プロローグ脚本
(案内人=ミラの語り)
(暗転。
風の音。
遠くで古い振り子時計の音が、ゆっくりと鳴っている。)
チク……タク……チク……タク……。
(上手奥あたりに、細いスポットが一筋だけ差し込む。
そこには誰も立っていない。
“空間”だけが照らされる。)
案内人の声(※ミラ。落ち着いた女の声)
「──貴方は、“前世の記憶”というものを信じますか。」
(間。時計の音だけが続く)
案内人の声
「たとえば……
思い出したくない過去を、丸ごと箱に詰めて、
“あれは前世の話だ”と呼びかえてしまう人がいる。」
「本当は昨日のことなのに。
先週のことなのに。
十七年前のことなのに。」
(かすかな笑い)
案内人の声
「忘れたい記憶を、“前世”と呼ぶ。
それは、とても便利な魔法です。」
(風の音が少し強くなる)
案内人の声
「貴方は、完全犯罪を信じますか。」
(時計の音が一拍だけ大きく鳴る)
案内人の声
「証拠がない。
目撃者がいない。
時効も、法律も、裁けない。」
「けれど──
世界のどこかに、たったひとり。
“犯人を知っている人間”がいる。」
(低く)
案内人の声
「犯人自身です。」
(短い沈黙)
案内人の声
「ではもし、その犯人が──
自分が犯人だという記憶を持っていなかったら?」
(やや近くなる声)
案内人の声
「記憶を失った罪人。
自分が犯人と知らぬ黒幕。
犯人自身が記憶を持っていない完全犯罪。」
「そんなものが、許されると思いますか。」
(床のどこかで、コト、と何かが転がる小さな音)
案内人の声
「この物語には、三つの影が出てきます。」
「ひとつは──
家族を守れなかった姉の影。
目の前で崩れていく世界を見ていながら、
恐怖で一歩も動けなかった少女。」
「ひとつは──
自分が犯人だと知らないまま、
“被害者”として生きてきた妹の影。
愛した人が死ぬたびに、
『私が不幸を呼んでいる』と信じてしまった子ども。」
「もうひとつは──
その二人のあいだに生まれた、名もなき影。」
(声がすっと遠ざかる)
案内人の声
「彼女は、墓守のように働きます。」
「罪の証拠を拾い集め、
燃やし、埋め、
“なかったこと”にする。」
「家族を、
三姉妹の名前を、
一人の少女の罪を、
世界から切り離すために。」
(時計の音が少し速くなる)
案内人の声
「でも、忘れてはいけません。
どれほど巧妙な完全犯罪も──
たったひとつだけ、消せないものがある。」
(囁きに近い声)
案内人の声
「それは、“名前”です。」
「どれほど戸籍を偽っても。
どれほど偽名を重ねても。
どれほど『私はずっと一人だった』と
自分に言い聞かせても。」
「本当の名前は、
必ずどこかで、持ち主を呼ぶ。」
(少しだけ柔らかく)
案内人の声
「これは、記憶の無い罪人の物語。
自分が犯人と知らぬ黒幕の物語。
そして──
忘れたい記憶を“前世”と呼んでしまった姉妹の物語。」
(時計の音が止まる。
一瞬、完全な静寂。)
案内人の声
「さあ、幕を開けましょう。」
「まだ誰も、自分が誰の影なのか、
知らないうちに。」
(シャンデリアの明かりがドン、と一度だけ点灯し、すぐ暗転。)
── プロローグ 終 ──
第1幕・初対面シーン(完全版脚本)
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【場所】
洋館の広間。
古いシャンデリアが、息を潜めるように灯っている。
奥には大階段。
窓の外には夜の雨が細く叩き続けている。
(暗転から明かりがゆっくり立ち上がる)
(舞台中央、古いソファに 玲奈(黒瀬玲奈) が倒れ込むように横たわっている。)
(玲奈、うっすら目を開ける。息は荒く、混乱した表情。)
玲奈
「……ここ……どこ……?」
(照明がわずかに揺れる。
背後の壁に、細長い“影”がスッと走る。
すぐ消える。)
玲奈
「いま……誰か……いた……?」
(足音。
階段の方から 瑠璃 が現れる。)
(玲奈は警戒して身を縮める。)
瑠璃(落ち着いた声)
「大丈夫? 動かない方がいいわ。」
玲奈
(反射的に、距離を取ろうとする)
「……ッ! あ、すみません……!」
瑠璃
「怪我してるの? 頭は打った?」
(玲奈、混乱しながら周囲を見回す。)
玲奈
「……いえ……分からなくて……
気づいたら……ここで……」
(瑠璃、玲奈の顔をまっすぐ見つめる。)
(数秒の沈黙──長い。目が離せない。)
玲奈
「……? あの……」
瑠璃
「…………」
(ほんのわずかに震えた声で)
瑠璃
「……不思議ね……」
玲奈
「え?」
(瑠璃、自分に言い聞かせるように小さく)
瑠璃
「初めて会ったはずなのに……
十七歳の頃の“私”を見ているみたい……」
玲奈
「──えっ?」
瑠璃
「あ……ごめんなさい。意味の分からないことを言ったわね。
ただの……気のせいよ。忘れて。」
(玲奈、きょとんとするが、その表情には一瞬だけ“傷ついたような怯え”が過る。)
玲奈
「……いえ……
たまに言われるんです。
“誰かに似てる”って……
でも、誰のことか聞いても分からなくて……」
瑠璃
「……そう。」
(玲奈、胸元を押さえ、息を整えようとする。)
玲奈
「……すみません。
あの……ここはどこなんですか……?」
瑠璃
「私にも分からないの。
気づいたら、この館の中にいて……
あなたが倒れていたから、介抱しようと……」
(玲奈、ぎゅっと腕を抱きしめるようにする。心細さが抑えられない。)
玲奈
「……すみません……
私……どこかであなたに……」
瑠璃
「会ったことはないわ。
少なくとも、私はあなたを知らない。」
(玲奈、安堵と不安の混ざった表情)
玲奈
「……よかった……」
瑠璃
「“よかった”?」
玲奈
「……変ですよね。
初対面の人に言うことじゃないけど……
私……いつも……
“どこかで見たことがある”って言われるのが……怖くて……」
(瑠璃、一瞬だけ何か言おうとして、口を閉じる。)
瑠璃
「……そう。」
(静寂。雨の音だけ。)
(その後、ゆっくり語りかけるように)
瑠璃
「落ち着いた? 立てる?」
玲奈
「はい……ありがとうございます……」
(瑠璃、玲奈に手を差し伸べる。
玲奈は躊躇した後、小さく震える手で取る。)
(階段上の暗がりで、
“影(ミラ)”がゆっくり姿勢だけ変える。
まだ誰も気づかない。)
瑠璃
「……他にも誰かいるみたい。
この広間に、全員集まってる。」
玲奈
「みんな……知らない人です……」
瑠璃
「私もよ。
でも──」
(玲奈の手をそっと離し)
瑠璃
「大丈夫。
何があっても、あなたを置いていったりしないから。」
玲奈
「…………!!」
(玲奈の目が揺れる。
“誰かが自分を置いて行かないと言ってくれる”──
それが初めての経験であるかのように。)
玲奈
「……ありがとうございます……
本当に……」
(照明がゆっくり引き、場面転換の準備。)
── 第1幕・初対面シーン 終 ──
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第1幕:招集シーン(完全版脚本)
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【場所】
洋館の広間。
古い時計が時を刻む。
階段、長いテーブル、重厚なカーテン。
(前シーンの続き。玲奈と瑠璃が中央にいる。)
瑠璃
「……大丈夫? 座って待ちましょう。」
玲奈
「はい……」
(玲奈がソファに座る。
瑠璃は周囲を警戒するように見渡す。)
(そこへ、扉がバン、と勢いよく開く。)
◆1人目:国木田 惟臣(くにきだ・これおみ)
(疲れ切ったスーツ姿の男が入ってくる。
目の下のクマが深く、何かに怯えるように落ち着きがない。)
国木田
「……誰だ。ここは何だ……?」
瑠璃
「あなたも……招待状を?」
国木田
「……ああ。“招かれた”らしい。
だが差出人は書かれていなかった。」
(国木田、玲奈の姿を見た瞬間、
“ビクリ”と身体が震える。)
国木田
「……おい……嘘だろ……また……
また、同じ顔……!」
玲奈
「えっ……?」
(玲奈、怯えて瑠璃の後ろへ下がる。)
瑠璃(警戒)
「彼女に失礼よ。初対面でそんな言い方は──」
国木田
「いや……悪い……
ただ……その顔……
十七年前の……」
(国木田は口を閉じる。
玲奈は意味が分からず、ただ固まる。)
◆2人目:東雲 佳音(しののめ・かのん)
(静かに扉が開き、
猫背で小柄な女性が入ってくる。
手には古いファイルを抱えている。)
東雲
「……あの……ここ……
“広間に集まれ”と……書いてあって……」
(東雲、玲奈を見た瞬間、震え上がる。)
東雲
「ひ……ゃっ……!」
玲奈
「!?」
東雲(後ずさり)
「……え……やだ……
なんで……なんでここに……?」
玲奈
「会ったこと……ありますか……?」
東雲
「な、ない……はずなのに……
でも……その顔……その声……
“あの子”に……そっくり……」
(玲奈、さらに混乱)
瑠璃(玲奈の肩に手を置いて)
「落ち着いて。玲奈はあなたを知らないわ。」
東雲
「……そんな……
じゃあ……“全部”偶然……?」
(震えながら椅子に座る。)
◆3人目:芥川 結芽(あくたがわ・ゆめ)
(ヒールの音を響かせて女性が登場。
34〜38歳。冷たい美しさと険しい目つき。)
結芽
「……揃ってるわね。
まったく、失礼な招待状だこと。」
(結芽、玲奈を見て足を止める。)
結芽
「……………………」
玲奈
(かすかに震える)「……な、なんですか……?」
結芽(冷たく微笑む)
「いいえ。
“随分と若いのね”と思っただけ。」
(その笑みの奥に、明確な敵意が潜む。
玲奈は完全に視線から逃げられない。)
◆4人目:久条 紅葉(くじょう・もみじ)
(ドアそっと開き、白衣を羽織った女性医師が顔を出す。
無表情だが知性的。)
紅葉
「……ここが広間?」
(玲奈を見る。
一瞬、眉がぴくりと動く。興味の目。)
紅葉
「……あなた、
成長ホルモン……」
(言いかけて止める)
紅葉
「……いいえ。
なんでもないわ。」
玲奈
「……?」
(紅葉はそれ以上は言わず、淡々と席に座る。)
◆5人目:玄武 陸(げんぶ・りく)
(重い足音とともに、年配の家政夫風の男が入る。)
玄武
「……お、お集まりで……
なにより……」
(玲奈を見て、震えた声で)
玄武
「……ああ……
“あの頃”と……変わらない……」
玲奈
「……“あの頃”……?」
玄武(苦しそうに)
「……い、いえ……失礼……」
(玄武は沈痛な顔で静かに頭を下げる。)
◆広間・静寂
(5人が揃った瞬間、
天井のシャンデリアがわずかに軋む。)
(壁の影が、一瞬だけ揺れる──
誰も気づかない。)
瑠璃
「……全員、招待状を?」
国木田
「ああ。差出人の名前はない。」
東雲
「わ、私も……封筒だけ……」
結芽
「ふざけてるわね。
こんな不気味な館に、こんな人数……」
紅葉
「“広間に集まってお待ちください”。
それだけだった。」
玄武
「……まるで……
舞台の幕開けのようですな……」
(沈黙)
玲奈
(耐えられず、ぽつり)
「……私は、招待状……もらってません。」
(全員が玲奈を見る。
その視線は“恐怖”“敵意”“興味”“嫌悪”──混ざり合っている。)
国木田
「なら……なぜここに……?」
玲奈
「気づいたら……この広間で倒れてて……
それだけ、なんです……」
(沈黙。重い空気。)
久条 紅葉
「……あなた、名前は?」
(玲奈、躊躇)
玲奈
「……黒瀬……玲奈……です。」
紅葉
「本名?」
玲奈
「……」
(言葉が詰まる。答えられない。)
(瑠璃がすぐに庇うように一歩前へ。)
瑠璃
「今は彼女を詰問するときじゃないわ。」
(全員が視線を逸らすが、どこか重苦しい。)
(そのとき、広間全体の照明が一瞬だけ瞬く。
まるで“誰かの到着”を示すように。)
(影が、舞台の奥をスッと横切る。)
玲奈
「……今の……誰か……?」
国木田
「……! 見えたのか……
君にも……影が……?」
(国木田が震えながら言う。)
結芽
「影? 何なのよそれ。」
玄武
「……こ……この館には……
元々……“主”が……」
(その瞬間──広間の奥の扉が、音もなく開く。)
(白い光が漏れ、誰かが“そこにいる気配”。
だが姿は見えない。)
案内人の声(ミラ)
「──ようこそ。
お集まりいただきまして……
ありがとうございます。」
(全員が一斉に扉を見る。)
案内人の声
「どうぞ、そのままお待ちください。
“幕”は、すぐに上がりますから。」
(光が消える。扉も閉まる。)
(玲奈、恐怖で震える。)
瑠璃(玲奈の肩に手を置き、低く)
「……大丈夫よ。
私がいる。」
(玲奈、小さく頷く。)
── 第1幕・招集シーン 終 ──
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第1幕ラスト
「眠れない二人の会話」(完全版脚本)
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【舞台】
夜の洋館。
広間は薄暗く、暖炉の橙色の火だけが揺れている。
他の登場人物はそれぞれの部屋へ引いた後。
(玲奈の個室。
薄い光。布団の上で玲奈が丸くなっている。)
(玲奈、ゆっくり身体を起こす。
気配を探るようにドアを開け、廊下へ出る。)
(広間──暖炉の前に 瑠璃 が一人座っている。)
(玲奈、おそるおそる近づく。)
玲奈
「……あの……」
(瑠璃、振り返る。微笑む。)
瑠璃
「眠れないの?」
玲奈
「……はい。
静かすぎて……逆に怖くて……」
瑠璃
「分かるわ。この館の空気、重いものね。」
(玲奈、瑠璃の隣に、遠慮気味に腰を下ろす。)
玲奈
「瑠璃さんこそ……寝ないんですか?」
瑠璃
「ええ。
こんな場所で、すぐには眠れるほど図太くなくてね。」
(暖炉の火がパチ、と音を立てる。)
玲奈
「……その……
さっきは、驚かせてしまってごめんなさい。」
瑠璃
「あなたが謝る必要なんてないわ。」
玲奈
「でも……皆さん……
私のことを“知ってるみたいに”見て……
何か……怖くて……」
(瑠璃、玲奈を横目で見て、少し考えてから答える。)
瑠璃
「……恐怖は、知らない場所より、
“知らない自分”から生まれるのよ。」
玲奈
「……知らない自分……?」
瑠璃
「あなたは──
“自分の名前”に自信がないように見えた。」
(玲奈、息を呑む。)
玲奈
「……名前……」
瑠璃
「さっき、皆に聞かれて困っていたでしょう?
本名かどうか、すぐには答えられなかった。」
玲奈
「……それは……」
(玲奈、胸元に手を当て、呼吸が浅くなる。)
玲奈
「……名前を……
何度も、何度も、変えてきて……
自分でも、どれが“私”なのか……
分からなく、なってしまって……」
瑠璃
「…………」
玲奈
「養子に出る度に……
“名前を替えた方がいい”って……
言われて……
施設が替わればまた新しい名前で……
気づいたら……
“黒瀬玲奈”ですら、自分じゃないみたいで……」
(瑠璃、ゆっくり玲奈の手元を見る。)
瑠璃
「……つらかったでしょう。」
玲奈
「……もう、何も思い出せなくて……
どの名前で笑ってたのかも……
私は誰なのかも……
分からないんです……」
瑠璃
「じゃあ──」
(やさしく)
瑠璃
「今のあなたが選んだ“玲奈”を、
今日だけは信じたらどうかしら。」
(玲奈、顔を上げる。)
瑠璃
「たとえそれが偽名でも。
“玲奈”として眠る夜が、あっても良いでしょう?」
玲奈
「……そんな風に……言ってもらえたの……
初めてです……」
瑠璃
「人はね、
名前で救われることもあるの。」
(玲奈、涙をこらえた微笑みを浮かべる。)
玲奈
「……ありがとうございます……
本当に……瑠璃さんがいてくれて……」
瑠璃
「眠れない夜は、一人で抱えちゃだめよ。」
(玲奈、小さく頷く。)
(暖炉の火が強くなる。
その瞬間、背後の壁に“長い影”が揺れる。)
(影=ミラは、ただ二人を見つめている。)
(玲奈は気づかない。)
瑠璃
「さあ、そろそろ戻りましょう。
明日も、きっと大変になるわ。」
玲奈
「……はい。」
(二人が立ち上がる。
ライトが少し暗転し、静寂が戻る。)
(影だけが、ふっと消える。)
── 第1幕ラスト「眠れない二人」終 ──
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◆第2幕・冒頭
「証言──少女の足跡」
(国木田 → 東雲 → 結芽 → 紅葉 → 玄武)
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【舞台】
洋館の広間。
夜明け前のように青く冷たい照明。
中央の長テーブルに6脚の椅子。
玲奈は瑠璃の隣に座る。
(全員が揃っている。)
(重い沈黙。)
瑠璃
「……あなたたちは、本当に何も知らずにここへ?」
国木田(うなずく)
「招待状は届いた。しかし差出人は不明だ。」
紅葉
「集められたのは……私たち“だけ”。
意図があると考えるのが自然ですね。」
結芽
「ふん……悪趣味な宴会かしらね。」
(玲奈、怯えながら椅子に座っている。)
国木田(玲奈を見て)
「……本題に入ろう。
この場にいる全員が……
“同じ少女”の周囲で不可解な事件に巻き込まれている。」
玲奈
「……同じ……少女……?」
(自分のこととは気づいていない)
瑠璃
「国木田さん、その“少女”って──」
国木田
「……黒瀬玲奈さん。
あなたのことだ。」
玲奈
「……え……?」
(玲奈の表情が固まる。瑠璃が寄り添うように腕に触れる。)
瑠璃
「待って。玲奈は何も……!」
国木田(静かに手で止める)
「落ち着いて聞いてください。
私はあなたを責めているわけじゃない。
ただ……事実を話すだけです。」
(国木田、深く息を吸う。)
◆証言① 国木田 惟臣
「成長しない少女と、連続する“不可解死”」
国木田
「十七年前……ある“家族”が死んだ事件を私は担当した。
事故死として処理されたが、私は今も納得していない。」
(玲奈、目を伏せる。動悸が走る。)
国木田
「そして数年後……
私は別の事件で“彼女”を見た。」
(玲奈の顔をじっと見る。)
国木田
「……あなたと同じ顔の少女を。」
玲奈
「……っ……!」
国木田
「その少女は施設に戻され、
半年後には別の家に養子に行った。
だが──」
(重い声)
国木田
「新しい養父母は、また“死んだ”。」
東雲(震えながら)
「……また……?」
国木田
「ああ。
私は“偶然”とは思えなかった。
調べようとした。
しかし……」
(国木田、震えて椅子に手を置く)
国木田
「ある夜……影のような女に襲われた。」
(場がざわつく。)
国木田
「意識が戻った時、私は病院のベッドだった。
事件は迷宮入り。
私は退職した。」
玲奈
「そんな……
そんなこと……知りません……!」
瑠璃
「玲奈を責めるのはやめて!」
国木田
「責めてはいない。
ただ──
“あなたの周囲だけで”
異常な数の死が起きている。それだけだ。」
(玲奈、震えながら俯く。)
◆証言② 東雲 佳音
「少女に関わる者は必ず“不幸”になる」
東雲
「わ、私……
彼女がいた施設で働いていたんです……」
(玲奈、顔を上げる)
玲奈
「施設……?」
東雲
「あなたは……
年齢が、分からなかった。
外見はいつも同じで……
他の子より成績が異常に良くて……
皆……怖がっていた……」
玲奈
「……!」
瑠璃(玲奈の背をさする)
「大丈夫よ、玲奈。」
東雲(続ける)
「それでも……
私はあなたを“普通の子”として扱おうとした。
でも……」
(声が震える)
東雲
「養父母が死ぬたび、
戻ってくるあなたを見て……
私は……
何もしてあげられなかった……!」
(東雲、涙をこぼす。)
東雲
「ごめんなさい……
本当は助けたかった……!」
玲奈
「…………」
(玲奈は混乱と罪悪感の間で呼吸が乱れていく。)
◆証言③ 芥川 結芽
「あなたが来た日から、私の家族は崩れた」
(結芽、静かに立ち上がる)
結芽
「私は──
あなたに怨みがあるわ。」
玲奈
「え……?」
瑠璃(低く)
「やめて。玲奈は──」
結芽
「黙って、聞きなさい。」
(玲奈、震えながら頷く。)
結芽
「私は十歳だった。
あなたが“うちの子になる”と言われた日。」
(玲奈、指先が震えている。)
結芽
「そして一週間後、
私の両親は屋根から転落死した。」
(緊張が走る。)
結芽
「あなたは無傷だった。
“たまたま別の部屋にいた”と言った。
事故だと警察は言った。」
国木田
「……その捜査に私もいた。」
結芽
「でも私は信じなかった。
あの事故で……私は一人になった。
あなたは生きていた。
あなたはまた施設に戻っていった。」
(玲奈の身体が大きく揺れる)
玲奈
「……わ、私……そんな……」
結芽
「……あなたは憎い。
でも──
今日ここに呼ばれた意味があるなら、
“真相”を聞く覚悟はある。」
(玲奈の表情が壊れかけている。)
瑠璃
「玲奈……息して……ゆっくり……」
◆証言④ 久条 紅葉
「医学的に“あり得ない”少女」
紅葉
「……落ち着いて聞いてください。」
(玲奈の隣に立ち、目を覗き込む。)
紅葉
「あなたの身体には“異常”がある。」
玲奈
「……異常……?」
紅葉
「成長ホルモン分泌不全症。
あなたの肉体は、十七歳前後で“時間が止まったまま”。
通常では考えられないほど変化が少ない。」
玲奈
「……っ……!」
紅葉
「そして──
それを知っていた人間が、
あなたの周囲から“消されている”。」
国木田
「……!」
紅葉
「戸籍も複数存在し、
年齢もバラバラ。
医療記録も途切れ、
すべてが“意図的に”消されている。」
紅葉(玲奈の瞳を見つめ)
「これは……誰かが、
あなたの過去を“守っている”。」
(玲奈、呼吸が乱れ、胸を押さえる。)
瑠璃
「玲奈……!」
◆証言⑤ 玄武 陸
「私は……“家族が壊れていくのを見た”」
(玄武、ゆっくり立ち上がる。
老いた身体を引きずるように前へ。)
玄武
「十七年前……
わしは“結城家”で家政夫をしておった。」
玲奈
「……結城……家……?」
瑠璃の表情が、わずかに揺れる。
(※まだ確信に至っていないが、覚えのある苗字)
玄武
「あの家には……
三人の娘がいた。
長女は聡明、
二女は病弱、
三女は愛らしい子でな……」
(玲奈の呼吸が止まる。)
玄武
「ある日、家が崩れた。
両親は亡くなり……
三姉妹は……どこかへ連れ去られた。」
(玲奈、震えが止まらない。
“知らない記憶のはずなのに、心が反応する”)
玄武
「わしは……
真実を知っておるが……
語るのは……怖いのだ……」
(玲奈、限界に近づく)
瑠璃
「玲奈! 落ち着いて!」
玲奈
「……あ……あ……っ……
知らない……
知らないはずなのに……!」
(照明が乱れ、壁の影が揺れる。)
案内人の声(ミラ)
「──物語は、まだ“前世”を語っていない。」
(全員が声の方向を振り向く。)
案内人の声
「どうぞ続けて。
真実は……もう、すぐそこです。」
(玲奈、頭を抱えて崩れ落ちる。)
── 第2幕・冒頭「証言」終 ──
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◆第2幕・中盤
「玲奈の病気告白」
(瑠璃、玲奈の“時の停止”に気づく)
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【場所】
洋館の廊下。
薄暗いが、月明かりが一本のラインのように床を照らす。
証言シーンの直後──玲奈が過呼吸気味に廊下へ飛び出す。
(玲奈、壁にもたれ、胸を押さえてしゃがみ込む。)
(瑠璃がすぐに追ってくる。)
瑠璃
「玲奈……待って! 大丈夫!?」
(玲奈、震えながら首を振る。)
玲奈
「……大丈夫じゃ……ない……
何も……分からなくて……!」
瑠璃
「深呼吸して……ゆっくり……
目を閉じて……私の声だけ聞いて。」
(玲奈、涙をこぼしながら呼吸を整える。)
玲奈
「……はぁ……はぁ……
どうして……
私の周りばかり……死んで……
どうして……私は……」
(喉が詰まるように)
玲奈
「どうして……成長しないの……!」
(瑠璃、息を呑む。)
玲奈(噛みしめるように)
「……言わなきゃって……思ってた……
本当のこと……」
(玲奈、肩を抱いて震える。)
玲奈
「私は……
成長ホルモン分泌不全症……っていう病気で……
身体が……17歳で“止まってる”んです……」
(瑠璃が小さく震える。)
瑠璃
「……止まってる……?」
玲奈
「はい……
病院の記録も……途中で消えて……
施設に行くたびに名字も歳も変わって……
私、自分が……誰なのか……分からない……」
(玲奈の声が崩れる)
玲奈
「“年齢”も……
“名前”も……
“家族”も……
本当は……全部……嘘かもしれないのに……」
瑠璃
「……玲奈……」
玲奈
「私は……大人になれないんです。
どんなに時間が経っても……
何年経っても……
ずっと同じ顔で……
皆に気味悪がられて……」
(瑠璃、玲奈にそっと寄り添う。)
瑠璃
「……玲奈。
あなたのせいじゃない。」
玲奈
「でも……でも……!」
(瑠璃、玲奈の手を包むように握りしめる。)
瑠璃
「ねぇ……顔を上げて。」
(玲奈、涙を流しながらゆっくり顔を上げる。)
瑠璃
「あなたの顔……
17歳の頃の“私”と……
同じなのよ。」
玲奈
「……?」
瑠璃
「さっき広間で初めて会ったとき……
息が止まるかと思った。
鏡を見ているみたいで。」
(玲奈は困ったような、不安な表情)
玲奈
「……似てる、って言われることは……
たまにありました……
でも……瑠璃さんが言うなら……」
瑠璃
「ええ。
驚くほど似てる。
“血の繋がり”を疑うくらい。」
(玲奈の心臓が大きく跳ねる。)
玲奈
「血の……繋がり……?」
瑠璃
「ごめんなさい。
変なことを言うつもりはなかったの。
ただ……どうしても気になって……」
玲奈(震えながら)
「……私……家族なんて……
覚えてないんです……
事故で……死んだって……
聞かされて……」
瑠璃
「その“記憶”、本当にあなたのもの?」
玲奈
「……え……?」
瑠璃
「今ここに集められた人たちは皆、
“あなたの過去”に触れた人たち。
過去を知る人間が集められている。
偶然ではあり得ない。」
玲奈
「…………」
瑠璃
「もしかしたら──
あなたの人生は、“誰かに”書き換えられている。」
(玲奈の肩が大きく震える。)
玲奈
「……っ……やめて……
そんな……
そんなはず……!」
(瑠璃は玲奈を抱きしめるようにして支える。)
瑠璃
「大丈夫。
私がいる。
あなたを傷つけるようなことはしない。」
(玲奈、涙を瑠璃の胸に落とす。)
(その背後──廊下の奥で“影”が立っている。)
案内人の声(ミラ)
「──“前世”は、
誰かのために存在するものではございません。」
(玲奈と瑠璃が振り向く。誰もいない。)
(影だけが床を横切り、消える。)
玲奈
「……こわい……
誰かが……ずっと見てる……!」
瑠璃
「大丈夫。
私が……守る。」
(照明がゆっくり切り替わり、
シーン終了。)
── 第2幕「玲奈の病気告白」終 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第2幕:ミラによる最初の殺害シーン
「影が歩くとき──国木田の消失」
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【場所】
洋館 2階の書庫
薄暗く、古い本棚が並ぶ。
雨の音がひどくなっている。
(国木田が懐中電灯で棚を照らしながら歩く。)
国木田
「……どこかに……
あの少女の記録が……残っているはずだ……」
(本棚から何冊か引き抜き、乱暴にめくる。)
国木田
「十七年前の事故……
家族三人の死亡……
“あの顔の少女”の失踪……
全部繋がっている……
だが──」
(ページを止める)
国木田
「……これは……?」
(照明が僅かに青く変化。
不穏な風が吹き抜ける音。)
(国木田の背後に、
“人影のような影”がスッと伸びる。)
国木田(気づかずに独り言)
「黒瀬玲奈……
いや……あれは本名じゃない……
“名前が複数ある少女”……
成長しない身体……
そして不可解死……」
(影が、彼の背後に立つ大小の黒い“縦線”になり、
ゆっくり形を人間の輪郭へ近づけていく。)
国木田
「まさか……
両親の死も……
あの子が──」
影
「それは、間違いです。」
(国木田、ゾッとしたように振り向く。)
国木田
「……誰だ……ッ!」
(ミラの声は冷たく、完全に感情がない。)
(姿はまだ照明が“見せない”ように隠している。)
ミラ
「あなたは“答えに近づきすぎた”。
だから消えます。」
国木田
「ふ……ふざけるな……!
お前は誰だ……!!」
ミラ
「“真珠”の名前は捨てました。
わたしは、必要な存在ではありません。
ただの影。」
(国木田は後ずさりし、本棚に背中を打つ。)
国木田
「……お前……
十七年前……
あの家で……!」
ミラ
「あなたは、生き延びた唯一の“誤差”。
だから、ここで整えます。」
(ミラが一歩近づく。
靴音が全く鳴らない。)
国木田
「や……やめろ……!
俺は警察だ……!
俺は──」
ミラ
「あなたは、もう誰にも必要とされていない。」
(ミラが国木田の頸に手を伸ばす。
触れた瞬間──照明が一気に暗転。)
(暗闇の中、短い息がひとつ。)
「……っ……!」
(静寂。雨音だけ。)
(ライトがうっすら戻ると、
国木田は床に倒れている。躯は動かない。)
(ミラの姿はない。
ただ“壁の影”だけが、一瞬ゆらりと揺れて消える。)
◆同時刻、1階の広間
(玲奈がソファで膝を抱え、涙を拭いている。)
(瑠璃が膝をつき、玲奈の目線に合わせて話す。)
瑠璃
「少し眠った方がいい。
今日はあなたにとって刺激が強すぎた。」
玲奈
「……怖いんです……
誰かの気配が……ずっと……」
瑠璃
「大丈夫。
この広間には私しかいないわ。」
(その瞬間──
2階から 重い“何かが倒れる音” が響く。)
ドンッ──!
玲奈
「……今の……!」
瑠璃
「2階ね。
確認してくる──」
玲奈(瑠璃の手を掴む)
「い、行かないで……!
一人にしないで……!」
瑠璃(驚いた顔)
「玲奈……」
玲奈
「……お願い……!」
(瑠璃は玲奈の頭に手を置き、優しく)
瑠璃
「……分かった。
一緒に行きましょう。」
二人は手を繋いで2階へ向かう。
◆書庫・国木田の死
(瑠璃がドアを押し、玲奈の目をそっと覆う。)
瑠璃
「……見ないで。」
(玲奈、震えながら)
「誰か……倒れて……?」
瑠璃(低い声)
「国木田さんよ。」
玲奈
「そんな……さっきまで一緒に……!」
(瑠璃、周囲を鋭く見回す。)
瑠璃
「玲奈、下がって。」
玲奈
「え……?」
瑠璃
「“殺されている”。
事故じゃない。」
(玲奈、膝がガクッと折れる。)
しかし瑠璃は玲奈を抱えて支える。
瑠璃
「大丈夫。
私が必ず守る。」
(背後の壁に、一瞬“人影の縦線”が走る。)
(玲奈は気づかないが、客席にははっきり分かる。)
── 第2幕「ミラによる最初の殺害」終 ──
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◆第2幕・2人目の死
「東雲佳音──後悔の廊下」
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【場所】
洋館 1階の長い廊下。
照明は弱く、月光が細い線のように床へ落ちている。
(東雲佳音がゆっくり歩いている。
手には古いアルバム。)
(彼女は泣き腫らした目をしている。)
東雲
「……私……間違ってたんだ……
あの子は……ただ……
助けが必要だっただけなのに……」
(立ち止まり、アルバムを胸に抱く。)
東雲
「玲奈ちゃん……
ごめんね……
本当に……ごめんね……」
(廊下の奥から、玲奈が姿を現す。)
(瑠璃は別の部屋を探索中。)
玲奈
「……佳音さん……?」
(佳音、涙を拭きながら微笑む。)
東雲
「玲奈ちゃん……
起きてたのね……」
玲奈(弱々しい声)
「……眠れなくて……
国木田さんのことも……怖くて……」
東雲
「そうよね……
あなたのせいじゃないのに……」
玲奈
「……本当に……?
私……怖いんです……
何か……全部、私のせいみたいで……」
(東雲は玲奈の肩に手を置く。
優しい、震える手。)
東雲
「違うわ……
玲奈ちゃんは……
本当はずっと“被害者側”だった……
施設でも……大人たちの間でも……
あなたは……怖がられて……
誤解されて……
そうやって一人にされた……」
玲奈
「……佳音さん……」
(佳音の目にまた涙が溢れる。)
東雲
「本当は……助けたかったの。
あなたが泣いてた時……
抱きしめてあげたかった……
でも私は……怖かった……
私の方こそ……臆病だったの……」
玲奈
「そんな……」
東雲
「だから今は……言わせて。
玲奈ちゃん……
“あなたは悪くない”。
そう言ってあげたかったの……ずっと……」
(玲奈が泣きそうに微笑む。)
玲奈
「……ありがとうございます……」
(佳音は玲奈の頬にそっと触れる。)
東雲
「……もう一度……会えて……よかった……」
(そのとき──
廊下の照明がふっと揺らぐ。)
(玲奈は気づかず、佳音だけが気配を感じる。)
東雲
「……誰か……いるの……?」
(玲奈、少し怯える。)
玲奈
「……え……?」
(佳音の背後に、“影”が伸びる。)
(人型ではなく、ただの黒い縦線から徐々に“人の形”に近づく。)
ミラの声(すぐ近くで、感情ゼロ)
「あなたは、必要ありません。」
(佳音の表情が凍る。)
東雲
「え……あ……あなた……は……」
ミラ
「“玲奈の未来”に、あなたの役割はない。」
東雲
「ま、待って……!
私……玲奈ちゃんを……!」
ミラ
「守る必要はありません。
“わたし”がいる。」
(照明が暗転直前、
佳音が両手を広げて玲奈をかばうような姿勢になる。)
東雲
「玲奈ちゃ──」
(完全暗転。)
(一瞬の沈黙の後、乾いた“倒れる音”。)
トン……。
(照明が戻ると、玲奈は床に崩れた佳音を見つめている。)
(ミラの姿はない。)
玲奈
「……佳音さん?
佳音さん……!?
返事して……!!」
(玲奈が佳音を抱き起こすが、力なく崩れ落ちる。)
玲奈
「いや……いやぁ……!!
どうして……!!
なんで……!!」
(瑠璃が駆け込んでくる。)
瑠璃
「玲奈!!
どうしたの──」
(状況を見て、表情が固まる。)
(玲奈が佳音の亡骸にすがりついている。)
玲奈
「私のせい……?
また……私がいたから……?」
瑠璃(玲奈を抱き寄せる)
「違う!!
玲奈のせいじゃない!!
絶対に!!」
(玲奈が泣き崩れる。)
(背後の壁に“影”が一瞬現れて消える。)
瑠璃は気づかない。
しかし観客にははっきりと“誰かが見ている”ことが分かる。
── 第2幕「東雲佳音の死」終 ──
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◆第2幕:
「真珠のカルテ──姉の崩壊の痕跡」
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【場所】
洋館・地下の診療室跡。
石壁、古い医療棚、朽ちたカルテ箱。
照明は白く冷たいライトで、ほのかに埃が舞う。
(紅葉が懐中電灯と小型ノートを持って入ってくる。)
紅葉
「……ここは……診療室……?
この館……
もともと精神医療施設として使われていたのか……?」
(紅葉は周囲を静かに観察する。)
紅葉
「機材は古いけれど……
記録は残っているはず。」
(棚を開け、古いカルテを確認し始める。)
紅葉
「……患者名……
“真珠”……?」
(紅葉の手が止まる。)
紅葉
「名前……だけ?
苗字が書かれていない……」
(紅葉、ゆっくりカルテを開く。)
(照明がわずかに青みがかる──“記憶の扉が開く”ような演出)
紅葉(読み上げる)
「──“多重人格の兆候。
強烈なトラウマによる解離反応。”」
紅葉
「トラウマ……?」
(めくる)
紅葉
「“家族の死を間近で目撃。
『自分が守れなかった』と語り、
激しい罪悪感を持続。”」
(紅葉の表情が曇る。)
紅葉
「……守れなかった、か。」
(次のページ)
紅葉
「“本人は事件の核心について口を閉ざし、
しかし時折『もう一人の私が全部覚えている』と発言。”」
紅葉
「もう一人の私……
つまり副人格……」
(第三人格の発生に関する記述は曖昧。)
紅葉
「これは……
“誰かを守るために人格が分裂した症例”だ。」
(紅葉はカルテをさらに読み進めるが、最後のページが破り取られている。)
紅葉
「……破かれてる。
誰かが意図的に消したのね。」
(紅葉、棚の奥の封筒に気づく。)
紅葉
「これは……?」
(封筒を開けると、古い写真が2枚出てくる。)
◆写真1:
少女が3人並んで写っている。
長女・真珠(14〜15)、
次女・玲奈(10〜12)、
三女・瑠璃(幼い)。
紅葉
「……三姉妹……?」
(玲奈に似た少女が写っているが、年齢が違う。)
紅葉
「この中央の子……
玲奈さんに似ている……
いや、“玲奈さんは17歳の外見のまま”……」
(紅葉は1人で推論を進める。)
紅葉
「つまり……
この写真の少女の年齢は合わない……
だとすれば……」
(ゆっくり写真の裏を見る)
裏にはかすれた字で書かれている:
『結城家 三姉妹』
紅葉
「……“結城家”……
玄武さんが言っていた家の名前……!」
(紅葉の目が鋭くなる。)
紅葉
「玲奈さん……
やはりあなたは──
“結城家の娘”……?」
(紅葉はさらに封筒からもう一枚の写真を取り出す。)
◆写真2:
真珠(10代後半)のアップ。
その顔は、現在のミラと完全一致している。
紅葉
「この人……
案内人(声の主)に……
声が似ている……」
紅葉(静かに)
「これは……
“真珠本人の写真”……?」
(照明が少し揺れる。)
紅葉
「真珠……
“前世”……
“守れなかった家族”……
“もう一人の私”……」
(紅葉の顔に、理解が近づく表情が浮かぶ。)
紅葉
「もしかして……
あなたの人格は──
玲奈さんの“過去”と……
深く繋がって──」
その瞬間、
薄闇の奥から靴音のない足音が近づく。
コ……ン……
コ……ン……
コ……ン……
(紅葉、息を呑む。)
紅葉
「誰……?」
ミラの声(冷静)
「調べすぎです。」
(紅葉の顔が凍りつく。)
紅葉
「あなた……
あなたは……どこまで……!」
ミラ
「余計なことを知りすぎる人間は、
“物語”から排除されます。」
紅葉
「待って……!
私は玲奈さんを──」
ミラ
「彼女を診る必要はありません。
“わたし”が守るから。」
(影が紅葉の足元をスッと横切る。)
紅葉(後ずさりしながら)
「あなたは……真珠……?
それとも──」
ミラ
「真珠はもういません。」
(照明が一気に暗転。)
暗闇の中、
わずかな息が途切れる音。
「……っ……!」
(完全沈黙。)
照明が戻ると──
紅葉は机に崩れ落ち、微動だにしない。
そして、写真だけが床へ落ちている。
写真には、
真珠・玲奈・瑠璃の三姉妹が微笑んでいた記憶が映っている。
── 第2幕「真珠のカルテ」終 ──
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◆第2幕:3人目の死
「芥川結芽──憎しみの終点」
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【場所】
洋館・温室
夜の冷気にガラスが曇り、植物の影が揺れる。
静寂。外はまだ雨。
(結芽が一人でガラス越しに外を眺めている。)
結芽
「……ふざけた話だわ……
どうして……
どうして“あの顔”が……
ここにまた現れるのよ……」
(彼女の声は震えているが、涙は見せない。)
結芽
「何年経っても忘れられない……
あの時の……
いきなり奪われた家族のこと……」
(植物の葉が風に揺れ、影が揺らぐ。)
(温室の奥の扉がギィ……と開く。)
結芽(振り向く)
「誰……?」
(玲奈が立っている。瑠璃は後から追ってくる前段階。)
玲奈
「結芽さん……?
一人でいるのが……心配で……」
結芽(冷たく笑う)
「心配?
あなたに言われる筋合いはないわ。」
玲奈(怯む)
「……ごめんなさい……」
結芽
「謝る?
あなたは“いつも”そう。
泣いて、謝って……
それで全部許されると思ってる。」
玲奈
「そんな……思ってません……」
結芽(感情が溢れる)
「あなたが私の家に来てから、
わずか一週間で、
両親は死んだのよ!!」
玲奈
「……!」
結芽
「あなたが生き残って、
私がひとりぼっちになった!!
どうして……私じゃなくて……あなたが……!」
(結芽は震えながら近づき、玲奈を睨みつける。)
結芽
「ねぇ答えてよ……
あなた……何者なの……?
どうして大人にならないの……?
どうして……あの頃と変わらない顔なの……?」
玲奈(涙を堪えながら)
「わ……分からない……
本当に……分からないんです……
私……何も覚えてなくて……」
結芽
「嘘!!」
(結芽、玲奈に掴みかかる。)
玲奈は倒れ込む。
玲奈
「ごめんなさい……ごめんなさい……!!」
(結芽は玲奈の胸ぐらを掴みながら言う。)
結芽
「謝るなって言ってるのよ!!
──あんたは私の人生を壊したんだ!!」
(その瞬間──
温室の奥から、ガラスの反射越しに“影”がゆっくり現れる。)
(玲奈は気づかない。
結芽の背後にだけ、影が立つ。)
ミラの声(すぐ耳元のように、静か)
「──彼女に触れないでください。」
(結芽がビクッと身体を震わせる。)
結芽
「え……?
いま、誰……?」
(影は照明の死角で形を保っている。
観客には“人影”として見える。)
ミラ
「あなたの役目は終わりました。」
結芽
「な、何よ……?
どこにいるの……!?」
ミラ
「“三姉妹の物語”に、あなたは不要です。」
結芽
「……!!
あんた……なの……?
両親を殺したのは……
あんたなのね……!?
玲奈じゃなくて……!」
(玲奈が聞いてしまう。)
玲奈
「私じゃ……ない……?
結芽さんのお父さんとお母さん……
私じゃなかったの……?」
(玲奈は結芽を見つめる目に涙を溜める。)
結芽
「違うわ……
でも……
でも……
あなたがいたせいで……
両親は死んだの……
あんたが……“呼んだ”のよ……!」
(結芽の涙がこぼれる。
強がり続けた彼女の“限界”。)
結芽
「私は……あなたを憎むことで……
ずっと生きてきたの……
じゃないと……
壊れちゃいそうで……」
玲奈
「……ごめんなさい……
何もできなくて……
本当に……ごめんなさい……」
結芽(ぽつり)
「……そんな顔……しないで……
そんな顔されたら……
憎めなくなるじゃない……」
(照明がふっと揺らぎ、影が結芽の背に触れる。)
ミラ
「感情は不要です。」
(静かに暗転。)
(ガラスの割れる音のような、短い衝撃音。)
(照明が戻ると──
結芽は倒れている。)
(玲奈が結芽に駆け寄るが、もう動かない。)
玲奈
「いや……いやだ……
また……私のせい……?
また……!」
(玲奈が泣き崩れる。)
(瑠璃が駆け込んでくる。)
瑠璃
「玲奈! 何が──」
(結芽の姿を見て、息を呑む。)
玲奈
「瑠璃さん……
私が……
いると……
みんな……死んじゃう……!!」
瑠璃(玲奈を抱き寄せ)
「違う……違うわ……!!
あなたのせいじゃない!!」
(玲奈は瑠璃の胸で泣き続ける。)
(温室のガラスに、
“影だけが”写り込み、
すぐに消える。)
── 第2幕「芥川結芽の死」終 ──
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第2幕:
「沈黙の処理」
(久条紅葉 → 玄武陸)
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◆1)久条紅葉の最期
――“理解に辿り着いた医師”の沈黙
【場所】
地下診療室跡。さきほどのカルテを見つけた部屋。
白い照明。静寂。
(紅葉が机に突っ伏している。
ミラの襲撃直後、意識がかろうじて残っている状態。)
(紅葉は、震える手で写真をつかんだまま、床に片膝をついて立ち上がろうとする。)
紅葉
「……まだ……
玲奈さんに……伝えなきゃ……」
(血に染まる指先で、床を支えながら這う。)
(写真には、真珠・玲奈・瑠璃の3姉妹が写っている。)
紅葉
「姉……次女……三女……
そして……
“影”の存在……」
(紅葉、苦しそうに息をする。)
紅葉
「人格は……
“守るために生まれる”……
あなたは……
“玲奈さんを守るために”──」
静寂。
壁から伸びる“影”だけが、紅葉の背後に落ちる。
ミラ(声)
「守る必要はありません。」
(紅葉、振り返るが誰もいない。)
紅葉
「……あなた……
真珠さん……
いえ……“ミラ”……
あなたが……全部──」
ミラ
「──あなたの役目は、終わりました。」
(照明がゆっくり暗転する。)
(紅葉の身体が音もなく崩れ落ちる。)
(写真だけが彼女の手から滑り落ち、
舞台中央に落ちて静止する。)
── 紅葉・退場 ──
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◆2)玄武陸の最期
――“家族の秘密を知る老人”の沈黙
【場所】
洋館・2階の古い廊下。
赤い絨毯。月明かりだけが差し込む。
(玄武が足を引きずりながら歩いている。)
玄武
「……いかん……
あの子たちに……
すべてを話さねば……」
(足元がふらつく)
玄武
「玲奈……
あの子は……
家族を……
守りたかったのか……
壊したのか……」
(玄武の影が、月明かりとともに長く伸びる。)
(その影に、“別の影”がすっと重なる。)
玄武(立ち止まり)
「……誰か……おるのか……?」
ミラ(声)
「あなたは知りすぎています。」
玄武
「……おぬし……
真珠お嬢様か……?
それとも……」
ミラ
「わたしは“影”。
あなたが守ろうとした家族の、
“不要な部分”を取り除くだけ。」
玄武
「……“不要”……か……
わしはただ……
子供たちを……」
ミラ(遮るように)
「あなたが選んだ沈黙は正しかった。
だから、ここで終わりです。」
玄武
「……せめて……
玲奈お嬢様に……
真実を──」
ミラ
「必要ありません。」
(影が玄武の影を完全に覆い隠す。)
(照明がふっと消え、すぐに戻る。)
(玄武は倒れている。完全なる静寂。)
── 玄武・退場 ──
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◆シーン後の演出
(照明が中央へ集まり、
紅葉の落とした“写真”がスポットライトで照らされる。)
写真には、
結城真珠・結城玲奈・結城瑠璃の三姉妹が笑っている。
(その写真の上に“影”が落ちる。)
(影はゆっくり消える。)
案内人(ミラ)の声
「──これで、“前世”の証人は消えました。」
(暗転)
── 第2幕「沈黙の処理」 完 ──
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◆第2幕:
「瑠璃、複数戸籍を発見する」
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【場所】
洋館・2階の書庫
薄暗い中、机の上に古い書類や封筒が散らばっている。
(瑠璃が懐中電灯を手に、書類の山を慎重にめくっている。)
瑠璃
「……これは……戸籍……?
どうしてこんな場所に……」
(机に積まれた封筒を一つずつ開いていく。)
瑠璃
「“黒瀬玲奈”……
“高瀬玲羅”……
“二階堂怜奈”……
……全部、似た名前ばかり……」
(瑠璃は眉をひそめる。)
瑠璃
「誕生日……全部違う……
出生地……全部違う……
家族構成……全部“空欄”……?」
(瑠璃が一枚の書類を取り出す。)
瑠璃
「これは……14年前の戸籍……
こっちは……7年前……
そしてこれは……3年前……?」
(瑠璃の表情が深刻に変わる。)
瑠璃
「……こんなの、あり得ない。
戸籍が更新された形跡じゃない……
“別人として作られた記録”……」
(めくる手が止まる。)
瑠璃
「全部……同じ顔……
同じ“写真の少女”……
だけど……」
(瑠璃は写真を机に並べる──
どれも17歳前後の同じ顔立ちの少女。)
瑠璃
「……全部、“最近の写真”……
なのに……どの戸籍でも年齢が違う……」
(瑠璃の手が震える。)
瑠璃
「じゃあ……玲奈の“現在の姿”は……
何年も……何十年も変わっていない……?」
(その瞬間──
部屋の奥で本棚がかすかに揺れる。)
コ……ン……
瑠璃(振り向く)
「……誰?」
(返事はない。)
(瑠璃は深呼吸して、書類の束をもう一度確かめる。)
瑠璃
「……ここにある戸籍は……
最低でも5つ……
名前も年齢も変えて……
まるで“玲奈の足跡を消すように”……」
(次の封筒を開ける。)
瑠璃
「……これは……医療記録……?
診断:成長ホルモン分泌不全症……
発症……幼少期……」
(瑠璃の眼差しに、悲しみと衝撃が揺れる。)
瑠璃
「あの子……
本当に……苦しんで……生きてきたんだ……」
(涙をこらえながら、もう一枚を取る──
その封筒の端に、薄く消えかけた文字。)
瑠璃
「“結……城”……?」
(瑠璃の顔が固まる。)
瑠璃
「結城……?
玄武さんが言っていた……
“結城家”……?」
(瑠璃の呼吸が乱れ始める。)
瑠璃
「どうして……玲奈の戸籍に……
“結城”の名が……?」
(影が、瑠璃の背後に静かに現れる。)
ミラの声(低く、冷静)
「──その名に触れない方がいい。」
(瑠璃は振り返るが、誰もいない。)
瑠璃(震えた声で)
「……誰……?
誰が喋ってるの……!?」
ミラ
「それを知れば、
あなたは“後戻りできなくなる”。」
瑠璃
「……っ……
あなた……何者なの……
玲奈に……何を……!」
ミラ
「わたしは……
“真実の墓守”。
あなたの役割ではありません。」
(影がスッと消える。)
瑠璃
「待って!!!
玲奈は……
玲奈は……誰なの……!?」
(瑠璃の叫びだけが空間に響く。)
机の上には、並べられた複数の戸籍。
すべて違う名前、違う誕生日、違う住所。
しかし──写真に写る少女はただ一人の玲奈。
(照明がゆっくり暗転。)
── 第2幕「瑠璃、複数戸籍を知る」終 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第2幕
「玲奈、“結城”に触れて崩れる」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【場所】
洋館 2階・広い踊り場
瑠璃が戸籍ファイルを抱えて歩いてくる。
(玲奈は階段の手すりにもたれ、ぼんやり外を見ている。
佳音と結芽の死で心は限界に近い。)
瑠璃(玲奈の姿を見つけ、優しく近づく)
「玲奈……こんなところにいたのね。」
玲奈(かすれ声)
「……瑠璃さん……」
(玲奈の顔色は悪く、涙の跡が残っている。)
瑠璃
「無理に歩かなくていいの。
もう部屋で休んだ方が──」
玲奈
「……死んじゃった……
私がいたら……
みんな……死んじゃう……」
瑠璃
「違う。
絶対に違うわ。」
(玲奈は小動物のように震えている。)
瑠璃(決意したように)
「玲奈……
聞いてほしいことがあるの。」
(玲奈が顔を上げる。)
瑠璃
「あなたの……“戸籍”のことよ。」
玲奈
「……戸籍……?」
瑠璃
「あなたの名前は、今まで何度も変えられている。
違う名字……違う年齢……
でも全部“同じ少女”の写真だった。」
玲奈
「……え?」
瑠璃(手に持つ書類を開く)
「たとえば──」
(戸籍ファイルを広げ、玲奈に見せる。)
瑠璃
「これは“高瀬玲羅”。
これは“二階堂怜奈”。
そしてこれは“黒瀬玲奈”。
全部あなたの名前として使われていたものよ。」
玲奈(困惑)
「意味が……分からない……
私……そんな……」
瑠璃
「そして──
もう一つあったの。」
(瑠璃は一枚の古い書類を玲奈の前へ差し出す。)
瑠璃
「“結城──”」
その瞬間。
玲奈の目が大きく開き、瞳孔が震える。
玲奈
「──やめて!!」
(玲奈が瑠璃の手から書類を弾き飛ばす。)
瑠璃
「玲奈!?どうしたの!」
玲奈
「それ……
その名前……言わないで……!!」
(玲奈は頭を抱え、膝から崩れ落ちる。)
玲奈
「いや……いや……いや……っ……!!
やめて……!!
“聞こえる”……
“声が”……
いやあぁ──!!!」
(玲奈が激しい過呼吸を起こし、手すりにしがみつく。)
瑠璃(抱き寄せながら)
「玲奈!落ち着いて!!
深呼吸して……私の声だけ聞いて!!」
玲奈
「だめ……
怖い……
思い出したくない……
なんで……
なんでその名前……ここに……!」
(玲奈は涙を流しながら、子供のように身を縮める。)
瑠璃(震えながら)
「……玲奈。
あなた、“結城”って……
本当は──」
その瞬間。
照明がふっと落ちる。
長い影が踊り場の床に伸びる。
ミラの声(低く、静か)
「──その名を、口にしないで。」
(瑠璃が振り向くが誰もいない。)
瑠璃
「……あなた……!」
ミラ
「玲奈の記憶を刺激するのは許しません。
彼女は……“まだ耐えられない”。」
瑠璃
「あなたは誰!?
玲奈と……何の関係があるの!?」
ミラ
「わたしは……
“彼女を守るもの”。
あなたとは違う。」
(玲奈、ミラの声に反応し震える。)
玲奈
「やだ……
やめて……
来ないで……
来ないで……!!」
(影がすっと縮むように消える。)
瑠璃(玲奈を必死に抱きしめ)
「大丈夫……もう大丈夫……
ここに“誰も”いない……!」
玲奈
「うう……っ……
怖かった……
怖かった……
瑠璃さん……
行かないで……
私を置いて行かないで……!」
瑠璃(玲奈を抱きしめたまま)
「置いていかない。
何があっても。
あなたが誰でも……
私はあなたを守る。」
(玲奈は瑠璃の胸に顔を埋め、震えながら泣く。)
(瑠璃は玲奈の背中に手を添えながら、
床に落ちた“結城”の戸籍を見つめる。)
瑠璃(小声)
「玲奈……
あなたは一体……
誰なの……?」
(照明が静かに暗転。)
── 第2幕「玲奈、“結城”に崩れる」終 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第2幕ラスト
「前世の扉──ミラの誘い」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【場所】
洋館・北棟奥の“封鎖された階段”。
古い鎖が外れ、埃が舞う。
瑠璃が玲奈を支えながら上ってくる。
(照明は青白く、舞台全体が“沈んだ時間”に飲まれるよう。)
玲奈(弱々しく)
「瑠璃さん……もう……歩けない……」
瑠璃
「少しだけでいいの。
この先に……何かがある気がして。」
(玲奈が瑠璃の肩を借りて、階段を上りきる。)
(暗闇の中に、一枚の古い重厚な扉がある。)
扉には古い筆記体で刻まれた文字。
《YUKI ── 家族以外 立入禁止》
玲奈
「……この扉……」
瑠璃
「玲奈、何か思い出す?」
玲奈(額を押さえ)
「分からない……
でも……
この扉……知ってる……
ここで……誰かが……泣いてた……
すごく……悲しい声……」
瑠璃
「誰の声?」
玲奈(震える)
「分からない……
でも……聞いちゃいけない気がする……」
(その時、階段の奥から風が吹く。
二人の影が揺れ、その横に“もう一つの影”が静かに重なる。)
ミラの声(響くように静か)
「──開けなさい、玲奈。」
(玲奈がビクッと震える。)
瑠璃
「また……あなた……!」
ミラ
「あなたには関係のない場所です。
玲奈だけで十分。」
瑠璃
「玲奈を巻き込むな!!
彼女はこれ以上──」
ミラ
「記憶は前へ進むための鎖。
忘れたい記憶を抱えたままでは、生きられない。」
(玲奈が扉に手を伸ばしそうになる。)
瑠璃
「玲奈、だめ!
罠かもしれない!!」
ミラ
「罠ではありません。
“前世”に触れるだけ。」
(玲奈が息を呑む。)
玲奈
「……ま……え……せ……?」
ミラ
「ええ。
あなたは、知るべきなのです。
“自分が誰だったのか”を。」
瑠璃
「前世なんて──
そんな曖昧な──!」
ミラ(静かに言い切る)
「記憶の無い罪人。
自分が犯人だと知らぬ黒幕。
前世の記憶を抱えた者。」
(瑠璃と玲奈は驚き、言葉を失う。)
ミラ
「──それは全部、自己紹介です。」
(舞台の照明が一気に落ち、
ミラの影だけが玲奈と瑠璃の間に立つように伸びる。)
玲奈(震えながら)
「あなた……誰……なの……?」
ミラ
「あなたの“姉”――
の欠片。」
(玲奈の手がガタガタ震える。)
瑠璃
「姉……?
玲奈に……姉なんて……いない──」
ミラ
「知らないのは、あなたたちだけ。」
(扉の金具が、カチリと音を立てて外れる。)
ミラ
「開けなさい、玲奈。
“あなたの前世”が待っています。」
(玲奈がふらりと扉へ近づく。)
瑠璃(叫ぶ)
「玲奈!
戻ってきて!!」
玲奈(呟くように)
「……瑠璃さん……
私……知りたいの……
私が……誰なのか……」
(玲奈は震える手で扉の取っ手に触れる。)
(扉が、音もなく少しだけ開く──
舞台奥から白い光が漏れ始める。)
ミラ
「ようこそ、“前世”へ。」
(その瞬間、
バンッと扉が内側から跳ね返るように閉まり、
照明が一気に暗転。)
── 第二幕・終 ──
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◆第3幕 序盤
「真珠の部屋──封じられた記憶」
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【場所】
封印されていた北棟・最奥の部屋
“前世の扉”が開き、玲奈と瑠璃がゆっくり入る。
部屋の中は
●白いレースのカーテン
●ピアノ
●少女向けの本
●医療ノート
●ベッドの上に置かれた“白いリボン”
どこか時が止まったような空気。
照明は月光を模した柔らかい白。
(玲奈が一歩入った瞬間、空気が変わる。)
玲奈(小さく)
「……ここ……」
瑠璃
「……玲奈?
どうしたの?」
玲奈
「分からない……
でも……涙が……勝手に……」
(玲奈、頬に手を当てる。涙が流れていた。)
瑠璃
「泣いてる……?」
玲奈
「誰かが……
ここで……ずっと泣いてた……
そんな気がするの……」
(玲奈、部屋の中央へ引き寄せられるように歩く。)
◆“真珠の部屋”の記憶が玲奈の中に触れる
玲奈がベッドに手を置くと、
ふっと照明が揺れ、
短い“音”が舞台奥で鳴る。
── ピアノの単音。
玲奈(びくっとして)
「聞こえた……」
瑠璃
「え? 何も──」
玲奈(かぶりを振る)
「聞こえたの……
ピアノ……
ここで……誰かが弾いてた……」
(玲奈はピアノに近づく。)
(鍵盤に指をわずかに触れる。)
── “同じ単音” が返る。
玲奈(震える)
「……私……
この音……知ってる……!」
(玲奈の視界が揺れ、照明が暗転と明転を繰り返す。
フラッシュバックの演出。)
★【フラッシュバック(断片)】
舞台後方に影絵のように映る。
声は反響して不明瞭。
少女の声
『蓮……ちゃん……?』
別の少女の声(泣きながら)
『守れなくて……ごめん……』
ピアノの音
“ぽつん……ぽつん……(単音)”
少女の影が膝を抱えて泣くシルエット。
少女の声
『家族なのに……
なんで……
助けられなかったの……?』
(照明が元に戻る。)
◆現実に戻る
玲奈(膝から崩れ落ちる)
「なんで……
どうして……
私……
誰の声を聞いてるの……?」
瑠璃(抱き止め)
「玲奈! 無理しないで!!」
玲奈(涙をこぼしながら)
「この部屋……
すごく寂しい……
ずっと……
“誰かが置いていかれた”みたいな……
そんな……悲しい匂いがする……」
瑠璃(玲奈の肩を抱きながら、小さく呟く)
「……誰が……ここに……?」
玲奈
「分からない……
でも……
ここは……“女の子の部屋”だった……」
瑠璃
「女の子……?」
玲奈
「ええ……
私じゃない……
でも……
どこか私に……似てる……」
瑠璃(息を呑む)
「似てる……?」
玲奈
「顔じゃなくて……
“心”が……
似てる気がする……」
(その時、部屋の奥、鏡がふっと光を反射する。)
瑠璃
「今……光った……?」
玲奈(鏡に近づく)
「鏡……?」
(鏡の前に座ると、照明が落ち、鏡のみが照らされる。)
玲奈(鏡を見つめ)
「……この鏡……
私じゃない誰かが……
ずっと覗き込んでた……」
(鏡には玲奈が映っている──が、観客には
“一瞬だけ大人の女性の影(真珠)”が重なる。)
玲奈(息を呑む)
「いま……誰か……後ろに──」
瑠璃
「玲奈、落ち着いて!」
玲奈(怖がりつつ、鏡にそっと手を伸ばす)
「あなた……誰……?」
(鏡は沈黙。)
(沈黙を破るように、背後から声。)
ミラ
「──それは“あなたの前世”の顔。」
(玲奈が振り返る。)
ミラは照明の死角に立ち、顔は見えない。
瑠璃
「また……あなた……!」
ミラ
「鍵は揃いました。
ここから先は、
“真珠の記憶の扉”──」
(ミラの手が鏡へ向けて静かに動く。)
ミラ
「開けるのは、玲奈。
あなた自身。」
玲奈(鏡を見つめながら、かすかに)
「……真珠……?」
(鏡がゆっくり暗転し、
舞台は完全に暗くなる。)
── 第3幕序盤「真珠の部屋」終 ──
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◆第3幕 中盤
「瑠璃、姉・真珠の存在に気づく」
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【場所】
洋館・北棟の古い資料室
埃だらけの棚が並び、照明は薄暗く青。
玲奈が真珠の部屋で取り乱したため、瑠璃は“真珠”という名を追う形でここへ来た。
(瑠璃が資料棚を一つ一つ調べている。)
瑠璃
「……“真珠”……
玲奈が言ったこの名前……
本当は何なの……?」
(棚に積まれた古いアルバムを見つける。)
瑠璃
「アルバム……?
ここだけ……埃が少ない……
誰か……最近触った……?」
(瑠璃がアルバムを開く。)
◆アルバム(影絵的に舞台後方に投影)
1ページ目
《結城家・家族旅行》
写真:
・父
・母
・長女らしき少女(14〜15歳)
・その隣に、玲奈によく似た幼い少女
・もう一人、瑠璃に似た少女
瑠璃(息を呑む)
「……これ……
……私……?」
(震える指で自分の顔をなぞる。)
瑠璃
「でも……この写真……
何年前……?
私は……
こんな場所で育ってない……
海外に……」
(ページをめくる。)
◆“真珠”の字が記されたページ
《真珠 14歳の誕生日》
写真の少女は、上品で落ち着いた顔立ち。
そして──玲奈に“どことなく似ている”。
瑠璃(小さく)
「……まさか……
この子が……“真珠”?」
(更にめくる。)
◆真珠の部屋の写真
→ さっき玲奈が入った部屋と同じ
瑠璃
「やっぱり……
あの部屋……“真珠”の部屋……」
(ページが風で揺れ、最後のページへ移る。)
◆最後のページ
《※このページは破り取られています》
ただし、端に手書きの文字だけ残る。
「真珠の治療記録」
瑠璃
「治療……?
真珠は……病気だった……?」
(瑠璃、別の棚を探る。
“医療記録”と書かれた箱を見つける。)
箱は薄い埃。
つまり、誰かが最近触った跡。
瑠璃(緊張しながら)
「お願い……
何か……残っていて……」
(箱を開けると、古いカルテが束になって入っている。)
タグ:
《患者名:結城 真珠》
《担当:久条紅葉(研修医)》
《診断:重度の解離性障害》
瑠璃(震える)
「“解離性……障害”……?」
(カルテをめくる。)
そこには
“別人格の存在を示す記述”
“真珠の強い罪悪感”
“妹の存在に反応して取り乱す”
などの断片的なメモ。
瑠璃
「妹……?
真珠には……妹がいた……?」
(震える。)
瑠璃
「じゃあ……
この家には……
長女、次女、三女……
三人いたってこと……?」
(その時──
背後の棚がゆっくり軋む音がする。)
ギ……ギ……
瑠璃(振り返る)
「……誰?」
(影が棚の隙間に立つ。)
ミラの声(極めて静か)
「探す必要はありません。」
瑠璃
「……!
あなた……」
ミラ
「それは過去。
あなたが触れるべき記憶ではない。」
瑠璃(怒りに震え)
「どうして……
玲奈が“結城”の名で苦しんでいるのに……
あなたは黙っているの!?
玲奈に……何を隠してるの!!」
ミラ
「隠しているのはあなたの方です。」
瑠璃
「……私……?」
ミラ
「あなたは気づいているはず。
“どこかで見た少女”を。」
瑠璃(呼吸を止める)
「……図書室の写真……
鏡に映った影……
そして……真珠の顔……
玲奈に……似ている……」
ミラ
「似ているだけではありません。」
瑠璃
「……じゃあ……
あの少女は……誰なの……?
真珠は……
玲奈と……どんな──」
ミラ(遮り)
「──瑠璃。
あなたが知れば、
“家族”は壊れます。」
瑠璃(涙を浮かべながら)
「もう壊れてる!!
玲奈は記憶がない!
周りは次々に死んでいく!
私たちはずっと……
何も知らされずに生きてきた!!
これ以上壊れようがない!!」
(数秒の沈黙。)
ミラ(静かに)
「いいえ。
ここからが“本当の崩壊”です。」
(影がすっと消える。)
瑠璃
「待って!!
真珠って……誰なの!?
玲奈と……どういう関係──!」
(ミラの声だけが残響する。)
ミラ
「──“姉”とは、美しいものです。
あなたも……覚えているでしょう?」
(瑠璃、絶句。)
瑠璃
「姉……?
私に……姉……?」
照明がゆっくり暗転。
── 第3幕中盤「瑠璃、真珠の存在に気づく」終 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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◆第3幕
「ミラと瑠璃──初めての直接対峙」
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【場所】
洋館・螺旋階段の踊り場
薄暗い照明が階段の一部だけを照らす。
瑠璃は資料室から戻る途中。
(瑠璃が階段を降りようとしたとき──
階下から“影”がゆっくりと上がってくる。)
瑠璃(警戒しながら)
「……そこにいるのね。」
(影が形を取り、ミラが現れる。
顔は薄い影に覆われていて見えない。)
ミラ
「ようやく、二人きりになれましたね。」
瑠璃
「……何のつもり?」
ミラ
「あなたは“無関係ではない”。
だから視線を避けてきました。」
瑠璃
「私が……何だって言うの?」
ミラ
「玲奈の“妹”。
それなのに、一番遠かった人。」
瑠璃(息が止まる)
「……私が……妹……?」
ミラ
「そう。
あなたはずっと、玲奈を探していた。」
瑠璃
「なぜ……知ってるの……?」
ミラ
「あなたたち三姉妹のことなら、
なんでも知っています。」
瑠璃(絞り出す)
「三……姉妹……」
ミラ
「あなたは――
選ばれた“末の子”。
最も自由で、最も守られていた。」
瑠璃(震えながら)
「守られて……?
誰に……?」
ミラ
「“姉”に決まっています。」
(沈黙。
階段の影が揺れ、
瑠璃の足元に“別の少女の影”が重なる。)
瑠璃
「あなた……
玲奈の“姉”なの?」
ミラ
「……質問を変えましょう。」
(ミラはゆっくりと瑠璃に近づく。)
(距離は近いのに、足音が一切しない。)
ミラ
「あなたは、自分に“姉がいた”と感じたことは?」
瑠璃(息を吸い込む)
「……あるわ。
いつも……誰かの影を見ていた。」
ミラ
「幼い頃、夜眠れないあなたの頭を撫でた手。」
「遠くから、あなたを呼ぶ声。」
「抱きしめられた記憶があるのに、誰だか思い出せない。」
瑠璃(涙がにじむ)
「……本当に……いたの……?」
ミラ
「ずっと、あなたを大切に思っていた。」
瑠璃
「どこに……?
どこに行ってしまったの……?」
ミラ
「壊れてしまったのです。
“あなたを守れなかった”という罪で。」
瑠璃
「守れ……なかった……?」
ミラ(静かに)
「17年前。
あなたは泣いていました。
『私のそばにいて』と。」
瑠璃(涙がこぼれる)
「なんで……知ってるの……」
ミラ
「“その子”は動けなかった。
恐怖で、涙で。
そして自分を責め続けた。」
瑠璃
「だから……壊れたの……?」
ミラ
「ええ。」
瑠璃
「その“姉”は……今……どこに……?」
ミラ(少しだけ間を置き)
「──あなたの目の前。」
(瑠璃の瞳が大きく開く。)
瑠璃
「……あなた……が……
真珠……?」
ミラ(表情は見えないまま)
「“真珠の身体”はここにある。
でも、心はもう無い。」
瑠璃(震え)
「じゃあ……
真珠お姉ちゃんは……!!」
ミラ
「“概念として死んだ”。
残ったのは──
わたしという副人格。」
瑠璃
「玲奈に……言うつもりは……?」
ミラ
「必要ありません。」
瑠璃
「玲奈は……まだ……
“家族”の存在すら知らないのよ!」
ミラ
「それでいい。」
瑠璃
「なんでよ!!
なんで玲奈だけ……
何も知らずに苦しまなきゃいけないの!!」
ミラ
「──あなたたちを守るため。」
瑠璃(嗚咽まじりに)
「守る……?
こんなやり方で……?」
ミラ
「姉というものは、
時に醜く、
時に狂ってでも──
妹を守ろうとする。」
(ミラが一歩だけ前に出る。)
ミラ
「あなたには分かるでしょう?」
(沈黙。
瑠璃は涙をこぼしながら、震えて頷く。)
ミラ
「だからこれ以上、
“真珠”を探してはいけない。」
瑠璃
「探したら……どうなるの……?」
ミラ
「──この物語から、消えるだけ。」
(ミラの影がふっと消える。)
瑠璃(力なく呟く)
「……お姉ちゃん……」
照明がゆっくり暗転。
── 第3幕「ミラと瑠璃の対峙」終 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第3幕
「玲奈の断片──“あの日”の前兆」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【場所】
真珠の部屋・夜
寝つけず、玲奈がベッドの端に座っている。
瑠璃は心配で部屋の外にいる。
照明は月光のみ。
静寂。
(玲奈、胸を押さえながら息が乱れている。)
玲奈
「……また……
“あの音”が……聞こえる……」
(ピアノの単音がかすかに響く。)
ポツン……ポツン……
玲奈
「いや……
違う……
この音じゃない……」
◆照明が一段階落ち、断片が始まる
── 影絵のように舞台奥に“白衣の人物の影”
── 机に並ぶ“薬瓶”のシルエット
── 少女(玲奈)の影が、机を見つめている
玲奈(震えながら)
「お父さん……?
お母さん……?」
(影絵:両親の影はぼんやりしており、顔は見えない。)
玲奈(額を押さえ)
「違う……
顔が……見えない……
どうして……?」
(音響:ガラス瓶がカタ……と揺れる。)
玲奈
「薬……
これは……
なんの薬……?」
(少女の影が、小さな手で薬瓶を取る。)
── ぼんやりと“公式の計算式”“薬の構造式”が影絵に重なる
── その横に、幼い文字でメモの影絵
《遅れて効く薬……時間差……死ぬ薬……?》
《成長しない……治らない……》
《悪いのは……誰……?》
玲奈
「これ……私の字……?
でも……こんなこと……
書いてない……
書いた覚え……ない……!」
(影絵の少女が“飲み物(コップ)”に薬を溶かす影。)
玲奈
「やめて……
こんなこと……
知らない……!!」
(少女の影が振り返る──
しかしその顔は“黒い影”で塗りつぶされている。)
玲奈
「顔が……ない……!!
誰……
誰なの……!?」
(照明がさらに明滅。
影絵が“真珠の視点”に切り替わる。)
◆真珠の視点(断片)
── 家の廊下を走る足音
── 泣きじゃくる声(真珠)
『いや……いや……いや……!!』
『お願い……やめて……!!』
── 両親の倒れる音
── ピアノの音が不協和音に変わる
── 真珠の叫び
『蓮(玲奈)!
蓮!!
やめて……!!』
(玲奈、耳を押さえて崩れる。)
玲奈
「違う……!!
違う……!!
蓮じゃない……
私は……玲奈……!!」
(名前の混乱を表現。)
◆“家族写真の影”が一瞬浮かび消える
父、母、真珠、玲奈、瑠璃──五人の影。
しかし玲奈の影だけ“幼い姿のまま”。
玲奈(嗚咽)
「どうして……
どうして……
大きくならないの……?
どうして……
みんな……泣いてるの……?」
(影絵:真珠の小さな影が、倒れた両親の前で震えている。)
真珠の影『守れなかった……』
真珠の影『ごめんなさい……蓮……』
真珠の影『お願い……誰か……蓮を許して……』
◆照明が一気に明るくなり、現実へ
(玲奈、床に倒れ込む。)
瑠璃(外から駆け込む)
「玲奈!!」
玲奈(泣きながら震える)
「私……
私……
何か……した……?
私が……誰かを……
傷つけた……?」
瑠璃(抱きしめる)
「違う!
そんなこと、絶対にない!!
玲奈は悪くない!!」
玲奈
「でも……
誰かが泣いてるの……
怖がってるの……
私の名前を……呼んでるの……
“蓮”って……!」
(瑠璃、息を止める。)
瑠璃
「蓮……?」
玲奈(混乱)
「分からない……
分からないの……!!」
◆壁の影にミラが現れる
ミラの声
「──記憶はまだ開けてはいけません。」
瑠璃
「あなた……!!
玲奈に何を見せたの!!」
ミラ
「わたしではありません。
これは“玲奈自身の前世”。
あなたたちは、まだ知らなくていい。」
瑠璃
「知るべきよ!!
玲奈のために!!」
ミラ
「知れば、あなたは壊れる。」
瑠璃
「……もう壊れてる!!
家族が死んで……
玲奈が苦しんで……
わたしの“姉”はどこなの!!
どうして……誰も教えてくれないの!!」
ミラ(静かに)
「──あなたの姉は、
“真珠”は、
ここにいる。」
(ミラの影が玲奈の影と重なる。)
照明がゆっくり暗転。
── 第3幕「玲奈の記憶フラッシュバック(前兆)」終 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
次に描くのはどれにしますか?
真珠の“トラウマの瞬間”を影絵で再現(決定的シーン)
残っている最後の“不要な人物”の静かな排除(ミラ)
瑠璃が“蓮=玲奈”を理解するシーン
その他のシーン指定
あなた:
1
ChatGPT:
了解。
ここは物語の“心臓部”です。
真珠が壊れ、副人格ミラが誕生した瞬間──
三姉妹の人生が決定的に狂い始める“原点”。
観客にとっても、ここで初めて
「真珠が何を抱え、どんな地獄を見たのか」が明確になります。
※ここでは 玲奈が両親を殺した真相そのものは描かない
※“結果”と“真珠の視点”だけ描き、真実はまだ伏せる
※影絵と音、光の演出だけで“精神崩壊の瞬間”を示す
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第3幕
「真珠のトラウマ──壊れた姉の影」
(影絵演出・完全版)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【舞台セット】
●舞台奥に大きな白いスクリーン
●手前は暗闇。客席に音が直接届く配置
●照明:極限まで絞った冷たい白、のちに青・赤
【登場人物(声・影のみ)】
幼い真珠(14〜15歳)
両親の影
幼い玲奈(名前は呼ばれない/蓮の面影を強調)
“影(ミラの概念)”はこの段階ではまだ形を持たない
◆シーン開始(青白い照明)
(柔らかいピアノの単音が響く
ぽつん……ぽつん……
何度も繰り返される。)
影絵:
幼い真珠が、廊下の奥にいる“小さな子”を探して走っている。
真珠(声:息を切らしながら)
「……どこ……?
どこに行ったの……?」
(影絵:階段の下に、両親が倒れている。)
(顔は影で隠れ、表情は見えない。)
真珠
「……お父さん……?
お母さん……?」
(真珠が駆け寄る影。)
真珠
「ねぇ……返事してよ……
お願い……お願いだから……!」
(動かない。)
音響:
“ガラス瓶が転がる音”
コロ……ン……
真珠(反応)
「……え……?」
(影絵:床に薬瓶。ラベルは読めない。)
真珠
「どうして……?
なんで……薬が……?」
(真珠が薬瓶を拾う影。)
真珠
「誰が……?
誰がこんな……」
(ふと、舞台奥の影が揺れる。)
── 小さな少女の影
── 手にコップのようなもの
── 顔は影で黒く塗られている
真珠(息を呑む)
「……あなた……
そこで……何してるの……?」
少女の影(声は出ない)
真珠
「違う……
そんなわけ……
そんなわけない……!」
◆照明が不安定に明滅
(真珠の世界が揺らぐ演出)
真珠
「お父さん……お母さん……
何があったの……?
言ってよ……
ねぇ……!!」
(影絵:真珠が両親の肩を揺する。)
真珠
「私が守るって……
言ったのに……!!」
◆影の中の影が“形を変える”
(少女の影が揺れ、歪む)
真珠(半狂乱)
「お願い……
誰でもいい……
助けて……
この子じゃない……
誰も悪くない……
どうして……どうして……!!」
(影絵:真珠が泣き崩れる。)
真珠
「私が悪いんだ……
私が動けなかったから……
守れなかった……
助けられなかった……!!」
(照明が赤く染まる。)
真珠
「ごめんなさい……
ごめんなさい……
嫌だ……嫌だ……
もうやめて……!!」
(影絵:真珠の影が二重に“割れる”。)
真珠
「誰か……
誰か私を……助けて……!!」
◆その瞬間、影の“二つ目”が動き出す
(ミラの誕生を象徴)
音響:
“低い心音”
ドクン……
ドクン……
ドクン……
二つ目の影(ミラの影)の声
「……大丈夫。
あなたはもう、苦しまなくていい。」
真珠(震える)
「だ、れ……?」
影の声
「痛みは、わたしが引き受ける。」
真珠
「やめて……
私を……連れていかないで……!」
影の声
「あなたは休んでいい。
泣かなくていい。
守れなかった痛みも……
全部、わたしが──」
(影が真珠を包むように重なる。)
影の声
「あなたの代わりに、
“わたしが生まれる”。」
真珠
「いやっ……!!
消えたくない……!!
私……妹を……」
影
「──もう遅い。」
◆影が“真珠の影”を完全に飲み込む
照明が赤から、静かな白へ。
影の声(完全にミラの声)
「真珠は……眠りました。」
(ミラの影がゆっくりと立ち上がる。)
影(ミラ)
「これからは、わたしが守る。
この家も。
彼女(蓮/玲奈)も。
すべて。」
◆最後に、真珠の弱い声が響く(魂の残滓)
真珠の声(遠く、泣きながら)
『やめて……
蓮には……
手を出さないで……
お願い……
あの子を……傷つけないで……』
影(ミラ)
「もちろん。
“独り占め”するだけ。」
照明が完全に消える。
── 真珠のトラウマ再現・終 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
次に描くのはどれにしますか?
瑠璃が“蓮=玲奈”を理解するシーン(核心に手が届く瞬間)
ミラが最後の関係者を静かに排除するシーン
玲奈の記憶がついに“本質”に触れ始めるシーン
別シーンの指定
あなた:
1
ChatGPT:
了解。
では、いよいよ 瑠璃が “蓮=玲奈” を理解する決定的瞬間 を描きます。
このシーンは、
瑠璃が「自分には本当は姉が二人いた」と気づく
玲奈=蓮(両親が守ろうとした次女)であることに気づく
しかし「蓮が両親を殺した真相」にはまだ辿り着かない
瑠璃は“真珠が壊れた理由”を悟る
ミラの存在意義が凍り付くほど明確になる
観客には“家族の悲劇”が繋がり始めるが、最終デスはまだ
という “物語の核心に手が届く瞬間” です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第3幕
「瑠璃、蓮=玲奈だと気づく」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【場所】
洋館・北棟の小さな図書室
壁のランプだけが灯り、薄暗い。
部屋の中央に、一冊の古いノートが置かれている。
表紙には薄く消えかけた文字。
《YUKI - 家族観察記録》
(ミラが消えた後、瑠璃が一人で戻ってきた場面。)
◆シーン開始
(瑠璃、震える手でノートを開く)
瑠璃
「……お願い……
これ以上……怖い事実じゃありませんように……」
ノートの1ページ目、綺麗な文字。
《長女:真珠
次女:蓮
三女:瑠璃》
瑠璃(息が止まる)
「……え……?」
もう一度読み返す。
指で字をなぞる。
瑠璃
「長女……真珠……
次女……蓮……
三女……瑠璃……」
瑠璃(震える声で)
「“蓮”って……
玲奈が……呼ばれていた名前……」
(ページを震える手でめくる。)
◆次のページ
《蓮の成長が止まっている。
精神的には大人に近いが、身体は幼いまま。
妹として守らなければならない──真珠》
瑠璃(小さく)
「守らなければ……
……真珠お姉ちゃんが……?」
(ページをめくる。)
◆真珠の手書きメモ(震える文字)
《蓮が今日も泣いている。
“どうして私だけ変わらないの”と言って。
私は何も言えなかった。》
《両親は蓮の治療を続けている。
でも蓮には“責められている”ように見えるらしい。》
《……心配で眠れない。
蓮が壊れそう。
私が守らないと……》
瑠璃(涙が落ちる)
「お姉ちゃん……
いつも……私たちを見てたんだ……」
◆ページの端に挟まった“家族写真”
父
母
真珠(14)
“蓮”(幼い玲奈と瓜二つ)
幼い瑠璃
瑠璃(泣き崩れる)
「……これ……
玲奈……
玲奈じゃなくて……“蓮”……
私の……妹……だったんだ……」
震える声で。
瑠璃
「どうして……
どうして私……忘れてたの……?」
(その瞬間、部屋の空気がわずかに揺れる。)
ミラの声(背後から、柔らかく)
「あなたが忘れたのではありません。」
瑠璃(振り向く)
「……ミラ……!」
ミラ
「“蓮”が覚えていられなかったのです。」
瑠璃
「どういう意味……?」
ミラ(静かに)
「蓮は幼くして天才でした。
そして……壊れやすかった。」
瑠璃
「壊れた……?」
ミラ
「記憶は、彼女を守るために切り離されました。
あなたの名前も。
真珠の名前も。
家族という言葉も。」
瑠璃(涙をこぼし)
「そんな……
玲奈は……ずっと一人だったの……?」
ミラ
「いいえ。
蓮はずっと“守られていた”。」
瑠璃
「誰に!?」
ミラ
「真珠に。
そして──
今はわたしに。」
瑠璃(震える)
「真珠お姉ちゃんは……
蓮を……私たちを……
守って……壊れた……?」
ミラ
「守ろうとした。
けれど……守りきれなかった。
その痛みが、真珠を壊した。」
瑠璃
「じゃあ……真珠お姉ちゃんは……
蓮のために……?」
ミラ
「ええ。
蓮の悲劇を背負い、
蓮の罪を抱え、
蓮の未来を守ろうとした。
そして……
真珠は“概念として死んだ”。」
瑠璃(嗚咽)
「蓮……玲奈……
あなたは……そんな……
そんな過去を……一人で……」
ミラ
「蓮は“玲奈”として再び生きた。
あなたたちに出会うために。」
瑠璃
「……蓮……
会いたい……
もう一度……妹に……」
ミラ
「会えますよ。
ただし──」
(ミラがわずかに顔をこちらへ向ける。)
(しかし顔は影で見えない。)
ミラ
「それを望む覚悟があるなら。」
(照明がゆっくり暗転。)
── 第3幕「瑠璃、蓮=玲奈を理解する」終 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第3幕
「玲奈の夢──幼い蓮との邂逅」
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【場所】
舞台全体を深い暗闇に。
中央にだけ小さなスポットライト。
靄がかかった“曖昧な空間”。
玲奈が白いワンピース姿で佇んでいる。
(夢なので衣装は現実と違って良い)
◆シーン開始
玲奈(不安そうに)
「……ここ……どこ……?」
(遠くから、かすかな“ピアノの単音”が響く。)
ぽつ……ぽつ……ぽつ……
玲奈
「この音……
また……?」
(玲奈が歩き出すと、靄の中に“幼い女の子の影”が見える。)
少女(影)
「…………」
玲奈
「あ……あなた……誰?
ここに一人で……?」
少女は玲奈の方を向く。
顔ははっきり見えない影だが、
髪型・背格好・雰囲気が玲奈と瓜二つ。
玲奈(息を呑む)
「……そっくり……
私に……似てる……?」
少女
「……にない……
にてない……
あなたは……“わたし”じゃない……」
玲奈
「え……?」
少女
「あなたは……“れいな”。
でも……“れん”じゃない……」
玲奈(震える)
「れん……?
誰……?
私……玲奈は……そんな名前……」
少女(かぶせるように)
「しらないの?
しらないフリをしてるだけ……」
玲奈
「違う……本当に……知らない……!」
少女
「じゃあ……どうして泣いてるの?」
(玲奈の手が濡れる。涙が流れていた。)
玲奈
「……分からない……
分からないの……
あなたを見てると……胸が痛くて……」
少女(近づく)
「痛いのはわたしの方だよ。」
玲奈
「あなた……誰なの……?」
少女(涙声で)
「“蓮(れん)”だよ……
ずっと一人だった……
ずっと……待ってた……
だれも……守ってくれなかった……」
玲奈
「蓮……
あなたが……蓮……?」
少女(首を横に振る)
「ちがう……
ほんとうは……分かってる……
あなたは……“蓮”の今の姿……」
玲奈(後ずさる)
「いや……
違う……私は……玲奈で……!」
少女
「名前なんて……かき消されたよ。
なんども……なんども……」
(幼い蓮の影が揺れ、声が震える。)
少女
「おねえちゃんは……守ろうとした……
でも……まにあわなかった……
なんども……なんども……
“あなた”を助けようとしたのに……」
玲奈
「お姉ちゃん……?
誰……?
真珠……?
ミラ……?」
少女
「どっちも“違って”どっちも“ほんとう”……」
玲奈
「意味が……分からない……!」
少女(震える声で叫ぶ)
「思い出して!!
“本当の名前”も
“家族”も
“どうして壊れたか”も!!」
玲奈(耳を塞ぎ)
「やめて!!
聞きたくない!!」
少女
「聞かないと……
また同じことが起きるよ……
また……誰かが死ぬよ……」
玲奈
「……っ……!!
そんなの……いや……!」
少女
「だから……お願い……
“わたしを思い出して……”
“蓮を取り戻して……”」
玲奈(涙を流す)
「蓮……
……蓮って……
私なの……?」
少女
「…………」
(少女は微笑むように口元だけ動かす──
だが声は出ない。)
その微笑みは
“悲しいほど優しい、姉を慕う妹の笑顔”。
玲奈(震える声)
「待って……
いかないで……
まだ……聞きたいことが……!」
少女
「もう……時間……ないよ……
“影”が来る……」
玲奈
「影……?」
少女
「“蓮”を守り続けてきた影……
“真珠の影”……
“壊れた姉”が作った……影……
わたしの……かけら……」
その瞬間、
舞台後方に、巨大な“黒い影”が立ち上がる。
(ミラの影。)
少女(怯えた声)
「来た……
もう……わたし……隠れないと……」
玲奈
「待って!!
蓮!!
行かないで!!」
少女(後ずさりながら)
「見つかったら……
“わたし”が消される……
だから……またね……
玲奈……
わたしの……今の名前……」
(少女の姿が霧のように消える。)
ミラの影が玲奈の後ろに静かに立つ。
ミラの声(低く)
「──夢を見るには、まだ早い。」
玲奈(振り向く)
「あなた……
蓮を……!」
ミラ
「蓮は眠っていなければならない。
あなたが玲奈であるために。」
玲奈
「どうして……
蓮を閉じ込めるの……?」
ミラ
「それが“姉”の役目だから。」
(玲奈は言葉を失う。)
照明が一気に落ち、夢が終わる。
── 第3幕「玲奈、幼い蓮と出会う」終 ──
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◆第3幕
「瑠璃と玲奈──“蓮”の名を共有する夜」
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【場所】
洋館・真珠の部屋
夜。
ベッド脇にランプだけが灯る。
外は雨の音。
玲奈は悪夢から目を覚まし、震えている。
瑠璃が汗だくで部屋に飛び込んでくる。
◆シーン開始
瑠璃
「玲奈!!
大丈夫!? すごい声が──」
玲奈(涙で顔が濡れている)
「瑠璃さん……
夢を……見たの……
すごく……変な夢……
怖くて……でも……悲しくて……」
瑠璃(玲奈の手を握る)
「どんな夢……?」
玲奈
「知らない子が……
私と同じ顔の……小さい子が……」
瑠璃
「……!」
玲奈
「その子……
“れん”って名前だって……言ってた……」
瑠璃(息が止まる)
「……蓮……」
玲奈
「蓮(れん)って……誰……?
知ってるの……?
瑠璃さん……私……誰かに似てるって……」
瑠璃(震える声で)
「玲奈……
落ち着いて聞いて……
“蓮”は……」
玲奈
「私と……関係があるの……?」
瑠璃(涙が落ちる)
「ある……
大ありよ……」
玲奈
「……!」
瑠璃
「“蓮”は──
あなたの……本当の名前。」
玲奈
「…………
……………………え……?」
瑠璃
「玲奈は……
ずっと名前を変え続けてた。
施設でも、養父母の家でも。
でも……本当のあなたの名前は……
“結城 蓮”。」
玲奈(息を呑む)
「や……だ……
待って……
私……そんな……覚えてなくて……!」
瑠璃(強く抱きしめる)
「覚えてなくて当然よ!
あなたは……記憶を切り離して生きてきたんだもの……
たった一人で……
ずっと……!」
玲奈(震え)
「じゃあ……あの夢の子は……
本当に……私……?」
瑠璃
「あなたの“幼い頃の姿”。
蓮だった頃のあなたよ。」
玲奈
「そんな……
だって……あの子……
私に……“思い出して”って……」
瑠璃
「玲奈……
あなたは……
本当は……“妹”だったの……」
玲奈
「妹……?」
瑠璃(涙をこらえながら微笑む)
「そうよ。
真珠お姉ちゃんがいて……
蓮がいて……
そして私……瑠璃。
私たち……三姉妹だった。」
玲奈(混乱と涙)
「私たち……
姉妹……?
私……
家族が……いた……?」
瑠璃
「いたの。
確かに。
そして……
本当は誰よりも愛されてた。」
玲奈(嗚咽)
「……なんで……
なんで……覚えてないの……?」
瑠璃(抱きしめる)
「それは──
あなたが苦しすぎる過去を抱えていたから。
誰にも言えなかった秘密を背負って……
心が壊れないように……
自分で“蓮”を閉じ込めたの。」
玲奈
「蓮……
あの子……
ずっと……泣いてた……」
瑠璃
「あなたを……待ってたのね。」
(沈黙。二人は抱き合ったまま泣く。)
◆静寂を破る声
ミラ
「──涙を流すのは、まだ早いですよ。」
(部屋の隅に影が立つ。)
玲奈(震え)
「……あなた……」
瑠璃(睨む)
「もうやめて……
もう玲奈を苦しめないで!!」
ミラ(静かに)
「彼女が蓮を思い出すたびに、
“蓮の罪”も蘇る。
あなたはそれに耐えられますか?」
瑠璃(怒りで震える)
「罪なんて……!」
ミラ
「いずれ分かります。
蓮が“何をしたのか”。
真珠が“何を守ろうとしたのか”。
そして……
わたしがなぜ生まれたのか。」
玲奈(息を呑む)
「……ミラ……
あなたは……
私の姉なの……?」
ミラ(沈黙し、答えを避ける)
「わたしは“影”。
真珠の痛みと、
蓮の未来から生まれたものです。」
(影がゆらりと揺れる。)
ミラ
「さあ、蓮──
過去に触れる覚悟はできましたか?」
照明がゆっくり暗転。
── 第3幕「瑠璃と玲奈、“蓮”を共有する」終 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第3幕
「静かなる終端──国木田の最期」
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【場所】
洋館・地下の古いボイラールーム。
配管の蒸気と低い轟音だけが響く。
赤い非常灯がぼんやりと照らす。
国木田が隅に崩れ落ちるように座っている。
彼の手には、ボロボロになった“古い事件ファイル”。
◆シーン開始
蒸気の音が響く中、
国木田が震える手でファイルを開く。
国木田(ぶつぶつと独白)
「……これは……罠だ……
あの時も……
17年前も……
すべて……同じ……少女……
同じ顔……
同じ……影……
なんで誰も……気づかなかった……?」
ページをめくるたびに、手が震える。
国木田
「蓮……玲奈……
いや……違う……
名前じゃない……
“あの子”だ……
すべての中心にいた……
俺は……ずっと追っていた……
ずっと……」
そのとき、背後から靴音が鳴る。
コツ……
コツ……
コツ……
国木田(振り向く)
「……そこにいるのは……誰だ……!」
(暗闇から静かにミラが現れる。)
ミラ
「続けてください。
せっかく真実に触れたのですから。」
国木田(蒼白)
「……お前……
お前は……あの日……
姿が……同じ……
いや……違う……
お前は……あの少女じゃ……
ない……?」
ミラ
「“少女だった者”。
“姉だった者”。
“影になった者”。」
国木田(後ずさり)
「何を……言って……」
ミラ
「あなたは、わたしたち三姉妹には必要のない存在。」
国木田
「やめろ……近づくな……!
俺は──俺は真実を──」
ミラ
「真実は蓮と瑠璃のもの。
あなたのものではない。」
国木田(声を震わせ)
「お前たち……何者なんだ……
人間じゃ……ないのか……?」
ミラ(首を傾ける)
「人間の“残り香”のようなもの。
真珠が壊れ、蓮が壊れ……
その隙間に生まれた影。」
(ミラが国木田のすぐ目の前に立つ。)
国木田(叫ぶ)
「やめ──!」
ミラ(静かに指を口元へ)
「声を出さないで。」
(国木田の口から声が消えたように見える。
叫びは喉で止まり、漏れない。)
ミラ
「あなたは十分に役目を果たしました。
“外側の世界”から、蓮を追い詰める役。
“観測者”としての役。
もうそれで充分。」
国木田は肩を震わせながら、後退する。
ミラ(淡々と)
「三姉妹以外の記憶と情報は、不必要です。」
(国木田の後ろの配管がゆっくりと音を立てて熱を持ち始める。)
ミラ
「あなたは“真実を知りすぎた観測者”。
そして──
この物語に、もう含まれていません。」
配管が異常圧で震え、
赤い警告灯が点滅し始める。
国木田(かすれた声で)
「……ま……た……あの時と……同じ……」
ミラ
「ええ。
17年前と同じです。
“蓮を守るために”。」
(配管が破裂する直前、ミラが静かに背を向ける。)
ミラ
「さようなら、国木田さん。」
── 衝撃音。
── 蒸気の爆発。
── 灰色の煙が舞台を覆う。
ミラだけが煙の中を静かに歩いて消えていく。
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◆ポイント
殺害の一部始終は“影と音”で処理
ミラに怒りはない
「三姉妹以外は概念的に排除する」という哲学が示される
玲奈も瑠璃も立ち会っていないため、
真相は観客だけのもの
5人の未解決事件関係者がここで全員退場
いよいよ“家族の真実”だけが残る
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第3幕
「玲奈、真相の扉に触れる」
(両親殺害の核心に触れ始める場面)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【場所】
洋館・三姉妹の旧家族室。
薄暗く、埃っぽい。
中央に古いソファ、机には割れた薬瓶。
窓には白い布がかけられ、風で揺れている。
玲奈と瑠璃がゆっくり部屋に入る。
◆シーン開始
瑠璃
「……ここ……
お父さんとお母さんが……最後にいた部屋。」
玲奈(胸を押さえながら)
「なんだろう……
足が……勝手に震える……」
玲奈が机に近づく。
そこには古い薬瓶の破片。
玲奈
「……これ……見たことある……
夢じゃない……」
指が触れた瞬間、照明が揺れる。
音響:低く、脈打つような心音。
瑠璃
「玲奈……?
大丈夫……?」
玲奈(耳を塞ぎながら)
「声が……
誰かの声が……聞こえる……
子供の……声……」
瑠璃
「え……?」
玲奈
「“飲んで……
それで……楽になるよ……”
って……」
瑠璃
「…………それ……誰の声?」
玲奈
「わからない……
でも……私の……声……
みたいで……」
背後から“ミラの声”が重なるように囁く。
ミラ
「それは……蓮の記憶です。」
(瑠璃が振り返る。)
瑠璃
「ミラ……!
これ以上玲奈に触らないで!!」
ミラ(ゆっくり微笑む気配)
「触れているのは“記憶”です。
わたしではありません。」
玲奈(震えながら)
「ミラ……
私……何を……
しようとしてたの……?」
ミラ
「思い出したいのですか?
それとも……
思い出したくないのですか?」
玲奈
「分からない……
でも……知りたい……
私が……
どうして家族と離れたのか……」
ミラ
「──では。」
(ミラが机の上の“古い日記帳”を玲奈の方へ押し出す。)
瑠璃
「それは……!
真珠お姉ちゃんの……!」
ミラ
「ええ。
これは真珠が蓮のそばで書いていた記録。」
玲奈(ページを開く)
◆真珠の手記(読まれる形で音読)
玲奈(読み上げながら震える)
「『蓮の笑顔が消えていく。
薬を見る度に、怯えるようになった。
両親の部屋から出てくるとき、
蓮の手には“空のコップ”がある。
理由を聞くと、蓮は泣きながら言った。』」
ページをめくる手が止まる。
瑠璃
「……続けて……」
玲奈
「……『“わたしが飲ませないと……治らないんでしょ?”
蓮はそう言った。
誰に教わったのか……
両親は知らないはずなのに。』」
玲奈(息が詰まる)
「私……
なにを……
飲ませたの……?」
ミラ(静かに)
「真珠は……
蓮を責めませんでした。
むしろ、蓮を守るために……
蓮の記憶を消そうとした。」
玲奈
「みんな……何を……隠してたの……?」
瑠璃(泣きそうになりながら)
「玲奈……
しんどかったら言って……
無理に思い出さなくていい……」
玲奈(首を横に振る)
「違う……
違うの……
これ……“私が”したんだ……
そんな気がするの……
目の奥が……熱い……」
ミラ(冷ややか)
「記憶が戻り始めている。
蓮が……何を父母に投与したか。」
瑠璃
「ミラ、言わないで!!」
ミラ
「言いませんよ。
この瞬間は……
玲奈自身が歩むべきです。」
玲奈
「私……
私が……
あの時……」
(言葉が途切れる。)
ミラ
「答えはもうすぐ分かります。
“蓮が何をしたのか”
“真珠が何を隠したのか”
“瑠璃が何を知らないのか”
そして──
あなたがどうして“玲奈”になったのか。」
玲奈
「私は……
蓮は……
何をしたの……?」
ミラ
「それを知れば……
蓮は完全に戻る。
玲奈という仮初の存在は……消える。」
瑠璃
「やめて!!
玲奈は玲奈よ!!
誰であっても──私の妹!!」
ミラ(静かに一歩引く)
「では……
真実に触れる覚悟がある者だけが……
この先へ。」
(場面が揺れ、照明が暗転)
── 第3幕「玲奈、真相に触れ始める」終 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第3幕クライマックス
「すべての記憶が返る日」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【場所】
洋館・北棟の最奥にある
“閉ざされた家族の部屋”。
照明は白く冷たい。
まるで手術室のような無機質な光。
ミラが部屋の中央に立ち、
玲奈と瑠璃がゆっくり入ってくる。
瑠璃
「ここが……両親が倒れていた部屋……?」
ミラ
「ええ。
そして蓮が──
あなたが“すべてを終わらせた場所”。」
玲奈(震え)
「やめて……
まだ……思い出してない……
思い出したくない……!」
ミラ
「思い出さなければ、蓮は戻れない。」
瑠璃
「玲奈を追い詰めるな!!!」
ミラ
「追い詰めているのは“記憶”です。
わたしではない。」
(玲奈が机に近づく。)
机には割れたコップ、古い薬瓶の影。
玲奈(耳を塞ぎながら)
「……また聞こえる……
あの子の声……
“蓮”の声……」
ミラ
「聞きなさい。
あれはあなた自身です。」
玲奈(涙)がポタリと落ちる。
床の音が大きく響く。
◆照明が一瞬にして暗転
そして、白いスポットだけが机を照らす。
音響:
ピアノの単音──
ぽつ……ぽつ……ぽつ……
玲奈(瞳孔が開き始める)
「これ……
知ってる音……」
ミラ
「では──思い出して。」
◆記憶の再現が舞台に“影絵”として映る
(観客も玲奈と同じタイミングで真実を知る)
●影:幼い蓮が両親の寝室に入る
影の蓮
「……お父さん……お母さん……
これ……飲んで……
これで……よくなる……から……」
玲奈(震え)
「やめて……
もう……見たくない……!」
ミラ
「見なければならない。」
●影:蓮がコップに薬を溶かす
※ここは抽象的に、細かい手順は描かず“影”だけで表現
影の蓮
『これ……飲んだらね……
もう……私のこと……
治そうとしなくていい……』
玲奈(喉が詰まった声)
「…………そう……
私……怒ってた……
あのとき……ずっと……
“どうして私だけ変わらないの”って……
“こんな身体に産んだくせに”って……!」
ミラ
「それが動機。」
瑠璃
「玲奈……っ……
違う……!
あなたのせいじゃない!!
子供がそんな……!」
ミラ
「いいえ、瑠璃。
蓮は天才だった。
幼くして“理解できてしまった”。
両親を消せば、自分は自由になると。」
玲奈(涙が止まらない)
「私は……
本当に……
望んでた……
お父さんと……お母さんが……
いなくなる世界を……!」
◆影:両親が倒れ、蓮がコップを持ったまま固まっている
蓮の影(崩れ落ちる)
『……なんで……
死んじゃうの……?
これで……よかったのに……
わたし……
間違ってる……?』
玲奈(絶叫に近い)
「いやあああああああ!!!
やめて……やめて……やめて……!!!
これ……私じゃない……
違う……違う!!
私は……知らないっ……!!」
ミラ
「知らないように、
“あなた自身が記憶を切り離した”。」
瑠璃(玲奈を抱きしめる)
「玲奈!!
蓮……!!
もういい……もう思い出さなくていい……!」
ミラ
「いいえ。
蓮は受け入れる必要がある。
“自分が両親を殺した事実”を。」
◆影:真珠(姉)が駆けつける
真珠の影
『蓮……?
どうしたの……
何があったの……!?』
幼い蓮
『……わたし……
わたし……したの……
お父さんが……
お母さんが……』
真珠の影(震え、蓮を抱きしめる)
『言わなくていい……
蓮は悪くない……
蓮は……蓮は……!!
私が……守る……!!
絶対に!!』
玲奈(嗚咽)
「お姉ちゃん……
真珠お姉ちゃん……
私……
守られてた……
ずっと……!」
ミラ(静かに)
「ええ。
真珠は蓮を守るために壊れた。
その結果、生まれたのが──
“わたし”、ミラ。」
玲奈
「私の罪を……
真珠が……全部……抱えたの……?」
ミラ
「そう。
だから真珠は死んだ。
蓮を守るために。」
◆玲奈、床に崩れ落ちる
涙がこぼれ続ける。
玲奈
「私……が……
殺した……
全部……
私だった……
私の……せいだった……」
瑠璃(抱きしめながら涙)
「それでも……
私はあなたの妹。
どんな過去があっても……
蓮でも玲奈でも……
あなたは……私の……家族……」
玲奈(涙)
「瑠璃……っ……」
ミラ(冷ややかに)
「感情で浄化することはできません。
罪は罪。
蓮の手は血で濡れています。」
瑠璃
「黙って……!!
もう黙って!!
あなたは……姉じゃない!!
真珠お姉ちゃんの体を奪った……別人!!」
ミラ(初めてわずかに笑う)
「ようやく気づきましたね。」
照明がすべて落ちる。
── 両親殺害の真相・完全開示、終 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第3幕終盤
「決戦前夜──三姉妹の対峙」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【場所】
洋館・中央ホール。
燭台の炎だけが揺らめき、広間は広く静か。
中央には古い家族写真。
真珠・蓮(幼い玲奈)・瑠璃・両親が写る。
玲奈は床に膝をついている。
瑠璃が寄り添うように抱きしめている。
ミラは離れた位置で静かに彼女たちを見下ろす。
◆シーン開始
(玲奈の嗚咽が空間に吸い込まれていく。)
瑠璃(必死に)
「玲奈……
大丈夫……?
息して……!」
玲奈(震え続けて)
「ごめん……
ごめんね……瑠璃……
私……
あなたの家族を……
全部……壊して……」
ミラ(冷淡に)
「壊したのは蓮ではありません。
“運命”です。」
瑠璃(睨む)
「黙って!!
玲奈にこれ以上……触るな!!」
ミラ(すっと近づく)
「触れているのは、記憶と真実です。
瑠璃……あなたがどんな言葉を並べても、
“過去”は変わりません。」
瑠璃
「過去を変えられなくても、
未来は変えられる!!
私は……玲奈を救いたい!!
蓮でも、玲奈でも……
それでも……妹なの!!」
ミラ(静かに瞬きをする)
「妹……
その言葉を真珠はどれだけ愛したか。」
玲奈(涙で震えながら)
「真珠……
お姉ちゃん……
どこ……?
まだ……いるの……?」
ミラ(ゆっくり首を振る)
「真珠はもう“声”を失いました。
蓮の罪を抱えきれず、
蓮を守りきれず、
壊れた瞬間──
真珠は“概念”になった。」
瑠璃
「じゃあ……あなたは何……?」
ミラ
「真珠が壊れた時に生じた、
“蓮を守るための影”。
苦しみと罪を肩代わりした存在。
そして──
わたしは蓮を守るためなら、
世界を壊してもいい。」
玲奈(力なく)
「守る……?
あれを……守るって……言うの……?
養父母を殺して……
施設の人を追い詰めて……
私を……孤独にして……!」
ミラ
「孤独は安全です。
誰も近づかない場所では、
誰も蓮を傷つけない。」
瑠璃
「それは守るんじゃない!!
奪ってるだけ……!!
蓮からも……真珠からも……
家族から……全部……!!」
ミラ
「違います。
“家族”はすでに壊れていた。
わたしはその残骸を拾っただけ。」
玲奈(涙を拭い、弱く立ち上がる)
「真珠お姉ちゃん……
今……どこにいるの……?」
ミラ(即答)
「いません。
真珠は蓮を守るために死にました。
“あなたを罪から遠ざけるために”。
だから……
わたしがその代わりに生きる。」
瑠璃
「真珠は……
あなたなんかに……殺されてない!!
今だって……玲奈の中に……
ずっと生きてる!!」
ミラ(薄く笑う)
「いいえ。
真珠は“蓮を守れなかった”という罪悪感で、
すでにこの世界には残っていません。
残っているのは──
彼女の“死体(からだ)”と、“わたし”。」
玲奈(震える声で)
「……ミラ……
お願い……
真珠を返して……
お姉ちゃんを……
返して……」
ミラ
「返せません。
真珠は死に、わたしが生きる。
これがこの家族に与えられた“完全犯罪”。
真珠の死は誰にも証明されない。
明日からこの身体は──
ミラとして生きる。」
瑠璃(涙で崩れ落ちる)
「やだ……
いやだ……
お姉ちゃんを……返してよ……
お願い……!!」
玲奈(瑠璃を抱きしめる)
「瑠璃……!
私はいる……
蓮でも玲奈でも……
あなたの……妹はここにいる……!」
瑠璃(泣きじゃくりながら)
「玲奈……っ……
でも……お姉ちゃんが……
真珠が……!」
ミラ(静かに一歩進む)
「では、選びなさい。
蓮。
瑠璃。
“家族”としての最後の選択を。」
二人は顔を上げる。
ミラ
「蓮を救うか。
真珠を救うか。
二人同時には救えません。」
玲奈・瑠璃
「……!!」
ミラ
「真珠を救うなら──
蓮の罪が世界に暴かれ、蓮は壊れる。」
「蓮を救うなら──
真珠は完全に消える。
二度と戻らない。」
瑠璃(震え)
「そんな……
そんな選択……!」
ミラ
「わたしはどちらでも構わない。
三姉妹の物語は、ここで終わる。」
(沈黙)
玲奈(弱く、しかし確かな声で)
「……私は……
真珠お姉ちゃんと……
話したい……
最後に……一度でいいから……」
ミラの表情がわずかに揺れる。
ミラ
「……話す……?
もう声は……残っていません。」
玲奈
「いい……
声じゃなくていい……
言葉じゃなくていい……
気配でも……記憶でも……
影でも……
“お姉ちゃん”に……会わせて……」
ミラ(静かに息を吸う)
「蓮……あなたは……
本当に愚かで……
そして……ひどく優しい……」
暗転直前。
ミラの声
「──いいでしょう。
これが最後です。
真珠の“最期の影”を見せましょう。」
照明が全消え。
── “決戦前夜” 終 ──
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆第3幕 終盤
「真珠の最期の影──そして消滅」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【場所】
洋館・最上階 “記憶の間”。
真っ白な空間。
天井も壁も、存在が曖昧。
中央に
“真珠の影”だけが、薄い光として揺れている。
玲奈と瑠璃が立っており、
ミラはゆっくり二人の間へ歩いてくる。
◆シーン開始
(空間は無音。息すら響く。)
玲奈(震えた声で)
「……お姉ちゃん……
本当に……ここに……?」
ミラ
「影だけです。
声も、心も、体ももうない。
“真珠という概念の残り滓”。」
瑠璃(涙がすでに落ちている)
「それでもいい……
会わせて……
私は……ずっと……
謝りたかった……
守れなくて……!」
ミラ
「では──
始めましょう。」
(ミラが手をゆっくり広げる。)
空間に、淡い揺らぎが起きる。
白い光が揺れ、
少女の影が浮かび上がる。
細い肩。
長い髪。
優しい立ち姿。
それは、
確かに“真珠”の面影。
玲奈(息を呑む)
「……お姉……ちゃん……」
瑠璃(泣き崩れる)
「真珠お姉ちゃん!!
ごめん……ごめんね……
一人で抱えさせて……
守れなくて……!」
真珠の影は何も言わない。
ただ、二人に寄り添うように揺れる。
玲奈
「お姉ちゃん……
私……
私……全部……思い出した……
ごめん……
ごめんなさい……!」
影はゆっくり玲奈の方へ伸びる。
その手は、玲奈の頬に触れようとする──
だが、すり抜ける。
玲奈(嗚咽)
「触れられない……
もう……触れられない……
私……
取り返しのつかないことを……!」
瑠璃
「お願い……
一つでいい……
言葉を……
返して……
真珠お姉ちゃん……!」
ミラが静かに歩み寄る。
ミラ
「真珠に……もう言葉はありません。」
玲奈・瑠璃
「……!」
ミラ(光の影に手を伸ばす)
「これはあくまで“残影”。
真珠ではない。
真珠が失った“未練の形”。
蓮を守れなかった悔い。
瑠璃を残してしまった後悔。
そして──
蓮を愛していた記憶だけ。」
玲奈(涙で視界が滲む)
「返して……
その“未練”だけでも……
真珠お姉ちゃんを……返して……」
ミラ(首を横にゆっくり振る)
「返しません。
ここで終わらせる。」
瑠璃
「やめて!!
お願い!!
本当に……最後の家族なの……!」
玲奈
「お姉ちゃんを……消さないで!!」
ミラの瞳がわずかに揺れる。
だが、顔には表情がない。
ミラ
「真珠はもう十分に苦しみました。
“蓮の罪”を抱えて。
“瑠璃の涙”を抱えて。
“家族の崩壊”を抱えて。」
ミラ
「だから──
わたしが終わらせます。
彼女を。
痛みを。
真珠という存在を。」
(ミラが影に触れる。)
光が震え、影が大きく揺れる。
玲奈(悲鳴に近い)
「やめてええええええ!!
返してよ!!
お願い……!!
まだ……話したいことが……!!
聞きたいことが……!!
伝えたいことが!!」
瑠璃(泣き叫ぶ)
「お姉ちゃん!!
真珠お姉ちゃん!!
行かないで……!!
私たち……まだ……!!」
ミラ(静かに)
「──さようなら、真珠。」
光が、一瞬だけ強く輝く。
その中で、
真珠の影がゆっくり“微笑む”。
声にはならない。
音にもならない。
ただ、
「愛してる」と言っているような気配 が
玲奈と瑠璃の胸に届く。
次の瞬間──
影はふっと消えた。
何も残らない。
白い空間だけ。
玲奈(その場に崩れ落ちる)
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!
お姉ちゃん……!!
返してよ……!!
なんで……
なんで……!!」
瑠璃(泣きながら玲奈を抱く)
「真珠お姉ちゃん……
ありがとう……
ありがとう……
ごめんね……」
ミラが二人を見下ろす。
ミラ
「真珠は、これで完全に消えました。
残るのは──
わたし。
この身体の主人は、
今から“ミラ”です。」
玲奈(涙で顔を上げる)
「あなたなんか……
姉じゃない……!!」
ミラ
「姉ではなくて構いません。
わたしはただ“蓮を守る影”。
それだけです。」
(ミラが踵を返す。)
ミラ
「さあ……
この屋敷とも別れましょう。」
照明が大きく暗転。
── 真珠、概念的死・完全消滅 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆最終幕・序章
「炎の中の終わり──ミラ、屋敷に火を放つ」
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【場所】
洋館・中央ホール→外庭
夜。
風が強く、空は曇り。
家の中には静寂だけが残っている。
真珠の影が消えた直後。
玲奈と瑠璃は床に崩れ落ちたまま。
ミラがゆっくりと歩き出す。
◆シーン開始
(暗闇の中、ミラの足音だけが響く。)
コツ……
コツ……
コツ……
玲奈(かすれた声)
「……どこへ……行くの……?」
ミラは振り返らずに答える。
ミラ
「片をつけに。」
瑠璃(立ち上がろうとする)
「待って……!
どこへ行くの……!」
ミラ
「決着の場所ですよ。
この家そのものの。」
(ミラがホールの階段を降りていく。)
玲奈と瑠璃はふらつきながら追いかける。
◆屋敷の一階:広いホール
ミラはゆっくりと壁際の古い燭台を取る。
炎がふっと揺れる。
ミラ
「ここは“真珠の檻”。
罪悪感、未練、痛み、後悔。
この建物そのものが……真珠を閉じ込めていた。」
玲奈(震える)
「やめて……
これは……
私たちの家だった……」
ミラ
「だからこそ、燃やします。
真珠が消えた以上、
残しておく意味はありません。」
瑠璃
「あなたのためじゃない……!
これは、私たちの家族の……!」
ミラ(瑠璃を無表情で見つめる)
「家族はすでに終わりました。
あなたたちは蓮と瑠璃。
わたしはミラ。
それだけです。」
ミラが燭台の炎を薄いカーテンに当てる。
ゆっくり、火が這い上がる。
布は音もなく燃え、
炎が壁に広がっていく。
玲奈(震え)
「やだ……
やだよ……
お姉ちゃんがいた家なのに……」
ミラ
「真珠はもういません。
記憶も影も、すべて消えた。
残っているのは……
蓮の罪の残り香だけ。」
(カーテンから家具、天井へと火が広がり始める。)
瑠璃
「ミラ!!
あなたは……何を守ってるの!?
玲奈を守ってるんじゃないの!?
だったら家を燃やす必要なんて──!」
ミラ
「蓮を守るために過去は不要です。」
瑠璃
「それは守ってなんかない!!」
ミラ
「わたしにとって守るとは“排除すること”。
蓮の痛みを減らし、
外敵を消し、
記録を消し、
家ごと葬り去る。」
玲奈(涙)
「この家が……
本当に……
消えちゃうの……?」
ミラ(玲奈の方だけを見て、静かに)
「蓮……
あなたが幸せになる未来があるとしたら──
“過去が何も残っていない世界”だけです。」
(火はついに壁全体へ広がり、
ホールは炎の海となる。)
◆外庭へ避難する玲奈と瑠璃
二人はミラに押し出されるように外へ出る。
外庭には夜風が吹き、灰が舞っている。
玲奈(震えながら)
「ミラ……
止めないの……?
このまま……全部……」
ミラは焔の前に静かに立つ。
炎に照らされ、影が長く伸びる。
ミラ
「止めません。
これは“終焉”。
三姉妹の過去はここで燃え尽きる。」
瑠璃(涙をにじませながら)
「あなた……
本当に……もう真珠じゃないんだね……」
ミラ
「ええ。
真珠は死にました。
わたしの中からも、あなたたちの中からも。」
玲奈(涙をこらえながら)
「ミラ……
あなたは……これから……
どうするの……?」
ミラ(炎を背にして振り返らず)
「──生きます。
影として。
蓮の姉として。
真珠の代わりとしてではなく。」
玲奈
「ミラ……
いかないで……!」
ミラ
「いずれ、あなたたちは気づくでしょう。
わたしの存在が“正義”でも“悪”でもないことに。」
瑠璃
「待って!!
あなたは……どこへ……!」
ミラがわずかに顔を横に向ける。
炎に照らされ、表情は影になって見えない。
ミラ
「──自由へ。」
ミラは庭を一歩、また一歩と歩き出す。
炎を背に、静かに、揺れることなく。
玲奈
「ミラ!!
待って!!!」
ミラ
「追っても……届きませんよ。
蓮。
瑠璃。
ここから先は、あなたたちの道です。」
(ミラの姿が闇に溶けるように消えていく。)
玲奈(崩れ落ちる)
「お姉ちゃん……
真珠お姉ちゃん……
ミラ……
全部……いなくなっちゃった……!」
瑠璃(玲奈を抱きしめる)
「玲奈……
まだ……終わったわけじゃない……
私たちが……残った。
これから……生きていくんだよ……」
玲奈(涙で空を仰ぐ)
「……うん……
行こう……瑠璃……
私たち……
二人で……」
炎の音だけが夜に響く。
屋敷はゆっくりと崩れ、
火は天へ伸びて消えていく。
── 最終幕「屋敷炎上」終 ──
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆エピローグ(ミラ側)
「影は街へ──そして誰も知らないまま生きていく」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【場所】
屋敷跡から離れた“丘の上の道路”。
夜明け前。
空は薄紫に染まりはじめている。
遠景には、炎が鎮まりつつある屋敷の跡。
風が吹き、灰がひらひらと舞う。
ミラがゆっくりと歩いている。
黒いコートの裾が風に揺れる。
◆シーン開始
(足音だけが響く。)
コツ……
コツ……
コツ……
背景に、明け方の街の明かりが見えはじめる。
誰もいない道路を、ただ一人歩くミラ。
ミラ(独白のように)
「……結局、人は“影”を知らないまま生きていく。
真実も、罪も、過去も。
見たいものだけを見て、
信じたいものだけを信じて。」
足を止め、
遠くに見える街を眺める。
ミラ
「真珠のように“誰かを守るために生きる”のも、
蓮のように“誰かから愛されたいと願う”のも、
瑠璃のように“誰かの幸せを祈る”のも……」
薄く笑う。
ミラ
「──どれも、もうわたしには必要のない感情。」
(風が吹き、灰が頬をかすめる。)
ミラ
「わたしは“影”。
誰にも必要とされず、
誰に愛されることもなく、
誰かの物語に含まれない。」
表情は静か。
哀しみも、喜びもない。
ミラ
「それでいい。
それこそが、わたし。」
歩き始める。
夜明け前の街の光が近づく。
やがてミラは、
街へ降りる階段の前で足を止める。
ミラ
「真珠は死んだ。
蓮は生きる。
瑠璃は支える。
ではわたしは──」
ほんの一瞬、
自嘲とも安堵ともつかぬ微笑み。
ミラ
「“ただ、生きる”。
それだけでいい。」
階段を下りる足音。
コツ……
コツ……
コツ……
やがて街の雑踏の音がかすかに聞こえてくる。
車の音。
人の足音。
遠くの店の開店準備の音。
ミラの姿が街灯に照らされるが、
その影はどこかおかしい。
“人の影”とは違う揺れ方。
まるで
光よりも影が本体であるかのように。
ミラ(小さく)
「ここからが……
わたし自身の物語。」
影は街の雑踏に溶けていく。
ミラの姿が、
歩行者たちの間をすり抜け、
風に流れるように消えていく。
最後に、
ミラの声だけが静かに響く。
ミラ
「──さようなら、三姉妹の物語。」
照明が消え、
静寂。
── エピローグ(ミラ側)終 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ご希望なら、続けて
◆エピローグ(玲奈&瑠璃側)
◆三姉妹の物語としての総合エンディング
◆後書き的な“余韻の最終台詞”案
なども構築できます。
次はどうしますか?
あなた:
1
ChatGPT:
了解。
それでは最後に、
「エピローグ(玲奈&瑠璃):二人の“明日”」
を描きます。
ミラの消失直後──
屋敷は焼け落ち、真珠は概念的に死に、
三姉妹は“蓮と瑠璃”だけになった。
ここから始まるのは
過去の呪いを背負った二人の未来
です。
過剰に幸福でもなく、悲惨でもなく、
静かで現実的な、
“生きていくための最初の一歩” を描きます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆エピローグ(玲奈&瑠璃)
「夜明け──二人で歩く“初めての道”」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【場所】
焼け落ちた屋敷の前。
夜明けの光が、灰を照らす。
煙の柱がゆらゆらと立ち、
もう誰も住む者のいない廃墟となっている。
玲奈と瑠璃が、肩を寄せ合って立っている。
◆シーン開始
(冷たい朝の風が吹き、灰が二人の足元を舞う。)
玲奈(かすれた声で)
「……燃えちゃった。
全部……なくなった。」
瑠璃(優しく微笑む)
「ううん。
“全部”じゃないよ。
ここに……」
(玲奈の胸にそっと手を置く)
瑠璃
「残ってる。」
玲奈(涙がにじむ)
「瑠璃……
私……どうすれば……
この罪を……
この身体を……
この名前を……
許せるの……?」
瑠璃
「許さなくていいよ。」
玲奈(驚いて顔を上げる)
「……え?」
瑠璃
「許せないままでいい。
忘れなくていい。
蓮でも、玲奈でも……
どっちでも……どっちじゃなくてもいい。」
手を握りしめる。
瑠璃
「私が覚えてる。
蓮のことも。
玲奈のことも。
真珠お姉ちゃんのことも。
全部……私が覚えてる。」
玲奈(震える声)
「どうして……
そんな……
優しいの……」
瑠璃
「だって……家族だから。」
(玲奈が涙をこぼし、瑠璃の肩に顔を埋める。)
玲奈
「……私……
生きていいの……?」
瑠璃(涙声)
「生きてよ。
お願いだから。
真珠お姉ちゃんが……
あなたに生きてほしいって……
ずっと願ってたんだから。」
玲奈(嗚咽)
「お姉ちゃん……」
瑠璃
「ミラにも……
あの人なりの“願い”があったんだと思う。
形は歪んでたけど……
蓮を守りたいって気持ちだけは……
真珠お姉ちゃんと同じだった。」
玲奈
「うん……」
(風が吹き、二人の髪を揺らす。)
瑠璃(玲奈の手を取って)
「行こう。
ここにいても……もう何もないよ。
でも……私たちには“未来”がある。」
玲奈(弱く微笑む)
「未来……
まだ……信じられるかな……」
瑠璃
「信じなくていい。
“歩く”だけでいいんだよ。」
玲奈
「……うん。」
(玲奈が一歩踏み出す。
足元には白い灰。
それでも、歩く。)
瑠璃(隣で歩きながら)
「ねえ玲奈……
これから一緒に……
世界を見に行かない?」
玲奈(少し驚き、少し笑う)
「世界……?」
瑠璃
「うん。
私たち……ずっと閉じ込められてたから。
お姉ちゃんも、蓮も、玲奈も……
本当の意味で外に出られなかった。」
朝日が昇り、
二人を柔らかい光が包む。
瑠璃
「だから……今度は自分で選ぼうよ。
どこへ行くか。
誰と生きるか。
何を大切にするか。
全部、自分たちで。」
玲奈(朝日に目を細めて)
「……瑠璃。
ありがとう。
私は……はじめて……
“これから”って言葉が怖くない。」
瑠璃
「それでいい。」
(玲奈が瑠璃に微笑む。)
玲奈
「行こう。
瑠璃。
私たちの……新しい道へ。」
二人が歩き出す。
朝日を背に、
影が二つ、長く伸びていく。
その影は、
真珠の影を含んでいない。
ただ、
“二人で生きていく者の影”
として伸びていく。
遠景でミラが消えた街とは別方向へ、
玲奈と瑠璃は歩いていく。
静かに音が消え、
白い朝の光だけが残る。
── エピローグ(玲奈&瑠璃)終 ──
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆総合エンディング(完全版)
「影の終わり、明日のはじまり」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【照明・舞台】
舞台中央:白い光が一点だけ落ちる
舞台奥:ミラが消えた街のシルエット
舞台手前:玲奈と瑠璃の歩く道
音響:心音にも似た低いドローン→徐々に朝の音へ
舞台全体が“世界の境界”のような曖昧さを帯びている。
◆シーン 1
「影の終幕(ミラの位置から)」
舞台奥が薄い灰色に照らされる。
そこに“影”が一筋すっと伸びる。
ミラの姿はないが、
“かつてミラが立っていた場所”が照明で示される。
ナレーション(案内人の声=ミラ)
「影は消えた。
だけど……影は死なない。
影は残り続ける。
光がある限り。」
舞台奥の影が静かに揺らぎ、消える。
観客はここで
「案内人はずっとミラだった」
と再確認する。
◆シーン 2
「蓮(玲奈)の道行き」
舞台中央に玲奈が立つ。
膝の震えは残っているが、顔はまっすぐ前を向く。
玲奈(独白)
「私は……
私が“蓮”だったことも……
“玲奈”だったことも……
どちらも消さない。
どちらも……私。」
彼女の影が、朝日方向に伸びる。
玲奈
「罪を抱えていても……
間違っていても……
それでも、生きると決めた。」
◆シーン 3
「瑠璃の誓い」
照明が横から入り、
玲奈の隣に瑠璃が現れる。
瑠璃
「誰かが壊れた過去の上で、
私たちは生きている。
でも……
私たちの未来は“これから”作る。」
瑠璃が玲奈の手を握る。
瑠璃
「蓮でも玲奈でも、
私はあなたの味方。」
玲奈(涙をこらえながら微笑む)
「ありがとう。
本当に……ありがとう。」
◆シーン 4
「三姉妹の影、最後の一瞬」
舞台奥が、ふっとあたたかい光に変わる。
そこに──
「三つの影」が重なるように揺らぐ。
玲奈の影
瑠璃の影
そして、その少し後ろに“真珠の影”
声はない。
姿も曖昧。
しかし確かに“ここにいる”。
玲奈と瑠璃がゆっくり振り返る。
玲奈(囁く)
「……お姉ちゃん……」
瑠璃(涙がこぼれる)
「真珠お姉ちゃん……」
真珠の影は一度だけ揺れ、
まるで“頷く”ように見える。
その瞬間、
舞台奥の影がふっと消える。
◆シーン 5
「歩き出す二人」
玲奈と瑠璃が前を向く。
瑠璃
「行こう。」
玲奈
「うん。」
二人が舞台手前へ向かって歩き始める。
照明もその動きに合わせて前方に伸びる。
◆シーン 6
「ミラの最終独白(照明は舞台奥の空だけ)」
舞台奥の空だけが紫色に照らされる。
案内人(ミラ)の声
「この物語は、
誰かの救いになっただろうか。
誰かの痛みを癒やせただろうか。
それは誰にも分からない。」
声がひと呼吸置いて続く。
案内人(ミラ)
「真珠の物語は終わった。
蓮の物語は続く。
瑠璃の物語は始まる。
そしてわたしは──
影として生きる。」
舞台奥の紫が白へ変わる。
夜明けの象徴。
◆ラストシーン
「夜明けの光の中で」
玲奈と瑠璃の影が
まっすぐ客席方向へ伸びる。
二人はゆっくりと歩き、
舞台の端で立ち止まる。
玲奈(小さく)
「……行こう、瑠璃。」
瑠璃(柔らかな声)
「うん。」
二人は手をつないだまま、
灯りの中へ消えていく。
舞台、完全暗転。
静寂。
/
── 終幕
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