〇公園・前
パシャっとシャッターを切る伊月雫(25)。
良枝の声「あら、カメラマンさんなの」
振り返る雫。
にこにこしながら立っている福田良枝(78)。
雫「はい」
おばあちゃん「きれいな公園だものね。被写体にはピッタリね」
雫「…(うつむく)」
雫・N「私は、この公園が嫌いだ。だって」
良治の声「雫―!」
おばあちゃんの反対側で手を振る福田良治(25)。
振り返る雫。顔をしかめる。
雫・N「こいつがいるから」
〇同・茂みの中
茂みからダンゴムシを大量に探している良治。
雫「…毎度毎度何やってんの」
良治「(振り向いて)おばあちゃんは?」
雫「帰った。あんたにびっくりしたんじゃない」
良治「楽しいのに。オーム探し」
雫「だからダンゴムシだって…またなんかはじめたの?」
良治「レンタルジブリ何でも屋さん」
雫「ジブリ限定…」
良治「ただ豚にはなれないからちょっと困る」
雫「…何で始めたの」
良治「今流行りのビジネスだよ。雫さんもやろうよ。レンタル僕の専業主婦」
雫「それレンタルでいいの?」
良治「?」
雫「だってそれ奥さんでしょ。良治くん、結婚してるし、それはダメでしょ」
良治「…いいんだ。俺、雫になってもらいたい俺専用のレンタル専業主婦。一定期間でいいから!」
「お願い!」と手を合わせる良治。
雫「…」
雫、悩むように目をそらす。
〇同・中・ベンチ(夕)
ベンチに座っている雫。
良枝の声「あらあらあら」
雫、振り向く。
雫の隣に座る良枝。
良枝「どうしたの。元気ないじゃない」
雫「…告白されたのかどうかわからなくて」
良枝「好きだと言われたの」
雫「自分の専業主婦になってくれないかって」
良枝「プロポーズじゃない!(目を輝かせる)」
雫「…でも彼奥さんいるし…」
気まずそうに口ごもる雫。
良枝、気まずそうに眼をそらす。
良枝「…昨日ね。孫がなんだかうれしそうに帰ってきたの。もしかしてあなたにプロポーズしたのって」
雫「何の話…」
良治の声「ばあちゃん!何やってんだよ!」
振り向く雫と良枝。
息を切らして立っている良治。
雫「(良治と良枝を交互に見ながら)良治のおばあちゃん?」
良治「何で雫が…」
良治に歩み寄っていく良枝。
良枝「あんた、昨日美紀さんに離婚届突き出したってなんであんないい人を…」
雫「離婚届…?」
良治「関係ないだろ。ばあちゃんに」
雫を見る良治。
良治「雫、行くぞ」
雫の手を引っ張っていく良治。
〇道
雫の手を引いて早歩きで歩いていく良治。
雫「良治くん!」
立ち止まる良治。
雫「どういうこと」
良治「…(振り向かない)」
雫「離婚したなんて嘘、だよね。あんなに仲のいい家族だったのに…なんで」
良治「雫はさ、人生最後の日、何がしたい」
雫「え?」
良治「もし、明日がないとしたら、どうする?」
雫「…」
良治「俺はさ、人生の一番最初に好きになった人と一緒に過ごしてみたくなったんだ。ダメかな」
雫「…どういうこと。最後って」
良治「あと一年だって。俺…」
唇をかみしめる良治。
良治「俺…後悔はしたくないんだ」
雫「良治くん…」
良枝の声「いいんじゃない?好きに生きれば」
振り向く雫。
良治「ばあちゃん…」
良枝「良治。あんた恋してたんだねえ」
にこやかに雫を見つめる良枝。
雫「恋…?じゃあ…」
良枝「ごめんなさいね。馬鹿な孫がこんな形でしか告白できなくてね。レンタルされておいてあげてくれないか」
雫「…(少し悩んで)、お金もらうよ」
良治「もちろん!」
雫「私わがままだよ」
良治「大歓迎」
雫「優しくないよ」
良治「大丈夫です」
雫「おばあちゃんよろしくお願いします」
頭を下げる雫。
良枝「あいよ」
良治「俺じゃないのかよ!」
がっくり膝をつき、泣く真似をする良治。
だがすぐに良枝に嘘泣きだとばれてしま
う。
笑う良枝、雫。
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