱいなのに!」
健三「早く出せ!1万で良いんだよ!」
恵子「絶対ダメ!」
健三「クソッ!」
健三、ファミコンをしている明を見る
。
健三「ガキが生意気にゲームなんてしてんじゃねえ!」
健三、ファミコンを取り上げる。
明「止めてよ!」
恵子「何すんのよ!」
健三「金出さねえなら、これ質に入れてくんだよ!」
恵子「そんな子供のおもちゃが金になるわけ無いでしょ!止めなさいよ!」
健三「こんなくだらんもんで遊ばせるからガキが腑抜けになんだよ!」
恵子「腑抜けはあんたでしょ!仕事もしてないくせに!」
健三「うるせー!」
健三、恵子を引っ叩き、サイフを 奪い取り、そのままアパートを抜け出す。
恵子「この人でなし!!!」
恵子泣きながら、明を抱きしめる。明、虚ろな表情で黙っている。
◯明と父母が住むアパート(夜中)
健三、帰ってくる。しゃっくりをしながら、ブツブツと何か独り言を言いながら、台所で水を飲む。
恵子は夫婦の寝室で寝ている。
明は、自分の部屋で寝ているが健三の帰って来た音で目を覚ます。
健三、明の部屋へ入って来る。
明、急いで布団を被り寝たふりをする。健三、明の布団を半分ほど捲り、寝たふりをしている明に話しかける。
健三「おい明。お前今年で10歳だよな。ちん毛は生えて来たか?あ?‥‥おい、起きろ!」
健三、明の頭を叩く。
明、目を開け健三を見る。
健三「お前に良いこと教えといてやるよ。あのなあ、世の中で金を稼いでる奴は産まれた時から金持ちの子供って決まってるんだ。政治屋見りゃ分かるだろ?あいつら偉そうな顔してるけど、みんな偉い政治屋の子供や孫だ。貧乏人は、いくら頑張ってもその偉い連中に搾取される人生って最初から決まってるんだ。でもなあ、そんな貧乏人が金持ちになれる方法が一つだけあるんだよ」
明「‥‥何?」
健三「いいか?お前はまだ10歳だ。馬鹿だし、世の中のことも知らない。でもそんな子供だからこそできる特権がある」
明「特権?」
健三「そう特権。それは、少年法だ」
明「少年法?」
健三「14歳までは、どんな犯罪をしようが、刑務所に行くことは無い。物盗もうが、人殺そうが、人んちに火をつけようがお前は、犯罪者として刑罰を受けることは無いんだ」
明「それで金持ちになれるの?」
健三「そこが問題だ。たかが万引きしたって、人ぶん殴ったって、そんなもん親が謝って終わり。金持ちなんてなれない。金持ちになるにはな、テレビのニュースでたくさん取り上げられる程の悪いことをするんだ」
明「ニュース‥‥?」
健三「お前、学校で虐められてるそうだな。虐めてる奴は誰だ?」
明「橋本君だよ」
健三「そうか。じゃあ、その橋本って奴の頭にこれをぶっ放して来い」
健三、懐からトカレフを取り出す。
明「それって‥‥ピストル」
健三「おう。これは、BB弾じゃない。本物だ。歌舞伎町で仕入れたんだ。これを橋本ちゃんの頭にぶっ放して来い!」
明「そんなことできないよ」
健三「いや。出来る。お前は俺の子だ。俺の血を引いてる。」
明「橋本君にピストルを撃って何で金持ちになれるの?」
健三「それはな‥‥」
◯明の通う小学校(放課後)
明の同級生、橋本哲也(10歳)
が下駄箱で靴を履き替える。下駄
箱に手紙が入っている。封筒には「橋本君へ 明」と書いてある。哲也が手紙を開いて読む。手紙には「今日の6時山城公園に一人で来い。松井 明」と書いてある。
◯山城公園(6時頃)
陽が下がって、暗がりの公園に哲也が来る。公園の真ん中辺りに明が突っ立っている。
哲也「なんだよ?明。こんなとこ呼び出しやがって」
明「き、来てくれたんだ‥」
哲也「何か用か?」
明「は、橋本君‥いや、‥‥橋本!」
哲也「お?何だって?」
明「橋本!お前よくも今までいじめてくれたな!」
哲也「は?何だ?こいつ?俺とやんのか?」
明、ランドセルから、トカレフを取り出す。
哲也「ん?何やってんだよ?」
明、哲也にトカレフの銃口を向ける。
哲也「おい‥」
哲也、顔が青ざめる。
明、哲也に銃口を向け、さらに近づいていく。
健三の声「いいか?明。ガキのうちにニュースになるような派手な事件を起こせ。そうすれば下世話な世間は、お前に注目する。お前は、重い罰を受けることもない。刑務所に行くことも無い。大人になったら色んなメディアがお前に寄って来る。聖人君子ツラしたニュースキャスターもお前にごますって話を聞きに寄って来る。そして出版社から手記の依頼が来たら、こっちのもんだ。あること無いこと書いて、お前は印税でウハウハだ。勉強なんてしなくても一生懸命働かなくても、気に入らない友達を撃ち殺すだけで、お前の人生はバラ色だ。俺みたいに金にも困らない。コツコツ働かなくていい自由な人生を歩めるんだ」
明、哲也を睨みつけながら、トカレフを哲也に向け、引き金を引こうとする。引く指が震えている。
哲也「やめろ!明!やめてくれ!今までいじめて悪かった!もうしないからやめてくれ!おい!明!俺たち友達だろ!明!なあ!?」
哲也、腰が抜けて地面に崩れる。
明、気持ちが切れてしまい引き金が弾けず、トカレフを下に向け手から落とす。
哲也「この野郎!ふざけんな!てめえ!」
哲也は立ち上がり、明に掴みかかりぶん殴る。公園の木陰に隠れていた哲也の子分達4人が哲也の 元に駆け寄り、一緒に明をボコボコにする。地べたに倒れた明は、ボコボコにされながら、嗚咽する。
明「チキショー!クソー!うっ!うっ!うっっ!」
◯明と父母が住むアパート(真夜中、日かわって)
恵子、明とアパートを飛び出る。
N(明の声)「そんなわけで、重度のアル中とギャンブルの借金で荒れ果てた父から逃げ母一人子一人の生活が始まった」
◯明が通う学校の帰り道(日かわって夕方)
明、友達と歩きながら会話をする。途中の十字路で友達と別れを告げる。明「じゃあね!」
友達A「バイビー!」
友達B「また明日ね!」
明、自宅の新しいアパートまで歩く
。
N(明の声)「新しい学校では、すぐ友達もできて、あの辛かった学校生活から解放された‥‥はずだったが」
◯明と母が住むアパート(夕方)
明、自宅アパートのドアを開ける。
明「ただいまー!」
恵子からの「おかえり」の返事が無いことでおかしいなと感じた明はランドセルをリビングに置く。
辺りの部屋を周り、母を探す。
明「お母さん?‥‥お母さーん!」
明、風呂場へ行く。風呂場のドアから喘ぎ声がする。風呂場のドアをそーっと開けると恵子が知らない男と風呂の中でセックスをしている。
恵子「ああ!そこ!ああ!イク」
男「気持ちいいか?雌ブタめ!どうだ?」
恵子「ダメ!いっちゃう!!ああん!」
明、母の情事を目の当たりにし、アパートを飛び出し、近くの川原を泣きながら全力疾走する。
明「チクショー!!」
◯(戻って)ゴミ屋敷の入り口(朝)
明、吸い終わったタバコをポイ捨てし、足で踏んづける。眩しげに晴れた空を見上げている。
N(明の声)「今の俺の状況は、あの幼き頃の色んな思い出が糧になっている。決してトラウマなんかじゃない。この家に置いてある無数の宝物のように大事な大事な思い出だ」
◯ゴミ屋敷の中(昼)
明、ゴミの山の上で仰向けで寝て いる。天井に吊り下げられた照明器具に顔がぶつかりそうなくらい近い。明、徐に起きてゴミが崩れないようにしながら玄関へ向かう。
◯同・入口(昼)
明、タバコをふかしている。そこへ、TVのリポーター山崎(46)とカメラマン(35)の2人が恐る恐る近づいてくる。
明「…まーた、お前らか」
山崎「またお話しを聞きに来ました!」
明「お前らに話すことなんてねーよ!あっち行け!」
山崎「そう言わずに。多少のギャラもお渡ししますんで」
明「そんなもんいらねーよ!おい!何許可なく撮ってんだよ!」
山崎「大丈夫ですから。顔はモザイクで隠しますんで」
明「そんなもん意味ねーだろ!お前らが来た後は、必ずうちの前に知らねえ連中が来て物投げたり、ケンカ腰で抗議に来たりしやがんだ!どうせテレビでワルモンに仕立てて流してんだろ!」
山崎「だってワルモンじゃないですか」
明「あ〜!?何だって!?」
山崎「不衛生なゴミを外にまでバラまいてんですから」
明「うるせー!これは、ゴミじゃねえっつってんだろ!!俺の財産なんだよ!」
山崎「歩道にまでゴミが散乱してるんですよ?」
明「散乱?ちゃんと整理してるだろーが!言葉に気をつけろ!」
山崎「周りに迷惑がかかっているという認識はあるんですか?道路にゴミを放置して、通行を妨げるのは、道路交通法違反ですよ」
明「この道に財産を置いといていったい誰が迷惑してるんだ?え?実際迷惑してる奴がいるなら連れて来い!」
山崎「この問題はもう僕らだけのイザコザじゃなくなってるんですよ。昨日の市長の定例会見見ましたか?」
明「知るか、そんなもん」
山崎「ちょっと観て頂けますか?」
明「あ?何だよ?」
山崎「ちょっとだけでいいんで」
山崎、タブレットPCを鞄から出
し、市長の会見の映像を見せる。
明、けったいな顔をしながらタブレ ットPCを観る。
市長(PCの映像)「歩道までゴミが出てるのは、周りに迷惑をかけますし、住民たちに衛生的にも問題なので、そのうち行政代執行法で強制撤去も考えております」
山崎、タブレットPCを閉じる。
山崎「まあ、こういう風に市長が言ってますんで、気をつけた方が良いですよ」
明「ふん、2世のバカ息子が偉そうに」
山崎「いや、列記とした永山市の市長ですよ」
明「所詮、親の地盤を受け継いだだけじゃねーか。こいつ自身コネ意外何もねえじゃねえか。生まれた時から甘やかされて大した努力もせずに大人になったら死んだ親父の遺志を受け継ぐとか何とか言ってバカ共を騙してよ。そうだ、それだけは認めてやるよ」
山崎「何をですか?」
明「選挙の時の涙だけは、迫真の演技だったな。まあ、そのうちまた涙流しそうだけどな」
山崎「何故です?」
明「土建屋に汚ねえ金もらってるらしいじゃねーか」
山崎「それは、噂のレベルですよ?」
明「噂で食ってる奴が何言ってる。お前もホントは知ってんだろ?だいたい親父も賄賂で潰れてんだ。血は争えねえ。だいたいあんな誰もいねえ土地に急に道路作りだした時点で怪しいんだよ。いらねんだからあんな道路。なんか気づかない間にしれーっと作りやがってよお」
山崎「ずいぶんとゴシップに詳しいんですね」
明「こちとら新聞取ってんだ。その程度のことは知ってるわ。バカにすんな」
山崎「とにかく町内の皆さんに迷惑かけないように。また来ますんで」
明「うるせえ、二度と来んな!」
山崎、軽く会釈をし、カメラマンと去っていく。
山崎「ずいぶんと悪態ついてたな」
カメラマン「いい画撮れましたね」
◯東日本テレビ(日かわって昼)
ワイドショー番組「昼ワイド」で明 のゴミ屋敷取材の映像が流れている。明の顔にはモザイクがかかっている。
◯同・「昼ワイド」スタジオ
リポーターの山崎が司会者、山根(45)の横で明の映像を見た後コメントする。
山崎「このようにですね、ゴミ屋敷で住民が迷惑しているという問題について尋ねたはずが、全く関係無い市長批判をして開き直ると言った始末でして、本当にこっちサイドも呆れてものが言えない状況でしたね」
山根「真っ当な批判ならまだしも、ゴシップレベルですからねえ。ホントに困ったもんです」
◯同・「昼ワイド」のスタッフルーム(番組終了後)
番組スタッフルームに明について批判した山崎や山根への批判と明に対する賞賛のファックスやメールが何百通と届く。スタッフA、ディレクター奈良崎(46)のデスクへ行く。奈良崎、デスクで鼻をほじりながら、スマホをいじっている。
スタッフA「ディレクター、お疲れ様です」
奈良崎「お疲れちゃん」
スタッフA「今日特集したゴミ屋敷の件なんですが」
奈良崎「なに?なんか反響あった?」
スタッフA「結構大変なことになってて」
奈良崎「何が?」
スタッフA「なんかうちらへの批判が集まってて」
奈良崎「どのくらい?」
スタッフA「メールで1万通、ファックスも千通以上、電話も凄くて。山根さんと山崎さんの批判がほとんどです」
スタッフA、山根と山崎の批判が 書かれたメールの紙を奈良崎に見せる。メールには、「ゴミ屋敷の人をからかって正義ズラしてんじゃねえ!
」「ゴミ屋敷の人を悪者にする偏向報道にガッカリ」「このオッサンいじめてる暇あったら大手事務所のスキャンダル批判しろ!」「あのオッサンの方がお前らより正しい!」など。
奈良崎「ふーん。‥‥とりあえず山崎さんに言っておくわ」
◯山崎の楽屋(夕方)
テーブルに批判メールの紙が並べてある。山崎、畳に胡座をかき、しかめ面をしながらメールを読む。奈良崎、正座して山崎の反応を見ている。
山崎「ったく世間は天邪鬼だよなー」
奈良崎「本当ですよね。こっちは、住民の側に立って報道してるのに、こんな反応ですからね。所詮庶民は、テレビ側に文句言いたいだけなんですよ。これは、そのきっかけに利用されてるだけなんで。まあゴミ屋敷の特集は、ほとぼり冷めたらまたやりましょうよ」
山崎「いや、ダメだ」
奈良崎「はい?」
山崎「こんな批判で腰引けてたまるか。ジャーナリズムってものを見せてやる!」
◯東日本テレビの入り口(夜)
山崎、タクシーが来るのを待つ。奈良崎とスタッフA、山崎を見送りする。
山崎「とりあえず、また明後日辺り、ゴミ屋敷の取材行くから、スタッフ手配しといてね」
奈良崎「了解です!簡単な流れとか事前に打ち合わせしときます?」
山崎「そんなのいいんだよ!現場のその時の空気で取材する内容も変わるんだから」
奈良崎「そうですよね!了解です!」
山崎「こっちは現場のプロだよ」
奈良崎「もちろんです!」
タクシーが山崎の前に来る。
山崎「ジャーナリストの底力見せてやるよよ!」
奈良崎「お願いいたします!」
山崎、タクシーに乗る。
奈良崎「お疲れ様でした」
奈良崎とスタッフA深々とお辞儀 して見送る。山崎の乗ったタクシーが去っていく。
奈良崎「何がジャーナリストだよ。単なるゴシップ記者が」
スタッフA「このまま取材続けたら、批判が悪化して、めんどくさいことになりそうですけど」
奈良崎「まあ、嫌よ嫌よも好きのうちだからよ。注目されてるだけマシよ。レーティングも上がったしよ」
スタッフA「コンプライアンス的なものは、引っかかりますけどね」
奈良崎「コンプライアンス?知るか、そんなの。いざとなったら、あのゴシップ記者がケツ拭きゃいいんだから」
スタッフA「まあ、そうですね‥」
奈良崎「よしっ!ギロッポン行くぞ!」
スタッフA「はい!」
奈良崎とスタッフA、テレビ局に入っていく。
◯明の住むゴミ屋敷の玄関(日かわって朝)
明、リポーター山崎の取材を受けている。
山崎「このままだと永山市から歩道のゴミが強制代執行される可能性も‥」
明「ゴミじゃねえっつってんだろ!だいたい市の連中が俺の自由を奪う権利なんてあるのかよ!あいつら市民の血税と国の補助金でクソくだらない建物建てたり天下り用の会社作ったりしてやがんじゃねーか!え?そうだろ?」
山崎「それとこれとは話が別じゃ‥‥」
明「別じゃねーよ!その金を市民に回してやれっつってんの!」
明、カメラを睨みつけ指を指す。
明「無駄なハコモノの方がよっぽどゴミだ!」
◯東日本テレビ「昼ワイド」スタッフルーム(昼)
番組に対する批判の電話やファックス、メールがひっきりなしに届く。
◯明の住むゴミ屋敷の玄関(日かわって朝)
明、リポーター山崎の取材を受けている。
山崎「やっぱり、町内に住む人間としてのマナーや責任があると思うんですが‥」
明「責任?俺みたいな犯罪も犯してない恙無い人生送ってる一般人に何の責任があるんだ?それよりこないだ市の職員が過労で自殺した件は、どうなんだ?無理な残業させて挙句に残業代も出さない上に、そいつのキャパ以上の仕事させてよ。仕事しなけりゃ首切られ、仕事すりゃおかしくなるまで働かされて人を人として扱ってないじゃねーか!え?あの市長は、部下を殺した責任を取るべきだろ!」
明、カメラを睨みつけ、指を指す。
明「永山市というブラック企業に俺の権利を奪われる資格は無い!」
◯東日本テレビ「昼ワイド」のスタッフルーム(昼)
番組に対する批判の電話、ファックス、メールが更に増える。
スタッフA「マジかよ。どんどん増えてるよ」
◯明の住むゴミ屋敷の玄関(日かわって朝)
明、リポーター山崎の取材を受けている。
山崎「今回の曽我部内閣の政権公約についてお伺いしたいのですが」
明「まあ選挙で過半数以上の指示があった訳だから民主主義のルールに従うならば、国民が曽我部の公約に納得したって事だろうけどよ。だからと言って、公約に無いことまでぶち上げて強行採決するっていう今までの悪しき体質だけは
、止めてくれって言いたいよな。特に安全保障に関しては、野党も含めて建設的な議論をしてくれないとな。アメ公の言いなりで自衛隊が無駄死にすることだけは避けて欲しいね」
山崎「ありがとうございました!」
◯東日本テレビ「昼ワイド」スタッフルーム(昼)
ディレクター奈良崎とスタッフAがPCで批判メールを見ている。スタッフルーム中の電話が鳴り、ファックスも紙が切れるほどの量が来ている。
スタッフA「レーティングも上がってますけど、うちらの批判や誹謗中傷メールも日増しに増えてますよ!」
奈良崎「うーん。難しいとこだな。レーティングは上がってもコンプライアンス的にまずいと局にも迷惑かかるからな」
スタッフA「え?ディレクター、コンプライアンスなんて関係無いってこないだ言ってませんでしたっけ?」
奈良崎「限度ってもんがあんだろ」
スタッフA「山崎さんなんかこないだマンションの前で不審な奴につけられたらしいですし」
奈良崎「あの人そういうので逆に燃えるタイプだもんな」
スタッフA「ほら、見てください。掲示板のスレッドもレスが5000超えてますよ!」
奈良崎、レスのコメントを流し見する。ほとんど番組側、司会者、山崎に対しての誹謗中傷が書いてある。
奈良崎の経歴と自宅の住所まで晒されている。
奈良崎「何だよー、俺まで晒されてるじゃねーか」
スタッフA「山根さんと山崎さんだけでは、止まらない勢いですね。見てください。永山市長の直電まで晒されてるんですよ。もうこれいつかのエンブレム騒動なみですよ」
奈良崎、渋い表情でPCを見つめる。
◯同・スタッフルームの隣にあるプロデューサー室
奈良崎、ノックをしてプロデューサ ー室に入る。プロデューサーの岩井川(55)がタバコをふかしている。
岩井川「は〜い」
奈良崎「失礼します!プロデューサー!」
岩井川「どうした?」
奈良崎「ゴミ屋敷の反響なんですが」
奈良崎、岩井川に批判メールの 紙の束を見せる。
岩井川、それらを流し見しなが ら、またタバコをふかす。
◯明の住むゴミ屋敷(日かわって早朝)
明、ゴミに囲まれた部屋に小さな スペースを作りそこで丸まって寝ている。明、外から「ガシャンッ」という大きな音が聞こえ、その音で目を覚ます。明、何事かと眠気まなこで玄関を出る。入り口前の歩道に放置してあった、本棚が倒れている。それにぶつかったと思われる女性、亜利沙(36)が尻餅をつき脛を抑えている。脛から血が流れている。
明、慌てて亜利沙のもとへ駆けつける。
亜利沙「いったあ〜‥‥」
明「大丈夫?血が出てる!ちょっと立って!手当しなきゃ‥」
亜利沙、尻餅をつきながら、何か を手探りで探している。
亜利沙「棒が無い。棒ありませんか?」
明「棒?」
明、亜利沙の背後に白杖が落ちているのを見る。亜利沙がサングラスをしているのと白杖を探している姿を見て視覚障害者だと気づく。
明「棒は、ここにあるよ。それより足から血が出てるから処置しなきゃ」
明、亜利沙を抱き抱える。
明、倒れた本棚に怒る。
明「馬鹿野郎!気をつけろって言ってんだろ!」
本棚「そんなこと言われても」
亜利沙「す、すいません!」
明「あ、いや、君のことじゃないから」
亜利沙「え?」
◯同・玄関
明、亜利沙の足に絆創膏を貼る。
亜利沙、玄関の段差に腰掛けなが ら足を抑える。
亜利沙「すいません」
明「いや、謝らなきゃいけないのは、俺の方だよ。あそこに物を置いたのは俺だから
」
亜利沙「粗大ゴミかなにかですか?」
明「いや、まあ‥‥」
亜利沙「すいません今何時ですかね?」
明「えーと6時前くらい」
亜利沙「そうですか」
明「これから仕事?」
亜利沙「はい、復職しまして。今日が初出勤なんです」
明「そうなの?そりゃ大変だ。早く行かなきゃ」
亜利沙「いや、今日は、一発目なんで遅刻だけはしないようにかなり早く家を出たんで、まだ大分時間は、あります」
明「ああ、そうなんだ」
亜利沙「ちょっと一服良いですかね?」
明「え?‥‥タバコ吸うの?」
亜利沙「ええ」
明「ちょっと家の中は困るから、外に案内するよ」
亜利沙「はい、すいません」
◯同・玄関前
亜利沙、タバコをふかす。
明、人が自分達を見てないか気に
なり、辺りをキョロキョロとする。
亜利沙「何か探してるんですか?」
明「え?いや‥ちょっと。ていうか、‥失礼だけど‥俺がキョロキョロしてんの分かるの?」
亜利沙「ええ。見えない分、耳が発達してて、微細な音も聞こえるんです」
明「そうなんだ」
亜利沙、吸い殻を携帯灰皿に入 れる。
亜利沙「それじゃあそろそろ行きます」
明「ああ、行き先はどこなの?」
亜利沙「太田駅の方です」
明「ああそうか。じゃあ、駅まで誘導するよ
!」
亜利沙「いや、結構です!それくらい自分でできますから」
明「ああ、そうか。なんか悪いね」
亜利沙「いや、お気遣いありがとうございます」
亜利沙、左右に振って歩いていく。明、それを玄関から見送る。
明、歩道に倒れた本棚を玄関に移
す。
◯同・ゴミ屋敷の部屋
明、ため息をつきながら寝ていた部屋へ戻る。仰向けになりながらぼーっと考え事をしている。
明「ビックリした〜‥‥座頭OLか‥」
◯同・ゴミ屋敷の部屋(夕方)
明、イビキをかいて寝ている。
玄関の前から大きなガタンという
音で目がさめる。
明「ん?なんだなんだ?」
明、玄関のドアを開けると、亜利沙が雑誌の束につまづいてこけている。
亜利沙「いった〜っ!」
明「またかよ!」
明、慌てて亜利沙を抱き抱える。
明「大丈夫!?」
亜利沙「あ、気にしないでください」
明「気にするよ!今日2回目だよ?怪我は無い?」
亜利沙「大丈夫です。軽くつまづいただけですから」
明「朝は、歩道に棚が置いてたから俺に落ち度があるけど、ここは、敷地内だよ?
?」
亜利沙「いや実は、朝、手当して頂いた時に家のカギをここに置き忘れたみたいで
」
明「え?カギ?」
明、人が見てないか辺りを見渡す。
明「ちょっととりあえず家に入りな!」
亜利沙「すいません」
◯同・ゴミ屋敷の部屋(夜)
空き瓶や雑誌、ラジオが乱雑に置いてあるテーブルに亜利沙の家のカギが置かれている。
亜利沙、カギを触り、刻まれた数字と形を確かめる。
明、缶ビールを飲んでいる。
亜利沙「これです!」
明「良かった〜‥‥」
亜利沙「ほんとなんべんも迷惑かけてすいませんでした!」
明「いや、元はといえば俺が悪いんだから気にしないで」
亜利沙「それにしてもこのお住まい、沢山物が置いてあるんですね」
明「あ、気づいちゃった?」
亜利沙「ええ。カギを探して頂いてる間に少し周りを確かめてみたら四方八方に色んな物が触れたので。ここは、何かの作業場なんですか?」
明「いや、作業場って程じゃないんだけど、まあ、なんというか‥‥買った物を手放すことができなくてね」
亜利沙「はあ、そうなんですか」
明「物を買うと思い入れができちゃって、物というより俺の仲間みたいな気持ちになるんだよ」
亜利沙「なんか病気なんですか?」
明「病気?」
亜利沙「あ!すいません!余計なこと言っちゃった!」
明「いや大丈夫‥‥他人から見りゃ病気と思われてもしょうがないから」
亜利沙「でも物を大事にするって素敵だと思います」
明「そうだろ?気に入って手に入れた物を手放すのは、自分で自分の価値観を否定するようなもんよ。俺はそんなに簡単に過去を切り捨てられないんだよ。一度手に入れた物は、どんなことがあっても手放さない」
亜利沙「はあ‥‥」
明「こいつらは人間の感情を持ったまま金魚鉢に入れられるメダカみたいなもんさ」
亜利沙「え?どういうことですか?」
明「まあ…どうということも無いんだけど」
亜利沙「はあ…」
明「今、なんか面倒くさいと思った?」
亜利沙「いやとんでもないです!素晴らしい考えだと思います」
明「そうかなあ、自分でも面倒くさいと思うけどな」
亜利沙「まあ、そうですね」
明「おい!どっちなんだよ」
亜利沙「冗談です」
2人、笑う。
明「いいんだよ。遠慮なく本音言っちゃって」
亜利沙「そうですか。‥‥なんか‥買った物全てに思い入れを持ってたらキリがないんじゃないかと」
明「うん分かるよ。でもね、一度いいなと思った物を手放したら、一つ不安が増えるんだ。俺の心を支えてるのは、ここにある無数のガラクタなんだよ」
亜利沙「‥好きな人もですか?」
明「え?」
亜利沙「好きな人が離れて行ったらどうなるんですか?」
明「そこは、運がいいんだか悪いんだか。今まで付き合ったことが無いんだ」
亜利沙「そうなんですか」
明「異性だろうが同性だろうが‥‥親だろうが‥人は信頼できないからね」
亜利沙「それは、ちょっと偏ってるんじゃ‥‥」
明「そうだよ。偏ってるよ。でもこれは俺だけの真実なんだ」
亜利沙「ちょっとすいません」
亜利沙、明の顔を手で触る。
明「何?何?何してんの?」
亜利沙「ハンサムですね」
明「そうかな?」
亜利沙「凄く整ってますよ」
明「ありがとう」
亜利沙「てっきりモテない人の言い訳かと思ってました」
明「君、随分なこと言うね」
亜利沙「すいません、私図々しいんです」
明「裏がなくていいよ」
亜利沙「あなたも、裏の無い人だって分かりました」
明「そうだろ?」
亜利沙「私にも一杯くれます?」
明「おう、飲め飲め!」
◯同・ゴミ屋敷(夜明け、日かわって)
明と亜利沙、寝床で微妙な距離を置きながら寝ている。
明、目を覚ます。時計を見る。朝の5時半。
明、亜利沙を優しく起こす。
明「ねえ、起きて」
亜利沙、目を覚ますが半分寝ている。
亜利沙「う、うーん」
明「ねえ、起きてよ」
明、亜利沙の肩を激しく揺らし、無理矢理起こす。
亜利沙「今何時ですか?」
明「まだ5時半だよ」
亜利沙「じゃあ、もう少し寝かせてくださいよ」
明「いや、ダメだ」
亜利沙「こんな時間に用事でも?」
明「人通りが増えると色々とめんどくさい事になる」
亜利沙「私は大丈夫ですけど」
明「俺が困るんだ」
亜利沙「‥‥分かりました」
亜利沙、手探りでサングラスを探す。
明がサングラスを手に取り、亜利沙にかける。
亜利沙、明に手を借り立ち上がる。
亜利沙「まだ始発が出てないかも」
明「大丈夫。タクシー呼ぶよ」
◯同・玄関前
送迎のタクシーが来る。明、亜利沙の手に3000円渡す。
亜利沙「‥‥え?いや、結構です!」
明「いいから、乗って」
タクシーのドアが開く。明、亜利 沙をシートへ誘導する。
明「じゃあ気をつけて」
亜利沙「明さん」
明「何?」
亜利沙「凄く楽しかったです。じゃあまた」
明「うん、またね」
タクシーのドアが閉まり、発車する
。
明、しばらく見送った後、部屋に戻る。
◯同・ゴミ屋敷の寝床
明、ため息をつきながら、仰向けになる。何か背中に違和感を感じて体を起こす。亜利沙が忘れたスマホが置いてあることに気づく。
明「またかよ!」
◯亜利沙の住むアパートの前(昼)
明、亜利沙のスマホのアドレスに記してある亜利沙の住所を確認し、インターホンを押す。誰も出てこない。もう一度インターホンを押し、ドアをノックする。
明「亜利沙ちゃん?」
隣の部屋からおばさん(60)が出 てくる。
おばさん「亜利沙ちゃん仕事行ったよ」
明「そうですか」
おばさん「多分6時くらいまで帰って来ないわね。お兄さん、彼氏?」
明「いや、そんなんじゃ‥‥ないです」
おばさん「何か伝えたいことがあるなら言っておこうか?」
明「あっ‥‥」
明、亜利沙のスマホを見る。
明「いや、大丈夫です。特に無いんで‥」
おばさん「ああ、そうなの。それじゃあね」
明「‥‥あっさりしてんなあ」
おばさん、ドアを閉める。
◯同・亜利沙のアパート(夜)
亜利沙、白杖で足下を探りながら、アパートに近づく。
ドアの前で何かに気づいたようにピタリと止まる。
その背後に明が近づく。
亜利沙「明さん?」
明「え!?なんで!?。ビックリさせようと思ったのに。気づいちゃった!?」
明、亜利沙にスマホを渡す。
明「はい!忘れ物」
亜利沙「あ!やっぱり!明さん家だったんだ。てっきり会社に忘れて来たのかと」
明「これは、いざという時命綱にもなるんだから。落とさないように気をつけてね。じゃあ!」
明、帰ろうと歩き出す。
亜利沙「明さん!」
明、足を止め、亜利沙の方を振り
向く。
亜利沙「ちょっと寄ってきません?」
◯亜利沙の部屋の玄関(夜)
亜利沙、電気が消えたままの外灯が少し射し込む部屋の入口の電気スイッチを入れようとするが、中々上手く行かず、明が代わりにやってあげようとして、2人の手が重なる。
亜利沙「フフフ、くすぐったい」
明「‥‥亜利沙ちゃん!」
明、亜利沙をやさしく倒し、上に乗りキスをする。
亜利沙「あ、ダメ‥」
亜利沙、スーツを脱ぎ、明を受け入れる。
明「ダメじゃないじゃん」
◯同・亜利沙の住むアパート(日かわって早朝)
明、ベッドで目を覚ます。横に置いてある目覚まし時計を見る。横で寝ている亜利沙を起こさないように起き上がり帰る支度をする。
亜利沙「帰るの?」
明「ビックリした!え?もう起きてたの?」
亜利沙「うん、明さんが起きるちょっと前に」
明「俺、帰るわ」
亜利沙「今日、仕事行きたくないな」
明「え?」
亜利沙「なんか海行きたい気分」
明「そうなんだ」
亜利沙「ねえ、今から海行かない?」
明「夜になったら行こうよ」
亜利沙「夜?」
明「うん、暗くなったら」
亜利沙「まあ暗くても明るくても一緒だけど。でもそれまで暇だな」
明「そうか。…じゃあ、ちょっとさ、教えて欲しいことがあるんだ」
◯同・亜利沙の部屋(昼)
リビングのテーブルで2人対面に 座り、点字の勉強をしている。
亜利沙「じゃあ、テストね!これは何て読む?」
明、亜利沙に点字の書かれた紙を
出される。
明、目を閉じて点字を読む。
明「えーと‥‥で‥ん‥し‥レ‥ン‥ジ。電子レンジ?」
亜利沙「正解!」
明「よっしゃ!」
亜利沙「頭いいね〜。普通こんな簡単に覚えられないよ」
明「楽しいなコレ」
亜利沙「じゃあ次!」
亜利沙、点字の書かれた紙を明に
渡す。
明、目を閉じて字を読む。
明「うん、うん‥‥‥‥ファミリーレストラン?」
亜利沙「正解!」
明「よっしゃ!」
◯同・アパート(夕方)
亜利沙、テーブルに突っ伏し寝て いる。
明、スマホのマップを見ながら、紙に
点字を一つ一つ貼り付け、何かを作っている。
◯海岸(夜)
明、亜利沙の手を取り、海岸の 砂浜まで歩く。
亜利沙「うわー気持ちいいー!」
明「夜の海もいいな。人もいないし。風と波の音だけでなんかテンション上がるよなあ」
亜利沙「匂いも好きなの。この海独特の匂い」
明「磯の香り?」
亜利沙「いや、それだけじゃない。なんか懐かしい香りがするの。まだ見えてた頃を思い出すの」
明「そうなんだ」
亜利沙「先天性じゃないのよ私。小2まで見えてたから。病気になって、治療のために投薬したらそれが合わなくて副作用で見えなくなったの」
明「へえ、そうだったんだ」
亜利沙「だから海へ行くと、楽しかった子供の頃を思い出して元気になるの」
明「悲しくはならないの?」
亜利沙「全然。童心に帰って、ピュアな気持ちになっちゃうの」
亜利沙、海の方へ近づく。足下に波が来て、一瞬バランスを崩す。
明「おい、危ないぞ」
明、亜利沙の下へ走った瞬間、転んで水浸しになる。
亜利沙「あれ?どうしたの?」
明「いってえ〜」
亜利沙「え?もしかして転んだ?」
明「転んでねーよ!」
亜利沙「なんかザッパーンて音したよ?転んだの?フフフフフフ!ハハハハハ!ダサーい!」
明「ふざけんな!転んで無いっつってんだろ!」
明、亜利沙の肩を抱く。
亜利沙「イヤだ!冷たーい!ビショビショじゃん!やっぱり転んだんだ!」
明「うるせーよ!」
2人、笑いながらじゃれ合う。
◯同・海辺の大きな看板の前
2人、海辺を離れ、歩いている。
明「亜利沙ちゃんさ」
亜利沙「ん?」
明「今度から会う時は、この看板の前で会おうよ」
亜利沙「なんで?うちに来ればいいじゃん」
明「いや、色々と隣近所から噂立てられるのもめんどくさいだろ?」
亜利沙「‥‥まあ、そうだけど」
明「亜利沙ちゃん、これ!」
明、ズボンのポケットから亜利沙の自宅から海辺の看板までの道程を点字で書いた紙を渡す。
亜利沙、紙を渡され、点字をなぞる。
明「これ、亜利沙ちゃんちからこの看板の前まで来れる地図を作っといたから」
亜利沙「すごーい。これ今日作ったの?」
明「そう。点字の読み方教わったから、亜利沙ちゃんが寝てる時作ってみたんだ」
亜利沙「頭いいんだね。ちょっとドジだけど」
明「うるせーな。コケてないよ!」
亜利沙「だって濡れてたじゃん」
明「行くぞ!」
明、亜利沙の肩を抱き、亜利沙 の自宅へ帰る。
◯亜利沙のアパートの前(夜)
明「じゃあ、また!そのまま真っ直ぐで大丈夫だから」
亜利沙「うん。明さん?」
明「何?」
亜利沙、明にキスをする。
亜利沙「じゃあ、またね!」
亜利沙、白杖を動かしながらアパ
ートへ向かう。
明「気をつけろよー」
◯同・アパートの横にある電柱
ゴシップ誌カメラマン篠崎(36)、 2人をカメラで撮っている。
T「1週間後」
◯明の住むゴミ屋敷(朝)
明、玄関の前でタバコを吸っている。
斜め前の電柱で、近所のおばさん3人が、明をチラチラ見ながらヒソヒソ話をしている。
明「ふん!」
明、タバコを足で消して家の道沿い
を歩き出す。
おばさん3人を横目で見る。
明「散れよ、ウジ虫が!」
◯コンビニエンスストア(朝)
明、コンビニに入り、ウロウロと回りながら、商品を物色している。
雑誌コーナーの週刊誌に目が止まる。
ゴシップ週刊誌の表紙に「あのゴミ屋敷の住人が障害女性とロマンス
!」と書かれているのを発見し、手に取る。
中をペラペラとめくると、こないだ 亜利沙と海で抱擁している写真、手を繋いで歩いている写真が載っている。
明、眉間にしわを寄せ記事を読んでいる。
隣で雑誌を読んでいた客が明をチラと見る。
明、雑誌を戻しコンビニを出る。
明の携帯に亜利沙から着信が来る。
明「もしもし。亜利沙ちゃん?」
電話口(亜利沙の声)「なんか隣のおばさんから私達が雑誌に載ってるって聞いたんだけど」
明「今見たよ」
亜利沙「明さん有名人だったの?」
明「有名っちゃー有名だけど」
亜利沙「ごめんなさい。なんか迷惑かけちゃって」
明「とんでもない。迷惑かけたのは、こっちの方だよ。ところでそっちは、なんかマスコミウロチョロしてねーか?」
亜利沙「分からない。ただ隣近所がうるさくて」
明「そうか。亜利沙ちゃん、良かったら、俺と暮らそうよ」
亜利沙「え?」
明「別に俺は、何のやましい気持ちも無い。クソマスコミが面白がってネタにしてるだけで、何も悪いことはしてないんだ」
亜利沙「…そうだけど」
明「亜利沙ちゃんに迷惑かからないようにコソコソ会ってたけど、もうその必要は無い。一緒に暮らそうよ。いい?」
亜利沙「いきなりそんなこと言われても‥‥」
明「とりあえず暇な時は、いつでも俺んちに来いよ。迎えに行くから」
亜利沙「‥うん、分かった」
◯明の住むゴミ屋敷(昼)
明、頭にタオルを巻き、マスクをしながら、家の家具や雑貨類を、家の外に出していく。
テールランプ「ねえ明さん、僕らを捨てちゃうの?」
明「捨てるわけじゃないさ」
古びた掃除機「僕らはもう用済みなの?」
洗濯機「老兵は去るのみってか?」
VHSテープ「とうとうブルーレイにでも代える気か?」
明「君らには、必要とされる場所がある。もっと輝く場所へ連れてってやるだけだよ」
外に出されたゴミ達がザワザワと騒ぎ出す。
ラジカセ「そんな場所どこにあるってんだ!」
タンス「輝く場所って夢の島じゃねーだろうな!」
アナログテレビ「この裏切り者!恩知らず!」
リサイクル業者のトラックがやって来る。明、運転手に手を振り、一礼する。
リサイクル業者、ゴミ屋敷の前に車を停め降りてくる。
ゴミ屋敷を見て呆気に取られた表情をする。
リサイクル業者「こんにちわ、東金リサイクルです」
明「どうも、よろしくお願いします!」
◯同・ゴミ屋敷の玄関前(夜)
粗大ゴミがトラックの上に積まれている。リサイクル業者、電卓で粗大ゴミの買い取り価格を計算している。
リサイクル業者「以上35点の品なんですが、再利用できるものとジャンク品が半々くらいなんで買い取り価格の方は、このくらいになるんですが‥‥」
リサイクル業者、電卓の金額を見せる。3000円と表示されている。
明「うん、了解です」
リサイクル業者「宜しいですか?それでは、領収書にサインをお願いします」
明、領収書にサインする。
リサイクル業者「じゃあ明日も昼に伺いますので」
明「よろしくお願いしまーす」
リサイクル業者「ありがとうございました」
リサイクル業者、トラックで帰る。トラックに積まれた粗大ゴミが明に罵詈雑言を浴びせる。
T「1週間後」
◯ゴミ屋敷の玄関前(朝、日かわって)
明、タバコを吸っている。玄関前の粗大ゴミがすっかり無くなり、綺麗になっている。向こうから亜利沙がやって来る。
明、亜利沙に近づいて行く。
明「亜利沙ちゃん!」
明、亜利沙の肩を抱き、自宅に 誘導する。
◯同・ゴミ屋敷の寝室
粗大ゴミが半分以上無くなり、スッキリとしている。
亜利沙「なんか部屋スッキリした?」
明「やっぱり分かった?」
亜利沙「ここに来るたびに何か物に触れてたんだけど入口からここまでスムーズに来れたから。あとなんか空気が重くない」
明「亜利沙ちゃんのおかげだよ」
亜利沙「え?なんで?」
明「亜利沙ちゃんが俺と暮らしてくれるって言ったから、住みやすくしようと思ってさ。それになんだか気持ちも落ち着いて来てね。物がなくても不安じゃなくなった。まあ、まだ2階は、足の踏み場が無いけどね」
亜利沙「それは良かったわ。少しでも役に立てて」
明「たださ、せっかく綺麗にしたんだけど、また買っちゃったんだ」
亜利沙「何を買ったの?」
明、20インチの液晶テレビの電源を点ける。
明「テレビ。地デジなんて初めて観るよ。アナログが終了してから観てなかったから」
亜利沙「私がいるときは、テレビ点けなくていいよ」
明「え?‥‥ああ、分かった。なんか悪いこと言っちゃったかな?」
亜利沙「いや、全然。観えないとかそういうことじゃなくて。一緒にいる時は、出来るだけ2人で話したいから」
明「そっか。うれしいな。分かったよ、亜利沙ちゃんがいるときは、テレビなんか点けないよ」
2人、抱き合いキスをする。
◯同・ゴミ屋敷の寝室(夕方)
亜利沙、横になってイビキをかいて寝ている明に気づかれないようにそーっと立つ。
亜利沙「さよなら」
白杖を使いながら静かに家を出る。
◯同・ゴミ屋敷の寝室(夜)
明、目を覚ます。
明「ん?亜利沙ちゃん?」
明、部屋のあちこちを周り、亜利沙を探す。
明「帰ったの?」
明、携帯で亜利沙に電話する。しかし電話に出ない。
明、訝しげな表情。
◯亜利沙の住むアパート(夜)
明、亜利沙の部屋のインターホンを押す。しかし出ない。ドアを何回も叩くが出ない。携帯もかけるが出ない。
明「どうなってんだよ」
舌打ちしながら帰る。
◯東日本テレビ「昼ワイド」スタッフルーム別室(日かわって昼)
プロデューサー岩井川とディレクターの奈良崎が話している。
奈良崎「まさか先に週刊誌にスッパ抜かれるとは思いませんでしたね」
岩井川「ネットの炎上は、終息したか?」
奈良崎「いや、なんか憶測が飛び交って、うちの会社の役員にまで変な陰謀説が出て来てまして」
岩井川「陰謀?」
奈良崎「ゴミ屋敷ネタを最近取り上げなくなったのは、あのゴミ屋敷の男のコメントがきっかけで市長への批判が高まったことで市長側の圧力がかかったからじゃないかとか」
岩井川「なるほどな。逆にあの男への批判は無いのか?」
奈良崎「全然無いですね。熱愛がスッパ抜かれて逆に、障害を持つ女性を愛する聖人君子みたいな感じで益々人気が上がってますよ」
岩井川「そうか。じゃあ、やるなら今だな」
奈良崎「そうですね」
岩井川「もう編集した?」
奈良崎「はい」
岩井川「じゃあ最終チェックして来週流そうか」
奈良崎「分かりました」
T「1週間後」
◯ゴミ屋敷の玄関前(昼)
明、タバコを吸いながら、携帯で時間を見て、商店街の方へ歩き出す。
◯商店街の中華屋
明、客のいない汚い中華屋に入る。
店員「いらっしゃい!」
明「ラーメンちょうだい」
店員「ラーメンですね?はい、ラーメン一丁!」
料理人「へい!」
明、テーブルに座り、置いてある新聞を流し見する。
テレビから「昼ワイド」が流れている。
山根「さあ、続いては、特集です。先日、永山市のゴミ屋敷住人の問題について取り上げましたが、なんと!あのゴミ屋敷の住人が視覚障害を持つ女性と愛を育んでいたという情報が入って来ました。山崎さん、お願いいたします!」
山崎「はい!この情報は、写真週刊誌に先に報道されましたが、実は、我々昼ワイド報道班も独自にこのゴミ屋敷の男性と付き合っている視覚障害の女性に許可を取りまして、インタビューを致しました!しかも2人の仲睦まじい映像も独占入手していますのでご覧ください!」
明、驚きながらテレビを観る。
亜利沙がリポーターの質問に答え
ている。
亜利沙「最初に出会ったのは、私が明さんの家の前で躓いてしまって、ケガしてしまったところを応急処置していただいたのが始まりです」
明が亜利沙といちゃついている映
像が流れる。
明、食い入るように観る。2人で手をつないで歩いている映像、海で戯れている映像、そして亜利沙のサングラスの視点から明が映っている映像もあり、亜利沙が意図的に明とのプライベートを映していることに気づく。明、愕然とした表情。
店員、ラーメンを持ってくる。
店員「はい!ラーメンお待ちどうさま!」
明、金だけを置いて店を出る。
店員「お客さーん!食べてかないのー!?」
◯東日本テレビ「昼ワイド」スタッフルーム別室(夕方)
プロデューサーの岩井川とディレクターの奈良崎がテーブルを囲んで話している。
スタッフAが入ってくる。
奈良崎「反響は、どうだった?」
スタッフA「はい、えーと‥大方‥うちのバッシングですね。ヤラセ疑惑も出てます」
奈良崎「そうか‥プロデューサー?……俺らやっぱり間違ってましたかね?」
岩井川「いや、そんな事はない。バッシングは、大きければ大きいほどいいんだ。なにかのきっかけで大バッシングが大絶賛にガラッと変わる時がある。世間なんてそんなもんよ」
奈良崎「俺らがリサーチした事は、間違って無いんですよね?プロデューサーが仰った事信じていいんですよね?」
岩井川「お前らはよくやったよ。まあ流石にあの男の3世代前から調べたのは、やり過ぎだったけどな。まあ、ああいう癖がある人間は、幼児体験から今まで人間関係になんらかのトラウマがある。コミュニケーションに恐怖する。でも自己顕示欲は人一倍も二倍も強い。その矛盾した心の隙間を他人の使った温もりのあるゴミで埋める。そんな扱いにくい人間がテレビ上では、ヒーローになってしまった。俺らはヒールになってしまった。この立場を逆転するには、彼の心を開かせるしかない。開かせて開かせて、人間への敵意、恨みを緩和させるしかない。緩和すれば、彼の言葉は変わる。我々に対する考え方も変わる。彼が俺らに心を開けば、その時に世間の俺らに対するバッシングも変わる。そのための道具として使ったのが…」
奈良崎「亜利沙ちゃん」
岩井川「ご苦労だったね」
部屋の奥の隅っこに座っている亜利沙が軽く会釈する。
奈良崎「ところがその手前で先にゴシップ屋にスッパ抜かれて」
岩井川「うん。俺らの計画は、失敗した。ただし」
奈良崎「財産は残りましたね」
岩井川「まあ、まだレーティング見なきゃ分からないけどな」
奈良崎「そうでした」
岩井川「まあ、とりあえず今回の件は、どうこう言っても亜利沙ちゃんに感謝だな」
奈良崎「そうですね。ホントにありがとうね!あんな汚い男と数ヶ月も」
亜利沙「いえ‥」
亜利沙、戸惑いながら会釈する。
◯明の住むゴミ屋敷の寝室(夜)
明、電気も付けず、暗がりで呆然とした表情で胡座をかいている。明、外には出ずに部屋の中でタバコに火をつけ、吸い始める。
◯亜利沙のアパートの寝室(日かわって朝)
亜利沙、寝室で寝ている。少しして目が覚める。
手探りでリモコンを探しテレビをつける。
テレビでニュースがやっている。
それを聞きながら立って洗面所の方へ移動する。
◯同・洗面所
亜利沙、顔を洗う。寝室の方から聴こえるニュースで一瞬止まる。
◯同・寝室のテレビ
男性アナウンサーがニュースを伝える。
亜利沙、急いで寝室へ戻りニュースを聴く。
アナウンサー「昨日深夜4時ごろ永山市、青田区の二階建の一軒家で火事がありました。家は全焼し、一階の部屋から遺体が発見されました。この家に住む松井明さん40歳の遺体である可能性が高く、出火原因と共に現在確認中です。次のニュースです。安保法案に反対する野党が‥」
亜利沙、呆然と立ちすくむ。歯ブラシを落とす。
◯同・亜利沙のアパートの前(朝)
亜利沙、アパートから飛び出しサングラスにパジャマ姿で白杖を振りながら早足で歩く。
◯駅のホーム(朝)
亜利沙、ホームの黄色い点字の上を歩きながら、到着した電車に乗る。
◯駅の改札口(朝)
亜利沙、駅の改札を出て、改札前にある黄色い点字歩道の上を歩く
。
◯海岸の看板(朝)
亜利沙、以前、明に待ち合わせに 指定された看板の前に佇む。
そのまま、砂浜に向かい、波打ち際まで歩く。波と共に砂浜に漂着した大きな流木に捕まるように絡まった骸骨が亜利沙の足に当たり、亜利沙は、それを手で触る。骸骨が被っている帽子の形とデザインで明の帽子だと悟る。
亜利沙「なーんだ。なんだかんだ言ってあなたまだ未練があったんじゃない。流木になんて掴まっちゃってさ!」
亜利沙、しばらくして海の方へ歩を進める。
亜利沙が歩く先には、まるでレッドカーペットのように黄色い点字歩道が海の方まで浮かび上がり、その上を歩きながら亜利沙が海に沈んでいく。
○東日本テレビ昼ワイドスタジオ(日かわって昼)
司会の山根が進行をしている。
速報が入り、スタッフがニュース原稿を差し出す。
山根「ええと、ここで速報が入りました。我々も特集として取り上げていた永山市のゴミ屋敷が先日火災に遭い全焼した問題なんですが…えーと焼け跡から一名の焼死体が発見されゴミ屋敷に住む男性の遺体ではないかと推測されていました…が!検死の結果、男性ではなく女性の遺体だという結果が判明いたしました。住人の遺体ではなく、身元不明の女性の焼死体だということが判明いたしました。もう一度繰り返します!…」
× × ×
(フラッシュ)
明「一度手に入れた物は、どんなことがあっても手放さない。こいつらは人間の感情を持ったまま金魚鉢に入れられるメダカみたいなもんさ」
× × ×
○海岸(昼)
砂浜に漂着した流木に絡みついた骸骨とベースボールキャップが波に打たれ、流木から離れ、波に消えていく。
○昼ワイド・プロデューサー室(夕方)
プロデューサー岩井川、ソファーに
座りながら、タバコをふかし、不気
味にほくそ笑む。
(おわり)
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