―もう一つの恨み―
6. 権の部屋 (昼)
権 「燕、入ってこい。」
劉燕 「はい。」
燕、権の部屋に入る。
燦、燕の姿に驚く。
権 「この者は、私の娘だ。訳あって普段は男の姿をしていて武術に長けている。護身、殺傷に関してはこの者に師を仰げ。」
燦 「分かりました。」
燦、権の説明に首をかしげる。
燕 「こちらへ。お部屋の案内をします。」
燦 「あぁ、はい。」
燦、燕、権の部屋から出る。
7. 燦の部屋 (昼)
燕、扉を開ける。
燦、部屋に入り、見渡す。
燕、部屋に入る。
燦 「ありがとな。こんな広いとこ。」
燕、無言で近づき刃物を首に突き当てる。
燦、振り返り刃物に気が付いて固まる。
燕 「警戒心の欠片もないんですね。」
燦 「な、何で?」
燕 「あなたが刺客ならその質問に答えますか?」
燦 「いや。」
燕 「ならば早く護身をとってください。」
燦 「へ?」
燕 「私の手首を掴んで思いっきり押し出してください。」
燦、すぐに行動をとらない。
燕 「首切られたいんですか?」
燕、詰め寄る。
燦 「のわっ!」
燦、燕の指示通り燕を弾き倒す。
燕、扉にぶつかる。
燦 「だ、大丈夫か?」
燕、燦を見上げる。
燕 「えぇ、まさか…刺客相手に手を貸す人初めて見ました。」
燦 「だってお前刺客じゃないじゃないか。」
燕、鼻で笑い燦を睨みつけ、燦の部屋を出ていく。
燦、部屋の奥に座り込み、扉を見つめる。
燦、頭を掻きむしり大きなため息をつく。
燦 「あぁ、気味が悪い!」
8. 燦の部屋 (夕方)
SE:燦の腹がなる音。
燦、腹を撫でて立ち上がる。
燕、食事をもって部屋の前に立つ。
燕 「夕(ゆう)餉(げ)でございます。」
燦 「あぁ、ど、どうぞ。」
燕、部屋に入る。
燦、その場で座る。
燕、燦の前に食事の膳を出し、一つだけ汁物を自分の方に置く。
燦、膳を覗き込む
燕、燦を睨む。
燕 「食事が運ばれてきたら、まず汁物に匙を入れてよくかき混ぜてください。」
燕、汁物に匙を突っ込む。
燦、汁物のにおいを大げさに嗅ぐ。
SE:燦の腹の音が鳴る。
燦 「食べる作法って決まっているのか?」
燕 「いえ。ただ……。」
燕、汁物から匙を引きぬく。
燦 「お、真っ黒。すごいな。」
燕 「毒が入ったものはこのように変色します。」
燦、顔を離す。(大げさに)
燦 「毒!?」
燕 「故に、こうなった時はひっくり返してでも食事自体を下げさせてください。」
燦 「それってなんかもったいないな。」
燕 「死に急ぎたいならどうぞお召し上がりください。」
燦、大きく首を振る。
燕、横の汁物と新しい匙を膳に乗せる。
燕 「御心配には及びません。謝那様の分はこちらに。」
燦 「それは燕の分じゃ」
燕 (被せるように)「もういただきました。」
燦 「そうか。」
燦、匙を汁物につけて確認する。
燦 「いただきます。」
燕 「どうぞ。」
燦、食事を掻き込む。
燕 「あともう一つ。」
燦、匙を止めて顔を上げる。
燦 「何?」
燕 「これからこの家では“見るものは見ていない”、“聞くものは聞いていない”を貫いてください。……たとえそれが耐えかねる状況でも。」
燦 「それってどう言う?」
燕、燦を睨みつける。
燕 「いいですね?」(語気強めで)
燦 「はい。」
燕、燦から目を逸らす。
9. 燦の部屋 (夜)
燦、寝床についている。
SE:雨の音。
燦、体を起こす。
燦、軽く身震いする。
燦 「厠どこだっけ……。」
燦、そっと部屋を出る。
燦、目をこすりながら廊下を進む。
10. 廊下
燦、権の部屋の前に差し掛かる。
女のすすり泣く声。
燦、足を止めて権の部屋の扉を開ける。
権、美弦を暴力的に抱き冒している。
燦、慄きつつも目を離さない。
権、美弦の髪を掴み上げる。
美弦 「あぁ……。どうかお許しください。」
燦、驚きを隠せずに扉を握りしめる。
燦(M) 「なんでこんなところにいるんだよ、母さん。」
権と美弦の酷な性交が続けられる。
燕、燦の女物の服を持ち現れる。
燕、燦の姿を見つけ足音を潜めて背後に近づく。
燦、息を吸う。
燕、燦の口を手で覆う。
燦、振り返る。
燕、権と美弦の姿を見て息を吐く。
燕、燦の手を取り足早に歩きだす。
11. 燦の部屋 (夜)
燦、部屋に入る。
燕、部屋に入り扉を閉める。
燦、燕、しばらく立ち尽くす。
燦 「燕、あの。」
燕 「母も。」
燦 「え?」
燕 「私の母も嗚呼されて、され続けて死んでいきました。」
燦 「は?」
燕、振り返り無表情で涙を流す。
燕、燦に近づき膝をつき上着の紐をほどく。
燦 「燕?何のつもり」
燕 (被せるように)「私をお抱きください。」
燦 「は!?」
燦、口を開けて固まる。
燕、次の紐をほどく。
燦、燕の手を押さえる。
燕、顔を上げる。
燕 「私と一心同体となって頂きたいのです。そして、私の父を、権をその手で殺めて頂けませんか。」
燕 「私では既に警戒の目を向けられています。でも今日来たあなたなら。」
燕、燦の手を取る。
燦、大きく息を吐き頷く。
燕 「ならば」
燦 「待て。今お前を抱けばきっとひどく扱うことになる。」
燕 「それでも構いません」
燦 「燕。」
燕 「この家に来た時点で私は既に人ではありません。忌々しい男の娘なのです。人として扱われることが間違いなのです。」
燦、燕、見つめ合う。
燦 「分かった、お前を抱く。」
燦 「その代わり。俺の前では絶対に、絶対に人として俺に接しろ。俺もお前を人として扱う。それが俺からの命令だ。」
燕、頷く。
燦、燕を押し倒す。
12. 燦の部屋 (朝方)
燕、着替えを済ませて燦に女物の服を着せていく。
燦 「燕、早速頼みを聞いてもらえるか?」
燕 「どうぞお申し付けください。」
燦 「最低限の知識を得たい。書物を数冊見繕えるところはあるか?」
燕 「それでしたらうちに数冊。」
燦 「それもだが、この家にない書物もいくつか。」
燕 「かしこまりました。」
燕、燦の服を整えてから燦の部屋を出る。
燦の部屋、暗転
13. 権の部屋 (夜)
燦、権の部屋の前に来る。
燦 「父上、お呼びでしょうか?」
権 「入れ。」
燦、ゴンの部屋に入り権の前に座る。
権、紙包みを差し出す。
燦 「これは?」
権 「“飾り花”だ。つつじの花には何の作用がある?」
燦、紙包みを開き考え込む。
権、微笑みながら。
権 「摂取すれば“心臓を患うものには”凶悪の毒となる。」
燦、権を見あげる。
権 「そして王は思い心臓の病を患っている。」
燦、驚く。
権 「そしてこの飾り花は蕾のまま干されたつつじの花が用いられている。」
燦 「つまり、毒は即効性が上がり口に含んだ時点で。」
権 「そうだ。」
燦、紙包みを閉じて微笑む。
燦 「入宮道具、確かに承りました。
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