人間模様 丸ノ内の靴磨き 日常

丸ノ内のオフィス街で働くサラリーマン・ヒロシはある時から東京駅前で長年露店営業をする靴磨き屋達に興味を持つことになる。何度か靴を磨いてもらいに寄るうちに彼らが只者ではないと思うようになる。彼らは父親と兄弟だった。 ある日、暫くぶりに寄ってみると、弟一人だけが営業していた。その時に初めて、靴磨き屋以外にに兄弟が絵描きであることを知る。そこで弟に展覧会の案内をもらう。 ヒロシはその後、その展覧会が兄の遺作展であることを知り涙ぐむ。
山田浩 10 0 0 10/31
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第一稿

◯人物

ヒロシ(49)丸の内で働くサラリーマン
幸一(63) 露店の靴磨き屋
賢二(61) 露店の靴磨き屋 幸一の弟
靴磨き兄弟の父親
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◯人物

ヒロシ(49)丸の内で働くサラリーマン
幸一(63) 露店の靴磨き屋
賢二(61) 露店の靴磨き屋 幸一の弟
靴磨き兄弟の父親
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ヒロシN『東京駅丸ノ内北口を出たところに露天営業している靴磨き屋さんがあります。僕は、いつの頃からかそこで磨いてもらいに寄るようになりました。ピッカピカに磨いてくれんだよね。磨いてくれるだけではなくてね、磨いているほんの5分10分の間にする会話がとても楽しいんです。』

◯(回想)東京駅丸ノ内北口前 12月の寒い昼 10年前
ヒロシ、スーツ姿、改札を出て北口の駅舎を通り抜け表に出る。足下を見てつぶやく。
ヒロシ「埃っぽい靴だなぁ。暫く磨いてねぇし。」
ヒロシ、ふと見ると露店の靴磨き屋に気がつく。
ヒロシ「靴磨きかぁ、やってもらったことないなぁ。500円? 一回トライしてみようか。」
あちこち染みのついた汚い格好で靴磨きをしている三人の職人達。
髪を長く伸ばして後ろで束ねている細身の職人。
髪はまじめっぼく少し大柄な職人。
年寄りの職人。
ヒロシ、髪を伸ばした職人の前に立った。

幸一「はーい、お兄さん、いらっしゃーい !」
ヒロシ「初めてなんだけど・・」
幸一「ピッカピカになるよー。うーん、なんだがお兄さんの靴、随分と色落ちしているなぁ。染めも一緒にどうだい。プラス500円で新品みたいになるからね。」
ヒロシ、少し考えて
ヒロシ「ではそれで。」
幸一、手際よく靴を磨く。そして良く喋る
幸一「なんかアメリカの政治がおかしいねぇ・・」
幸一「あそこの商社、これから儲かるよ・・」
幸一、暫くして靴の磨き終わり
幸一「ほーら、どうだ。これで女の子にモテモテだぜぇ! 女はなぁ、結局足元みてるからね、ははは。」
ヒロシ「ほんとうにピカピカだね! びっくりした。」
幸一「ははは、俺たちはプロだからね。」

ヒロシN『これが彼らとの出会いでした。失礼なことに僕は靴磨き屋に僕の知らない戦後の浮浪者的なイメージを持っていました。でも、この靴磨き屋の人達、格好とは正反対にしっかり話して人生に長けているように見える、「ただ者ではないな。」と感じさせるところがありました。生活レベルの高さを感じたものです。それからこの露店の靴磨き屋に良く寄るようになりました。』

◯(回想) 東京駅丸ノ内北口前の道路沿い 春先の10時頃 7年前
賢二、もう一人のお爺さんの二人で露店営業している。
ヒロシ、スーツ姿、仕事で移動中
ヒロシ「こんちはー、やってもらっていいですか。」
賢二「はい、どうぞー。」
賢二、靴を磨き始める。

ヒロシN『この日は、疑問に思っていた一つのことを聞いてみたのです。」

ヒロシ「おじさん達、いつ頃から靴磨きやってるの?」
賢二「1960年頃からだよ。隣の俺達のオヤジが始めたからね。60年になるよ。東京ではもう10人ぐらいしかやってないけど、俺達が一番古いんだ。」
ヒロシ「えっ、あの方、お父さんなの。60年とは凄いねぇ。」
賢二「オヤジは靴磨きで生計立てて俺達を育てくれたからね。ちゃんと大学にも行かしてくれた。」
兄弟の父親、黙々と仕事をしている。
ヒロシ「おじさんは大学では何を?」
賢二「西洋美術系の勉強をね。早稲田の文学部だよ。靴磨きやってるんなて意外だろ。」
ヒロシ「えっ、早稲田とは僕と同じだ。僕は理科系だけど・・。ところで、今日は弟さんは?」
賢二「ははは、お兄さん、ここ2,3年来てくれているけど勘違いしているようだね。僕が弟の方だよ。兄貴は幸一、俺は賢二っていうんだ。幸一の方がせが低くて痩せ型で遊び人風だから弟に良く見られるけど、実はあいつは兄貴、俺が弟だ。ははは。今日は兄貴は別の仕事で休みだ。」

ヒロシN『その後も靴磨きの職人達は、たまに寄った時に、とても豊かな寸暇を与えてくれました。靴がピカピカになることよりも彼らとは暫しの会話が楽しみでした。話題が豊富で、話も高尚だった。話の端々に何人ものお金持ちの友人の話が出るし・・。ヨレヨレのシャツに靴墨のシミがあちこちついたズボン、そして手も墨でどす黒い。だけど靴だけは高そうな革靴を履いていて格好よくピカピカに磨かれている。やはり只者ではない。そういうところに惹かれてました。』

◯ (回想) 東京駅丸ノ内北口前の道路沿い 夏の暑い日 午前10時頃 5年前
赤沢幸一に靴を磨いてもらっているヒロシ
幸一「お兄さんはどこで働いているの。」
ヒロシ「今はね、ほらあのビル、ここ丸の内だよ。」
幸一「そうかいそうかい。ここで営業しているとね、丸の内のサラリーマンが多いだろ。政治家の卵みたいなのも来るよ。そいつらがね、結構偉くなったりしてね。」
ヒロシ「へぇー。」
幸一「銀行や保険会社のの役員とか、商社の重役とか、いつのまにか衆議院議員になった奴とかね。今でもこっそり来てくれる。」
ヒロシ「そりゃ凄いや。」
幸一「そいつらがね、パーティなんかやったりすると俺達にも声掛けてくれる。そこでまた色んな人を知ったりね。この前は元巨人の監督のパーティに呼ばれたよ。」
ヒロシ「おじさん、偉い人の知り合い多いねぇ。」
幸一「ここに来ると皆偉くなるんだよ、ははは。お客さんはどうかなぁ、ははは。」
ヒロシ「(苦笑)・・・」

ヒロシN『僕に、何故著名人の知り合いが多いか教えてくれたが、それにしても靴磨きの営業だけではない何かを感じていました。』

◯ (回想) 東京駅丸ノ内北口前の道路沿い 年明け 昼時 3年前
幸一、ひとりで靴磨きの営業をしている
ヒロシ、クールビズ姿に新品の革製ダレスバッグを持っている
ヒロシ「こんちはー、暑いねー、お願いしていいかな。」
幸一「はーい、どうぞ。」
ヒロシ「ちょっとサボっていたよ。暫く来れなかった。今日は1人?」
幸一「今日は1人だ。弟は別用があってね。」
ヒロシ「オヤジさんは?」
幸一「オヤジは引退してね・・、今は兄弟ふたりでやってるんだ。 」
ヒロシ「それは知らなかった。」
幸一「ところでお兄さん、とても良い革のバッグをもっているね。」
ヒロシ「実は、最近、奮発して買ったんだよ。」
幸一「それさ、そのまま使い続けても良いけど、ちゃんとオイルで磨いたらもっと格好よくなるよ。傷もつきずらくなる。俺に任して磨かせてくれないか。」
ヒロシ「カバンも磨いてくれるの? おじさんにだったら是非磨いて欲しい。」
幸一「磨くのは靴だけじゃないよ。俺達は革のプロだからね。でもね、こういうカバンみたいな幅があるヤツを均一に磨くのはかなりの腕がないとね。」
幸一、カバンを手に取る。
幸一「こりゃいいカバンだ。これダレスバッグというけどね、別名医者カバン。でもね、実際は医者がこんなカバンもっているのは古いドラマの中だけだね。弁護士が良くもっているかな。ロイヤーズバッグとも言うね。お兄さんにも良く似合うよ。頭使う仕事する奴はこういうの持ち歩く。」
幸一、手際よくカバンの手入れをし始めた。

ヒロシN『その後、丸の内からオフィスが移転したこともあり、暫くこの靴磨き屋が遠のいてしました。3年ぶりか、先日久しぶりに寄ってみました。』

◯ 東京駅丸ノ内北口前の道路沿い 年明け 昼時
賢二がひとりで露店営業している。
ヒロシ、声を掛ける
ヒロシ「おじさん、こんちは。久しぶりだね。仕事で通りかかった。いいかな。」
賢二「おー、久しぶりだね。どうぞ座って。」
賢二、靴を磨き始める。
ヒロシ、持っていたカバンを持ち上げて話題を振る。
ヒロシ「あれからオフィスが移転してね、中々これなくてね。ほら、このダレスバッグ、お兄さんに磨いてもらって、まだ、新品同様だよ。あれから来ていないんだ。申し訳ない。」
賢二「いやいやいいんだよ。たまにでもきてくれれば。ほぉー、カバン、いい感じだね。」

ヒロシN『この日は、これまで聞きたくてずぅーと聞きたかったことを聞いてみようと思った。』

ヒロシ「おじさん達って、ここで長く靴磨きをしてるっていってたけど・・。ほんとうは別の職業やっていて靴磨きは趣味でやっているんじゃない? なんか、そんな気がして・・。」
賢二「あれ? 知らなかったのかい。俺達は生まれながらの靴磨き屋だけど、もうひとつの仕事やっててね。ほらみてごらん。」
賢二、絵はがきを取り出してヒロシに渡す。
そこには花瓶に飾った絵が書かれていた。
ヒロシ「えっ、もしかして・・。おじさん達、絵描きさん?」
賢二「そうだよ。どっちが本業かわらなくなってしまったがね。靴磨き屋っていうのは偏屈な奴が多いけどね、俺達兄弟は絵でも食ってきた。」
ヒロシ「へぇー驚いたなぁ。絵のことはわからないけど・・、観に行くは好きだ。いい絵だね。」
賢二「そうかい、そりゃ良かった。実はね、来月初めからこの店は暫く休業するんだ。展覧会を銀座で開く。展覧会って言っても小さな個展だけどね。そのはがきの裏に場所と時間かいてあるから良かったらどうそ。」
ヒロシ「わかった。時間が合えば行くよ。」
賢二「はいっ、いっちょ上がり。出来たよ。今日はありがとね。」
ヒロシ、立ち上がってオフィスへ向い歩き出した。

◯ヒロシの会社のオフィス 部長席 (靴磨き屋から戻ってきて)
ヒロシ、カバンを机の上に置き先ほどもらった絵はがきを机の上に置く。
ヒロシ、絵をじっとみてつぶやく。
ヒロシ「なかなかいい絵じゃないか。印象派的? 」
ヒロシ、一人こそこそ笑みを浮かべる。そしてつぶやく。
ヒロシ「絵のことを論じるほど知らないな。」
ヒロシ、何気なく絵ばかきを裏がす。
裏面には展覧会の案内が書いてあった。それを読むヒロシ。
浩志「えっ!」
思わず大声で叫ぶ、ヒロシ。
周りの部下達、部長のヒロシの声に驚いてヒロシに振り向く。
ヒロシ、絵はがきを持っている手がブルブルと震えている。
ヒロシ「お兄さん・・、亡くなったのか・・。」

ヒロシN『そのはがきの裏面には、展覧会の案内がかかれていました。「赤沢幸一遺作展」と。』
ヒロシ、ダレスバッグをみて少し涙ぐむ。
  ヒロシ、オフィスで周りをはばからず嗚咽する。

ヒロシN『幸一・賢二のことを調べてみました。正直、びっくりしました。二人は絵画の世界ではそこそこの画家であることがわかりました。やはりただの靴磨き屋ではなかった。靴磨き屋だけではなくて、芸術的才能で人生の基盤を築き、それを通して様々な著名人と繋がっていることがわかりました。』

◯銀座の画廊 晩秋の日が落ちた頃
賢二、小さな画廊で入れ替わり立ち代わり客が来る客の対応をしている。
賢二、靴磨き屋でない清潔な洒落た格好にベレー帽を被っている。
ヒロシ、画廊に入ってくる。
ヒロシ「賢二さん、展覧会おめでとうございます。そして・・お兄さんが亡くっていたこと、知らなかった。申し訳ない。」
賢二「いやいや、積極的に話してないからね。実はね、2年前に千葉の方で交通事故でなくなったんだ。呆気なかった。オヤジもね、もう歳で4年前になくなったから・・、東京駅で露店の靴磨き屋は俺ひとりになったよ。兄貴の絵は残った。たくさん観ていってくれ。」
ヒロシ、混んでいる画廊の中を進みたくさんの絵を観て歩く。

ヒロシN『その後も弟の賢二さんは東京駅でひとり靴磨きを続けています。僕は近くに行った時、また暫しの会話を楽しみたくて靴を磨いてもらう。一人になってしまったけど、心温まる豊かな時間をもらえることは変わらないでいる。有難いことだ。そして、「赤沢幸一・賢二兄弟展」と称して時折、展覧会も開く。安月給サラリーマンの僕には二人の絵は高くて買うことはできないが、ふたりの絵を観ることも安らぎを絵る貴重な楽しみとなっている。』

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