<登場人物>
飯村 千晶(27)豊島署刑事
笹原 良雄(50)同、千晶の相棒
筒井 俊郎(24)容疑者、コンビニ店員、元変身ヒーロー
百田 誠司(17)同、高校生
大崎 貴志(36)同、飲食店店長
名波 勲(32) 同、会社社長
宍戸 大輔(45)同、新聞記者
只野(41)豊島署刑事、千晶の同僚
鈴本(25)同、同
日比谷(39)同、千晶の上司
羽場(20)チンピラ
加賀美(24)チンピラのボス
フライデーナイト 謎の騎士
<本編>
○街の様子(夜)
談笑しながら繁華街を歩く若者や、客寄せのバイト、居酒屋で飲むサラリーマン、カラオケで盛り上がる男女等、皆浮かれた様子。
ナイトN「金曜日の今日、君達に問う」
喧嘩する酔っぱらいや、カツアゲする若者、恐いお兄さん達に店の裏に連れ出されるサラリーマン等の姿。
ナイトN「人間が何かを本気で守ろうとした時、抱く感情は何なのだろうか?」
○監視カメラの映像
夜。飲屋街の一画を映している。人の顔の判別が難しい程度の画質。画面下に「2019/11/22」の文字。
羽場(20)ら複数のチンピラに向かって歩いて行く大崎貴志(36)。
ナイトN「奴は、今日も現れる。人間が守りたい『何か』を守る為、人間が抱くその感情を守る為、我々の金曜日を守る為に現れる」
どこからともなく飛んできた鎧を身にまとい、西洋甲冑姿の戦士・フライデーナイトに変身する大崎。その姿を見て腰を抜かすチンピラ達。
ナイトN「その者、誰が呼んだか……」
持っていた剣(型のスタンガン)をチンピラ達に振り下ろすナイト。その瞬間、映像が大きく乱れる。
ナイトN「フライデーナイト」
× × ×
朝。同じ場所で現場検証をしている警察の様子を映している。
○飲屋街(朝)
現場検証をしている鑑識員らと鈴本(25)。そこにやってくる笹原良雄(50)。
笹原「何か出たか?」
鈴本「おはようございます、笹原さん。現場の状況から見て、フライデーナイトなのは間違いなさそうですね」
笹原「そうか。で、お嬢は?」
鈴本「あ〜、飯村さんなら、まだ見てないですよ?」
笹原「そうか」
そこにやってくる只野(41)。
只野「笹原さん、コッチいいですか?」
只野に連れられ、雑居ビルの前にやってくる笹原と鈴本。そこにはガラスの破片が散らばっている。
笹原「窓ガラス、か?」
只野「みたいですね」
そう言ってビルの三階を指す只野。窓ガラスの一部が割られている。横に目を移すと「3F BAR ダニエル」と書かれた看板。
笹原「ダニエル、か」
鈴本「やっぱり、コレもフライデーナイトの仕業ですよね? ココで暴れて、あんな所まで被害が及ぶなんて……」
鈴本の頭を引っ叩く只野。
鈴本「痛っ」
只野「バカ野郎、破片は外にあんだぞ? それはつまり、どういう事だ?」
鈴本「……あ、内側から割られた?」
只野「つまり、もしコレがフライデーナイトの仕業なら……」
鈴本「フライデーナイトはあの店の中に居たって事ですね。客か、店員か。うお〜、コレ凄い発見じゃないですか」
只野「(笹原に)どうします?」
笹原「まずは店長当たってみるか」
只野「ですよね。情報集めてきます。おい、行くぞ。鈴本」
鈴本「あ、はい」
その場を後にする只野と鈴本。
笹原「さて、後は……」
千晶の声「笹原〜!」
振り返る笹原。規制線のテープの外に立つ飯村千晶(27)とその隣に立つ警察官。コートにマフラー、モコモコの手袋といった厳重な厚着姿の千晶。
千晶の元にやってくる笹原。
笹原「何されているんですか、お嬢」
千晶「(警察官を見て)だって、この人が入れてくれないんだから」
と言いながら、カバンを広げて中を笹原に向ける千晶。
笹原「手袋を外して、ご自分で取られればいいんじゃないですか」
千晶「寒いんだもん。私、すぐ霜焼けになっちゃうんだから」
笹原「はいはい」
千晶のカバンから警察手帳を取り出し警察官に見せる笹原。
笹原「コチラ、飯村千晶警部補だ」
千晶「だ」
○豊島署・外観
鈴本の声「二週間前の一一月八日……」
○(回想)繁華街・大通り
若者数名に剣撃を加えるナイト。
鈴本の声「豊島区池袋の路上で、親父狩りをしていた男性四名が、被害に遭った」
○(回想)同・キャバクラ・裏
ヤクザ数名に剣撃を加えるナイト。
鈴本の声「翌週、一一月一五日。同じく池袋のキャバクラ・ベンジャミンの裏で、今度は男性五名が襲われた」
○豊島署・取調室
向かい合って座る只野と大崎、その脇に立つ鈴本。
鈴本「そして昨日、一一月二二日。池袋にあるダイニングバー・ダニエルの前で、男性七名に危害を加えた。この事件の共通点、わかりますか?」
大崎「い、いえ、全然」
只野「全ての事件で、甲冑姿の人間の姿が目撃されている」
大崎「……」
鈴本「昨夜、店の窓ガラスが割られましたよね? 店内で、何がありました?」
大崎「え? べ、別に、何も……」
只野「店内で暴れた若者達が居たそうじゃないですか。それも七人」
鈴本「あれ? フライデーナイトに襲われたのも七人じゃなかったですか?」
只野「それがどうやら、同じ人らしいんだ」
鈴本「へぇ、ソレって偶然……ですかね?」
鏡に映る、大崎を睨む只野と鈴本。
○同・取調室隣室
大崎の取り調べの様子をマジックミラー越しに見ている千晶と笹原。
千晶「あれが、容疑者の大崎貴志?」
笹原「現場の目の前にあるバーの店長です。どう思われます、お嬢?」
千晶「否定も肯定もしてないからな〜」
大崎「私じゃありません!」
千晶「うん、無実だね」
笹原「そう、ですか」
大崎「やったのは、フライデーナイトです」
日比谷の声「で、帰しちゃったの?」
○同・会議室
捜査会議を行っている千晶、笹原、只野、鈴本、日比谷(39)。
千晶「だって、否認してたんだから」
日比谷「だからって、えぇ? 困るよ〜」
笹原「しかし、係長。証拠が無いとなると、あれ以上の拘留は難しかったかと」
鈴本「それに取り調べも『何も知らない、何も見てない』の一点張りでしたしね」
日比谷「でも、重要参考人なのは間違いないんでしょう?」
只野「当たり前だろ、バカ野郎。あの店で暴れてた連中が、あの店の目の前で倒れてたんだ。無関係な訳がねぇ」
日比谷「只野さん。僕、一応上司……」
千晶「でも『知らない』って言ってるんだから、知らないんじゃないの?」
只野「庇ってるだけだろ」
千晶「何で?」
只野「それは……」
鈴本「変身ヒーローだから、じゃないんですかね?」
千晶「鈴本君。正確には、変身ヒーロー型犯罪者なんだから」
鈴本「すみません」
只野「五年ぶりか……。前のは何て言いましたっけ?」
笹原「フリーダムファイター」
只野「あの時は、被害者が証言してくれたからまだマシだったんですけどねぇ」
鈴本「今回はゼロですもんね」
日比谷「そっか。その辺、どうでした?」
笹原「過去二件のフライデーナイト事件と同じですね。被害者全員、いずれもスタンガンのようなもので気絶させられていただけですが、襲われた前後の記憶は飛んでいるようです」
千晶「不思議だよね〜。周りの防犯カメラの映像も、その時間の前後だけ映像が乱れてるんだから」
日比谷「う〜ん……あ、そうだ。アリバイはどうなってる? 例の重要参考人」
鈴本「あ〜……一応、過去二件の犯行時間には、いずれも店に居たという証言はとれてますけど……」
日比谷「けど、何?」
只野「わかんねぇのか、バカ野郎。変身ヒーロー型犯罪者なんだぞ? ある程度、物質を転送する能力を持っている。もしソレが瞬間移動できるレベルのものなら、アリバイなんて意味ねぇだろうが」
日比谷「だから、僕上司……」
千晶「けどさ、そうなると、今までは別の場所だったのに、今回は自分の店の前でやっちゃったって事になるよ? そっちの方が変なんだから」
笹原「確かに、一理ありますね」
鈴本「……あの、そもそも本当に捕まえなきゃいけないんでしょうか?」
只野「? 何言ってんだ?」
鈴本「だって、調べれば調べる程、被害者の方がよっぽど悪い奴というか、フライデーナイトの方が、まさに正義の味方って感じがして……」
日比谷「それは……」
千晶「それは違うよ」
笹原「お嬢……」
千晶「どんな理由があっても、暴力で解決しちゃいけないんだから」
只野「たとえ正当防衛でもか?」
千晶「もちろん」
鈴本「でも、綺麗事だけじゃこの世界の平和は守れないのも事実ですよ?」
千晶「そんな事ないよ。人は、人を愛する生き物でしょ? みんながみんな、隣の人を愛すれば、この世界から犯罪なんてなくなるハズなんだから」
只野「愛で済んだら、警察は要らねぇだろ」
千晶「だから、本当は警察なんて要らないんだから」
只野「なっ……」
黙り込む一同。
笹原の声「警察官らしからぬ発言でしたね」
○同・前
並んで歩く千晶と笹原。
笹原「大崎の証言を信じるのも、愛という解釈でよろしいですか?」
千晶「だって『やってない』って言ってたんだから。嘘付く理由なんてないでしょ?」
笹原「大いにあると思いますよ?」
千晶「そう?」
笹原「で、どうされるんですか、お嬢? 大崎をシロとするなら、手がかりがないという事になりますが?」
千晶「五年前の、何とかファイター」
笹原「フリーダムファイター、ですか?」
千晶「会いに行ってみようと思う。同じ変身ヒーロー型犯罪者同士、何か通じてるかもしれないんだから」
笹原「どこに居るか、ご存知なんですか?」
千晶「……それを探しに行くんだから」
笹原「(ため息をつき)ご案内します」
千晶「え? 笹原、知ってるの?」
歩いて行く千晶と笹原。
千晶と笹原の後方、柱の影から二人を見ている宍戸大輔(45)の影。
宍戸の声「キヒヒヒヒ」
○コンビニ・外観
○同・事務所
千晶と笹原を出迎える店員姿の男、筒井俊郎(24)。
筒井「小父貴〜!」
笹原「元気そうだな」
筒井「小父貴のおかげでな。(千晶を見て)この人が、今の相棒さん?」
笹原「あぁ」
千晶「何、笹原の甥っ子?」
笹原「いえ」
千晶「じゃあ、姪っ子?」
筒井「……面白ぇ人だな」
笹原「『小父貴』というのは、ただのあだ名だと思っていただければ」
千晶「ふ〜ん。で、じゃあ誰なの?」
笹原「お嬢が会いたがっていた男、ですよ」
千晶「え? じゃあ、君が……?」
筒井「そう、この世界で最初にして唯一の変身ヒーロー、フリーダムファイター!」
× × ×
千晶「じゃあ、君とフライデーナイトは何の関係もないの?」
筒井「まぁな。あの時の装備も『気付いたら俺の手元にあった』って感じだったしな。現時点じゃ、フライデーナイトの事は何も知らねぇよ。悪ぃな、小父貴」
笹原「気にするな」
千晶「コッチは気にするんだから」
筒井「けど小父貴のためだ。俺の方でも色々情報集めてみるよ。この間の借りも返さなきゃだしな」
千晶「『借り』って何?」
笹原「まぁ、色々あったんですよ」
千晶「そっか。じゃあ、よろしくね」
筒井「勘違いすんなよな。俺が協力するのはあくまでも小父貴だ。アンタじゃねぇ」
千晶「え?」
筒井「確かに、現時点では何の関係もねぇけど、フライデーナイトにシンパシーは感じてんだ。同じヒーローとしてな」
千晶「それって、五年前の事は反省してないって事?」
筒井「そうだな。装備なんかは警察に押収されちまったから、確かに俺はもう変身できねぇ。けど、もし目の前に守るべきもんがあったら、俺は戦う。それが法律に反しているかどうかは二の次だ」
筒井を睨む千晶。
千晶の声「絶対に間違ってるんだから」
○同・外
並んで歩く千晶と笹原。
千晶「結局、全然更生してないじゃん」
笹原「すみませんね、お嬢。後で私からも言っておきますので」
千晶「あんなのを正義だと勘違いする人がいるから、犯罪が無くならないんだから」
宍戸の声「果たして、そうですかねぇ?」
振り返る千晶と笹原。そこに立っている宍戸。
宍戸「おっと、立ち聞きするつもりはなかったんですがね。耳に入ってしまいまして。キヒヒヒヒ」
千晶「笹原、知り合い?」
笹原「いいえ。誰だ?」
宍戸「申し遅れましたね。私、帝経スポーツの宍戸です。今、名刺は切らしてしまってまして。また次の機会に。キヒヒヒヒ」
千晶「えっと、私は……」
宍戸「知ってますよ。飯村千晶警部補に笹原良雄巡査部長、ですよね? キヒヒヒヒ」
千晶「凄〜い」
笹原「帝経スポーツ、宍戸……どこかで聞いた名前だな?」
千晶「ふ〜ん。で、何の用?」
宍戸「忠告ですよ。キヒヒヒヒ」
笹原「忠告?」
宍戸「フライデーナイトを追っても無駄ですよ。奴を裁く法律は、この国にありませんからね。キヒヒヒヒ」
千晶「法律がないって、どういう事? 君、ひょっとしてフライデーナイトの正体知ってるの?」
宍戸「知ってますよ。キヒヒヒヒ」
千晶「本当に? 教えて、教えて〜」
笹原「(制止するように)お嬢。(宍戸に)詳しい話、聞かせてもらおうか?」
宍戸「お断りしますよ。キヒヒヒヒ」
千晶「え〜、何で〜?」
宍戸「私にとって、取材して得た情報は、命より大事なんですよ。令状見せられたって渡しゃしませんよ。キヒヒヒヒ」
笹原「……それは残念だな」
宍戸「では、また。キヒヒヒヒ」
その場を立ち去る宍戸。
千晶「笹原〜。あの人、何しに来たの?」
笹原「さぁ……」
○飲屋街(夜)
○同・ダニエル(夜)
テーブル席に向かい合って座る千晶と笹原。千晶はウトウトしており、笹原は帝経スポーツを読んでいる。新聞の日付欄には「2019年11月29日」と、見出しには「金曜日の騎士 フライデーナイト」と書かれている。
笹原「『金曜日の今日、君達に問う。人間が何かを本気で守ろうとした時、抱く感情は何なのだろうか?』か……。お嬢、この記事なかなか……お嬢?」
目を開ける千晶。
千晶「べ、別に寝てないんだから」
笹原「そうですか」
千晶「……で、何?」
笹原「この記事がなかなか興味深い、と」
笹原から受け取った新聞に目を通す千晶。文末には「宍戸大輔」の文字。
千晶「フライデーナイトの記事か〜。書いたのは、宍戸……。あ、この間の人?」
笹原「おそらく」
千晶「やっぱり、あの人何か知ってるんだ。今度会ったら問いつめてやるんだから」
そこに料理を持ってやってくる大崎。
大崎「サービスです。どうぞ」
千晶「本当に? ありがとう」
笹原「この店は、初めて来た客にサービスするほど、景気がいいのか?」
大崎「そういう訳じゃないですけど……刑事さん、ですよね?」
千晶「あれ、バレてた?」
大崎「まぁ、何となくですけど」
千晶「そりゃバレるよね。他にお客さん居ないんだから」
千晶達以外の席は全て空席。
千晶「いつもこんなもんなの?」
大崎「いや、さすがに週末はもう少し繁盛してますけど……」
笹原「先週荒らされたから、か」
大崎「まぁ、はい」
割れた窓ガラスは応急処置のみ施されており、他にも壊れた椅子や壁の穴等が目につく店内。
笹原「被害届は出さないのか?」
大崎「え?」
千晶「そうそう。器物破損は親告罪だから、君が訴えないと警察も動けないんだから」
大崎「……結構です。あの連中も、フライデーナイトが懲らしめてくれた訳ですし」
千晶「偉い。そう、それが愛なんだから」
大崎「?」
笹原「懲らしめて『くれた』、か……」
気まずそうに笹原から視線をそらす大崎。
千晶「この店、いつからやってるの?」
大崎「一年ちょっと前からです。ずっと夢で会社員やりながらお金貯めて、やっと構えた店なんです」
千晶「じゃあ、君の全てが詰まってるお店なんだね」
大崎「そうですね」
笹原「それを踏みにじられた訳か」
笹原の携帯電話が鳴る。
笹原「(電話に出て)はい、笹原。……そうか。あぁ。わかった。(電話を切り)お嬢、フライデーナイトが出たそうです」
席を立つ千晶と笹原。
○繁華街・ガールズバー・前(夜)
警察車両が多数停まっている。
現場検証をする只野と鈴本の元にやってくる千晶と笹原。
笹原「どうだ?」
鈴本「今回の被害者は一名だけです。四〇代男性で、先ほど病院で意識を取り戻したそうですが、例によって事件前後の記憶は失くしているようです」
只野「で、大崎の方は?」
千晶「ずっと一緒に居たんだから」
只野「マジかよ。って事は、奴はシロか?」
笹原「あぁ。だが、何か隠しているのは明らかだ。正体を目撃している可能性もある」
鈴本「あ、目撃者と言えば……」
千晶「え、いたの?」
鈴本「いえ、目撃はしていないそうですが」
笹原「じゃあ、何だ?」
只野「声を聞いたそうなんです。言い争いをする男女の声」
鈴本「被害者は男だから、フライデーナイトは女性って事でしょうか?」
只野「バカ野郎、女があんな重そうな甲冑着て、スイスイ動き回れる訳ねぇだろうが」
千晶「そういうの、差別なんだから」
只野「ヘイヘイ、そいつは失礼しました」
笹原「でもまぁ、その女が(ガールズバーを見ながら)どこの誰なのかわかれば、手がかりにはなりそうだな」
笹原の携帯電話が鳴る。
笹原「ん?」
○走っている車
筒井の声「あ、小父貴? ちょっと面白い話仕入れたぜ」
○車内
助手席に座る千晶と運転する笹原。
筒井の声「最近な、家にフライデーナイトそっくりな甲冑を置くようになった、って男がいるんだって」
○高級マンション・外観
筒井の声「場所は……」
インターホンの音。
○同・名波の部屋・前
ドアを開ける名波勲(32)。そこに立っている千晶と笹原。
名波「はい?」
笹原「(警察手帳を見せ)警察だ」
名波「(警戒するように)……何の用?」
千晶「ちょっと見たい物があってさ、中に入れてくれない?」
名波「……断る」
ドアを閉めようとする名波。その隙間に笹原が靴をねじ込み、阻止する。
名波「なっ」
笹原「安心しろ。俺たちは知能犯係の類いじゃない。フライデーナイトの件だ」
名波「……どうぞ」
○同・同・中
広い室内。鹿の頭や虎の毛皮など、高.級品が並んでいる。
ソファーに並んで座る千晶と笹原。
笹原「名波勲、会社経営者。どうやら、かなり儲かっているようですね」
千晶「趣味悪っ。こんなものにお金かける人の気持ち、全然わかんないんだから」
名波「俺が稼いだ金だ。何に使おうが、俺の勝手だろう?」
お茶を持ってやってくる名波。
名波「もちろん、俺が納得できない物に関しては、俺は一円だって払う気はない。どんな手を使ってでも、財産は守ってみせる。捜査二課の連中にもそう言っとけ」
千晶「そんな事、所轄の私達に言われても困るんだから」
名波「で、用件は?」
笹原「あれだ」
笹原の視線の先、数々の高級品のとともに飾られたフライデーナイトそっくりの甲冑。
笹原「フライデーナイト、だな?」
名波「良く出来てるだろう? 知り合いに頼んで、作らせたんだよ」
千晶「何で、フライデーナイトを?」
名波「前に現場に居合わせた事があってね」
笹原「!?」
千晶「え〜、いつ?」
名波「先月の中頃だったか……。何とかってキャバクラで」
笹原「ベンジャミン?」
名波「それだ」
笹原「(千晶に小声で)第二の事件ですね」
千晶「で、その時見なかった? フライデーナイトの正体とか」
名波「いや、俺が見たのは(飾られた甲冑を指し)それだけだ」
千晶「ふ〜ん、そっか」
○繁華街・キャバクラ・前
大きめの通りに面した店。
「ベンジャミン」と書かれた看板。
○繁華街・同・裏
通りから外れ、狭い路地裏に面した周囲からはあまり目につかない場所。
並んで立つ千晶と笹原。
笹原「ここが第二の事件の現場です」
千晶「それくらい、言われなくてもわかるんだから」
笹原「それは、失礼しました」
千晶「で、確か被害者はこの辺に(路地を覆うように)倒れてたんだよね?」
笹原「そうですね。そして、そこに居合わせたというのが、名波だと……」
笹原の携帯電話が鳴る。
笹原「(電話に出て)はい、笹原」
路地を見つめる千晶。
千晶「でも『居合わせた』って、どこに? ここ、超狭いんだから」
電話を切る笹原。
笹原「戻りましょう、お嬢」
千晶「え、何で? まだ何にも調べてないんだから」
笹原「自首してきたそうです。フライデーナイトを名乗る男、が」
千晶「え!?」
○豊島署・外観
○同・取調室
向かい合って座る只野と百田誠司(17)、その脇に立つ鈴本。
百田「あの男が、彼女に強引に言いよっていたから、ちょっと懲らしめただけっス」
鈴本「ちなみに、その彼女っていうのは?」
百田「四条菜々。昼は僕の高校のクラスメイトで、夜はガールズバーの店員っス」
鈴本「え、高校生がガールズバーって、マズいでしょ?」
百田「そう。だから懲らしめたんスよ。彼女から引き離して、剣で一撃」
只野「じゃあ、先月の二五日の事件についても聞こうか。動機は?」
百田「え……? それは……その……正義のために」
只野「じゃあ、その前は? 何でヤクザの事務所で暴れたりした?」
百田「ヤクザなんて、それこそ悪の権化じゃないっスか。だから懲らしめてやったまでで……」
鈴本「あれ? 『フライデーナイトがヤクザの事務所で暴れた』なんて事件、今までありましたっけ?」
只野「おっと、俺の記憶違いだったな。そんな事件、ないない」
鈴本「へぇ、じゃあ何で今、君はありもしない事件について語っちゃったのかな?」
百田「……騙したんスか?」
只野「正直に言えよ、偽物野郎。誰を庇ってんだ?」
百田「嘘じゃない。俺がフライデーナイトに変身したんスよ」
鈴本「じゃあ、今変身してみせてよ」
百田「今は……」
只野「ほら見ろ」
百田「……あの剣」
鈴本「え?」
百田「あの剣なんスよ。アレを握ると、フライデーナイトに変身できるんスよ」
顔を見合わせる只野と鈴本。
百田「これで俺がフライデーナイトだ、って信じてくれたんじゃないっスか?」
○同・取調室隣室
マジックミラー越しに百田の取り調べの様子を見ている千晶と笹原。
笹原「百田誠司、高校二年生」
千晶「フリーダムファイターといい、フライデーナイトといい、未成年ばっかりなんだから」
笹原「しかし、四件目の事件以外の供述が曖昧ですね。どう思われます、お嬢?」
千晶「犯人なんじゃないの? 『やった』って言ってるんだから。嘘付く理由なんてないでしょ?」
笹原「理由、ですか……」
○同・会議室(夜)
捜査会議を行っている千晶、笹原、只野、鈴本、日比谷。
鈴本「百田少年が嘘をついている理由がわかりました」
千晶「へぇ、何なに?」
鈴本「どうやら彼、例の四条菜々に想いを寄せていたようです。そして、その四条菜々が事件の翌週、学校で『フライデーナイト様に助けられた』と言って回っていた」
日比谷「それだけで、嘘の自首を?」
只野「バカ野郎、男なんてそんなもんだ」
日比谷「だから、僕上司……」
千晶「でも、そんな可愛い子には見えなかったんだから」
笹原「ひがみに聞こえてしまいかねませんよ、お嬢」
日比谷「(千晶と笹原を見て)二人はその四条菜々に会ってきたんだよね?」
笹原「はい。概ね、百田の証言と一致しています。事件現場付近のガールズバーで働いており、客だった被害者に言いよられ、フライデーナイトに助けてもらった、と」
千晶「でも、フライデーナイトの正体は見てないんだって。変身した状態で現れて、そのままどっか行っちゃって」
只野「俺が百田だったら、その場で甲冑脱いでアピールしそうなもんだけどな。それをしなかったって事は、奴は偽物だ」
日比谷「でもほら、ヒーローって正体をバラしちゃいけない、みたいな決まりが……」
只野「バカ野郎、だったら尚更、自首する訳ねぇだろ」
日比谷「だから〜……」
笹原「ただ大崎同様、百田も何かしら事情を知っている可能性はありますね。少なくとも四件目に関しては、ですが」
鈴本「整理すると、現時点でフライデーナイトの目撃者は、名波勲と四条菜々。そして何かしら事情を知っていると見られるのが大崎貴志と百田少年。以上、四名」
千晶「いや、まだまだ居るんだから」
日比谷「え?」
○同・取調室
向かい合って座る千晶と羽場、その脇に立つ笹原。
千晶「君がフライデーナイトに襲われたのが確か十日前だよね? そろそろ、何か思い出した?」
羽場「だから、覚えてねぇって。逆に聞きてぇんだけど、俺らより前にやられた奴らは何て言ってんの?」
笹原「一緒だ。誰もその時の事を覚えていないし、思い出せてもいない」
羽場「マジか〜。ひょっとして俺、もう二度と記憶戻らなかったりすんのかね?」
千晶「それを防ぐ為にも、協力して欲しいんだから。フライデーナイトの事以外に、何か思い出せない事、ある?」
羽場「う〜ん……っていうか、それが思い出せねぇんだけど」
千晶「あ、そっか。もう、面倒くさいんだから」
○コンビニ・外(夜)
たむろする加賀美(24)、羽場らチンピラ達。笑うチンピラ達。
羽場「いや、マジで笑い事じゃねぇから。記憶抜けてるって、マジで気分悪いからな」
加賀美「……で?」
静まり返るチンピラ達。
加賀美「俺らに何して欲しいんだ?」
羽場「いや、その、どうやったら記憶戻るのかな、って」
加賀美「こういうのって、ヒーロー番組だと敵倒せば戻ったりするよな?」
羽場「まぁ、テレビならそうですね」
加賀美「決めた。次の金曜日は、フライデーナイト狩りと行こうぜ」
盛り上がるチンピラ達。
羽場「マジですか? でも、それで俺らの記憶が戻るとも限らな……」
加賀美「俺が決めたんだ。もうテメェの記憶が戻ろうが戻るまいが関係ねぇんだよ」
羽場「……すみません」
加賀美「金曜日を守る騎士だ? 調子に乗りやがって。デカい顔してられんのも今のうちだからな」
入口付近、その話を立ち聞きしている筒井。
筒井「……」
千晶の声「フライデーナイト狩り?」
○繁華街・表通り(夜)
電光掲示板に流れる「2019年12月6日」の文字。
停車する車の助手席に座る千晶と運転席に座る笹原。
千晶「それも、笹原の甥っ子君の情報?」
笹原「甥ではないんですが……まぁ、その通りです」
千晶「フライデーナイトの居場所もわからないのに、どうやるの?」
笹原「おそらく『その辺で暴れていればフライデーナイトの方から現れるだろう』という算段なのでしょう」
千晶「まったく、最近の若者はロクな事考えないんだから」
笹原「お嬢も充分お若いですよ」
千晶「ありがと。でも、そう簡単に狩れる相手だと思う?」
笹原「どうでしょう。少なくとも、戦う準備をしてフライデーナイトを迎えた者は今までいない訳ですし」
千晶「そっか〜。……あっ(前方を指差し)笹原、あれ見て」
笹原「フライデーナイトですか?」
千晶の指す先、中高生風の男女が歩いている。
千晶「あんな子達がこんな時間まで出歩いてちゃダメなんだから。言ってくるね」
笹原「お待ち下さい、お嬢」
車を出る千晶と、千晶を追いかけ同じく車を出る笹原。助手席には携帯電話が置きっぱなし。
笹原「我々はフライデーナイトの出現に備えて張り込みをしているんですよ?」
千晶「でも、警察官たるもの、見過ごす訳にはいかないんだから」
男女の元へ駆けていく千晶。
笹原「せめて携帯電話はお持ちになって下さいよ、お嬢。……まったく」
鉄パイプが地面を叩く音。
それに気付き振り返る笹原。そこには鉄パイプを持った加賀美、羽場らチンピラ達。
羽場「やべっ。(加賀美に)マズいですよ。あの男……」
加賀美「マッポだろ? 見りゃわかる」
笹原「いい洞察力だ(と言いながら警察手帳を見せる)。お前達か? フライデーナイト狩りを企んでいる輩というのは」
加賀美「へぇ、お見通しか。もしかして、テメェがフライデーナイトか?」
笹原「何?」
加賀美「だって、警察がフライデーナイトじゃねぇなんて証拠はねぇんだろ?」
笹原「付き合いきれないな。今日の所は見逃してやる。その物騒な物を置いてさっさと帰るんだな」
加賀美「あん?」
笹原をなめ回すように見る加賀美。
加賀美「(笹原に背を向け)テメェら、今日の所は撤収だ」
羽場「え? でも……」
振り向き様、鉄パイプで笹原を殴りつける加賀美。地面に落ちる警察手帳。
笹原「(うめき声)」
加賀美「なんて言うと思ったか? 油断は禁物だぜ、フライデーナイト」
笹原「……こんな事をして、ただで済むと思うなよ」
加賀美を睨みつける笹原。
加賀美「決めた。コイツを狩る」
羽場「でも、この刑事がフライデーナイトだっていう証拠も無いんじゃ……」
加賀美「俺が決めたんだ。もうこのマッポがフライデーナイトかどうかなんて関係ねぇんだよ」
羽場「……すみません」
加賀美「テメェがフライデーナイトなら狩りは終わり。テメェが偽物なら、本物が現れるまでの尊い犠牲者の一人目ってだけの話だ。連れてけ」
笹原の両腕を掴みどこかへ連れて行くチンピラ達。
× × ×
車のある場所へ戻ってくる千晶。
千晶「笹原〜、あの二人あれで大学生なんだって。超恥ずかしかったんだから。……笹原? 笹原〜?」
落ちている警察手帳を拾う千晶。
千晶「(驚いて)!?」
○同・裏通り
千晶の元にやってくる只野と鈴本。
只野「おい、戻ったか?」
首を横に振る千晶。
只野「どこ行っちまったんだよ、笹原さん」
鈴本「まさか、フライデーナイトにやられちゃったとか……?」
千晶「そういう不吉な事は、言うもんじゃないんだから」
鈴本「すみません」
金属と金属がぶつかるような打撃音。それに合わせて笑い声のようなものも聞こえる。
千晶「今の……?」
駆け出す千晶、只野、鈴本。
× × ×
先ほどの場所のさらに奥、人通りの少ない場所。
鉄パイプでナイトをボコボコにする加賀美、羽場らチンピラ達。
加賀美「死ね!」
加賀美の一撃を受け、倒れるナイト。その横には笹原も倒れている。
盛り上がる一同。そこにやってくる千晶、只野、鈴本。
只野「警察だ! 貴様ら、何してる!」
羽場「へっ、ここまで来たら警察だろうが何だろうが関係ねぇや。マジで全面戦争だ。(加賀美に)ですよね?」
加賀美「飽きた。帰る」
羽場「え?」
逃げ出す加賀美らチンピラ達。少し遅れて羽場も逃げ出す。
鈴本「待て!」
加賀美、羽場らチンピラ達を追いかけて行く只野と鈴本。
笹原とナイトの元に駆け寄る千晶。
千晶「笹原、大丈夫?」
笹原「……すみません、お嬢」
千晶「もう、心配したんだから。後は……」
倒れているナイトを見つめる千晶。
笹原「お嬢、良く聞いて下さい。奴は、フライデーナイトでは、ありません……」
千晶「? どういう事?」
笹原「フライデー、ナイト、は……」
気を失う笹原。
千晶「笹原? 笹原! ちょっと、どういう事? 意味わかんないんだから」
ナイトの面に手をかける千晶。面を外すと、筒井の顔。
千晶「(驚いて)!? 笹原の甥っ子君?」
ナイト(筒井)の手から落ちる剣。すると纏っていた鎧と剣が消え、完全に筒井の姿となる。
○警察病院・外観
○同・病室
ベッドに横になっている笹原。そこにやってくる只野と鈴本。
鈴本「笹原さん、具合どうですか?」
笹原「この通りだ。……お嬢は?」
鈴本「飯村さんなら、笹原さんや筒井を襲った連中を探しに行ってますよ」
○繁華街・表通り
周囲を見回しながら歩く千晶。
鈴本の声「『きっとまた同じ場所に現れるんだから』って息巻いてました」
○警察病院・病室
ベッドに横になっている笹原。その脇に立つ只野と鈴本。
鈴本「それにしても笹原さん、なかなか目ぇ覚ましてくれないんですもん。心配しちゃいましたよ。いや〜、でも良かった」
只野「はしゃぐな、バカ野郎。お見舞いに来たんじゃねぇんだぞ」
笹原「捜査状況は?」
只野「笹原さんの証言のおかげで、大混乱ですよ。説明してもらえますか? 何であの場に倒れていた筒井俊郎が『フライデーナイトじゃない』なんて言ったのか」
笹原「単純な話だ。最初のフライデーナイト事件の夜。俺は奴と一緒に居た」
只野「それは、どういう経緯で?」
笹原「奴のコンビニで万引きがあってな。当然、店のルールで警察に通報せねばならないんだが、奴は万引き犯に同情した。結果、旧知の間柄の俺を呼んで『便宜を図ってやってくれ』と」
鈴本「それなら、筒井に犯行は不可能……。じゃあ、何で筒井はあの日、フライデーナイトに変身していたんですか?」
笹原「それも単純な話だ。奴が、フライデーナイトに変身したからだ」
鈴本「はい?」
笹原「あの夜……」
笑い声が聞こえる。
○(回想)繁華街・裏通り(夜)
鉄パイプを手にした羽場らチンピラ達にボコボコにされる笹原。その様子を後方で笑いながら見ている加賀美。
羽場「さて、そろそろマジでトドメにしちまおうか」
筒井の声「小父貴!」
笹原の元に駆け寄る筒井。
羽場「誰だ、お前……」
羽場を制する加賀美。
加賀美「へぇ、まさかフリーダムファイターのお出ましとは」
羽場「え……フリーダムファイターって、あの?」
ざわつくチンピラ達。
加賀美「決めた。二人まとめて、狩る」
筒井「させるか。小父貴は俺の恩人だ。刺し違えてでも守る」
羽場「元ヒーローって言ったって、丸腰で何が……」
どこからともなく剣が落ちてくる。
加賀美「あん?」
一瞬逡巡するも、剣を手に取る筒井。加賀美らに向かって行きながら、ナイトに変身する。
ナイト「うおおお!」
○警察病院・病室
ベッドに横になっている笹原。その脇に立つ只野と鈴本。
鈴本「えっと、つまり、最初の事件のフライデーナイトは筒井じゃないけど、五件目のフライデーナイトは筒井で間違いない、って事で……ん? どういう事?」
只野「理解しろ、バカ野郎。フライデーナイトは一人じゃねぇ、って事だろ」
笹原「もっと言えば、全ての事件のフライデーナイトが別人、という事だろう」
鈴本「じゃあ、五件目は筒井で、四件目は百田少年?」
只野「で、三件目は大崎貴志か」
笹原「二件目は、名波勲だろう。現場の状況から見て、居合わせられるとしたらフライデーナイトの中しかあり得ん」
鈴本「問題は、最初の事件ですか……」
笹原「目星はついている」
只野「誰ですか?」
笹原「帝経スポーツの宍戸という記者だ。妙にフライデーナイトに詳しい様子だった。奴が最初のフライデーナイトなら、合点がいく」
鈴本「そんなに詳しかったんですか?」
笹原「あぁ。奴は言っていた。『フライデーナイトを裁く法律はない』と」
鈴本「いやいや、立派な傷害罪ですよ」
只野「バカ野郎。それはあくまでも『フライデーナイトを身にまとっていた人間』の罪だろうが」
鈴本「そうか、その都度変身していた人間が違うって事は、そもそも『フライデーナイト』という人間自体がいない……」
笹原「あぁ。フライデーナイトはあくまでも武器、道具に過ぎない。ナイフで人を刺したとして、ナイフに罪がないのと一緒だ」
鈴本「じゃあ、今日また別の人間がフライデーナイトに変身するかもしれない、って事じゃないですか。係長に連絡しないと」
携帯電話を取り出す鈴本。
笹原「今日? どういう事だ?」
只野「笹原さんは意識を失っていたからお気づきじゃないのかもしれませんが、今日は(鈴本の携帯電話の画面を見せて)一二月一三日、金曜日です」
笹原「なっ……。お嬢が危ない」
○繁華街・表通り
停車している車。運転席に置き忘れられた携帯電話が着信する。
○同・裏通り(夜)
歩いている千晶。
ガラス等が割られる音。
音のした方へ駆け出す千晶。
× × ×
先ほどの場所のさらに奥、人通りの少ない場所。
鉄パイプを手に暴れ回る加賀美、羽場らチンピラ達。
羽場「へへっ、フライデーナイトは消えたし警察もボコッてやった。これからはマジで俺らの天下じゃねぇ?」
そこにやってくる千晶。
千晶「居た。やっと見つけたんだから」
加賀美「あん? 誰の女だ?」
羽場「先週ボコッた刑事の、相棒です」
加賀美「何、アイツもマッポなの?」
千晶「君たち、もう逃がさないんだから」
ポケットを探る千晶。
羽場「へっ、女一人で何が出来るってんだ」
加賀美「さぁ。案外、拳銃でもぶっ放すつもりかもしんねぇぞ?」
羽場「け、拳銃!?」
ポケットから手を出す千晶。何も持っていない。
千晶「おかしいな〜。ねぇ、私のケータイどこにあるか知らない?」
羽場「は? し、知るかよ」
千晶「そっか〜。車の中かな?」
羽場「そ、それより、マジで拳銃持ってんのか?」
千晶「え? 武器なんて何も持ってきてないんだから」
羽場「は? そんなんで、俺ら相手にマジで何とかなると思ってんの?」
千晶「うん、大丈夫。話せば、きっとわかるんだから」
羽場「……マジで調子くるうわ」
引き続きポケットを探る千晶。ポケットをひっくり返すと、車のキーが落ちる。
千晶「おっと、車のキーが……」
しゃがみ、車のキーを拾う千晶。その時、千晶の頭上を、加賀美が投げた鉄パイプが通過し、千晶の背後にあった一面ガラス張りの窓が割れる。
千晶「!?」
加賀美「決めた。この女を狩る」
他のチンピラから奪うように鉄パイプを手にする加賀美。千晶の元に歩み寄る。
加賀美「これでもまだ『話せばわかる』とか思ってんのか?」
千晶「思ってるよ」
加賀美「俺はテメェの相棒のマッポの敵だ。それでもか?」
千晶「復讐は、何も産まないんだから」
加賀美「(笑って)テメェ、いい奴だな」
千晶「良く言われる」
加賀美「でもな、俺は決めたんだ。女だろうが、丸腰だろうが、いい奴だろうが、関係ねぇ」
千晶に向けて鉄パイプを振り下ろす加賀美。
笹原の声「お嬢!」
千晶を抱き寄せるような形で加賀美の攻撃をかわす笹原。
千晶「笹原!?」
笹原「お嬢、話し合いをするのはご自由ですが、先に逮捕してしまった方がよろしいかと。一応、私への傷害容疑がかかっている連中ですので」
千晶「そんな事より、笹原、病院は? 勝手に抜け出しちゃダメなんだから」
笹原「お嬢のピンチと比べれば、コチラの方がよほど『そんな事』ですよ」
加賀美「グダグダうるせぇな、死に損ないのマッポがよ」
加賀美の振り回す鉄パイプを避けながらどんどん下がって行く千晶と笹原。先ほど割れた一面ガラス張りの窓の前まで追いつめられる。その割れた窓の先に何かを見つける笹原。
笹原「くっ……」
加賀美「もう逃がさねぇぞ」
笹原「お嬢、先に謝ります。申し訳ない」
千晶「? どうしたの?」
窓の内側に手を伸ばす笹原。手にしたのはナイトの剣。
驚く千晶、羽場、加賀美。
笹原「全ては、お嬢を守るためです」
ナイトに変身する笹原。
千晶「笹原……何で?」
羽場「マジかよ、この間ボコった奴がフライデーナイトじゃなかったのかよ」
加賀美「関係ねぇ。決めた。まずはテメェから狩ってやるよ、フライデーナイト」
ナイトに襲いかかる加賀美とチンピラ達。チンピラ達を次々と返り討ちにするナイト。
ナイト「こんなものか」
千晶「ねぇ、もう止めてよ。笹原」
振り返るナイト。その視線の先、千晶の背後に忍び寄る羽場。
ナイト「危ない!」
千晶を庇い、羽場の振り下ろす鉄パイプをもろに受けるナイト。
ナイト「(うめき声)」
千晶「笹原!」
加賀美「なぁ、フライデーナイト。テメェこそ『こんなものか』?」
鉄パイプでナイトを殴り続ける加賀美と羽場。千晶を庇い、攻撃を受ける一方のナイト。やがて、倒れる。
千晶「笹原、笹原〜!」
羽場「へへへっ、これで今度こそ、マジでフライデーナイトは終わりですかね?」
加賀美「関係ねぇよ」
羽場「何かこう、ヒーローぶってる奴をぶちのめすと、マジで快感ですよね。へっ、へへへへっ」
千晶「……何で?」
加賀美「あん?」
千晶「みんながみんな、隣の人を愛すれば、この世界から犯罪なんてなくなるハズなのに」
羽場「愛?」
千晶「何でこんなヒドい事ができるの? 笹原の気持ち、君たちにはわかんないの?」
羽場「愛? 何、このオッサン、いい歳こいて、アンタみたいな若い女を愛しちゃってたの? マジでキモいな、オイ」
拳を握りしめる千晶。
千晶「(ボソっと)……だから」
加賀美「あん?」
千晶「(顔を上げ)アンタ達、絶対に、ぜ〜ったいに、許さないんだから〜!」
ナイトが握っていた剣を手にし立ち上がる千晶。
○(イメージ)闇の世界
一面真っ暗な世界。向かい合って立つ千晶とナイト。
千晶「……あれ、ここは? 君は?」
ナイト「我が名はフライデーナイト。君の感情に応え、君に力を貸そう」
千晶「今までも、そうやって色んな人に力を貸してきたの?」
ナイト「あぁ。私は人間のとある感情が大好きでね」
千晶「とある感情?」
ナイト「今の君ならわかるはずだ。今一度聞こう。人間が何かを本気で守ろうとした時抱く感情は何だ?」
千晶「守ろうとした時……」
ナイト「つまり、つい先ほど。剣を手にしたその瞬間だ」
千晶「それは……(絶句)」
ナイト「……では、しばらく体を借りるよ」
○繁華街・裏通り(夜)
向かい合って立つナイトと加賀美、羽場。
羽場「おいおい、フライデーナイトってマジで何人居るんだよ」
加賀美「飽きた。もう終わりにしようぜ」
ナイトと加賀美、羽場との戦いが始まる。以下、取調室のシーンと適宜カットバックで。
○豊島署・取調室
宍戸の取り調べをする只野と鈴本。
宍戸「あのガキどもが奪おうとした私のカバンには、私が命を削って手に入れた情報が山ほど入っていたんですよ。それを守ろうとした。それだけの話です。キヒヒヒヒ」
× × ×
名波の取り調べをする只野と鈴本。
名波「あのキャバクラはぼったくりだ。そんなものに、俺は一円だって払う気はない。俺は、俺の財産を守る為に戦ったんだ」
× × ×
大崎の取り調べをする只野と鈴本。
大崎「あの女刑事さんの言う通りでした。あの店には、僕のすべてが詰まっていたんです。それを何の理由もなく壊されたんですよ。それでも、僕が悪いんですか?」
× × ×
百田の取り調べをする只野と鈴本。
百田「ただただ、彼女を守りたかっただけなんスよ。そうしたら、体が勝手に動いてたんス。後は、この間言った通りっス」
○繁華街・裏通り(夜)
羽場を倒すナイト。加賀美と一対一となる。以下、病室のシーンと適宜カットバックで。
○警察病院・病室
ベッドに横になり、日比谷の取り調べを受ける筒井。
筒井「前に捕まった時、小父貴には世話になったし、それ以降も何かと目をかけてもらってたんだ。そんな小父貴を守れなくて、俺の人生に何の意味がある?」
× × ×
ベッドに横になり、日比谷の取り調べを受ける笹原。
笹原「お嬢を守る。ただそれだけだったんですよ。だが……」
日比谷「何か?」
笹原「結果としてお嬢までフライデーナイトにしてしまったのなら『私はお嬢を守れなかった』という事になるのかもしれませんな」
日比谷「笹原さん……」
○繁華街・裏通り(夜)
ナイトの一撃が加賀美に決まり、倒れる。直後、サイレンの音が聞こえ、只野や鈴本ら警察官が現場に到着する。剣から手を離し、変身を解く千晶。その場で消える剣。
鈴本「飯村さん……」
只野「(倒れている加賀美達を見て)飯村千晶、傷害の容疑で現行犯逮捕する」
千晶の声「傷害なんかじゃないんだから」
○豊島署・取調室
千晶の取り調べをする只野と鈴本。
鈴本「……と言いますと?」
千晶「人間が何かを本気で守ろうとした時、抱く感情は何だと思う?」
只野「勿体ぶってねぇで、さっさと話せ」
千晶「殺意だよ」
鈴本「(驚いて)!?」
千晶「少なくともあの時の私は、アイツらを殺そうと思ってたんだから」
只野「つまり、自分は殺人未遂だ、って? それは無理だろうな」
千晶「何で?」
只野「実際、ヤツらは命に危険が及ぶような傷は負っていないし、何より凶器が見つかってない」
鈴本「あの剣、一体どこ行っちゃったんですかね?」
只野「今夜もきっと、どっかで誰かが変身すんだろうな」
鈴本「半永久的に現れ続ける変身ヒーロー型犯罪者フライデーナイト。どうやったら解決できるんですかね、この事件?」
千晶「方法ならあるんだから」
鈴本「え、何ですか?」
只野「んな事もわからねぇのか、バカ野郎。……『愛』って言いてぇんだろ?」
微笑む千晶。
ナイトN「奴は、今日も現れる」
○繁華街・裏通り(夜)
カツアゲをしている男達。足音が聞こえ、顔を上げる。
ナイトN「人間が守りたい『何か』を守る為人間が抱くその感情を守る為、我々の金曜日を守る為に現れる」
男達に向かって歩いてくるナイト。
ナイトN「その者、誰が呼んだか……」
剣を構え、駆け出すナイト。
ナイトN「フライデーナイト」
(完)
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